陽春の候 会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
埼玉県八潮市の道路陥没事故や岩手県大船渡市をはじめとする全国各地での大規模山林火災など、近年我々の想像をはるかに超え、多くの人々に暮らしや生活に大きな影響を与える事件や大災害が頻発しているような気がします。また、米価の高止まりなどの物価の高騰やトランプ大統領の関税の引上げ等による市民生活への影響も懸念される状況です。早く安心安全に暮らしていける世の中になることを切に願っているところです。(YF)
今年度の民事法情報研究会の活動について
会長 小口哲男
令和7年度の当研究会の活動の予定については、4月20日(日)に開催予定の定時理事会において正式に決定されることとなりますが、皆様の日程調整上の便宜を考慮いたしまして、あらかじめ概要をお伝えいたしますので、日程の確保等をよろしくお願いいたします。
1 会員総会・セミナーについて
(1) 定時会員総会・セミナー
令和7年6月21日(土)の午後開催予定(毎年第3土曜日に開催)
講師は、深山元民事局長・元最高裁判事にお願いする見込み。
(2) (後期)セミナー
令和7年12月13日(土)の午後開催予定(毎年第2土曜日に開催)
講師は、未定
2 民事法情報研究会だよりの発行
「今日この頃」「コラムMY HOBBY」「実務の広場」それぞれ原稿募集しています。会員間の情報交換の場となることが発足の大きな目的ですので、近況報告などを楽しみにしておられる方も多いので、原稿をお待ちしています。
3 質問箱の運用
公証人の方も多いところ、基本的なことがなかなか聞けないとか判断に困ることがあるようなときに、お気軽にご利用ください。難しい問題で他の方にも参考となるような事例については、当研究会だよりの誌上に紹介させていただくこともあります。
4 会費の納入について
会費規程上の会費は、年2万円となっていますが、コロナ下で対面による会議が開催できなかった時期があり、ここ数年は年1万円としておりましたが、昨年の第2回定時理事会において、残余財産額の状況を考慮し、本年度から、規程どおり年2万円の会費(4月1日に80歳を超える会員は会費が免除されます。)とすることとされましたので、以下の口座への振込みをお願いいたします。
【振込先口座】ゆうちょ銀行 記号 番号 (省略)
今日この頃
このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。
| 今日この頃(檜垣明美) |
昨年7月1日付けで公証人を卒業してはや9か月すぎ、本研究会における「今日この頃」のコーナーに寄稿の機会を得ましたので、近況をしたためることにしました。
1 パリオリンピック
2021年夏に開催された東京オリンピックを観戦したとき、もちろんテレビ で日本を応援していたのですが、なぜか、次に開催されるパリオリンピックは、現地で直接選手を応援したいという思いに強くかられてしまいました。その思いは枯れることなく、自分の気持ちの中でどんどん膨らんでいきました。そのためにフランス語も勉強せねばとNHKのフランス語講座も学び始めましたが、誌友の皆様のご想像のとおり、ほとんど身につきませんでした。そして、2024年の7月末から8月上旬の6泊8日の予定で具体的な旅行スケジュールを決めていきました。
決まっているのは、日仏間の往復の飛行機(幸いにも日本航空)と宿泊ホテルのみ。後は自分で観戦したい種目を申し込んでいくものでした。旅慣れていない私としては、のんびりオリンピック観戦ツアーをイメージしていたのですが、自分で日程を組む必要がありました。結果としてはこれで良かったと思っています。
私は日焼けを避けたかったので、室内競技の中で興味のある体操、水泳、柔道そしてバドミントンの観戦を申し込み、日程をさらに詰めていきました。
羽田空港での出発までは、周りの誰に話しても、「えっ?」という反応ばかり。私自身も無事に帰って来られるのか全く自信なく、「大冒険」がスタートしました。
無事にパリのシャルル・ド・ゴール空港に着いてからは、誰もお世話をしてくれる人はいません。フランス語もほとんど分からず旅行社の事前アドバイスを頼りに、スマホの翻訳機能を最大限駆使し、何とか宿泊ホテルに到着しました。心配していたトコジラミもいないし、エアコンも館内統一でコントロールされてはいるものの十分効いており、思っていたより快適に過ごせました。ただ、部屋のテレビは、毎日フランスの選手の活躍の映像ばかり、これは仕方ない。
毎日、パリの地下鉄路線図を唯一頼りにしながら、各会場での観戦をスタートさせました。期間中の地下鉄フリーパスやデジタル観戦チケットを何とか使いこなし、お手製の日の丸うちわを振って日本の応援に努めました。おかげで、男子体操の岡選手の金メダル獲得で、日の丸の掲揚とともに君が代を聞くことができました。
大きなトラブルもなく、順調に旅行日程をこなすことができ、本当にラッキーでした。帰りの飛行機で一緒だった日本代表のバスケットボール選手の渡邊選手、ホーキンソン選手そしてホーバスヘッドコーチのサインまでゲット出来て、ミーハーな私にとってはまさに最高すぎる海外旅行でした。
本当に、勇気を出して海外に行って良かったと思いますが、パリまで行ってルーブル美術館等観光を一切していません。でも、オリンピックで私なりに日本の応援をしたいという当初の目的が達成できて満足感で一杯です。
2 筋トレ
一昨年の秋、家族の一言、「お腹が出ている。」というこの言葉をきっかけにトレーニングを決意しました。自ら自宅で行うことは、自分に甘い私としては到底長続きしないと考え、勇気を出してパーソナルジムに通うことを決意しました。そこで、週2回各50分の指導をマッチョなトレーナーから受けるにしたがって、筋力や心肺機能の維持向上及びタンパク質摂取の重要性等の意識改革ができました。そのことを実感したことから、東京に転居後は、パーソナルジムのほかにさらに24時間利用可能なフィットネスジムにも通い、ランニングマシン(と言ってもウォーキングがメインですが)で、平日はほぼ毎日汗をかいています。汗をかくと幸せホルモンが出るとも言われています。心身ともにリフレッシュでき、誌友の皆さんにもぜひお勧めしたいです。少しでも健康寿命を延ばしていきましょう。
3 今日この頃
仕事を離れて、すごく自由な時間ができました。平日の昼間に外をウロウロすることに対する罪悪感?もなくなり、随分慣れて、いろいろなストレスから解放されています。これからは、何でもいいので、自分のしたいことに時間を最大限使っていきたいと思う今日この頃です。
(元松山・今治公証役場公証人 檜垣明美)
| 西国三十三か所巡り(途中)(安田錦治郎) |
この冬体調を崩し、体中の衰えが進んでいることを自覚させられました。齢67歳の年齢を考えてみても、いつあの世からお迎えがきてもおかしくないと不安になりました。
私は元来、過去を振り返ることは好きではありませんが、これまでの行いを振り返ったとき、善行もあったかもしれませんが、悪行の方が圧倒的に多く、不快の思いでご迷惑をおかけした方も多くおられ、反省と後悔でひどく落ち込んでしまいました。あの世にいくならばもちろん極楽にいきたいと思うのですが、このままでは閻魔大王に地獄行きを確実に宣告されそうです。ずいぶん昔に福岡のあるお寺で見た、地獄に落とされた人々が針の山地獄、釜茹地獄で叫び苦しむ声が聞こえるような実に恐ろしい地獄絵図が思い出されました。
そのよう日々を送る中で、白洲正子さんの「西国巡礼」(講談社文芸文庫)という本に出会いました。この本によると、西国三十三か所のお寺を全部巡ると地獄行きの人間も極楽浄土にいくことができるらしい。藁をもつかむ思いで、これは元気な内にぜひとも三十三か所を巡らねばと決意し、この冬からはじめようと思い立ったしだいです。まだ始めたばかりで、誌面で紹介するのは気が引けるのですが、原稿書きもいつまでできるかわかりませんので、この機会にご紹介させていただきます。
西国三十三か所のいわれについて、先の本では、「養老年間(8世紀)に、大和の国の長谷寺に、徳道上人と呼ばれる坊さんがいた。ある時、病を得て死に、冥途の入口で閻魔王に会い、汝は本土へ返って、諸人を救うため、三十三ヵ所の観音霊場をひろめよといわれ、その証拠として、三十三の宝印を与えられて蘇生した。」と記されています。この時代、地獄に送られる人間がとても多く、見かねた閻魔大王が徳道上人に申し渡したということですが、不眠無休で働く鬼たちがこのままでは過労死してしまう、なんとかしてほしいと閻魔大王に直談判し、いたしかたなくの行動ではなかったのではないでしょうか。
しかし、閻魔大王の願いもすぐには実現には至らなかったようです。
先の本では、「上人は甦ったのち、実行にうつったが、誰もその話を信用してくれない。落胆した上人は,宝印を中山寺に埋め、そののちかえりみる人もなかったが、平安朝のころ、花山院によって掘り出され、はじめて巡礼が一般にも行われるようになったという。」と記されています。「中山寺」とは、24番札所である兵庫県宝塚市にある紫雲寺中山寺のことをいい、花山院(花山法皇)とは2年で出家させられた65代花山天皇のことです。昨年の大河ドラマ「光る君へ」では俳優の本郷奏多氏が好演していました。ドラマでは花山院が登場する場面は少しでしたが、実際の花山院は、19歳で出家した後は西国巡礼の修行に勤め、その結果、巡礼が人々の間にひろがり、今日の隆盛を迎える礎になったと伝えられています。
西国三十三か所とは、1番の那智山青岸渡寺から始まり、33番の岐阜県揖斐町の谷汲山華厳寺までの、和歌山、大阪、兵庫、京都、奈良、滋賀、岐阜の2府5県にまたがる、総距離1,000㎞に及ぶものです。実際に徒歩で歩くと大変ですが、そのような巡礼者は数少なく、多くは自家用車かバスツアーを利用し観光客気分で回る人がほとんどのようです。1泊2日の予定を組むと5寺前後を回ることができるようになっており、余裕のある計画を組んでも10回ほどで全部を回ることができます。順番が付されていますが、順番どおりに回らなくても問題ないとのことです。
