陽春の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、当法人は4期目の事業年度を迎えました。法人成立以来、事業活動をいかに充実させるか模索してまいりましたが、現在の会員のほとんどが公証人又は公証人OBとなっている現状から、会員の交流に関する事業以外の活動は公証実務関係が中心となっております。当法人の設立趣意書では、「登記、戸籍、供託、公証等の民事法情報処理の実務」について「会員相互の連絡交流を通じてその知識・経験の一層の集積を図り、民事法情報に関する調査・研究等をすることにより、民事法の普及・発展に寄与することとしたい。」としており、不動産登記・商業法人登記の分野にも事業の充実を図ってはどうかという声も聞かれるところですが、現在のように役員のボランティアによる運営には自ずと限界がありますので、今後の事業展開の前提として将来の法人の運営をどうするかについて現実的な検討が必要ではないかと考えております。
現在、6月18日の定時会員総会に向けて、旧年度の決算、新年度の事業計画等について資料作成中であり、5月中旬までには会員総会の開催通知をお送りいたします。なお、同時に行われるセミナーでは、特別会員の元民事局長、房村精一氏に講師をお願いすることとしておりますので、ご期待ください。(NN)
お伊勢参り(理事 冨永 環)
1 平成25年(2013年)、神宮式年遷宮が日本中の注目を集めたのは記憶に新しい。
この式年遷宮は、伊勢神宮(「神宮」が正式名称であり、狭義の神宮は、「内宮」と「外宮」のみを指す。)で20年に一度、神宮の社殿を新しく造営して神座を遷す行事で、飛鳥時代の天武天皇が定め、持統天皇の治世の690年に第一回が行われたとされる。途中戦国時代に120年中断し、その後延期があったものの、1300年続く大祭である。20年ごとに建て替える理由は諸説あるようだが、定期的な神事であること、木造建築の耐用年数や宮大工の伝統技術の承継、神を想う心を次世代に継承するなどがあるようだ。
神宮は、三重県五十鈴川の川上にあり、皇大神宮(内宮〈ないくう〉)と豊受大神宮(外宮〈げくう〉)の両正宮〈しょうぐう〉を中心とした14所の別宮〈べつぐう〉、109の摂社、末社、所管社から成り立つ、とても広大なエリアに数々の営造物がある。
2 神宮に参る、いわゆるお伊勢参りは、江戸時代に最も盛んに行われたようだが、伊勢参りを歌った伊勢音頭は、江戸時代の伊勢国で唄われ、次第にお伊勢参りの土産として地元に持ち帰り、作り替えられて唄われるほど親しまれ、全国に広まった民謡で、全国伊勢音頭連絡協議会を組織しているほどである。その中の一つ、正調伊勢音頭に次の歌詞がある。
《伊勢はナァーァ、津で持つ、津はナァーァ、伊勢で持つ、尾張名古屋は城で持つ〈中略〉伊勢に行きたい、伊勢路が見たい。せめて一生に一度でも〈略〉》
私が10代後半の頃、田舎暮らしの両親が、「いつかは、お伊勢参りをしたい。」との思いを抱いていたが、10年後に突然他界し、実行できなかったことを思い出し、自分自身が齢を重ねており、そろそろ元気な今のうちに、お伊勢参りをして、両親の心残りを実現しておきたいと考えた。それで、平成25年末にお伊勢参りを実行した。
3 内宮は、五十鈴川に架かる宇治橋を渡って大鳥居をくぐり、神域に入る。そのエリアに一歩足を運ぶと何かが違う気持ちになり、神妙になるのが不思議である。まずもって印象に残っているのは、境内に敷き詰めてある眩いばかりの玉石である。順路には5、6ミリ立方形に砕石された真っ白の玉石が敷き詰められ、一歩一歩踏みしめる度にギュッと鳴り、心が洗われる気持ちがして心地良かった(御利益?もあった。初めてのお参りとあって、靴を新調して参詣したが、立方形の砕石の切れ味がよく、靴のつま先の両方とも縦に深い亀裂が入り、一回でお蔵入りとなった。)。
順路は、参詣者が途切れることのない長蛇の列であったが、人々の話し声が緑の森の中にスーッと消え、静寂にも近いものを覚えた。いよいよ本殿を目の前にして石段が迫り、参詣者の渋滞は極限になる。前方では神宮職員の整列を促す声にしたがっている様子が伝わってくる。石段の付近は、すし詰め状態で危険なため、ゆっくり進み、のぼり詰めたところに立つ「棟持柱〈むねもちばしら〉」をくぐると、目の前に白木の掘立柱造り・萱葺屋根の社殿の全容を拝むことができた。天候にも恵まれ、遷御間もないこともあり、神殿は、神々しい一言である。また、その右側には、遷御前の旧社殿(平成5年造営)が未だ取り壊されることなく建っており、20年の歴史の重みがあり、新・旧を見ることができた。
4 長期にわたり戦争がない時代を実現した江戸幕府にあって、人々のお伊勢参りへの情熱は盛んであったようだ。幕府の記録によると、最も多いとされる1830年(天保元年)は、お伊勢参りに年間約450万人が訪れ、当時の人口が約2600万人とされることから、約5人に1人が参ったことになる。
今でもお伊勢参りの人気は高い。因みに、式年遷宮の平成25年(2013年)にお伊勢参りに訪れた人の数は、1420万4816人に達している(伊勢市観光統計)。
では、当時の人は、どのくらいの日数でお伊勢参りしたのであろうか。当時の旅は、徒歩である。江戸から伊勢までは東海道を歩いて往復30日程度、次いで大和路で大坂さらに京まで物見遊山を加えると、50日を超える長旅であったようだ。お伊勢参りが庶民の旅であったことや、その旅の様子を今に伝える読み物で東海道中膝栗毛(著者・十返舎一九)がある。十返舎一九(本名・重田貞一)は、現在の静岡市葵区生まれ、江戸で作家業を本業とした最初の人物であった。町人の弥次郎兵衛(弥次さん)と北八(北さん)の二人が江戸から桑名を経て伊勢神宮、大和めぐり、京までの旅路で滑稽と醜態の失敗談が、駄洒落、狂歌、各地の風俗、奇聞を交えて語られる。その東海道中膝栗毛には、弥次さん・北さんが内宮と外宮を参った状況について、次のように記述されている。
《すべて処々の宮めぐりをするあいだは 自然と感涙肝に銘じて ありがたさに まじめになって しゃれもなく むだ口もなし しばらくのうちに巡拝を無事終えた》
このように、滑稽な二人がこの参詣の時ばかりは神妙であった様子が伺える。
5 参道からの帰り道には、おはらい町・おかげ横丁がある。おかげとは、恩恵、力添えを指す言葉である(広辞苑)。おかげ横丁には、食事処を始め、伊勢志摩の様々な名産品があり、立ち寄って楽しむのに飽きない。おかげ横丁の往来は、参る人と帰る人が路上で対面通行となり、大変な混雑と賑わいがある。
