民事法情報研究会だよりNo.67(令和7年10月)

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 秋冷の候、会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 昨年に引き続き、暑い暑い夏がようやく終わりを告げそうな気配がしてきました。今年は、台風や線状降水帯、ゲリラ豪雨、竜巻などによって全国各地に様々な災害が発生しています。とりわけ牧之原市の竜巻災害と四日市市の地下駐車場の冠水などが衝撃的でした。被災された各地の方々に心からお見舞い申し上げます。
 今年の12月のセミナー・懇親会は、例年とは異なり、第1週の6日(土)に開催することとしています。近々開催通知文書を発送する予定ですので、数多くの皆様の御参加をよろしくお願い申し上げます。
 気象庁の3か月予報によると、気温は、東日本と沖縄・奄美で高く、北・西日本で平年並みか高いとのことです。過ごしやすいこれからの季節、観光やスポーツに勤しみながら、健康に過ごしていければと考えています。(YF)

今日この頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

なんとかやっています。(小笠原 修)

 公証人を拝命し11か月を経過しようとしていた昨年(令和6年)5月26日(日)の早朝の出来事でした。目が覚めて、ベッドの上で背伸びをしたところ、腰のあたりで「プツッ」という音がしたような気がしました。
 「まさか。」
 嫌な予感を抱きつつ起きると、腰が痛くて自立して歩けません。壁につかまりながらトイレに行くのがやっとの状態です。翌、月曜日に仕事を休み、総合病院に行ったところ、腰椎椎間板ヘルニアと診断され、即時入院となってしまいました。外来診察のときは車椅子で移動していましたが、腰から右下肢の痛みがだんだん強くなり、椅子に座ることもできなくなり、入院病棟にはストレッチャーで移動した状態でした。以降、7月10日までの約1か月半、手術とリハビリのため仕事を休んでしまいました。
 前職勤務のときから、健康に留意し、体に異常があれば、その都度治療をしてきたつもりでした。また、現在住んでいる帯広市に転居してからも、定期的に健康診断と癌の腫瘍マーカー検査を受けるなどして、健康には特に気を遣っていたところでした。さらには、ぎっくり腰の経験があったため、腰に痛みや違和感があるときは整形外科にも通院していました。しかし、全く予期しない突然の入院、それも、一人役場での休職となってしまったのです。
 入院直後は、十勝・帯広地域の住民の方々、公証人の先生方各位、法務省関係者の皆様にご迷惑をお掛けしてしまうことに加え、留守を担当する書記は大丈夫か、役場業務を継続していけるかなど考えるものの、強力な鎮痛剤が効かないほど右下肢の痛みが強くなり、夜も眠れず、何もできなくなってしまいました。そして、このように皆さんにご迷惑をお掛けしてしまうなら、公証人を辞職しようかと思っていたときに、ある方から、スマートフォンにショートメッセージを頂きました。
 そのショートメッセージには、有り難い激励のお言葉が盛りだくさんに記載されておりました。また、その方の奥様が有名な大仏師の展示会に行く機会があり、薬師三尊(病気を治癒し、人々を救済するという神様)の絵はがきを買ってきたからと言って、その写真を添付して送ってくださったほか、見ているだけで楽しく元気になれるという「笑文字(えもじ)」の詩画書作家・城たいがさんの色紙の画像を毎日のように送ってくださいました。頂いたメッセージや「笑文字」を見ると気が紛れ、非常に心が落ち着きました。
 また、ある方からは、お電話を頂き、人生には三つの坂(上り坂、下り坂、そして、まさか)があるとよく言うじゃないか。誰のどんな人生にだってアップダウンがある。これ(入院)が「まさか」かぁと思って、全て受け止めて前向きに捉えるように…と励ましてくださいました。電話を頂いて、孤立感・孤独感が和らぎました。
 そのほかにも、多くの方々からご支援とご協力を頂きました。ありがとうございました。
 前職勤務のときは、大きな組織の中にいて、組織に守られ、常に組織の一体感を感じることができましたが、公証人になってからも、皆様から事務処理で不明な点をご教示いただいているほか、今回のように突然入院してご迷惑をお掛けしても、激励を頂くなど、引き続き一体感を抱きながら業務を継続していけるということは、本当に有り難く感謝をいたしております。

