民事法情報研究会だよりNo.52(令和4年1月)

新年あけましておめでとうございます。会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 オミクロン株による新型コロナウィルスの爆発的な感染が世界的に起こっている中で、日本では海外からの帰国者にとどまらず、市中感染の事例も散見されるようになり、不安が尽きない中で迎える新年になりました。
 今年こそは、人数制限や場所的制約なく、会合やセミナーが開かれるような年になることを願ってやみません。(YF)

今日この頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

最後の晩餐(佐々木 暁)

新しい年を迎えました。令和4年・寅年の始まりです。あけましておめでとうございます。会員の皆様にはご健勝にて新年をお迎えになられましたこととお慶び申し上げます。又、それぞれにそれぞれの想いを込められて、ある人は古稀に向かい、ある人は喜寿に、傘寿に、米寿に、卒寿に、白寿に、百寿に・・向かって力強く今年の第一歩を踏み出されたのではないでしょうか。
 そういう私はと言えば、いわゆる数え年で、いよいよ「後期高齢者」待機枠に突入する年を迎えてしまいました。予定通りの道程ではあるが、とりあえず無事に喜寿が迎えられることを素直に祈っている。昨年6月に、民事法務協会を退職して、コロナ禍の中をしぶとく生き抜いて、目下、不自由な中、55年ぶりの悠遊自適(自堕落な)生活を満喫している。
 2年余にわたるコロナ禍の中、自由・気ままな生活環境というのも随分と様変わりしたことを実感した。最後の職場を後にしながら、念願の自由の身になったことに思わず「バンザイ」と叫びたくなるような衝動に駆られ、思わず「スキップ」したくなる(したかもしれません)ような、何物にも例えがたい、ホット感、安堵感、開放感に包まれた。多くの先輩諸氏も味わられたであろう人生の一つの区切りとして、天からもらったご褒美感に浸った瞬間である。
 その喜びに浸った瞬間から早半年を過ぎようとしているが、未だ自由の身の使い方も解らず、コロナのせいにするのもいい加減にしてとコロナにも愛想をつかされながら、老後の生き方、過ごし方について、暗中模索、研究?の日々を無駄に過ごしている。悠遊自適、晴耕雨読と言ってみても、私には、耕す畑も、読むべき蔵書もないのである。
 こんな頼りない生活のなかで辛うじて続いているのは「今宵の一品」、「晩酌の友」造り、夕食造りで、夢の小料理屋の開店目指しての板場修行?を玉ねぎを刻みながら、涙と鼻水を流して細々とやっている。
 その昔に、他誌のエッセイに「小さな夢の続き」と題して「いつかは小料理店の親父の役をやるのが夢だ。」と身の程知らずに書いたことがある。諸般の事情により実現可能性は年々低くなっているようであるが、僅かながらも夢は持ち続けている。現役の頃、現職の裁判官から料理人に華麗な転身をされた方の報道に接し、その鮮やかさ振りに大いに刺激された記憶がある。夢の実現のために持ち続けている気持ちの他にもう一つ持ち続けている物がある。包丁である。転勤や退職の度に、とある同僚から天下の名刀ならぬ高級包丁を頂戴し、今も数本が息を潜めて出番を待ち焦がれている。未だ未使用の大きなまな板も時々は、その木肌の感触を楽しませて貰っている。