私は、閻魔大王様より怖い嫁様にも極楽に行ってもらいたいと願い、一緒に巡ることとし、順番どおり1番から始めることとしました。
最初の1日目は、1番の青岸渡寺(那智山)、2番の紀三井寺金剛宝寺(和歌山市内)の2か所を巡りました。1番と2番の距離は大変長く、車もない道も整備されていない時代に熊野の厳しい山道を花山院はどういう気持ちで歩かれたのか思いを馳せました。
2日目は、3番の粉河寺(和歌山県紀の川市)、4番の槙尾寺(施福寺。大阪府和泉市)、5番の葛井寺(大阪府藤井寺市)の3か所を巡りました。槙尾寺は駐車場から山道で30分ほど登って行くことになります。途中の案内に花山法皇も苦しくて難儀したとあるくらいに本格登山に近い観光気分を削がれる山道でした。ただし、この槙尾寺では、ほとんどのお寺では秘仏として非公開の観音様を観覧することができました。
三十三か所のお寺の中には、長谷寺や清水寺のような有名なお寺もありますが、知られていないお寺がほとんどです。しかし、実際に訪れてみるとりっぱなお寺が多く、3番の粉河寺の本堂の規模(特に屋根)には目を見張るものがありました。
今年中には、最後までたどり着きたいと思いますが、三十三か所全部を回り終えた御朱印帖は、臨終の際は必ず棺桶に入れてもらい、閻魔大王の前でお見せし、ぜひとも極楽に導いていただきたいものだと思っています。
今回は、西国三十三か所をご案内させていただきましたが、関東には坂東三十三か所巡礼、秩父三十四か所巡礼が、九州にも西国三十三か所があります。地獄行きを避けたい方はぜひとも挑戦されてはいかがでしょうか。ただし極楽に行けるかどうかの責任は持てませんが。
(津・津合同公証役場 公証人 安田錦治郎)
| 今日この頃 -宇部の日々-(新井浩司) |
宇部で暮らすようになって4年半近くが経ちます。生まれ育った町、結婚して所帯を持った町に次いで、長く暮らす町になりました。
宇部での暮らしで今までと一番違うところは、住む部屋の窓から海が見えるところです。海といっても風光明媚な海ではなく、どちらかといえば無味乾燥な宇部港が見えるのですが、生まれも育ちも海なし県の私にとっては、かなり新鮮です。
宇部港は、工業港であり、港の周囲には、工場群が広がっています。「無味乾燥」と言ったゆえんですが、見る人によっては(=「工場萌え」の人たちにとっては)、たまらなく魅惑的な風景であるに違いありません。
一連の工場群は、宇部興産(現在は「UBE」に商号変更していますが、ここでは「宇部興産」と呼ぶことにします。)の工場群です。宇部市は、良くも悪くも宇部興産とともに発展してきた町であり、宇部港の入り口にあるこれらの工場群は、その象徴にもなっています。
宇部市は、大正10年(2021年)に市制が施行されており、今年で104年目を迎えます。山口県内では、下関市に次いで2番目に早い市制施行であり、なおかつ、町を経ずに村から直接市になっており、戦前における同様の例は、全国に4例しかないそうです。
それもこれも、明治以降にこの地域で石炭の採掘が本格的になり、急激に人口が増えたからです。当地の石炭産業を主導したのが、その前身を沖の山炭鉱組合といった宇部興産であり、以後、宇部市は、宇部興産と一体となって、「宇部興産の町」として、発展を遂げてきたのです。
なにしろ、宇部市の下水道事業の礎を作ったのも、宇部興産ですし、宇部市最大の観光地「ときわ公園」は、沖の山炭鉱組合の創業者であった渡邊祐策翁が土地を購入して宇部市に寄贈し、成り立ったものです。また、この渡邊祐策翁の功績を称えた「渡辺翁記念会館」という音楽ホールもありますし、つい最近まで「宇部興産中央病院」という名称の総合病院もありました。
こちらも今は名称が変わりましたが、宇部興産は、「宇部興産専用道路」という日本一長い私道も所有していました。その長さは、宇部市から美祢市までの全長31.94キロにも及びます。その起点近くには、長さ1020メートルにもなる立派な橋が宇部港をまたいで架かっています。「興産大橋」と呼ばれるその橋は、私の部屋の窓から、日々、アーチ形の美しい姿を見せてくれています。
自宅から役場までは、10分ほどの道のりを徒歩で通っています。宇部市は人口16万人弱の町であり、私の住む地区は市役所もあり、また、数年前まではデパートもあった、宇部市の中心市街地とされる地区ですが、車で通勤する人が多いためでしょうか、通勤の行き帰りに人と行き交うことはあまりありません。
役場からの帰路に、いつも立ち寄るスーパーがあります。以前は、今とは違うスーパーだったようですが、そのスーパーは閉店し、幸いにも私が来る直前に、今のスーパーがオープンしたのです。家の近くにはこのスーパーしかないため、この店がなかったらどんなにか不便だったろうと、二度と再び閉店することのないように、足繁く通っています。
このスーパーは、新天町商店街という商店街にあります。この名は、福岡市天神の新天町商店街にあやかって付けられたようであり、かつては本家同様、肩が触れ合うほどの賑わいだったようですが、今では地方都市の商店街のご多分に漏れず、シャッターが閉まっている店が多いです。
そもそも宇部市の人口そのものが、平成当初の18万人から徐々に減少しています。寅さんの山田洋次さん、ユニクロの柳井正さん、エヴァンゲリオンの庵野秀明さんなどの宇部市ゆかりのビッグネームも、町の活性化にはあまり結び付いていないようです。
スーパーに足繁く通っているのは、単身赴任生活を送るようになってからというもの、食事を自炊しているからでもあります。単身赴任生活も12年を数えるようになりましたので、夜食だけでも3000食を下らない食事を作ったことになり、一般的な家庭で出てくるような食事はたいてい作ったと自負しています。それでも、あくまでも食べることが目的であり、作ることが目的ではないため、いつまで経ってもあまり上達はしません。高校の頃、学校近くの喫茶店で食べた焼きそばの味が今でも忘れられませんが、いまだその味を再現するには至っていません。たかが焼きそば、されど焼きそば、です。
家で時間をつぶすのに、読書をしています。読書といっても、寄る年波には抗えず、紙ではなく電子で、それも、国会答弁書よろしくの大きな活字にして、読んでいます。長らく小説を読むことはありませんでしたが、こちらに来てからは、昔の小説を読んだりしています。最近では、おそらく50年ぶりぐらいに、川端康成さんを読み返してみました。
読み返して改めて感じたことは、もとよりノーベル文学賞作家ですので当然といえば当然なのですが、こんなにも文章がお上手で美しかったのかということです。川端さんの作品は、いまだ著作権が切れておらず、その美しい文章を引用するのもはばかれますので、別のことを書きますが、子どもの頃、家の百科事典に「川端康成氏蔵」と書かれた国宝の絵を見つけて、たいそう驚いたことを覚えています。その絵は、池大雅と与謝蕪村合作の「十便十宜図」という絵で、郵便切手にもなっているのでご存じの方も多いでしょうが、川端さんが家を買うのをあきらめてこの絵を買ったという逸話が残されています。国宝になったのは川端さんが所蔵してからだそうで、川端さんの美へのこだわり、また、その審美眼のほどがうかがえるエピソードです。
川端さんの作品は、その美しさゆえに、映像化された作品も多くあります。代表作「雪国」も何度か映像化されていますが、昭和55年に松坂慶子さんが主役の駒子を演じた、テレビドラマの「雪国」が、松坂慶子さんがなんとも美しく、印象に残っています。もう一度見たいのですが、残念ながら、DVD等にはなっていないようです。映画では、岸惠子さんと岩下志麻さんが駒子を演じました。越後湯沢の駅には、駒子の人形が飾られていますが、岸惠子さんに似ているようです。
これもまた有名な「山の音」という作品は、成瀬巳喜男さんという映画監督が映画化しています。まだ連載中の映画化であったため、結末が実際の小説とは全く違っており、また、年上の上原謙さんが息子役、年下の山村聡さんが父親役と、配役も斬新です。お嫁さん役の原節子さんがとても魅力的です。
成瀬巳喜男さんをはじめ、昔の映画が好きなので、これも時間つぶしによく観ています。こちらも、今では、家で容易に観られるようになっており、つくづく良い時代になったと思います。
その最高傑作と名高い「浮雲」をはじめ、成瀬作品には、「デコちゃん」こと高峰秀子さんが数多く出演しています。高峰秀子さんは、大正13年(1924年)生まれ、ご存命ならば今年で101歳です。当役場にも、大正13年生まれの方がいらしたことがあり、「高峰秀子さんと同い年なんだ」と妙な感慨を覚えたものです。
成瀬巳喜男さんと黒澤明さんは、黒澤さんが成瀬さんの助監督をしたことのあるような関係ですが、成瀬さんは、黒澤さんの作品の中では、「素晴らしき日曜日」という作品が最も好きだと言っていたそうです。それかあらぬか、「素晴らしき日曜日」の主演の中北千枝子さんは、その後、成瀬作品によく出演しています。
「素晴らしき日曜日」は、昭和22年公開の映画です。敗戦直後の東京でデートをする二人の男女を描いた映画ですが、題名とは裏腹に二人のデートは決して「素晴らしき」ものではありませんでした。さまざまな苦難の後、二人がたどり着いたのは、日比谷野外音楽堂、彼氏はそのステージの上に立ってこれまでの苦難を振り払うように、オーケストラの指揮者よろしく指揮棒を振る真似をし始めます。そして、彼女は、映画の観客に向かって、「皆さん、お願いです。どうか拍手をしてやってください」と叫びます。
彼氏が演奏した曲は、シューベルトの「未完成交響曲」、二人が初めてのデートで聴いた思い出の曲でした。「未完成交響曲」は、日本では、三大交響曲の一つとされています。残りの二つは、ベートーヴェンの「運命」とドヴォルザークの「新世界より」です。「三大〇〇」には、何が入るのかに争いのある場合も多いですが、この「三大交響曲」には争いがないように思えます。
