民事法情報研究会だよりNo.66(令和7年7月)

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向暑の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
去る6月21日(土)に、定時会員総会、セミナー及び懇親会を開催いたしました。ご参加いただきました会員の皆様、誠にありがとうございました。
今年の梅雨は、近畿・中国・四国・九州で平年より約3週間早く明け、東日本の太平洋側も事実上梅雨明けしたとみられるなど、梅雨前線が日本列島に居座り1か月ほど何日も雨の日が続くといった従来のイメージを覆すものとなったようです。これから猛暑日が続く厳しく暑い夏が来るようですので、熱中症対策を含め、体調管理に十分留意して過ごしていこうと考えています。(YF)

今日この頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

元気じゃっど(川野達哉)

【はじめに】
 令和5年7月1日に鹿児島地方法務局所属の川内公証役場(「せんだい」と読みます。)の公証人として任命され、約2年が過ぎました。業務を開始した当初は、当然ながら経験のない業務ですので、何から手を付ければ良いのか、全く手探りの状態でしたが、諸先輩や同期の皆様のお力添えのお陰で、何とか3年目を迎えることができました。今も、日々悩みながらではありますが、適正な業務が遂行できるように心掛けている毎日であります。
 さて、公証役場がある薩摩川内市は、鹿児島県の北西の薩摩半島側に位置し、平成の大合併により、川内市を含む1市4町4村が合併して発足し、薩摩地方北部及び甑島(こしきしま)列島を区域とする鹿児島県内で最大の面積を有する市であります。薩摩川内市の人口は、昭和60年には約10万8千人とピークを迎えましたが、その後は、年々減少傾向にあり、現在は約9万人となっています。薩摩川内市は、鹿児島市から高速道路を利用した場合には、片道約1時間の距離にあり、また、九州新幹線を利用すると、鹿児島中央駅・川内駅間が約13分、川内駅・博多駅間が最短で約1時間6分の所に位置しています。
【甑島列島】
 ところで、甑島といえば、薩摩川内市から高速船で約1時間の所に位置し、上甑、中甑、下甑の三つの島から形成されており、豊富な海の幸(「キビナゴ」を七輪で焼いたものがお薦めです。)や「カノコユリ」の群生地など、自然景観に恵まれた島です。また、令和2年8月に中甑と下甑を結ぶ甑大橋が開通され、甑島列島が陸路でつながることになりました。また、離島での過酷な医療状況と島での人間関係が情緒豊に描かれた原作の漫画やフジテレビ系で放映された「Dr.コトー診療所」のモデルとなった医師が勤務していた島でもあります。また、平成9年に公開された映画「釣りバカ日誌9」では、甑島がロケ地になるなど、釣りスポットとしても有名で、多くの釣り人が訪れる島です。私も以前は観光で甑島に行ったことはありましたが、こちらに来てからは、なかなか訪れる機会がありません。釣り好きの方には、お薦めの場所ですので、是非、一度は訪れてみてはいかがでしょうか?

【川内大綱引】
 また、薩摩川内市では、国の重要無形民俗文化財である「川内大綱引」が毎年9月の秋分の日の前日に行われ、市内はもとより、周辺地域からも多くの参加者や見物客が訪れて賑わいを見せる九州地方最大の綱引き行事があります。大綱引きは、綱練り(つなねり)と本綱(ほんづな)の二つから構成され、綱練りは大綱を練り上げる作業のことで、早朝より住民総出で長さ約365メートル、直径約40センチ、重さ約7トンの大綱を練ります。本綱は、実際の綱引きのことで、上方(赤組)と下方(白組)とに分かれ、引き方の指令・伝令役となる太鼓隊、引き手となる引き隊、引き手を妨害する押し隊などの役割があります。総勢約3,000人にのぼる上半身裸の若者たちが一斉に綱を引き合い、引き手の邪魔をしようと相手陣内に押し入ろうとする押し隊同士のぶつかり合いは勇壮なものです。

【甲冑工房】
 そのほか、薩摩川内市には、「甲冑工房丸武」というお薦めの観光施設もあります。ご存じの方もいるとは思いますが、同施設では、映画や大河ドラマなどに使われる甲冑(鎧・兜)の展示や製造工程を見ることができます。この丸武という会社は、昭和33年に、釣竿メーカーとして設立されましたが、昭和48年に釣竿製造不況のため、創業者の趣味が高じて甲冑のレプリカ製造に転身し、その後、ドラマや映画で観る甲冑のほとんどが、この工房から産み出されているそうです(国内シェアは8割以上)。休日に工房に出かけると、外国人の観光客もいて、鎧・兜の人気の高さがうかがわれるところです。また、近年は、アメリカ大リーグで活躍している大谷翔平選手がエンゼルスに在籍中に、ホームランを放った選手に兜をかぶせるパフォーマンスがありましたが、この兜も丸武で制作されたものが使用されていました(税込み33万円だそうです。)。穴場スポットとして、戦国時代などの歴史好きの方にはお薦めです。

