民事法情報研究会だよりNo.34(平成30年8月)

残暑の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。 さて、去る6月16日の前期セミナーでは76名の会員が参加して、元法務省人権擁護局長で弁護士の吉戒修一先生から「裁判、行政、企業における人権」についてご講演をいただきました。現在、講演録の冊子の作成中ですが、でき次第皆様にお送りいたします。(NN)

今 日 こ の 頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

成年後見制度低迷の原因・後見人選任のミスマッチ ミスマッチのない選任システムを構築しよう! (NPO法人高齢者・障害者安心サポートネット理事長 森 山 彰)

1 利用低迷の原因 我国の成年後見制度は、創設後18年を経過したにもかかわらず、その利用率は、現在おおよそ認知症高齢者約460万人、知的、精神障害者約340万人と推定される中で、平成29年末現在、制度の利用者数は約21万人、その利用率は2.6%程度で、極めて低迷していると言わざるを得ない。 そこで、この利用促進を図るため、平成28年4月「成年後見制度利用促進法」が制定された。次いで、翌29年3月、促進法で明らかにされた利用促進の「基本理念」や「基本方針」に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、「基本計画」が策定されたことは、周知のとおりである。 なぜ利用が低迷しているのか、この基本計画の冒頭に鋭い分析がある。簡潔に要約すると、「後見人に対する地域住民のニーズは、意思決定支援・身上保護重視の後見であるにもかかわらず、家庭裁判所では、財産管理重視の観点から第三者専門家を後見人に選任、ビジネスライクの後見を行ってきたため、利用者のニーズが充たされず、成年後見制度のメリットや素晴らしさが実感されていない。」と指摘し、その主要な原因が選任のミスマッチの積み重ねに求めている。

2 家庭裁判所における選任のやり方 その一般的な具体例を示そう。ここに登場するA女は、子供に恵まれず、長年連れ添った夫にも先立たれて、たまたま近くに住む姪B子の手助けで、細々と生活する独居高齢者である。常々A女はB子に対し、「もし、私が認知になったら、必ずあなたが後見人になって面倒を見てね」と頼み、B子もこれを快諾していた。やがて、A女に認知症状が出て、判断能力の診断をしてもらった結果、「成年後見」相当と出た。そこで、B子は約束に従い、自らを後見人候補として後見開始の審判申立てを行った。 ところで、家庭裁判所では、調査の冒頭、必ず次のような説明がある。「誰を後見人に選任するかは、裁判所の裁量に委ねられているから、後見人選任の審判がでれば、それに不満でも、即時抗告はできない。だからと言って、取下げを願い出ても、家裁の許可を得なければ、それもできない。」 この説明で、大抵の申立人や候補者は、圧倒されて萎縮してしまう。説明の態度は柔和でも、内容は、まったく威圧的である。 それでも、B子は、A女の後見人就任は本人の意思で、A女とは強い信頼関係で結ばれ、生活支援のノウハウも熟知しているので、「適任者は、自分以外にいる筈はない。」と確信していた。しかし、実際に選任されたのは、見ず知らずの専門家Ⅽだった。B子は泣き寝入りするしかなかったが,A女も、後見人Cと信頼関係が築けず、不満だらけの多い生活を送ることになった。 上記のような家裁の後見人選任の取扱いは、もちろん民法や家事事件手続 法に法的根拠があるから、違法ではない。しかし、仮に家裁が本人の自己決定権を尊重し、本人の身上保護を重視する観点から後見人を選任していたら、おそらくB子が選任されていたと思われる。そうだとすれば、選任権の乱用の疑念は残る。 仄聞するところ、このような家裁の選任のやり方は、全国津々浦々で行われているようである。ちなみに、制度創設当初の親族と第三者専門職における後見人の選任比率は、前者が9割で、後者が1割にも満たなかったのに対し、28年には、親族が3割弱に減少、専門職が7割を超えるまでに急増した。この急増の原因が、このような一方的で、威圧的な選任のやり方にあるとしたら、誠に嘆かわしいと言わざるを得ない。と同時に、この選任のやり方が、おそらく家庭裁判所に対する不信感を増幅し、延いては成年後見制度の信用失墜の原因になっていると判断せざるを得ない。

3 ミスマッチの防止策 この度の利用促進法における後見の担い手は、地域連携ネットワークに支援された市民後見人である。そこで、基本計画では、市区町村等一定の地域ごとに、権利擁護の地域連携ネットワークを構築し、そのネットワークが家裁に対し的確な情報を提供して、適切な後見人が選任されるよう支援する仕組みを作る計画である。そのため、検討すべき施策として、①.地域連携ネットワークと家裁との連携の強化、②.市民後見人候補者名簿の整備、③.市民後見人の研修、育成、活用等様々な施策を提案しているが、しかし、この程度の施策では、これまでの柔軟さを欠く家裁の態度から推測して、満足できる成果は期待できないのではないかと危惧される。 やはり、家裁の後見人選任のやり方が、「選任のミスマッチ」の元凶であることを十分認識してもらい、この点は踏み込んだ改善が必要だと思う。 第1の改善点は、地域連携ネットワークやしかるべき団体が、本人との適応性を調査し、後見人候補を推薦したときは、家裁はその推薦を尊重して、被推薦者を後見人に選任する仕組みにすべきである。そうなれば、家裁の裁量の幅が狭まって、身上保護重視のニーズが強い高齢者・障害者に対して、身上保護に殆ど関心を持たない特定分野の専門家を威圧的に押し付けるようなミスマッチは、激減するだろう。 第2の改善点は、現在における後見人選任のミスマッチの状況を見ると、後見人の選任基準を定めた民法843条4項の規定は、有って無きが如く、無視されている印象がある。しかし、このような規定がある以上、家裁が申立による後見人候補者と異なる後見人を選任したときは、そのような事案だけでも、選任基準の妥当性等について即時抗告ができるように改正すべきではないかと考える。 このような改正で、選任における家裁の強引で一方的な裁量が抑制され、即時抗告した者にも、選任理由が明確になるので、そのメリットは大きいと思う。