 夢の小料理屋が開店の運びになったとしても、果たしてお客さんに喜んでもらえる料理が出せるのか、包丁さばきは大丈夫か、はたまた、「みをつくし料理帖」(高田 郁著)の「澪」のような多彩な料理と味は出せるのか等々高レベルな前提条件を作り上げて勝手に挫折しているというか、一人楽しんでいるという有様で笑止千万ものである。それでも認知症予防の一環としての期待も込めて夕食の献立と調理を包丁一本に賭けて(大げさ。)修行?を重ねている。他にも、近所に住んでいるパラサイト家族(子と孫ら8人。)のために、土曜日・日曜日の夕食会の仕込みや各人の誕生会の祝い膳を造ったり、コロナ禍の中では、集合できないので、土・日に限り夕食のおかずの宅配をしたりして、包丁と腕の切れのさび付き加減の確認と献立能力の開発養成に無駄な努力をしている。孫のための料理は、4人それぞれの好みに合わせて毎回工夫を凝らしているが、私と妻の分と言えば誠に簡単質素なもので、冷蔵庫の中にある物、余りもの食材を引き合わせて創る「ひらめき・思いつき料理」が毎日の献立である。これが意外と旨い。酒にも合う(合うように造っていると言う人もいるが。)。残り物には福がある的に最後まで食材を生かし切る(要するに、ケチか貧乏性。)のである。
 ことのついでに調子に乗って言ってしまうと、お正月のおせち料理は、結婚以来この正月まで、すべて私の手造りである。妻の名誉のために言うと、きんとん・黒豆・うま煮・昆布巻き等々は妻の担当である。秋ごろから新聞広告等に掲載されるおせち料理の写真を横目で見るくらいの自信はややある。ただし、高級食材の数では負ける。が、ここは、私の故郷の海の幸が埋めてくれる。後は彩である。ここは料理人のセンスが問われるところであるから、ついつい力が入る。三段重と二段重を基本として、刺身盛り合わせ等を添えて並べて、一人悦に入っている。
 私の料理の基本は、お袋さんのマネと小料理屋さんのカウンター越しに垣間見た料理人さんの下ごしらえの包丁捌きと味付けであり、居酒屋さんの珍味料理である。料理本やテレビの料理番組での、塩〇〇g、砂糖〇〇g、油小さじ一杯、胡椒少々等々は大事なことであるが、私には全く覚えられないので、すべて感覚と想像力での味付けとなる。妻が言うには、私が、テレビの料理番組で高級レストランや高級寿司店の紹介を観ていて、芸能人の方やリポーターの方が「さすがこのお店のこの〇〇は、コクがあって、脂がのって、まろやかで、とろける様で、旨い、美味しい、最高です。」等々のいわゆる食リポを聞きながら発する一言は「当たり前だ。マグロや牛肉の希少部位を使い、キャビア・フォアグラ・アワビ等々の高級食材をふんだんに使った料理が不味いわけがない。何ら手を加えなくてもそもそも食材そのものが良いのだから。料理してない?から旨いんだ。高価が旨いんだ。」と叫んでテレビのチャンネルを替えるらしい。
 さて、我ながらさすがにくど過ぎる程の自慢話満開の前置きが長すぎてお題目が何であったか忘れそうになっていることにようやく気が付き、この辺でお題目に戻ることとする。
 会友の皆様は、「あなたの一番好きな食べ物は何ですか。」と聞かれた時「私は、〇〇が一番好きです。」と即座に答えられますか。大半の方は少し悩み考え込むのではないでしょうか。長い人生で沢山美味しいものを食べてきたことでしょうから。そして「人生の最後に食べたいものは何ですか。」と聞かれ、最初に聞かれた一番好きな食べ物と重なり答えに窮する方も多いことでしょう。一方「我々の歳になれば、趣味・嗜好や最後の晩餐メニューまで、しっかりと固まっているよ。長い人生今更迷いはないよ。」という方もおられるでしょう。
 そういうお前はどうか?と聞かれると、まだ自分は若い?と思っているらしく「未だ悩みの境地をさ迷っている」と言う答えである。要するに最後に食べたい物が沢山あるらしいのである。