【芋焼酎】
 あと、鹿児島と言えば、芋焼酎です。県内には数々の芋焼酎がありますが、鹿児島県を代表する三大芋焼酎と言われる3Mは、「魔王」、「森伊蔵」、「村尾」の三つの銘柄で、それぞれ特徴的な味わいがあり、芋焼酎ファンから高い支持を得ています。その中で、「村尾」は、薩摩川内市にある村尾酒造が製造する芋焼酎で、芋焼酎本来の重厚感がある味わいが特徴のようです。ただ、3Mの焼酎は、定価で入手できるのは、抽選販売や一部の酒屋のみで、なかなか手に入らないので、高値でインターネット等により取引されています。高値のため、自宅で「村尾」を飲むことは、ほとんどありませんが、現在も、現役時代ほどの酒量には及ばないものの、仕事が終わった後の「だれやめ」(※)で、よく鹿児島で飲まれている「島美人」、「黒伊佐」の焼酎をたしなんでいます。
 ※「だれやめ」は、南九州の方言で、一日の疲れを癒やすために晩酌で焼酎などを飲むことを指します。「だれ」(疲れる)をやめる(止める)という意味です。

【公証役場の紹介】
 それでは、公証役場について紹介します。
 現在の公証役場は、平成28年7月に国道3号線沿いの川内高校の隣に移転してきました。それまでの役場は、建物の2階部分にあり、1階には学習塾が入居しており、エレベーターがなく、高齢の方や車椅子利用者などの2階事務室での対応が困難な来客者への応対の際には、1階にある学習塾の教室を借りていたとのことです。
 そういったこともあり、前任の内木場公証人が、現在の事務所の賃貸人である不動産会社と交渉した結果、公証役場用として不動産会社が建築する新築建物(平家建)を借りることで話がまとまり、書庫の収納スペースの確保やバリアフリーに配慮した現在の事務所へ移転しました。
 次に、当役場の令和5年と令和6年の事件数の動向についてみると、定款認証が約22パーセント減に対し、件数自体はまだ少ないですが、任意後見契約公正証書が約40パーセント増でした。また、遺言公正証書が約30パーセント増と、高齢者社会の進行や相続登記の義務化等により、任意後見契約公正証書及び遺言公正証書の件数が増加傾向にあります。また、出張による遺言公正証書の作成では、薩摩川内市やその近辺の市のほかに、自動車で片道約1時間40分の距離にある薩摩半島の南端にある枕崎市(台風が上陸する時に、よくニュースで放映される市、また、かつお節の生産量が日本一です。)まで出張することもあります。
 ところで、公正証書作成の需要拡大のための広報活動の一環として、いわゆる終活等に関する講師派遣等の要請に関して、日本公証人連合会から全国社会福祉協議会を通じて、各都道府県・市区町村の社会福祉協議会に対しても通知が発出されているところ、その影響かもしれませんが、従来からの薩摩川内市の「市民後見人養成講座」における講演に加えて、令和6年からは、新たに、薩摩川内市以外の社会福祉協議会からも、ケアマネージャーを対象とした研修会や成年後見センターでの研修会の講演依頼がありました。また、令和7年4月からは、市の「心配ごと相談」において相談員を担当することになり、相談者から遺言公正証書を作成したいと言われることもありました。
 最後に、このような広報活動を通じて、目に見えた効果が出るまで時間は掛かると思いますが、これからも、地域住民の方と接する機会を捉えて、公証業務の利用拡大に取り組んでいきたいと考えています。また、日々の相談のきっかけをみると、知人の紹介で公証役場を訪れる相談者も少なからずいますので、今後も、相談者に対して丁寧な対応を心掛けていきたいと思います。 
    (鹿児島・川内公証役場公証人 川野達哉)

令和7年5月・新宮での「今日この頃」(三橋 豊)