6 結びに、今年5月、伊勢に世界の首脳が集まり、伊勢志摩サミットが開催される。ここは訪れる人々に日本の精神性を感じて貰う場所である。「安心」「安全」そして「安寧」な世の中の実現を創生する会議であってほしいと願う。
(追記・第62回式年遷宮は、平成27年3月、すべての遷宮祭が執り行われ、諸事完遂したと報じられた。)
このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。
福島の今(その2)(本間 透)
平成23年(2011年)3月11日に東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「原発事故」という。)が発生してから間もなく5年が経過しようとしています。その当時及びその後の福島の状況については、本誌の平成26年4月号(№5)に掲載されましたが、現時点での福島の状況について以下のとおり紹介します。
1 避難状況等
○ 避難者
震災と原発事故による福島県民の避難者は、最大時から約6万5000人減少したものの、今だに約10万人にのぼり、その内の県外避難者は約4万3000人、県内避難者は約5万7000人です。県内避難者の約8割が、原発事故によりほぼ全域が避難せざるを得なくなっている6町村の住民です。
今なお約1万8000人(最大時約3万3000人)が仮設住宅での暮らしを余儀なくされ、原発事故による避難者向けの災害公営住宅の整備(約4900戸)は、全体の戸数の約21%しか進捗しておらず、災害公営住宅に入居しても近隣同士の繋がりの希薄化や孤立しがちな高齢者の支援をどうするかが課題になっています。
○ 避難指示区域
原発事故により避難指示区域が設定された12市町村は、それぞれの地域の放射線量と除染の進捗状況に応じて、帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に指定されているところ、電気・ガス・水道などの日常生活に必要なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスが概ね復旧し、除染が十分に進捗した段階で自治体と住民との十分な協議を踏まえ、避難指示が解除されることとなっています。
徐々に地域復興に向けて住民の帰還と復興拠点の整備が進んでいますが、避難指示が解除されても帰還者の多くが高齢者であったり、インフラが復旧しても医療施設や商業施設がどの程度再開又は整備されるのか不透明なことが住民の帰還に当たっての不安となっています。
2 原発事故対応
○ 原発の状況
1号機は、炉心が溶解、建屋が水素爆発し、ほとんどの溶解燃料が格納容器に落下しているものと推測され、現在、使用済み核燃料プールからの核燃料取出しに向けた建屋カバーを撤去する作業を行っています。
2号機は、炉心が溶解し、57%の溶解燃料が格納容器に落下しているものと推測され、現在、原子炉建屋内の放射線量が高いので、線量低減対策を行っています。
3号機は、炉心が溶解、建屋が水素爆発し、63%の溶解燃料が格納容器に落下しているものと推測され、現在、使用済み核燃料のプールからの瓦礫を撤去する作業を行っています。
4号機は、建屋が水素爆発しましたが、使用済み核燃料プールからの核燃料の取出しを完了しています。
5・6号機は、冷温停止して原子炉には燃料がなく、使用済み核燃料プールに核燃料が保管され、今後、廃炉に向けた研究施設として利用されることになっています。
今後、1~3号機については、平成32年度までに使用済み核燃料プールからの核燃料の取出しを目指し、最速で平成33年度から原子炉内の溶解燃料の取出しを開始することとされ、最終的に原発を解体・廃炉に至るまでは、30年~40年を要する見込みとのことです。
ところが、溶解燃料の取出しについては、そのためのロボット調査が延期されるなど、確たる見通しが立たないのではと危惧されます。一方、廃炉に向けた技術研究の拠点となる楢葉町の楢葉遠隔技術センターの運用が本年4月から本格化することになっています。
○ 汚染水の処理
原子炉を冷却した後の汚染水と1日当たり約300トンの地下水が原子炉建屋に流入して汚染水となり、それが溜まり続けて建屋における迅速な作業を阻害していることから、それへの対策が大きな問題となっています。
汚染水を保管するためのタンクが原発敷地内に1115基ありますが、増え続ける汚染水対策としては限界があることから、東京電力は、①汚染源を取り除くための多核種除去設備(ALPS)による汚染水の浄化、海水配管トレンチ内の汚染水の浄化、②地下水を原子炉建屋に流入させないための地下水バイパスによる地下水の汲み上げ、凍土方式による陸側遮水壁の設置、③汚染水を漏らさないための海側遮水壁の設置、海側護岸の井戸からの地下水の汲み上げを行っています。
更に、原子炉建屋付近の井戸から地下水を汲み上げ、浄化後に海に流出するサブドレン計画を立てましたが、福島県漁業協同組合は、漁場への風評被害が悪化することを危惧し、当初反対していたところ、汲み上げた地下水と浄化後の水の放射性物質濃度を複数の分析機関で定期的に分析の上、東電が水質管理と情報公開を徹底・厳守することを確約し、同組合は、この計画を受け入れました。同組合の苦渋の決断は、漁業の再生と原発の廃炉促進を見据えたものと思われます。
○ 除染等
福島県内では、約3000か所にモニタリングポストを設置し、放射線量を監視していますが、原発事故前にはなかった非日常的な物が存在し、そのデータが毎日新聞紙上に載るということが日常化しています。
原発事故で被害を受けた状況を改善し、避難地域の住民の帰還を促すことにより、原発事故前の生活を取り戻して産業等の復旧・復興を図るため、原発事故で拡散した放射性物質の除染が進められています。除染の必要性は否定できませんが、一方、その程度や範囲、それに要する莫大な予算(平成23年度~27年度にかけて約2兆6000億円の予算措置がなされている。)などの問題もあります。
また、除染に伴い大量に発生した土壌や廃棄物等が仮置場や住宅の敷地内、校庭等に保管されており、その早期の搬出・保管が大きな課題となっています。
これらの除染廃棄物を最終処分するまでの間(最長30年間)、安全かつ集中的に貯蔵するための中間貯蔵施設を整備し、そこに除染廃棄物を輸送する必要があります。
この中間貯蔵施設の建設場所は、福島第一原発の周辺で面積が約16㎢、約3000万トンの貯蔵が可能ですが、建設場所の地権者約2400人との交渉が遅々として進まず、除染廃棄物の搬入ルートについても関係地域との調整が難航しています。
