民事法情報研究会だよりNo.21(平成28年9月)

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初秋の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。 さて、小林副会長が、公証人在職当時、新任公証人向けの資料として作成した「株式会社(閉鎖会社)モデル定款と認証の際の留意事項」がよく整理されており、これをもらった公証人から、執務に非常に役立ったので、研究会だよりの「実務の広場」に掲載して公開してはどうかとの意見がありました。この資料は大部のものであるため、臨時に9月と11月にも研究会だよりを増刊することとして、9月号、10月号、11月号、12月号に分けて掲載することにいたします。(NN)

その日(理事 佐々木 暁)

二度、三度・・どうして今朝は一度で決まらないのか。50年もの間結び慣れたはずのネクタイが今朝は何故か上手く結べなかった。電車に向かう途中で、公証センターへの道すがら、何度か溜息のようなものが出た。50年間の出勤過程で、全く初めての体験である。 公証役場に行きたくない?否、そんなことはない。今日という日を机の前の法曹会発行の大きなカレンダーに、大きな丸印を付けて、まだか・まだかと待ち望んでいたはずなのに。でも、3日前から過ぎた日付に×印がついていない。忘れた?その日が来るのが怖い?そんなことはない。1年も前から、半年も前から指折り数えて待ち望んだ日なのだから。 「その日」、平成28年6月1日は、公証人退職発令の日である。「願により公証人を免ずる」(願ったと言われればそうかもしれませんが・・・やや複雑な想いも・・・)とある。誠に簡単・明瞭である。法務局・本省職員41年、民間企業2年、公証人6年半、計50年弱の奉職生活に終止符を打つこととなる日である。朝から否、数日前からの落ち着きのなさは、この瞬間の一抹の寂しさだったのだろうか。何十枚もの辞令で慣れていたはずなのに。 さいたま地方法務局長から辞令を手交された後は、想いに浸る間もなく、所属公証人会、連合会、民事局等へのご挨拶を終えたのち、私にとっての思い出の闘いの場であった、法務省赤レンガ棟を目に納めて、役場ではなく自宅に辿り着いた頃には、いつになく疲れ果てていた。今朝から13000歩。こうして、私の公証人生活「その日」は、終了した。 最後の1着の新しい背広も作り、最後の新車も納車となり、最後のゴルフクラブは廃棄処分し、財産として、これまで多くの方々との繋がり、絆をしっかり懐に納めて、新しい未知の人生の始まりである。明日からは梅雨の雨の中、傘などいらないのである。電車の運転状況も気にしなくていいのである。 しかしである。あれほど肩の荷を降ろす日を楽しみにしていたのに、その喜びの実感はなかなか湧いてこないのである。安堵感はある。 役場は上手く回っているだろうか。遺言の相談に来ていたお婆ちゃんはどうしたろうか。後任者は困っていないだろうか。等々、気持ちは退職しきれていないのである。朝の一連の動きは、出勤していた時のままである。今少しの時間が解決してくれることと思っている。 さて、せっかく手に入れた自由時間である。これからの人生を楽しく生きるために大事にしたい。が、取り敢えず明日何をしようか・・の日々である。退職新人、老・浪人に、次の「その日」が来ることを願うこの頃である。 (元大宮公証センター公証人)

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実 務 の 広 場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.39 株式会社(閉鎖会社)モデル定款と認証の際の留意事項(その1)

株式会社(閉鎖会社)の定款について、一般的な記載例と留意事項を掲げ、若干の解説を試みるとともに、実例の中には間違った事例も数多くみられるので、その事例も紹介し、今後の定款認証に参考になると思われる事項を記載したものである。 例文中( )書きは、そのような記載であっても差し支えないことを示している。 凡例 Q&A 日公連定款認証実務Q&A 会報  東京会報 研修  日公連専門科研修

1 商号  会6、27②、商登27、商登規48Ⅱ、50

当会社は、株式会社○○○○と称する。英文では、ABC Co.Ltd.とする。 注1 英文表記は、無くても差し支えない。 注2 商号中に、「株式会社」という文字を用いなければならない。 注3 商号には、漢字、カタカナ、ひらがな、ローマ字、アラビア数字その他の符合を使用することができる。 注4 既存会社と同一の商号であっても、本店の所在場所が異なっておれば、差し支えない。

