民事法情報研究会だよりNo.51(令和3年10月)

秋涼の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 9月末日までとの期限で、全国各地に出されていた緊急事態宣言は、いずれも解除されることになりましたが、一部の専門家によると、10月以降も感染再拡大のおそれなしとのことで、まだまだ安心はできない状況が続くようです。
 先般、当研究会の理事等で協議した結果、誠に残念ながら、12月11日に予定していたセミナーを中止することを理事会で決議しました。政府で検討している緩和措置の内容の詳細は判明していませんが、現時点では、全国から多くの人が集まって飲酒を伴う会食を行うことが許容される状況にはありませんし、仮に行うとしても、着席による飲食となり、かつ、席の異動を原則禁止とせざるを得ないなど、例年のように、会員各位が相集い、懇親を深められる形態での開催が難しいと判断されたものです。
 今後の情勢の変化等を注視しながら、来年6月18日開催予定の会員総会のときには、例年の形式での開催ができることを期待しているところです。(YF)

今日この頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

爆弾を抱えて(星野英敏)

1 右足の膝から下だけが腫れる
 今年(令和3年)の3月初め、右足のふくらはぎに筋肉痛のような痛みを感じたので、風呂に浸かりながらマッサージでもしてみようかと思って良く見ると、左足に比べて右足の膝から下が異様に腫れていて、腫れた部分を圧迫すると痛みを感じることがわかりました。
2 血栓症を疑う
 インターネットで調べてみると、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)が疑われることから、直ぐに血管外科を受診すべきだということが書かれていました。
右足の腫れは3月4日をピークに5日には引き始めていましたが、念のため、6日の土曜日に近隣の血管外科がどこにあるのかを調べ、車で約1時間の大学病院に行ってみました。
 しかし、土曜日は血管外科の外来受付をしていなかったため、やむを得ず自宅近くの病院で内科の診察を受けた結果、足の静脈に血栓が生じている可能性があることから、改めて次の木曜日にその病院に来る非常勤の循環器内科医に診察してもらうこととして、とりあえず血流を改善し血栓を防止する薬の処方を受けました。
3 深部静脈血栓症確定
 3月11日の木曜日に循環器内科の医師の診察を受け、血液検査とMRI検査の結果から、右足の膝付近で、一番太い深部静脈の血流がほぼ完全に止まっていることが判明しました。
 足の腫れが4日をピークに引いてきたのは、塞がった静脈の代わりに他の静脈がバイパスとなって働きだした結果と思われるとのことでした。
 この間、何らかの原因で血栓がはがれて流れ出していれば、命の危険もある肺動脈塞栓症のほか、脳梗塞や心筋梗塞などを発症する可能性があり、運よく命が助かっても、半身不随といった後遺症が残ることもあるとのことでした。
 そこで、3月25日に別の総合病院の血管外科を受診できるよう予約をとってもらい、紹介状も書いてもらいました(田舎のことで、市内最大の総合病院でも血管外科の専門医は常駐しておらず、診察も週1回だけという事情から、ちょっと先の予約となりましたが、本当は、できるだけ早く専門医の診断を受けるべきです。)。
4 爆弾抱えて
 3月11日から次の受診までの2週間は、いつ爆発するかもしれない時限爆弾を抱えて過ごすような毎日となりましたが、半身不随でも命さえ助かればと覚悟を決め、救急搬送に備えた準備をして、平日は毎日、調停委員として裁判所に通っていました。
 調停委員としての活動中も、右足に刺激を与えないよう、文字通り腫物に触るように、階段も避けてエレベーターを使う毎日でした。
5 血管外科受診
 3月25日、血管外科の専門医を受診し、改めて超音波による検査を受けました。
 場合によっては手術が必要になるかもしれないと思っていましたが、薬が効いて血栓は縮小し、血流も回復しているとのことでした。
 ただし、まだ血栓が飛ぶことも考えられることから、少なくとも3か月は薬を続けることが必要とのことでしたので、最初に受診した病院で投薬と経過観察をしてもらうことになりました。
 また、体質的な要因やがんなどの病気によって血栓ができている可能性もあるとのことから、併行してそれらの要因の有無も検査してもらいましたが、それらは確認されませんでした。