○ 風評被害
原発事故により放射性物質が拡散されたことから、それが含有等されていないことを証明する検査を行っているにもかかわらず、様々な面でマイナスイメージが生じるという風評被害があります。
福島県は、原発事故前、全国有数の農産物を生産・出荷していましたが、風評被害を払拭するため、各種農産物の放射性物質吸収抑制対策を講じるとともに検査を徹底し、特に、県産米については、全量全袋検査を行い、放射性物質基準超ゼロを確認し、県産米ブランドの再興を目指しています。
漁業では、原発事故に伴う汚染水の発生と海への流出があったことから、近海では全く出漁できない状況の中、原発事故の影響がない漁域で採った魚類を福島の漁港で水揚げしたというだけで、市場価格の半分以下となるなど、大きなダメージを受けました。現在は、近海での試験操業をしながら放射性物質の検査を行い、「常磐もの」の復活を目指しています。
観光では、ふくしまディスティネーションキャンペーンを行うなど様々なイベントを通じて観光客の誘致に努めた結果、福島県を訪れる観光客数は、原発事故後激減したものの、原発事故前の8割まで復活しました。
○ 損害賠償
原発事故により住民や事業者が強制的に又は自主的に避難をせざるを得ない状況若しくは間接的に制約を受けた状況に置かれ、これに伴う精神的損害、就労不能損害、営業損害、風評被害、財物補償等々に対し、東京電力(国の基金)は、これまで約4兆6000億円の賠償金を支払っています。現在も様々な損害賠償の請求・訴訟がなされていますので、今後も賠償額の増大が見込まれます。
3 明るい動き
福島は、原発事故という未曽有の困難に立ち向かいながら、未来に向けて様々な取組をしています。
教育の場では、原発が立地する双葉郡に5校あった県立高校は、原発事故により県内各地に設けたサテライト校で授業をしてきましたが、郡内で開校している高校が4年間存在しない状況を解消するため、広野町に県内初の中高一貫校で文科省からスーパーグローバルハイスクールの指定を受けた「ふたば未来学園校」が開校されました。また、福島の未来に向け心を一つにして進もうという目的で、全国の中高生46人による「ふくしま未来応援団」と県内の「ふくしま復興大使」16人が集まり、原発事故からの復興の歩みを進める福島のために力を合わせる活動をしていくことになりました。
日本サッカーの聖地ともいうべきJヴィレッジは、原発事故後、その対応の拠点となり、グランドは駐車場として使用され、管理棟は作業員の詰め所となるなど、見る影もなくなりましたが、東京五輪の合宿誘致に向け、新たに全天候型サッカー練習場と宿泊棟を整備し、平成30年7月からJヴィレッジを再開することになりました。
平成26年の人口動態統計によれば、福島県の出生率が全国平均を上回る1.58で全国で最も伸び率が高くなり、全国における順位が9位で東日本では最も高くなりました。これは、原発事故により県外に避難していた若い世代が県内に戻っていることと、福島県が震災後に18歳以下の子供の医療費を無料にするなど、子育て支援を重点的に行っていることが大きな要因になっています。
4 いわき市の状況
私が居住しているいわき市は、福島県内の浜通り(太平洋側)の中核都市として、その中心地は、原発所在地から30㎞以上離れ、放射線量が低いこともあり、原発事故地域からの避難者を含めた実質人口が35万人を超えています。
また、常磐高速道が仙台まで全線開通し、JRの特急が上野駅止まりであったのが、いわき駅から東京、品川駅まで延伸したこともあり、人の動きと物流が増大しています。
さらに、被災者・避難者の転入に伴い、住宅需要が更に増加していることから、昨年7月の地価調査では、いわき市で一番高い住宅地の地価上昇率が全国で二番目に高く、全国上位10か所にいわき市の8地点が入っています。いわき市では、宅地開発の需要に応えるため、市街化調整区域を見直すこととしています。
5 公証業務
いわき公証役場では、震災・原発事故直後は嘱託が激減したものの、平成25年以降、人口増加や震災・原発事故に伴う復旧・復興事業の増大に伴い、各種相談や公正証書作成と定款認証の嘱託が増え、この3年間は、過去15年間における嘱託件数の最高を更新しています。
当職の任期は、残るところ数か月となりましたが、引き続き懇切丁寧な対応に心がけながら職務を全うしたいと思っております。
(福島県いわき公証役場公証人 平成28年2月記)
このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。
No.30 日付情報の付与(電磁的記録に対する電子確定日付の付与)
|
1 はじめに
公証人がする民法施行法第5条第2項による日付情報の付与制度は,電子政府を構築するという政府方針を基礎としたものであり,電子公証業務の中では,会社等の電子定款の認証と並んで双璧の業務といえるところ,紙による確定日付の件数と日付情報の付与件数を比較すると日付情報の付与は広く普及しているとはいえないのが現状のようである。
ところで,当役場の所在地である倉敷市には,その南部に中国地方有数の河川である高梁川の河口に形成された三角州と沿岸一体の遠浅海面の埋め立てにより造成された広範な地域に「水島臨海工業地帯」がある。JX日鉱日石エネルギー,三菱化学,旭化成ケミカルズ,JFEスチール,三菱自動車工業などの大手をはじめ,251の事業所(対全県比7.1%)が事業を行っており,約23,200人(対全県比16.5%,いずれも平成25年統計)が従事している。
これら企業からの嘱託は,事業用定期借地権設定,知的財産権利保護のための事実実験公正証書作成などであるが,当該企業の研究室からの確定日付の申請もある。日々の研究日報を週単位あるいは月単位で私署証書化したものに確定日付を付与するものであるが,当然に枚数も多く封緘した形態のものもある。従来はその全部が紙による申請であったが,今般,電子による申請,いわゆる日付情報の付与申請があった。
当役場では処理した前例がなく,地方の公証役場にもついに都市型(?)が来たかと実感し,少々バタバタしつつ,先輩公証人にアドバイスをいただきながら無事に処理を完了した。日付情報の付与については,前述のとおりその申請件数は少なく周知・広報が十分ではないのかとも思える。実際に処理した感想や当該申請人から寄せられた評価等をお知らせしたい。
2 事前相談と対応