1 株式会社の商号は、定款の絶対的記載事項である(会27②)。 2 商号の選定に関する原則 ⑴ 商号自由の原則 会社は、その名称を商号とする(商6Ⅰ)。株式会社にあっては、必ず商号を付けなければならない。商号については、旧商法時から商号自由の原則がとられている。これは、商号と商人の氏名や事業目的との一致を厳格に要求しない立場で、会社の事業目的がどのようなものであろうと、商号は自由に定められるということ、即ち、建設業を営んでいても、会社の商号に建設業であることがわかるように「建設」という文字を用いなければならないという制約は無い。但し、会社は、1個の商号しか用いることができず、本店、支店における商号も同一でなければならない。 ⑵ 使用する文字の原則 ① 日本の文字(漢字、カタカナ、ひらがな)の使用 定款は、会社法で作成を義務付けられている日本の文書であるから、商号は、日本の文字である漢字、カタカナ、ひらがなを用いて作成すべきである。但し、日本の文字以外には、②のような例の使用が認められている。 なお、使用できる漢字は、原則正字であり、誤字俗字は、使用できない(平成5.12.27民四7783号民事局長通達)。但し、俗字については、使用頻度により使用が認められる場合もあるので、事前に法務局に照会することが望ましい。 また、意味のある用語にしなければならないとの規制はないので、漢字、カタカナ、ひらがなが混在しても差し支えない。例えば、「山ア田い」というような表示であっても、愛を表すのに一般的には、ラブと表示するが、「ラあーぶ」のような文字使用であっても差し支えない。 ② ローマ字、アラビア数字その他の符合の使用 ローマ字、アラビア数字その他の符合で法務大臣の指定するものは使用できるとして、次のように定められている(商登規48Ⅱ、50、平成14.7.14法務省告示315、平成14.7.31民商第1839民事局長通達)。 ローマ字(大文字、小文字)、(イ)アラビア数字、(ウ)&(アンパサンド)’(アポストロフィー),(コンマ)-(ハイフォン).(ピリオド)・(中点)は可能である。 これ以外には認められないので、例えば、商号中に( )を用いることはできない。また。6種の符号は字句を区切る際の符号として使用する場合に限り使用できるので、商号の先頭、あるいは末尾に用いることはできない。但し、ピリオドは、省略を表すものとして商号の末尾に使用が可能である。カタカナによる商号中に「・」を用いることはできる(昭和54.2.19民四837号民事局第四課長回答)。ローマ字を用いて複数の単語を表記する場合に限り、当該単語の間を空白(スペース)によって区切ることは差し支えない。 ③ 英文表記 商号について、英文表記することが認められている。商号は、外国においても使用されることになるので、日本語の商号を外国でも通用できるように、英文に限って表記を記載することが認められている。記載の方法は、例示のとおりである。従って、「中国表記では、○○公詞とする。」というような中国語表記、あるいは韓国語表記等のような記載は認められない。また、「商号は、株式会社○○(英文表記はABC)と称する」とする例は、商号は日本語表記に限られているところ、英文表記の商号も認めているかのような誤解を与えるので認められない。 ④ その他の表記 商号の読み方を( )書きで記載する、あるいは「読み方は○○である。」と記載することは、商号を複数認めているかのような誤解を生じるので、許されないと解する。 ⑶ 会社法以外の法律等に基づく制約 ① 名称を使用しなければならない」及び「名称を使用してはならない」が規定されている例 銀行、信託、保険等のように公共性の強い事業を目的とする会社にあっては、商号中に銀行という文字、信託という文字、生命保険会社又は損害保険会社であることを示す文字を用いなければならないとされ、他方、このような業を目的としない者がそれらの文字を使用することは禁止している。このように、「名称の使用強制」及び「名称の使用制限」が規定されている例にあっては、商号、目的、資本金の全てをクリアーしなければ登記申請は受理できないとされているので、このような株式会社については、目的、資本金を審査するとともに、商号については、「銀行」、「信託」、「生命保険会社又は損害保険会社」という文字が用いられている必要がある。銀行業等を目的としない者が銀行等という商号を用いることはできない(登記インターネット117号7p以下参照)。 従来、目的に「債権回収」を掲げる会社の設立は、弁護士法違反とされていたが、債権管理回収業に関する特別措置法の施行後は、商号中に「債権回収」を掲げ、これを目的とする会社の設立登記は受理されることとなった。(松井信憲・商業登記ハンドブック13p参照)。 注 「銀行法第6条第1項 銀行は、その商号中に銀行という文字を使用しなければならない。同条第2項 銀行でない者は、その名称又は商号中に銀行であることを示す文字を使用してはならない。」と規定し、信託業法第14条、保険業法第7条、債権管理回収業に関する特別措置法第13条に同様の規定が設けられている。 ② 「名称を使用してはならない」のみが規定されている例 各種法律で、「名称の使用制限」が規定されている場合があり(詳解商業登記下巻487p参照)、そのような例に該当するときは、商号として使用できるかどうかを、単に商号のみでなく会社の目的にも留意して、判断する必要がある。 例えば、金融商品取引業者の例のように「金融商品取引業者でない者は、金融商品取引業者という商号若しくは名称又はこれに紛らわしい商号若しくは名称を用いてはならない。」(金融商品取引法31の3)と規定されている場合は、単に商号のみでなく会社の目的にも留意する必要があり、金融取引業を目的としていないときは、金融商品取引業者のような名称を使用した商号を選定することはできない。逆に、会社の目的に金融取引業を営むことが記載されている場合であっても、金融商品取引業者という商号の使用が強制されていないので、商号は、自由に選定できるということになる(登記インターネット117号7p以下参照)。 3 「株式会社」という文字の使用 株式会社にあっては、商号中に会社の種類を表すものとして「株式会社」という文字を用いなければならない(会6Ⅱ)。商号中に「株式会社」という文字が記載される必要があるので、「KABUSHIKIGAISHA」、「カブシキガイシャ」、「かぶしきがいしゃ」、「株日式本会社」というような表示はできない。使用する箇所については、制限がない。 4 誤認のおそれある文字使用の禁止 商号中に、他の種類と誤認されるおそれのある文字を用いてはならない(会6Ⅲ)。「株式会社合名商会」というような使用は、認められない。 5 同一商号の禁止(類似商号禁止を変更) 商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあっては本店)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない(商登27)。本店を同一場所に設置し、同一の商号とする株式会社の設立は認められないということであるから、本店が同一場所でなければ、同一商号であっても差し支えない。同一商号とは、商号の全てが同じであること、すなわち「株式会社○」と「合同会社○」は、同一ではなく異なった商号として扱うと理解されている(詳解商業登記上巻473P) ところで、旧商業登記法27条では、商号について「登記したものと判然と区別することができないときは、することができない。」と定め、目的を同じくする会社にあっては、類似商号は使用できないとされていたが、この規定が削除され、平成18年から施行された現行商業登記法第27条で「同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止」とされたので、同一場所でなければ、同じ商号を使用することができるようになり、この規定に反しなければ商号は自由に定めることができるようになった。但し、それ以外の事項については、従前のとおりである。 6 先例 ① 銀行・バンクの例 ア 認める例 データバンク、血液銀行(商事法務1017号44p)、バンク(目的・コンピュータ)、スペースバンク(目的・ネット関連)、GINKO(目的・喫茶店)は可 イ 認めない例 有限会社バンク(昭和54.11.12民四第5,754号民事局第四課長回答)、「株式会社TOKYO BANK」、「株式会社TOKYO GINKO」(平成14.7.31民商1839号民事局長通達)は不可 ② 保険 ア 認める例 有限会社四日市損保事務所(昭和43.8.21民四第635号民事局第四課長回答)、株式会社八戸保険事務所(昭和43.9.16民四第704号民事局第四課長回答)は可。その他実例として、保険サービス、ほけんセンターは可。 イ 認めない例 株式会社野村保険は不可(昭和53.2.21民四第1,200号民事局第四課長回答)。事務所という文字が付されることによって、一般人が保険会社と誤認するおそれはないが、単に保険という文字を用いた場合は保険会社と誤認されるというのがその理由とされている(会社の商号と事業目的(新訂版) 商事法務9p)。 ③ 紛らわしい文字 ア 「株式会社NPO法人」は、特定非営利法人に紛らわしい文字に該当し認められないが、「株式会社NPO」は認められる(平成14.7.31民商1839号民事局長通達)。 イ A投資法人株式会社、B事業公団株式会社、営団事業株式会社、科学事業団株式会社は、認められない。 ④ 一部門・代理店・特約店 ア 商号中に支店、支社、支部、出張所という文字を用いることはできない(大正10.10.21民事2223号民事局長回答)。 イ 会社の支店又は一部門であることを示す文字(例えば、「不動産部」)は、使用できない。「株式会社ABC TOKYO BRANCH」は、認められない(平成14.7.31民商1839号民事局長通達)。 ウ 商号中に支部という文字を用いることはできる(平成21.7.16民商第1679号民事局商事課長通知)。支部という組織の実態は、様々であり、独立して法人格を有するものも存在するので、一律に独立した法人格を有しないものとして却下することは相当でなく、大正10.10.21民事2223号民事局長回答(ア参照)は、抵触する部分につき変更されたものである(民事月報21.8 93p)。 エ 商号中に代理店、特約店という文字を用いることはできる(昭和29.12.21民事甲第2613民事局長回答)。 ⑤ その他 株式会社動物病院(目的 動物病院の経営)、株式会社病院再生(目的 コンサルティング)は、認められる。