クラシックの音楽家の中では、「第九の呪い」というものがあるそうです。ベートーヴェンが「第九」を作曲して亡くなったことから、9番目の交響曲を作曲すると亡くなるという言い伝えです。マーラーなどは、この呪いを信じていたのか、彼の9番目の交響曲に番号を付けず、「大地の歌」という名前を付けています。「新世界より」はドヴォルザークの9番目の交響曲であり、最後の交響曲ですし、シューベルトの交響曲も数え方によっては9番までとされています。もちろん九つ以上の交響曲を作曲した人も多くいるので、「第九の呪い」は、ベートーヴェンの偉大さを物語る言い伝えのように思えます。
クラシックを聴くということもまた時代の変化で容易になったことの一つでしょう。かつては、一つの曲を指揮者によって聴き比べることは容易ではありませんでしたが、今では、「第九はフルトヴェングラーに限る」と言われれば、比較的容易にそれを聴くことができます。クラシック音楽を聴くこともまた、私の時間つぶしの一つになっています。
ということで、これまで今日この頃の宇部の日々について駄文を弄してきました。改めて日々の日常を書き記してみると、身体はしんどい時もありますが、案外、平穏な日々を送っていることに気づかされます。そして、このように平穏で充実した日々を送れるのも、IT技術の進歩のお陰であることに気づかされます。古い小説を読み、古い映画を観て、古い音楽を聴くことがIT技術の進歩のお陰とはなんとも逆説的ですが、それのみならず、地方都市であっても都会と同じような生活ができているのも、EC事業のなせる業でしょう。IT技術の進歩には負の側面もありますが、生活を潤してくれていることもまたまぎれもない事実のようです。AI技術の進歩は、思いもよらない潤いを私たちの生活にもたらしてくれるかもしれません。
この生活は、あと数年は続くものと思われます。仕事をめぐる状況は決して平穏なものではありませんが、これからも健康には留意して、宇部の日々を楽しく充実したものにしていきたいと考えています。近い将来、宇部の日々が「昨日その頃」になったその時に、懐かしく、そして、笑って、振り返ることができますように。
(山口・宇部公証役場公証人 新井浩司)
実務の広場
このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。
| No.105 貸金庫開披点検に関する事実実験公正証書について ~銀行の店舗移転と遺言執行者による開披事例~ (西江昭博) |
貸金庫開披点検に関する事実実験公正証書については、過去の実務の広場において、橘田博先生が寄稿されており(民事法情報研究会だよりNo.13・平成27年8月)、また、公証実務(いわゆる黒本)にも文例や解説が掲載されています。もっとも、多くの公証人は、使用料不払いによる強制解約に伴う貸金庫開披の事案については取り扱ったことがあるものの、それ以外の事案については取扱いの経験が少ないものと思われます。そこで、私が取り扱った銀行の店舗移転に伴う事例及び遺言執行者からの嘱託事例を紹介し、執務の参考に供したいと思います。もとより以下の記述は私の経験を紹介するにとどまりますので、その前提でお読みください。
第1 銀行の店舗移転に伴う貸金庫の開披・点検
1 貸金庫の方式
銀行の貸金庫は、貸金庫に付属する鍵正副2個のうち、正鍵を使用者が保管し、副鍵は銀行立会いの上、使用者が届出の印章により封印して銀行が保管し、使用者は、正鍵を用いて貸金庫を開披し、格納品の出し入れを行うというものが一般的かと思われます。
嘱託人銀行は、これに加えて移動自由なビニール製バッグであるセーフティケースの開披点検も希望しました。この銀行のセーフティケースは、銀行所定の保護ケースに使用者が格納品を収納した上、その保護ケースを銀行に預けるというもので、付属する鍵は1個とし、使用者が保管することとされ、使用者は、この鍵を用いてセーフティケースを開披し、格納品の出し入れを行います。
銀行の貸金庫の方式にも多様なものがあります。嘱託人銀行の場合、①開披にあたって銀行所定の貸金庫開閉票に届出の印章により記名(又は署名)押印して提出し、銀行所定の場所で正鍵により開披する、②貸金庫への入室にあたって専用入口に備付けの解錠操作盤にあらかじめ銀行が発行し使用者に貸与した貸金庫ご利用カードを挿入し、届出の暗証番号をボタンにより操作の上入室し、銀行所定の場所で正鍵により開披する、③開披にあたって銀行所定の貸金庫開閉票に届出の印章により記名(又は署名)押印して提出し、貸金庫の入室にあたって専用入口に備付けの解錠操作盤に銀行から貸与するカードを挿入の上入室し、銀行所定の場所で正鍵により開披するなどの方式がありました。
2 店舗移転に伴う貸金庫の移設
店舗移転に伴う貸金庫の移設の態様にも様々なものがあるようです。
嘱託人銀行の場合、貸金庫使用者に個別に連絡し、期日までに貸金庫の格納品を銀行所定の移設袋に移し替え、使用者及び銀行が移設袋に封印を施し、この移設袋を新店舗に搬送します。ただし、この手続に応じない使用者については、貸金庫規定に基づき、公証人立会いのもと銀行において貸金庫を開披し、格納品を取り出した上、銀行所定の移設袋に移し替え、銀行担当者と公証人において封印処理したものを新店舗に搬送することになります。銀行の嘱託の趣旨は、この開披・点検・封入までの一連の手続について目撃状況を記録し、公正証書を作成してもらいたいというものでした。
これ以外にも、①所定の手続に応じない使用者の貸金庫について銀行において開披し、内函(保護函)を取り出し、封印し、新店舗に搬送して貸金庫内に納めるまでの一連の手続について目撃状況を記録するもの、②事前に使用者において格納品を銀行所定の移設袋に移し替え、使用者及び銀行担当者がこれを封印した上内函(保護函)に戻しておき、店舗移転時に内函(保護函)を開披して移設袋を取り出し、当該移設袋をその状態のまま新店舗の貸金庫の内函(保護函)に収納する手続について目撃状況を記録するもの、③個別の貸金庫について開披措置をせず、貸金庫の内函(保護函)そのものをそのまま移転する手続について目撃状況を記録するものなどがあるようです。
3 事前準備
銀行との事前打合せを行い、事実実験の期日までに準備を整える必要があることは、使用料不払いによる強制解約に伴う事実実験と同様ですが、上記1及び2のとおり、貸金庫の方式のみならず、貸金庫移設の態様も様々ですので、事前の打合せにより実験当日のイメージを固めておくことがより重要になります。
事前打合せの際には、貸金庫規定、セーフティケース規定、貸金庫印鑑届、セーフティケース印鑑届、貸金庫使用者宛内容証明郵便として差し出された旨の証明のある文書、郵便物等配達証明書、返送された封筒、嘱託人銀行から代理人宛の委任状、同銀行代表者の資格証明書・印鑑登録証明書、代理人の本人確認資料、代理人の職氏名等が記載された名刺等を提供してもらうとよいと思います。
打合せにおいて、嘱託人銀行が公証人に目撃・記録してもらいたい事項を確認するとともに、事実実験当日の作業手順を確認します。手順ごとに、銀行の誰が何を行い、公証人(又は書記)が何を行うのか、可能な限り確定させておきます。また、複数の貸金庫・セーフティケースがある場合に公正証書の作成通数をどうするかについて銀行の意向を確認しつつ確定させること、銀行に交付する写しは正本1通で足りるかどうか確認すること、手数料算定のベースとなる作業時間の考え方について銀行と意識を共有することも事前打合せの際に行っておきます。なお、銀行の店舗移転の場合、事実実験の日程が週休日に当たることもあるので、日程調整にも注意が必要です。
事前打合せを踏まえて、実験当日の作業内容を思い描きながら、証書の下書きをあらかじめ作成しておきます。
4 事実実験当日
通常の出張時以外の当日の持ち物としては、記録用のメモ用紙、デジタルカメラ、サインペン、はさみ、のり、ガムテープ、セロハンテープなどでしょうか(現実的には、事務用品は銀行側が準備していると思われます。)。
銀行に赴き、銀行の担当者と作業内容を再度確認し、事実実験に入ります。
事実実験には、嘱託人の立会いが必要的であるとされていますが、嘱託人が銀行の場合、代理人が立ち会うことになります。
事前に打ち合わせた作業手順に従い、証書の下書きを頭に入れながら、銀行の担当者が行う個別の作業について時刻と内容をメモするとともに、デジタルカメラで(予備としてスマートフォンでも)各作業や対象物を記録していきます。実際の事例では、副鍵袋の封緘状態に異常が無いこと、副鍵袋を開封して副鍵を取り出し、貸金庫を開錠し、格納品を取り出す各状況を記録していきます。格納品については、銀行の担当者が銀行が準備した「貸金庫格納品目録」に個別に(格納品が無い場合はその旨)記録し、公証人及び銀行代理人が品目ごとに確認印を押印していきました。その後、格納品を一括して銀行所定の封筒に梱包し、かつ銀行代理人及び公証人が封印する状況を記録します。
なお、格納品の点検において、封をしてある物を開くことは避けるべきであり、また、格納品の材質等を公証人において断定して記録することは避けるべきであるとされています(このほか、格納品の点検・記録の留意事項については、公証実務133ページを参照願います。)。
5 公正証書の作成
銀行から帰庁後、公正証書の起案を行います。
事前に作成しておいた下書きをもとに、実際の事実実験の内容を踏まえて完成させていきます。その際、デジタルカメラの画像を確認して、証書に添付・引用する画像を確定させ、文案に反映させていきます。個々の格納品の特定は、銀行の担当者が作成した「貸金庫格納品目録」の写しを引用して行います。
起案終了後、銀行の担当者と打合せを行い、案文を確定させた上、銀行の代理人に役場に来所してもらい、内容を確認の上、署名押印させ、公正証書を作成します。
なお、事実実験公正証書については、実験現場で記録した資料等に基づいて後日公証人役場に当事者の出頭を求めて公正証書を作成する場合がほとんどであり、この場合の公正証書に記録する公正証書の作成場所は当該公証人役場であり、作成日は嘱託人(代理人)が公証人役場に出頭して署名押印した日であるとされています(公証実務125ページ)。
6 手数料
事実実験公正証書の作成手数料は、事実の実験並びにその録取及びその実験の方法の記載に要した時間1時間までごとに1万1000円です。事実実験に要した時間だけでなく、公証役場においての作業時間等も含まれますので、前記3のとおり、事前に銀行側と意識合わせをしておきます。このほか日当・旅費も請求できます。公正証書原本が4枚を超えた場合の枚数加算は、法律行為の公正証書と異なり、適用されません。
