民事法情報研究会だよりNo.9(平成26年12月)

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初冬の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。 さて、過日ご案内いたしました12月13日の臨時会員総会・セミナー・懇親会につきましては、師走のお忙しい中、70名近い会員からご出席の返事をいただいております。今回のセミナーでは、本年3月まで早稲田大学法学部講師として教鞭をとっておられた藤原勇喜会員が、「渉外遺言と不動産登記をめぐる諸問題」と題して講演されます。藤原会員は従来から渉外不動産登記の研究をされており、先ごろテイハンから「新訂渉外不動産登記」を出版されておりますので、最新の有意義なお話をお聞きできるものと思っています。 なお、講演録は、これまでと同様、民事法情報研究会だよりの号外として全会員にお配りする予定です。(NN)  

妻との距離感(理事 小林健二) 退職し、自宅での生活が中心になると、妻との距離の取り方が最大の課題となる。御夫婦揃って同じ職場で仕事をしてこられたという方は、それなりの智恵を絞っておられたことと思うが、私にとってこれまでの自宅は、ほとんど寝に帰るところであり、妻にとってみれば、これまで昼間いなかった者が朝から晩まで一日中家の中にいることになるところから、鬱陶しいとの思いでいることはよくわかる。まず自分の身の置き所をどうするか。お互いに息が詰まってしまわない方法を考えなければならないこととなった。 いつだったか新聞に退職後の夫と妻の家庭内での望ましい位置関係を平面図にしてあらわすとこうなるとしていたものがあったが、その平面図によれば、両サイドに夫と妻の部屋を配置し、真中にリビング、台所、トイレ等共通の設備が配置されており、その説明書きには、必要なときだけ双方が顔を合わせることができるようにすることが望ましいとあった。 また、最近、テレビや雑誌では、「卒婚(そつこん)」なる言葉が目立つようになった。卒婚とは、「杉山由美子氏著の「卒婚のススメ」からきた新語で、熟年夫婦が、これまでの二人の関係をリセットした上で、もう一度自分自身というものを見直し、それぞれの道に進んでいくというライフスタイルです。別居、同居は関係なく、気持ちの上での「結婚からの卒業」で、お互いが自由に自分の人生を楽しむ、といった夫婦の相互信頼の延長上にあるポジティブな選択肢ということだそうです。」(yahoo知恵袋)とある。これは、夫と妻との距離をどのようにおくことが望ましいかを取り上げているものである。夫婦の在りようがなかなか難しい問題となっている現実が現在の風潮であることを示し、特に退職という新しい局面を迎えると、この問題が新たな課題として持ち上がっていると伝えている。 確かに、自宅はこれまで妻が思うように仕切ってきた。そこに粗大ゴミがどんと居座ることになったのであるから、家庭内での妻のペースは完全に狂ってしまうことになろう。その上、三度の食事の世話までとなると、家政婦でもあるまいし、いい加減にしてくれという気持ちがわからぬこともない。はっきり口に出して不満をいう奥方とそうでない奥方はいるだろうが、大方の奥方は、負担が増えたと思っていることは間違いない。うちは大丈夫と思われているかもしれないが、それは一方的な見方というものである。 