民事法情報研究会だよりNo.8(平成26年10月)

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仲秋の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。 さて、前号でご案内した神﨑会員のセミナー講演録の配付につきましては、予定より遅れて9月にずれ込みましたが、過日全会員にお送りしたところです。明年の改正会社法の施行に向けて、ご活用いただければ幸いです。 なお、本年12月13日には臨時会員総会と藤原勇喜会員による講演を予定しておりますので、多数の会員のご参加を願いいたします。会員総会招集及びセミナーの開催通知は、11月初旬にお送りする予定です。 本号では、小畑理事の随想「江戸のユーモア古川柳」を掲載します。また、前号から始まった実務のページは、名称を「実務の広場」に変更いたしました。(NN)

江戸のユーモア古川柳(理事 小畑和裕)

1 突然ですが、クイズです。誠に失礼とは存じますが、以下の句は一体何を、どんな出来事を対象にして読んでいるのでしょうか? えっ、馬鹿にするなって。失礼しました。かくいう私はお恥ずかしい限りですが、初めてこの句を目にしたときは全く何のことやらチンプンカンプンでした。お分かりの方は日本の古典・故事来歴・歴史・川柳についてかなりの薀蓄をお持ちの方とお見受けいたします。恐れ入りました。私など遠く及ぶところではありません。以下の句はいずれも川柳で、江戸時代につくられた所謂古川柳と呼ばれているものです。江戸の人々のユーモアが満載です。 ① 来ぬ人を入れ百人に都合する ② 笈摺りはみかんにはじめ柿で脱ぎ ③ 玉むしは危ない役を言いつかり ④ 目と耳は只だが口は銭がいり ⑤ 犬に灸すえると猫に化ける也

2 私が、いわゆる川柳を詠んだ(生意気な言い方ですが)のは、今から20数年も前になります。ある日のこと、職場の上司から飲み会に誘われました。あまり気のりはしなかったのですが、同行しました。ところがその上司は、飲食の間中、説教やら小言を言い続けました。酒もまずいし、楽しくも何ともありません。そのあげく、勘定は割り勘でした。それはないだろう。さんざん説教されたあげく、割り勘だなんて。 それから数日後、ある雑誌の記事が目に留まりました。それは現在も続いている月刊「日本橋」の第1回川柳大会の募集記事でした。釈然としない気持ちを引きずっていた私は、即座に応募してみようと思いました。割り切れない気持ちを何かにぶつけたかったのかも知れません。「割り勘で ずっと説教する上司」。句はすぐに出来ました。ところが、どこでどう間違ったのか、この句が大賞になりました。選者の批評は、「この句は大方のサラリーマンの気持ちを代弁している。日本橋のサラリーマン、OLの方々に大いに共感していただける句だ。上司・部下それぞれの読み方ができる。上司だって安月給で大変なんです。あなたへの説教はありがたいといつか感じるときが来るかもしれません。怒りそのものを句に入れず、ちょっと冷静なのが面白い。」でした。誠にその通りで、いまはその上司に感謝しています。 こんなことがあって以来、今日まで川柳を続けています。私はごく最近まで、公証事務に従事していましたが、遺言や成年後見に関する講演をする際、川柳は大いに役に立ちました。講演のイントロで、「泣く泣くも良いほうを取る形見分け」、「お菓子なら仲良く分けた幼い日」、「相続の説明会で嫁とあい」、などの句を披露すると会場に笑いが起こります。その笑いにより、緊張がほぐれたところで、本論に入ります。 川柳は人を詠み、俳句は自然を詠むと言われます。65歳を過ぎ、いわゆる高齢者の仲間入りをした今、江戸の人々に負けないで多くの人々との付き合いを大事にして、毎日をユーモアに溢れた楽しい生活を送りたいと思っています。朝ドラの「花子とアン」の中で、ブラックバーン校長が言うように「最良のものは後から来る」を信じ、今までよりももっと楽しく、愉快で、嬉しいことがこの先きっと来ることを信じながら。

3 最後に冒頭の句です。①は、百人一首の選者藤原定家のことです。自身の句「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ」を入れて(来ない人を入れて)やっと百人が揃い、百人一首が完成したと言っています。②は、西国三十三か所巡りのことです。笈摺り(おいずり)は、巡礼が着る袖のない羽織のこと。西国三十三か所巡りは、みかんの産地の紀伊の国の那智山に始まり、柿の産地の美濃の国の谷汲山で終わります。③玉虫は源平合戦で那須与一が射落とした扇の的を支えていた女性です。類句に、「与一が矢それると虫にあたるとこ」があります。④有名な素堂の句、「目には青葉山ほととぎす初鰹」を川柳に詠んでいます。目に鮮やかな青葉や耳にさわやかなほととぎすを見たり聞いたりするのは只だが、食べれば75日も長生きをするという初鰹は、当時も今もかなり高価だったようです。⑤三味線は猫の皮で作りますが、中でも「八つ乳」といって乳首の跡が八つある猫が最高でした。そこで犬に灸を据えて乳首のように偽装する不届きな輩もいました。

