民事法情報研究会だよりNo.57(令和5年4月)

 春暖の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 新型コロナウィルスの感染防止策として行われてきたマスクの着用については、本年3月13日以降、個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となりました。また、来る5月8日からは感染症の位置づけが2類相当から5類に変更されるとのことで、ようやく感染拡大前の日常が戻ってくるような情勢になっています。
 このため、本年6月17日(土)に、4年ぶりに定時総会及びセミナーを集合形式で行うことになりました。会員の皆様のご参加を期待しています。(YF)

今日この頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

これからが これまでを決める(髙村一之)

 青森県八戸市で生活を始めてから8年目に入っています。公証人としての任期も残り少なくなった現在において、これからの生活のことなどについて、今まで考えてもみなかったようなことが頭の中を駆け巡っています。
題名にした、「これからが これまでを決める」の言葉は、かつて上司から教示いただいた格言ですが、これからの生き方が問われている現在において、改
めてこの言葉の意味をかみしめているところです。先輩の皆様方も仕事から退
く際には、今後の生活のことなどについていろいろなことを考え、その節目を
乗り越えてこられたことと思います。個人的なことで恥ずかしい限りですが、
現在の心境の一端を紹介させていただきます。

○ これからどのように生きるのか
 これまでずっと国家公務員として働き、今現在は公証人としての仕事を中心に日々の生活を送っています。良い意味で緊張感のある生活をしていることに
なりますが、健康を維持するために、休日のゴルフや旅行などを楽しみながら息抜きをしています。
問題は仕事を退いた後をどのように生きるのかということです。生活に張り合いを持ち、充実した生活を送るための方法・秘訣などについては人それぞれだと思いますが、残念ながら、これまでは漠然としか考えていませんでした。自分はどうしたいのかが明確ではありません。
 この機会に少し整理してみると、まず、現時点でイメージする今後です。
 仕事から退いた後も元気に生活していくためには、健康が一番大事であり精神的な面においても充実していることが必要であることは言うまでもないと思います。しかし、健康などに留意して生活したとしても、自分はあと何年生きられるであろうかということを考えざるを得ません。日本人男性の平均寿命からしてもあと20年弱、ましてや身体的に元気で動けるのはもっと短い年月であると思います。これまでは、現在のこと、近い将来のことに思いを巡らすことはあっても、あと20年、あと15年というスパンで自分のことを深く考えたことはありませんでした。そう長い期間ではないことを思うと少し焦りますが、とりあえず、80歳位までは元気でいたいというのが希望です。

○ 何がしたいのか
 では、何がしたいのかと考えてみると、これがまた漠然としています。晴耕
雨読という言葉がありますが、現実はそんなに甘くはないでしょう。特に大きな目標もなく、少しばかりの畑仕事や庭いじりをしたいという意欲はありますので、実家での生活ともなれば、畑を耕して少しばかりの野菜を作ったり花を植えたりする生活もできると思います。しかし、草が生い茂っている畑や植木が伸び放題の庭という現実(毎年、町のシルバー人材センターに草刈りなどを依頼してはいる。)からすると、当面は、自宅周辺の環境整備のための作業に追われる日々が目に浮かびます。
また、実家ではないところに居を定めるとした場合、畑仕事や庭いじりのできる環境のある場所が見つかるのかなどという問題に行き着きます。
さらに、健康維持などのためにゴルフなどの運動をする機会を持ちたいと思っていますし、落ち着いたならば地域のためになるような活動もしたいと思っています。しかしながら、このことは落ち着く先が決まらないとどのように実現できるのかも見通せないというところです。

○ どこに居を定めるか
 次に、前述のようなことを実現できる生活の拠点をどこに定めるのかです。
 これまでの長期にわたる転勤生活のため、最終的な生活拠点を定めていませんでした。漠然とは実家に戻ること考えていましたが、いざどうするかということになると、なかなか悩ましいのが実情です。高齢ともなれば商業施設や病院などに近いところが良いか、しかし、実家を相続した手前、実家や土地をどうするのか、先祖からの墓をどうするのかなどといったことが浮かんできて、実家に戻るのか他の土地に家を求めるのか結論が出しにくい状況になっています。さらに、実家に戻るとしても、実家は老朽化している上、5年近く空き家にしているために建て替え等が必要になると思いますので、これからの生活に適した家とはどのようなものかを考えなくてはなりません。郷里である茨城県から遠く離れた青森県に住んでいることやコロナ禍であるが故に、頻繁に郷里との行き来をすることができず、諸々の段取りを付けることもできないでいる状況であって、さて、どうしたものかと思考が止まっているのが現状です。

○ どのように健康を維持するか
 これからどう生きるかを考えたときに、何よりも健康であることが重要であると思います。健康が維持されるということは、食事のことや運動のことに限らず、いくつもの要素が複合的に組み合わさった結果であると思いますので、その秘訣ともいうべきものは人それぞれでしょう。
私は、健康維持の一つの手段としてゴルフを続けたいと思っています。体力の維持はもちろん、多くの人との交流が生活の活性化をもたらすのではないかと思うからです。仕事関係での人との交流がなくなるのですから、趣味などを通じた人との交流に重点を移すことを考えざるを得ないと思っています。
しかしながら、次に述べるように、今現在が恵まれたゴルフ環境にあることから、これからも同様にゴルフを続けることができるかどうかも心配の種になっています。
 私は、八戸市に住むようになってすぐに、前任の公証人の紹介で3つのゴルフ愛好者の会に所属させていただきました。雪が降る地域なのでゴルフができるのはおおむね4月から11月までの8か月間位になりますが、その間、各会のコンペに参加したりゴルフ場のオープンコンペに参加して楽しんでいます。楽しんでいるつもりなのですが、苦しんでいるという側面もあります。ゴルフには技術と体力が必要ですが、メンタルも重要です。まさに「心技体」が充実していないと上手くいかない遊び・スポーツであり、自分で「今日は良かった。」と言える日はたまにしかありません。
 ある本に、「ゴルフの最大の敵は、上手くいかせたいという欲であって、ゴルフはこの欲との闘いである。」と書かれておりました。まさにそのとおりであると納得しつつも、なんとか上達したいとの思いでゴルフ雑誌を読んだり、新しい道具を試してみたりするのですが、その成果はあまり現れません。最近では、腰や肩が痛いなど体力面での問題もあって、なおさら上達は難しい状況にあります。とは言っても、カレンダーに記した次のコンペを楽しみにしているのですから、良くも悪くも生活の上での張り合いになっているのです。
では、今の仕事から退いた後に、このように恵まれたゴルフ環境があるのかということです。今の仕事を退いた後は郷里である茨城県に戻って生活することを考えています(実家かその近辺かは未定)が、どうなるかです。
 郷里には近くにいくつかのゴルフ場がありますが、どのようにして仲間に入れてもらうか(会員になることも含めて)、仲間を作れるのかが漠然とした心配ごとになっています。
会員の皆様からのお誘いを期待しつつも、落ち着く先が決まった後に情報を収集して、自分で解決しなければならないと思うところで思考は停止しています。

○ おわりに
 いずれにしても,以上に述べたようなことは、折に触れ頭の中で断片的に思
い巡っていることであり、これといった結論を出せないままに時間が過ぎている状況です。今後、どこかのタイミングで家族とも相談の上結論を出すことになりますが、仕事を退いた後も、当面は生活拠点を整えるための作業をしなければならず、のんびりしている暇はなさそうです。いつか来る日のための準備ができていないと思うと、「これまで何をしていたのか。」と自分を責めたくもなるところですが、「目の前にやるべきことがあり、張り合いがあって良いではないか。」と、前向きに考えることにしている今日この頃です。
                   (青森・八戸公証役場 髙村一之)

晴ればれ岡山サポートテラス-あれから1年(大河原清人)