4 おわりに 成年後見制度利用促進法及びそれを受けた「基本計画」が策定され、33年度までの基本計画の工程表まで明らかにされたが、何と言っても、成年後見制度の運用主体は、家裁である。また、その手続を規律するのは、「家事事件手続法」である。したがって、プログラム法である利用促進法に盛られた基本理念や基本施策が、現実に具体化するかどうかは、制度の中枢に位置する家裁の取組み如何にかかっていることは、明白である。 他方では、促進法に盛られた基本理念や基本施策が、国民の賛同と支持を得ていることも事実であるから、家裁は、成年後見制度が超高齢社会で果たす役割を十分に理解して、率先垂範してその実現に努めることは、家裁に対する国民の信頼性向上に大いに寄与することになると思う。この面での家庭裁判所の積極的なリーダーシップを心から期待したい。

参考 民法843条4項 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となるべき者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

吉﨑さんのこと(小畑和裕)

吉﨑さんが亡くなった。彼は現役の公証人であり、余りにも早く逝ってしまった。訃報を聞いて驚愕した。悲しさよりも、何故だという気持ちや、彼を襲った病魔に対する怒り、悔しさの感情が先に立った。数か月が経た今もその死を受け容れられない。悲しくやるせない気持ちを解消する方法がなく鬱々とした毎日だ。思えば、彼との付き合いは長い。初めて会ったのは、30年余りも前だ。昭和61年4月から民事局第一課登記情報管理室で予算事務を共にして以来だ。厚生管理官室で活躍していた彼は、抜擢されて当時繁忙を極めていた予算係に異動してきたのだ。その頃の民事局・法務局は、世紀の大事業である登記事務のコンピュータ化に組織をあげて取り組んでいた。その事業の財政的基盤を支えるため登記特別会計制度は創設された。特別会計を所管することは、法務省や、関係省庁である大蔵省主計局司法警察係にとっても初めてのことであり、先例も経験もなくすべてが手探りだった。予算係は、登記特別会計の歳入・歳出予算の概算要求、獲得した予算の執行事務に加えて、毎月の手数料の収入予測に基づく資金の運用管理も重要な仕事だった。特に、6月、12月のボーナス時期には膨大な資金が必要になり、そのやり繰りには苦労が多かった。 また、登記特別会計が創設されたことにより、民事局・法務局が所管する予算も登記事務を中心とする登記特別会計予算と戸籍等を中心とする一般会計予算に分かれた。それにより、職員の所属や人件費、物件費、施設費なども二分して管理することになった。予算事務は複雑かつ困難化した。当然のことながら増員もなく、事務処理は繁忙を極めていた。そんな時に彼は新人として赴任して来たのだった。当時、「花の予算」という言葉があった。予算係が花形だという意味があるのかどうか不明だが、花(桜)の咲く頃がのんびりできる時期だという経験則があった。その時期に彼がひたすら予算書の読み込みをしていたことを思い出す。彼は明るく元気で気力・体力ともに充実していた。付き合いも良く、仕事も前向きで頑張り屋だった。特に彼の功績としていまも忘れられないのは、事務処理に初めてワープロを導入したことだ。というのも、当時は大蔵省に提出する予算の概算要求書は、各担当者ごとに手書きしていた。そのため、要求書に訂正や変更が出ると、全てのページを書き換える必要があり、大変な労力を要した。また、書き手の個性が出て、大蔵省の担当官から書かれている字が読みにくいとして清書して再提出するように求められたこともあった。そこで彼は、ワープロの活用を提案したのだ。ワープロはその当時まだ一般化されてはいなかったので、他の職員はその効果について半信半疑だった。しかし、彼は熱心にワープロの利便性を説き、実現した。出来上がった要求書はきれいで読みやすく、かつ訂正や変更にも簡単に対応できた。また、データや書式を保存しておけば、翌年度も利用できるという効果もあった。事務処理の合理化にもつながり良いことずくめだった。みな賞賛した。ただし、ワープロで要求書を作成したことが初めてなので、大蔵省主計局の担当官に対する説明で変換ミスを指摘され、平身低頭したことも一再ならずあったが。二年目以降の事務処理の合理化に大いに貢献したことは言うまでもない。コンピュータ化が進展するに伴い繁忙の度合いは益々進み、定時に退庁できることは殆どなく、土・日の出勤もごく普通のことだった。大晦日に予算速報を中央郵便局に持参し、全国の法務局に発送して、有楽町で年越しそばを食べて解散するのが通常だった。そんな時、彼がいつも嫌な顔をせず世話役を引き受けてくれた。懐かしい思い出だ。 古稀を過ぎても、老いていくということの意味がまだ何一つ分からない。ただ、彼の死を通じて一つだけ実感したことがある。ここ数年の間に、民事局で指導を受けた清水、藤谷両先輩を始め多くの人たちが亡くなられた。そして今また、彼が亡くなった。老いるとは多くの人々との別れを経験しながら生きるということなのかなと思う。「ハナニアラシノタトヘモアルゾ サヨナラ ダケガ人生ダ ― 井伏鱒二」 今はひたすら彼のご冥福を祈っている。