皆様、お元気ですか。
新宮に住んで、早3年半が過ぎました。
今回は、新宮公証役場でのトピックスや、新宮での生活について、お伝えします。

5月9日金曜日 後見人について
この日、任意後見契約を3組6件調印しました。
 一件目は、夫婦の後見人を、夫の姪がそれぞれ受任する契約です。
 姪は大阪に住んでいるので、相談時に、後見人の事務を説明し、距離が遠いが大丈夫か確認しました。また、身近にいる夫婦が互いの後見人になる考えはないかも尋ねました。しかし、夫婦はいつも行動を共にするから第三者が良いとのこと。また、近所で後見を任せる人がいないので、姪に頼むとの意思でした。姪も、叔父夫婦は元気だから大丈夫との反応で、現実的に後見する場面を想像していない様子が気に掛かりました。
 身寄りのない夫婦の相談が多く、今後も同様の後見契約はあるでしょう。今は元気なご夫婦でも、いざというときに夫婦の一方が配偶者の身の回りの事務をすることができない不安定さを感じました。
 二件目は、長期に入院している姉の後見を、3人の弟妹が受任する契約です。
 長年、姉の面倒を見ている年長の弟は既に70歳代で、車を運転せず、病院まで電車とバスを乗り継ぎ、片道2時間かけて通っています。その弟から姉との後見の嘱託があったとき、私から他の弟妹と相談してはどうかと提案しました。車を運転し、10歳以上も若い弟妹の方が、後見の事務をするにも適当と考えたからです。すると、兄弟妹で話し合った結果、3人で後見人になると意思表明がありました。
 病院にて証書を作成するとき、姉は嬉しそうに笑顔を見せていました。後で話を聞くと、年少の弟が姉に会うのは数年ぶりで、妹はもっと姉に関わらなければならないと話してくれました。
 独り身の後見を誰がするのか、地方において大きな問題です。周囲の親族が関わり、身の回りの事務をサポートできれば良いなと実感しました。
 三件目は、独居の高齢女性で、全く親族がいないため、近所に住む付き合いの深い知人女性が後見を受任する契約でした。一回り以上若い知人女性は、職場の後輩だったようで、日頃から会話を交わしているとのこと。周囲とのコミュニケーションが、終活においても大事な役割になると思い知らされました。
 任意後見契約が増えるにつれ、様々な家族関係を見聞きします。老後の財産の管理や療養の看護のため、委任する人、後見人になる人に、後見事務の内容を丁寧に伝えながら、高齢者やその家族、周囲の方々が安心して暮らせるようになればと感じた一日でした。

5月10日土曜日 ストレス解消策! 
 連休明けの休日、畑にトマト、ナス、唐辛子、ししとうの苗を植えました。
 借家の一部にある畑は、縦10メートル、横5メートル程で、転居当時は砂利が混じり雑草が生い茂る放棄地でした。仕事を終えた後、毎日少しずつ、草を刈り、小石を取り除き、土地を耕して、再生させてきた畑です。化学肥料は一切使わず、家庭で出る野菜くずなどを土に混ぜ、熟成させて微生物を増やし、それらを肥料として土壌を改良し、一年一年、野菜作りを楽しんでいます。
 トマトは、育つにつれて枝葉が伸びるので、縦に支えを立て、横に麻紐を張って、その成長を助けます。ナスやししとうは、1本の支柱に茎を緩く八の字に紐で結び、風に倒れないよう支えます。また、暑さ対策に、刈り取った雑草をそれぞれの生え際に敷き、遮熱して、保温性を高めています。夕方に土や葉に触れ、蝶やテントウムシを見つけると、自然とストレスが解消されているようです。
 前の年に育てた大葉やエゴマは、収穫を終えた秋に種が落ち、春になると畑のあちこちで葉を広げます。その芽生えを見つけた時は、つい顔がほころんでいます。大葉はマグロの刺身に添えて、エゴマは自家製のタレに浸して、朝ご飯に巻いて食し、自然の栄養をいただいています。
 昨年の実から取ったオクラの種は、栽培用のポットで発芽し、双葉に成長しました。この記事が読まれる頃には、美味しく実っていることでしょう。
 野菜たちの成長を楽しみに汗をかく、のどかな田舎の休日です。

5月20日火曜日 指紋押捺確認??
 この日は、初めての事実実験公正証書の作成です。
 それも、指紋押捺確認という耳慣れない事例が嘱託されました。
 日本人の嘱託人によると、ニュージーランドに妻が永住していて、自分も同国に住みたい、ビザを取得するには、過去に在留歴のあるカナダ政府に対して無犯罪証明を取り寄せる必要がある、その申請のために指紋を提出しなければならないとのことでした。
 最初の電話で「指紋を押しているところを公証人に証明してほしい。」と言われ、何のことか理解できず、各地の公証人に電話をすると、前記の公正証書を作る事実実験であることが判明。ただし、もっぱらこの証書は、県警本部のある県庁所在地の公証役場で作られることが多いと分かり、和歌山及び京都の公証役場に指導を仰ぎ、資料などを送っていただきました。
 事務の内容は、令和2年11月の日公連通知に基づくのですが、嘱託人に交付する正本に特徴があります。通常は、「嘱託人の請求により、令和年月日、原本に基づきこの正本を作成した。」旨の認証文を付記しますが、コピーでは当該政府の申請に使えない場合が起こり得ます。そこで、「原本のコピー」と分かる文言を記載しない特例があり、この点に留意して準備をしました。
 この日、警察署に出向いて、嘱託人が警察官の前で指紋を押捺する現場を確認し、その場で公証人が指紋票に署名、役場に戻り証書の原本及び交付用の正本(正本の表記はない)に嘱託人とともに署名し、公証人は押印して、英文のCertificateにサインし、スタンプを押して、指紋票の原本を添付した一部を嘱託人に交付し、他の一部を原本として保存しました。
 事実実験は貸金庫の確認などが一般的ですが、新宮の警察官も初めてという指紋の押捺確認を作成して、「また、あるかも?」と思った出来事でした。