 岡山県を南北に縦断する国道53号線を北に向けて車を走らせる。車には男性3人と女性1人が乗っている。運転する男性は、まばゆいばかりの緑の木々を横目に手慣れたハンドルさばきで車を走らせている。車に乗っている者たちは、かつての職場の先輩、同僚、後輩の間柄であり、互いに気心は知れている。
 岡山市を出発して約1時間30分。津山市を過ぎた先に町が見えた。鏡野町だ。人口約1万3千人の小さな町である。訪問先の事務所に着き、顔なじみの担当者の人たちと挨拶を交わし、講演会場に向かう。途中、担当者の人たちと昼食を一緒にすることも、訪問先の日程に組み込まれている。食事をしながらの会話は楽しく、話も弾む。
 これは、昨年8月に鏡野町権利擁護センターが主催する「ほっとステーションかがみの」に向かったときの情景である。
 「晴ればれ岡山サポートテラス」については、昨年4月、本民事情報研究会だより(第53号)に、当法人の専務理事永井行雄(元都城公証人役場公証人)が草創期の状況を寄稿させていただいた。それから早いもので1年が過ぎた。
 嬉しいことに事務所に顔を出してくださった先輩もいらっしゃるが、最近も年賀状や電話で、旧知の先輩や仲間たちから、「法人はうまくいっている?」「どんな活動をしているの?」などと聞かれることがある。
そこで、「あれから1年」と題して、その後の活動状況を報告させていただくこととした。

1 講座、講演会、研修会
 活動に当たっては、「一人でも多くの方に当法人を知っていただき、県民の皆さんからの信頼を得ること」が最も大事だと考えている。したがって、県内各地で行われる「講演会・講座・研修会(以下「講演会等」という。)」への講師派遣は、そのための重要な基盤づくりであり、活動のスタートラインといえる。
正直、全く初めての法人に講師派遣の依頼があるのだろうかという不安があった。ホームページでの法人の紹介は当然のこととしてもどうすればよいか。県内の市町村役場、社会福祉協議会、地域包括支援センターや公民館等への挨拶回りの際に、法人の構成メンバーや仕事の内容についてのチラシを配って講師派遣の案内をしたこと、当法人の活動が山陽新聞に紹介(本だよりNo.54)されたことなどが上手く作用して講師派遣依頼の受注の足がかりとなっていった。そのベースには、「法務局出身者による法人」という言葉による安心感、信頼感があったことは間違いない。そして、何よりもうれしいことは、一つの講演をきっかけとして、リピーターとして2度目、3度目の講演依頼をいただいたり、講演会等の受講者の一人が自分達の仲間にも聞かせたいといって、受講者自身が準備した講演会等に講師として招かれたり、さらには、定期講座の通年の講師として依頼されたものもある。
 ちなみに、当法人が講師を派遣している定期講座をいくつか報告させていただく。
 なお、講演会等の活動内容については、関係者の了解をいただき、写真と一緒に毎回ホームページ(https://harebareokayama.org)に掲載している。

○「ほっとステーションかがみの」(鏡野町社会福祉協議会権利擁護センター主催:当法人共催)
◇回数 昨年7月スタート、毎月開催(各地区12公民館)。次年度も継続開催
◇方式  講話50分(毎回テーマは同じ)、相談30分
◇担当  講話⇒当法人メンバー
相談⇒当法人メンバーと社協職員が一緒に対応

○「瀬戸内市中央公民館講座」(瀬戸内市中央公民館主催)
◇回数 昨年5月スタート、隔月開催。次年度も継続開催
◇方式 講話20分(毎回テーマが変わる。)、相談40分
◇担当 講話・相談⇒当法人職員

○「権利擁護研修会」(赤磐市地域包括支援センター主催)
◇回数 昨年6月スタート、年4回開催。次年度も継続開催
◇方式 講話90分(毎回テーマが変わる。)、相談30分
◇担当 講話・相談⇒当法人職員

 令和3年11月30日の「蒜山老人教室11月講座」で、講演デビューを果たして以来、67件の講演会等への講師派遣依頼があり、そのうち51か所に講師を派遣した(令和5年2月末日現在)。この3月には、笠岡市・里庄町成年後見センター「開設1周年記念セミナー」での基調講演も予定されている。
 これらの状況をとりまとめたものが、次の「事業実績分布地図」(編注:省略)である。

 さらに、今後の活動区域を広げていくため、昨年末には、県内各地の商工会議所への訪問を行った。今後は、講演等未実施市町村及び関係機関への再度の広報宣伝活動やロータリークラブやライオンズクラブなどへの訪問も予定している。
 なお、講演会等は、依頼者の意向を踏まえてテーマや内容を決めていくことを基本としている。多くは「相続」問題に関心があり、それに関連して「遺言」や「任意後見契約」とか「尊厳死宣言」などに話を展開する構成にしている。
 講話は、受講者の関心をひかなければならない。したがって、プロジェクター・パワーポイントを使用し、シートはすべてオリジナルである。また、講師は着座せず、受講生への質問も交えながら、立って動きながら身振り手振りを交えて話をするようにしている。着座方式は、聞く方が眠くなるとの受講者の声もあり、当初から講師は皆、立って話をしている。
 当法人のメンバーは、皆、元法務局の職員であるから、過去に何度か講演や研修の講師を経験したことはあるが、その経験値は様々である。そこで、受講者に分かりやすく、関心をひくためには、講話技術を高めていくための努力が必要であると考え、次のことに取り組んだ。
 (1) パワーポイントシートの作成
 講演会等で使用するパワーポイントシートは、私たちの事業の大切な営業商品である。内容の工夫と精度のアップは欠かせない。講演会や研修会は、受講者の対象年齢や講演等の時間もさまざまであるし、更には、目的が、老人クラブやホームヘルパーの学習会であったり、介護支援専門員や司法書士など専門家の方の研修会であったりと対象者も異なる。そこで、それぞれの対象者に応じた内容となるように、効果的な画像・画面の展開などを皆で相談して作成している。
ちなみに、パワーポイントシートはきちんと作成できているのに、本番では、画像が欠落し、シートがスクリーンに出てこないことがあり、講師が壇上で慌てるといったこともあった。最後の最後まで、気を抜けない。
 (2) 講師の模擬講話
講演等前のリハーサルである。講師を担当する者は、当日使用するパワーポイントを使って、当法人のメンバーの前で、リハーサルを行っている。しかし、これがなかなか厳しい。
 原稿なしで話すことはもとより、時間内に完結しているか、話し方(受講生に親しみやすいか、受講生の年齢層等に応じた話し方になっているかなど)や発声がきちんとできているかなど、「講話チェックシート」によって8項目について評価がされる。皆、遠慮容赦なく、バンバン指摘する。かつてのポストはここでは全く通用しない。私自身も、メンバーから「丁寧過ぎて、時間が長くなっている。」「言葉が固い。地元岡山弁を取り入れて、もっと語りかけるように話すといい。」などの指摘がされた。
 リハーサルは、人により、1回の場合や3回の場合もある。皆がOKを出すと本番に登板できるのである。
さらに、本番の前には、妻や母に聞いてもらい、素人にも分かりやすいものとなっているか、時間内に収まっているかなどを点検しているという者もいる。皆、努力している。
(3) 講演会等、終了後のアンケート
 講演会等の終了後、毎回、受講者へのアンケートを行っている。これは、私たちの商品である講座や講演の話がどのように評価され、今後どのような点を工夫、改善していかなければならないかという市場調査である。
① 講師の話は分かりやすかったか、②内容はどうであったか、③講義時間はどうだったかなど、受講者から全6項目についてアンケートを書いてもらっている。講師は、これを見るとき、とても緊張する。よければ、うれしい。悪ければ、落ち込む。皆、反省しながら前に進むようにしている。
ところで、シリーズものの講話の場合に、アンケートに「この点の説明が欲しかった。」などの意見があったときは、この意見を反映したパワーポイントシートを作成して次回の講義の最初に説明するようにしてきた。
  (4) 仲間からの厳しい評価
アンケート結果は、ありがたいことに、概ね高評価をいただいているが、厳しいのはメンバーからの評価であり、指摘である。講演会等には、当法人のメンバーが3~5人同行し、講師の講話をチェックしているのである。講話終了後の反省会では、「ここの話は分かりにくかった。」、「ここは、話すスピードが速すぎて、受講者はついていけていなかった。」など、ズバズバと言われる。外側よりも内側からの矢が、怖い。受講者によるアンケート結果よりも厳しい評価がくだされるのである(笑)。
ただ、最近では、たまに「良かったよ。」という言葉が掛けられるような場面も出てくようになってきた。