 最終的には、発症から半年程度経った今年の9月か10月ころに再度検査し、その時点で血栓が確認されなければ、今回の治療を終わる予定です。
6 血栓はどこへ
 血栓は縮小したとのことでしたが、少しずつ溶けてしまったのか、小さく分かれてどこかに飛んで行ったのかはわかりません。
 最近の物忘れは血栓による脳梗塞のせいかもしれないと思いましたが、随分前からの症状なので、今回の血栓症が原因ではないようです。
7 血栓ができる原因と予兆と思われること
 この時は、まだ新型コロナウイルスのワクチン接種前だったので、血栓ができる原因としては、血管の老化、運動不足、水分不足などが考えられ、これに加えて体の特定部位の血流を阻害するような姿勢を継続していたこと(我が家の猫たちと一緒に寝ていたので、そうなってしまったのでしょうか。)が引き金になったものと思われます。
 振り返ってみれば、夜中にこむら返りを起こしたり、洗い物で特定の指だけ手荒れがひどくなったりしたのも、一部の血管の流れが良くないことが原因と思われ、このようなことも予兆の一つだったかもしれません。
8 血栓症予防策など
 血栓症を起こさない対策としては、適度な運動、こまめな水分補給(特に就寝前及び起床時の水分補給)、過度の飲酒の抑制(これはなかなか困難です。)、飲酒後にはこれを補う水分を補給しておくこと(これは心掛けています。)などが考えられます。
 また、長時間同じ姿勢をとらないようにすること、やむを得ない場合はこまめに休憩を入れて軽い運動をするか、少しずつでも足を動かしておくことなどです。
 そのほか、前述の予兆のようなことがあれば、水分補給のほか、食事面でも、血液をサラサラにする食品を採るよう心掛けるのも良いと思われます(妻はしばらくの間、毎食玉ねぎスライスを出してくれました。)。
血栓症を発症してみて、自分の体もガタがきていることを思い知らされ、小さな異変も見逃さないよう自分の体に向き合っていかなければとの思いを強くしたところです。(星野英敏)

回想法(小畑和裕)

1 公証人を退職してから8年が過ぎた。辞めた当初は旅行をしたり、図書館やジムに通ったりして仕事から開放さ  れた喜びを満喫していたが、やがて飽きた。NHKのチコちゃんから「ボーッと生きてんじゃねえよ!」と、どやされる日々となるのは意外に早かった。自然の美しさや、様々な出来事に感動することも少なくなった。特に酷くなったのは、人の名や地名を直ぐに思い出せない事だ。テレビを見ていてそのタレントの名が思い出せない。一緒にいる相棒に聞くとやはり分からない。その代わり、その人が最近結婚したこと、誰それの子であることなど、タレントの付属情報などはやけに良く覚えている。暫くすると、何の脈絡もなくフッと思い出す。「認知症になったのかな」という思いが強くなる。
2 ある日、散歩の途中、本屋に立ち寄り吃驚した。長谷川和夫医師の新刊本が目についたのだ。本のタイトルが、「ボクはやっと認知症のことが分かった」とある。今更言うまでもなく彼は、公正証書遺言を作成する際、嘱託人の意思確認をするため幾度となくお世話になった「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS―R)の考案者だ。その先生が認知症になられたのだ。その事に驚く一方で、「やっと認知症のことが分かった」とはどういう意味なのか。疑問が湧いてきた。
またある日、新聞で認知症の義父をケアしている親族の苦労話を読んだ。その人は、正しい方法でケアをするために認知症のことを基礎から勉強し、資格試験に挑戦したという。認知症に関心を持ち始めていた私は、漠然とした知識しか持っていなかった認知症について勉強をしてみる気になった。受験のための公式テキストを買い求めた。
3 介護保険法によれば、認知症とは、「脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態をいう」とある。つまり認知症は、認知機能に障害があり、日常生活に支障が生じる状態にある病気なのだ。前述した人名や地名が一時的に思い出せないのは、老化による、物忘れ・度忘れであり、日常生活に支障は生じておらず病気ではない。認知症ではないのだ。安心した。しかし油断は禁物だ。認知症ではないが軽度認知障害(MCI、Mild Cognitive Impairment)といわれ、認知症予備軍だという。古いデータで恐縮だが、2012年の認知症有病者数は462万人であり第1次団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年には約700万人になると推計されている。また、軽度認知障害(MCI)者は400万人といわれ、その半数は適切なケアを行っても、5年後には認知症に進行するとされている。2025年問題だ。大変な事態になっているのである。