 どちらかと言うと、魚は「身」より「頭・アラ」を好み、肉は「牛」より「成吉思汗・ジビエ」を好み、野菜系は、野生の「行者ニンニク・ワラビ・フキ・ボリボリ(キノコの一種)山ワサビ等々」を好む言わば偏食・亜流系・自然派の私である。私は、北海道から東京に転勤となって以来、いつの間にか45年にもなるが、まだ右も左もわからない頃の良き先輩諸氏?に連行され、訓練を受けたのが名高きあの有楽町のガード下である。私は、育った職の環境のせいか、東京に来るまで、マグロ、塩辛、レバー、臓物系はどちらかというとあまり好きではなかった、というより嫌いだった。それが度重なる訓練の成果?でいつしか食べられるようになった。訓練のやり方は、これまた初めて口にするガード下の銘酒「ホッピー」とやらで流し込むのである。訓練の賜物でいつしか有楽町育ちの都会派?になっていました。田舎に帰ってそんな話をすると、近所の人や親戚やら同級生が、「そんなものしか食えないような生活をしているのか。かわいそうに。」と同情され、日高の太平洋の海で採れた、ウニやつぶ貝、カレイやタコの刺身、蟹やホッキ貝等々の正統派?食材を食べさせてくれた。今もである。
 最後の晩餐と言えば、ついつい思い浮かべるのが、高級食材をふんだんに使ったフランス料理、イタリア・スペイン料理を名のある高級店でワイングラスを片手にして・・・最高で最後の一夜を過ごし・・・そしてその余韻に浸りながらの「PPK」(ピンピンコロリ)・・・まさに理想的な終焉の宴である。
 しかしながら、食に関してやや偏屈気味の私の場合は、そういうカッコいい最後の晩餐とはいかないようである。
 目を閉じて浮かんでくるのは、・・・赤々と燃える薪ストーブの上に、無造作に置いた開いた助宗ダラの干物、イカの干物、男爵芋、シシャモなどが並びストーブの横には竹串に刺したハタハタが焙られている。円卓には、バフンウニの塩辛、バター、イカの塩辛がジャガイモにのっかる順番を待っている。刺身は、ホッキ貝、松川(カレイ)、真ツブ貝。鍋物は、助宗たらのタチ(白子)が入った三平汁。漬物は、ニシン漬け、そして伝統の鮭の飯寿司、さらに叶うなら、マンボウの肝和え。・・・等々があればほぼ完璧な我儘な私の最後の晩餐メニューである。
 この空想絵巻は私の好物のオンパレードである。高級感などどこにも漂ってはいない。どこかで体験したような、記憶の中に潜んでいるような風景なのである。そうです。私が高校時代まで過ごした故郷の実家や近所の食事の風景なのである。子供の頃は、毎日のこの食事メニューが嫌で、卵焼きや、ハム・ソーセージが食べたくてたまらなかった。
 私に最後の晩餐のメニューをこのような昔の田舎の実家の食事風景を想起させたのは、酒を嗜むようになったからなのかもしれない。それとも有楽町ガード下で育まれた対応能力?のせいなのか。はたまた高級料理と言われるものを食したことがないのか、高級店と言われる所に入ったことがないからなのか。いずれにしても、見た目からして、はなはだ貧弱で貧相な私の最後の晩餐の絵面である。が、私にとっては、最高級な最後の晩餐メニューなのである。
 ようやくお題目の「最後の晩餐」に少しだけ近づいてきた感はありますが、それにしても男という生き物は、故郷を否応なしに離れて45年も経て今なお心の隅に故郷を残しているんだなとしみじみ思った。恥ずかしながら、この気持ちは今は亡きお袋さんを想う気持ちに似ているのかも(親父さんには悪いが。)。やや気持ちが湿ってきたところで、今日この頃のご報告とさせて頂くこととする。会員の皆様には、毎日の食卓でその日その日の晩餐会をお楽しみ頂き、今年もお元気でお過ごし下さい。       (佐々木 暁)