  おかげさまで、現在、足先のしびれが後遺症として残るものの、杖を使わず歩けるようにまで回復しており、何とかやっているという状態です。
 ところで、椎間板ヘルニアは、再発もあるそうで、主治医の話によれば、最短での再発は、ヘルニアの手術で入院をし、退院する前に再発した事例があると話していました。そのような話を聞くと、私も、いつ再発するか心配ではありますが、今後、一層健康に注意して使命を全うしたいと思っております。主治医からは、長時間椅子に座っていることが腰には大敵で、30分に1回は席を立つのが良いとアドバイスを受けております。
 公正証書の起案をしておりますと、気がつけば1時間以上座ったままでいることが多々ありますが、皆さんもご注意をなさってはいかがでしょうか。参考までに、主治医から頂いた腰の負担のイラストを添付いたします。     (釧路・帯広公証役場公証人 小笠原 修)

初めての《119》番緊急通報(横山 緑)

1  マンション管理組合理事に就任
 新型コロナウイルスの感染を防ぐ3つの密(密閉空間、密集場所、密接場面)の回避などが呼びかけられていた最中に竣工されたマンション(総戸数65戸)の管理組合(以下、「管理組合」という。)定時総会において役員改選(毎年4名中2名)があり、理事(任期2年間、全入居者が輪番で担当)に選任され就任した。

2 入居者参加型消防訓練
 入居後これまでは、管理組合理事会(以下、「理事会」という。)がマンション入居者(以下、「入居者」という。)あてに、東京消防庁が公開している動画をネットで視聴するよう働きかけるお知らせ文書を配布し、入居者参加型の消防訓練は行われてこなかった。
 隔月に開催される理事会で、コロナ禍も収まってきたこともあり、所轄消防署(以下、「消防署」という。)の支援を受けて入居者参加型の消防訓練(水消火器を使用した消火活動・AED(自動体外式除細動器)を使用する応急手当等)の実施を議決した。
 早速、消防署に出向き、入居者参加型消防訓練への支援を依頼しようとしたところ、消防署の担当者から『消防署長あてに、マンション管理組合理事長から消防法に定める「甲種防火管理者選任届出書」及び甲種防火管理者から「消防訓練実施書」を提出して依頼してください。』との説明を受けた。

-1 防火管理者
「防火管理者」について、消防法(昭和23年7月24日法律第186号)第8条第1項に次のように定められている。
第8条 学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、複合用途防火対象物その他多数の者が出入りし、勤務し、又は居住する防火対象物(㊟1)で政令(消防法施行令 昭和36年3月25日政令第37号)で定めるものの管理について権原を有する者(㊟2)は、政令で定める資格を有する者(㊟3)のうちから防火管理者を定め、・・・防火管理上必要な業務を行わせなければならない。
㊟1 多数の者が居住する防火対象物
◎ 非特定防火対象物
消防法施行令第1条の2 3 (1) ハ 別表第1 (5) 項ロ、(7) 項、(12) 項 他
  建物全体の収容人員が50人以上の寄宿舎・下宿・共同住宅・事務所ビル・(小・中・高等)学校・各種学校・工場
◎ 特定防火対象物 
 消防法施行令第1条の2 3 (1) ハ 別表第1 (1) 項から (4) 項まで 他
 不特定多数の者が利用する防火対象物で、火災が発生した場合に人命に及ぼす危険性が高い施設等、建物全体の収容人員が30人以上の劇場・映画館・集会場・カラオケボックス・飲食店・百貨店など(避難が困難な要介護者が入居する養護老人ホーム・救護施設・障害者支援施設などは収容人員が10人以上) 
㊟2 管理について権原を有する者 消防法施行令第1条の2で定める防火対象物の管理について権原を有する者で、一般には建物所有者、会社や事業所を代表する者、マンション管理組合の代表者(理事長)のことをいう。
㊟3 資格を有する者(消防法施行令第3条)都道府県知事、消防長、総務大臣の登録を受けた一般財団法人日本防火・防災協会が実施する防火管理者資格講習(甲種防火管理新規講習(2日間)及び防災管理新規講習)の課程を修了した者及び学識経験を有する者
㊟4 防火対象物は、用途や火災の危険性などを考慮して区分され消防法施行令別表第1によって甲種防火対象物と乙種防火対象物に区分されており、防火管理者の資格も甲種と乙種に分けられている。共同住宅は甲種防火対象物である。因みに、甲種防火管理新規講習の課程修了者は、その用途、規模、収容人員にかかわらず、すべての防火対象物において防火管理者になることができる。
  即ち、収容人員が50人以上の共同住宅にあっては、管理組合の代表者(理事長)が、総務大臣の登録を受けた一般財団法人日本防火・防災協会が実施する防火管理者資格講習の課程を修了した者の内から防火管理者(防火管理の責任者)を定め、災害発生時の避難誘導、消火活動、救助・救護活動を協力して行う体制を確保するなどの防火管理上必要な業務を行わせなければならない。