(1) 事前の相談における照会内容等は概ね次のとおりである。
① 1冊100ページ前後の研究資料に確定日付の付与を受ける場合,紙で編綴して割印したものに確定日付を受ける方法と電子公証によって行う方法とどちらにメリットがあるか。できれば電子公証の方法によりたい。
② 日付情報の付与申請には電子署名を取得する必要があるか。
③ 紙によるものと電子によるものとの処理時間の差異はあるか。
④ 電子公証の場合,1文書(1ファイル)のページ数・容量に制限はあるか。
⑤ 公証役場での電子情報の保存について詳細に知りたい。
(2) 回答要旨
上記に対して,日本公証人連合会ホームページの「電子公証」,法務省ホームページ「1.3日付情報の付与(確定日付の付与)の請求」及び登記・供託オンライン申請システムの「申請者操作手引書」171ページを紹介した上で,次のとおり回答・説明した。
① 電磁的記録に対する電子確定日付の付与は,従前からの紙による確定日付を電子化したものであること(新訂公証人法,日本公証人連合会編206ページ)。したがって,日付情報を付与する文書は,私署証書(私文書)である必要があること。
② 電子署名は不要であること。
③ 事前に,法務省ホームページ,登記・供託オンライン申請システムの「申請者情報登録」によって申請者情報の登録(IDとパスワード等)を行う必要があること。
④ 申請情報をPDF,XML又はTXT形式で作成する必要があること。
⑤ 紙による確定日付との最大の差異は,電磁的記録を保存(公証人法第62条の7第2項,民法施行法第7条第1項,指定公証人の行う磁気的記録に関する事務に関する省令第23条)することができること(ただし,1件300円の手数料が必要)。
日付情報付与後の文書(データ)を申請人が取得することによって手続は終了し,データの保存は,申請人が取得したデータと公証役場の2箇所で保存することになること。
⑥ 電磁的記録の保存を希望する場合には,申請時にその旨意思表示する必要があること(付与申請の際に,「公証役場で文書を保存する」チェック欄をそのままに。希望しない場合はチェックを外す。)。
⑦ 公証役場へ出向く必要はない(公証役場では受け取ることができない。)ので,少なくともその所要時間は節約できること。ただし,手数料納付のために出頭を要することもある。
⑧ 1ファイルの容量の制限は,10メガバイトであること。
⑨ 日付情報の付与を行う電子文書のファイル名について,文字数の制限があること(全角15文字以内)。
なお,本件においては,申請ファイル数が,複数で内容的に同内容であり,かつ継続的に利用される可能性が高いため,ファイルの名称に符号等を付して分別可能になるよう指導した(例えば,「△△研究室研究資料25-5」)。
(3) 処理の流れ
実際に行った処理流れを図示すると概ね別表のようになる(前記「1.3日付情報の付与(確定日付の付与)の請求・申請手続の流れ」及び(株)日立製作所作成にかかる「法務省オンライン申請対応版・電子公証システム公証人端末手順書」をベースにして,申請人との連絡等も含めて作成)。
3 処理に留意した事項、感想
① 今回は,全17件(17ファイル)の申請で,1ファイルのデータ量は少ないものでも90ページであった。これが紙で申請されるとなると申請人がその全部を持参し,窓口で待機することになるが,電子申請では申請人が役場へ出頭しないので,当方のペースで処理ができるのがメリット。
② 上記の情報量であるため,公証人が私署証書であることを含め内容の確認を行うのにそれなりの時間(本件においては,1ページ目に研究資料である旨及び作成者の所属氏名・作成年月日が記載され,2枚目以降は図面や化学記号等の記載されたものであった。)を要した。
なお,今回は双方初めての処理であったため,正式な申請の前の内容の事前確認として,申請予定のファイルの1つを電子公証システムではないインターネット回線を利用して送信させ,内容確認を行った。私署証書か否かについて申請人はほとんど意識していないと思われるので留意を要する。
③ 紙による確定日付の場合,複数枚のときは割印を行う必要があるが,電子による場合はこれの必要はないこともメリット。
④ 手数料の徴収方法に工夫が必要。なお,今回は振込による支払を希望したので,振込があったことを確認して署名処理したが,これは公証役場の実情によることになる。
4 計算書
計算書は,公証人法施行規則(以下「規則」という。)第23条により公正証書以外のその他に関するものは附録第4号の乙の様式によるものとされ,相当と認めるときは,確定日付に関するものは同号の丙の様式によることを妨げないとされている。また,指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成13年3月1日法務省令第24号,以下「省令」という。)第21条により,指定公証人の計算簿の特例が定められている。
当役場では,電子定款認証のために省令第1号様式の計算書は使用していたが,前述のとおり日付情報の付与の取扱がなかったため省令第2号様式は備え付けがなかった。
暫定的に上記丙の計算書を使用して,同様式にある「確定日付」の文言を「日付情報」「保存料」と追加・修正(訂正)して使用していることも検討したが,当役場においては,省令第21条に基づく附録第1号様式によることとした。なお,定款の電子認証の場合と登簿管理番号が相違するため,日付情報専用の計算書として別冊で処理をすることにした。
新たに計算書を調整する場合には,省令附録第2号様式の計算書を調整することとしている。
5 申請人からの評価
申請人からは,以下の事項を理由に非常に便利でメリットは高いとの評価であった。
① 電子情報による処理であるため,紙(簿冊)によるものと比較すると,完了後の申請人会社における保存場所が省力化できる。
② 秘密に属する知的財産に関する文書・書類の現物を工場・会社等から持ち出しすることの危険負担が全くない。ただし,電子情報としてのセキュリティの問題はある。
③ 電磁的記録として20年間保存してもらうことができるので,二重保存の状態になり,知的財産としての保存に安心感が増す。
④ 謄本(同一情報の提供)請求が可能なこと。
⑤ 公証役場における20年間の保存期間を考慮すれば保存の手数料が安価であること。
6 おわりに
日付情報付与を処理した結果等は以上のとおりであり,処理してみれば意外とスムースで,電子アレルギーだったかなと反省しきりです。