2 目的 会27① 

当会社は、次の事業を営むことを目的とする。 1 ○○業(1.○○業 1.○○業でも可) 2 ○○業 3 ○○業 4 前各号に付帯又は関連する一切の事業(この号は、無くても差し支えないが、記載しておいた方が無難) 注1 適法性、営利性、明確性という要件を満たしていなければならない。 注2 目的に用いる用語は、国語辞典等一般向けの辞書に掲載されていることを要する。 注3 日本語である漢字、カタカナ、ひらがなで記載するのが原則であるが、社会的に広く認知されている英単語は使用することができる。 注4 ( )書きは、業種を例示する場合、あるいは限定する場合に用いることができるが、その際は、「等」あるいは「に限定」のように記載する。 注5 「○○業等」は、業種の範囲が不明確となり、認められない。 注6 目的は、業種を記載するものであり、「○○業一切」は、好ましくない。 (間違った事例) 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。 1 ○○業 2 前各号に付帯又は関連する一切の事業(前号に訂正)

1 株式会社の目的は、定款の絶対的記載事項である(会27①)。 2 目的の記載方法の原則 目的の記載方法については、会社法には特に規定されてはいないが、目的に必要な要件として、従来は、適法性、営利性、明確性、具体性が必要とされると解されてきた。改正会社法、改正商業登記法施行時に、平成18年3月31日付け民商第782号民事局長通達・第7部第2「会社の目的の具体性」の項において、「会社の設立の登記等において、会社の目的の具体性については、審査を要しないものとする。」とされたので、株式会社の原始定款の認証においても、目的の具体性は、不要とされることとなったものである。それ以外の要件については、従前と同様、以下のとおりである。 注 会社の目的の具体性とは、会社の目的が「商業」のように漠然とした抽象的な記載では足りなく、会社の事業の範囲を客観的に正確に確定できる程度に具体的に記載しなければならない(中西・新版注釈会社法(2)75p、全訂詳解商業登記上巻463p参照)ということである。 ⑴ 営利性 会社の目的は、営利性のあるものでなければならない。営利活動によって得た利益を構成員に分配することを要するので、目的に掲げる事業は、利益を得る可能性のある事業でなければならないということであるが、以下のような先例がある。 ① 利益を得る可能性のない事業 利益を全て公益のために使用するもの、すなわち利益を得る可能性のない事業であっては、会社として成立しない(会105Ⅱ)。目的に必ずしも営利性は要しないとの意見もあるが、先例で「政治献金」のように、利益を得る可能性の無い事業は、会社の目的としては適格性を欠くとしており(昭和40.7.22民四発242号民事局第四課長回答)、この考え方は、現在の登記実務において維持されている(全訂詳解商業登記上巻461、松井信憲・商業登記ハンドブック16p参照)。因みに、「寄附」のみを会社の目的とするというのは、会社の目的としては相当でないが、営利を目的とする事項が掲げてあって最後に「寄附」が掲げてあるような場合は差し支えないという考え方もある(登記インターネット№86P26)。目的は、個別に判断することを要するので、この考え方は、相当でない。 ② 公益性が認められる事業 但し、会社の事業は、利益を上げることができる事業であれば足り、公益性が認められる事業であって法律で禁止されていない限り認められる。例えば、医院の経営、身体障害者の職業指導等は目的として差し支えないとされている(昭和30.5.10民事四発100号民事局第四課長回答、昭和42.2.28民事四発121民事局第四課長回答)。最近の実例としても、福祉事業やその他の公益事業、資産保有等を株式会社の目的とすること可能とされているし(論点解説・新会社法・商事法務P11)、「福祉事業への出資」、「永年勤続者への扶助」、「任意後見、成年後見、保佐及び補助の事務」を株式会社の目的とすることは可能であるとするのが実務の扱いである。 また、学校教育法に定める学校は、国、地方公共団体又は学校法人のみが設置できる(学校教育法2Ⅰ)とされているので、株式会社は学校教育法に定める学校の経営を目的とすることはできないが(幼稚園は認められないとする昭和39.9.25民事四発319号民事局第四課長回答)、それ以外の各種学校の経営を目的とすることはできる(自動車学校は認められるとする昭和35.11.22民事甲第2937号民事局長回答)ほか、構造改革特別区域法により認可を受けた株式会社は、認可書を添付して学校経営を目的とすることはできるとされている(平成16.6.18民商第1765号民事局商事課長通知)。 ③ 会社の理念を記載した目的 会社の理念を記載したものも受理されるとの意見(登記インターネット8631p)もあるが、登記実務について、これが認められているということではなく、登記実例もない。会社は、営利を目的としているので、特に理念を掲げる必要はなく、登記実務としては、「理念を掲げた定款は好ましくないが、営利性を含んだ内容を理念として記載してあったからといって、却下することはなく、ただ、その理念を登記することはなく、登記するのは、個別に記載された事項である。」との扱いである。 ⑵ 適法性 会社の目的は適法なものでなければならない。すなわち、強行法規に反するもの、又は公序良俗に反するものは会社の目的とすることはできない。これについては、以下のような先例がある。 ① 資格の必要な業務 一定の業務を行う者に資格が付与されている場合は、資格を付与された者が業務を行うことができ、会社としてこれらの者の行う業務を目的とすることはできない。この場合、資格を付与された者のみが業務を行うことができるとされている業務と資格を付与された者を雇うなどしてこれらの行為を行わせることまで禁止しているものではないとされる業務の2タイプがある。前者の例は、弁護士(昭和12.4.30法曹会決議),経理士、司法書士(昭和27.7.21民事甲第1047号民事局長回答)、行政書士(昭和39.1.24民事甲第167号民事局長回答)、弁理士(昭和29.3.6民事甲第481号民事局長通達)、税理士(昭和28.3.24民事甲第469号民事局長回答)等である。後者の例は、理髪師、美容師(昭和30.2.18民事甲第354号民事局長回答)、測量士(昭和35.10.4民事四発185号民事局第四課長心得回答)、不動産鑑定士(昭和39.12.28民事四発426号民事局第四課長回答)等である。この違いは、後者の場合は、事実行為を行うについて一定の資格が必要とされているので、それらの資格については、その者だけが業務を行うことができるということではなく、会社がそれらの資格を有する者を雇い業務を行うことは差し支えないとされている。「薬の調剤」については、会社の目的としても差し支えないとするのが実務である。また、「財務書類の調整」のような業務は、公認会計士が行う業務ではあるが、公認会計士にのみ許された業務ではないので、このような業務を会社の目的とすることは許されるとされている(昭和36.4.21民事甲第939号民事局長回答、代金回収につき昭和40.12.6民事甲第3421号民事局長回答参照)。 ② 農業 農業については、農地の移転、利用権の設定、賃貸借、使用貸借に農業委員会の許可が必要とする農地法第3条に抵触するのではとの疑問に、先例は、「農作業の代行、請負、委託」あるいは「水稲の生産販売」等について、いずれも会社の目的とすることは差し支えないとしてきたが(昭和39,4,13民事甲第1580号民事局長回答、昭和36.8.30民事甲第2091号民事局長回答)、現在は農地法第3条が改正され、一定の要件を満たした会社は農業生産法人として農地について使用収益をする権利を認められ(農地法3Ⅱ②)、また、農業生産法人以外の会社にあっても一定の要件を満たせば、同様に権利が認められることとなっているので(農地法3Ⅲ③)、株式会社(公開会社でない会社に限る。)