 厚生労働省は、認知症の高齢者が増加する中にあって、当初は早期発見・早期治療を目指していたが、認知症の予防に重点を置くこととし、2012年に介護予防・日常生活総合支援事業を創設した。その事業を実施するための、「介護予防マニュアル」では、「認知症を予防するためには、その前段階とされる軽度認知障害(MCI)の時期で認知機能低下を抑制する方法が現時点では最も効果的である」とされている。つまり、認知症の発病を予防することを最重要視しているのだ。
4 認知症患者の認知機能の改善に回想法という手法がある。回想法は、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラーが提唱したもので、当初はうつ病治療に行われていた。過去を語ることで精神が安定し、認知機能の改善も期待できる心理療法であることから、認知症患者のリハビリにも利用されるようになった。認知症は、記憶障害が進んでも古い記憶は比較的最後まで残っている。その特徴を生かした手法だ。回想法にはグループで行う方法と個人で行う方法とがある。最近、この方法は認知症の予防にも効果があると考えられている。多くの人々と出会い、交流し、懐かしい思い出話を語り合う。「話す」、「聞く」、「コミュニケーションをとる」という行為が記憶を維持し、脳の適度な刺激になり、認知機能の維持に効果があるとされている。
5 購入した受験テキストを読んでは忘れ、また読むという生活を三ヶ月ほど続けた。運転免許証取得のための勉強以来、久しぶりの受験だったが楽しかった。受験者は殆ど若い人たちだった。しかも施設で働いている人や家族の介護を現実に行っていると思われる方々が多かった。家族には内緒で受験したが何とか合格し、認知症予防支援相談士の認定証を頂いた。マイスターと我が名が表示されたカードを携帯しているが、相談を受けた実績は全くない。
新型コロナの感染が一日も早く終息し、民事局や法務局のOB会等に参加し、過去の苦労話や楽しかった思い出を語り合い、脳の刺激をうけ、楽しい時を過ごす。その効果として、5年後においても認知証は絶対に発症しない。言い忘れたが、軽度認知障害(MCI)の状態から5年後には、適切なケアをしても、その半数が認知症を発症すると推計されているが、40%は現状維持、10%が正常になるという。適切なケアに努めて10%を目指すのが現在の目標だ。
ボーッと生きてなんかおられないのだ!(小畑和裕)

実務の広場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.89 保証意思宣明公正証書の作成について(アンケート結果)

(羽田豊光)

 保証意思宣明公正証書の作成に当たっては、適正・迅速な事務処理のために様々な工夫をしておられることと思います。そこで、九公会では、昨年、会員に対するアンケートを実施し、各役場における取扱いを取りまとめ、その結果を周知していたところですが、会長の了承を得たので、皆様にご紹介します。

1 作成する上で工夫又留意している事項
⑴ 口授について
○ 保証の法律関係、効果について資料を渡して説明し、理解度を慎重に判断した上で、必要事項を口授させている。
○ 質問事項、特に保証リスクについては、具体的で分かりやすい表現に努めている。
○ 金融機関によって(同一の金融機関でも本店・支店によって)今回の民法の一部を改正する法律で規定された「事業に係る債務についての保証契約」等の理解度や、保証意思宣明公正証書に関わる理解度が異なることから、金融機関の担当者から保証人になろうとする者に対して事前に保証意思宣明公正証書に関して的確な説明がされていないケースが散見されるので、保証人になろうとする者の口授に関しても、時間をとって丁寧な対応を心掛けている。
○ 遺言と同様の方法で口授を求めており、保証意思宣明公正証書として特段の工夫等はしていない(主債務者又は金融機関担当者が同行することがあり、事前に説明等を受けることはあるが、口授の際は退席をお願いしている。)。
○ 民法第465条の6第2項第1号の口授は、保証意思宣明公正証書作成の際に行ってもらうことになるが、これが円滑にいくように、次の手順で、進めている。
 まず、端緒として、債権者、主たる債務者又は保証人予定者から電話が入ってくるので、保証意思宣明公正証書を作成することの趣旨と保証意思宣明公正証書を作成する前提として、保証人予定者が理解していなければならない事項、主たる債務者から情報提供を受けていなければならない情報について説明し、これらを確認するために所定の書類が必要であることを説明する。