2 相談会
 (1) 講演会とのセット方式による相談会
 講演会の後、引き続いて相談会を開催するという 方式である。当法人から主催者に提案したものであ るが、主催者から好評である。実際、相談者から遺言書等の作成支援を依頼されるケースが多い。
 (2) 当法人主催による相談会 
 これまで、当事務所で2回(4日間)開催した。特に、昨年10月に開催した相談会は、山陽新聞や岡山市の広報紙に掲載され、多くの人が相談に訪れた(20人、35件)。特に新聞記事による影響は大きく、電車を乗り継いで2時間かけて来所された方もいらっしゃった。
 そのうち、10件は公正証書作成支援に発展した。
 以上の相談会による相談のほか、電話相談、事務所への来所による個別相談もあり、これまでに受けた相談件数は全部合わせると200件くらいある。
 相談の内容も、遺言や成年後見等に関するものだけではなく、遺産分割や相続登記、境界や所有者不明土地の問題とか、夫婦・親子関係や、近隣関係の問題などの相談もあった。どのような相談であれ、丁寧な応対をモットーとしている。

3 公正証書等作成支援
 相談を通じて、公正証書の作成を希望する方に対しては、当法人でその支援を行っている。
 相談を受けて、公正証書作成までの期間、概ね2週間である。公正証書作成支援のやり方は、次のとおりである。
 ○相談及び公正証書作成支援体制
   二人体制⇒公証人経験者と他の職員との組合せ
 ○公正証書作成支援の流れ
  ①相談(本人の判断能力の有無の確認、相談内容の把握、必要書類の提出依頼)→②公正証書の文案を作成し、必要経費を提示→③公証役場と調整の後、文案を相談者に説明 →④公証人と日程調整→⑤公正証書の作成
 特に、必要経費を示す際は、絶対に計算を間違ってはだめである。実際にあった失敗例であるが、依頼者にその概算額を伝えた後、当方の計算間違いがあって高くなることが判明。直ちに依頼者に連絡を取り、謝罪し、その理由を説明したが、依頼をキャンセルされるといったこともある。
 ○これまでに公正証書作成支援をした件数(令和5年2月末日現在)
 次表(編注:省略)のとおりである。
以上のとおり、遺言が35件(41%)、次いで、財産管理契約・任意後見契約がそれぞれ14件(16%)、尊厳死宣言が12件(14%)、死後事務委任契約が11件(13%)となっている。 

 ○公正証書作成支援に発展したきっかけ
 次表(編注:省略)のとおりである。
 以上のとおり、地域包括支援センターからの依頼が27件、講座・講演会の受講者と新聞を見た人からの依頼がそれぞれ20件で、合わせて78%を占めている(編注:合計が86となっているが、89と思われる)。
 特に、前述したが、新聞記事の影響は大きく、今でも1年前の新聞記事(前記1の山陽新聞。令和4年2月8日付け記事)を所持して、「何か困ったことがあったら、ここに相談しようと思って大切に保管していました。」 と言って事務所を訪れる方もいる。
 ところで、県内での公正証書作成支援実績の分布状況は、前記1「事業実績分布地図」のとおりである。
 これらの公正証書作成支援は、依頼者の意向を聞いて公証役場を選定して
いるが、これまでは県北の依頼者が多いこともあり、津山公証役場(波多野新一公証人)に作成をお願いしている。波多野公証人は、岡山県出身で県内の地理に明るく、出張遺言にも迅速に対応していただいている。

4 当法人で受任したケース
 これまでに当法人で受任した「財産管理等委任契約及び任意後見契約」は1件である。一人暮らしの高齢者が増えているので、市民後見人の利用の拡大と同様、当法人への依頼の拡大も予測されるが、現在のところ、当法人の人的体制の問題もあり、積極的な受任業務は見合わせている。実際のところ、当法人が受任したこの契約も、本人の判断力はしっかりしており、身体も動ける状況にあることから、まだ発効はしていない。
 ところが、この件については、こんなエピソードがある。委任者から、突然、当事務所に「もう自分はいつ死んでもいい。死んだら後を頼む。」という自暴自棄の電話が午後4時過ぎに入った。びっくりして、メンバー2人が委任者宅に飛んで行った。県北に家があるので1時間半かかった。しかし、面会すると、寂しくなってそんな言葉を発してしまったとのこと。深刻な状況には至らず、ほっとしたものの、帰宅は午後9時を回っていた。
 受任業務の拡大については、今後の法人の体制整備と併せて検討していきたいと考えている。

5 津山遺言フォーラム(シンポジウム)へのコーディネーター派遣
 昨年10月16日(日)津山市の津山圏域雇用労働センターにおいて、岡山地方法務局(永瀬忠局長)と津山公証役場(波多野新一公証人)との共催による遺言制度の普及定着を目的としたシンポジウムが開催された。
 当法人理事長に対してコーディネーターとして専務理事永井行雄を派遣して欲しい旨の依頼があった。永井は、公証人在任中に何度かコーディネーターを経験したこともあったことから、依頼があったものと思われるが、いずれにしても、このようなビッグイベントへの参加は、当法人にとって名誉なことである。
 パネリストは、岡山地方法務局西岡典子次長、波多野新一公証人のほか、弁護士、司法書士、信用金庫職員、民生児童委員で構成されており、職域バランスもよいと感じた。
 当日、会場は満席であり、市民の関心の高さがうかがえた。永井の進行もスムーズで あり、パネリストの発言をうまく引き出していた。

6 新メンバーの加入
 昨年7月、新たなメンバーが一人加わった。元法務局職員で岡山県出身の女性である。これで、メンバーは男性4人、女性2人となった。
  新メンバーを紹介させていただく。
●理事 井上和江(岡山市出身)
広島法務局福山支局統括登記官、岡山地方法務局岡山西出張所長、笠岡支局長
★物事に対する着眼点がいい。よく笑い、元気である。職場の雰囲気を明るくしてくれる。一日8000歩を日課に歩いている。最近ランニングを始めたとのことである。職場によく馴染み、公正証書作成支援にも積極的に関わり、経理帳簿付けもこなす。歌が上手である。水曜日を除き、常駐

7 宿泊研修
 メンバー間の親睦を兼ねて、これまで3回、1泊2日の宿泊研修をした。お酒を交えての本音トークは、気分がいい。宿泊地は、講演会等の開催地やその近隣地から選ぶことが多い。
 最近では、美作市老人クラブの講話終了後の美作の地「湯郷温泉」で、2月7日(火)に一泊して実施した。ホテル内当法人メンバー(翌日早朝)のカラオケルームで二次会をした。久しぶりのカラオケ。すっかり時間を忘れて盛り上がった。皆、よく歌を知っているし、上手である。もちろん、昭和の歌ばかりだけど・・・。
 「宿泊研修」は、楽しい。これからも度々計画していきたい。講演会等の主催 者側との懇親会を企画し、ここで一泊するなど、さらに発展させていけるとい いなと考えている。

8 おわりに
 「元法務局職員によって設立した法人です。全員が岡山県出身です。」
 これは幾度となく使ってきている当法人のキャッチフレーズである。言うまでもなく、やっぱり「法務局」のネームバリューの存在が大きい。これに助けられていることを実感し、法務省、法務局に勤務していたことに感謝している。
 「晴ればれ岡山サポートテラス」は、正直、全くのゼロからのスタートであり、手探りで暗闇の中を突き進んできた。地方自治体はもちろんのこと、関係する社会福祉協議会、公民館などの担当者との直接の面談ができ、講師派遣へとつながっていったのは、とりも直さずメンバーが「法務局出身者」という言葉に守られた「信頼」と「安心」のお陰であったと思う。これからも、元法務局職員として決して恥じない仕事をしたいと、メンバーのひとり一人が肝に銘じている。
 まだ先は見えていないが、これからも皆が力を合わせて、県民から信頼される法人として、存続できるように努めていきたい。
 今後の課題は財政基盤であるが、これまでの地道な活動を積み上げ、活動の範囲が拡がっていけば、少し時間はかかるかもしれないが、達成できる道筋も見えてくるのではないかと考えている。
 今、我々は、家族の応援も得ながら、楽しく賑やかにやっている。第二の、あるいは第三の人生として、これまでの経験と知識を地域社会のために役立てているという実感がメンバーの喜びである。
 皆が健康で、これからも一緒に歩んでいきたい。
(元水戸・土浦公証役場公証人 大河原清人)