が農業を目的とすることは可能である。 ③ 派遣事業 派遣事業として行ってはいけない業務として、労働者派遣事業法第4条で、「1港湾運送業務、2建設業務、3警備業務、派遣労働者に従事させることが適当でないと認められる業務として政令で定める業務」と規定し、その他適当でない業務として政令第2条で、「医業、歯科医業、調剤業務、保健師助産師看護師の業務、管理栄養士の業務、歯科衛生士の業務、診療放射線技師の業務、歯科技工士の業務」と規定しているので、これらの業務を派遣事業の目的とすることはできない。このような業務については、派遣事業でなく、あっせん業であれば規制されていない。 ⑶ 明確性 明確性については、これまで次のように説明されてきており、この要件は、会社法施行後も維持されている(全訂詳解商業登記上巻472p、松井信憲・商業登記ハンドブック10p参照) 明確性とは、「会社の目的として表現されるものは、社会一般あるいは取引に関与する大多数の者が同一の概念として捉えられる程度に客観性を有したものでなければならない、つまり目的に用いられている語句の意義が一般人に明らかでなければならないということである。言い換えれば、円を描くとその中身が具体性(この度不要となった。)、線にあたる部分が明確性であり、他の概念と区別することができる用語ということになるので、国語辞典等一般人が用いることのできる辞書にその用語が掲載されている必要があるということになる。専門用語が使用されているような場合、専門家であれば特定の製品等を指していることは理解できるが、一般の取引する相手方、利害関係人あるいは登記を利用する者からは、何を表わしているのか分からないので、そのような用語は明確性を欠くということになる。」と説明されている(「会社の商号と目的」商事法務83p参照)。 ① 明確性有無の判断基準 当該用語が果たして明確性を有するかを判断するに困難な場合が少なくない。用語の定義は、新聞、テレビ、インターネット、会社の広告、パンフレット、業界用語解説の辞典類にも掲載されているが、登記されている会社の目的は、一般社会の取引の安全に資するためにあるものであるから、業界用語解説の辞典類のみにその用語の意味が解説されているだけでは足りず、広く社会一般人に利用されている辞典に、その用語として定義が明確に記載されている必要があるということになる。 登記実務では、目的の記載中に特殊な専門用語、外来語、新しい業種を示す語句等が使用されているとき、国語辞典類、現代用語の基礎知識等一般向けの辞書に当該語句の説明書きが掲載されているかどうかで判断されることとなる(登記研究733 157p)。従来から、用語の使用について、この用語は社会的に熟しているとかいないとかの議論をしていたが、社会的に熟しているか否かは極めてあいまいで、結局登記官の判断次第で当該用語が目的として使用できるか否かが決められ、登記実務が混乱していたことがあり、その反省として、会社の目的を表す適当な基準として、一般向けの国語辞典等に掲載されているか否かで、統一的な処理ができるようにしたものである。 ② 目的に関する実例 目的は具体性が要件とされなくなったことから、「商業」、「営業」のように抽象的な目的であっても登記は受理され、会社成立後に不利益な点(許認可の不許可、銀行取引の困難等)が生じたとしても、それは、当該会社の自己責任ということであるということになった(全訂詳解商業登記上巻463p)。登記はできても、目的の記載内容によっては、官公庁の許認可に支障が生ずるおそれがあるので、疑問があるときは、嘱託人に予め官公庁へ照会した上で、目的の用語を決めることが望ましい。(会報27.6 29p) 3 目的に関する先例・実例 ⑴ 英単語 日本語である漢字、カタカナ、ひらがなで記載するのが原則であるが、「OA機器」、「H型鋼材」、「LPガス」、「LAN工事」、「NPO活動」のように社会的に広く認知されている英単語は使用することができる(平成14.10.7民商2364回答)。但し、広く認知されている英単語かどうかは判然とせず、判断に迷うことがあるが、一般的でないと思われる英単語については、インターネット辞書等に記載されている説明文を括弧書きにして付加する扱いがされている。 ⑵ 括弧書き 括弧書きについては、例えば、「家庭電気用品の製造(液晶パネルの組立ての下請け)」のように、株式会社の目的中の括弧書きの部分が当該株式会社の行う事業を例示するものなのか限定するものなのかが判然とせず、括弧書きの部分とそれ以外の部分との関係が明らかでない場合は、目的としての適格性を欠くとされる(登記研究733 158p、登記インターネット117号14p)。そのような場合は、嘱託人に例示か、限定かを確認した上で、記載させる必要がある。また、国語辞典等に掲載されていない用語を使用する必要がある場合、その用語の説明を括弧書きさせる扱いも実例として認められている。 ⑶ 既存会社の「目的の範囲内」 既存の株式会社が発起人の場合、新設会社の目的は、既存会社の「目的の範囲内」であることという要件は、未だ維持されているので、留意する必要がある。そのような場合、新設会社の目的は、既存の株式会社の目的の一部が重複していることで差し支えないとされている。会社の目的として、「商取引」等が認められるようになったことから、既存の株式会社の目的の範囲内であるかどうかは重要ではなく、不要であり、目的の範囲内か否かを判断するための登記事項証明書を提出させる必要はなくなったのでは、との意見もあるが、従来どおり会社の目的の範囲内でなければならないとの考えは維持されている(全訂詳解商業登記447p)。登記申請の際は、発起人たる会社の目的の範囲外の行為と認められない限り受理して差し支えないとの先例(昭和56.4.15民四第3087号民事局長回答)は、従前どおり維持されているということである。 ⑷ その他の留意すべき事項 ① 介護事業 登記実務では単に「介護事業」と記載しても登記できるが、県・市では、介護事業を目的とする株式会社にあっては、具体的に目的として記載すべき用語(法律で定めた用語)を使用すべきと定め、その用語のとおり登記していなければ事業認可しないとの扱いをしているので、せっかく会社を設立しても、目的変更の登記をしなければ、事業ができないということになる。かつて、介護事業に関して、事業できない目的を何故認証した、何故登記したのかと問題になったケースもあり、法の建前は前述のとおりとしても、用語の使用について留意する必要がある。介護事業については、県・市のホームページに、定款に記載すべき用語が掲載されている。 ② 「○○業以外」、「○○業等」のような記載は、目的の範囲を不明にするので認められない。 ③ 「インターネットによる販売」というような目的を限定する項目を付す必要はない。従来は、類似商号が禁止されていた関係で、目的を限定することによって別会社であるとし、類似商号の制約を回避してきた経緯があるが、原則として同一商号以外は使用しても差し支えなくなったので、このような記載方法は不要となった。 ④ 誤った例としては、番号の一部が欠落しているもの、目的が一つなのに「前各号に付帯・・」と記載しているもの等がある。 ⑤ 留意する用語としては、「洋品と用品」、「施行と施工」、「官工事と管工事」、「製作と制作」がある。