7 参考作成例
作成例1は、貸金庫について格納品が存在しなかった事案、作成例2は、セーフティケースについて格納品が存在した事案です。
(作成例1)
貸金庫の開披点検に関する事実実験公正証書
本公証人は、令和○年○月○日、嘱託人株式会社○○銀行(以下「嘱託人」という。)の後記趣旨の嘱託に基づき、○○県○○市○○○○○○所在の株式会社○○銀行○○支店(以下「本件支店」という。)に設置してある貸金庫の開披及び点検・処理に関し、その現場に立ち会い、目撃した事実を録取し、その結果について、同年○月○日、当役場において、この証書を作成する。
嘱託の趣旨
嘱託人は、本公証人に対し、次のとおり説明等した。
1 本件支店が、令和○年○月○日に、○○県○○市○○○○○○に移転して営業することになった。
2 このような場合には、貸金庫については、貸金庫規定第○条及び第○条によって、嘱託人が貸金庫使用者(以下「使用者」という。)に対し、格納品の一時引き取り又は貸金庫の変更をお願いしたときは、使用者は、これに直ちに応じていただく義務があり、このことから、これに応じない使用者に対しては、貸金庫規定にしたがって、届出のあった住所地に相当期間を定めて催告し、その期間内に一時引き取り等に応じない場合には、嘱託人が保管する副鍵を使用するなどして貸金庫を開披の上、格納品を点検し、別途管理する運用をしている。
3 嘱託人は、本件支店内に設置してある貸金庫(貸金庫番号:○○号(以下「本件貸金庫」という。))の使用者である○○○○(○年○月○日生、届出住所:○○県○○市○○○○○○、以下「本件使用者」という。)に対し、令和○年○月○日に差し出した内容証明郵便により、本件使用者の届出住所に宛てて、貸金庫規定第○条及び第○条により、令和○年○月○日までに本件使用者による格納物の移し替え等に応じない場合には、公証人立会いによる貸金庫の開披及び内容物の点検を実施する旨の通知書を送付したが、「保管期間経過」との理由で、令和○年○月○日、返送された。
4 嘱託人は、上記の経過により、保管中の副鍵を使用して本件貸金庫を開披し、その格納品を点検した上、一定の場所に格納する処置を実行したいので、本公証人に対し、その現場に立ち会い、目撃した事実を録取した公正証書の作成を嘱託するというものである。
5 嘱託人は、この嘱託にあたり、貸金庫規定、貸金庫印鑑(署名鑑)届、内容証明郵便として差し出された旨の証明のある文書、返送された封筒(「受取人様が保管期間内にお受け取りになりませんので、お返しいたします」との記載がある。)等を提示し、嘱託人と本件使用者との契約関係、嘱託人が本件貸金庫を開披し格納品を別途保管することのできる権限を証明した。
実験事実
本公証人は、令和○年○月○日午前○時○分から午前○時○分まで、本件支店○○課長である○○○○(なお、この貸金庫開披にあたっては、同課長の補助者として、○○銀行○○部○○○○が開披等を行ったが、これらの補助者を含めて、以下「代理人」という。)が、本件貸金庫とともに別件セーフティケースを順次開披する処置を目撃し、そのうち、本件貸金庫に関する事柄は、次のとおりである。
1 代理人は、本公証人に対し、本件支店の支店長室兼会議室において、①貸金庫番号○○号に該当する貸金庫は、貸金庫の種別にかかわらず、ひとつしかないこと、②これから、本件貸金庫を当室まで持参し、本件支店が副鍵袋に入れて保管している副鍵を用いて本件貸金庫を開披する予定である旨説明した。
2 代理人は、本件支店の支店長室兼会議室において、本件貸金庫の副鍵袋を本公証人に提示し、封印状態に異常のないことを告げ、本公証人もそれを確認した。その後、代理人は、はさみを用いてこれを開封し、副鍵を取り出した。本公証人と代理人は、本件支店の支店長室兼会議室において、本件貸金庫の外観に異常がないこと、正常に施錠されていることを確認した。次いで代理人は、副鍵を用いて本件貸金庫を開けたところ、格納品はなかった。代理人は、副鍵を用いて本件貸金庫を施錠し、午前○時○分、点検は終了した。
(作成例2)
セーフティケースの開披点検に関する事実実験公正証書
本公証人は、令和○年○月○日、嘱託人株式会社○○銀行(以下「嘱託人」という。)の後記趣旨の嘱託に基づき、○○県○○市○○○○○○所在の株式会社○○銀行○○支店(以下「本件支店」という。)に保管してあるセーフティケースの開披及び点検・処理に関し、その現場に立ち会い、目撃した事実を録取し、その結果について、同年○月○日、当役場において、この証書を作成する。
嘱託の趣旨
嘱託人は、本公証人に対し、次のとおり説明等した。
1 本件支店が、令和○年○月○日に、○○県○○市○○○○○○に移転して営業することになった。
2 このような場合には、セーフティケースについては、セーフティケース規定第○条及び第○条によって、嘱託人がセーフティケース使用者(以下「使用者」という。)に対し、格納品の一時引き取り又はセーフティケースの変更をお願いしたときは、使用者は、これに直ちに応じていただく義務があり、このことから、これに応じない使用者に対しては、セーフティケース規定にしたがって、届出のあった住所地に相当期間を定めて催告し、その期間内に一時引き取り等に応じない場合には、嘱託人がセーフティケースを開披の上、格納品を点検し、別途管理する運用をしている。
3 嘱託人は、本件支店内に保管してあるセーフティケース(セーフティケース番号:○○号(以下「本件セーフティケース」という。))の使用者である○○○○(届出住所:○○県○○市○○○○○○、以下「本件使用者」という。)に対し、令和○年○月○日に差し出した内容証明郵便により、本件使用者の届出住所に宛てて、セーフティケース規定第○条及び第○条により、令和○年○月○日までに本件使用者による格納物の移し替え等に応じない場合には、公証人立会いによるセーフティケースの開披及び内容物の点検を実施する旨の通知書を送付し、同通知書は、令和○年○月○日、日本郵便株式会社○○郵便局 により配達された。
4 嘱託人は、上記の経過により、本件セーフティケースを開披し、その格納品を点検した上、一定の場所に格納する処置を実行したいので、本公証人に対し、その現場に立ち会い、目撃した事実を録取した公正証書の作成を嘱託するというものである。
5 嘱託人は、この嘱託にあたり、セーフティケース規定、保護ケース印鑑届、内容証明郵便として差し出された旨の証明のある文書、郵便物等配達証明書等を提示し、嘱託人と本件使用者との契約関係、嘱託人が本件セーフティケースを開披し格納品を別途保管することのできる権限を証明した。
実験事実
本公証人は、令和○年○月○日午前○時○分から午前○時○分まで、本件支店○○課長である○○○○(なお、このセーフティケース開披にあたっては、同課長の補助者として、○○銀行○○部○○○○が開披等を行ったが、これらの補助者を含めて、以下「代理人」という。)が、本件セーフティケースとともに別件貸金庫を順次開披する処置を目撃し、そのうち、本件セーフティケースに関する事柄は、次のとおりである。
1 代理人は、本公証人に対し、本件支店の支店長室兼会議室において、①セーフティケース番号○○号に該当するセーフティケースは、ひとつしかないこと、②セーフティケースに付属する鍵は1個であり、使用者が保管すること、③これから、本件セーフティケースを当室まで持参し、本件セーフティケースを開披する予定である旨説明した。
2 本公証人と代理人は、本件支店の支店長室兼会議室において、本件セーフティケースの外観に異常がないこと、正常に施錠されていることを確認した。次いで代理人は、カッターナイフを用いて本件セーフティケースを開け、内容物を点検した。その種類及び数量は、別紙貸金庫格納品目録記載のとおりである。
3 代理人は、上記格納品を一括して紙製の封筒に梱包し、その封筒の所定欄にセーフティケース番号と本件使用者の氏名等を記載した紙を貼り付け、代理人と本公証人がその貼り付けた紙と封筒に契印した上、さらに、その封筒をビニール製の袋に梱包し、その袋に代理人と本公証人が契印することにより封印し、同日午前○時○分、点検は終了した。
第2 遺言執行者による貸金庫の開披・点検
1 嘱託の趣旨
遺言執行者が相続財産の把握のために遺言者の貸金庫を開披し、格納品を確認する状況を目撃し、記録するものです。
2 事前準備
嘱託人である遺言執行者と事前に打合せを行います。
事前打合の際には、遺言公正証書の正本(遺言執行者に貸金庫の開披等の権限を与える旨の記載がある。)、遺言者の死亡除籍謄本、貸金庫規定、貸金庫届、嘱託人の本人確認資料等を提供してもらいます。
事実実験の日程調整や実験当日の作業手順について、嘱託人において銀行側と十分協議しておくよう依頼します。
実際の事例の場合、格納品の有無が不明だったため、有る場合と無い場合の双方を想定して証書の下書きを準備しました。
3 事実実験当日
銀行に赴き、嘱託人である遺言執行者と作業内容を再度確認し、事実実験に入ります。
事前に打ち合わせた作業手順に従い、証書の下書きを頭に入れながら、嘱託人が行う個別の作業について時刻と内容をメモするとともに、デジタルカメラで(予備としてスマートフォンでも)各作業や対象物を記録していきます。
4 公正証書の作成
銀行から帰庁後、公正証書の起案を行います。
事前に作成しておいた下書きをもとに、実際の事実実験の内容を踏まえて完成させていきます。その際、デジタルカメラの画像を確認して、証書に添付・引用する画像を確定させ、文案に反映させていきます。個々の格納品の特定は、一覧表にまとめて記載しました。
起案終了後、嘱託人に役場に来所してもらい、証書の内容を確認の上、署名押印させ、公正証書を作成します。
5 参考作成例
(作成例3)
貸金庫の開披点検に関する事実実験公正証書
本公証人は、令和○年○月○日、〇〇〇〇の嘱託により、次の事実につき目撃し、本証書を作成する。
第1条 嘱託の趣旨は、次のとおりである。