3-2 防火管理の意義
 防火管理とは、火災の発生を未然に防止し、万一火災が発生した場合でもその被害を最小限にとどめるため、必要な万全の対策を樹立し、実践することをいう。

3-3  自主防火管理の原則
(1) 「自分の生命や財産は、自らが守る」気持ちで防火管理を実践する。
(2) 「法律で定められているから仕方なく行う」のではなく、日頃から防火設備の維持・管理に努め、いざというときに適切な行動がとれるように訓練しておく
(3) 共同住宅の居住者が協力し、火災の発生を防ぐと共に、万一火災が発生してしまった場合でも早期に発見し、通報、初期消火や避難活動を行って、被害の拡大を防止するよう努力する。

4 防火管理者の業務
 消防法施行令第3条の2第2項に定められている防火管理者の業務は次のとおりである。
  ① 消火、通報及び避難の訓練の実施
  ② 消防の用に供する設備、消防用水又は消火活動上必要な施設の点検及び整備
  ③ 火気の使用又は取扱いに関する監督
  ④ 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理
  ⑤ 収容人員の管理
  ⑥ その他防火管理上必要な業務の遂行

5 甲種防火管理者の選任
 理事会で防火管理者の選任について協議した結果、当マンション管理人の執務時間が日曜日・月曜日を除く週5日午前中となっていることを考慮し、管理人不在時、防火管理上必要な業務遂行に支障がない者を選任することが望ましいとの判断がなされ、入居者の内から退職者等で日中もマンション内もしくは近辺に滞在するで、平日に2日間連続して実施される防火管理者資格講習を近々に受講できる者が適任ではないかとなり、理事会メンバーの内で条件が合致する当職に白羽の矢が立った。

6 甲種防火管理新規資格講習を受講
 講習は、全国各地で年間に複数回開催されており、適宜都合の良い講習会場・時期に受講を申し込むことができる。特に受講資格・制限はなく、私が受講した会場は定員130名であったが申込み開始から3日目には定員に達したとして申込手続きが打ち切られていた。
 講習2日間で、Ⅰ 防火管理の意義と制度の概要 Ⅱ 火気取扱いの基本知識と出火防止対策 Ⅲ 施設・設備の維持管理 Ⅳ 自衛消防 Ⅴ 防火管理の進め方と消防計画 について受講し、最後に講習効果測定(筆記試験)があった。

7 甲種防火管理者として消防訓練の実施を消防署へ依頼
 訓練内容として、Ⅰ 居住室から1階エントランスホールまで非常階段(エレベータを利用できない想定)での避難訓練 Ⅱ 水消火器を使用しての消火活動 Ⅲ 心肺蘇生=胸骨圧迫と人口呼吸・AED(自動体外式除細動器)を使用する応急手当 とし、訓練実施後、共同住宅における火災発生時の注意事項の説明、訓練参加者からの質疑応答、所要時間概ね1時間で依頼した。なお、訓練実施日の開始時に消防署管内で火災・緊急事案・熱中症患者の搬送などが多く発生し、担当消防士を派遣できない場合がある旨の説明を受けた。