5月31日土曜日 マグロを食す! 
 週末の楽しみは、草野球の練習と、夕飯でいただくマグロです。
 新宮市の隣、那智勝浦町は、マグロの水揚げで有名な港町で、町中にはマグロの無人販売所があります。パックに入った新鮮なマグロが、300円から2,000円ほどで冷蔵のショーケースに並び、客は集金箱に現金を入れて買い求めます。田舎ならではの信用販売で、お金を間違えないよう、慎重に確認して支払いします。
 マグロと言えば、大間のマグロで知られるクロマグロや、海外で漁獲され、冷凍で運ばれるミナミ(インド)マグロなどを思い浮かべますが、販売所に多く出回るのは、メバチ、キハダ、そしてビンチョウなどの生マグロです。1パック500円程のこれら3種のマグロを買い、土曜日は刺身で食べ比べ、日曜日はカルパッチョにして、残りは月曜朝にごま油とのりで和えてマグロ丼でいただきます。
 中でも、冬から春の時期に出回る、もちビンチョウと呼ばれる獲れ立てのビンチョウマグロは、食感がモチッとしていて、弾力があり、少し醤油や塩を付けると、マグロのうま味を味わうことができます。まさに、絶品です!
 本紙の原稿締め切りを前に、今週も地物の美味しいマグロをいただく、今日この頃です。 
               (和歌山・新宮公証役場公証人 三橋 豊)

実務の広場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.107 公共交通機関を利用できない交通過疎地域における出張の際の旅費額について(小田切 学)

1.はじめに
 旭川地方法務局管内には、51の市町村(内訳:8市38町5村)あり、北のさいはて(日本最北)の公証役場である名寄公証役場が出張する可能性のある市町村は、旭川地方法務局の名寄支局管轄、紋別支局管轄、稚内支局管轄及び留萌支局管轄の5市22町4村(一部旭川公証人合同役場の出張範囲と重複します。)になります。
 しかしながら、それぞれの市町村へ出張するには、交通の便が著しく悪く、名寄市を除く4市を含む30の市町村への出張に際しては、公証人自らが自家用自動車を運転して出張し用務を行っています。

2.出張に際して(自家用)自動車を使用しなければならない理由
 当職が出張するに際し、(自家用)自動車を使用しなければならない理由を30の市町村を代表する4市(距離の遠い順に、稚内市、留萌市、紋別市及び士別市)について説明させていただきます。
 (1) 稚内市
 名寄市から鉄路で183.2㎞(陸路169㎞)離れた場所に位置し、公共交通機関であるJRを使用して往復するにも、往路は日に5本(うち、特急3本)、復路は日に6本(うち、特急3本)しか列車がなく、そのうち往路は2本、復路は3本が普通列車という状況です。
 参考までに、列車の時刻表を掲載しますと、
  名寄→稚内(往路)
     (名寄発) (稚内着)    (所要時間)
    ①  7:53 → 12:06 普通列車   4時間13分
    ②  9:56 → 12:42 特急列車   2時間46分
    ③ 14:31 → 17:25 特急列車   2時間54分
    ④ 14:59 → 19:51 普通列車   4時間52分
    ⑤ 21:03 → 23:47 特急列車   2時間44分
   の5本であり、公正証書を作成するために利用できる列車は①と②の2本のみとなります。
  稚内→名寄(復路)
     (稚内発) (名寄着)   (所要時間)
    ①  5:22 →  8:46 普通列車   3時間24分
    ②  6:36 →  9:23 特急列車   2時間47分
    ③ 10:29 → 14:17 普通列車   3時間48分
    ④ 13:01 → 15:48 特急列車   2時間47分
    ⑤ 17:44 → 20:30 特急列車   2時間46分
      ⑥  18:11 → 21:49 普通列車   3時間38分
 証書作成後に帰庁するために利用できる列車は、⑤と⑥の2本のみであり、通常の勤務が終了する時間を過ぎてからの列車への乗車となり、著しく合理性に欠けます。