3 本店の所在地 会4、27③

当会社は、本店を○○県○○市(又は○○県○○市○○町○番○号)に置く。 当会社は、支店を○○県○○市(又は○○県○○市○○町○番○号)に置く。(支店が存在する場合) 注1 最小行政区画まで記載することで差し支えない。 (間違った事例) 当会社は、本店を○○県○○郡(又は○○県○○町)に置く。

1 株式会社の本店の所在地は、定款の絶対的記載事項である(会27③)。 2 会社の住所は、本店の所在地にあるとされ(会4)、本店の所在地は、独立の最小行政区画まで記載することで差し支えないとするのが、実務の扱いである(大正3.12.17民事1194回答)。独立の最小行政区画とは、市町村及び東京都の特別区をいうとされており。政令指定都市の場合、市を記載すれば足り、区まで記載する必要はないとされている(詳解商業登記476p)。 注 旧商法第19条には、「他人ガ登記シタル商号ハ同市町村内ニ於テ同一ノ営業ノ為ニ之ヲ登記スルコトヲ得ズ」と規定され、現在廃止されている商法中改正施行法5条には、最小行政区画について、「新法第19条、第20条第2項及第25条第1項ニ掲グル市ハ東京都ノ特別区ノ存スル区域及地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条ノ19第1項ノ政令指定都市ニ在リテハ其ノ各区トス」とされていたが、今日まで前記のような扱いがされている。 3 最小行政区画まで記載することで足りるが、所在場所まで記載しても差し支えない。所在場所まで記載しておけば、登記するとき、ここでの記載がそのまま登記されるので、「○○県○○市○○町○―○―○」のように簡略した記載とせず、「○○県○○市○○町○番○号」のように正確に記載する必要がある。但し、同一市町村内で、本店移転する場合、定款の記載を最小行政区画に止めているときは、定款変更をする必要はないが、定款に所在場所まで記載していると、定款変更する必要がある。 4 その他の留意事項 ⑴ 都道府県と同一名称の市及び政令指定都市を除いては、都道府県名を記載するのが相当とされている。 ⑵ 本社ではなく本店と記載する。 ⑶ 「本店は、取締役の定める地とする。」、あるいは「本店は、A市又はB市とする。」というような記載は不適当である。 ⑷ 本店の後に「適宜必要な地に営業所又は出張所を置くことができる」と記載しても差し支えない(詳解商業登記476p参照)。

4 機関の構成 会326,327,328 

当会社は、株主総会、取締役のほか、次の機関を置く。 1取締役会 2監査役 (設置しない場合は、次のような記載は不要であるが、記載する例もある。) 当会社は、株主総会及び取締役のほか、機関を置かない。 当会社は、取締役会、監査役その他会社法第326条第2項に定める機関を設置しない。

1 非公開会社・非大会社の機関設計のパターンは、次のとおりである。 株主総会+取締役+(会計参与) 株主総会+取締役+監査役+(会計参与) 株主総会+取締役+監査役+会計監査人+(会計参与) 株主総会+取締役会+会計参与 株主総会+取締役会+監査役+(会計参与) 株主総会+取締役会+監査役会+(会計参与) 株主総会+取締役会+監査役+会計監査人+(会計参与) 株主総会+取締役会+監査役会+会計監査人+(会計参与) 株主総会+取締役会+委員会+会計監査人+(会計参与) 2 任意的な設置機関について「会計参与を置くことができる。」のというような定めはできない。

5 公告の方法 会440、939 会施行規則220Ⅰ② 

(次のいずれかを記載する。) 当会社の公告方法は、官報に掲載する方法により行う。 当会社の公告方法は、○○県内において発行する○新聞に掲載する方法により行う。 当会社の公告方法は、電子公告により行う。ただし、電子公告によることができない事故その他やむを得ない事由が生じたときは、○○新聞(又は官報)に掲載して行う。電子公告を行うホームページのアドレスは、次のとおりとする。 http://abcde (次のような事項を付記する例も差し支えない。) 但し、貸借対照表に係る情報の提供は、インターネットを使用する方法により行う。貸借対照表の情報の提供を行うホームページのアドレスは、次のとおりとする。 http://abcde (間違った事例) 広告の方法

