民事法情報研究会だよりNo.6(平成26年6月)

青葉若葉の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。 さて、過日ご案内いたしました本月28日開催の定時会員総会・セミナーにつきましては、現在65名からご参加の返事をいただいております。当日は札幌のOB会(毎年6月の第4土曜日)の日程と重なっており、また本月は7日に民事局OB会が開催され、これに参加された地方の会員の中には、ひと月に2回も東京に出かけるのはと当会員総会・セミナーへの参加を見送った方もあったようです。当法人の定時会員総会は定款で毎事業年度終了後3か月以内に開催することとなっておりますので、6月中の開催は避けることはできませんが、このままでは毎年同じ状況が続いていくのではと懸念しているところです(平成27年も民事局OB会は6月6日開催の予定です。)。 なお、今回の会員総会では、5名の増員理事が選任され、当法人の体制が強化されます。先般開催された通常理事会において、この機会に新たな試みとして、会員の参考になると思われる実務問題(主として公証実務)を論説解説スタイルで民事法情報研究会だよりに順次掲載(ある程度蓄積されれば冊子として配布することも検討)していくこと等が協議され、その結果、小林理事を責任者とする編集委員会が具体的にこれを進めていくことになりました。徐々にではありますが、当法人の事業目的に沿った活動の充実が図られるよう引き続き検討してまいりたいと思います。 本号では、小口理事の「公証事務雑感」と小鷹勝幸会員からご寄稿いただいた「草創期の広報活動重点地域の活動を振り返って」を掲載いたします。(NN)

公証事務雑感(理事 小口哲男) 公証人に任命されてから、ほぼ3年になります。 悪戦苦闘の日々が続いていますが、そんな中で、こんなこともあるんだと思ったことを少し綴ってみたいと思います。それは、遺言執行者の権限と金融機関の対応についてです。 民法(以下「法」)により、遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(法1012条)、遺言執行があるときは、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をしてはならず(法1013条)、遺言執行者は相続人の代理人とみなされる(法1015条)ので、民法上は、遺言執行者が、単独で銀行預金等の解約手続をすることができ、その際には、自分が遺言執行者本人であることを証明すれば足りるということは明白だと思います。 ところが、実際に銀行と対応した何人かの話をお聞きすると、銀行は、遺言者が生まれてから死亡するまでの連続した戸籍・除籍の提出を求めるとともに、銀行所定の様式への相続人全員の署名と実印の押捺、印鑑登録証明書の添付を求めているとのことでした。 もっと極端な例になると、公正証書遺言があると銀行の担当者に言ったところ、それでは何もできないので遺産分割協議書を作ってくださいと言われたこともあったようです。 遺産分割協議書の作成が必要との話は、大きな勘違いとしか言いようがなく、論外とせざるを得ませんが、それ以外の書類を要求する対応については、かなり多くの銀行で見受けられるようです。 銀行は、遺言執行者からの預金等の解約・払戻し請求に対して支払ったことが、当該遺言の日付より後の日付の別の遺言により取り消されていたなどの理由により、後日、誤りであることが判明したとしても、免責され、問題は生じないはずですし、遺言執行者からの支払い請求を拒否した銀行に対しては、支払いを命じる判決も出ている状況にあるにもかかわらず、なぜ、このような対応をしているのでしょうか。 ここからは、私の推測になりますが、免責され、法的に責任を負うことはなくても、遺言で法定相続分どおりの相続を受けられなくなった法定相続人からの苦情があればこれに対応しなければなりませんし、遺留分減殺請求関係の問合せ等にも対応しなければならないことから、これらの事実上の面倒を避けるということが理由のように思います。 しかし、自分達の事実上の面倒を避けるために、遺言執行者に対して、不要な対応を要求することは、大きな問題だと思います。 この問題を回避するために、私は、遺言執行者の指定の次に、「相続人の同意を要することなく」預金等の解約や貸金庫の開扉をすることができるとの言わずもがなの文章を付記しています。 そして、遺言書作成時の遺言者に対するこの文章の説明時には、銀行への対応の仕方も説明しています。 銀行が遺言執行者になっている事案においても、他の方々と同様の説明をしましたが、その時の銀行の担当者は、分かりやすい説明をありがとうございましたと言っていました。 