民事法情報研究会だよりNo.12(平成27年6月)

入梅の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。 さて、過日ご案内いたしました本月20日開催の定時会員総会では、役員の任期満了に伴う改選が行われます。法人設立以後2年が経ちましたが、なお事業目的に沿った活動の充実を図るべく模索中であり、先般開催された通常理事会において、今回は役員を全員重任させる提案をすることとしたところです。 また、今後も引き続きセミナーの年2回開催を維持し、時宜にあった研究テーマを採りあげるとともに、その際の懇親会を会員が親しく交流する機会としていきたいと考えております。(NN)

いまは昔(副会長 樋口忠美) 1 平成の時代になってすでに27年、四半世紀を超え、平成生まれの人が世の中で大勢活躍する時代となり、明治時代、大正時代、昭和時代と肩を並べる「平成」という一つの時代を形づくってきております。私が人生の大半を過ごしてきた「昭和」という時代は遥か彼方の遠くに行ってしまい、懐かしいと思っても見ることができるのは懐メロか古い映画の世界となってしまいました。 ところで、この「昭和」というような元号を使用するという制度は、今では世界でも珍しい制度だと言われており、若い人などは西暦表示のほうが分かりやすいという人もいます。しかし、歴史小説や時代小説が好きな私にとっては、昭和にかぎらず明治、大正もその元号を聞いただけでその時代の特徴や背景が浮かんできますので、大変便利でいい制度だと思っていますが、会員の皆様は如何でしょうか。 2 私は、民事局が所管する強制執行法の改正法案(民事執行法案)を国会に提出する手伝いをするということで出向した内閣法制局で、この元号を定める方法についての法律案ができるまでの作業を垣間見る機会がありました。 昭和53年1月ころ、内閣法制局では民事執行法案を国会に提出するための事前審査が始まり、国会提出の期限もあることから土・日もなく連日連夜の深夜勤務といった今では考えられないようなハードな勤務の中で、喧々諤々の議論がされていました。 ところがその傍らの隣のテーブルでは、静かに、そしてひっそりと事前審査が続けられている法案がありました。それが昭和天皇が崩御された後、小渕官房長官がテレビで掲げて見せた「平成」という元号を定めることができるようにした「元号法案」です。「昭和」までの元号は皇室典範により定められていましたが、憲法改正の際にその根拠が削除されてしまい、「昭和」が終わったときには元号をどうするのかという議論が起きていました。ただ「昭和が終わったとき」ということは、昭和天皇が崩御されるということであり、あまり大きな声で議論できることではありません。とはいっても、国の大きな制度であり、そのときがくるまで放置しておくということができるものでもないので、慎重の上にも慎重に検討をして結論を出す必要があり、さらには国会でも十分に時間をかけて審議する必要があるものですから、ひっそりと、しかしながら十分に時間をかけて元号の制度や必要性、諸外国の制度や歴史、元号の定め方、国民への周知方法などについて慎重に事前審査が行われているのを横目で見ていました。法案自体は元号の定め方を定めるだけのもの(「元号は、政令で定める。」)で極めてシンプルであり、法案本文は2項目、文字数にしてわずか29文字、そのほかに附則が2項目です。 3 昭和54年4月に民事局に戻していただき、香川民事局長の下で法規係長(国会担当)を命ぜられ、毎日を忙しく過ごしておりましたところ、内閣法制局で横目で見ていた「元号法案」が国会に提出されたのです。この法案自体は、民事局と直接的に関係があるものではありませんが、国の業務の中で最も多く元号を使用しているのは民事局が所管する登記、戸籍の業務であるということで、元号法案に反対する野党は、登記、戸籍業務で元号を使用することを止めさせ、「西暦を使用する」という答弁があれば元号法案は不要ということにもなると考えたのか、民事局長をほとんど毎日国会に呼び出し、同じような質問を繰り返し行いました。香川民事局長は、「国民が元号を使用するか否かは国民自身が決めることであるが、登記、戸籍の業務は国の業務であり、国が管理する帳簿には国が定めた元号で記載する」と一貫して答弁されていました。この法案が提出された当時の国会情勢は、与党が多数で法案は採決すればすぐにでも成立するというような状況であったものの、元号法案は天皇陛下にかかわるものということもあってか、強行採決はしないという方針があったようで、野党が質問することがなくなった時点で採決されて成立し、昭和54年6月12日公布されました。多分、こんなに短い条文をこんなに長い時間かけて審議した例はほかになく、この法律の1文字当たりの国会審議時間の記録は歴代1位だろうと思います。 4 昭和天皇が崩御されたのは、この法律が制定されて10年近く経った昭和64年1月7日で、そのころは長崎局で会計課長をしていました。テレビなどで昭和天皇の容態の悪化が連日報道されていましたので、会計課長としては「昭和」が終わったときの準備(例えば、登記事務などの処理に必要な新年号のゴム印、印判などの発注)もしておく必要があり、業者を呼んで「当局は離島が多く発送しても到着まで時間がかかるので、新しい年号が発表されたら最優先で納入してもらいたい。」というような依頼をしたことを思い出します。 そして、昭和天皇崩御の報道があり、その後小渕官房長官が掲げた「平成」と書いたボードをテレビで見たときに、太平洋戦争、満州からの引揚げ、貧しい戦後、東京オリンピック、右肩上がりの経済成長とバブルの崩壊のきざしなどがあった激動の昭和が終わったことを実感し、涙が止まりませんでした。