 (2) 留萌市
 名寄市から156㎞離れた場所に位置する留萌市までの出張は、公共交通機関を利用した往路は次の2パターンがあり、証書作成のために利用できると考えられる時間帯のものは、各1つとなります。
  ア 名寄→留萌(往路)
   (ア) 名寄市→旭川市→滝川市→留萌市と移動する方法
 名寄(JR)6:45発→旭川8:15着、旭川(JR)8:30発→滝川9:02着、滝川(バス)9:16発→留萌10:32着(所要時間3時間47分)
   (イ) 名寄市→旭川市→深川市→留萌市と移動する方法
 名寄(JR)9:25→旭川10:19着、旭川(JR)10:41発→深川11:06着、深川(バス)12:14発→留萌13:15着(所要時間3時間50分)
*なお、(イ)の方法による場合に、深川11:11発のバスがありますが、JRを下車してからバスへの乗り換えまで5分しか時間がなく、過去に利用したことがない駅で、駅からバス停まで5分で移動しなければならないため、利用不可と判断しています。
  イ 留萌→名寄(復路)
    午後に名寄に戻る移動ができるのは、
   (イ) 留萌市→深川市→旭川市→名寄市と移動する方法
 留萌(バス)14:08発→深川15:28着、深川(JR)16:06発→旭川16:25着、旭川(JR)16:40発→名寄18:14着(所要時間4時間6分)
   (ア) 留萌市→滝川市→旭川市→名寄市と移動する方法
 留萌(バス)14:50発→滝川16:13着、滝川(JR)16:28発→旭川17:05着、旭川(JR)18:00発→名寄19:15着(所要時間4時間25分)
 証書作成のために利用できる方法は、往路・復路とも方法が2つに限定されてしまうこと、往路に(イ)の方法を用いた場合、復路が(ア)の方法となり、往路と復路で経路が違うこと、待ち時間などに無駄な時間を費やしていることなどを考えるとやはり合理的とはいえません。

(3) 紋別市
 名寄市から陸路で93.2㎞離れた場所に位置する紋別市までの出張は、JR名寄本線(名寄-遠軽間138.1㎞、名寄-紋別間は93.1㎞)が廃止になったことから、JRで直接行くことができなくなっており、公共交通機関で出張するためには次の2つの方法が考えられます。
  ア 興部町で路線バスを乗り継いで出張する方法
 路線バスを乗り継ぐ出張は、某テレビ局の路線バスを乗り継ぐ旅番組のようですが、往路・復路とも5つの方法しかなく、参考までにその方法を掲載しますと、
   (ア) 名寄→紋別(往路)
     (名寄発)(興部着) (興部発)(紋別着) (所要時間)
    ①  5:52 →  7:25    8:20 →  9:01    3時間09分
    ②  5:52 →  7:25    9:13 →  9:56    4時間06分
    ③ 10:17 → 11:50   12:08 → 12:51   2時間36分
    ④ 13:02 → 14:35   16:04 → 16:47   3時間47分
    ⑤ 16:55 → 18:30   18:36 → 19:19   2時間22分
 の5つの方法(①と②の名寄発のバスは同じバス)であり、公正証書を作成するために利用できるバスは③の1本のみとなります。
   (イ) 紋別→名寄(往路)
     (紋別発)(興部着) (興部発)(名寄着)  (所要時間)
    ①~③は紋別を午前中の出発のため省略します。
    ④ 13:52 → 14:38   14:55 → 16:25   2時間33分
    ⑤ 16:49 → 17:33   19:05 → 20:35   3時間46分
 証書作成後に帰庁するために利用できるバスは、⑤の1本のみであり、通常の勤務が終了する時間近くの乗車となり、著しく合理性に欠けます。
*④のバスは、往路で12時51分に紋別のバスターミナルに到着し、その後、1時間01分の間に、遺言者等の自宅まで移動し、公正証書を作成した後、再びバスターミナルまで移動することは不可能に近いため除外しています。
  イ.JRで旭川まで移動し、旭川から高速バスで出張する方法
  確かに、この方法で移動することはできるものの、旭川から紋別までの高速バスは日に2本(12:45発と17:15発)しかないため、公正証書作成のための出張に利用することはできません。
  ウ.JRで旭川を経由して遠軽まで移動し、遠軽からバスで出張する方法
    往路(名寄市→旭川市→遠軽町→紋別市)
    名寄(JR) 6:45発→旭川 8:15着、旭川(JR・特急) 8:31発→遠軽10:29着、遠軽(バス)11:10発→紋別12:35着(所要時間5時間50分)
    復路(紋別市→遠軽町→旭川市→名寄市)
    紋別(バス)14:35発→遠軽16:00着、遠軽(JR・特急)16:23発→旭川18:22着、旭川(JR)18:41発→名寄20:09着(所要時間5時間34分)
 この方法で出張する場合に、利用できるJRとバスは上記のとおり往路・復路とも各1つの方法しかなく、移動時間の合計が11時間を超えることから、公正証書作成のための出張に利用することは合理的ではありません。