1 旧商法(66Ⅰ⑨)では、公告方法は、絶対的記載事項とされていたが、会社法では、定款の任意的記載事項とされた。 2 公告方法を「日刊新聞」又は「電子公告」のように、選択的に記載することはできない。「○○新聞及び○○新聞」のように、複数の公告方法を記載することは差し支えないが、そのときは、全て公告する必要がある。但し、新聞を公告方法とするときは、地域を限定していないと全ての新聞に掲載する必要があるので、特定の新聞の地方版にのみ公告するのであれば、その旨を記載すべきである。 3 電子公告について、「ただし」以下は、無くても差し支えないが、電子公告によると定めながら、電子公告不能な場合の定めを欠いている場合には、定款変更し、新たに公告方法を定めない限り、公告ができなくなってしまう。そのためには、定款変更のための臨時株主総会を開催しなければならない。会社法第939条第4項の適用事例ではなく、官報公告によることはできない。このことから、「ただし」以下は、記載しておくべきである。 4 登記の場合、ウェブページのアドレスが必要となるので、予め定款に記載しておくことはできる(会911Ⅱ二九イ、会施規220Ⅰ②)。 5 広告と誤って記載する例が多いので、注意すること 6 官報公告と定めながら、「事故の場合は電子公告による」との定めはできない。官報については、事故を想定しておらず、官報についても、新聞についても、もし必要なら会社法第939条第3項のような規定を設けるはずであるが、そのような定めはない。

6 発行可能株式総数   会37,911

当会社の発行可能株式総数は、○○○○株とする。 当会社の発行可能株式総数は○万株、普通株式の発行可能株式総数は○万株、優先株式の発行可能株式総数は○万株とする。 当会社の発行可能株式総数は○万株、普通株式の発行可能株式総数は○万株、甲種類株式の発行可能株式総数は○万株とする。

1 会社が発行することができる株式の総数については、制限がない。 2 会社が発行することができる株式の総数は、必ずしも原始定款に定める必要はないが、会社成立のときまで定めなければならないとされているので、定款に記載しておくことが相当である。発行可能株式総数は、設立登記時の絶対的記載事項である(会911Ⅲ⑥)。 3 設立時発行株式の総数は発行可能株式総数の4分の1を下回ることができないが、公開会社でない場合はこの限りではないとされているので、設立時発行株式の総数との関係については、留意する必要はない。但し、将来、発行株式数を増加する必要が生じることも予想されるので、そのとき、定款変更の煩わしさを避けるため、設立時発行株式の総数の5倍、あるいは10倍程度にしておくことが相当である。

7 株券の不発行・発行 会214,215,216 

(不発行の場合、特に定める必要はないが、念のため記載すると、下記のとおり) 当会社の株式については、株券を発行しない。 (株券の発行の場合) 1 当会社の株式については、株券を発行する。 2 当会社の発行する株券は、1株券、10株券、50株券、100株券の4種類とする。 3 株券の分割、併合、汚損等の事由により株券の再発行を請求するには、当会社所定の書式による請求書に署名又は記名押印し、これに株券を添えて提出しなければならない。 4 株券の喪失によりその再発行を請求するには、当会社所定の書式による株券喪失登録申請書に署名又は記名押印し、これに必要書類を添えて提出しなければならない。

1 定款で株券を発行する旨定めた場合に限って株券の発行が可能となるので(会214)、株券を発行しない場合は、定款にその旨記載する必要はない。 2 株券の発行を定める例は、少ない。

8 株式の譲渡制限   会2⑤、107、108、136,137、139、140、145、174

当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会(又は取締役会、取締役、当会社、取締役の過半数)の承認を受けなければならない。ただし、株主間の譲渡(及び当会社の取締役又は従業員を譲受人とする譲渡)については、承認があったものとみなす。 (相続人等に対する売渡請求) 前項の承認を行わない場合、株主総会の決議(又は取締役会の決議)により代表取締役は指定買取人を指定することができる。 相続その他一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。 (誤っている例) 取締役のみの会社であるにもかかわらず「取締役会の承認」と記載