  【連絡先】一般社団法人晴ればれ岡山サポートテラス
       〒701-2154 岡山市北区原1119-1
              TEL(086)206-3738 FAX(086)206-3739
              E-mail:harebare0712.hara@outlook.jp
              https://harebareokayama.org

津山遺言フォーラム(波多野新一)

「うわっ。会場は満席になっていますよ。立っている人もいます。」

 ステージに上がる控室の階段で、一列に並んで登壇を待っている私たちに、同じ控室の小窓から会場を覗いた支局長の声が飛んできた。

 令和4年10月16日(日)、津山市内の会場において、「津山遺言フォーラム」と命名した遺言制度の普及を図るイベントを開催した。

 主催者は、岡山地方法務局と津山公証役場である(共同主催)。準備に要した期間は4月からの約6か月。その半年間を、主観で、日記的に(裏話を含めて)振り返った。

1 ことの発端

 準備開始から遡ること数か月前。当民事法情報研究会だより№53にも記事が掲載されている「一般社団法人晴ればれ岡山サポートテラス」の永井行雄専務理事とのある日ある所での懇話中のこと。「法務局の自筆証書遺言保管制度が始まるとき、法務局と公証人が共同して遺言の普及活動をしたいとか、日公連の春季研修で法務省担当者が言ってたけど、そういう動きがないんよなあ。」、「津山で遺言のイベントをやってみてはどうだろう。」、「シンポジウムなら、都城での経験があるので、お役に立てると思うよ。」、「法務局に持ちかけて一緒にやってみよう。」と、ほぼ話がまとまった(どのセリフが誰のものかは省略)。

こののち、「永井専務理事」には、半年間濃密にお世話になることになる。

2 企画書

 令和4年3月、岡山地方法務局津山支局長の後任予定者が、事務引継の際に当役場に立ち寄ってくれた。その新支局長は、法務局在職中に幾度か共に仕事をしたことがあるだけでなく、同じ宿舎で10年間、家族ぐるみの交際をしてきた仲である。冒頭の「支局長」である。その立ち寄ってくれた折りに、「法務局も遺言書保管制度の広報が課題なんだよね。着任したら、私と一緒に遺言普及のイベントやってみようよ。」と振ってみた。「いいですね。やりましょう。」と色よい返事が返ってきた。

 4月上旬、1枚の企画書を作った。項目は、お決まりの①イベント名、②実施事項、③実施主体、④実施日時、⑤実施場所、⑥シンポジウムの概要である。イベント名は、広く認知してもらえるよう英語の「集会所」である「フォーラム」とした。実施事項は、第一部シンポジウム、第二部相談会の二部構成である。すぐに、この企画書を携えて、支局長に話を持ちかけた。

支局長は開口一番、「本当にやるんですね!」と言いながら具体的な打合せに入った。企画書には、その後「目的」を追加した。

 後日、当役場へ視察に訪れた広島法務局長に企画書を提示すると、「現役時代に戻ったんじゃないですか。」と一言いただいた。確かに。こういう企画は久しぶりだが、やはり楽しい。その視察に随行された同局のT課長は、フォーラム前日から津山に来てくれて会場の設営などを手伝ってくれた。

3 主催者の分担

 このイベントは、岡山地方法務局と津山公証役場の共催である。支局長との打合せでは、共同で様々な事項を具体化していくことを原則として、次のように分担することとした。無論、支局限りでは決められないので、この打合せ結果を本局に報告したうえで、その回答いかんで分担を決定することとした。

  <法務局の担当事項>

   ①事務局、②費用、③広報、④他団体への協力依頼、⑤記録誌の作成

  <津山公証役場の担当事項>                     

 ①登壇者(コーディネーター、パネリスト)への依頼、②台本とパワーポイントの作成

 1週間後には、本局から回答があったとの連絡が入った。津山での打合せのとおり法務局が担当するとのことだった。しかも、本局においても担当者を決めて、局をあげての事業にしたいとの心強い回答であったとのこと。

4 会場探し

 まず、実施日と会場を決めなくてはならない。準備には5か月程度が見込まれた。参加しやすい曜日で、岡山県北の農繁期を過ぎた頃とすると、10月中旬の日曜日と決めた。

 次は会場探しである。支局長と二人で探してみた。広くて公的な会場をいくつか候補に絞り込んだ。しかし、新型コロナが収まったとはいえない状況下である。ほどよいと見込んでいた複数の会場からは、新型コロナ感染対策の計画書の提出を求められ、新型コロナの感染状況次第では直前に使用許可を取り消す場合があると釘を刺された。

 やむなく次の候補を探すことにしてたどり着いたのが、「津山圏域雇用労働センター」という会場である。下見に行くと、学校の体育館のような大ホールといくつかの会議室があった。ステージも控室も備えられている。大ホールの収容人員は300人とのことだが、実際に椅子を並べてみたら、席間を少し広くしても200人は入れる。専用駐車場の使用可能台数は物足りないが、ここは観光名所津山城の側だから有料・無料の駐車場が近隣にある。新型コロナ対策の計画書は不要で、一方的な中止命令もないとのこと。なんとかなる。ここに決めた。

 後日談であるが、その会場の近くの駐車場をいくつかお借りすることができた。津山信用金庫の御厚意で職員駐車場、人権擁護委員協議会長さんのお知り合いの建設会社駐車場と眼科駐車場である。これで100台程度は確保できた。本当に有り難いことである。

5 シンポジウムの登壇者

 登壇者は、コーディネーターとパネリストである。既に、コーディネーターは、永井専務理事にお願いしている。パネリストは、まず人数を決めなければならない。会場に再下見に行き、ステージに机を並べてみた。なんとかパネリスト6人は着座できる。6人は妥当な人数だろう。

 次は、どういう業界などから参加してもらうか。                   

 法務局職員(西岡典子次長)と私(公証人)で2人は決まり。そのほか、遺言の効用を多方面から語っていただくことを期待して、①弁護士(相続争い、遺言執行)、②司法書士(相続登記)、③金融機関(金融資産の払戻)、④民生委員(市民代表、高齢者支援)から各1名をお願いすることとした。心当たりのある方々に、まず、電話で内諾をいただくことにした。お願いした方々と、最初のお答えを紹介する。

① 弁護士 高木成和氏(弁護士法人岡山パブリック法律事務所長) 

 「波多野先生からのお願いなら、喜んでできる限りの協力をさせてもらいますよ。」遺言作成など、職務上のお付き合いだが、嬉しいお返事だった。この先生、驚くほど多くの後見事務を行っておられる。

② 司法書士 石本憲行氏(土地家屋調査士、行政書士)

 「いい企画ですね。私でよければ、お引き受けします。」司法書士会支部の研修担当役員をされていた頃、支部の研修会で私が講師をしてからのお付合いである。研究熱心で、法務局の目の前に事務所がある。

③ 津山信用金庫 お客さま応援部副部長 小賀義之氏

 津山信用金庫には直接出向き、担当部長ほか4名に企画の説明をしていたところ、「私やりますよ。」と手を挙げてくださった。さすが「お客さま応援部」である。小賀副部長とは、2年ほど前に、ある不動産会社が主催する遺言セミナーでお会いしたことがあった。

④ 民生委員 高山科子氏(岡山県民生委員児童委員協議会長)

 「まあ、ええことじゃがあ。津山でやるのがええわあ。全国に発信できるんじゃろう。忙しいけど波多野さんの頼みならええよ。」高山さんには頭が上がらない。20年以上前、私が津山支局に勤務していた頃、事務補助員として勤めておられた。津山の公証人に就任するに際しては大変お世話になった。今は、民生委員として岡山県の協議会長のほか全国連合会の役員をしておられ、多忙な毎日とのことである。

 かくして、津山の最強チームが編成された。

6 共催と後援

 各方面への協力要請は法務局が担当した。その結果を伺うと、津山市と岡山県司法書士会津山支部が共催を申し出てくれ、津山市社会福祉協議会と津山信用金庫が後援をしてくれるとのことであった。一瞬、頭をよぎった。「共催が増えたということは、岡山地方法務局が主催で、津山公証役場は共催になるのではないか。」。そこで、主催は岡山地方法務局と津山公証役場の共同主催ということに落ち着かせてもらった。