申請人からの評価に加え,公証役場から遠隔地にある企業の活用も考慮し,かつ,電子政府の構築という政府方針を勘案すると,研究開発部門を持つ企業には有意と思われ,積極的に啓発する必要を感じています。
なお,電話による相談の場合は,前述のホームページ等を紹介することで足りるが,窓口で説明する場面に備えて説明資料を作成したので参考に供します。
(中西俊平)
No.31 法人格のない甲地区会所有の土地について、法人格のある乙地区会の名義を借りて登記する旨の私署証書(甲乙間の覚書)の認証の可否(質問箱より)
|
【質 問】
下記覚書の認証の嘱託がありましたが、同覚書中「法人格のある乙地区会の名義をお借りし登記する」とあるのは、虚偽の登記を意味するものであり、公証人法第60条(第26条・無効の法律行為)に抵触しないか疑義が生じたところであります。
つきましては、嘱託どおり認証して差し支えないか教示願います。なお、登記事項証明書では、登記原因は委任の終了、名義人は甲地区会の代表者個人名から乙地区会に変更されています。
記
(覚書)
平成27年○○月○○日付けで成立した甲地区会(法人格なし)所有の土地所有権移転登記に際し、甲地区会と乙地区会(法人格あり)との間で、次のとおり申し合わせをする。
甲地区会所有の土地名義変更に際し、今まで個人の名義をお借りし、数年ごとに名義変更、更新をしてまいりましたが、その都度に役員、当事者、親族等大勢の方に多大な労力と費用をかけてまいりました。また、名義人死亡による相続の手続きが、場合によってはできなくなるというリスクも懸念されておりました。
そこで、法人格のある乙地区会の名義をお借りし登記することによって、度々の名義変更による費用と様々なリスクを軽減できることとなります。
今後、上記の土地名義は乙地区会になりますが、今までどおり所有権は甲地区会にあり、管理、納税等の費用負担の義務は甲地区会にあり、甲地区会が負担することとします。
上記の内容を確認し、代表者が署名、押印し、両者が各一部を所有、保存する。
平成27年○○月○○日
○○県○○番地
甲地区会会長 住所
氏名 ㊞
同 副会長 住所
氏名 ㊞
○○県○○番地
乙地区会会長 住所
氏名 ㊞
同 副会長 住所
氏名 ㊞
【質問箱委員会回答】
私署証書の認証について、文面に不動産登記法上問題と思われる事項が掲載されているところから、認証の可否に疑義が生じた事案です。私署証書については、公証人法第60条で、公正証書作成について規定する第26条を準用しているところから、そこに定める要件、すなわち「公証人ハ法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為及行為能力ノ制限ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ法律行為ニ付証書ヲ作成スルコトヲ得ス」を満たしていなければならないことになります。
さて、本件において問題になるのは、甲地区会の所有の土地について、「法人格のある乙地区会の名義をお借りし登記することによって、度々の名義変更による費用と様々なリスクを軽減できることとなります。 今後、上記の土地名義は乙地区会になりますが、今までどおり所有権は甲地区会にあり、管理、納税等の費用負担の義務は甲地区会にあり、甲地区会が負担することとします。」と記載されている箇所です。
ここに記載されているのは、甲地区会の所有の土地であるにもかかわらず、「①乙地区会の名義を借りて登記をする、②登記名義は、乙地区会であるが、今までどおり所有権は甲地区会にあり、管理、納税等の費用負担の義務は甲地区会にある。」との文言は、公証人法第26条で定める「法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為」に該当することになるのか否かです。
この点について、次の2つの考え方があります。
⑴ 不動産に関する権利変動を登記簿に正確に反映させることを目的とする登記制度の立場からすると、①のように「他人の登記を借りて登記する。」旨の記載は、公証人法第26条で定める「法令ニ違反シタル事項、無効ノ法律行為」について記述するもので許されない、②についても、前段の箇所は、同様の理由により許されない記述であり、この記載内容のままでは、私署証書の認証は認められないという意見です。
⑵ これから真実とは異なる所有権名義の登記をしようとする合意だとすると、これは不実の登記を出現させることを内容とするものであるから、公証人法第60条で準用される第26条の「法令に違反したる事項」に該当し、認証を与えることはできないということになりますが、本件の場合は、既に乙地区会名義の登記がされていることを前提として、①と②前段は、真実の所有権は甲地区会にあるという事実の確認であり、②後段は、実体に合った費用負担をすることの確認ということですから、この覚書の内容自体が「法令に違反したる事項」であるとまでは言えないという意見です。いずれの考え方に立って処理しても、誤った処理とまでは言えないとおもいますが、次のような問題があります。
⑴の意見については、法律に違反する事項があるとの指摘は、そのとおりとしても、現に存在する事実をありのまま記載した箇所についてまでも認証を拒否するのは、認証実務の現状からみて少し行き過ぎではという反論があり得ます。⑵の意見については、事実を記載しているだけといっても、明らかに法律に反する内容をこれでも許されるかのごとくに記載をしている文書をそのまま認証できるとすることは、公証人法第26条で定める要件から、全く問題なしということにはならないという反論があり得ます。
いずれにしても、このままの文言で認証することには、若干問題があると言えそうです。問題になるのは、甲地区会が乙地区会名義を借用して登記できると記載している「法人格のある乙地区会の名義をお借りし登記する」の箇所と、登記名義は乙であるが所有者は甲であると記載している「土地名義は乙地区会になりますが、今までどおり所有権は甲地区会にあり」の箇所です。
この箇所をそのままにして認証すると、公証人は、他の登記名義を借りて登記すること、あるいは、登記名義と所有権者が異なることであっても、法的に問題ないものとして認証したかのごとき印象をもたれてしまいそうです。また、本件は、同じ地区会という名称が付されており、乙地区会は、法人格を取得し登記しているにも関わらず、甲地区会は法人格なしということですから、甲地区会は、法人格を取得して登記できるにもかかわらず、自己都合で法人格を取得せず登記していない団体であるとみることもでき、そうであるならば、甲地区会が乙地区会の名義を借用することが許されるかのごとき記載は許されるものではなく、本件記載のまま、認証することは相当でないと考えます。もっとも、甲地区会が法人格を取得できない団体であるとした場合には、便宜的な登記を認めざるを得ないこととなりますので、その場合は、厳しい指摘もできず、考え方を変えて対処する必要があるものと思われます。