再登板(本間 透)

プロ野球が開幕して、スポーツニュースで贔屓のチームの勝敗結果が気になるところですが、日本では、中日の松坂投手の復活やソフトバンクの柳田選手の打率4割達成などが話題になり、アメリカでは、エンゼルスの大谷選手が投打二刀流で大活躍し、日米の野球ファンが興奮しています。 これとは全く次元が異なりますが、私は、一端リタイアした身でありながら、本年4月2日から公証人として野球で言えば再登板することとなりました。この経緯等を以下に述べます。 本年3月初旬に法務省の後輩の栄転の内報に接し、送別会の案内を木更津公証役場の吉﨑公証人(以下「吉﨑さん」といいます。)にメールしたところ、都合が悪くて出席できないとのことでした。ところが、数日して吉﨑さんが再手術するため入院したことが判明しましたので、吉﨑さんの病状を気にしていたこところ、3月20日に千葉地方法務局総務課長から自宅に電話があり、吉﨑さんの入院が長引きそうなので、4月から木更津公証役場の代理公証人をしてもらいたい旨の依頼がありました。私と吉﨑さんとは、法務省民事局で登記特別会計発足時の予算係で一緒に仕事をして以来公私にわたり長いお付き合いがあったことから、他ならぬ吉﨑さんのためならと思い、その依頼を受けました。その上で、吉﨑さんに「私が4月から貴殿の代理で木更津公証役場に行くので、治療に専念してじっくり養生してください。」とメールしたところ、「感謝します。早く復帰できるよう頑張ります。」と返信がありました。 代理公証人の発令は、4月2日とのことで、それに必要な書類について千葉地方法務局から取りあえず電話連絡があり、大至急必要書類を用意し、後日送付された書面を作成して同局に送付しました。 3月31日に吉﨑さんの病状が思わしくないとの連絡があったので、私は、4月1日の午後に吉﨑さんが入院している中野の警察病院に見舞いに行きました。 吉﨑さんは、3月20日に予定していた再手術ができず、ベッドから起き上がるのが困難な様子でしたが、私が「明日から吉﨑さんの代理で木更津公証役場に行くので、役場のことは心配しないで早く良くなってください。」と言ったところ、私の手を握って「本間さんに任せることができ、ありがたく安心しました。くれぐれもよろしくお願いします。」とおっしゃいました。 4月2日に千葉地方法務局に赴き、着任したばかりの三橋局長から、法務大臣からの公証人に任ずる辞令と木更津公証役場の代理公証人に任ずる辞令をいただくとともに、局長からの代理期間に関する辞令をいただいた後、木更津公証役場に赴きました。私の公証人の職印と確定日付印は、前任地で使用していたものを保管していましたので、証書作成と確定日付の交付には即対応できましたが、電子定款の認証に必要な電子証明書(カード)は、新たに発行され、19日から使用可能となりました。 それから10日後、吉﨑さんの訃報に接し、生前の何事にもエネルギッシュな吉﨑さんを思いうかべ、あまりにも早い逝去に愕然としました。私としては、少しでも吉﨑さんの霊に報いるためにも木更津公証役場の業務を滞りなく遂行しようと決意した次第です。 4月12日に千葉地方法務局の総務課長から電話があり、12日付けで法務大臣から吉﨑公証人の後任を命ずる辞令が発せられる旨伝達され、後日、同日付で法務大臣からの木更津公証役場の公証人に任ずる辞令をいただきました。そこで、私が4月下旬以降に予定していた平日の旅行等を全部キャンセルするとともに、吉﨑さんの通夜・告別式後、木更津公証役場での今後の業務遂行・役場運営について、改めて書記と打ち合わせました。これに伴い、各種事務機器等に関する契約や各種公共料金における契約者の名義変更の手続も行いました。4月25日に吉﨑さんの奥様が木更津公証役場に来られ、各種支払いに関する書類や経理・労務関係の帳簿等を引き継ぎました。 4月26日に千葉地方法務局長から電話があり、私の任期については、おそらく来年になると思われるが後任者が決まるまでお願いしたいとのことで、ショートリリーフの予定がロングリリーフになり、本格的に1年9か月ぶりに公証人として公証業務を行い、10年ぶりに電車通勤することになりました。 公証業務については、書記が優秀で仕事熱心なこともあり、あまりブランクを感じることなく遂行しております。通勤は、乗り換えに要する時間や電車の混み具合を考慮して往路と復路を変え、3回乗り換えてドア・ツウ・ドア片道2時間の道程です。このような生活は、脳の活性化と足腰の鍛錬になるものと考え、日々精進しております。 さて、毎年、現職の公証人が病で亡くなったり、長期療養を余儀なくされていますが、私も法務局の退職間際に初期胃がんが発見されたことから、その当時の最新の施術方法である内視鏡手術により、その部分の粘膜を電子メスで切除しました(入院期間1週間)。その後、いわき公証役場の公証人就任後2年目にその切除した胃壁に穿孔が生じたことから、あまりの痛みに耐えかねて妻に救急車を呼んでもらいました。救急病院での検査の結果、胃の内容物が腹部に充満して、このままだと腹膜炎になり命にかかわる状態であると医師に言われ、即手術となりました(その日は、私の満60歳の誕生日でした。)。開腹手術の結果、胃がんの前歴があることから、胃の3分の2と回りのリンパ節も切除されました。麻酔から目が覚めたら、集中治療室のベッドに固定され、二日間は面会謝絶でした。それから1か月入院し、退院後、食事制限に慣れ体力を回復するため、1か月自宅療養しました。 この2か月のいわき公証役場の業務は、相馬公証役場の当時の小原公証人に週2~3回来ていただき、代理公証人として対応していただきました。こうして私自身も被代理公証人の経験があり、代理公証人制度のありがたさを本当に痛感し、おかげで療養に専念することができ、病後の早期回復を図ることができました。 両方の立場を経験した私としては、現職の公証人が病気療養を余儀なくされた場合は、代理公証人制度等をもっと柔軟かつ機動的に運用できるような仕組にしていただき、安心して気兼ねなく療養できるようになればと願ってやみません。 (平成30年6月1日記)