 

実 務 の 広 場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

 No.11 東京電力株式会社の財物補償における公正証書の作成

平成23年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所における事故(以下「原発事故」という。)に伴う損害賠償については、精神的、物的その他様々な面での補償がなされています。 それらの一環として、相続登記未了の土地・建物(以下「対象物件」という。)について、公正証書を作成することにより、速やかな損害賠償を図ること(以下「本件損害賠償」という。)については、日本公証人連合会から参考文例等(別紙資料参照)が通知されているところ、この公正証書作成の依頼が多く見込まれる福島県公証人会として、実務上の取扱いの統一を図るとともに、東京電力株式会社(以下「東電」という。)の本社担当者及び現地事務所担当者との協議に基づき、県内の各公証役場で公正証書の作成に当たっております。 いまだに原発事故による帰還困難及び自主避難の住民約11,000人が県内外(47都道府県に及ぶ。)に避難しており、今後、原発事故の収束作業の進捗状況や放射線の除染状況により、将来を見極めた上、福島県内のみならず避難先の他県においても、この公正証書作成に関する相談等が見込まれます。 そこで、相続登記未了の土地・建物に係る「損害賠償金支払契約公正証書」(以下「本件公正証書」という。)の相談等に資するため、改めてその手続等について、以下に述べます。

Ⅰ 本件損害賠償における対象物件等 1 対象物件 原発事故に伴う避難指示区域内において、その事故により損害を受けた土地・建物のうち、事故前に相続で取得したが、相続登記を行っていなかったもの。 2 損害賠償 避難指示期間における対象物件の財産的価値が喪失又は減少することに対する賠償金の支払い。 3 請求者 対象物件の相続人らの一人が、他の相続人からの同意書で損害賠償請求権を有していることを明らかにすることができないにもかかわらず、条件を付して損害賠償請求をする。

Ⅱ 東電における手続 1 本件損害賠償に関する説明 原発事故に伴う損害賠償の相談において、その一環として本件損害賠償があることを説明し、これを希望するかどうか確認する。 2 請求者等の確認 対象物件の相続人全員を戸籍謄本等により確認し、請求者がその相続人の一人で、他の相続人から損害賠償の請求がなく、相続人間で争いのおそれがないことを確認し、これに反する場合は、支払われた賠償金の全額を東電に返還することについて請求者の理解を得る。 本件損害賠償に係る契約書は、公正証書で作成し、上記返還に応じない場合は、強制執行に応ずる旨を確認する。 以上について東電と請求者間で確認書を取り交わす。 3 覚書の締結 本件損害賠償の賠償金額が確定した後、東電と請求者間で以下の内容の覚書(契約書案を添付)を締結する。 (1)賠償金の支払いに関し、契約書を公正証書により作成し、強制執行認諾文言を付すこと。 (2)公正証書が作成された後、同証書に定めた支払期日に賠償金を支払うこと。 (3)公正証書作成のため、相互に必要な措置をとること。