以上のことを前提に、認証できる文書にするには、どのようにしたらよいかですが、次のような方法が考えられます。
⑴甲地区会が自己都合で法人格を取得していない場合
①登記に関する箇所について、「本来甲地区会名義で登記すべき事案であること、現実に乙地区会名義で登記をしてしまった経緯及び早急に甲地区会名義に登記を訂正すること」を記載し、その登記が是正できるまでの間、甲地区会と乙地区会の取り扱いを定める内容とした文書に書き改める。
②登記に関する箇所を削除し、単に甲地区会と乙地区会の取り扱いを定める内容とした文書に書き改める。
③現在の記載内容に、「乙地区会名義の登記をせざるを得なかった経緯及び早急に甲地区会名義に登記を訂正する」旨を付記する。
⑵甲地区会が法人格を取得できない団体である場合
①現在の記載内容に、「乙地区会名義の登記をせざるを得ない事情」を付記する。
②現実に乙地区会名義で登記をした経緯を記載し、甲地区会と乙地区会の取り扱いを定める内容とした文書に書き改める。
文書の訂正指示については、公証人施行規則第13条に、「公証人は、法律行為につき証書を作成し、又は認証を与える場合に、その法律行為が有効であるかどうか、当事者が相当の考慮をしたかどうか又はその法律行為をする能力があるかどうかについて疑があるときは、関係人に注意をし、且つ、その者に必要な説明をさせなければならない。」と規定しているので、訂正させることは可能です。
(参考)
権利能力なき社団の所有不動産の登記について
判例(最高裁第一小法廷昭和32.11.14判決。最高裁判所民事判例集11巻12号1943頁、裁判所時報247号10頁、判例時報131号23頁、判例タイムズ78号49頁等)は、権利能力なき社団の財産は、権利能力なき社団全員の総有という考え方をとり、これを前提として、権利能力なき社団の所有不動産の登記については、代表者が構成員全員からの受託者たる地位において個人名義(社団の代表者という肩書きを付けることも認められません。)で登記するほかないと判示(最高裁第二小法廷昭和47年6月2日判決。最高裁判所民事判例集26巻5号957頁、判例時報673号3頁、判例タイムズ282号164頁等)し、これによって登記実務が運用されているところです。
しかしながら、現在の不動産登記実務により代表者の個人名義とされた登記も、登記原因を見れば本来の個人財産とは異なるものであることがわかるはずだということかもしれませんが、一見して代表者個人の財産と区別できない登記がされており、真実の所有関係を正確に分かりやすく公示しているとは言い難いものになっていることは否定できません。
このようなことから、登記簿上は代表者個人の財産であるかのように登記されているが真実は権利能力なき社団の財産であること、及び、当該不動産に関する管理費用や税金は権利能力なき社団が負担することを確認するというような内容の公正証書の作成や私書証書の認証を求められることもあり、これらの嘱託には応じているところです。新訂公証人法91,92頁参照
なお、権利能力なき社団については、民事訴訟法第29条に、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。」とされているほか、税法上又は行政上の関係では法人とみなされている場合がありますので、権利能力なき社団が所有する不動産についても、その実体にあった利用しやすい登記方法が考えられれば良いのですが、これはすぐには解決できない問題と思われます。
No.32 電気事業者の土地及び権利売買契約について(質問箱より)
|
【質 問】
土地所有者甲が所有する土地(競売物件。甲が落札の見込み。150筆)及び甲が取得した電気事業者による再生エネルギー電気の調達に関する特別措置法第6条に基づく経済産業省の設備認定ID及び同IDに基づく地位及び権利、並びに○○電力株式会社からの発電設備系統連係承諾の地位及び権利を、甲から乙に売却するための売買契約について公正証書作成依頼がありました。
上記ID等について経済産業省及び電力会社への名義変更届出を条件とするものですが、そもそも上記ID等が売買の対象になるのか否か(一身専属的な認可ではないか)について疑義があるところ、当役場には関連の資料が乏しく、最終的には経済産業省等へ照会するしかないと考えていますが、同様の案件があればと思い照会いたします。
なお、売買代金は土地及びID権利の総額で1億円です。
【質問箱委員会回答】
電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「特別措置法」と言う。)第6条によれば、再生可能エネルギー発電設備を用いて発電しようとする者は、経済産業省で定める基準を満たせば、発電事業者として認定されると定められています。
本件では、売買の目的物が「甲が競落により取得する見込みの土地及び甲が取得した特別措置法第6条に基づく経済産業大臣の設備認定ID及び同IDに基づく地位及び権利並びに○○電力会社からの発電設備系統連係承諾に係る地位及び権利」とされており、売買の対象として、「経済産業大臣の設備認定ID及び同IDに基づく地位及び権利」が含まれておりますので、甲としては、既に再生可能エネルギー発電設備に関する経済産業大臣の認定を受けられており、その地位及び権利も含んで再生可能エネルギー発電設備として必要とされる一切のものを他の者に売却する計画と思われます。
これに関して、経済産業省資源エネルギー庁のホームページには、次のような照会回答事例が掲載されています。
「設備認定を受けた後、発電事業者の名義を変更する必要が生じました。どのような手続が必要ですか?(20150526更新)
A.発電事業者を変更する場合、まず、譲渡人と譲受人の間で発電事業の譲渡に関する契約が締結されるなど、発電事業が譲渡された事実があることが必要です。その上で、譲渡人が軽微変更届出を提出することで、認定上の発電事業者たる地位を譲受人へ変更する必要があります。その際、トラブル防止の観点から、譲受人が、発電事業者たる地位を譲渡人から承継した事実、又は譲渡人の承諾を得た事実、を証明する書類と印鑑登録証明書(印鑑証明書)を添付し、軽微変更届出には登録した印鑑を押印してください。なお、原則として、譲渡人が届出を行う必要がありますが、現在の認定者が死亡して相続が生じたなどやむを得ない場合に限って、譲受人が届出を行うことができます。