静岡まつり大御所花見行列に参加して(板谷浩禎)

静岡市では、毎年4月初旬(今年は3月31日、4月1日)に静岡まつりが二日間にわたって開催されます。 静岡まつりは、「大御所・家康公が、大名・旗本などを引き連れて花見をした」という故事に倣い、駿府の街・静岡だけができる大御所の花見行列をメインに、桜の咲く頃のお祭りとして昭和32年に始まりました。この祭りも今年で第62回を数え「市民が参加するお祭り」となり、今年は二日間とも天候も良く桜も満開となり絶好の花見日和で静岡市中心街は多くの人々で賑わいました。 このように、静岡まつりは桜の咲く頃の静岡市の一大イベントですが、そもそも、なぜに私がその祭りに参加することになったのかというと、それは、これまで私が住んでいる地区(静岡市の東部)は静岡まつりへの関心度が低いため、静岡市と静岡まつり実行委員会が静岡まつりをより一層盛り上げるために、私共の自治会連合会に協力要請があったことによるものです。私は、法務局を退職と同時に自治会役員を10数年間務め現在に至っておりますが、その「お努め」に対するご褒美なのかどうかわかりませんが、約5千世帯の地区代表として大御所・家康公の行列奉行・彦坂光正の役柄で馬に乗り大御所花見行列に指名されることになりました。 さて、行列奉行という大役を引き受けたものの馬に乗るのは初めてであり、かつ、行列時間が約2時間と長時間であること、更には実行委員会から「過去には多くの見物客に驚いて馬が暴れ落馬したこともある」との事例を聞き少し不安を覚えましたが、大御所の行列奉行として静岡まつりに参加するという貴重な体験は、今後ないかもしれないと思い参加を決意しました。 私のように馬乗りの初心者には、2日間(1回の所要時間15分)の練習時間が与えられます。初心者にとって2回の練習は、大変貴重でありました。その効果もあり、本番は予想していたよりも堂々とした乗馬ぶり(?)であると自画自賛したところです。後から聞いた話ですが、11名の乗馬者の中から彦坂光正に一番大人しい馬を当ててくれるという静岡市実行委員会の配慮があったようです。 静岡市は、我が国の人口が少子高齢化・人口減少社会に突入した中で、人口減少対策は当然のこととして交流人口の増加にも力を注いでいます。私共の自治会連合会も静岡市と協調して「活気ある街づくり」に知恵を出していけたらと考えています。外国人を含めた多くの観光客が静岡空港や清水港、東名・新東名高速道路を利用して、来年の駿府の街・静岡まつり大御所花見まつりを盛り上げてくれたらと願っています。

※ 彦坂光正 江戸初期の駿府町奉行、今川義元の家臣の子として徳川家康に仕え、天正12年の長久手の戦で戦功をあげた。家康の駿府引退後は、駿府町奉行を務めた(朝日日本歴史人物事典から抽出引用した)。

遺言で家族の絆を取り戻した話(斎藤和博)