家庭内のことは、日々のことでもあり、妻との距離をどのようにとりながら、過ごして行くか、知恵を絞らざるを得ないこととなる。とりあえず思いつくのが、妻のご機嫌とりと迷惑かけないようにするために、せめて家事のお手伝いくらいはと、食事の片づけ、清掃、ゴミだしに手を出すこととなる。もちろん、家事の分担ではなく、手伝ってやっているという気持ちでやり始めるので、やり方について文句を言われると、なんだ、してやっているのにという気持ちが先に立つ。妻にしてみれば自分なりのやり方、ペースがあるところ、夫のやり方がその通りになっていないと不満となる。家事手伝いの結果は、「しないで怒られ、やって怒られ」となるが、妻は、家事について何年も工夫をして自分流を編み出しているプロフェッショナルなので、ここは言われるがまま従い、反論はもってのほかである。どうせ分担なんか出来るわけがないので、お手伝いと決めて邪魔にならないようにさりげなくすることにつきる。 そんな退職後の過ごし方を模索しているとき、ある人から、「どうせ死ぬまでの短い時間だから、あれをやっておけば良かった、これをやっておけば良かったということの無いよう、とにかく悔いの無いようにやりたいことをやっておくことだ。ただ、妻との共通の趣味を持つか、あるいは一緒にできることを一つくらいは見つけることも大切だ。」との話を聞いた。 なるほどと思い、家で過ごす時間をなるべく減らす方法にも手をつけてみようと思い立った。これなら妻との距離を置くことができ、一石二鳥である。ただ、したいことがあればやっているのにそれすら手を出していないわが身であるから、何が向いているか、どんな能力を秘めているのか自分自身分からない。そこで、とりあえず、近場をぐるりと見回してみた。 ウォーキング、図書館通い、近くのコミュニティーセンター、公民館などで行われている行事、サークル活動への参加、趣味の教室の受講、貸農園で野菜栽培等々いろいろなものがある。なかでも、ウォーキングは、退職者にとって、健康管理と時間潰しを兼ねた定番中の定番である。自分なりにいくつかのコースを設定し、早朝、夕方と時間を変えたり、逆廻りと工夫して行えば、変化に富んでなかなか飽きがこない。道すがら俳句の一つも読めれば充実する。図書館通いも、暇つぶしにはもってこいである。 ただこれだけでは、出かける時間としては少ないと考え、たまたま家の近くにある陶芸教室と絵画教室、ついでにスポーツジムに出かけてみた。教室の先生には、「陶芸や絵が好きというわけではないし、うまくなりたいとも思っていない。妻と一定の距離を保つために始めたい。」と告げて通うこととした。スポーツジムも健康管理は二の次であると告げて始めることとした。この三点で家にいる時間をかなり減らすことができる。ただ、長続きするかどうかわからない。向いていれば続くであろうし、飽きたらすぐ止めということになろうが、不純な動機につき、おそらく長続きはしないであろう。 もっともこれでは、妻との共通の趣味を持つという課題をクリア―できない。妻が参加している地域の体操クラブ、歌声グループ、ボランティア活動に一緒に参加できるかというと、折角妻との間には、一定の距離が必要と思ってやり始めた本来の目的を逸脱してしまうと考え、ここは一線を画すことにした。 そんなわけで、妻との共通の趣味は、未だ見つからず、一緒にしていることとなると、毎晩の晩酌程度である。家庭内粗大ゴミは、只今悪戦苦闘中である。妻との良好な関係を保つためにどうしたら良いのか、その距離の取り方は実に難しい。