 次に、保証人予定者に、当職が説明した書類を持参の上、公証役場に来てもらい、保証人予定者が、主たる債務の内容、自分が負うことになる保証契約の内容と保証リスク、主たる債務者からの情報提供事項について、理解しているかどうか、情報提供を受けているかどうかを聴取し、おおむね理解しているようであれば、保証意思宣明書について、説明をし、記入をしてもらう。保証意思宣明公正証書の作成日について予約をし、帰ってもらう。
○ 保証意思宣明書の各項目について、順次質問し、同質問に答えてもらうという手順で行っている。
○ 嘱託人に保証意思宣明書を準備して来所するよう依頼している。
○ 保証意思宣明書を粛々と読み上げてもらっている(保証意思宣明書を粛々と読み上げれば足りるように作成してもらっている。)。
○ 相談時に保証予定者に対し、公証人から質問する予定の内容を示しており、更に金融機関の担当者からもレクチャーを受けるなどして保証する内容をしっかり把握するよう伝えている。
○ 保証意思宣明書のほかに口授すべき事項を文書で伝えている。
○ 事前相談においては、法改正がされた経緯と改正民法の概要等を十分説明した上で口授を受けている。
○ 質問シートを作成し、それに従って口授を受けている。
○ 嘱託人及び金融機関に対し、公正証書作成当日に公証人が嘱託人に対してする質問事項について、当役場で独自に作成した「手続案内ペーパー」をあらかじめ渡している。作成当日は、嘱託人がメモを見て応答する方法を採っている。
○ 保証意思宣明書を見せないで口授してもらっている。
○ 保証予定者に、あらかじめ、口授をしてもらう事項を記載した資料(他の公証役場と共同で作成したもの)を交付し、口授の進行の一助にしている。
○ 債権者、主たる債務者を確認の上、まず、主たる債務者が借り受ける資金の使途を聞くようにしている。そのほとんどが共同住宅建築のための資金であるため、共同住宅の部屋数、賃料を確認し、それから借入元金、利率等を聴取し、共同住宅の入居率が低下し、金融機関等への支払いが滞った場合に保証人が支払わなければならないことを理解しているかを確認している。
⑵ 公証人使用欄(口授メモ)について
○ チェック式のメモを活用している。
○ 作成当日は、口授メモを利用し書き留めている。
○ 質問及び回答事項を簡潔にメモしている。また、メモ事項は、日公連文例委員会の執務資料の記載を参考に作成している。
○ 「情報提供」、「履行意思」については、保証人が全くの第三者の場合は、債権者との関係、保証人を引き受けた経緯、債務者の他の債務の返済状況等を聴取して、詳細な記載をしている。
○ 「違約金」や「その他」については、口授の後、契約書の当該条項等に当たり確認させた旨記載している。
○ 求償権者農業信用基金協会の求償債務のうち、求償元金の遅延損害金の額が利子補給に絡むものについては、県のホームページ等に掲載されている現在の利子補給率を嘱託人に示して確認させた旨記載している。
○ 口授が予定されている事項について、事前に提出された主債務者の情報提供義務に係る資料及び保証内容の裏付け資料を基にあらかじめ内容を記載しておき、口授内容と齟齬する点がないかどうかチェックするとともに、保証予定者の保証意思、保証リスクの理解度を確認している。
○ 相談があった段階で作成し、口授の際の参考にしている。
○ 主債務者との密接な関係性に着目して聴取しメモするよう心がけている。
○ 面談の際のメモ用として活用はしているが、記録保存用としては適さないと判断し、記録用のメモは別途パソコンで作成している。
○ 保証意思宣明書として公証人印を押印し、原本に連綴している。
○ 都城役場から情報提供を受けた様式を使用している。
○ 質問シートを作成し、利用している。
○ 別途、当役場独自の様式を作成し、使用している。
○ 口授事項に沿ったメモを作成している。
○ 効率化のために、公証人が、事前に提出を受けた「宣明書」に基づき口授メモを記載しておき、作成当日は、保証予定者の口授を受けて、口授メモの記載を確認する方法を採っている。
○ 日本公証人連合会作成の保証意思宣明公正証書執務資料(令和元年9月版)の口授メモを使用し、付属書類として公正証書に添付している。
⑶ 日程調整(口授日と作成日)について
○ 保証意思の有無を十分確認するため、当面、口授日と作成日を分けて行うこととしている。