ただ、銀行に勤めている人と親しい方からの話としてお聞きしたところでは、銀行の内部では、一度は、前記の一連の書類の提出を求めなさいということになっているようです。 また、銀行関係の人に、なぜ、このような対応をするのかと聞いたこともありますが、理由はおっしゃるとおりだけれども、一連の書類提出についての上からの締め付けは、前よりもむしろ強くなってきていると言っていました。 そのせいかどうかわかりませんが、最近、遺言者が亡くなったと銀行に伝えた人から、相続人全員が署名して実印を押捺し、印鑑登録証明書を添付した「相続届け」という文書の提出を求められたとの話を聞きました。 遺言執行者が、自分の身分証明書と遺言公正証書を提示して手続きを採れば良く、銀行が要求するような文書の提出は不要ですとお伝えしたことは、言うまでもありません。 閑話休題、やはり銀行関係の人に、「預金」債権と「貯金」債権を使い分けているのはなぜですか?と聞いたことがあります。 答えは、財務省の監督下にある銀行等では、「預金」債権と言っているが、総務省の監督下にあるゆうちょ銀行と、農林水産省の監督下にあるJAバンクでは、「貯金」債権と言っている、とのことでした。
草創期の広報活動重点地域の活動を振り返って―熱意をもって、足繁く、粘り強く―(小鷹勝幸) 1 はじめに 平成15年8月に公証人に任命され、網走、北見、豊岡と3か所の公証役場に勤務し、今日に至っています。その間の印象深く残っている平成18年から始められた広報活動重点地域(モデル地区。以下「重点地区」という。)の活動(同年は「低○○役場の活性化を意図した広報活動」と称された。)を思い出すままに、振り返ってみたいと思います。 2 網走での広報活動 (1)人口約4万人弱の網走市で、オホーツクの自然と文化に親しみながらの公証人生活をし、多少とも心に余裕がでてきた平成19年の話になります。 大部分の読者がご存知のことと思いますが、日本公証人連合会(以下「日公連」という。)では、公証制度を広く国民の皆様に知っていただくため、毎年10月1日から7日までを「公証週間」として、法務省の後援、法務局・地方法務局の支援の下に、テレビ、ラジオ、新聞、各公証役場の活動等を通じて啓発を行っております。 (2)平成19年8月23日、日公連理事長から平成19年度広報活動重点地域として網走地区が指定された旨の通知をいただきました。この通知により、公証週間にとどまらず、年度内を通じ、地域の実情に応じて各種広報活動を組織的、かつ効率的に行うことが求められました。ここでは、重点地域の活動として、全国初となった3つの活動(観光イベントでの広報、バスのバックステッカー広告、商店街街頭放送)等を中心にその顛末を紹介いたします。 (3)重点地区についての当時の日公連の方針は、「①嘱託事件の掘り起しが見込まれる地域を選んで、とりあえず、公証週間中を中心としたブロック公証人会、単位公証人会の広報活動を展開する。②自治体、社会福祉協議会等とのネットワークを構築して、それ等の支援団体機関と共同した広報活動を展開する。③日公連は、そのための旅費、ポスター、チラシ代などの予算的な支援を講ずる。」というものであり、どのような広報活動が相応しいかということについては、講演会の開催、講師の派遣、移動公証相談、移動公証役場というようなものを考えておりました。従ってモデル地区に選定された役場ないし地域では、そのような活動しかしなかったようです。 (4)私としては、重点地域として、指定されたからには、意味のある活動をして成果を上げたいが、日公連が考えているようなことでは、何のインパクトもないし、単に公証週間中のこれまでの活動の充実程度にしかならず、また日公連の支援内容では何もできないと思いました。というのも、例えば領収書があれば、その旅費を支援してくれるといいますが、網走地区では、列車やバスという公共交通機関が1日に数本しか走らない地区が大部分であり、出張には自動車を使わざるをえませんし、何よりも公共交通機関のないところが沢山あるからです。そこで、日公連の支援の有無にかかわらず、①地域の皆様に関心を持ってもらう、②マスコミに大きく報道してもらえる、③「全国初」というキーワードで、できれば、経費を最小限に抑え、今後の重点地域での広報活動の模範となるようなものにしたいとの想いで実施したのが以下の活動です。 3 観光イベント(「2007感動の径」ウォーク) (1)公証週間中の行事として、まず、①公証週間中の平日の執務時間の2時間延長、②休日相談所の開設、③出前講演会(生命保険会社とのジョイント講演会を含む。)等の前年並みの行事に加え、重点地域指定に相応しい目新しい広報をしたいと考えました。 