実 務 の 広 場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

 

 No.4 遺言の付言事項に関する参考事項

 【はじめに】 我が国が超高齢社会を実現し、今や人生80年時代が到来しております。 全国の公証役場の取扱事件数を見ると、遺言が毎年増加しています。当役場でも同様の傾向にあり、証書作成業務に占める遺言の割合は、全体の6割強を占めるに至っています。公証業務における証書の作成は、相談に始まり、中でも、遺言は,公証人が本人と面談し、相談内容からその趣旨を法律事項としてまとめ、これを遺言者の最終の意思表示として遺言公正証書を作成しますので、これに費やす時間も相当なものがあります。 特に、遺言者の高齢化を反映してか、最近の傾向として、本人が病気治療で入院中、自宅療養中,施設入所中など様々な事情で来所できず、資格士業を始め親族などの使者による依頼のケースも多く,この場合の本人確認、意思能力の有無の確認とも相まって、一層多くの時間を費やすこととなり、全体の事件処理に遅れを来たさないよう事務処理に工夫が必要です。

【付言を記載することの意義】 遺言は、前述のとおり、相談に相当の時間を費やしているところ、遺言者において人生で熟慮された意思(考え)を遺言でする財産処分として、公証人に口授する際には、これに至るまでの多様な思い、作成の背景事情、作成への期待、満足感、達成感などがあり(法定の遺言事項を上回る、実に多様な思いなどを聞くことが多い。)、これを形にして遺言書とともに残しておきたいとの強い気持ちがうかがわれます。 公証人就任当初においては、遺言者が公証人に口授した内容を法律事項として構成することに精力を傾けて(というより、それ以上の余裕がなかったのが本音です。)いたので、さほど意識しなかったことの一つが「付言」です。 もっとも、付言については、法律的効果は伴わない(付言の内容を実現するための法的手段がない。)ことから,これまでにいろいろと議論もあり、そこでは法定事項以外は記載しないという考えもありました。 しかしながら、私は、遺言の作成依頼(嘱託)を受けるという形で遺言者と出会い、遺言者の遺言作成の気持ちにできるだけ寄り添いつつ、遺言の作成に至った思い、財産配分の理由、背景事情等の一端でも筆記して希望を叶えることは、公証人としてお役にたてることと考えます。 そこで、ほとんどの遺言相談の際、「付言は、法的効果は伴わないこと」を説明した上、作成の希望がある場合は、証書に条建てしないで、末尾に(付言事項)と表記し(長文でなくても、簡潔にして、二、三行でも含蓄のある忠実な表記に意を用いて)、記載しています。作成後の遺言者の感想は、感極まって涙を流される場面もあるほど、大変感激されます。 近時、OB、先輩公証人の方におかれましても、付言に思いを致され、本人の希望を踏まえて作成された結果は、大いに満足ゆくものがあったことを聞き及ぶことも多く、同感の思いです。

【付言事項の参考事例】 これまで作成した付言をランダムに列挙すると、次のような事項が多い。 ① 相続人のうち、特定の者に全財産を残す理由 ② 受遺者に対し、残された妻(又は夫)が心穏やかな余生が過ごせるよう、最後まで面倒見てほしいとの希望 ③ 受遺者に対し、先祖代々から受け継いだ不動産について、次の継承者についての考え、希望とその理由 ④ 受遺者でない相続人は、遺留分減殺請求しないでほしいとの要望 ⑤ 親族の遺産相続で調停にまで持ち込まれた経験から、自分の遺産でもめないために公正証書で遺言をする旨 ⑥ 相続人の特定の者(誰々)について、借金(金◎◎万円)の立替えをしており、相続分はないので理解してほしい旨の内容 ⑦ 葬儀は、家族葬(宗派、神式・仏式等、葬儀の規模のほか散骨等もある。)とし、遺骨は◇◇墓地(又は、△△寺の納骨堂)に納め、永代供養(供養料など支払済の旨を記載する。)を依頼 ⑧ 遺骨を亡き夫と同じ墓地(共同墓地又は納骨堂等)に収めることを依頼 ⑨ 葬儀に(兄弟又は姉妹)は呼ばない(死去を知らせない)こと等、その理由 ⑩ 遺言執行手続で面倒をかけないために、遺言執行者に第三者を指定したこと、遺言執行者への協力要請 ⑪ 兄弟姉妹が仲良くし、その家族が末永く幸せに暮らすことを願う気持ちの表明 ⑫ これまでの人生があることに対する、妻(又は夫)や家族への感謝の気持ちの表明 ⑬ ①に関連し、「これまで良く面倒を見てくれた(これからも見てくれる)ので、感謝の気持ち」を表明 ⑭ 子が無い夫婦で、夫(又は妻)から相続した不動産を夫(妻)の兄弟又は甥・姪に相続(代襲)又は遺贈させる理由 ⑮ 実子の配偶者(妻)への遺贈において、永年に及ぶ遺言者夫婦との同居の労いと感謝の気持ちを表明 ⑯ 相続人以外の者(他人、公共・福祉関係等)に対する遺贈において、その背景、理由等 ⑰ 受遺者たる事業承継者への期待、家族の支援要請等