○ 第1回目の相談日とは別に、公正証書作成日を定め、その日に口授を受け作成している。公正証書作成の場には、保証人予定者しか入れていない。
○ 口授日と作成日は、同一日としているが、事前に「保証意思宣明書」や資料等を持参等してもらい、その時に作成日時を確定している。
○ 口授日と作成日は、同一日としている。
○ 保証意思宣明書を提出して、おおむね1週間後に公正証書作成日をセットしている。
○ 保証人になろうとする者の都合や金融機関の要望も踏まえながら、口授日と作成日を同一日に設定する方向で、日程調整の段階から保証人になろうとする者又は金融機関と綿密な事前打合せを行っている。
○ 必ず事前に保証意思宣明書ほかの資料を持参してもらって口授事項を確認しており、原則、翌日以降に証書を作成(作成日に改めて口授)している。
○ 嘱託人が役場に来るのは、原則1回とする取扱いをしている。そのため、事前に宣明書、身分証、契約書等を郵送、ファクシミリ等により提出させ、電話で日程の調整を行っている。なお、直接、宣明書等を持参して申込みに来た場合にも口授はさせず、宣明書、契約書等の内容を確認する程度にしている。
○ 口授日と作成日を同一日にしているので、保証予定者にはあらかじめ確認事項をきちんと理解した上で来所するよう要請している。事前提出資料の提出を受けてから3日から4日後に口授日及び作成日を設定している。
○ 事前に打合せを行うことによって、口授から作成まで同一日に行っている。
○ 現時点においては、口授日と作成日を分けて行っている。
○ 保証契約日を確認した上で、相談日と証書作成日を調整している。
○ 保証人に資料を持参させている。受付から1週間以内には作成している。
⑷ 作成できなかった事案について
○ 連帯保証人は、92歳で、物上保証人でもある。主たる債務者は、その息子である。連帯保証人が所有する土地に共同住宅を建築する。借り入れる元金は述べたものの、その他の利息、損害金等の口授事項については述べることなく、他の話を繰り返す。認知症ではないかと思われた。その後、金融機関から公正証書を作成できなかった理由を聞かれたが、保証契約の内容を理解していない旨回答した。
⑸ 事務の効率化のために工夫している事項について
○ 口授日と作成日を分けることによって、不足資料の提出、保証意思宣明書の補正、公正証書の作成等がスムーズに行える。
○ 債権者(金融機関)、債務者及び保証人予定者からの照会に対応するため、必要書類のメモを作成し、FAXなどで送信又は交付している。しかし、最も重要なことは、主たる債務の内容(契約当事者、債権額、利息、違約金、損害賠償の定め、弁済期、弁済方法など)及び保証契約の内容が確定していること及び主たる債務者から保証人予定者に対し情報提供が行われていることなので、債務の内容が未確定であったり、主たる債務者からの情報提供がされていないと、保証意思宣明公正証書の作成には着手できない旨伝えている。
○ 作成に必要な書類を箇条書きした案内文書を渡している。また、あらかじめ、必要書類のコピー等をメール・FAX・持参してもらい、口授日に証書を交付できるよう準備している。
○ 事前の面談やファクシミリ等により、保証に関する民法等の説明と本人の保証意思等を確認して、作成当日の公正証書作成がスムーズに行えるようにしている。
○ 債権者(銀行等)へ十分な説明を行っている。銀行に対し、連帯保証人が理解できる資料の作成を依頼している。
○ 初期段階(相談段階)から、金融機関の担当者の理解度又は保証人になろうとする者の属人的要素を考慮した丁寧な対応を心掛けている。その観点からは、事務の効率化のためのツールとしては、公証人の説明段階での、法務省作成の関連パンフレット(法律の素人目線で分かりやすく新制度の要点が記載されたパンフレット)の活用が有用であると実感している。
○ 事案によっては、事前に嘱託人に公正証書案文を手交し、金融機関の確認をお願いしている(嘱託人の考えと金融機関の意向が相違していたため再作成を要した事案がある。)。
※編者注:令和2年1月16日付け日公連総括理事通知により、証書案文
  の事前手交は相当でないとされている。
○ 事前提出資料を基に保証意思宣明公正証書(案)を作成しておくとともに、口授内容が保証意思宣明公正証書(案)と齟齬することがないよう、保証予定者にはあらかじめ確認事項をきちんと理解した上で来所するよう要請している。
○ 主に金融機関の担当者と事前の打合せを行うことによって主たる債務の内容の把握に努めている。
○ 事前相談時に質問シート(保証意思宣明書)を渡し、記入押印し提出させ 
 ている。