嘱託人は、〇年〇月〇日〇〇法務局所属公証人〇〇〇〇作成同年第〇〇号遺言公正証書(以下「遺言公正証書」という。)に基づく遺言者〇〇〇〇の遺言の遺言執行者である。
遺言者〇〇〇〇の死亡(〇年〇月〇日死亡)により、嘱託人が遺言公正証書に基づき遺言執行者として執行するために、〇〇〇〇名義の株式会社〇〇銀行〇〇支店の貸金庫(第〇〇号)を開披し、格納品である財産の確認をしたい。
よって、同現場に臨場し、貸金庫の内容物を確認の上、内容物を記載した公正証書を作成する件を嘱託する。
なお、嘱託人は、遺言公正証書の正本、〇〇〇〇の除籍謄本、〇〇〇〇作成の「貸金庫届」、「貸金庫規定」と題する印刷物を本公証人に提示し、これによって嘱託人の遺言執行者としての権限を証明した。
第2条 本公証人は、令和〇年〇月〇日、〇〇県〇〇市〇〇〇〇〇〇所在の〇〇銀行〇〇支店において、次の事実を目撃した。
1 〇〇銀行〇〇支店の担当者〇〇〇〇によって、遺言者〇〇〇〇の貸金庫(第〇〇号)が同支店会議室に持ち込まれ、嘱託人及び本公証人が同貸金庫の外観に異常が無いこと、正常に施錠されていることを確認した。
2 嘱託人が正鍵を使って貸金庫を開き、内容物を取り出した。
3 本公証人において内容物を点検した結果、その内容物は、別紙「内容物一覧表」記載のとおりであった。
4 点検後、嘱託人によりすべての内容物は再び貸金庫内に格納され、同貸金庫は施錠された。
(福岡・久留米公証役場公証人 西江昭博)
| No.106 遺言検索及び正・謄本請求に関する留意事項 (安田錦治郎) |
はじめに
公証人が作成した遺言(以下「公正証書遺言」という。)について、遺言者本人や遺言者の相続人が、遺言の存否、内容を確認したい場合、まずは遺言検索を行い、検索の結果遺言が作成されていた場合、正本又は謄本を請求することとなる。
遺言の存否の確認については、平成元年(1989年)以降作成された公正証書遺言については、日本公証人連合会が運用する遺言検索システムを利用することで、全国いずれかの公証役場で遺言公正証書を作成しておれば、全国いずれの公証役場でも、遺言を検索することが可能である。(注1)(注2)
遺言が作成されていることが確認できた後、正本又は謄本の請求を行うことになろうが、現在の取扱いとしては、正本又は謄本の請求は、公正証書遺言を作成した公証役場に対して請求することとなり、請求方法としては、直接当該公証役場に出向いて請求するか、あるいは郵送で請求することとなる。なお、公正証書遺言の内容を確認する方法として原本の閲覧制度があるが、閲覧を請求できる者の範囲は正本又は謄本請求と同様であることから、本稿では対象としないこととした。
遺言検索の利用者は、親が遺言書を作成したことは知っているものの、公正証書遺言の所在がわからないといった場合、相続人の一人が公正証書遺言を持っているのはわかっているがそれを見せてくれないといった場合に、公正証書遺言の存否や内容を確認したいという人が多いと思われる。中には相続人が遺言に基づき金融機関に対して遺言者の預貯金の払戻請求する場合に、遺言はもっとも直近に作成されたものが優先することとなるため、相続人が持参した遺言書よりも新しい遺言が作成されていないかを念のため金融機関において確認したいため、相続人に遺言検索を依頼するといった場合もある。
公正証書遺言の検索及び正・謄本の請求があった場合にもっとも留意しなければならないことは、申出人が、請求権限を有する遺言者本人又は遺言者の相続人等の利害関係人であるか否かの確認である。
遺言は個人情報が多く含まれていることから、守秘義務という観点からはもちろんのこと、遺言は、法定相続に優先し、かつ遺言の間でも新しい遺言が優先することになり、不動産、預貯金等といった重要財産の帰属について、遺言の存否・内容は、相続人等の利害関係人に対して決定的な影響を及ぼすことから、遺言検索及び正・謄本請求の対応に当たっては、請求権限を有さない者に対して情報提供をすることがないよう、慎重の上にも慎重に取り扱わなければならない。
本稿では、公証人に任命され、着任した当初、遺言検索等の対応で戸惑うことが多いと思われる部分を中心として、遺言検索及び正・謄本の請求手続について、先例(「公証」、「会報」誌等に掲載された法規委員会等の協議結果等をいう。)を参考として、解説することとしたい。
遺言検索、正本及び謄本が請求できる者(以下「請求者」という。)の範囲は共通であるので、まずは請求者について説明し、その後に、遺言検索、正本及び謄本請求の手続について解説することとしたい。
なお、意見にわたる部分は個人的見解である。
(注1)遺言検索は、閲覧、正本・謄本請求と異なり、法令の根拠に基づかない公証人の内部の取扱い、いわゆる行政サービスとして実施してきたものである(「遺言検索システム実施要領」(昭和63年5月20日定時総会決議(公証87号)、平成26年4月1日定時総会最終改正決議)、「公正証書原本二重保存システム実施要領」(平成25年5月18日定時総会決議))。
正本・謄本請求の前提として請求するものがほとんどであり、公証人にとっても検索の労力が著しく軽減されることから、適切に対応する必要がある。
なお、遺言検索については、令和4年6月末までは日本公証人連合会事務局にファクシミリで検索依頼を行い、同事務局において検索し、その検索結果を受け取るという方法であったが、令和4年7月以降から、各公証役場において、遺言情報管理検索システムが導入され、直接検索することが可能となった(「遺言情報管理システム実施要領」(令和4年5月21日定時総会決議)、「遺言情報管理システム実施要領細則について」(令和4年6月22日会長通知))。
(注2)公正証書遺言ではない自筆証書遺言については、その保管を法務局で行う制度(自筆証書遺言書保管制度)が令和2年7月10日から開始されており、自筆証書遺言の内、当該制度を利用して保管している遺言については、遺言者死亡後の遺言に限るが、遺言書保管事実証明の交付請求制度を利用することで、自筆証書遺言の存否の確認が可能となっている。
第1 遺言検索及び正・謄本請求の請求者について
遺言検索及び正・謄本請求については、遺言者本人が生存中の請求であるか、死亡後の請求であるかで請求者の範囲が異なる。そのため、遺言検索及び正・謄本請求があった場合、まずは遺言者本人が生存しているか、死亡しているかを確認する必要がある。
1 遺言者が生存中の請求者
遺言者が生存している場合は、請求者は遺言者本人又は遺言者本人から委任された代理人に限られ、それ以外の者は請求することができない。
(1)遺言者本人が請求者となる場合の留意事項
遺言者本人であると申出た者から遺言検索の申出があった場合は、本人で あることが確認できれば請求人と認めることができるので、運転免許証、個人 番号カード、印鑑証明書・実印等によって本人確認(注1)を行い、本人であることが確認できた場合は遺言検索を実行し、検索の結果を本人に伝える。
(注1)本人確認の資料については、「新訂 公証人法」87頁以下を参照。
(2) 遺言者の代理人が請求者となる場合の留意事項
遺言者本人がほかの者に委任し、委任された者(代理人)や代理人からさらに委任された者(復代理人)は、本人に代わって遺言検索及び正・謄本請求の請求者となることができる。
遺言者が生存中の間は、推定相続人がその立場で遺言検索及び正・謄本の請 求者になることはできないが、遺言者が推定相続人の中の一人に委任し、その者が遺言者本人の代理人の立場で請求することは可能である。
なお、先例は、代理人の場合は、遺言検索を求める事情等を聞くなどして、本人の意思能力や本人の意思に基づくものであることを代理人に対して確認すべきであるとする。(注1)
委任を受けた弁護士の補助者や弁護士法人の従業員については復代理委任状の提出が必要である。(注2)(注3)
代理人が請求する場合は、委任状、委任者の印鑑証明書(3か月以内)、代理人の本人確認資料が必要であるが、委任状様式については、以下を参考にされたい(正本又は謄本請求の委任事項を含む。)。
委任状
代理人 住所 氏名
私は、上記の者を代理人と定め、下記の権限を委任します。
記
1 遺言者 〇〇〇〇( 年 月 日生)の遺言公正証書の検索の請求
2 上記公正証書原本の閲覧、同正本又は謄本の交付請求及び受領
3 復代理人選任の権限
4 以上に関連する一切の事項
令和 年 月 日
委任者 住所 氏名 実印
※ 委任者の印鑑証明書(3か月以内)を添付する。
※ 代理人は、運転免許証等の写真付証明書を提示する。
(注1)会報2024-7-27
(注2)「公正証書等の謄本請求における代理人弁護士等の補助者につき、当該弁護士の使者とする取扱いについては消極である。」(会報2024-4-29)
(注3)「弁護士法人が遺言検索について委任を受けた場合、社員である弁護士は、定款に別段の定めのない限り、各自、弁護士法人を代表して遺言検索を行うことができる。弁護士法人の従業員については、弁護士からの委任(復委任)を受けて、復代理人として遺言検索を行うことができるが、弁護士法人への委任状の委任事項に、復代理人の選任事項が記載されていなければならない。」(会報2024-7-26)
(3)遺言者生存中の遺言者の法定後見人・任意後見人は請求できるか。
遺言者本人が認知症で判断能力がなくなった場合、本人自身が遺言検索等を請求することはできない。この場合、先例は、遺言者が生存中の間は、遺言者本人の法定後見人(成年後見人)、任意後見人からの遺言検索及び正・謄本請求は認められないとする。(注1)(注2)(注3)(注4)
請求が認められない理由は、遺言は遺言者本人の生存中は法的効力がなく、本人以外の者は何ら法的利害関係を持たないことからである。当該理由からすれば、遺言者が生存中の間は遺言者の債権者、破産管財人からの請求についても認められないことになろう。
ただし、先例は、任意後見契約の代理権目録の中に具体的に遺言検索等の権限が記載されていれば、任意後見契約の受任者についても請求者と認められるとする。(注5)(注6)