 (4) 士別市
 名寄市から鉄路で22.3㎞(陸路23.6㎞)離れた場所に位置し、公共交通機関であるJRを使用して往復するには、往路、復路とも日に15本(うち、それぞれ特急3本)ありますが、往復で利用できる時間帯の列車の時刻表を掲載しますと、
  名寄→士別(往路)
    (名寄発) (士別着)         (所要時間)
    ①~③は早朝の出発のため省略します。
    ④  9:25 →  9:40 特急列車     15分
    ⑤ 10:08 → 10:31 普通列車     23分
    ⑥ 11:01 → 11:26 普通列車     25分
    ⑦ 13:37 → 13:57 普通列車     20分
    ⑧以降の列車は到着時間が午後3時以降となるため省略します。
   の4本であり、復路は、
   士別→名寄(復路)
     (士別発) (名寄着)     (所要時間)
    ①~③は午前10時までの出発のため省略します。
    ④ 12:20 → 12:41 普通列車     21分
    ⑤ 13:32 → 13:55 普通列車     23分
    ⑥ 14:15 → 14:29 特急列車     14分
    ⑦ 15:04 → 15:28 普通列車     24分
    ⑧ 16:06 → 16:27 普通列車     21分
    ⑨以降の列車は出発時間が午後5時50分以降となるため省略します。
 の5本となります。これを見る限り、公共交通機関での出張が十分可能なように思えますが、士別駅から出張先(用務地)までの移動にはハイヤー(タクシー)を使うこととなり(ハイヤーを利用する場合、ハイヤー会社に電話をかけて士別駅まで呼ばなければ乗車できません。)、混雑の度合いによっては、直ちに乗車することができず、やはり合理性に欠けます。
 これらのことから、いずれの市へ出張するにも(自家用)自動車を利用するのが最も合理的と考えられるのです。

3.利用する自動車をハイヤー(タクシー)として、公証役場から目的地まで利用することについて
 公証役場から、出張先(用務地)までの移動に、ハイヤー(タクシー)を利用すると非常に便利でしょうが、次の理由から利用することはできないと考えます。
 道北地方(名寄市、稚内市など)のハイヤー(タクシー)料金は、旭川B地区の料金となり、その計算は、以下のようになります。
 最初の1,400mまで720円、以後227m毎に80円
 この算式で、名寄から4市までの運賃(片道)を計算すると、
  名寄→稚内(169㎞)
   (169000-1400)÷227=783.33
     ∴720円+784×80円=63,440円(片道)
  名寄→留萌(156㎞)
   (156000-1400)÷227=681.06
     ∴720円+682×80円=55,280円(片道)
  名寄→紋別(93.2㎞)
   (93200-1400)÷227=404.41
     ∴720円+405×80円=33,120円(片道)
  名寄→士別(23.6㎞)
   (23600-1400)÷227=97.80
     ∴720円+98×80円=8,560円(片道)
 となり、公共交通機関を利用する場合に比べて著しく高額になってしまうため、出張に利用することはできないと考えます。