宇和島公証役場に着任して(川本浩二)

1 はじめに
 公証人となって早1年半になろうとしている。宇和島公証役場は1人役場で、書記も全くの新人。右も左も分からない手探り状態での事務開始となった。予想していたとおり、事務を開始した当初は、バタバタ・オロオロの連続であった。しかし、諸先輩方の多大な力添えで、なんとかここまで務めることができた。歳を重ねるにつれて、「人間は独りじゃ生きられない。」と感じるようになったが、そのことを再認識した。感謝感激である。
 さて、前任の植田先生が座っていたイスに初めて座ってみると、データはどこにあるのか、資料はどこにあるのか、用紙類はどこにあるのか、など戸惑うことが続発した。そんな状況下で、突然の来客や電話照会があると、すぐに対応できない。「なんだったけなぁ」と思って文献や資料を確認しようとするが、なかなか探せない。とにかく、うろたえる日々が続いた。
 こうした経験から、とにかく効率的に仕事ができる環境を整備することが必要と考えた。効率的に仕事ができる環境が整っていれば、突然の来客や電話相談にも、素早く対応できるし、その結果、落ち着きを持って対応できるのである。
そこで、私が、最初の1年目に取り組んだ効率化策について、ご紹介してみる。

2 デュアルモニター化
 Steelcaseがマイクロソフトが仕事環境を機能的にするために行っている調査・研究の紹介記事「How Multiple Monitors Affect Wellbeing」に大変興味深い記事があった。
記事によると、マイクロソフトの技術コンサルタントが「ディスプレイと作業効率を定量化」した報告によると、「シングルモニターをデュアルモニターに変更しただけで、デスクワークの生産性が42%向上した。」という。
 また、別の研究、ウィチタ州立大学の研究レポートでも、スクリーンサイズに関係なく、マルチモニターが仕事のパフォーマンスを高め、実際に、シングルディスプレイからデュアルディスプレイにした人の98%が「仕事をするならデュアルディスプレイを選ぶ。」と回答している。
この情報を受けて、当役場もデュアルモニター化した。追加したモニターは6,000円(右側、中古)。しかも、簡単な作業でデュアル化できた。
 ちなみに、42%作業向上するなら、60分間で従来の60×1.42%=85.2分間の作業ができることになる。1日8時間労働だとすると、デュアル化した後は、8時間×60分÷85.2分=5.63時間=「5時間38分」で仕事が完了することとなる。
私の場合、左のディスプレイに、起案中の証書案や作成中の資料を表示させ、右側のディスプレイには、会計ソフト、ウエブ画面、メール画面、資料などを表示させており、右側の画面に出た情報を参照しながら、また、左側の画面にあるワード等にコピーするなどして作業を進めている。どれくらい効率化できたかを数値で説明することはできないが、かなり効率化されたとの実感は十分ある。もはや、一つのモニターで仕事をする気になど全くなれない。

3 文字情報基盤検索システム
 外字の問題である。標記のシステムは、おそらく多くの方が既に利用されていると思う。しかし、知らないという方もいたので、今回ご紹介してみる。
市販のパソコンにインストールされている規格化された文字数は僅か約1.2万文字しかない。これでは、様々な字体がある氏名に対応できない。そこで、殆どの自治体が、住民票や戸籍の人名に使用できるようにするため、膨大な数の外字を作成していた。しかし、外字の文字コードはそれぞれの役所で異なるため、オンラインによって連携されることの大きな障害になっていた。
そこで、総務省が「文字情報基盤整備作業」を実施して、行政で用いられる人名漢字等約6万文字の漢字フォントを作成した。それが、「IPAmj明朝」フォントである。ちなみに、次図は、葛飾区の「葛」の文字であるが、この一文字だけで、これだけの文字が用意されているのである。
これを利用すれば、外字を使用することはない。もちろん、外字を作成する作業も不要となる。

 ちなみに、IPAmj明朝」フォントは、「文字情報記述促進協議会」のホームページなどからダウンロードできる。もちろん、無料である。
 なお、使い方まで紹介すると長くなってしまうので、今回は省略させていただくことをお許し願いたい。

4 契印機
 前任者は職印で契印していたが、契印機がほしくなったので、思い切って購入した。やはり効率的である。この商品は18枚機であるが、22枚程度は対応してくれる。ただし、契印可能枚数は、紙の厚さによって変動することはいうまでもない。
ちなみに、「契印」と「割印」の意味の違いを知ったのは、最近のことである(笑)

5 LINE
 LINEを使っている方は多いと思う。もちろん、私も使用している。実に使い勝手のよいアプリである。
 嘱託人等とやり取りするのに、LINEを使用することが多々ある。FAXはない、メールは使っていないという嘱託人等がほとんどだからである。なんといっても、「LINEでやり取りしましょう。」というと依頼者に喜ばれるのである。
LINEはスマホというイメージが強いが、パソコン版もある。パソコン版だとファイルを簡単に添付できるし、苦手なフリック入力をしなくて済むのである。

6 会計ソフト
 クラウド型の会計ソフトを使用している。クラウド型会計ソフトの最大のメリットは、預金口座と連動していることにある。預金口座の入金・出金状況が事務所に居ながらにして直ちに確認できる。確認できるだけではなく、会計ソフトと連動しているので、帳簿付けが簡単にできる。
当役場は、電子確定日付センターに指定されているので、電子確定日付の請求があった場合の手数料の入金確認をするのも、会計ソフトで行っている。会計ソフトで確認する場合は、ボタンを一つクリックするだけで足り、インターネットバンキングのように、いちいちログインする必要がないのである。

7 最後に
 業務の効率化は、まだまだある。最初に書いたとおり、執務に必要な情報を迅速に検索できる仕組みも考えたい。こんなことを考えつつ、小さなことからコツコツと効率化に取り組んでいきたい。          (川本浩二)

実務の広場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.90 パートナーシップ合意契約について(小沼邦彦)