7 打合せ

 お膳立ては整った。いよいよ始動である。

⑴ 第1回打合せ(6月28日)

 1回目の打合せ。場所は津山支局の会議室。出席者は、事務局と各登壇者であり、初顔合せとなった。主な議題は、開催日までのスケジュールの説明と調整である。説明したスケジュールの概要を以下に紹介する。

① 7月11日まで 各パネリストに「質問票」を送付

(質問票とは、各パネリストがこれまでに経験した相続・遺言に係るエピソードなどを提出してもらうためのもの)

② 8月1日まで 質問票に対するコメントの提出

③ 8月15日まで 主催者から各パネリストに第1稿の台本を送付

④ 8月19日 第2回打合せ  第1稿の検討

⑤ 9月12日 第3回打合せ  最終稿の確定

⑥ 10月6日 直前リハーサル 

⑵ 第2回打合せ(8月19日)

 最初に、台本の読み合わせを行った(台本作成の話は後述する。)。

 所要時間は適当か、興味を引く展開となっているか、一般にわかりやすい表現か、内容に修正・追加するところはないかなどを全員で検討するためである。

 一通り読み合わせると、ほどよい時間で終えた。起承転結が整理できた良い展開であり、多くの内容が組み込まれていて、興味を引くものであるというのが共通した感想だった。

 「わかりやすい表現か」の観点で民生委員の高山さんに意見を求めたところ、「難しい専門的な用語が多くて、分からないところが多かった。」との率直な意見が出された。

 第1稿は全体を見直すこととし、「用語集」を作成して、来場者に配布することにした。

⑶ 第3回打合せ(9月12日)

 3回目の打合せは、津山支局会議室にスクリーンをセットし、登壇者の席を本番と同じように並べて行った。スクリーンはパワーポイントを映すためのセットである。事例の紹介では、パワーポイントを用いて説明すれば、来場者にわかりやすい。パネリストも説明しやすいし、画面を見てくれていれば、原稿を読む姿を見られることもない。パワーポイントの作成については後述する。

 その打合せの内容は、本番さながらに、パワーポイントを操作しながらの台本読合せである。皆の感想は、「ほぼ完成している」で一致した。「パワーポイントの文字が小さい」、「細かい説明にはもっとパワーポイントを活用してはどうか」などの意見が出た。

8 台本とパワーポイントの作成

 シンポジウムの準備をする中で最も重要で、困難かつ時間を要することは、台本とパワーポイントの作成である。成功の鍵を握っていると言っても過言ではない。

 進行を担当するコーディネーターの永井専務理事と二人で作成していくことは、既に申し合わせていた。二人で作成の打合せをするには、時間と場所が必要である。時間は、休日に集中して合宿方式で行うことにし、打合せの場所は、晴ればれ岡山サポートテラスの事務所をお借りすることとした。事務所の使用には、同テラスの皆さんが快く同意してくださった。このイベントに全面的に協力してくださる嬉しい先輩方である。これに甘えて、計3回、台本づくりの合宿所とさせていただいた。

⑴ 1回目の合宿(7月2日(土)午前10時から)

 パネリストの皆さんに語っていただく事項を決めることが中心である。そのためには、台本の全体構成を検討しなければならない。まず、思いつくままキーワードを出し合い、それをつなぎ合わせて全体構成を考えていくこととした。誰にどういう事柄についてコメントしてもらうかをイメージしながら、当初に出し合った主なキーワードは、次のようなものである。

①遺言とは何か、②遺言することのメリット、③相続争いの事例、④預金の払戻手続、⑤相続登記の手続、⑥遺言の種類と作成方法、⑦遺言書の有無の調査方法、⑧自筆証書遺言書保管制度、⑨動けない人の遺言作成、⑩遺言が作成されていたためスムーズに財産承継がなされた事例、⑪遺言がないため苦慮した事例、⑫遺言の内容で参考になる事例、⑬高齢者の遺言作成、⑭遺言作成の費用、⑮使えない遺言の事例、⑯遺言執行者など二人で話をしながら、「たたき台」を作っていく。パソコンの画面をテレビに映しながら進めると、話がしやすい。

 なんとか「たたき台」ができた。各パネリストにお願いする質問票もできた。

 時計を見ると、3日(日)午後4時。途中、3時間ほど仮眠をしたが、ほぼ二日間、集中していた。

 16年くらい前、永井専務理事と一緒に徹夜で仕事をしたことを思い出した。久しぶりのことだが、今回は結構楽しかったし、随分捗った。

⑵ 2回目の合宿(8月11日山の日(木)午前10時30分から)

 各パネリストから提出してもらったコメントやエピソードを、たたき台に加えていく。台本の修正作業を主に私が担当し、永井専務理事は、具体的な事例をパワーポイントで作成するという分担作業である。

 このパワーポイントが秀逸!今まで見たこともないアニメーションの技術。永井専務理事は、パワーポイント作成の達人である。

 台本の方は、コーディネーターが一方的に進めているように見せないための一工夫を入れることにした。途中で民生委員の高山さんに「ちょっといいですか。」と前置きしていくつか質問してもらうことにしたのである。

 時計を見ると12日(金)の午前7時45分。午後から公正証書作成の予約があったので、ここで合宿終了。

 その後、台本は持ち帰って修正し、第2回の打合せ前に各パネリストに配布した。

⑶ 3回目の合宿(8月20日(土)午後5時から)

 いよいよ台本作成も最終段階である。前日の打合せで民生委員の高山さんから用語が分からないという御指摘をいただいていた。ほかにも、法定相続人の説明、遺留分の説明、遺言の必要性の高いケースの説明などを加えてはどうかとの意見が出ていた。

 これらの指摘、意見を踏まえて台本を編集していく。事例だけでなく、法定相続人の説明図などもパワーポイントに加えていく。会場での配布資料を作成していく。そういった作業を共同作業で進めた。

 時計を見ると21日午前9時。二人とも午後から予定があったので、3回目の合宿はここで終了。

台本とパワーポイントのデータを持ち帰り、後は自宅又は公証役場で修正していくこととした。

⑷ パワーポイントの編集

 当公証役場の書記は、パソコンの達人である。タイピングは驚異のスピード、チラシや説明図などは一般に分かりやすく作成してくれる。デザインの美的感覚は、私の10倍以上だ。

 このシンポジウムのパワーポイントでは、各項目の作成と説明シートの背景を担当してもらった。その一部は、ご覧のとおりである(編注:省略)。

 この編集作業は、本番の数日前まで、何度も行うことになった。

⑸ 台本の最終編集まで

 作った台本を読み返していると、「この用語や表現は一般の方に分かるだろうか」と気になってくる。この点は、何度修正しても、気になる。

 パワーポイントについては、本番でのパソコン操作を法務局職員が担当することになっているから、台本にクリック箇所を示さなければならない。

 この作業は、リハーサル直前まで行った。

9 広報

 広報は法務局の担当である。

 地元紙「山陽新聞」では開催記事掲載、NHKでは昼及び夕方のローカルニュースで放送、山陽放送では一分間のアピールタイムに法務局職員2名が出演、岡山県北の各市町村の広報誌に掲載といった広報が繰り広げられた。

 津山市の広報誌には紙面の都合で掲載されなかった。これを残念に感じた支局長、なんと休日返上で各戸に1,000枚のチラシのポスティングを3、4回行ったというから、頭が下がる。

   

10 会場レイアウト

 3度目の会場の下見。本番同様に机と椅子を並べ、メジャーで壁からの距離を計り、一枚の白紙に手書きでレイアウトを書き込んでいく。この白紙は、後日、書記がエクセルで清書してくれた。これがあれば本番当日の準備がスムーズに行える。

 ここで問題が発生した。パワーポイントを映写する壁面がステージの一方に偏ってしまうのである。反対側の席からは相当見えにくい。そこで、ステージの両側の壁面に同時に映写することとした。永井専務理事のアイデアである。早速、通信販売で分配器を購入し、プロジェクターは津山市から1台を借りることができることとなった。津山市からは、マイクとスピーカーも借りることにした。

11 リハーサル

 いよいよ、リハーサル。岡山地方法務局長も出席した。本番と同様に行う。

 一足先に会場に行き、ステージのセットとパワーポイントの映写実験をした。ここまでは、段取りよく進んだ。マイクの音量、要した時間の計測、パワーポイントを展開するタイミングなどもこのリハーサルで検証する。