1 譲渡制限規定を置かないと公開会社になるので、注意すること 2 譲渡等の承認の決定等(会139) 定款の定めにより、株式の種類ごとに譲渡制限が設けられるようになった(会108Ⅰ④)。1株でも自由に譲渡できる会社(会2⑤)は、公開会社であるが、公開会社であっても、株式の種類ごとに譲渡制限が設けられることになった。閉鎖会社は全ての株式について譲渡制限が設けられている会社である。 3 株式会社が株主からの承認の請求(会136)又は株式取得者からの承認の請求(会137Ⅰ)の承認をするか否かの決定をするには株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議が必要である。ただし、定款に別段の定め(取締役会設置会社において株主総会の決議によるとする等。)ある場合は、この限りでない。その際、全くの第三者とすることはできない。承認したものとみなすときはその旨定款で定めなければならない(会107Ⅱ①)。 4 「当会社の承認を要する。」と記載することで差し支えない。(会報19.2 35p)「当会社」を承認機関と定めた場合には、取締役会設置会社にあっては「取締役会」が、非設置会社にあっては「株主総会」が承認機関となる(研修 番号19)。 5 株式会社が承認をしない旨の決定をしたときは、譲渡制限株式を買い取らなければならない(会140)。ただし、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議により、対象株式の全部又は一部を買い取る者(指定買取人)を指定することができる。この場合、定款に別段の定めをすることができ、定款であらかじめ指定買取人を定めることもできる。売買価格について協議不調のときは裁判所へ申立でき、株主総会の決議とすることはできない(会144)。(研修 番号21)。 6 譲渡制限の効力が及ぶのは、特定承継の場合であり、相続等一般承継の場合は、当然のことながら株式が移転する。そこで、好ましくない者を排除するため相続その他の一般承継により株式を取得した者に対し株式を会社に売り渡すよう請求できる旨を定款で定めることができる(会174)。 7 「取締役複数名置く場合には代表取締役1名」と規定している会社で、「代表取締役の承認」を要する旨の規定を置くことは差し支えない(研修 番号6)。「代表取締役」が複数会社で「取締役の承認」でも差し支えない(研修 番号22)。「取締役の過半数の承認」、「取締役の全員の承認」と記載することもできる(会348Ⅱ)。「取締役社長の承認」、「社長の承認」の記載でも差し支えない(平成23.9 民事局商事課補佐官回答)。但し、「社長の承認」とすると登記官によっては、指摘される(研修 番号35)。 8 株主総会又は代表取締役と選択的な記載も差し支えない。(Q&A108p) 9 譲渡制限株式については、株式の内容として「譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること」と定めることができるとされているので(会107Ⅰ①、会108Ⅰ④)、正確には、「譲渡による取得」と記載すべきであるが、次のような扱いとしている。 ① 単に「譲渡」とのみ記載している例については、他に訂正すべき箇所があれば訂正させる、あるいは事前照会の場合は訂正させる扱いをしているが、いきなり持参して認証を求められ、他に訂正事項がない場合は訂正させないでそのまま認証する扱いである。「譲渡による当該株式の取得について」と規定されているので、「譲渡」のみの記載であっても誤りということもできないからである。 ②「譲渡又は取得するには」と記載している例については、「譲渡による当該株式の取得」について承認を要するとしているところ、それ以外の「取得」も制限することになり、記載方法としては、正確では無く修正させるのが相当である。しかし、「取得」者が譲渡による取得も意味すると解する余地もあり、認証することはできる。(研修 番号39) 10 「株主総会の承認がなければ、譲渡による取得をすることができない。」との記載でも差し支えない。 11 「当会社の株式に担保権を有する者が担保権を実行し(法定の手続きによるもののほか、法定の手続きによらない任意売却または代物弁済による実行を含む。)した結果として当会社の株式の譲渡が行われる場合は、前項の承認があったものとみなす。」と記載することでも差し支えない。 12 種類株式を発行している会社にあって、その種類株式のみについて譲渡制限を設ける場合は、その旨記載すべきであるが、全ての株式について譲渡制限を設けるのであれば、その種類株式のみを取り上げて譲渡制限を設ける旨の規定をおく必要はない。 13 取締役のみの会社であるにもかかわらず「取締役会の承認」と誤って記載している例が多いので注意を要する。 14 譲渡制限等について「取締役会で定める株式取扱規則による」と定めることはできない。(日公連速報2007.3.28) 15 「株主以外の者が譲渡によって取得するには株主総会の承認を有する。」と定めることは適法でない。株式の譲渡制限の問題は、株式の内容としてどのような定めをするかということであり、譲渡制限を付すか否かが株式の内容になっていなければならない。株主が取得するか株主以外の者が取得するかは、株式の内容の問題ではない。 16 指定買取人の記載について考慮すべき事項(会報21.6 24p)

9 募集株式の発行又は株主割当て  会199、200、201、202 

例1 募集株式の発行に必要な事項の決定は、会社法第309条第2項に定める株主総会の決議によってする。 2 前項の決定に係らず、会社法第309条第2項に定める株主総会の決議によって、募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めて募集事項の決定を取締役に委任することができる。 3 株主に株式の割当を受ける権利を与える場合には、募集事項及び会社法第202条第1項各号に掲げる事項は、取締役の(過半数の)決定により定める。 例2 当会社の株式(自己株式の処分による株式を含む。)及び新株予約権を引き受ける者の募集において、株主に株式及び新株予約権の割当てを受ける権利を与える場合には、その募集事項、株主に当該株式及び新株予約権の割当てを受ける権利を与える旨及び引受の申込みの期日(又は会社法第202条第1項各号に掲げる事項)の決定は取締役の(過半数の)決定によって定める。

1 会社法では、会社成立後の新株発行と自己株式の処分を同一の手続きとし、この手続きで割り当てる株式を「募集株式」として統一して規定している(会199以下)。 2 非公開会社 ⑴ 第三者割当の場合の募集事項の決定は、株主総会の特別決議によることとされているが(会199Ⅱ、309Ⅱ)、募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めて募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができるとされている(会200Ⅰ)。 ⑵ 株主割当の場合の募集事項の決定について、定款で、募集事項及び会社法第202条第1項各号に掲げる事項を、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会)で定めることができるとされている(会202Ⅲ)。 3 募集株式の発行に際して、株主に優先的に割当てる旨を定款で定めることの可否については、両説あり。 4 「株主総会の特別決議により募集株式の割当に関し、これ(株式数に応じて割当を受ける権利を有する旨の定め)と異なる定めを妨げるものではない。」との定めは、無効との見解があるが、反対説もある。(会報23.1 20p) 

10 優先株式及び種類株式 会108、109 

例 優先株式については、毎事業年度の末日において配当すべき剰余金の中より、1株につき金○円を普通株式に優先して配当する。 2 優先配当金の支払が、前項の優先配当額に達しないときは、同項の規定にかかわらず、その不足額を優先株式に対して配当しない。 3 優先株式に対して配当した後、なお配当すべき剰余金があるときは、普通株式及び優先株式の双方に対して平等の割合をもって配当する。 (拒否権付株式) 株主総会において決議すべき事項のうち、次に掲げる事項については、株主総会の決議のほか、甲種類株式を有する株主の種類株主総会の決議を要する。 ①合併、②吸収分割、③新設合併、④株式交換、⑤株式移転 注 甲種類株式はいわゆる「黄金株式」である。

1 会社法は、非公開会社については、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会の議決権に関する事項につき、同一種類の株式を有する株主について株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる(会108、109)。 2 非公開会社においては、株主に議決権の全部を与えない旨の定めを設けることができる(会109Ⅱ)。(Q&A137p) 3 株主の利益配当を同額にする場合は、各株主の有する株式の内容が異なる株式を発行する扱いである。例えば、利益が20円の場合は、Aは1株に10円配当の株を1株持ち、Bは1株に5円配当の株を2株持つと同じ配当になる。株式の内容が異なるので、種類株式ということなる。(21.11.20東京・首席登記官回答) 4(黄金株)拒否権付き株式を所有する株主が株主総会を欠席した場合という条件を満たしたとき、発行済み普通株式と同数を得るとの定款の定めについて(会報19.2 37p) 5 種類株式について(会報20.2 62p) 6 種類株式の内容を定款で定める場合について(日公連速報2009.3.23)