○発電事業者たる地位を譲渡人から承継した事実、又は譲渡人の承諾を得た事実、を証明する書類について(写し可。各種書類は最新の内容が記載されたものを提出してください。各種証明書は原則として3か月以内に発行されたものを提出してください。)
【法人の代表者変更の場合】
法人の「現在事項全部証明書」及び「印鑑証明書」
【法人間又は個人間の譲渡の場合】
「譲渡契約書」又は「譲渡証明書」
譲渡人、譲受人双方について、
・法人である場合には「現在事項全部証明書」及び「印鑑証明書」
・個人である場合には「印鑑登録証明書」」
従って、経済産業大臣の認定を受けた者が地位を含めて再生可能エネルギー発電設備として必要とされる一切のものを他の者に売却することは、特段問題のないことであり、売買に当たっては、甲について特別措置法第6条第6項に該当する認定取消に関する事由がないことを確認させた上、必要であるならば、甲及び買主が、特別措置法に定められている譲渡に関する諸手続きを確実に履践する旨を明記しておくことで差し支えないものと考えます。
No.33 (1)信託期間の終了事由として、「受益者代理人が受託者に対し、書面により信託の終了を通知したとき」と定めることは問題ないか。(2) 信託財産について、「受託者は、信託事務執行の便宜のため、また生活の本拠として家族などと不動産の一部を無償使用することができる。」と定めることは問題ないか。(質問箱より)
|
【質 問】
委託者及び受益者を甲、受託者を乙(甲の姪)、受益者代理人を丙(司法書士)とする信託契約(家族信託)公正証書作成の嘱託がありましたが、以下の事項につき疑義があります。
(1) 信託の終了事由は法定されているところ、以下の第3号は、信託行為に別段の定めがある場合に該当するか。
(信託期間)
第3条 信託期間は、次の各事由が発生したときまでとする。
(1) 甲が死亡したとき
(2) 信託財産が消滅したとき
(3) 受益者代理人が受託者に対し、書面により信託の終了を通知したとき
(2) 信託財産の一部について受託者の個人的使用を認める第2項は有効か。信託財産の法的性質を勘案すると相当ではないと考えていますが、なお、疑義がある。
(信託財産の管理及び給付の内容など)
第9条 乙は、乙が相当と認める方法により、信託財産の管理、運用及び処分並びにその他本信託目的の達成のために必要な行為を行う。
2 乙は、信託事務執行の便宜のため、また乙の生活の本拠として家族などと不動産の一部を無償使用することができる。
3 信託事務の処理に要した費用(公租公課、登記費用、信託事務処理代行者に対する報酬、損害保険料等)は、受益者の負担とし、乙は信託財産よりこれらを支払い、その上で、乙が相当と認める金額、時期及び方法により、甲に対して生活費、医療費及び施設利用費等を支払う。
【質問箱委員会回答】
1 信託期間の終了事由として、「受益者代理人が受託者に対し、書面により信託の終了を通知したとき」と定めることは問題ないか、について
問題ないものと考えます。
信託の終了事由を定める信託法第163条は、信託契約が終了する事由を例示(信託163①~⑧)するとともに、「信託行為において定めた事由が生じたとき」(信託163⑨)にも、信託契約は終了すると規定していますが、「信託行為において定めた事由が生じたとき」の例としては、「信託行為中に定められた存続期間が満了した場合」、あるいは「信託行為中の解除条件が成就した場合」が考えられるとされています(信託法第4版 新井誠 有斐閣 390~392頁)。
また、信託法第164条で、「委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。」(信託164Ⅰ)と定めるとともに、「信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。」(信託164Ⅲ)と定めています。
この規定の趣旨については、 委託者兼受託者が同一人である場合に委託者が信託の終了を欲している場合は信託契約を終了させても何ら問題ないという旧信託法の趣旨を基に、委託者と受託者が別人であっても双方が合意しているのであれば、信託の終了を認めることが相当であるとして、このような規定を設けるとともに、信託の終了についても、信託行為で別段の定めを設けることができるとしたものであると解されています(逐条解説新しい信託法 前法務省民事局参事官寺本昌広 商事法務365p)。
以上のことから、信託契約において、当事者が合意して、信託の終了事由を定めることは、何ら問題なく、本件のように、「一方的に受益者代理人が受託者に対し、信託の終了を通知したとき」のような定めであっても、そのような定めをすることを当事者において合意しているならば、それは、問題ないということになります。
ところで、この別段の定めは、信託法第163条第9号に定める「信託行為において定めた事由が生じたとき」に基づき定めたものか、信託法第164条第3項「信託行為に別段の定めがあるとき」に基づくものか、いずれとすべきか。信託法第163条は、客観的な事由に基づき信託契約を終了させる場合を規定し、信託法第164条は、当事者の合意に基づき信託契約を終了させる場合を規定したものであると、本件の定めは、信託法第164条第3項「信託行為に別段の定めがあるとき」に基づくものと解することになると思われます。ただ、信託法第163条第9号に定める「信託行為において定めた事由が生じたとき」に基づき定めたものと解しても、明文どおりであり問題ないものと思われます。
また、受益者代理人が信託の終了を通知することについては、「受益者代理人は、その代理する受益者のために当該受益者の権利(第42条の規定による責任の免除に係るものを除く。)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる」(信託139Ⅰ)と定められており、受益者については、「受益者代理人があるときは、当該受益者代理人に代理される受益者は、第92条各号に掲げる権利及び信託行為において定めた権利を除き、その権利を行使することができない。」(信託139Ⅳ)と定められ、受益者代理人の権限は広範なものであり、本件のような定めをすることには何ら問題はないと思われます。