○ 当初は、金融機関ごと、貸金、手形貸付、求償、根保証等の案件ごとに類型化しようとしたが、同じ銀行であっても融資案件ごとに口述事項(ひいては証書記載事項)がばらばらであることから、類型化による省力化は困難であった。現在は、保証意思宣明書の作成について、きちんと作成できるよう十分な説明を行い、提出があった保証意思宣明書については、その紙をスキャナで読み込み、OCRソフトでテキスト化し、それをMSワードに貼り付けることで作成している。300 dpiでの読み込みでは、誤読があったが、600 dpiでの読み込みでは、誤読が少なくなった。
○ 「都城公証人作成の案内書」により、相談時にこれを示して説明している。
○ 事前相談においては、債権者及び保証予定者に対して、口授事項と情報提供すべき資料等を十分説明するとともに、金融機関に対して、進捗状況を確認している。
○ 相談の際に、説明資料を渡して公正証書作成の流れを説明し、公正証書の作成ができないことのないように、口授事項については、十分に理解してから公正証書作成に臨むよう話をしている。
○ 事前相談後、主債務目録の内容については金融機関に確認している。
○ 当役場独自に作成した「手続案内ペーパー」を金融機関及び嘱託人に事前配布しておき、作成までの手続をスムーズに進められるようにしている。
○ 最初の相談には、金融機関の担当者を同席させている。本制度スタート直後は、金融機関の担当者の同席を認めなかった。そのため、嘱託人が必要書類を準備するのに、何度も金融機関と公証人役場を往復する等、嘱託人への負担が過大となったので、これを改めた。もちろん、公正証書作成の際には、金融機関の担当者及び主債務者等の同席は認めていない。ちなみに、遺言相談では、受遺者の同席を認めているので、その方法に準じた取扱いとした。
○ 相談段階で、金融機関に内容を確認しなければならない事があり、できるだけ金融機関の担当者も同席させるようにしている。
⑹ その他について
○ 口授の前に、民法改正の経緯及び改正民法の概要等を説明している。

2 主債務目録の記載事項
⑴ 利息(変動利率の場合)について
○ 利息、違約金、遅延損害金その他その債務に従たる全てのものの定めについては、その有無を記載し、有りの場合は、主債務に係る契約書等の定めを原則としてそのまま記載している。保証意思宣明書への記載もそのように指導している。
○ 該当事例がまだないが、変動利率の約定を記載する。
○ 利率に関する特別な事案(変動利率など)はない。
○ 契約書どおり記載する。
○ 変動利率に関して、具体的な利率等を数値で定める予定ではあるものの、保証意思宣明公正証書の作成時は、その利率が確定していないケースにおいて、保証人になろうとする者に保証リスクの上限を認識させる観点から、「年○パーセントの範囲内で定める利率」などと口授させるよう留意した事例があった。
○ 具体的に契約書どおりの記載をしている(保証意思宣明書には該当欄が狭いので別紙で記載(契約書の写し等)してもらっている。)なお、金融機関によっては、保証意思宣明書・契約書に「○○%以内で定める率」と記載されており、その場合は主債務目録にも同様の記載をしている。
○ 利率と金利が固定されている期間があればその年数を記載し、固定期間終了後については、その旨(短期プライムレ―トに連動など)記載している。
○ 金銭消費貸借契約書等などに示された利息の記載を相当程度敷衍して記載している。
 (例)利息 変動金利 年○.○○%(短期プライムレート±○.○○%の割合とし、長期貸出最優遇金利に基づき設定)
○ 「年○%(変動金利)」と記載している。
※編者注:変動利率に関する約定の内容をそのまま口授し、筆記すれば足りるとされている(執務資料10ページ)。
○ 契約書、特約書等のとおりに記載してもらっている。
○ 変動金利であるの旨の記載は行うが、詳細な記載は行っていない。
〇 債権者との確認のもと、契約書に記載されている変動利率の内容をほぼそのまま記載している。
○ 変動利率の記載は、記載事項が大量になるものがあるが、契約書案の利息欄に記載されているとおりに記載している。利息欄に記載されている引用部分は記載していない。なお、口授の際は、引用部分についても口述を求めている。
○ 保証意思宣明書に記載された利息を基に主債務目録を作成している。その前提として保証意思宣明書に記載された利息と金銭消費貸借契約書案とを照合している。保証意思宣明書は、嘱託人が金融機関の協力を得て作成している。
○ 契約書の変動利率の内容をほぼそのまま記載している。