 消防訓練実施
 指導に来ていただいた消防士から、非常階段での避難訓練で1階のエントランスホールに訓練参加者が集合した直後、いきなり訓練予定に入っていなかった『火事現場に遭遇した皆さんによる緊急通報訓練をしてみましょう。』との提案があり、実施することとなった。
 緊急通報訓練の実施にあたり、訓練開始直前に緊急通報指令室に「119番での通報訓練」が可能かを照会確認し、対応可能であるとの回答を得て訓練に追加した旨の説明があった。  

9 スマートフォンから《119》番緊急通報!!
 今年の1月から3月にかけて民放「月9」枠で放送されたドラマ「119番エマージェンシーコール」(横浜市消防局が制作に協力し、火災や救急時に市民から通報される119番通報に対応する緊急通報指令室の活動を紹介)を興味深く視聴し、市民からの119番通報が火災の延焼防止、病気や事故などで心停止になった人の救命活動に重要な役割を担っていることを改めて理解した。因みに、これまで幸い、緊急通報をしなければならない場に遭遇したことはなかった。
 消防士から、『(私の方を見て)そこのあなた、あなたのスマホで119番へ通報してください。あなた以外の訓練参加者にも緊急通報指令室担当者(以下、「担当者」という。)とのやりとりを聞いてもらいますので「スピーカ」機能にしてください。担当者が『消防です。火事ですか、救急ですか。』と最初に問いかけてきますので、最初に訓練である旨【訓練・訓練・訓練】と3回連呼してから、問いかけに落ち着いて答えて下さい。』と有無を言わせない雰囲気、訓練参加者の視線を感じ、初めてスマートフォンから「119」を押下し緊急通報した。
 担当者と次のとおりのやりとりをした。
 【担当者】消防です。火事ですか、救急ですか。
 〔通報者〕【訓練・訓練・訓練】と3回連呼 火事です。
 【担当者】火事がおきてる所の住所は分かりますか。
〔通報者〕◎◎市○○区△△町2丁目8番3号です。
 【担当者】マンションですか、戸建てですか。
〔通報者〕マンションです。
 【担当者】マンションの名前はわかりますか。
〔通報者〕△△マンションです。
 【担当者】何階建てか分かりますか。
〔通報者〕14階建てです。
 【担当者】出火場所は何階か分かりますか。
〔通報者〕7階の○○号室で、私の部屋です。
 【担当者】あなたの名前と何が燃えているか教えてください。
〔通報者〕私は○○です。モバイルバッテリーが発火し、窓際のカーテンに火がつきました。
 【担当者】炎はどのくらいの高さですか。
〔通報者〕50cmくらいです。
 【担当者】消火器はありますか。
〔通報者〕家族が廊下にある消火器を持ってきました。
【担当者】燃えているカーテンに近づき腰を低くして消火剤を放射し、消火に努めてください。消火が難しいときは、室内にある火災通報システムを押し、同一階の居住者に「火事だ」と大きな声で知らせて安全な場所へ避難してください。  
【担当者】消防車が向かっています。安全な場所で避難していて下さい。