ある日、80歳代のご婦人が、遺言の相談でやってきた。いつものように、公証人室の中にご婦人を導き入れ、私の名前を名乗った後、受付用紙に住所、氏名、生年月日等を記載してもらい、具体的な相談内容に入っていく。 家族関係は、夫は、既に亡くなっており、子どもは長男と二男の二人だけ。私の内心では、そんなに難しい案件ではないなと思いながら、話を進めていく。 すると、長男は、大学進学とともに家を出て、その後、就職もし、結婚もしているが、長男が家を出た後、長男との交流が全くない状況だという。夫の葬儀にも来ないし、その時は、二男の手助けを得ながら夫の葬儀を行ったという。自分も高齢になったので、この際、遺言書を作成したいと考えているが、どのように考えて行けばいいのか分からないので、教えて欲しいというのが相談の趣旨であった。 そこで、「まずは、自分の財産を「不動産」と「預貯金」の大きく二つに分けて考えて、不動産はどのように相続させるのか?預貯金はどのように分配するのか?というように考えてみてはいかがですか。ただし、不動産の場合には、相続人二人の共有関係にすると相続の後に様々な問題が発生する可能性もあるので、なるべくならば、不動産の場合は一人の人に相続させた方がいいと思いますが、不動産については、どのように相続させたいと考えていますか?」と尋ねると、しばらく間があった後、「不動産は、やはり長男に相続させたいと思います。でも、いらないと言われたらどうしよう?…。」という答えが返ってきた。そして、「それでは、預貯金は、どのようにしたいですか?」と尋ねると、「二人に分けてあげたいと思います。どのように分ければいいかは、まだ、わかりません。」いう答えが返ってきたので、とりあえず、聞き取った内容を、【遺言内容(未定)】のタイトルを付して「1 不動産は長男に…。2 預貯金は、二人に(割合は未定)…。」と書いたメモを本人に渡し、「よく考えて、遺言の内容が固まったら、また来てください。」と話し、その日は終了した。 そのご婦人は車の免許を持っていない。近くに待機している車や自転車も見当たらなかったので、タクシーを呼びましょうかと声をかけたら、「いいえ、大丈夫です。歩いて帰りますから。」との一言。(唖然!)そのご婦人の入居しているケアハウスは、公証役場から8km以上はある。車なら15分程度だが、徒歩では2時間ほどはかかる距離。常日頃、何でも車を使って用を済ます私にとっては衝撃的な一言であった。聞けば、亡くなったご主人が介護のために施設に入居した際には、毎日、自宅から夫のいる施設まで歩いて通っていたとのこと。そのような日々を過ごしているうちに、ご婦人自身も体調を崩され、福祉関係者の勧めもあって、夫とは別の現在のケアハウスに入居したとのことでしたが、歩くことは苦になりませんとさらりと言われた。 その後、2か月くらい後に再度来庁され、「長男に電話で遺言の話をしたら、『俺は、一切財産はいらない。』と言われてしまいました。」とのこと。「それでは、不動産は二男に相続させることにしましょうか?…。預貯金はどうしますか?」と尋ねると「預貯金は、いくらもないけれども、私としては長男にも分けてあげたい。」という答えであった。 そこで、【遺言内容(未定)】のタイトルはそのままに先に渡した遺言内容を修正したメモを渡し、2回目の面談は終了した。当然、その日も徒歩で帰られた。 3回目の面談では、ご婦人は、「2回目の面談でもらったメモの内容を、長男、二男に伝えたところ、長男は、『俺は、お金もいらないから、弟に多くやってくれ。』という返事で、二男は、『不動産は自分が相続したい。』と言ってくれたので、不動産は二男に、預貯金は、長男に○分の●、二男に○分の△の割合で決めました。」とのことであった。よくよく聞いてみると、自宅は、現在、二男が住んでいてアトリエとして使っているということなので、落ち着くべきところに落ち着いたなと感じた。あとは、長男が、母の気持をくんで預貯金を受け取ってくれるか?という一抹の不安だけ。 いよいよ遺言公正証書作成日を迎え、滞りなく遺言公正証書は完成!。しばし雑談をしていると、ご婦人から、「先日、仏教でいうところのお盆の催しがあり、その席に、長男も出席してくれて、久しぶりに親子3人の時を過ごすことができました。」と、遺言書作成のいくつかの過程を経て、永らく交流の無かった家族の絆が戻ったことを、とても喜んで語ってくれた。そして、とびっきりの清々しい笑顔で、証人の車に同乗して帰路につかれた。 このご婦人の笑顔を励みに、残りの公証人の任期を全うしたいと思っている。

 

実 務 の 広 場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.60 離婚後の夫婦及び子の氏と戸籍について