この場合は、任意後見契約により遺言者が判断能力を有している時点で、遺言者本人から受任者へ具体的に遺言検索等の委任行為をしたことが確認できることから、前記(2)の代理人の取扱いに含まれると解されるからである。
(注1)「禁治産者が正常な時にした公正証書遺言について、その者の法定後見人である妻から謄本の交付請求があった場合、これに応じることができない。」昭和63年12月2日民一6776号民事局長回答(公証89号173頁、新訂公証人法116頁)
(注2)「昭和63年民事局長回答は、新制度における成年後見人についても妥当するものと解される。」(会報H24-10-25)
(注3)「成年後見人による被後見人生存中の遺言検索及び謄本交付請求はいずれも応じないのが相当」(公証184号185頁。会報H29-9-30)
(注4)「任意後見人は、本人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部に係る受託事務について代理権を行使するものであるから、成年後見人との対比からみても、遺言検索等の権限を一般的に肯定することはできない。」(会報H24-10-25)
(注5)「任意後見契約の代理権目録に「遺言検索、原本閲覧請求及び正・謄本交付請求についての権限」と具体的に記載がされた場合には、遺言者が当該公正証書作成時に敢えてその権限を付与する判断をしたと考えられることからみて、抽象的には、これに応じてよいと考えられる。」(会報H24-10-25、会報H24-10-30)
なお、前記先例では、「そもそも、任意後見契約の性質からみて、任意後見人が本人の財産管理のため、遺言公正証書の検索等をする必要性ないし相当性がどれだけあるのか想定しにくいところがあるから、その証書作成時において、そのような条項を代理権目録に記載する具体的必要性を十分吟味した上で、具体的記載に応ずることとするのが相当である。」と解説されており、遺言検索等の権限を代理権目録に定型的に記載することは控えるべきであろう。
(注6)任意後見契約については、委任契約と任意後見契約の契約を同時に締結する移行型があるが、委任契約の代理権目録に遺言検索等の権限を記載することの可否という問題が生じるが、委任契約の濫用の防止の観点からは、当該記載は行うべきでなく、遺言検索等の都度、委任状及び印鑑証明書の提出を求める取扱いをすべきである。
2 遺言者死亡後の請求者について
遺言者生存中は、遺言者本人以外の者は遺言検索及び正・謄請求者になることができないが、遺言者が死亡した後は、遺言者の承継人(法定相続人、受遺者、相続分譲受人)、法律上の利害関係人(遺言執行者等)、又はそれらの任意代理人、検察官等が請求者となることができる。
(1)法定相続人が請求者となる場合の留意事項
法定相続人であるという者から申出があった場合は、遺言者の死亡の事実が確認できる除籍謄本、申出人が遺言者の法定相続人に該当していることが確認できる戸籍謄本、及び申出人の本人確認ができる資料(運転免許証等)の提出により、申出人が請求者に該当していることを確認する。
法定相続人から相続分を譲渡された者であるという者については、譲渡人である法定相続人に係る前記の戸籍謄本等の資料のほか、相続分譲渡証明書及び当該証明書に押印された譲渡人の実印を証明する印鑑証明書が必要である。
請求者であることが確認できれば遺言検索を行い、検索の結果、当該公証役場で遺言書が作成されおり、正・謄本の請求を希望するということであれば、正・謄本請求書を提出してもらうこととなる。
ほかの公証役場で遺言書が作成されていた場合は、検索結果帳票を手交するのと併せて、当該公証役場に直接出向いて正・謄本請求をするのか、郵送で請求するのかの意思確認をし、郵送で請求したい意向が示された場合は、郵送請求の手続を説明することとなる。
法定相続人の申出については、請求者権限を有する者は、遺言者が死亡した時点における法定相続人に限られるのか、遺言検索申出時点において当該法定相続人にさらに相続が発生し、第2次、第3次相続人がいた場合にこれらの者も請求者権限を有するのかといった問題がある。
先例は、数次相続人であることが戸籍等で立証できた場合は、遺言者の権利義務を承継していないことが明らかな特段の事情のない限り、遺言検索の申出及び謄本の交付請求に応じるのが相当であるとする。(注1)
(注1)会報2024-6-21。なお、同先例では、特段の事情の不存在の立証を請求者に求めるのは極めて困難であるから、請求者自身が特段の事情(相続の放棄等)の存在を自認しているような場合を除けば、立証を求めることなく請求に応じてよいと考える旨の解説がされている。
(2)受遺者、遺言執行者が請求者となる場合の留意事項
遺言者から包括遺贈又は特定遺贈されたという者(受遺者)や遺言執行者であるという者から遺言検索等の申出があった場合は、申出人が公正証書遺言の正本又は謄本、これらの写しを所持していた場合は、当該資料の内容を確認することで、請求者に該当するか否かを確認することができるが、これら資料を所持していなかった場合は、遺言検索を行い、実際に遺言書の内容を確認してみなければ請求者に該当するかどうかを判断することができないという問題がある。
正本等の公正証書遺言の内容を確認できる資料を持参している場合は、当該資料の提出のほか、遺言者が死亡していることを確認するための除籍謄本、並びに受遺者、遺言執行者本人であることが確認できる運転免許証等の写真付証明書等の提出を求め、本人確認ができれば遺言検索を実行する。
正本等の資料の持参がない場合の対応については、遺言者が公正証書遺言を作成していること、申出人が受遺者又は遺言執行者として記載されていることについて、根拠となっている事実等を申出人から可能な限り聴取し、聴取の結果、公証人として、受遺者、遺言執行者に該当しているものとの確信が持てた場合は、正式な遺言検索申出の請求書を記載してもらい、提出された除籍謄本の情報に基づいて遺言検索する。その結果、公正証書遺言が作成されていれば。遺言の内容を確認し、遺言書が作成されている旨を伝えるとともに、正本・謄本の交付請求の意向について確認することとなる。
遺言検索した結果、公正証書遺言作成の該当がない場合は、「利害関係を確認することができなかった」旨の回答を行うこととする。回答する際に、「受遺者にはなっていない」、「遺言執行者になっていない」旨の回答をした場合、請求権限のない者に対して遺言内容の一部を情報提供したことになってしまうことから、回答には注意を要する。
次に、遺言検索した結果、公正証書遺言を作成していることが確認できたが、当該遺言書が遺言検索した公証役場以外で作成されていた場合は、申出人が遺言書に記載されているかどうかの確認を検索した公証役場で行うことはできないため、遺言書を作成した公証役場において遺言書の内容を確認してもらい、正本・謄本を請求する権限を有するか否かの判断をしてもらうよう説明する必要がある。
この場合、申出人は遺言書を作成した公証役場に正本・謄本請求を行うこととなるが、直接当該公証役場に出向いて請求することのほかに、郵送請求も可能かといった問題がある。
正本・謄本請求の時点では請求権限があるか否か不明であるものの、受遺者又は遺言者として請求し、遺言書の内容を確認した結果、遺言書に当該申出人の記載がされていない場合は、当該請求については、「利害関係を確認することができなかった」として、請求を取り下げてもらう手続が考えられるが、正式に請求書を送付してもらう前に、申し出を受けた公証役場の公証人が遺言書作成公証役場の公証人に電話連絡し、事実上の内容確認を依頼し、記載の有無を確認した上で、記載がされていない場合は、「利害関係を確認することができなかった」旨の回答をする取扱いが最も合理的ではないかと考える。(注1)(注2)(注3)
(注1)公正証書遺言では、受遺者、遺言執行者の記載は、自然人であれば住所、氏名、生年月日を記載し、法人であれば本店所在地、商号等を記載していることから、同一人、同一法人の確認は容易であろうが、住所、生年月日等の記載がなく氏名のみしか記載されていないとか、氏名についても本名ではなくペンネームや芸名で記載されている場合は、同一人であることが確認できる資料の提出を求め、同一人と確認することができれば請求人と認めて差し支えないものと考える。
(注2)「受遺者であると称する者に、要望の趣旨、受遺者であるとする根拠等を質問し、できるだけ正確に事実関係を調査、把握した上で、受遺者である可能性があるとの心証を抱いた場合は、少なくとも遺言検索には応じるのが相当である。なお、受遺者になっていない旨をそのまま伝えると、利害関係者でない者に、当該遺言の内容を一部漏らしたこととなってしまうので、「利害関係を確認できなかった」等、伝え方に工夫が必要である。」(会報H27-5-22、新訂法規委員会協議結果要録231頁)
(注3)「遺言者Xには、配偶者及び子Yがいたが、「自己の有する甲不動産を実子Yに相続させる。自己の有する乙不動産を知人Zに遺贈する。」旨の公正証書遺言(以下「第1遺言」という。)をした。Xは、その2年後、「自己の有する甲及び乙不動産を実子Yに相続させる。」旨の公正証書遺言(以下「第2遺言」という。)をし、その翌年に死亡した。
Zから第2遺言の閲覧請求があった場合、Zは第2遺言によって確定的に受遺者でなくなったとは断定できないことから、Zが第1遺言の受遺者であることを明らかにすれば、第2遺言についても利害関係者であると認められるので、閲覧申請に応ずるのが相当である。(会報H27-5-20)
(3) 遺言者死亡後の遺言者の法定後見人、保佐人、任意後見人は請求できるか。
遺言者が生存中は、遺言者の法定後見人、任意後見人は請求者になれないことは前記1の(3)のとおりであるが、先例は、遺言者が死亡した後についても、これらの者は原則として、請求者になることについて消極であるとする。(注1)(注2)
しかしながら、実際問題として、法定後見人が被後見人の財産の清算をする際、遺言の有無が大きく影響することとなることから、一律、遺言検索、正本・謄本の請求を認めないことは問題である。
清算手続等で遺言内容の確認が必要である旨の申し出があれば、請求者と認めて差し支えないものと考える。(注2のなお書)(注3)