そこで、例年10月に行われている網走市観光協会が主催する観光イベント「2007感動の径ウォーク」(一般社団法人日本ウォーキング協会が選定した「美しい日本の歩きたくなる道500選」のウォーキングコースの1つ)での広報を思い立ち、8月28日網走市観光協会を訪ねて事務局長と面談しました。その結果、公証週間中の10月7日(日)に開催することで準備を進めていることが判明しましたので、公証制度の趣旨、啓発活動の一環として当網走地区が重点地域に指定されたこと、毎回150名から200名が参加する当該観光イベントで広報すればその効果がきわめて大きいこと等を説明して、協力を依頼しました。その方法としては、倍賞千恵子を起用したポスター2枚を体の正面と背中から見えるよう首から掛けてウォーキングしながらチラシ・しおり等を配布するか、受付場所のテントにポスターを貼り、チラシ・しおり等をファイルに入れて配布することを提案しました。これに対し、事務局長は、公証制度の重要性を理解できるが、イベントの趣旨・目的から実行委員会の会議に諮った上で、回答したいとのことでした。 後日、事務局長から、ウォーキング広報活動は認められないが、イベント当日、ウォーキングマップを入れた北海道網走支庁産業振興部の農業農村整備の広報ファイルを配布する予定であり、同ファイルにチラシ・リーフレットを入れるスペースがあるので、それでよければ協力するとの回答をいただきました。 その際、観光協会のメンバーである地元のホテル、旅館での公証週間のポスターの掲示をお願いし、観光協会の定期便で配布していただくことになりました。なお、市内の金融機関、郵便局にも観光協会でのやり取りを説明し、ポスター等を掲示していただきました。さらに、治療を受けたことのある歯科医院には、「遺言のすすめ」「任意後見のすすめ」を待合室に50部置いていただき、また、網走で一番大きいスーパーの掲示板に広報用ポスターを12月いっぱいまで貼っていただきました。 (2)以上の結果を受けて、休日相談所の開設は10月6日(土)の1日にして、9月5日付けで近隣自治体(15か所)及びテレビを含む報道機関(14か所)に対し、①公証週間中の平日の執務時間の2時間延長、②休日相談所の開設(10時から19時)、③無料出前講演会(講演時間は、45分ないし90分)の受付等について、公証役場の主な仕事を併記して、広報・報道依頼を行いました。 (3)9月23日に至り、地元日刊新聞社の編集担当課長(主筆)を訪ね、公証週間の記事等を大きく取り上げていただくようお願いしました。いろいろと取材を受ける中で、公証週間の前に、網走地区の重点地域の指定、前記(1)の①から③の内容を含む記事を出していただけることになりました。その際に、公証週間の広告を出して活動をアピールしていただけないかといわれ、一瞬とまどいましたが、地元との関係は、密にしておいたほうがよいと思い、それを承諾し、打合せの結果、広告の左半分に広報用ポスターの写真を、右半分に10月1日から7日までが公証週間である旨、休日相談の開催、「遺言や大切な契約は公正証書で」等を配置し、9月30日と10月4日の2回出すことにしました。 広告の費用は予定していなかったので、安くしてほしいと折衝したところ、最終的に通常の広告料の半分にし、1回の広告料をサービスするかわりに、創刊3周年の広告を公証役場でのせることで、決着しました。9月26日の新聞記事は、広報用ポスターの写真入り7段ぬきという大きなものになりました(毎週2回の全戸無料配布の同新聞社関連誌にも大きく掲載されました。)。 (4)10月7日の観光イベント当日は、約160名の参加があり、私もウォーキング中及び昼食会において参加者に公証制度の話をさせていただきました。地元新聞社の記者とも、途中まで一緒に歩いたせいでもないでしょうが、広報用ポスターが貼り出されているテントでの受付風景も、写真入りで報道されました。 翌年からは、このイベントを網走公証役場の公証週間中の恒例の行事として位置づけ、早い段階から、イベントの協賛者として、イベント開催並びに参加者募集のポスター、リーフレットの協賛者欄に、官公署のすぐ後ろに公証役場が載るように働きかけ、それを実現させるとともに、イベントの最中に公証週間のリーフレットを胸と背中にかけて広報活動しながらウォーキングすることも認められました。 これらに要した費用は、ゴール後の昼食会兼懇親会の中で行われる大抽選会の景品としての図書券(1000円分)を5組(実際には、図書券のほかに「遺言のすすめ」、「任意後見のすすめ」、各種パンフレットを同封)でした。 網走公証役場がなくなってからは、北見の公証人になったので、網走の他に北見で行われた日本ウォーキング協会主催の「でっかいどうオホーツクマーチ」(6月の第2週の土・日のいずれかの日)においても広報活動を行いました。 