Ⅲ 本件公正証書の作成 1 事前相談 東電担当者から本件公正証書作成について事前の相談を受け、必要書類 等について確認の上、上記覚書の写しと共に事前に提出させる。 2 必要書類 (1)対象物件に関するもの 登記事項証明書、未登記の場合は、固定資産評価証明書 (2)請求者に関するもの ① 対象物件の被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本 ② 対象物件の相続人である請求者を含めた相続人全員の確定に必要な戸籍謄本 ③ 印鑑登録証明書 (3)東電に関するもの ① 東電の登記事項証明書及び代表者の印鑑証明書 ② 上記代表者から本件公正証書作成の代理人(東電社員)に対する委任状 ③ 代理人の運転免許証及び東電社員証(顔写真付)の写し 3 証書作成 (1)請求者への説明 公正証書の読み聞かせに当たり、請求者に対し、改めて場合によっては賠償金の返還義務が生じ、これに応じない場合は、強制執行がなされることを説明するとともに、請求者がこのことを納得の上、公正証書を作成することを確認する。 (2)本旨外要件の記載 ① 請求者の住所 請求者のほとんどは、住所を移転しているにもかかわらず、住民票はそのままにして避難先に居住しており、必要に応じて「居住証明書」又は「届出避難場所証明書」が発行される。 強制執行のための特別送達を考慮して、印鑑登録証明書上の住所と上記証明書上の居住地を併記することも考えられるが、請求者が併記を希望しない限り、印鑑登録証明書上の住所の記載で足りるものとした。 ② 東電代表者の住所等 法人代表者が自社社員を代理人として公正証書を作成する場合の取扱いにより、東電代表者の住所及び生年月日については、記載を要しな いものとした。 ③ 代理人の住所 東電社員である代理人の住所は、東電社員証により社員であることを確認の上、東電の本店所在地と同所として記載することとした。

(別紙) 平成○○年第○○号 損害賠償金支払等契約公正証書 本職は、当事者の嘱託により、以下の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。 第1条 ○○○○(以下「甲」という。)と東京電力株式会社(以下「乙」という。)は、平成23年3月11日に発生した、福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の事故による、末尾記載の物件(以下「本件物件」という。)にかかる避難指示期間中の財物的価値の喪失又は減少による損害に対する賠償金 (以下「本件賠償金」という。)の支払に関し、次条以下のとおり合意する。 第2条 甲は、乙に対し、甲以外に乙に対して本件賠償金の支払いを請求する者はいないことを確約する。 2.本公正証書締結後に、甲以外の者が乙に対して、本件賠償金請求権の全部又は一部が甲ではなく自らに帰属することを理由として異議を申し立てた場合、甲の責任においてその異議に対応し、乙はこれに一切関与しない。 第3条 乙は、甲に対し、本件賠償金として、金○○○○○○○円を平成○○年○月○日までに甲の指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払う。振り込み手数料は、乙の負担とする。 第4条 第2条の定めにもかかわらず、乙が前条の支払をする前に、甲以外の者が乙に対して、第2条第2項に定める異議を申し立てた場合には、 乙は、当該異議申立がなされた日から起算して1ヶ月を限度として、前条の支払を留保することができる。 その場合、甲は、乙に対し、前条の金員について当該留保期間中に発生する遅延損害金の支払義務を免除する。 2.第3条の支払期日(第4条第1項により支払が留保された場合は、その留保期間)が経過するまでの間に、 甲以外の者が乙に対して、本件賠償金請求権の全部又は一部が甲ではなく自らに帰属することを理由として、その支払に関する訴えの提起、調停等の申立、その他の書面による請求行為(請求の根拠を明示し、具体的金員の支払いを求めるものに限る。)をした場合であって、乙が甲に対して当該請求行為があった旨を通知したときは、第1条及び第3条に基づく金員支払の合意は遡ってその効力を失い、乙の同条に基づく支払義務は生じなかったものとする。 第5条 第2条の定めにもかかわらず、乙が第3条の支払をした後に、甲以外の者が乙に対して、前条第2項に定める請求行為をした場合であって、 乙が甲に対して支払済みの本件賠償金の返還を、書面により請求したときは、第1条及び第3条に基づく金員の支払の合意は遡ってその効力を失い、乙の同条に基づく支払義務は生じなかったものとする。その場合、甲は、乙に対し、第3条により既に受領した金員の返還として、 金○○○○○○○円を一括して、乙が上記書面において指定する期日までに乙の指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払う。その場合の振り込み手数料は、甲の負担とする。 なお、乙は、甲に対し、乙が第3条により支払った金員について当該指定返還期日までに発生する利息又は遅延損害金の支払義務を免除する。 第6条 本契約締結にあたり、公証人に支払う所要の費用については、乙の負担とする。 第7条 甲及び乙は、第3条又は第5条の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。 (物件の表示) 資産の種類      宅地 ・ 建物 所在および地番 地目/種類および構造 築年(建物のみ) 地積/床面積