【今後の傾向】 超高齢時代における遺言の必要性は、高齢者の権利擁護の観点のみならず、自己の責任として、また安心安全の確保のためにも利点があることが考慮され、年を追って、浸透していくものと思われます。 また、特に遺言が必要な例として挙げられる夫婦の間に子がいない方の遺言が多いこと、加えて、時代背景としても顕著なことは、男女ともに結婚年齢が高くなる傾向にあるほか、独身も増加していることから、兄弟間の相続のケースが多く、さらに結婚したカップルの3分の1が離婚しているといった現状もあって再婚、再々婚も予想され、それらの子も含め、今後も遺言の必要性が一層増すものと思われます。 このような状況を踏まえると、遺言公正証書作成に当たっては、心を遺す付言を書いて欲しいとの要望が年を追って増加するものと想定されます。                            (冨永 環)

 

 No.5 成年被後見人の遺言(事例紹介)

成年被後見人の遺言は、遺言者が遺言時に事理を弁識する能力を回復しているかの判断のみならず、民法973条により医師2人の立会いを要すること(任意後見の本人の遺言はこれに該当しない。民法794条参照)、成年被後見人については印鑑証明書が取れないこと、また、民法966条による被後見人の遺言の制限があること等、簡単ではありませんが、現実の例は、後見人である弁護士又は司法書士からの依頼で、通常、必要な条件は後見人がそろえてくれますので、特に支障もなく公正証書作成にいたっています。なお、この事例では嘱託人の確認については、同時に認証した成年後見人の宣誓供述書の提出により人違いでないことを証明させています。

******************** 遺言公正証書 本公証人は、遺言者(甲)の嘱託により、後記証人の立会をもって次の遺言の趣旨の口授を筆記して、この証書を作成する。 第1条 (以下遺言内容は省略)

本旨外要件 東京都○○市○○丁目○番○号 無職 遺言者 (甲) 昭和○年○月○日生 上記の者は面識がないから本日本職が認証した成年後見人(A)の宣誓供述書の提出により人違いでないことを証明させた。 東京都○○市○○丁目○番○号 精神保健福祉士 証人  (乙) 昭和○年○月○日生 埼玉県○○市○○丁目○番○号 看護師 証人  (丙) 昭和○年○月○日生 上記遺言者及び証人に読み聞かせたところ各自筆記の正確なことを承認し次に署名押印する。 (甲署名押捺) (乙署名押捺) (丙署名押捺) 遺言者(甲)は成年被後見人であるため、民法第973条に基づき次の医師2名を立ち会わせた。 東京都○○区○○丁目○番○号 医師 立会人 (丁) 昭和○年○月○日生 埼玉県○○市○○丁目○番地 医師 立会人 (戊) 昭和○年○月○日生 遺言者(甲)が上記遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかったことを認める。 (丁署名押捺) (戊署名押捺) この証書は、平成○年○月○日埼玉県○○市○○老年病センターにおいて民法第969条第1号ないし第4号の方式にしたがい作成し同条第5号に基づき次に署名押印するものである。 埼玉県所沢市西新井町20番10号 さいたま地方法務局所属 公証人(署名押捺) ********************

宣誓供述書 私、弁護士(A)は、(甲)(住所:東京都○○市○○丁目○番○号、昭和○年○月○日生)の成年後見人であり、下記に署名押印した者は、(甲)本人に間違いありません。 記 (甲署名押捺) 平成○年○月○日 東京都○○区○○丁目○番○号 弁護士(A署名押捺) 昭和○年○月○日生 認証 嘱託人(A)は、法定の手続に従って本公証人の面前で、この証書の記載が真実であることを宣誓したうえ、これに署名押印した。 よって、これを認証する。 平成○年○月○日、埼玉県○○市○○老年病センターにおいて。 埼玉県所沢市西新井町20番10号 さいたま地方法務局所属 公証人(署名押捺) (野口尚彦)

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