4 バスのバックステッカー広告 (1)重点地域の全国初の試みとして、歩行者やドライバーを対象とした、動くメディアによる広報活動を企画することとしました。バス、タクシー、電光掲示板等を候補に挙げて検討した結果、広く近隣自治体まで運行されているバスのリアガラスへのバックステッカー広告(広告スペースは、38cm×170cm角)が費用対効果を考えるとよいのではないかと思い、折衝を始めました。基本は、3台1年間で18万9千円及びステッカーの企画・製作費であり、1台だけの場合は製作費を入れて約10万円程度でありましたので、公証制度の広報が目的であることを強く訴え、半月程度のやり取りの末、2台で1年間12万6千円(企画料・製作費サービス)で決着をみました。その後、広告の内容・色・配置等につき、支援をいただいている日公連、北海道公証人会の了解を得て、11月1日から1年の契約とし、実際には、10月23日から市内及び郊外線に走りだしました。果たせるかな、「走る網走公証役場」という大きなタイトルで、バスの後ろからの写真付きで地元新聞に大きく報道されました。 このバックステッカー広告を付けたバスは2台とも、その後次の広告依頼があるまでの3年間、無料で走っていただきました。 5 商店街街頭放送 (1)公証役場から100メートルという至近距離に、通称「アプト4」と呼ばれている商店街があり、そこでは、音楽とお買い物案内の街頭放送が1日11時間流れています。公証役場の広報にこれを利用できないかと考え、街頭放送を行っている網走中央商店街振興組合に出向きました。平成20年3月までの放送であればスポット契約分(当月分)3万2千円、通常契約1月分6千円(15秒単位)という話でありましたので、公証制度が民事紛争の予防と私権の明確化を図る等の重要な公的制度であり、法務省と日公連が啓発を行っていることを訴え、格安にとお願いしましたところ、面談してくれた事務局長は、かつて同組合の関係で公証役場を利用したこともあり、好意的に対応していただき、内部で検討したいとの返事をいただきました。その後、費用については改めて協議することとして、数度の打合せを経て、11月1日から4月30日までの放送とし、1回45秒以内で、1時間に1度ずつ1日計11回(総計約2000回)、その放送内容は、「網走公証役場からのお知らせです。遺言や大切な契約は、公正証書にいたしましょう。公正証書は、国から任命された法律の専門家の公証人が作成する公文書です。相談は無料で、秘密は固く守られます。網走公証役場は、市民会館向かいで、電話番号は、43局1661番です。」としました。費用については、組合のご理解を得て、最終的に無料となりました。 (2)この無料放送については、放送回数、本来の費用を考えると、何等かの感謝の気持ちを表すべきと考え、日公連に上申し、会長からの感謝状(額縁付き)を出していただきました。 その伝達には、公証役場に地元新聞社等を呼び、仰々しく行い、これを写真入りで大きく取り上げていただくよう根回ししたのは言うまでもありません。 感謝状の威力かどうかわかりませんが、無料放送は、網走から公証役場がなくなった現在も、「北見公証役場からのお知らせ」として、網走公証役場が移転したことを加えて、毎日11回放送されております。 6 おわりに (1)広報活動重点地域に指定されたことで、新聞等で大きく取り上げてもらうことができ、また、広報手段として、観光イベント、バスのステッカー広告、街頭放送、新聞広告、ポスター、出前講演、立て看板設置等を利用したことにより、地域住民への公証役場の存在が大きくアピールできたものと思っております。このような成果を上げることができたのは、日公連、北海道公証人会の支援があったことは言うまでもありませんが、それと同時に、広報活動とは「未来への種まき」であることを認識しつつ、与えられた環境の中でいかに知恵をしぼり、よりよい方法を実現するかであり、前例に囚われることなく、熱意をもって、足繁く、粘り強く事にあたることの大切さを思い知らされた意義のある活動でもあっただけに、今日でも印象深いものがあります。 (2)私の経験を踏まえ、日公連等には、広報活動の結果報告と併せ、いろいろと進言(重点地域指定の早期化、支援の拡大化、複数役場による広報活動等)させていただき、現在では大部分のことが解決・改善されているように感じられます。 (3)広報活動の結果報告が、数年にわたり、いわゆる新任研修において参考にされたと聞き及んでいますが、その後の広報活動の一助になったとすれば、望外の幸せです。
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