○ 5年間は固定金利で、5年後に合意により金利を見直す。ただし、合意できないときは、変動金利となる事例の場合に、当該変動金利の内容等も記載すべきか苦慮する。
○ 利息〇%(変動金利)短期プライムレート-〇〇%
 ただし、変動金利利用期間中に任意に固定金利に切り替え可能(住宅ローンについては、金利選択型住宅ローンが多く、ただし書きのとおり記載してもらいたい旨要望あり。記載については、口授があれば記載することとしている。)。
⑵ 元金の支払期限又は支払方法について
○ 元金の支払期限等は、法定の記載事項(法定口授事項ではない。)(民法465条の6第2項)ではないため、保証意思宣明書に記載していないので、公正証書にも記載していない。
 ※編者注:法定口授事項ではないことから、保証意思宣明書には記入する欄が設けられていないものの、保証する債権の内容を確認するため、文例では、元金の支払期限(又は支払方法)が記載されています(執務資料37ページ)。
○ 通達及び種々の解説書に従い、「期限の利益喪失条項」などは書いていな 
 いが、保証人が保証リスクについて理解しているかという観点からすれば、本当はこれも書く必要があるかも知れないと考えている。
○ 執務資料14ページ12行以下に該当する事例(同額の金銭消費貸借が複数ある場合)でなければ、記載していない。
○ 支払期限又は支払方法を記載している。
○ 日公連文例委員会の執務資料では記載例が示してあるが、口授事項ではないので、原則記載していない。口授メモに記載することはある。
○ 元金の支払期限のみ記載している。
○ 原則として記載していない。
○ 当初、1か月程度は記載していたが、契約書案では300回の分割払いであったところ、公正証書作成後、銀行から「当初は300回で進めていたのですが、最終的に297回になりました。どうしましょう。」と相談があったこと等から、以後、同一内容の融資があって支払期限等で差別化が必要など、特に必要がない限りは、記載しないこととした。
○ 現在のところ記載しているが、法定の記載事項ではないので、今後は、記載しないようにしたいと考えている。
○ 元金の最終弁済期日を記載している。
○ 最終支払い期限、毎月の支払額を記載している。銀行からは返済期間 〇年〇か月、毎月払い 第1回○○円、第2回から第60回 〇〇円と記載してもらいたい旨の要望あり(年月を記載すると、融資実行日の変更があった場合に対応できず、再度保証意思宣明書の作成が必要になる。)。口授事項でないから、記載しない方向で検討中。
⑶ その他について
○ 日公連作成の執務資料(令和元年9月版)37ページの「主債務目録」に記載はないが、「違約金」及び「その他債務に従たる全てのもの」の2つの事項を追加記載し、「主債務目録」を作成している(民法第465条の6の第2項1号イ及び同項2号から)。
○ 「違約金」及び「その他主たる債務に従たる全てもの」については、法定口授事項であるから、当該項目に関する定めがあるかないかも記載する必要があり、当該項目に関する定めがない場合には、「定めなし」と記載する。
○ 保証人になろうとする者は、主債務の元本の内容については理解しているものの、利息、違約金、損害賠償その他元本債務に従たる全てのものの定めの有無やその内容については「無関心」、「無頓着」な者が散見されることから、保証意思宣明公正証書の制度趣旨等についての公証人による事前説明(金融機関の担当者に対する説明を含む。)の位置付けが重要と考える。
○ 違約金その他の事項の記載に苦慮することがある(執務資料に文例なし。基本的には契約書記載のとおりに記載すべきかと考えている。)。
○ 違約金及びその他保証すべきものについては、原則、主債務目録に記載していないが、例えば、嘱託人が宣明書に違約金「上限200万円」と記載し、また、口授し、かつ資料等からそれが裏付けられる場合などは、嘱託人の口授した事実を証書に反映させる観点から、その旨記載している。
○ 「違約金」、「その他保証すべきもの」を項目として追加している。
○ 違約金がある場合も、契約書の記載をほぼそのまま記載している。
3 保証予定者から提出された主債務者の情報提供義務(改正法第465の10)に係る資料及び保証内容の裏付け資料等の保管方法
⑴ 連綴方法について
○ 附属書類として公正証書原本に連綴(執務資料29ページ)。
○ 保証人予定者の印鑑証明書、保証意思宣明書、金銭消費貸借契約書・保証契約書(信用金庫取引約定書・保証約定書など)、主たる債務者の確定申告書の控え(附属書類を含む。)、財産債務調書、主たる債務者に他に債権者がいる場合の他の債権者の債権額及び履行状況が分かる書面、今回の債権者に担保を提供する場合の担保目録を連綴している。