なお、法定後見人や任意後見人からの請求を認める場合は、必要資料として、法定後見人に選任されたことが証明できる裁判所の決定書等の原本、任意後見人の場合は任意後見登記の登記事項証明書の原本の提出が必要である。(注4)
(注1)「法定後見人であることから直ちに法律上の利害関係があるということはできないが、法律上の利害関係が存在することを証明したときは、謄本の請求を認める。」(会報H24-5-25)
(注2)「成年被後見人が死亡した時点以降、成年後見人は、被後見人のした遺言公正証書の閲覧の請求をすることについては、原則的には、法律上の利害関係を有しないと解されるので、その閲覧の請求に応じるべきでないとする考え方が大方の一致するところであった。なお、個々の事案によっては、後見の計算なり管理財産の引継ぎなりをなすべき相手方を知り、又は確認するために、その閲覧をするにつき、法律上の利害関係を有する余地があるとする考え方もあった。」
(注3)「任意後見契約において遺言検索についての具体的な代理権の付与がない場合であっても、遺言者の死亡後においては、任意後見人は、後見の終了により、その財産管理の計算、引継ぎ等をしなければならないので、そのような義務の存在を踏まえ、具体的な法律上の利害関係を証明した場合(民法646条及び654条により任務違反の責任が問われる事情等の存在など)には、任意後見人(であった者)からの遺言公正証書原本の閲覧請求や謄本の交付請求は認められるものと考える。」(会報H24-10-30)
(注4)任意後見契約公正証書の正本の提出では、当該契約が解除されている可能性があり、請求時に契約が有効であることを確認するためには、登記事項証明書の提出を求めるべきである。
(4)遺言者死亡後の遺言者の債権者等の利害関係人は請求できるか。
遺言者に対して債権を有していた債権者が遺言者死亡後、法律上の利害関係人として遺言検索、正本・謄本請求することができるかであるが、先例は、債権者の地位にあるだけでは請求者とは認められず、少なくとも遺言者が死亡する前に、債務名義を取得していなければならないとする。(注1)
なお、遺言者の債権者等の利害関係人からの請求を認める場合は、必要資料として、債務名義の存在を証明することができる資料として、裁判所の勝訴判決及び確定証明書の原本等の提出が必要である。
(注1)「単に遺言者の債権者であるというだけでは公証人法44条1項、51条1項の法律上の利害関係を有するとはいえない。とする点については異論はなかった。問題は、既に債務名義を取得している債権者で、これについては、積極・消極の両説に分かれた。執行に着手した後に債務者が死亡した場合については積極説が多数であった。」(会報H9-2-30、公証121号213頁、会報2019-12-35)
(5)相続人の成年後見人、保佐人、任意後見人は請求できるか。
遺言者が死亡した後は、法定相続人であれば請求者になることができるが、法定相続人が認知症等を原因として判断能力がなくなり、当該法定相続人の法定後見人が選任され、又は任意後見契約の効力が発生した場合、当該法定相続人の法定後見人、任意後見人が請求者になることができるかという問題である。
この場合については、先例はいずれも請求者として認められるとする。(注1)(注2)(注3)
なお、法定相続人の法定後見人や任意後見人からの請求を認める場合は、必要資料として、法定後見人に選任されたことが証明できる裁判所の決定書等の原本、任意後見人の場合は任意後見登記の登記事項証明書の原本の提出が必要である。
(注1)「成年後見人は、成年被後見人の法定代理人であり、後見事務として、成年被後見人の財産の調査、管理を行い、その財産に関する法律行為について成年被後見人を代表する者である(民法853条1項、859条)。したがって、成年被後見人が遺言者の承継人である場合、成年後見人は、成年被後見人の法定代理人として、遺言検索等をすることができる。」(会報2023-6-35)
(注2)「保佐人は、被保佐人の代理人として、被保佐人の被相続人の遺言公正証書について、遺言検索の申出及び謄本の交付請求をする権限を有しているから(家庭裁判所の審判で付与された権限は①相続の承認又は放棄、②贈与又は遺贈の受諾、③遺産分割又は単独相続に関する諸手続、④遺留分侵害額請求に関する諸手続、⑤これらの各事務に関連する一切の事項であり、⑤により遺言検索の申出等の権限が付与されていると解される。)、保佐人からの遺言検索の申出及び謄本の交付請求に応じることができる。」(会報2024-6-19)
(注3)「任意後見人は、任意後見契約で定められた財産の管理に関する事務を後見事務として委託を受け、それについて代理権を付与された者である。任意後見人の代理権目録中の「不動産、動産等全ての財産の保存、管理及び処分に関する事項」の対象となる財産に相続財産も含まれ、被相続人である遺言者の遺言検索等は上記代理事項中の任意被後見人の財産に係る保存若しくは管理行為又はそれに付随する行為に当たると解することができるので、任意後見人も、任意被後見人の任意代理人として、それらの行為をすることができると解される。なお、反対意見もあり得ることを考慮すると、代理権目録に、「委任者の被相続人の遺言の検索申立て、遺言公正証書の原本閲覧請求、謄本交付請求に関する事項」という代理事項を定めておくのが相当である。」(会報2023-6-35)
(6)相続人の相続財産管理人、相続財産清算人は請求できるか。
遺言者が死亡した後の相続人の相続財産管理人や相続財産清算人は、請求者になることができる。(注1)(注2)(注3)
なお、相続財産管理人や相続財産清算人からの請求を認める場合は、必要資料として、相続財産管理人、相続財産清算人に選任されたことが証明できる裁判所の決定書等の原本の提出が必要である。
(注1)「相続財産管理人は、遺言検索システムによる遺言公正証書の検索を求めること並びに公正証書謄本の交付を求めることができる。相続財産の清算人についても、同様の取扱いとするのが相当である。平成20年7月4日法規委員会協議結果(公証155号242頁)は、変更するのが相当である。」(公証199号250頁、会報2022-10-37)
(注2)「後見開始の審判前の保全処分による財産管理者に選任された弁護士から、成年被後見人となる者の亡夫の遺言公正証書について遺言検索等の請求があった場合、その者について、家事事件手続法126条2項の後見命令が発せられていれば遺言検索等をすることができる。」(会報2023-6-34)
(注3)「後見命令が発せられていない財産管理者については、財産保全のための管理行為を超えて探索的な財産調査には及ばないとするのが相当である。したがって、この財産管理者は、遺言検索等をすることができる利害関係人に当たらない。(多数意見)」(会報2023-6-34)
3 司法警察員、国税局職員等からの遺言検索、閲覧、謄本請求があった場合の留意事項
司法警察員から、刑事訴訟法197条2項に基づく遺言の存否及び内容に関する照会があった場合の対応については、従前、公証人法4条及び44条4項の規定を根拠に、検察官を経由してされない限り応じることはできない旨の対応をしてきたところであるが、平成27年10月15日付け日本公証人連合会理事長通知により、その取扱いが改められ、当該照会に当たっては、原則として応じるのが相当であるとされた。(注1)
反対先例(注2)もあるが、平成27年通知に従うべきである。(注3)
なお、「検察官ハ何時ニテモ証書ノ原本ノ閲覧ヲ請求スルコトヲ得」とする公証人法44条4項の規定は、令和5年法律第53号「民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(以下「改正公証人法」という。)により削除されているので、改正公証人法施行後は、検察官経由の根拠法自体がなくなっていることから、平成27年通知の取扱いによらなければならないこととなる。(注4)
税務署長からの照会に対しても、司法警察員に準じて対応することとなる。(注5)(注6)
問題は回答方法であるが、遺言者や相続人等からの請求に対しては謄本の内容を一部の範囲に限って作成して交付することはできないが(後記4の注3参照)、司法警察等からの照会に対しては、守秘義務との関係もあり、必要最小限の範囲に限定し、内容の一部について回答することになる。(注7)
したがって、回答については、遺言書の正本・謄本をそのまま交付するのでなく、文書回答の方法によることとなるが、照会部分に限定して回答するためには、照会内容について、できる限り範囲を限定し、かつ具体的な内容にしてもらう必要がある。
市町村等からの申入れについては応じることができないが、先例は、閲覧等について法律的根拠があれば、必要最小限の範囲に限定して応じて差し支えないとするのが多数意見である。(注8)
(注1)「刑事訴訟法197条2項に基づく遺言の存否及び内容に関する捜査関係事項照会に対する回答については、原則として応じるのが相当である。ただし、回答に当たっては、捜査の必要性と回答内容とを勘案し、必要最小限の範囲で回答すべきである。」(平成27年10月15日付け日本公証人連合会理事長通知「司法警察員からされる遺言公正証書の存否等に関する捜査関係事項照会(刑事訴訟法197条2項[遺言検索システムに基づくもの])への対応について」)
(注2)「公証人法第4条の守秘義務の規定及び同法第44条第1項、第4項という現行法の規定を前提とする限り、捜査上の必要性がある場合であっても、警察署からの遺言公正証書の閲覧請求はできないと解するのが相当で、公証人は、これに応じるべきではなく、捜査機関としては、令状を得てその差押えをするか、又は検察官を経由してその目的を達するべきであるというのが、多数の意見であった。」(会報H29-5-34)
(注3)令和7年2月6日付け日本公証人連合会総括理事事務連絡参照