1 はじめに 当役場にも、幼い子を抱えた若い夫婦、主にその妻が離婚に関する公正証書の作成について相談に訪れます。その多くは養育費に関することが中心となりますが、離婚前の相談であると、「離婚の合意は?」、「親権者、監護養育者は?」「離婚届出は?」という具合に話を進めているうちに、相談者が離婚後の自身の氏や子の氏がどのようになるのか、また、戸籍がどのようになるのかについて、ほとんど理解していないことに気付かされます。離婚後の氏や戸籍の変動は、離婚後の親子の生活にも大きく関わる問題であることから、当職は、この時とばかり、相談者に法務局時代に培った知識を、聞かれた以上にレクチャーすることになります。 この度、本誌への寄稿の機会をいただいたことから、離婚後の夫婦及び子の氏と戸籍について、少し書かせていただくことにしました。 なお、本稿は、戸籍事務経験のない方の執務の一助となればと思い、寄稿を試みたものでありますので、なにを今さらと思われる方につきましては、御容赦をお願いします。 2 婚姻中の夫婦及び子の氏と戸籍 人の称する氏は出生時に定まり、その後、婚姻・離婚等の身分変動や氏の変更手続に伴い当該人の称する氏も変動します。これら事実及び身分変動等により、当該人の称する氏は、全て民法の規定により定まります。そして、この民法により定まった氏を基に、戸籍法の規定により当該人の入籍する戸籍が定まります。 最も基本的・典型的な例を挙げれば、いずれも親の戸籍に在籍する夫甲野太郎と妻乙川花子が夫の氏を称して婚姻すると、戸籍は甲野の氏で太郎を筆頭者とする夫婦の新戸籍が編製されます(民法750条、戸籍法16条)。この場合の花子について考えると、婚姻という身分変動があり、これに伴い氏を改めるという氏の変動が生じ、入籍戸籍が定まったということになります。そして、この夫婦の婚姻中に生まれた子、長男一郎は父母の氏を称し(民法790条)、父母の戸籍に入ることになります(戸籍法18条)。 3 離婚後の夫婦及び子の氏と戸籍 (1) 上記の太郎・花子夫婦について、その後、離婚という身分変動が生じたときは、婚姻の際に氏を改めた妻花子について、婚姻前の氏に復するという氏の変動が生じます(民法767条)。その結果、花子は、同じ戸籍に在籍していた夫太郎、子一郎と氏を異にすることになりますから、婚姻時の戸籍から出なければなりません。 この場合、花子には3つの選択肢があります。 ① 婚姻前の氏(乙川)を称し、親の戸籍(婚姻前の戸籍)に戻る。 ② 婚姻前の氏(乙川)を称し、自身を戸籍の筆頭者とする新戸籍を編製する。 ③ 婚姻中の氏(甲野)を継続して称し、自身を戸籍の筆頭者とする新戸    籍を編製する。 上記のとおり、花子には3つの選択肢がありますが、留意すべきは、花子が③を選択した場合でも、民法により定まった花子の*民法上の氏(民法767条)は、あくまでも乙川であり、③の花子の称する氏(甲野)は、一旦乙川の氏に復氏した上で、民法の特別な規定及び戸籍法の規定により称することが認められた*呼称上の氏(民法767条2項、戸籍法77条の2)であることです。 したがって、今後、花子について婚姻・離婚、縁組・離縁等の身分変動(特に離婚・離縁)に伴い、花子の称する氏及び入籍する戸籍について判断するときや上記③の花子の戸籍に子が入籍するときの手続等においては、花子の民法上の氏は乙川であることを踏まえておく必要があります。 ただし、公証事務を行うに当たって、この辺りの知識を活用する場面はあまりないかも知れません。 (2) 次に、上記の例で太郎と花子が、子一郎の親権者及び監護養育者を花子と定め、離婚した後の一郎の氏と戸籍はどうなるのでしょう。 結論から述べると、太郎と花子夫婦に離婚という身分変動があっても、一郎の氏に変動はなく、一郎は同じ戸籍に留まることになります。 このような結論となる理由は、父母の離婚という身分変動は、子の身分に何ら影響を及ぼすものではないし、子自身に養子縁組などのような身分変動が生じたわけではありませんから、子の氏に変動をもたらす原因がありません。したがって、上記のとおりの結論となります。この氏と戸籍の取扱いについては、相談者の多くが親権者及び監護養育者は母である自分であるから、当然に母子で同じ氏(乙川)を称し、同じ戸籍になると誤解しているところです。 (3) ただ、この例のように、元の氏に戻った花子が親権者及び監護養育者として一郎を引き取り養育していく場合、花子と一郎の氏及び戸籍が異なると、親子の社会生活上不都合な場面が数多く出てくることが考えられます。 そこで、このような場合には、花子と一郎の氏及び戸籍を同じにする手 続を取る必要があります。この手続については民法791条に定められています。この例では、一郎が(一郎が満15歳未満である場合は、親権者である花子が法定代理人として)家庭裁判所に『子の氏変更許可申立書』を提出して、一郎の氏を変更する許可を申し立てます。家庭裁判所が申立てに問題がないと判断すれば、一郎の氏の変更を認める審判がなされ、許可の審判書が交付されます。一郎又は法定代理人花子がこの審判書を添えて市区町村役場に『母の氏を称する入籍届』を提出すれば、花子と一郎は同じ氏を称して同じ戸籍に入ることになります。なお、花子の戸籍が前記③の場合、花子と一郎は既に同じ「甲野」の氏を称していますが、前述したように民法上の氏は異なっているため、上記手続を取ることが必要となります。 では、花子が『母の氏を称する入籍届』を市区町村役場に提出した場合、花子と一郎の戸籍が具体的にどのようになるのかを前記①から③の例で述べておきます。 前記①の場合:花子を戸籍の筆頭者とする新戸籍が編製され、同戸籍に一郎が入籍します。 前記②の場合:既にある花子を戸籍の筆頭者とする戸籍に一郎が入籍します。 前記③の場合:既にある花子を戸籍の筆頭者とする戸籍に一郎が入籍 します。 ただし、一郎について称する氏は変わりません。 (4) 次に、花子が離婚の際に前記①又は②を選択した後、様々な事情から婚姻時の甲野の氏を称することを望む場合や③を選択した後、婚姻前の乙川の氏を称することを望む場合は、どのような手続を取ることになるかについて述べておきます。 これらの場合、花子が取る手続は、次のとおりです。ただし、これらは民法で定まった民法上の氏を変更する手続ではなく、あくまでも呼称上の氏を変更する手続であることに留意していただきたいと思います。 〈甲野の氏を称したい場合〉 ア 離婚後3ヶ月以内であれば、離婚の際の氏を称する届出により、甲野の氏を称することができます(民法767条2項、戸籍法77条の2)。 イ 離婚後3ヶ月を過ぎてしまうと上記アの届出はできず、戸籍法107条の規定により家庭裁判所に『氏の変更許可申立書』を提出して、家庭裁判所の許可を得た上で市区町村役場に『氏の変更届』を提出することになります。しかし、この場合において、家庭裁判所の許可を得るためには、氏を変更しないと社会生活上著しい支障が生じるなど、やむを得ない事情があることが必要となります。 〈乙川の氏を称したい場合〉 上記イの手続を取ることになります。 4 おわりに 以上、離婚後の夫婦及び子の氏と戸籍について述べてみましたが、冒頭述べたように、多くの相談者は離婚後の氏や戸籍がどのようになるのか、ほとんど理解していない上に、特に離婚後、子の親権者及び監護養育者となる母は、当然に母子で同じ氏を称し、同じ戸籍になるものと誤解していることが多いように思われます。そのようなときに、公証人がやさしくその誤解を指摘し、その後の必要な手続について、的確なアドバイスをすることができれば、公証人への信頼が一層高まることにつながるのではないかと思われます。

*「民法上の氏」とは民法の規定により定まった氏のことを指し、「呼称上の氏」とは、民法の規定により定まった氏はそのままに、戸籍法の規定により呼称だけを変更した氏を指す。「呼称上の氏」の例を挙げると、戸籍法77条の2の離婚の際の氏を称する届により称する氏、戸籍法107条の氏変更届により称する氏がこれに該当する。 (加藤三男)