○ 保証意思宣明公正証書に添付して保管している(資料等は添付の茶封筒の中に保管)。
○ 証書とは別に(連綴せず)保管している(分厚くなるため)。
○ 執務資料29ページによると、「資料を附属書類として公正証書原本に連
 綴することが望ましい」とあるが、「望ましい」との記載に止めてあるため、現時点では、参考資料扱いとし、連綴や契印などはしていない。
○ 主債務者の情報提供義務に係る資料及び保証内容の裏付け資料は、可能な限り保証意思宣明公正証書原本と連綴している。
○ 資料等は量が多いことから、当面は別冊として保管している。
○ 確定申告書、貸借対照表、損益計算書等が提出され、これらの資料により情報提供を受けた旨の記載がある場合は、連綴している。
○ 現在は、仮綴りの状況にある。
○ 資料等は別綴りとしているが、保証意思宣明書は原本に連綴している。
○ 参考資料として、別保管している。
○ 附属書類として保管している。
⑵ 契印について
○ 附属書類であるから契印する。
○ 保証人予定者の印鑑登録証明書のみ契印をしている。
○ 契印はしていない。
○ 連綴する書類には、契印をしている。連綴しない、参考で綴っておくものについては契印していない。
○ 契印を行うのは、本人確認資料までとしており、情報提供の資料等には契印を行っていない。
⑶ その他について
○ 保証人になろうとする者が、債権者や主債務者との間柄や人的関係から強く保証人になることを要請(懇願)されたような諸事情が窺われるケースでは、特に、保証人になろうとする者が「保証のリスク」を正確に認識しているか否かを公証人が確認するために、①情報提供義務の裏付けとなる資料等の確認と、②保証人になろうとする者が保証人になろうと決断した経緯や諸事情についても念入りに確認を心掛けている。
○ 情報提供に関する資料としては、基本的には確定申告書の写しの提供を受け、保管している。
4 その他について
○ 債権者の本店・商号(主たる事務所・名称)、主たる債務者の住所・氏名
 の記載の正確性を確保するため、会社の登記事項証明書、住民票又はそれらのコピーの提出をお願いしている。
○ 令和2年4月1日の改正民法施行前に、公証役場で、地元の主要銀行の融資部門担当者に対して(銀行担当者からの質問・相談を受ける形で)保証意思宣明公正証書に関する簡単な説明会を実施したが、同一の金融機関であっても本店・支店によって保証意思宣明公正証書に対する理解度に差異があることや、中小の金融機関(信用金庫・信用組合等)に対しては丁寧な事前説明が必要と感じるケースが多々あることから、機会を見つけて、公証人が講師となり、県内の全ての金融機関向けの研修等を企画する必要があるかもしれないと考えているところである。
○ 執務資料6ページにおいて「保証意思を確認する際には、この新たに創設された情報提供義務に基づいて提供された情報の内容も確認し、保証予定者がその情報も踏まえて保証人になろうとしているかを見極めることになる。」との説明がされているが、主債務者から保証予定者へ提供された情報中、主債務者の財務及び収支の状況等に関する情報に関する部分について、公証人として、どの程度の資料を求めて把握すれば足りるのか苦慮している。
○ 根保証の「主債務の範囲」について、嘱託人にどこまで口授させるか、また、具体的な記載内容(項目)をどうするかについて苦慮している。
○ 嘱託人は、主たる債務者と同居している配偶者、親、子がほとんどで、これらの嘱託人にどこまでの資料の提出を求めるか、苦慮している。
○ 主債務の内容及び支払方法が明確な債務弁済契約(元金均等分割弁済、利息・損害金なし。)について、事前相談を経ることなく、連帯保証人へのリスクの説明及び質問シート(保証意思宣明書)への記入により、債務弁済契約と連件で作成したことがある。
○ 居住用建物に附属している売電のための太陽光発電設備を含む融資案件についても、作成に応じている。このような融資も事業のための貸金等として保証意思宣明公正証書の作成が必要かどうかについて疑義があるものの、嘱託があれば作成している。
○ 融資案件に保証会社がつく場合の求償債務等保証意思宣明公正証書については、金融機関の担当者も理解していないことがあり、貸金等の原契約の保証意思宣明公正証書作成時に融資金融機関に保証会社の保証が付く案件なのか確認しながら対応した方が良いものがある。
  このような案件は、①原契約である貸金等連帯保証意思宣明公正証書及び②求償債務等連帯保証意思宣明公正証書の2件の公正証書作成が必要となる。(羽田豊光)