10 甲種防火管理新規講習・消防訓練で説明された内容の一部を参考までに掲記しておく。
(1) 通報時の注意事項
  ① 火災の内容が十分把握できていない段階でもまず通報し、状況が確認でき次第随時情報を通報する。
  ② 誰かが既に通報しているだろうでなく、その場に遭遇したら必ず通報する。
  ③ 聞かれたことについて早口を避け、落ち着いて正確に答える。
  ④ 延焼しているときには、逃げ遅れて救助を求めている者の有無等もわかる範囲で説明する。
  ⑤ 火事がおきてる所の住所が分からないときは、コンビニエンスストア、大きなビルの名称、最寄りの電柱に表示されている住所を読み上げる。
(2) 火災が発生した場合の行動
 ① 火災を発生させた者又は火災を発見した居住者は、大声で同一階の居住者に知らせる。
 ② 119番通報は、火災を発生させた者又は同一階の居住者が協力して行う。
 ③ 初期消火は、消防隊が到着するまで居住者と同一階の居住者が協力して行う。
 消火器による初期消火は、消火薬剤量の放射時間(約15秒、火元への実質放射時間約10秒)・放射距離(5m)など限られており、火災の初期段階では有効であるが、炎が天井に達するような状況になると消火が困難になる。消火器による初期消火活動の限界は「天井に火が移る前まで」を一応の目安とし、燃焼状況(煙や熱気、火の勢い等)により判断する。
 共同住宅の場合、同一階に複数の消火器が備え付けられているので、隣人等の協力を仰ぎ、煙に惑わされないよう、火元(燃えている物)近くにできるだけ多く集め、連続して直接放射する。
 ④ 消火器の操作にあたっては、Ⅰ 避難口を確保する。Ⅱ 燃えている物に近づきすぎない。Ⅲ 姿勢を低くする。Ⅳ 炎の根元を狙って放射する。Ⅴ 危ないと思ったら避難する。Ⅵ 玄関から避難できない場合は、バルコニーの仕切板を破壊して隣戸から安全な場所へ避難する。
 ⑤ 火災発生後一部の壁や家具で徐々に燃えていた火が、爆発を起こしたように一気に燃え上がる現象が「フラッシュオーバー」で、出火後、フラッシュオーバーまでの時間は、だいたい5~15分くらいといわれている。火災の炎が小さくても手遅れにならないように避難する。
(3) マンションの一室で火災が発生したときに、マンション全体に避難を伝える火災対策
 ① 遠隔監視 各住戸内のTVモニター付きインターホンの非常押しボタンを押すと、24時間遠隔監視センターに自動通報される。
 ② 火災警報装置 各住戸内の全居室とキッチン等に感知器を設置してあり、同一階及び直下階の火災も自動で感知し、音声で『火事です』と警報を発する。
(4) 消防訓練時の質疑応答
 心肺蘇生=胸骨圧迫を訓練用の人形で実施した際にかなりの圧で何回も胸骨の部分を圧迫するように指導を受けたが、圧迫時に肋骨が折れることはないのかの質問に、お年寄りに行った場合に肋骨が折れたことはある、骨折より救命を優先。胸骨圧迫をすべきかの判断に迷うときは、119番通報をして、担当官の指示に従う。一人での対応は体力的に厳しい場合が多いので、周りに人がいる場合には協力を求め、複数人で対処されるようにと応答。

11 火災・災害に備え、防火管理者が取り組むべき事項
(1) 災害発生時に備えた体制整備
 管理組合を中心に、居住者相互の安否確認や負傷者の救護、共用の防災備蓄品の使用などがスムーズにできる体制の整備
(2) 防災管理補助員の選任
 防災備蓄倉庫の鍵管理、火災発生場所と同一階からの避難誘導、避難困難者への支援、建物出入口自動扉の停電時対応
(3) 防災訓練・講習会の実施
 平常時に前記4①に記載の消火、通報及び避難の訓練に加え、以下のような訓練を行うと、実際の災害時に落ち着いて行動できると同時に、マンション内居住者間の交流が図れる。
 ① 防災備蓄備品、物品使用訓練
 ② マンション内安否確認訓練
 ③ 災害対策本部立ち上げ訓練 等

12 まとめ 
 防火管理新規資格講習の受講、消防署との打合せを経ての消防訓練を実施してみて、防火管理者として取り組まなければならない多くの事項が判明した。防火管理者に就任後習得した知識・情報を無駄にしないよう、昼間、働きに出かけ留守宅が多い当マンションにおいて、どこまでできるのか、すべきなのかを判断する必要はあるが、「仕方なく行う」という気持ちではなく、効果的な防火管理を行えるよう「自分たちのために行う」という気持ちで、体力と相談しながら取り組んでいる今日この頃です。
                     (元名古屋・春日井公証役場公証人 横山 緑)

実務の広場

 このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.108 男女(夫婦)間の合意等に係る公正証書について (石打正己)