2 信託財産について、「受託者は、信託事務執行の便宜のため、また生活の本拠として家族などと不動産の一部を無償使用することができる。」と定めることは問題ないか、について
問題ないものと考えます。
信託法第31条は、受託者は、「信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させる」行為をしてはならないと定めています。受託者は、信託財産に属する財産を第三者に貸与する等活用して受益者にその利益を享受させる義務があるところ、受託者が信託財産について自己に貸与する等自己取引をすることは、受益者の利益を害するおそれがあるとして、禁止しているのです(信託31Ⅰ)。
ところが、「信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき」は、自己取引等の行為をすることは許されるとも定めています(信託31Ⅱ①)。
本件の「信託事務執行の便宜のため、また乙の生活の本拠として家族などと不動産の一部を無償使用することができる。」との規定は、受託者が信託財産を他に貸与するなどの利用に供することなく、受託者のために利用することであり、信託対象の不動産につき自己取引をすることになるのですが、自己取引であっても「許容する旨の定めがあるとき」に該当するか疑問が生じたものです。
「信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき」とは、どの程度の具体的な定めが要求されるのかについて、「一般論としていえば、例外として許容される行為が他の行為と客観的に識別可能な程度の具体性を持って定められ、かつ、当該行為について、これを許容することが明示的に定められていなければならず、受益者の承認を得たことによる例外(2号)が認められるためには当該行為について、重要な事実を開示することが必要であることに鑑みても、信託行為に単に「自己取引ができる」という程度の定めがあるというだけでは足りないというべきである。他方、自己取引をする信託行為があるとしても、実際に受託者が自己取引をするに当たっては、当該受託者は、別途、善管注意義務を負うから、個別具体的な取引条件まで常に信託行為で明らかにしておくべきものとまではいえないであろう。」とされています(前法務省民事局参事官寺本昌広 商事法務・逐条解説新しい信託法125p)
つまり、自己取引行為が他の行為、すなわち受託者が信託契約を履行するために第三者との間で行うとされる行為、本件でいえば、不動産を第三者に貸与する等の行為と客観的に識別可能な程度の「具体性」と「明示性」を持っていることが必要であり、単に「自己取引ができる」という程度の記載では足りないとされています。
本件の自己取引に関する記載は、「乙(受託者)の生活の本拠として家族などと不動産の一部を使用する。」と記載しており、「単に「自己取引ができる」という程度の定め」以上に、具体的でかつ明示的に記載されているとみることができ、この要件を満たしているものと思われます。
なお、「無償使用する」というのは、受託者の利益享受を禁止する信託法第8条に反するとの疑問がありますが、「信託事務執行の便宜のため」に使用するとされており、全く無償ということにはなっていないので、この点からも問題ないと思われます。(新日本法規「ケーススタディにみる専門家のための家族信託活用の手引」(モデル契約書)150p参照)
以上のことから、本件のような記載は、問題ないものと考えます。
No.34 借地借家法第22条に基づき私書証書で締結した定期借地権設定契約について、借地期間開始後に、強制執行認諾文言を付した形で同一内容の公正証書を作成して差し支えないか。(質問箱より)
|
【質 問】
借地借家法第22条に基づく定期借地権の設定を、当事者間では書面(私署証書)によって「賃貸借期間を2015年1月1日から2065年12月31日までの満50年間とする」旨の約定(定期借地権としての他の要件は、全て満たしている)で、2014年12月1日に締結済みであるが、今般、当事者間での賃料支払債務と敷金返還債務の双方につき、強制執行認諾文言を付した形で公正証書化したいとして嘱託があった。
既に、当事者間では、法22条が要求する書面化した形で契約が成立しているのに、上記のような強制執行認諾文言を付すだけのため、私署証書の内容どおりでの公正証書化は、可能なようにも考えますが、いかがでしょうか?
【質問箱委員会回答】
借地借家法第22条に定める定期借地権設定契約について、特約事項を含めて既に書面を作成しているとき、契約の成立には何ら問題ないところあり、このように有効に成立している契約については、敢えて公正証書にする必要性は乏しいとおもわれるところ、嘱託人から、公正証書にしておきたいとの要望が寄せられた場合、その申し出を受けても差し支えないかどうかというのが疑問点と思われます。
事業用定期借地権のように公正証書によらなければ契約が成立しないという例を除いて、既に有効に成立している契約を公正証書にすることは、通常の例であり、例えば、金銭消費貸借契約については、既に現金の授受によって契約が成立してから公正証書を作成することとなりますし、債務弁済契約でも当事者に契約内容を決めさせてから公正証書にすることになります。その意味では、公正証書というのは、元々有効に成立している契約を公正証書にしておくのが一般的といえます。
従って、すでに有効に成立している定期借地権設定契約を公正証書にしておきたいということであれば、公正証書として作成することには何ら問題ないといえます。特に、本件については、強制執行のできる契約書にしておきたいということですから、単なる私文書による契約書ではなく、公正証書にしておくべき意義はあるということになります。
それでは、有効に成立している定期借地権設定契約であっても、公正証書として作成する場合には、どのような点に気を付けなければならないかですが、次のような点に留意すべきと思われます。
⑴ 金銭の支払いに関する事項が、強制執行できるような記載となっていること
⑵ 契約解除条項等につき、借主に不利となるような不適法な文言が用いられていないこと
⑶ 契約終了時に、自力救済禁止の規定に反した内容となっていないこと
⑷ 既に賃貸借契約はスタートしているので、そのことを念頭におき、文言に齟齬が生じないように留意すること
]]>