No.61 任意後見監督人選任前の任意後見契約について、委任者が病気で役場に出頭できない場合、契約解除合意書の代理人による代理自認認証は可能か。(質問箱より)

【質 問】 任意後見監督人選任前の任意後見契約(発効前)について、合意解除の相談がありました。委任者が病気で役場に出頭できない場合、契約解除合意書の認証は、代理人による代理自認認証は可能でしょうか。 【質問箱委員会回答】 1 結論 まず、結論から申し上げますと、任意後見契約に関する法律第9条第1項に規定されている公証人の認証については、代理人による嘱託の場合を排除しているものとは解されませんが、当事者の意思確認に疑問を生じた場合や任意後見契約をめぐって親族間で争いを生じるおそれがある場合など、公証人として慎重に当事者の真意(意思能力の有無も含む。)を確認する必要があるときで、当事者が病気等のため出頭できないときは、公証人が出張して当事者に面接の上認証手続をするのが相当と考えます。 2 公証人の行う「認証」について 公証人の認証は、国の機関である公証人が、その書面にされた署名若しくは捺印について、本人がしたものに間違いないという証明をするものであり、その書面の記載内容を証明するものではありませんが、その書面が作成者の意思に基づいて作成されたものであることを証明するものです。 公証人の認証には、目撃認証と自認認証があり、さらに、自認認証には本人が出頭して自認する場合と代理人が出頭して代理嘱託する場合があります。 外国に提出する文書等で、本人が公証人の面前で署名することが要件とされているものや、戸籍届出の不受理申出書など本人の真意であることを確認する必要があるとされているものについては、本人が病気等のため公証人役場に出頭できないときは、公証人法第18条第2項の「事件ノ性質カ之ヲ許ササル場合」に該当するものとして、公証人が出張して認証を行うこととなります。 なお、本人が公証人役場に出頭できない事情の確認については、医師の診断書の提出等によることになりますが、仮に、出頭できない事情がなかったにもかかわらず公証人が出張して認証した場合、認証の効力に影響はありませんが、当該公証人は公証人法第18条第2項違反として懲戒の対象になる可能性があります(公証人法第79条)。 3 任意後見契約に関する法律第9条第1項の規定について 任意後見監督人選任前の任意後見契約の解除は、任意後見契約に関する法律第9条第1項により、公証人の認証を受けた書面によって行うこととされていますが、この認証について代理人の嘱託によるものを排除するというようなことは明記されておりません。 この点について、日本公証人連合会の平成28年度春期公証人専門研修の講師は、「任意後見契約の解除は、東京地裁の判例があるとおり、代理人による嘱託でもできます。」と述べており(「公証」第184号21ページ)、実際に代理人による自認認証の書面によって任意後見契約が解除されている事例があると承知しています。 ただし、同講師は、上記の後に、「平成18年7月6日の東京地裁の判決では、先行する任意後見契約の解除と後行の任意後見契約の締結が無効とされました。」(前同)と述べていることから、親族間で争いが生ずるおそれのある場合などには、公証人として慎重に本人の真意を確認する必要があるでしょう。 4 任意後見契約解除の際の認証について 民法の一部を改正する法律等の施行に伴う公証事務の取扱いについての民事局長通達(平成12年3月13日付け法務省民一第634号)第2の3(1)アには、「任意後見契約の公正証書を作成するに当たっては、本人の事理を弁識する能力及び任意後見契約を締結する意思を確認するため、原則として本人と面接するものとする(本人が病気等のため公証人役場に赴くことができない場合は、公証人法第18条第2項ただし書の「事件ノ性質カ之ヲ許ササル場合」にあたる。)。」としています。 同じことが、任意後見契約解除の際の認証についても言えるのかどうかということですが、この認証について、「この手続要件も、公証人の関与により、解除についての当事者の明確な意思の存在を担保し、当事者の不利益を回避する趣旨であるとされている」(日本評論社「新基本法コンメンタール 親族」347ページ)との解説や、「任意後見契約の解除については、公証人法第58条以下の規定に従って行うが、認証を必要とした趣旨に鑑みれば、署名の真正の審査に当たっては解除が本人の真意に基づくものであることを確認することが必要であろう。疑いがあるときは、本人と面接するなどして確認することになる。」(「公証」第127号271ページ)との解説は、任意後見契約解除の際の認証についても、任意後見契約締結の際の本人の意思確認と同様の注意を必要とする趣旨と解することができます。 任意後見契約の場合、既に本人の判断能力が不十分な状況になってしまっている可能性があることも考えますと、任意後見契約解除の際の認証についても、前記民事局長通達にあるとおり、本人の事理を弁識する能力の有無の確認も含め、原則として本人と面接するのが相当と考えます。 特に、親族間で争いが生じるおそれがある場合など、より慎重な対応が求められる場合には、代理人による嘱託は避けるべきでしょう。 5 その他 任意後見契約合意解除の際の認証について、仮に、代理人による嘱託で問題ないと公証人が判断した場合でも、受任者が委任者の代理人を兼ねることは、既に合意解除の意思表示がされた書面について認証を受けるだけの行為ではあるものの、利害の対立する相手方を通じて本人の真意を確認することで良いのかという疑問が生じますし、民法第108条(自己契約及び双方代理)の趣旨に反することにもなりかねませんので、受任者とは別の、委任者の代理人から嘱託を受けるのが相当と考えます。 なお、委任者の真意が確認できない場合であっても、受任者が解除の意思を有しているのであれば、受任者からの一方的な解除通知に認証する方法でも任意後見契約の解除が可能です。 ただし、一方的な解除通知の場合には、内容証明郵便の送付が要件となります。