 全体進行は津山支局総務課長。「これからコーディネーター、パネリストの皆さんが登壇されます。」の声が控え室に聞こえた。かねてからの打合せどおり、順にステージに上がる。全員が登壇したところで一礼し、着席する。

 客席には法務局職員が数名いるのみだが緊張する。コーディネーターの第一声からスタートした。自己紹介から始まる。顔を上げて話したいが、どうしても台本に目がいく。

 一通り終えたところで、客席の法務局職員に感想を聞いた。「皆さん、下を向いて台本を読んでおられました。」、「パワーポイントのいくつかの文字が小さくて読みにくいようです。」、「流れは自然でした。」。率直な意見が出される。

 パワーポイントの小修正さえすれば、本番を迎える準備はできた。

12 応援団

 いよいよ、開催日当日となった。早めに会場に着くと、多くの法務局職員が会場の開く時間を待っている。荷物の搬入、会場設営を行うためだ。一緒に会場の準備を行う。広島法務局のT課長も手伝ってくれている。準備をしていると、次々と旧知の方々が声を掛けてくれた。

 県外からは、現役・OBの法務局の後輩が3人、懐かしい顔ぶれだ。

 以前から声を掛けていた他市の職員、司法書士、平素証人をしてくださる方々、公証役場のポスターを見てくださった方もおられる。

 会場には、多くの民生委員、人権擁護委員。津山信用金庫の職員も多数。晴ればれ岡山サポートテラスからは全員が来場してくれた。

 大応援団が来場してくれている。かくして、200人分準備した席は満席となった。

13 開演

 開演前の控室。登壇のタイミングを待つ。冒頭の支局長の声が響く。満席と聞いても、不思議と緊張してはいない。むしろ、やりがいを感じている。

 合図で壇上に上がる。客席を見渡す余裕さえある。リハーサルよりも、落ち着いている。コーディネーターの問い掛けに対して顔を向けながら、台本を見ることなく、自然な形で話すことができている(と自分では思った。)。

 「準備に半年間を費やしたのだ。十分に考え、時間を掛けて練り込んだ台本だ。読み合わせも、リハーサルも行った。自分以外の登壇者も、落ち着いている。素晴らしいチームだ。」。そんなことを思いながらシンポジウムが進行していった。

14 アンケートと来場者の感想

 後日、回収したアンケートの結果を見せてもらった。回収数は89名分。

①わかりやすい内容だった。 70名

②本日のシンポジウムは参考になった。 85名

③本日のシンポジウムに参加して遺言を作りたいと思った。 62名

 そのほか、様々なコメントが寄せられた。

 来場してくださった津山信用金庫の理事長さんに、後日、お礼に伺ったときにいただいた感想を参考に記しておく。

「次から次へと話が展開し、あっという間に終わった。」、「全ての話が参考になるものばかり」、「聞きたいことが散りばめられたすばらしいシナリオだった。」、「なかでも事例は、わかりやすくてもっとたくさんお聞きしたかった。」、「画像はとてもわかりやすかった。」、「コーディネーターの進行は、スムーズで、自然で、親しみやすく、会場の参加者を引き込むものだった。」、「パネリストの皆さんも堂々とお話しされ本当に信頼できるイメージだった。」など

終えてみて

 とにかく人のつながりが大切であると感じた。忙しい中、快く引き受けてくださった登壇者の皆さん、企画段階から精力的に動いてくれた支局長はじめ法務局の職員、多方面で協力してくれた共催団体、後援団体、人権擁護委員協議会の皆さん、本当にありがたいことだと心から思う。このような手作りのイベントは、「自分にできることなら、何でも協力するよ」の気持ちの人々が一つになって大きなパワーを生み、大成功をもたらすものだとつくづく思った。

 昨年の秋から「岡山」が勢いづいている。岡山学芸館高校が全国高校サッカー優勝、倉敷高校が全国高校駅伝優勝、ウエストランド(津山市出身)がM-1優勝、ドルーリー朱瑛里さん(津山市の中学生)が都道府県対抗女子駅伝で17人抜きの大活躍、新谷仁美選手がヒューストンマラソンを日本歴代2位の好記録で優勝など。「津山遺言フォーラム」も勢いづく「岡山」の一つだった。

 公証業務は大きな転機を迎えようとしている。広報の拡大は非常に重要だ。自分たちだけでなく、様々な機関・人々と手を携えて行うことが大切である。そして、公証人自身が広報活動を楽しむことができれば、これに勝るものはないだろう。

【いろんなエピソード】

1 本番当日は、地元の秋祭りの日だった。会場の前を数台の山車が賑やかなお囃子とともに通り過ぎて行った。地元のケーブルテレビは、残念ながら祭りの取材で手一杯のようだった。

2 本番当日、パネリストの一人が自己紹介していると、そのパネリストに会場から手を振る応援団の姿があった。

3 3回目の打合せの直前、パネリストの一人が新型コロナに罹患し、急遽欠席した。読み合わせは、そのパートを法務局職員が担当した。

4 津山信用金庫の小賀副部長は、このイベントの翌日付で支店長に異動した。同金庫が、発令を待ってくれていた。

5 初回の合宿中、永井専務理事と深夜スーパーに夜食の買い出しに出かけた。10時間くらい何も食べていなかったので、巻き寿司などを一気に腹に詰め込んだ。午前1時頃、寝ようとしたが胃が重過ぎて眠れず、腰掛けていた。結局眠れないまま朝4時頃からパソコンに向かった。別室で休んでいた永井専務理事も、5時頃「胃が重くて眠れなかった」と起きてきて、一緒に続きを始めた。 

6 3回目の合宿の日は、新車の納車の日だった。津山で納車を終え、岡山に向かおうとするのだが、ガソリンの給油方法が分からない(給油キャップがない)、ナビの使い方が分からない、よく分からないスイッチがある。おまけに雷が鳴る大雨である。なんとか到着できた。

(岡山・津山公証役場公証人 波多野新一)

実 務 の 広 場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.97 事例からみた事業用(定期)借地権設定契約公正証書作成上の留意点(秦 愼也)

1 はじめに
⑴ 建物の所有を目的とする土地の使用に関する契約は、借地借家法(平成3年法律第90号、以下「法」という。)上の借地契約であり、この借地契約には、賃貸借契約によるものと、地上権設定契約によるものとがあるが、実務においては、そのほとんどが賃貸借契約によるものであるため、本稿では、賃貸借契約を中心に検討する。この賃貸借契約は、いわゆる普通借地権設定契約(借地借家法(以下「法」という)第3条以下)、定期借地権設定契約(法第22条)及び事業用定期借地権等設定契約(法第23条、以下、法23条第1項の事業用定期借地権と法第23条第2項の事業用借地権を合わせて「事業用(定期)借地権」という。ただし、同条第1項の借地権及び同条第2項の借地権を共に「事業用定期借地権」と呼ぶ考え方もある(証書の作成と文例※借地借家関係編※〔三訂版〕文例6参考事項1))に分類される。これらのそれぞれの性質については、詳細は省略するが、概ね次のとおりとなっている(編注:省略)。
⑵ この中で、事業用(定期)借地権設定契約は、公正証書によってしなければならない(法第23条第3項)とされており、公証人が行う公正証書作成業務とも深い関係があり、特に、福山公証役場においては、年間90件近くの事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成しているため、案件によっては、苦慮するものが多い。
⑶ このことから、福山公証役場において作成された事業用(定期)借地権設定契約公正証書において、留意すべき事例を抽出し、論点整理をした上で、解決方法等について解説を試みることとした。