(注4)民事月報「公正証書に係る一連の手続のデジタル化~令和5年改正公証人法の解説~」によれば、廃止理由について、「旧公証人法においては、検察官がいつでも公正証書の閲覧を請求することができる旨の規定が設けられていた(「旧公証人法第44条第4項」)。しなしながら、検察官は、捜査のために公正証書の閲覧が必要なときは、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第197条第2項又は第218条第1項に基づき、公証人への照会や公正証書の差押えを行うことが可能である。また、公益の代表者としての事務の遂行のために公正証書の閲覧が必要なときは、旧公証人法第44条第1項に基づき、利害関係者として閲覧を請求することが可能である(改正法による改正後も、新公証人法第42条第1項に基づき、利害関係者として閲覧を請求することが可能である。)。このように、検察官による公正証書の閲覧に関しては、別途の規定が整備されており、公証実務も、旧公証人法第44条第4項を根拠とした閲覧請求が行われた実例はなく、死文化した状況にあった。そこで、新公証人法では、旧公証人法第44条第4項に係る規律を廃止している」と解説されている。
(注5)「税務署長から、国税通則法74条の12第6項に基づく特定の個人に関する遺言公正証書の有無の回答とその複写の送付依頼があった場合、照会書の記載及び担当者への問い合わせ等から、具体的な必要性を認めることができれば、これを勘案した最小限度の範囲で、遺言公正証書の有無及び内容の回答を行うのが相当である。(公証184号178頁)
(注6)「国税通則法74条の12第1項は、公証人法4条の「別段の定め」に当たるが、本問の国税局職員は、公正証書の閲覧・謄本交付請求ができる法律上の利害関係人には当たらないから、同請求に応じることはできず、国税通則法74条の12第1項に基づく請求への対応としては、国税局職員から具体的な必要性について聴取し、これを認めることができれば、これを勘案した最小限の範囲で、当該公正証書の有無及び内容の回答を行うのが相当である。」(公証198号108頁、会報H29-9-23。債務承認弁済公正証書の閲覧等について会報2022-5-32)
(注7)回答方法については、前記の平成27年10月15日付け日本公証人連合会理事長通知を参照されたい。
(注8)空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく対策実施のため、所有者特定の必要から、A市長から遺言検索の申立て及び公正証書謄本の交付請求があったとしても、いずれも応じることはできない。なお、本特措法10条3項に基づき、遺言公正証書の存否及びその内容について情報提供の申出がされた場合には、公証人法4条の「法律ニ別段ノ定アル場合」に該当するので、遺言公正証書が存在すること及び本件家屋に関する遺言事項の内容を回答する対応を行うという意見が多数であった。」(会報2022-2-14)
4 撤回した遺言の謄本請求があった場合又は遺言の一部の謄本請求があった場合の留意事項
公正証書遺言を撤回した場合、撤回された遺言は無効になるが、無効となった当該遺言について、謄本請求や閲覧請求がされた場合、これに応じてよいかという問題がある。先例は、応じて差し支えないとする。(注1)(注2)
また、公正証書遺言について、利害関係がある部分に限定して謄本交付や閲覧があった場合に、これに応じて差し支えないかという問題があるが、これについては、先例は一部の謄本請求や閲覧請求には応じることはできないとする。(注3)
したがって、請求権限があることを確認することができれば、遺言の全部について謄本交付、閲覧に応じることとなる。
(注1)「撤回された遺言は無効なものであり法的に存在しないものとして取り扱うべきものであるとするA説と、閲覧を拒むことができる旨の規定がないので、閲覧請求を拒むことができず、これを認めるのが相当であるとするB説があるが、B説が多数説。」(会報H24-3-29)
(注2)「法律行為の無効又は法律行為の取消若しくは変更により、その全部又は一部が無効とみられる証書についても、謄本の交付請求があれば、これに応じて差し支えない。」(昭和45年6月15日民事甲2733民事局長回答(公証事務先例集968頁)、会報H26-9-24)
(注3)「公証人法には、適法な利害関係者による公正証書の全部の閲覧請求及び謄本の交付請求に対し、公正証書の一部しか閲覧させなかったり、抄本しか交付しないことを許容する規定はなく、公正証書の閲覧請求及び謄本の交付請求に関する規定ぶりに照らし、いずれも許容していないと解さざるを得ない(多数意見)。」(会報H28-5-44)
第2 遺言検索及び正・謄本請求手続の流れ
1 遺言検索の手続に係る留意事項
遺言検索は、請求者が公証役場に直接出頭した場合しか認められない。
電話、郵送、メールによる申出は認められない。その理由は、遺言検索は、法律上の権利ではなく、公証人のサービスと位置付けられていること、全国どこの公証役場でも申出可能であり、出頭を要求しても過剰な負担を求めることにはならないといったことが理由として考えられる。ただし、将来においては、Web会議システムを利用して本人確認を行うといった方法により、出頭要件が緩和されることは十分に考えられる。
遺言検索は、所定の請求書に請求者の住所氏名、遺言者の生年月日、死亡年月日、遺言者との関係等を記載して請求することになるが、請求書のほか、請求者の本人確認、請求権限を有することを証明する資料の提示又は添付をしなければならない。(注1)
遺言者本人が請求する場合は、本人確認資料として、写真付証明書として運転免許証又は個人番号カード等を提示してもらい、これら写真付証明書がない場合は、請求書に請求者の実印を押印し、印鑑証明書(3か月以内)を提出しなければならない。(注1)
なお、遺言者本人について、遺言書作成時の住所、氏名に変更がある場合は、住所が変更されたことが確認できる住民票又は戸籍の附票、氏名変更が確認できる戸籍謄本の提出を求めることになる。
法定相続人が請求する場合は、前記の本人確認資料のほかに、①遺言者の死亡事項が記載された除籍謄本、②遺言者と請求者との関係がわかる戸籍謄本(①の除籍謄本に請求者が記載されている場合は①だけで足りる。)が必要になる。
受遺者が請求する場合や法定相続人以外の者が遺言執行者に指定され、この者が請求する場合は、前記の本人確認資料のほかに、住民票が必要であり、遺言書記載の住所と異なる場合は、つながりがわかる住民票又は戸籍の附票の提出が必要になる。
法定後見人、任意後見人、相続財産管理人等が請求する場合は、除籍謄本のほかに、法定相続人の任意後見人等であることが証明できる裁判所の決定書、審判書、公正証書正本等の提出が必要になる。
なお、代理人が請求する場合には委任状の添付が必要となるが、委任状様式については、前記第1の1の(2)のとおりである。
遺言検索の具体的な手順は、「遺言情報管理システム実施要領」(令和4年5月21日定時総会決議)、「遺言情報管理システム実施要領細則について」(令和4年6月22日会長通知)及びマニュアルに従い検索を実行し、その結果を請求者に交付する。
(注1)遺言検索申請書の押印の取扱いについては、本人確認書類として、印鑑登録証明書を提出する場合は実印の押印が必要であるが、運転免許証又は個人番号カードを提示する場合は、押印の廃止が可能とする取扱いが、2022年(令和4年)1月1日から実施されている。(令和3年11月24日付け日本公証人連合会総括理事通知「嘱託人作成文書の押印の廃止について」)
2 正・謄本の交付手続に係る留意事項
正・謄本の交付請求は、請求者が、遺言公正証書を作成した公証役場へ直接出向いて請求することも可能であり、郵送で請求することも可能である。(注1)
現時点では、メールによる請求は認められていない。
遺言公正証書を作成した公証役場に直接出向いて請求する方法は前記1の遺言検索の請求方法と同様である。遺言検索した後に、引き続き正・謄本請求を行う場合は、所定の正・謄本請求書を提出してもらうだけでよい。なお、請求者の押印の取扱いについては注2参照のこと。
遺言検索した結果,検索した公証役場ではない、ほかの公証役場で作成していることが判明した場合は、請求者に対して、直接当該公証役場に出向いて請求するか、郵送により請求するかを確認し、郵送請求を選択した場合は、郵送請求方法を説明することになる。
郵送請求は、所定の請求書に、請求者の住所、氏名等を記載して請求することとなるが、請求者の押印の取扱いについては、下記注2参照のこと。(注2)
郵送請求の手順は、以下のとおりである。
① 請求書、遺言検索結果の写し、添付資料(除籍謄本、印鑑証明書等)及び返信用レターパックの送信
② 請求された公証役場において公正証書遺言の原本を確認し、手数料及び振込口座を請求者に連絡する。
③ 手数料振込の確認ができた後、謄本等を請求者に送信する。
(注1)正本又は謄本請求については郵送による請求が認められるが、その取扱いは、2022年1月1日から開始したものであり、それまでの郵送請求を認めないとする取扱いを改めたものである。(令和3年11月24日日本公証人連合会総括理事通知、同年11月8日同連合会会長照会、同年11月18日法務省民事局長回答)
(注2)正・謄本の交付請求書の押印の取扱いについは以下のとおりである。
ア 申請人が直接公証役場に出向いた場合は、本人確認書類として、印鑑登録証明書を提出する場合は実印の押印が必要であるが、運転免許証又は個人番号カードを提示する場合は、押印の廃止が可能とする取扱いが、2022年(令和4年)1月1日から実施されている。(令和3年11月24日付け日本公証人連合会総括理事通知「嘱託人作成文書の押印の廃止について」)
イ 郵送で請求する場合は、本人確認書類として印鑑登録証明書を提出する場合は、請求書には実印を押印する必要があるが、本人確認書類として、運転免許証又は個人番号カード等の写真付身分証明書の写しを同封し、かつテレビ電話による本人確認(定款認証で利用するWeb会議システムを利用して写真付身分証明書の画面提示と記録(キャプチャ))を行った場合は、請求書への押印は不要である。
(津・津合同役場公証人 安田錦治郎)