4.自家用自動車を利用する場合の旅費額(実費額)の計算と請求額について
 (1) 稚内市への出張について(請求額20,000円)
 当役場では、基本的に公共交通機関(JRを優先する)で最寄り駅まで行き、最寄り駅から出張先(用務地)まではハイヤー(タクシー)を利用する方法を根拠に旅費額を決定しており、ハイヤー(タクシー)の料金は、片道2,500円(往復5,000円)で計算して旅費額を決定しています。
 つまり、公共交通機関の料金+5,000円を算定の基準として各市町村までの旅費額を決定しているわけです。
 それでは、稚内市への出張のための旅費額(20,000円)が正当な額となるのかについて、過去に、当職が実際に稚内市に出張した2か所で検証してみます。
 なお、名寄-稚内間のJR運賃(往復)は15,140円(指定席特急料金を含む。)とし、ハイヤー(タクシー)運賃は、旭川B地区の料金計算によります。
   ①稚内市富岡3丁目(JR稚内駅から5.6㎞)
   ハイヤー(タクシー)運賃(5600-1400)÷227=18.50
    ∴720円+19×80円=2,240円(片道)
 よって、JR運賃15,140円にハイヤー(タクシー)運賃2,240円×2を加えると19,620円となります。
   ②稚内市富士見5丁目(JR稚内駅から8.1㎞)
   ハイヤー(タクシー)運賃(8100-1400)÷227=29.52
    ∴720円+30×80円=3,120円(片道)
 よって、JR運賃15,140円にハイヤー(タクシー)運賃3,120円×2を加えると21,380円となります。
    ①②の金額の平均値は、
     19,620円+21,380円=41,000円
      41,000円÷2=20,500円
    と、平均で20,500円となります。
 したがいまして、稚内市への出張のための旅費額が20,000円となることの理由付けが正しいことが分かっていただけると思います。
 (2) 他の3市への出張について
 他の3市までの旅費額を決定する際にも、基本的に、公共交通機関(JRを優先する)で最寄り駅まで行き、最寄り駅から出張先(用務地)まではハイヤー(タクシー)を利用する方法で、旅費額を算定しています。
  ア.留萌市(請求額18,000円)
   (ア) 滝川経由の場合 片道9,160円(内訳:公共交通機関(片道)6,660円(JR4,760円、バス1,900円)、ハイヤー(タクシー)(片道)2,500円)、往復18,320円
   (イ) 深川経由の場合 片道7,810円(内訳:公共交通機関(片道)5,310円(JR4,210円、バス1,100円)、ハイヤー(タクシー)(片道)2,500円)、往復15,620円
 となり、深川経由の方が料金が安いですが、実際の出張では高速道路及び高規格道路を利用する(料金:士別剣淵-深川西(深川西から留萌までは無料区間)片道2,370円(往復4,740円)ため、有料道路の料金を考慮して、(ア)(イ)の平均値ではなく、高い方の滝川経由の料金を参考に18,000円を旅費額としています。
  イ.紋別市(請求額15,000円)
   (ア) 名寄(バス)→興部(バス)→紋別で計算した料金は、片道5,020円(内訳:公共交通機関(片道)2,520円(バス2,520円)ハイヤー(タクシー)(片道)2,500円)、往復10,040円
   (イ) 名寄(JR)→旭川(バス)→紋別で計算した料金は、片道9,800円(内訳:公共交通機関(片道)7,300円(JR3,700円、バス3,600円)ハイヤー(タクシー)(片道)2,500円)、往復19,600円
   (ウ) 名寄(JR)→旭川(JR)→遠軽(バス)→紋別で計算した料金は、片道11,030円(内訳:公共交通機関(片道)8,530円(JR7,200円、バス1,330円)ハイヤー(タクシー)(片道)2,500円)、往復22,060円
 ただし、(ウ)の方法は片道約6時間を必要とするため、利用できる条件(ちょうど良い時間帯へのダイヤ変更など)が整ったとしても、おそらく利用しないと考えられるため算定の根拠とはせず、(ア)(イ)の平均値で算定することとしました。
 よって、(ア)(イ)の平均額は(10,040円+19,600円)÷2=14,820円となり、これが紋別への出張の場合に、15,000円を旅費額としている算定の根拠となります。
  ウ.士別市(請求額7,000円)
    士別までのJR運賃は、片道580円(時間帯により特急を利用すると850円加算されます。)
   (ア) 普通列車利用の場合 片道3,080円(JR580円、ハイヤー(タクシー)(片道)2,500円)、往復6,160円
   (イ) 特急列車利用の場合 片道3,930円片道(JR1,430円、ハイヤー(タクシー)(片道)2,500円)、往復7,860円
   (ア)の額と(イ)の額の平均
    (6,160円+7,860円)÷2=7,010円
 士別市への出張の場合、特急列車を利用した料金と普通列車を利用した場合の料金の平均値を参考に、7,000円を旅費額としており、これが旅費額の算定の根拠となります。
   以上をまとめると
     (出張先)  (距離)                 (旅費額)
     稚内市  169㎞  (鉄路183.2㎞) 20,000円
     留萌市  156㎞                            18,000円
     紋別市   93.2㎞                          15,000円
     士別市    23.6㎞                             7,000円