2 事業用(定期)借地権について
⑴ 事業用(定期)借地権とは、建物所有を目的とする土地について期限があり、かつ、事業の目的での賃貸借契約等を締結する借地権であり、存続期間が10年以上30年未満の事業用借地権(法第23条第2項)と、存続期間が30年以上50年未満の事業用定期借地権(法第23条第1項)がある。借地権としての性質に大きな違いはないが、決定的に異なることは、前者が、契約の内容に、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がないこと、並びに建物の買取りの請求をしないことを明記しなくとも、当然に、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がないこと、並びに建物の買取りの請求をしないこととなるというものであり、後者は、契約の内容に、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がないこと、並びに建物の買取りの請求をしないことを明記しなければ、これらの規定が適用されないというものである。
⑵ したがって、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成する場合において、当該契約の存続期間が30年以上50年未満のものであるときは、契約の当事者に、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がないこと、並びに建物の買取りの請求をしない旨の意思を確認した上で、これらの特約を入れなければ事業用(定期)借地権にはならないことを説明し、合意した内容として記載する(通常は、事業用(定期)借地権設定契約においては、これらの規定を入れることを前提に依頼されるものと考えられるので、公証人としては、入れることを前提に作成することになるものと思われる。)。他方、当該契約の存続期間が10年以上30年未満のものであるときにおいても、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がないこと、並びに建物の買取りの請求をしないものであることを確認した旨の記述をすることが一般的である(前出文例6参照)。両者の違いは、1項が特約を合意した旨を記述するのに対し、2項は、1項の特約と同一の内容が適用されることを確認した旨を記述するという点のみである。
⑶ また、事業用(定期)借地権設定契約は、事業の用に供する建物を所有することを目的とするものであるから、当然に居住の用に供する建物があってはならないこととなる。このとき、留意すべきことは、建物が高齢者施設である場合や会社の寮が併設されるような場合であろう。高齢者施設の中には、高齢者の方々を居住させて運営するものが多く存在する。この場合、一時利用の施設であれば、問題はないが、住民票上の住所をその施設にする等居住の用に供する目的で建物を建築するような場合には、当然に事業用(定期)借地権設定契約とすることはできないので、公証人としては、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成する際、建物の目的を吟味する必要がある。
⑷ さらに、令和2年4月1日に施行された改正民法下では、敷金に関するルールの明確化が図られており、事業用(定期)借地権設定契約(他の賃貸借も同様であるが)を公正証書で作成するに当たっては、敷金の返還の規定を、これまで以上に丁寧に記述する必要があるものと考える(※)。なお、地上権設定契約による場合は、保証金等の名目で金銭の授受があっても、「敷金」とはならないことに留意しなければならない。
※ 例えば、「甲は、本契約が終了し、乙から本件土地の明渡しを受けたときは、速やかに、敷金を乙に返還して支払う。」といった書きぶりで嘱託を受けることが多いと思うが、このような場合、「甲は、本契約が終了し、乙から本件土地の明渡しを受けたときは、本件土地を明け渡した日の翌日から○日以内に、敷金を乙に返還して支払う。」といったような規定とすべきである(これまでも、強制執行認諾の関係においては、このような規定が必要であったと思われるが、改正民法下においては、より一層徹底していく必要があると思われる。)。
⑸ おって、事業用(定期)借地権も、他の借地借家法上の借地権と同様、借地借家法が強行規定なので、賃借人に不利な契約条項は無効となり、賃借人が破産等しても、直ちに催告なしで契約解除できるとする規定が無効であること、契約解除後、賃借人が建物を撤去してでも自力救済できるとする規定が無効であること(※)、賃貸人が中途解約できるとの規定は無効であること等の規制があるので、公正証書作成に当たっても、このような点に留意したい。
※ 例えば、土地の明渡しの規定等において、「乙が前項に違反した場合、甲は乙が残置物の所有権を甲へ無償移転したものとみなし、任意に使用・収益・処分できるものとし、乙はこれについて一切異議を述べないものとする。」といった書きぶりで嘱託を受けることが多いと思うが、このような条項の適用は、明らかに明渡しの行為があった場合を除き、当然に無効となる可能性もあるため、当事者がこのような規定をどうしても入れたいとするならば、公証人としては、最低でも「土地の明渡し後に」といった文言を入れるべきである(前出証書の作成と文例1参考事項10(3)参照)。
⑹ 事業用(定期)借地権設定契約公正証書作成に当たって、複数の土地を対象とすることも多いであろう。このような場合、契約締結後において、賃借権設定登記をすることも考えられる。このとき、留意すべきは、公正証書の各土地又は平方メートル毎に、賃料、敷金の表記をしなければならない、とうことである。登記する際、土地毎に、賃料及び敷金の記録をしなければならないからである。

3 事例からみた事業用(定期)借地権設定契約公正証書
それでは、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成する上で、事例からみた留意点を考察したい。

【事例1】
事業用(定期)借地権設定契約公正証書作成に当たっては、次のような転貸借契約を行うような依頼がある。
(編注:図面省略 A土地を甲が所有し、乙会社がその土地に賃借して借地権を設定し、これに乙会社が転借地権を設定して丙会社に転貸し、丙会社が建物を所有するケース)
 
上記のうち、借地権設定については、事業用(定期)借地権設定契約によることもできるが、嘱託者からみれば、二重に公正証書を作成する必要があり、費用負担の面から、転借地権のみを公正証書で作成したいとする嘱託も多いであろう。
このため、上記の借地権設定については、借地借家法上の普通借地権(法第3条)又は定期借地権(法第22条)によることもあるものと考える。この場合、乙丙間の事業用(定期)借地権設定契約は、甲から見れば転借地権設定となるため、転借地権設定契約書の提示を求めることも考えられる。乙丙間の借地権設定契約は、乙に対し、丙に賃借権を得させることができる権限を取得する義務を負わせる債権契約であるので、乙が、甲からその権限を取得していることが事前に確認できることが望ましいといえる。もちろん、丙の賃借権取得時期が将来の場合もあるので、乙の甲からの権限取得が将来となる場合もあり得ることになる(権限取得が間に合わないときは債務の履行遅滞の責任が発生する。)。

【事例2】
事業用(定期)借地権設定契約公正証書の作成に当たって、次のように(編注:図面省略)、土地の面積に比べて、建物の面積が非常に小さい場合、当該土地全体に対して、本当に事業用(定期)借地権設定契約を締結することができるのかという疑問がある。
この判断は、非常に困難と考えるが、各公証人にとっては、土地の利用形態に基づき判断すべきことになろう。すなわち、B建物が建てられている敷地以外の残った土地が、B建物と一体として利用されるか否か、ということになるというものである。例えば、パチンコ店や、スーパー等で、当該建物を利用するに当たって、広大な駐車場を必要とするならば、上記の例でいけば、「10-1」の土地全体を事業用(定期)借地権設定契約の対象とすべきであり、このような利用形態を嘱託人に聴取しながら、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成することになるものと考える。
なお、残った土地がB建物とは関係なく利用されるものと判断されるときは、土地を分筆するか、又は土地の一部の賃貸借契約とすべきである。

【事例3】
建物が存しない土地を対象として、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成することが可能かという問題がある。次のような事例(編注:図面省略)において、A所有の「10-1」の土地上に借地権を設定し、事業の用に供するB所有の建物を建築する上で、建物を建築しないC所有の「10-2」の土地を使用しなければ、B所有の建物の利用ができないような場合、「10-2」の土地に対しても事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成することができるのか、という問題点である。
本来、「10-2」の土地には、建物が存しないのであるから、借地借家法上の借地権が設定できないはずである。このような場合には、民法上の賃借権設定として契約することも考えられる。しかしながら、上記の事例のように、スーパーマーケット、ドラッグストア、コンビ二エンスストア等B所有の建物を利用する場合、A所有の「10-1」の土地のみでは、駐車場が足りず、B所有の建物が事業として成り立たないこともあり、このような場合には、C所有の「10-2」の土地を利用せざるを得ないこととなろう。むろん、「10-2」の土地をBが賃借して民法上の賃貸借契約を締結すれば良いのではないかとも考えられるが、民法上の賃貸借契約では、①登記がなければ対抗要件を具備できない、②借地借家法上の借地権設定契約とは異なり、賃借人に不利な条項があっても必ずしも無効とならない(例えば、解約の申入れ等)等により、事業用(定期)借地権設定契約に比して、賃借人の保護が図られない場合がある(むろん、契約内容により賃借人の保護を堅牢にする方法がなくはないが、このような契約においては、多くの場合、公証人の関与なく行われ、契約内容の不備があることも考えられる。)。したがって、契約のバランスを考慮すれば、上記の事例では、「10-2」の土地に対しても事業用(定期)借地権設定を認めるべきである。
ただし、この場合には、次のような点に留意をする必要がある。
⑴ 上記の事例において、「10-2」の土地の使用が、B所有の建物の利用に当たって不可欠であると判断されなければならないため、嘱託人当事者に、その辺の事情を聴取して的確に判断するとともに、その判断をすることができるのであれば、「10-1」の土地と、「10-2」の土地が一体的に使用されるものであることを、上記事例において、AとBとの間の事業用(定期)借地権設定契約及びCとBとの間の事業用(定期)借地権設定契約のそれぞれの契約内容に明記する必要があるほか(※)、解除条項等の共通化の必要性等についても検討する必要がある。
※ 例えば、「甲及び乙は、本件土地について、福山市***○番○の土地と一体不可分として使用することを確認する」等の文言を用いる。
⑵ 上記事例において、AとBとの間の事業用(定期)借地権設定契約及びCとBとの間の事業用(定期)借地権設定契約における存続期間が同一でなければならない。
なお、上記事例において、先に「10-1」の土地について、事業用(定期)借地権設定契約公正証書が作成されており、事業の拡大等に基づき駐車場を追加するため、後から、「10-2」の土地に対して事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成したいとする嘱託も考えられる。このような場合、AとBとの間の事業用(定期)借地権設定契約及びCとBとの間の事業用(定期)借地権設定契約が同時でなければできず、後から追加することは認められないとする見解も見受けられる。しかしながら、同時にしなければできないとすることのみをもって、これが認められないとすることは不合理ではないかと考える。後から追加することで、B所有の建物の事業としての利用価値を増やしていくのであれば、これが社会のニーズに合致すると考えられるからである。ただし、このような場合、先に述べた留意点のほか、後からするCとBとの事業用(定期)借地権設定契約の内容において、存続期間が10年間を下回らないかを確認する必要がある。存続期間が10年未満となるような事業用(定期)借地権設定契約はできないからである。