11 単元株式 会2⑳、188 

当会社の単元株式は、○株とする。

1 1単元の株式数は法務省令で定める数を超えることができない。会社法施行規則34条は、「1000及び発行済み株式総数の200分の1を超えることができない。」と定める。 2 100株~1000株が多い。1株でも可か否かについては、実務では可として扱われている。複数株をまとめるところに単元株の意味があるので、1株では意味がないが、単元株を採用している会社が単元株制度は残しつつ1株に変更する場合(単元株制度を取りやめにするより単元株は残しておきたいとの意向)、あるいは親会社が単元株を採用している場合の子会社が同様に単元株を導入する場合、1株にする例がある。会社法188条では、一定数の株式と記載されており、複数の株式とは記載されていないので、1株でも無効ということでもなく、認証できないとまではいえない。 3 単元株式数100株、発行株式数2000株の定款は認証できない。発行済み株式総数の200分の1を超えることができないと規定されているので、2000÷200=10株であり、単元株式数は10株となる。 4 単元株式について(日公連速報2009.3.23)

12 株主名簿記載事項の記載の請求 会133、会施規22 

例1 当会社の株式取得者が株主名簿記載事項を株主名簿に記載することを請求するには、当会社所定の書式による請求書に、その取得した株式の株主として株主名簿に記載された者又はその相続人その他の一般承継人及び株式取得者が署名又は記名押印し、共同して請求しなければならない。ただし、法令に別段(会社法施行規則第22条第1項各号)の定めがある場合には、株式取得者が単独で請求することができる。 例2 当会社の株式取得者は、法令に別段の定めがある場合を除き、当会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することができる。 2 前項による請求は、法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。

1 参考事例(正確ではないが間違いとまではいえない例) ⑴ 例1 「株式の取得により、株主名簿記載事項の記載を請求するには、当会社所定の書式による請求書に、譲渡人及び譲受人が署名又は記名押印し、これを会社に提出しなければならない。 2 譲渡以外の事由による取得の場合には、その事由を証する書面を添付しなければならない。」 この例は、「譲渡による取得を原則、それ以外を例外とする」旨の理解のもとに条文を記載しているが、会社法は、「譲渡であっても共同で請求、確定判決等あれば単独で請求」との趣旨である。例のような記載では、譲渡の場合は、いかなる場合でも連名でなければならず、単独ではできないことになってしまい相当ではない。しかし、会社法は、そのような規定の仕方を排除する趣旨ではないと理解し、認証は可能である(研修 番号36)。 ⑵ 例2 「株式取得者が、株券を提示した場合その他法務省令で定める場合は、請求することができる。」(会社法施行規則第22条第2項1号の規定(株券発行会社である場合、株式取得者が株券を提示して請求をした場合)のとおり記載している例) この例は、共同申請できることを補充させるべきであるが、共同申請を排除したものとまで解する必要はなく、認証は可能である(研修 番号37)。 2 単独で請求できる場合の扱いについて(日公連速報2009.3.23)

13 質権の登録及び信託財産の表示 会147、148

当会社の株式につき、質権の登録及び信託財産の表示を請求するには、当会社所定の書式による請求書に当事者(又は設定者)が署名又は記名押印し、提出しなければならない。その登録又は表示の抹消についても同様とする。

誤った例としては、株券不発行会社であるにも関わらず、「当会社所定の請求書に株券を添えて提出」と記載している。

 14 手数料

前○○条に定める請求をする場合には、当会社所定の手数料を支払わなければならない。

 15 株主の住所等の届出等

当会社の株主、登録株式質権者又はその法定代理人若しくは代表者は、当会社所定の書式により、その氏名又は名称及び住所並びに印鑑を当会社に届け出なければならない。届出事項に変更が生じたときも、同様とする。当会社に提出する書類には、届け出た印鑑を用いなければならない。

16 基準日  会124

例1 当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載された議決権を有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。ただし、当該基準日株主の権利を害しない場合には、当会社は、基準日後に募集株式の発行、吸収合併、株式交換又は吸収分割により株式を取得した者の全部又は一部を、当該定時株主総会において権利を行使することができる株主とすることができる。 2 前項のほか、株主又は登録株式質権者として権利を行使することができる者を確定するため必要があるときは、取締役の(過半数の)決定により臨時に基準日を定めることができる。(ただし、この場合には、その日を2週間前までに公告するものとする。) 例2 当会社は、(当該基準日株主の権利を害しない場合には、)当該基準日の後に株式を取得した者の全部又は一部に対して、取締役の(過半数の)決定により臨時に基準日を定めることができる。 注 例1第2項の( )は、不要の規定であるが、記載する例が多い。

1 会社法第124条は基準日を設けることができると規定しており、定めなければならないとはしていないので、定款にこの定めを設けることは必ずしも必要とされているわけではなく、この基準日に関する規定がない定款であっても、認証はできる。 しかし、複数の株主が存在することとなる株式会社にあっては、基準日を設けていなければ、現実に株主の権利行使に支障が生じるので、基準日を設けることとなるが、基準日を定めたときは、基準日の2週間前までに、基準日及び基準日株主が行使できる権利を公告しなければならないと定めているので(会124Ⅲ)、会社としては、毎事業年度の定時株主総会が来る都度、基準日を定め、公告を要することとなるが、定款にこの定めを設けていれば、基準日に関し公告するような煩雑さを避けることができるので、定款で基準日を設けていない株式会社はほとんどない。 2 基準日株主の権利を害しない限り、当該基準日の後に株式を取得した者の全部又は一部に対して、臨時に基準日を定めることができると規定している(会124Ⅳ)。この場合は、公告する旨の定めはなく、特に、官報公告は、法令で定められている事項についてのみ行われるものなので、公告の必要はない。しかし、公告を禁じていることではないので、例1第2項のように、「ただし、この場合には、その日を2週間前までに公告するものとする。」と記載しても差し支えない(日公連速報2007.1.9、)。 3 用語の修正が望ましい例 ⑴ 「決算期」を「事業年度」に訂正 定款中に「事業年度」は、随所に出てくる用語であり、この箇所だけ、「決算期に関する定時株主総会」では、他の条項との整合性がとれない。そのことを別にすれば、誤っているとまで言い切ることは困難なので認証は可能であろう。 「質権者」を「登録株式質権者」に訂正することが望ましいが、「質権者」であっても、「登録株式質権者」を除外しているとは言えず、認証は可能であろう。 ⑶ 「社長の決定により定める。」と記載しても、無効とまでいえず、好ましくはないが、認証は可能であろう。 4 誤っている例 ⑴ 毎営業年度 ⑵ 毎時業年度 ⑶ (取締役のみの会社)取締役会の決定

(小林健二)

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