1 はじめに
 男女間(夫婦を含む。)の合意等に関連する公正証書というと、その内容は非常に多岐にわたると思います。離婚一つを見ても、養育費、慰謝料、財産分与や住宅ローン、年金分割など、いろいろな種類の合意がありますし、離婚以外にも、別居後の婚姻費用の分担等に関する契約、事実婚に関する契約、婚姻関係にない当事者間の認知子又は未認知子に係る養育費(扶養料)の支払に関する契約、不貞・セクハラ行為に係る慰謝料の請求に関する契約など、嘱託人の置かれている立場や、多様な価値観、考え方などを反映して、いろいろな内容の合意や誓約事項を盛り込んで証書を作成することがあります。
 どのような案件であっても、嘱託人の話によく耳を傾けた上で、公正証書として作成することが適切なのかどうか、私署証書の認証や確定日付とした場合との違いなどを検討し、嘱託人に分かりやすく説明をする必要があります。
 その上で、公正証書として作成するのかどうか、公正証書として作成するとした場合に、どのような内容をどの程度盛り込むのかなどを嘱託人に決めてもらうことになりますが、中には金銭の授受を伴わない内容であっても、公正証書として作成することを強く希望される場合があります。
 当役場では、離婚を含めて男女間の合意に関する公正証書の作成例が多いわけではありませんが、当役場で把握している文例を踏まえ、参考になると思われる事例について紹介したいと思います。

2 婚姻届を提出する前の合意に関する公正証書について
 これから婚姻届を提出する予定の男女が、婚姻後の結婚生活における約束事項を公正証書にしてほしいとして相談されることがあります。
 このようなケースでは、その一方の側の従来の素行があまりいいものではなかったので、婚姻届を提出する機会に、これまでの自身の素行を改めることを決意するとともに、二人の間で互いに守るべき約束を決めたので、その内容を公正証書にしてほしいというものが多いと思います。
 金銭の授受を伴う内容はあまりなく、当事者の約束(合意)と誓約事項が中心となるものであり、私署証書の認証でも特に問題ないのかなと思ったりします。当事者に対しては、公正証書として作成しても、約束(合意)の内容を強制的に履行させるようなことはできないことを説明しますが、公正証書という体裁や作成の方式(公証役場における読み聞かせ等)という点にこだわりがあったり、約束(合意)等を証拠として第三者(公証人)の関与を得て残したいという強い希望があるような場合には、嘱託に応じている実情にあります。その際には、おおむね《例1》のような内容(民法の定める夫婦財産契約としての効力を生じさせるものを含む場合もあります。)で公正証書を作成することになると思います。

3 不貞行為の相手方との合意に関する公正証書について
 婚姻関係にある当事者の一方が、配偶者の不貞行為の相手方と公正証書を作成するケースでは、不貞行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料請求をその内容とするものが多いと思いますが、中には、慰謝料の請求を伴うことなく、合意事項や誓約事項だけで作成してほしいという場合があります。
 前記2の場合と同じように、公正証書には約束(合意)の内容を強制的に履行させるようなことはできないこと、また、仮に違約金の支払等に関する事項(誓約事項に違反した場合の損害賠償の約定)を定めたとしても、相手方がその支払に応じない場合における強制執行に関して、誓約事項に違反したことは、債権者の証明すべき事実であり、債権者の損害賠償請求に係る執行文は、債権者がその事実の到来したことを証する文書を公証人に提出したときに限り、付与することができるものであって、通常、そのような事実を立証することは困難な場合が多く、別途訴訟を提起して勝訴の確定判決を得るなど、公正証書以外の債務名義を取得する必要があることやその約定に係る損害賠償の額が著しく高額なときは、公序良俗に反するとして無効となることがあり得ることなどを説明しますが、公正証書としての証明力や相手方に対する心理的な圧力が期待できるなどの理由から、公正証書を作成してほしいという場合があります。
 そのような場合には、不貞行為の相手方が、公正証書を作成すること及びその内容に合意しているかどうかなどを慎重に確認しながら、おおむね《例2》のような内容で公正証書を作成することになると思います。