【事例4】
次のように(編注:図面省略)、土地の一部に対して事業用(定期)借地権設定契約公正証書の嘱託の依頼があった場合、どのように対応すべきか、という問題がある。
土地の一部に対する賃借権設定については、「不動産の一部を目的とする賃借権設定契約をすることはできるが、分筆等の登記をしなければ賃借権設定登記はできない(不動産登記令第20条第4号、昭和30年5月21日民甲第972号通達)」とする先例があり、契約上は問題ないが、登記をすることができないため、対抗要件を具備できないということになる。
したがって、まず、留意すべき事項は、嘱託人に対して、このような契約においては、登記ができないこと、もし、賃借権設定登記をする必要があるときは、まず、分筆の登記をしなければならないことを、丁寧に説明して、いったんは登記をしない前提とするのであれば、やむを得ず、土地の一部に対しての事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成することになる。
また、土地の一部に対して事業用(定期)借地権設定契約をする場合には、公正証書を作成する上で、賃貸借の範囲を明確に示すための図面の添付を求めることになる。この場合、後ほど、分筆の登記を求められることを考慮すれば、この図面は、分筆登記に足る地積測量図(座標値入り)がベストである。しかし、事業用(定期)借地権設定契約公正証書の作成に当たっては、ある程度借地権の範囲を示した図面(例えば、辺長のみ)で行っているのが現実であり、正確な地積測量図がなければ、後ほど登記を求められても登記ができない実情であるため、契約そのものをやり直すことも見受けられる。この点、嘱託人には、十分な説明をしておく必要があろう。
なお、嘱託人に後日の分筆登記を可能とする表現方法について、あらかじめ法務局と相談しておくことを勧めるのも一案である。

【事例5】
次のように(編注:図面省略)、事業の用に供する建物と居住用の建物が平面的に混在する土地に対して事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成できるのか、という問題がある。
上記の事例においては、病院という事業の用に供する建物と、寄宿舎という居住の用に供する建物が平面的に混在しているが、土地を分割して(分筆登記という意味ではない。)、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成することが可能である。この場合には、上記の事例において、病院として使用する部分を特定してもらい、この特定された部分の図面を用いることにより、土地の一部に事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成することになろう。
なお、立体的に事業の用に供する部分と居住の用に供する部分とが混在する場合(5階建で、1階から3階までが病院で、4階及び5階が寄宿舎といった場合)には、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成することはできないため、普通借地権設定又は一般定期借地権設定により契約を締結することになろう。

【事例6】
複数の土地を対象として、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成するに当たって、次のように(編注:図面省略)、Aの単独所有の土地と、A持分2分の1及びB持分2分の1の土地を一つの事業用(定期)借地権設定契約公正証書で作成することが可能かという問題がある。
上記の事例において、「10-1」の土地の所有者と、「10-2」の土地の所有者は異なっているため、本来、事業用(定期)借地権設定契約に当たっては、当事者が別々ということで、二つの契約をすることになる。しかし、上記の事例においては、「10-1」の土地及び「10-2」の土地には、少なくとも、Aという所有者が共通して存在しており、別々の契約とせずとも、一つの契約で行うことで問題はないように思われる。
ただし、このような場合、事業用(定期)借地権設定契約公正証書の内容において、土地の表示中、土地ごとに所有者を明記しておくことによって、当事者を明確にしておく必要がある。

【事例7】
いったん事業用(定期)借地権設定公正証書を作成し、存続期間満了の時期がきていたところ、賃貸人及び賃借人の双方から再契約をしたいとの嘱託があったが、新たな存続期間を5年間だけとし、その後は土地を賃借人から賃貸人に返還したいとするものであった。このような場合、事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成することが可能か、可能ではないとすれば、どのような方法があるのか、という問題がある。
この場合には、事業用(定期)借地権設定契約公正証書の期間の延長で対応せざるを得ない。新たに事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成する場合には、借地借家法上の規定から最低でも10年間の存続期間を定めなければならず、5年間の存続期間の事業用(定期)借地権設定契約公正証書は認められないからである。しかし一方で、5年間であっても、事業用(定期)借地権設定契約をしたいとする当事者の意思を無視することはできず、社会的にも許容すべきと考える。このため、本来は、新たな事業用(定期)借地権設定契約公正証書を作成するところ、かかる問題に対しては、賃貸人及び賃借人の合意に基づき、事業用(定期)借地権設定契約公正証書の変更契約によって対応することができるとすべきであろう。ただし、存続期間延長の変更契約が認められるのは、事業用定期借地権の存続期間を契約当初から起算して法23条第1項の期間内で延長する場合、又は事業用借地権の存続期間を同様に契約当初から起算して法第23条第2項の期間内で延長する場合に限られ、事業用借地権の存続期間を法第23条第2項の期間を超えて法第23条第1項の期間にまで延長することはできない(平成19年12月28日民二2828号通達)。
なお、存続期間の延長についての変更契約は、法第23条第1項又は第2項に規定する期間の範囲内での存続期間に対応するものであり、再契約がこれを超えるような場合には、そもそも存続期間満了後は、いったん契約を終了させ、新たに、公正証書に基づいて事業用(定期)借地権設定契約をするのが相当である。
また、存続期間の延長に係る変更契約を公正証書によってすべきか、という点も問題があろう。これについては、法第23条第3項の「設定を目的とする契約」でないことから、公正証書によってしなければならないというものではない。しかし、延長後の賃料等について強制執行認諾の効力を及ばせる必要がある場合は、公正証書によってすることになる。

4 おわりに
 事業用(定期)借地権設定契約は、賃貸借契約の中において、公正証書によってしなければならない(法第23条第3項)とされている。これは、当事者間の権利義務を明確にして紛争を防止し、事業用(定期)借地権という要件を慎重に審査して脱法的な制度の濫用を防止するといった観点で、このように公証人の関与が求められているからである。したがって、事業用(定期)借地権設定契約公正証書の作成に当たっては、法令のみならず、判例等も参考にして、慎重に内容を判断して行うべきであるが、ときに、当事者の考えによって思わぬ内容が存在することも多いと思う。当役場においても、対応に苦慮する事例が存在しているが、他の公証役場で行った事例等も参考としながら、対応していたところである。本稿においては、当役場が対応した中で、苦慮した事例を抽出して紹介した次第であるが、この対応が、必ずしも正解であったかは不明である。しかし、法令、先例等に照らしつつ、他の公証役場の事例も参考としながら、可能な限り、適切に対応したつもりであるので、事業用(定期)借地権設定契約公正証書作成に当たって参考としていただければ幸いである。
(広島・福山公証役場公証人 秦 愼也)