 先に5年ぶりの東京オリンピックが様々な批判を浴びながらも開催されました。開会式では、日本の男子旗手は八村塁さん、聖火の最終点火者が大坂なおみさんと、大会の理念である「多様性と調和」ということがクローズアップされた大会でもありました。そして、ちょうどこの大会期間中に当役場で初めてのパートナーシップ合意契約の公正証書が作成されたのです。仲介した行政書士はLGBT関係専門の方のようでしたので、今後、他の役場においてもこの契約の嘱託があろうかと思い、1つの相談事例として紹介します。
1 パートナーシップ合意契約の概要
 この契約は、一言でいえば「同性婚契約」であり、共同生活に関する合意契約ということになります。ここでいう「パートナーシップ」とは、連合会の「証書の作成と文例」(以下「文例」といいます。)によると、婚姻関係(同性・異性を問わない。)ではない2名以上の者による共同関係との一般的な意味で使用すると説明されています。また、渋谷区で初めて開始された「パートナーシップ証明書」を交付するために制定された条例においては、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係」と定義されています。渋谷区においては、この合意契約と任意後見契約を公正証書で作成したパートナーに証明書が交付されますが、この証明書は、婚姻事項を記載した戸籍謄本の代わりになるものということが言えると思います。
渋谷区においては、生涯を共にすることを誓約するという重要性を考慮し、二つの公正証書の作成を求めているわけですが、例外として任意後見契約の作成を免除する場合もあり、その一つとして、財産形成過程にある年齢の若い方達には、パートナーシップ合意契約の中にその事情と将来的には作成する旨を記載する取扱いも認められています。
 当役場の相談者は、40~50代の方でしたので、渋谷区のそれに倣って各人ごとに任意後見契約をしたいとの希望であり、これは通常の様式によるものでした。
2 パートナーシップ合意契約の内容
ア 契約の内容を簡単に説明しますと、法律婚では婚姻により民法等で認められる法律関係が同性婚では認められませんので、二人の共同生活に必要な内容について契約するものと考えていただければいいのではないかと思います。
 その中で、まず重要な事項が強い愛情で結ばれる関係であることを宣言する第1条の「本証書の趣旨」です。ここには、二人の結びつきや互いに対する強い思いなどを聴取した上で、公証人としてはそれらの事情や思いを十分に加味した内容にして記載すべきと考えます。例えば、このような記載ぶりになります。

第1条(本証書の趣旨)
 甲及び乙は、現在まで〇〇年に渡る共同生活の事実及びそれにより育まれた深い愛情と信頼に基づき、お互いに生涯にわたるパートナーとしての意思が揺るぎなく、添い遂げることをここに誓約するとともに、甲及び乙ができるだけ婚姻における配偶者と同等の権利義務を得られるようにするため、次条以下のとおり合意する。
 なお、甲及び乙は、それぞれの親族、関係者並びに関係機関に対し、本契約の趣旨を尊重され、二人の家族としての共同生活に対し、理解と配慮並びに協力していただくよう強く表明するものである。


イ 第1条において、真摯な愛情と信頼で結ばれた関係にあること、そして生涯のパートナーとして添い遂げることを合意した上で、以下、具体的な内容を規定していきます。まず、同居して、支え合うことを誓う「同居・協力・扶助義務」、共同生活の費用の分担、契約前と契約後の財産の帰属を明記する「財産関係」、本契約が解消された場合の財産分割方法を記載する「財産の清算」、そして、本契約を終了する方法及び終了するについて責任ある相手方の慰謝料支払義務等を定める「本契約の終了」など、財産に関する事項が中心となります。
当役場の相談者は、40~50代の方でしたので、「相互の介護」、「災害時の連絡」、「終末期の対応」、「葬儀・埋葬」等の終末期等に関する事項についての要望も多くありました。
3 パートナーシップ合意契約の特色
ア この契約において特徴的な事項として挙げられるのが「療養看護に関する委任」です。これは、病院で治療や手術を受ける場合に、通常配偶者に与えられる同意などの権利を相互に付与するものです。少し長くなりますが、法律婚でなければ認められないものを条文化したものですので紹介します。