No.62 公正証書作成時に債務者が未成年者である場合の法定代理人がした執行認諾の記載方法について。(質問箱より)

【質 問】 強制執行に服する旨の陳述は,公証人に対する訴訟上の効果を発生させる訴訟行為であるから,嘱託時に債務者が未成年者である場合には,法定代理人自身によってなされることが必要であるとされている(民訴法31条,会報昭和61年4月号23ページ,会報平成2年10月号19ページ)ところ,この場合の執行認諾に服する旨の記載については,①「債務者の法定代理人何某は,本契約による金銭債務を履行しないときは,……」と記載する(新版証書の作成と文例〔三訂〕4ページ)旨と,②通常の記載「債務者は,本契約による金銭債務を履行しないときは,……」と記載する(会報昭和63年3月号16ページ)旨(法定代理人が認諾したように記載する必要がない。)の両説あるが,いずれによるべきか。 【質問箱委員会回答】 1 未成年者の法律行為について 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならないこととされています(民法第5条第1項)。 一般的に10歳未満の幼児には意思能力も認められていませんが、15歳に達した者は遺言をすることができるとする民法第961条の規定や、15歳以上であれば未成年者が自ら身分上の行為を行えることを前提とした民法の規定(民法第791条、第797条、第811条)があることから、15歳に達した者であれば自ら法律行為を行うことができるものと考えて問題はないでしょう(10歳以上15歳未満の者については、個別に判断されることになります。)。 また、通常、15歳に達した者であれば印鑑の登録が認められていますので、面識のない嘱託人の本人確認の原則である印鑑証明書の提出(公証人法第28条第2項)も可能となりますから、公正証書作成嘱託を受けるのにも支障はありません。 2 法定代理人からの公正証書作成嘱託について 自ら法律行為をすることのできる未成年者の場合であっても、その法定代理人が未成年者に代わって法律行為をすることができるのは当然のことです。 法定代理人が未成年者に代わって公正証書の作成嘱託をする場合、公正証書の本文中に代理人による旨を記載すべきこととはされておりませんし、法定代理人が強制執行認諾の陳述したときもそのことは本旨外要件の記載から明らかですから、この場合には、通常どおりの②の記載方法で問題ありません。 3 未成年者からの公正証書作成嘱託について (1) 法定代理人の同意を得て行う場合 15歳に達していれば、未成年者であっても自ら法律行為を行うことができ、法律行為に関する公正証書作成嘱託も可能と考えて問題ありませんが、民法第5条第1項の規定により、原則として、その法定代理人の同意を得なければなりません。 この場合、嘱託人である未成年者の印鑑登録証明書等の本人確認資料、法定代理人を確認するための戸籍謄本、法定代理人の同意書(法定代理人の印鑑登録証明書付)の提出が必要となります(法定代理人の当該公正証書への署名押印によって同意書の提出に代えることもできます。)。 ただし、法律行為に関する公正証書の作成嘱託はできても、未成年者が自ら強制執行の認諾を行うことはできませんから(民事訴訟法第31条)、未成年者に強制執行認諾の効果を及ぼすためには、その法定代理人が出頭して強制執行認諾の陳述をするか、法定代理人が選任した代理人によって強制執行認諾の陳述をすることになります。 このときに、法定代理人が未成年者の法律行為に同意を与えただけでなく、法定代理人として強制執行認諾の陳述をしたことを明らかにするためには、①の記載方法による必要があるものと考えます。 (2) 法定代理人の同意を要しない場合 ところで、法定代理人の同意を要せずに未成年者が法律行為を行える場合がいくつかあります。 一つ目は、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為(民法第5条第1項ただし書き)です。 当然のことですが、未成年者の側が強制執行認諾の陳述をするということはありません。 この場合、未成年者が面識者でなければ、印鑑登録証明書等の本人確認資料が必要となります。 二つ目は、営業を許可された未成年者がその営業に関する法律行為をする場合(民法第6条)で、許可された営業に関しては成年者と同一の行為能力を有することとされていますので、自ら強制執行認諾の陳述をすることもできます。 この場合、未成年者が営業を許可されていることを証明する未成年者登記簿の登記事項証明書及び印鑑証明書(いずれも法務局から発行されるもので、市町村発行の印鑑登録証明書でないことに注意してください。)が必要となります。 なお、同様に、持分会社の無限責任社員になることを許された未成年者についても、社員の資格に基づく行為については行為能力者とみなされることになります(会社法第584条)。 三つ目は、未成年者が労働契約を締結する場合(労働基準法第58条)及び賃金を請求する場合(労働基準法第59条)で、未成年者が独立して行うことができます。 なお、使用者は、原則として、満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの未成年者を使用することはできないこととされています(労働基準法第56条)。 この労働契約を公正証書にする場合、未成年者が面識者でなければ、印鑑登録証明書等の本人確認資料が必要となります。 四つ目は、未成年者が婚姻をした場合(民法第753条)で、これによって成年に達したものとみなされ、すべての面において成年者として扱われますので、自ら強制執行認諾の陳述をすることもできます。 この場合、婚姻していることを証明する戸籍謄本の提出が必要となるほかは、通常の成年者の場合と同じです。 4 結論 結論として、未成年者がその法定代理人の同意を得て公正証書の作成嘱託をした場合に当該法定代理人が強制執行認諾の陳述をしたときは①の記載方法により、未成年者の法定代理人が未成年者に代わって公正証書の作成嘱託をして強制執行認諾の陳述をしたときは②の記載方法で差し支えないということになります。

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