4 その他の合意・誓約事項等について
 以上のような事案以外にも、夫婦を含む男女間の合意や誓約事項を盛り込む場面はというと、離婚給付に伴う公正証書を作成する場面が最も多いかと思います。
 そのような場合でも、合意・誓約事項等の内容、趣旨等を確認した上で、公正証書に記載すること自体に問題はないのか、公正証書に記載した場合にどのような効果が期待できるのかなどを嘱託人に説明した上で、可能な限り嘱託人の気持ちや思いに沿った公正証書を作成するように心掛けています(個人的には、記載してもあまり意味がないのではないかと思うようなものもありますが…。)。
 これらの合意・誓約事項等には、いろいろな内容がありますが、おおむね《例3》のようなものが考えられると思います。

5 おわりに
 男女間(夫婦を含む。)の合意だけに限らず、当事者の合意や誓約事項を主な内容とする公正証書を作成してほしいという依頼があったときには、公正証書として作成するか否かという点で悩ましい場合があると思います。特に、金銭の授受を伴わないような内容であれば、公正証書として作成する必要性に乏しいのではないかと考えてしまいがちです。しかしながら、嘱託人によっては、合意・誓約事項等を公証役場において公正証書という「かたち」にすることによって、当事者の信頼感が醸成されることを期待したり、相手方に心理的な圧力が加わることによって合意事項が遵守されることを期待するという場合があるようです(この稿では取り上げませんでしたが、パートナーシップ合意契約なども、合意を中心とした公正証書の代表的なものと言えると思います。)。
 公正証書を作成することで、当事者の約束、合意等の証拠として、公正証書の原本が公証役場に保管されますが、それ以外に、当事者の生活や男女間の適切な関係の維持にどのような効果がどの程度期待できるのかというのは、当事者次第というところだと思います。しかし、公証人を通じて作成される公正証書が、当事者の動機や意識付けの面において効果を発揮し、合意内容や誓約事項が遵守されることによって、男女間や家庭内の紛争が予防され、円満な人間関係の構築、社会生活の実現に少しでも寄与するのであれば、それはそれで、公正証書の大きな効用と言えるのではないかと思います。
《例1》
婚姻前合意等契約公正証書
第1条(お互いの尊重)
 甲及び乙は、お互いの人格、性質、育ってきた生活環境や価値観、趣味嗜好等の違いを尊重しあい、婚姻生活においては両者が平等であることを自覚し、互いに生涯の伴侶として助け合うものとする。
第2条(夫婦の在り方)
 甲及び乙は、いつどのようなときであっても互いに愛し合い、それぞれが築いてきた生活を更に充実させ、発展させられるよう協力することを互いに誓約する。
第3条(婚姻届)
 甲及び乙は、婚姻届にそれぞれ署名(捺印)し、甲乙両名で、○○県○○市役所に届出をする。
第4条(夫婦の財産及び生活費の分担)
1 甲及び乙は、それぞれが婚姻前から所有する財産及び親族から譲り受け又は相続した財産は、それぞれの固有の財産とし、婚姻後に取得した財産は、特段の合意のない限り、夫婦共有の財産であることを確認する。
2 甲及び乙は、婚姻後に相手方の承諾を得てした第三者からの借入れ(借金)及び日常家事で生じる債務は、特段の合意のない限り両名の連帯債務とする。
第5条(確認、誓約事項)
 甲及び乙は、次の事項について、互いに確認・誓約する。
(1) 第三者と性的な関係を持たない。また、浮気又は浮気と誤解されるような行動はしない。
(2) 事情のいかんを問わず、暴力は絶対に振るわない。
(3) 炊事、洗濯、掃除等の家事は、積極的に協力し合う。
(4) ギャンブルはしない。
(5) 無断で外泊をしない。
(6) 相手方に無断で貸金業者等から借入れをしない。
(7) 犯罪行為など相手方の信頼を著しく損なう行動、言動をしない。
第6条(離婚の場合の合意)
 甲及び乙は、万一、離婚に至った場合には、離婚に伴う親権者の指定、子の養育費の支払、慰謝料、財産分与等に関し、甲乙間で誠意をもって協議し、離婚給付等に係る公正証書(強制執行認諾条項付)を作成する。