1 甲及び乙は、そのいずれか一方が疾病、事故等により医療機関において治療又は手術等を受ける場合、他方に対して、治療等の場面に立ち会い、本人とともに、又は本人に代わって、主治医その他の医療関係者から、症状や治療の方針、見通し等について十分な説明(カルテの開示を含む。)を受けることを予め委任する。
2 前項の場合において、罹患した本人が自らの意思を表明できない場合、治療方針及び治療行為(人体の切開等の外科手術を含む。)の決定に同意するなど、通常配偶者に与えられる権限を予め相互に付与する。
3 罹患した本人は、その通院、入院、手術時及び危篤時において、他方に対し、入院時の付添い、面会謝絶時の面会、手術同意書への署名、本人が予め同意する臓器提供に係る同意等を含む、通常配偶者に与えられる権利の行使について、本人の最近親の親族に優先する権利を相互に付与する。医療契約、入院契約、介護申請及び医療費の支払も他方に委任する。
 

 これは、文例の記載例とほぼ同じものですが、他の条項に比較して詳細なものになっており、渋谷区の条例制定に伴い公正証書の案文作成に携われた先輩公証人の御労苦に感謝を申し上げなければなりません。公証法学(第49号)に掲載された下川德純公証人の講演論文によれば、この制度が実施された平成27年11月当初は、渋谷区の方が証明書を取得するために公正証書を作成するのが多かったのに対し、翌年からはこの「療養監護に関する委任」条項を求めて、渋谷区外の各地からこの合意契約を行う方々が増加しているとのことです。
 この公正証書を入院した病院に示すことにより、配偶者同様の説明を受け、同性パートナーとして、処置方法について同意することにより、パートナーの命が救われることもあるとのことです。法的根拠はありませんので全ての病院で通用するわけではありませんが、まさに公正証書であるからこその効果であると言えます。
イ この契約のもう一つの特色は、これも前記下川公証人の論文にもあるとおり、契約者にとっては記念的な意味合いを持つものと言うことができます。私は、当初、仲介した東京在住の行政書士に対し、コロナ対策もあり、立会はお断りしたのですが、二人の記念写真を撮ってあげたいと言うので受け入れることにしました。前記の下川論文によれば、彼らにとって公正証書作成日は結婚記念日と同じ意味があり、最後に公証人を囲んでの記念撮影を求められることもあるということを承知していたからです。幸い、当役場の仲介者は、署名をするところの撮影を希望するところまででしたが、嘱託人の要請があれば仲介者を立会人とすることも可能と助言したところ、結果として、公正証書には立会人として仲介者の名前が記載されました。
4 法律婚でないことへの対応
ア 同性パートナーは、この契約を行ったとしても法律婚ではないため配偶 者としての相続人にはなれませんので、各人の死亡後の財産をどうするかという問題が残ります。年齢に応じて、遺言、信託等を行う必要がありますが、当役場の相談者はそれぞれ死因贈与契約を締結することを希望していました。
 そこで、公正証書の形式としては、合意契約と死因贈与契約を一体のものとし、合意契約を第1、死因贈与契約を第2とした上で、死因贈与契約の趣旨の条文においては、「甲及び乙は、第1の合意契約において婚姻に準ずる関係の権利義務を認めたことに伴い、相手方が死亡した場合の財産を承継させるため、相互に死因贈与契約を締結する」とその関係性を明記しました。
手数料は、合意契約で1件、死因贈与契約で各1件(各人の目的価額による計算)、任意後見契約は各人ごとに作成しましたので各1件となり、合計5件分としての計算となります。
イ 「パートナーシップ証明書」が交付されたことに伴い、携帯電話の家族割が認められたり、生命保険の受取人として認められる商品が出てきたりと、少しずつ改善が図られているわけですが、法律婚ではないため、同性パートナーに認められていない権利は現在も少なくありません。
相談者からは、その中でも法律婚の場合には認められる生命保険及び社会保険における配偶者としての権利について、将来のことを考慮し、配偶者として受領する意思を表明しておきたいとの要望がありました。確かに、将来の法整備によっては認められる余地は十分あります。このことは、LGBTの方々の権利擁護を図ることを目的とするパートナーシップ合意契約の趣旨からしても記載すべきものであると考え、合意契約に盛り込むことにしました。
5 最後に
 私が関与したパートナーシップ合意契約書については以上のとおりです。
 公正証書の作成がLGBTの方々の権利を擁護することになることは公証人としても喜びであり、今回のオリンピックの開催と相俟って私にとって印象に残るものとなりました。今後、一層、一人一人の個性を重んじる社会になってほしいと感じた次第です。         (小沼邦彦)