(本間 透)

No.12 定款雑考(非公開会社における属人的種類株式の定め、監査役設置会社と監査役の監査権限、会社成立後の資本金及び資本準備金)

これまで、公証人として数多くの定款を認証してきたが、定款認証の可否に影響するものではないものの、いささか気になる定款の条文に出会うことがあったので、そのいくつかを取り上げ、私見を述べることとする。

1 公開会社でない株式会社における属人的種類株式の定め ⑴ 株主平等の原則と種類株式 会社法制定前の商法の下では、法律に株主平等の原則の明文の規定はなかったものの、一株一議決権の定めが株式会社における基本的な原則の一つとして考えられており、株主は、その所有する株式数に応じて平等の取扱いを受けることとされていた。例えば、一株一議決権の定め(旧商法241条1項)、株主の所有株式数に応じた新株引受権の定め(同法280条ノ4第1項)、株主の新株予約権の引受権の定め(同法280条ノ25第1項)、所有株式数に応じた配当(同法293条)、所有株式数に応じた残余財産の分配(同法425条)等である。そして、その例外として、定款をもって内容の異なる数種の株式及びその数を定めて種類株式を発行することができる制度が設けられていた(同法222条)が、当然のことながら、数種の株式のうち同一内容の株式の株主については、同一の取扱いが求められていた。 また、会社更生手続の上でも、株主に一株一議決権を定め(会社更生法166条1項)、更生計画案の策定においても株主平等の原則を念頭に置いて関係者集会が行われ、意見が述べられている。 会社法においては、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」として株主平等の原則を明定しており(会社法109条1項)、旧商法と同様に、一株一議決権(会社法308条1項)、株式無償割当て(同法186条2項)、募集株式の株主割当て(同法202条2項)、新株予約権無償割当て(同法278条2項)、剰余金の配当(同法454条3項)、残余財産の分配(同法504条3項)等について定めている。ただし、会社法の下でも、内容の異なる二以上の種類の株式について多様化した形で次の事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めて、これを発行することができることとされている(会社法108条1項、2項各号)。すなわち、①剰余金の配当、②残余財産の分配、③株主総会において議決権を行使することができる事項、④譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること、⑤当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること、⑥当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること、⑦当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること、⑧株主総会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの、⑨当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することであり、これらの内容及び発行可能種類株式総数並びにその種類及び種類ごとの発行済株式の総数は登記事項とされている(会社法911条3項7号、9号)。 ⑵ 公開会社でない株式会社における属人的種類株式の定め 上記の種類株式の制度は、株式会社が発行する株式の内容について異なる二以上の種類を設けることができる制度であるのに対して、会社法においては、公開会社でない株式会社は、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利及び③株主総会における議決権について、属人的に株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができるとしている(会社法109条2項、105条1項各号)。ただし、株主に前記①及び②に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない(会社法105条2項)。 そして、原始定款に属人的種類株式の定めを設ける場合を除き、株式会社の成立後に定款を変更して属人的種類株式の定めを設け、又はこれを変更する株主総会の決議(当該定款の定めを廃止する場合を除く。)は、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数による特別決議によらなければならないと定めている(会社法309条4項)。この決議要件は、旧有限会社法における定款変更の社員総会決議要件と同じである。 この属人的種類株式の定めは、「公開会社でない株式会社においては、株主の異動が乏しく、株主相互間の関係が緊密であることが通常であることから株主に着目して異なる取扱いを認めるニーズがあるとともに、認めることにより特段の不都合が生じることは無いと考えられるためこれを認めることとしたものであ」り、旧有限会社法において、有限会社の組織が小規模で閉鎖的なものであり、定款の定めにより各社員について異なる取扱いをすることが認められると解釈されていた(旧有限会社法39条1項ただし書、44条、73条参照)ことから、株式の譲渡制限の定めを置く公開会社でない株式会社についても、同様に取り扱うことが相当であるとし、これを明確にして会社法に引き継いだものと説明されている(江頭憲治郎「株式会社法」127頁、相澤哲「一問一答新・会社法」60頁)。 ⑶ 登記事項とされていない属人的種類株式の定め しかし、会社法の施行に伴い、旧有限会社が特例有限会社に移行するに当たり、当該旧有限会社の定款に、旧有限会社法39条1項ただし書(議決権を行使することができる事項)、44条(利益の配当)又は73条(残余財産の分配)に規定する別段の定めがある場合には、それぞれ会社法108条1項3号、同項1号又は同項2号に定める規定に掲げる事項についての定めがある種類の株式とみなされ(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という。)10条)、当該特例有限会社は、整備法施行日から6月以内にその旨の登記をすることが義務づけられ(整備法42条8項)、その登記懈怠については、過料に処せられることとされた(整備法42条10項)。これに対して、会社法109条2項に定める属人的種類株式の定めは、第7編の規定の適用がない(会社法109条3項参照)から、登記されることはないこととされた(江頭憲治郎「株式会社法」158頁)。このことは、前述のように、公開会社でない株式会社については、属人的種類株式の定めが登記事項とされていないのに対して、特例有限会社については種類株式とみなされた上で、その登記が義務づけられることと比較すると、整合性に欠けるのではないかと考える次第である。 おそらく、登記事項にしないこととされたのは、旧有限会社法の時代に、属人的種類株式の登記実例がほとんど存在しなかったこと、また、この定めが利用されるのは組織が極めて小規模で閉鎖的な会社であることを考えると定款の定めで十分であり、登記して公示させる必要は薄いとされたことによるものと推測される。 いずれにしても、登記事項ではないものの定款に記載することはできるが、属人的種類株式に係る具体的な定款の記載方法としては、次のような例が考えられる。 「剰余金の配当は、各株主の持ち株数にかかわらず、全株主同額とする」、 「株主Aに対する剰余金の配当は、金○○万円を上限とする」、 「株主Aに対する剰余金の配当は、1株当たり他の株主に対する配当金の2倍とする」、 「残余財産の分配は、各株主の持ち株数にかかわらず、全株主同額とする」、 「株主の議決権は、その持ち株数にかかわらず1人1議決権とする」、 「株主Aが所有する株式のうち1株について、総議決権数の過半数の議決権を与える」、 「株主Aが所有する株式については、1株につき2個の議決権を与える」、 「株主Aは、議決権を行使することができない」等が考えられる。 ちなみに、筆者が公証役場において認証した定款のうち属人的種類株式の定めが設けられていた事例及び公証人の検討会で取り上げた事例は、2例であった。 属人的種類株式は、同じ株式を有しながら、株式の移転により株主が替わった途端にその権利内容が変化することに他ならず、私見ではあるが、旧有限会社における社員の持分権の論理が株式会社における株主権についてそのまま妥当するのか疑義なしとしない。しかし、当然のことながら、会社法がこれを許容している以上、認証実務もこれに従うべきであることから、属人的種類株式の定めがある定款についても認証したところである。 なお、会社成立後にA株主の反対にもかかわらず、定款変更手続によって、「Aが取得する株式の議決権は、ないものとする」旨の定款の定めを設定することは、株式の基本的原理に反しており、効力を有しないと解するのが相当と考える。