 (3) 上記4市以外への出張について
 当職が出張する可能性のある全ての市町村までの旅費額は、上記のように公共交通機関を利用して出張した場合にかかる費用などを参考に、各市町村までの距離・要する時間及び有料自動車道路の料金なども勘案して算定しています。
 参考までに、各距離ごとの旅費額(往復)の基準は以下のとおりとなります(離島は、別途フェリー代、宿泊代の実費額を加算します。)。
     1.0㎞ 未満               0円
     1.0㎞ ~   4.0㎞     1,000円
     4.1㎞ ~   6.0㎞     2,000円
     6.1㎞ ~   8.0㎞     3,000円
     8.1㎞ ~  10.0㎞     4,000円
    10.1㎞ ~  14.0㎞     5,000円
    14.1㎞ ~  19.0㎞     6,000円
    19.1㎞ ~  25.0㎞     7,000円
    25.1㎞ ~  50.0㎞    10,000円
    50.1㎞ ~  70.0㎞    12,000円
    70.1㎞ ~ 100.0㎞    15,000円
   100.1㎞ ~ 130.0㎞    18,000円
   130.1㎞ ~ 175.0㎞    20,000円
   175.1㎞ 以上          24,000円
5 国家公務員等の旅費に関する法律(昭和25年法律第114号)第19条でで計算される旅費額について
  国家公務員等の旅費に関する法律(以下「旅費法」という。)第19条第1項では、「車賃の額は、1キロメートルにつき37円とする。ただし、公務上の必要又は天災その他やむを得ない事情により定額の車賃で旅行の実費を支弁することができない場合には、実費額による」と定めており、これを検討した4市の計算に当てはめると、次のような額になります。
    (出張先)   (計算式)        (旅費額)
    稚内市 169㎞×2×37円  12,506円
    留萌市 156㎞×2×37円  10,608円
    紋別市 93.2㎞×2×37円  6,882円
    士別市  23.6㎞×2×37円  1,739円
 旅費法の車賃の計算と、当役場の請求している旅費額には、およそ5,000円から8,000円程度の開差がありますが、次のような理由から当役場で請求している旅費額に正当性が認められるものと考えています。
 (1) 自家用自動車を使用することにやむを得ない事情があること
 上記2で説明したとおりのやむを得ない事情と、上記3で説明したとおり、ハイヤー(タクシー)を利用して実費額を請求することが嘱託人の過大な負担になること。
 (2) 公共交通機関を利用する場合より、時間的な制約がないこと
 公共交通機関を利用する場合と違い、嘱託人の希望する時間に出張先(用務地)に出向くことが容易となり、嘱託人の希望に応じやすくなるメリットがあること。
 (3) 公共交通機関を利用する場合の旅費額とほぼ同額であること
 旅費額の算定に当たっては、ご紹介した4市以外にも、全ての市町村への出張の旅費額は、公共交通機関を利用した場合の旅費額を算定の基準としており、嘱託人に余計な負担(公共交通機関を利用した場合の旅費額以上の旅費)を求めていないこと。
 (4) 有料自動車道路を利用した場合であっても、その料金を請求していないこと
 上記4(2)アの留萌市への出張のように、有料自動車道路を利用した場合であっても、その料金を請求していないこと。
 (5) 公証人が相当な危険負担をしていること
 特に、北海道では自動車を運転する場合、大きく2つの危険負担を強いられます。
 一つは、野生動物との衝突回避です。野生動物は、オールシーズン道路上に突如出没して毎年相当数が自動車と衝突しており、エゾ鹿の場合には、死亡交通事故も発生している状況にあります。
 もう一つは、冬期間の路面状況です。冬の北海道は、ブラックアイスバーンやホワイトアウトなど、車を運転するには過酷な状況になることが多く、出発時に晴れていても帰庁時には猛吹雪になっているということも何度もありました。

6 おわりに
 公証人が出張するための旅費については、当然のことですが、嘱託人との間でトラブルが生じないよう、請求する旅費額とその理由(公共交通機関を使用した場合とほぼ同額をいただくことになりますが、自動車を使用することで、嘱託人の希望する時間に出張先(用務地)に出向くことができる可能性が高くなることなど)をしっかりと説明し、請求する旅費及び日当について、嘱託人から事前に承諾を得ておくことが何より重要だと思っています。
                        (旭川・名寄公証役場公証人 小田切 学)

(編集者注)
〇 公証人手数料令第43条(抄)
 公証人は、その職務を執行するために出張したときは、次に掲げる日当及び旅費を受けることができる。
 一 日当(省略)
 二 旅費 交通に要する実費の額及び宿泊を要する場合にあっては、国家公務員等の旅費に関する法     律(昭和25年法律第114号)第21条第1項の規定により一般職の職員の給与等に関する法律(昭和25年法律第95号)第6条第1項第10号に規定する指定職俸給表の適用を受ける職員に支給される宿泊料に相当する額
〇 筆者の見解によれば、出張に自家用車を利用した場合の旅費として、公共交通機関を利用した場合の旅費とタクシー代の合計額に相当する金額を定額的に旅費として請求するとされています。
 しかしながら、積算に用いた交通手段と実際の交通手段とが異なっていることから、「交通に要する実費の額」を請求できるとする法令上の根拠を欠いた請求になるのではないかとの指摘もあり得るものと考えます。
 公証人の中には、実際の旅程、自家用車の燃費及びガソリンの単価等を換算して実費に近いと思われる額(ガソリン代)を請求している役場や、距離等に応じて定額的に請求している役場もあるようです。 定額的に請求する場合でも、掲載した考え方のように十分説明に耐える定額にすべきとの考え方からここに掲載したものです。

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