《例2》 ※ 甲乙は夫婦、丙は不貞の相手方
男女関係に関する合意等契約公正証書
第1条(事実の確認、謝罪の意思表示)
 丙は、乙が甲の配偶者であることを知りながら、令和○○年○○月頃から令和○○年○○月頃までの間、継続して乙と面会し、不適切な関係を重ねた結果、甲に対して著しい精神的苦痛を与えるとともに、甲の家庭に悪影響を与えるに至った。
 丙は、甲に対し、上記の事実を認め、深く謝罪する。
第2条(誓約・遵守事項等)
1 丙は、甲に対し、今後、乙と不適切な関係を持たないことはもちろん、面会、電話、メール送信、手紙、SNSなど、その手段を問わず、乙との一切の連絡・接触をしないことを誓約する。
2 丙は、前項の誓約を実現するために、現在把握している乙の連絡先、電話番号、メールアドレス、SNSのアカウント等、乙に関する情報を全て削除又は消去する。また、丙は、甲に対し、乙に関する情報を新たに取得しないことを誓約する。
第3条(確認事項等)
 甲及び丙は、本合意の成立及び内容をみだりに第三者に口外しない。また、他方の名誉を害したり、迷惑となる発言、行為等を一切行わない。

《例3》※ 甲乙は夫婦又は男女、丙は被扶養者
・ 甲 及び乙は、第〇条に定める養育費の支払が終了した後の丙に係る扶養料について、丙の成長の度合い、生活の状況、就労や収入の見込みなど、客観的な状況を総合的に勘案し、かつ、丙の自主性や権利利益を保護する観点を踏まえ、その後の扶養料の要否、要とした場合の金額及びその負担割合等につき、丙の利益と福祉を最も優先して考慮しながら誠実に協議して定めるものとする。
※被扶養者の病気等により、就労が懸念される場合のもの
・ 甲及び乙は、丙が幼少にある間は、甲乙間の離婚の事実、その原因等を、丙に対して積極的に伝えないこととする。
・ 乙において、育児放棄や虐待が発生するなど、丙の養育状況が適切でないときは、甲及び乙は、丙の福祉と利益のために、親権者変更の申立てをすることについて誠実に協議する。
・ 甲及び乙は、今後、互いに相手方のプライバシーを尊重し、相手方の生活に干渉しない。また、相手方を誹謗中傷し、又は離婚原因や本公正証書の合意内容をみだりに口外するなどして相手方の名誉を傷つけ感情を害する行為に及ばない。
・ 甲及び乙は、互いの自宅を訪問する場合には、必ず事前に連絡する。
・ 甲は、丙が成年に達するまでは、(親子交流の際に)甲が交際する相手方と対面、交流させることをしない。
・ 甲は、丙が満○○歳に達するまでの間、甲が所有する不動産(○○市○○町○○番地の土地建物)を乙及び丙が無償で使用することを認める。

・ 甲は、乙に対し、丙の学校行事、PTA、子供会の役員等、また、子らが病気になるなど支援が必要なときは、乙の求めに応じて適時適切に協力する。
・ 甲は、乙に対する尊敬の心を常に持ち、子どもや親族の面前で乙の悪口を言わない。
・ 乙は、丙の学校行事(体育大会、修学旅行等)に関する情報(日時、場所、内容等)を了知したときは、甲に対して速やかに連絡する。
・ 甲及び乙が飼育している犬2匹については、乙が責任をもって飼育する。ただし、飼育に要する費用は、甲と乙が折半して負担する。
・ 甲は、乙に対し、甲乙間の年金分割に協力することとし、本契約締結後、速やかに手続を行う。
・ 異性との交流を目的としたコミュニティサイトを利用しない。
・ 性風俗特殊営業等、性的サービスを提供する店舗、施設を利用しない。
・ 甲及び乙は、公序良俗に反するような事情がない限り、対象期間の標準報酬の改定又は決定の請求をしないこと及び対象期間の標準報酬の改定又は決定の請求について、厚生年金保険法第78条の2第2項に規定する請求すべき按分割合を定める調停又は審判の申立てをしないことを合意する。

 夫婦間の合意、夫婦関係調整に係る公正証書については、民事法情報研究会だよりNo.55、11ページ、東京公証人会会報平成20年5月号31ページ、 同平成28年5月号50ページに詳述されています。
                         (神戸・龍野公証役場公証人 石打正己)

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