2 監査役設置会社と監査役の監査権限 ⑴ 監査役設置会社 取締役会設置会社(公開会社でない会計参与設置会社を除く。)又は会計監査人設置会社は、委員会設置会社を除き、監査役を置かなければならない(会社法327条2項、3項)が、委員会設置会社は、監査役を置くことができない(会社法327条4項)。 上記以外の株式会社においては、定款の定めによって、自由に監査役を設置することができる(会社法326条2項)。 そして、会社法は、監査役を置く株式会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。)又は監査役を置かなければならない株式会社を「監査役設置会社」と定義している(会社法2条9号)。 ⑵ 監査役の業務監査権限 監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査(業務監査権限)し、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない(会社法381条1項、会社法施行規則129条1項)。そして、監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。また、取締役会設置会社にあっては、取締役会に出席して意見を述べなければならず(会社法383条1項)、必要と認めるときは取締役会の招集を請求することができ(会社法383条2項)、さらに、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならず、この場合に、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認められるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない(会社法384条)。 監査役は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において当該行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができ(会社法385条1項)、会社と取締役との間の訴えについては、監査役が会社を代表する(会社法386条)。 ⑶ 定款による監査範囲の限定 前記のように、監査役は、業務監査及び会計監査の権限を有するが、公開会社でない会社にあっては、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができるとされている(会社法389条1項)。これは、会社法制定前は、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(商法特例法。会社法の制定に伴い廃止(整備法1条))において、小会社の監査役の監査権限を会計監査に限定していたことに対応するものであり、したがって、会社法施行前に小会社であった会社は、会社法の施行に当たり、定款に監査役の権限を会計監査に限定する旨の定めがあるものとみなされている(整備法53条)。 監査権限を会計監査に限定した監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならず(会社法389条2項、会社法施行規則129条2項)、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない(会社法389条3項)。 なお、会計監査に限定した監査役を置いた会社については、会社法上、監査役設置会社とはみなされない(会社法2条9号)から、取締役の責任免除に関する定款の規定を置くことができない(会社法426条1項)。 ⑷ 監査役設置会社の登記 会社法は、監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)は、その旨及び監査役の氏名を登記しなければならないと定めている(会社法911条3項17号)が、前述のように、会社法2条9号では、監査役設置会社には会計監査権限に限定した株式会社を含まないと定義しているにもかかわらず、登記に関しては、監査役設置会社に会計監査権限に限定した株式会社を含むとしている点で、論理的ではなく、理解しにくいと思われる。定款認証に来られる相談者に対しても、説明に窮するところであった。 また、監査役の権限を会計監査に限定した場合に、その旨の登記がされないから、登記情報を見る限りでは、当該監査役の権限が業務監査権限を有するものか、会計監査権限に限定されるものか判断することができず、登記の公示機能としても不十分であるとの批判があった(稲葉威雄「会社法の基本を問う」28頁、同「会社法の解明」100頁、207頁等)ところであるが、この点に関しては、平成26年6月20日成立、同月27日公布の会社法の一部を改正する法律(平成27年5月1日施行)により、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社であるときは、その旨についても登記事項とする改正がされた(会社法911条3項17号イ)。ただし、改正法施行の際、現に監査役の監査の範囲に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社は、改正法施行後最初に監査役が就任し、又は退任するまでの間は、当該事項の登記をすることを要しないとされている(同改正法附則22条1項)。なお、その具体的登記事務に関しては、平成27年2月6日付け法務省民商第13号民事局長通達「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う商業登記事務の取扱い」を参照されたい。

3 「株式会社成立後の資本金及び資本準備金の額」について ⑴ 定款の記載事項 株式会社設立時の定款には、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」及び「発起人の氏名又は名称及び住所」を定めることを要し(絶対的記載事項。会社法27条4号、5号)、通常、定款の附則として定められている。 このほか、発起人は、「発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数」、「設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額」及び「成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項」について、定款に定めがある事項を除き、その全員の同意を得て定めなければならない(会社法32条1項各号)。すなわち、これらの事項は、定款の絶対的記載事項とはされていないが、会社設立時の重要事項であるから、もとより定款に定めることは差し支えなく、定款に定めなかった場合には、発起人全員の同意により定めることになる。これは、失権株式が生じた等の事態に機動的に対応できるように絶対的記載事項から除外されていると説明されている(江頭憲治郎「株式会社法」73頁)が、実務上は、大多数の会社が定款にこの規定を定めているのが実情である。 これ以外の設立時発行株式に関する事項については、発起人の多数決で決定することになる。 ⑵ 「株式会社成立後の資本金及び資本準備金の額」の定め 上記事項のうち、「株式会社成立後の資本金及び資本準備金の額」とあるのは、会社成立の時点における資本金及び資本準備金の額のことである。株式会社は、その本店所在地において設立の登記をすることによって成立する(会社法49条)のであり、株式会社の設立時の資本金の額は、原則として、設立時に株主となる者が会社に対して払込み又は給付をした財産の額とされる(会社法445条1項)が、払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額を資本金として計上せずに資本準備金とすることができる(同条2項、3項)ことから、資本金の額を確定し、これを登記する必要がある(会社法911条3項5号)。 したがって、株式会社成立時の資本金の額は、登記時点における資本の額のことであるから、正確には、「株式会社設立時(又は成立時)の資本金及び資本準備金の額」とするのが相当であって、「成立後」と記載すると、会社設立後長期間にわたる資本金及び資本準備金の増加や減少をも含む意味となり、正確を欠くのではないかと疑義を覚えているところである(現に、他の用語については「設立時発行株式」、「設立時役員」等として「設立時」の語を用いており、これに平仄を合わせてよいのではないかと考える。)。 しかし、そもそも会社法の条文が「成立後」となっている上、法務省、日公連及び司法書士会等が示している定款の記載例も「成立後」の用語を使用していることから、定款認証実務に際しては、これらのことを勘案して、そのまま認証してきた次第であるが、諸兄は、どのように考えられるであろうか。 (西潟英策)

]]>