NAMBAなんなん・大坂弁川柳コンテスト平成10年第2回大賞作品より

 おおきにと 言える景気に はよしてや(小畑和裕)

全国カラオケ事業者協会2013年度「東北を応援する川柳」優秀賞作品より

 夢がある これを支える 歌がある(小畑和裕)

平成26年いわて銀河100kmチャレンジマラソン川柳コンテスト入賞作品より

   負けないぞ 復興はたす この走り(小畑和裕)

実 務 の 広 場

 このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.2-1【養育費に関する相談事例】子の親権者と監護者を分けたい。

特に親権者と監護者を分けなければ、親権者が当然に監護者でもある(民法第820条)ということになりますが、子の養育を担当しない方の親としても、子とのつながりを保っておくために子に対する何らかの権限を持っていたいなど、様々な理由から親権者と監護者を分けたいという相談を受けることがあります。 当然、親権者と監護者を分けることは可能ですが、学校教育法第16条では、「保護者」を「子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)」と定めていることから、進入学等学校関係の諸手続は親権者が行わなければならないことが考えられますし、子に関する法律行為の代理や同意(民法第5条)、15歳未満の子に関する父又は母の氏を称する入籍の手続(民法第791条第3項)、未成年者の営業の許可(民法第6条)や就職等の許可(民法第823条第1項)など、法定代理人である親権者でなければできないことが多くあることから、親権者と監護者が近くにいてその連携協力が円滑にできるのであれば良いのですが、そもそも、このようなことが円滑にできないような関係になってしまったから離婚するという場合もあり、実際には、子に関する様々な手続に支障を来すおそれがあります。 そこで、このような相談を受けた場合には、先ず、親権者と監護者を分ける理由を良く聞いた上で、前述のような問題点があることのほか、親子の縁は切れるものではないこと、養育費の支払や面会交流ということを通じて親子としてのつながりが保たれることなども説明した上で、分けるかどうかについて、子のためにどうするのが一番良いかという観点から考えてもらうようにしています。 その上で、親権者と監護者を分けたいということであれば、これに応ずることになりますが、これまでのところ、分ける結果となったことはほとんどありませんでした。 ちなみに、「保護者」について学校教育法第16条と同様の規定を置いている例としては、身体障害者福祉法第15条第1項があり、逆に、監護者が置かれている場合には監護者の方を「保護者」として扱う例(児童福祉法第6条、知的障害者福祉法第15条の2第1項、少年法第2条第2項)もあります。                                 (星野英敏)

 No.2-2【養育費に関する相談事例】子の親権者又は監護者の変更をあらかじめ決めておきたい。

父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければなりませんし(民法第819条第1項)、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項(養育費は、未成熟子の監護費用ですから、その支払等に関する事項もここに含まれます。)は、その協議で定める(民法第766条第1項)こととされていることから、離婚後一定の期間経過後又は何らかの事情が生じた場合の親権者又は監護者の変更についても、当事者の協議でできると思い込んでいる場合があります。 しかし、民法第819条第6項及び同第766条第3項により、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所がその変更をすることとされており、親権者又は監護者の変更は当事者の協議のみで決められる問題ではありませんから、離婚に関する契約の公正証書に、一定の事由が生じた場合には当然に親権者等を他方に変更するとか、その時点で協議して変更するというような事を記載することはできません。 これらの変更は、いずれも家事事件手続法の別表第二に掲げられています(親権者の変更は別表第二の八、子の監護に関する処分は同三)ので、子の利益のため必要があるときは、当事者は家庭裁判所に対し、調停又は審判の申立てをすることになります。 したがって、特に公正証書に記載する必要はないのですが、当事者の要望がある場合には、念のため、「甲又は乙は、子の利益のため必要がある場合には親権者又は監護者の変更を家庭裁判所に申し立てるものとする。」旨の条項を入れています。 (星野英敏)

 No.2-3【養育費に関する相談事例】養育費の相場はどれくらいか。

これは、良く聞かれる質問です。 このような質問に対しては、参考として、インターネット上の裁判所のホームページでも紹介されている、養育費・婚姻費用算定表[東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指して―養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案―」(判例タイムズ1111号285ページ以下)]の表を見てもらっています。 その際、この表は、裁判所で把握された事例を基礎として、その標準を示したもので、当事者の協議で決めた結果がこの範囲内に収まっていなければならないというものではないことも説明しています。 実際に、養育費として、複数の子の総額でしたが、月額50万円以上を支払うという事例があり、財産分与等他の要素が含まれているのではないかと思って良く聞いてみたところ、支払う側が医師であって十分な支払能力があること、子供の塾や習い事等も含めてこれまでと同じ生活水準を維持していくのにこれくらいは必要であることなどを言われた例がありました。 場合によっては、強制執行の場面で養育費としておいた方が有利であることから、財産分与等他の要素の支払を養育費の名目で支払うこととしている場合もあるので、注意が必要です。                                 (星野英敏)

 No.2-4【養育費に関する相談事例】公正証書作成後、養育費の額の変更ができるか。

養育費を支払う側の親が転職したりして、いったん決めた養育費の額を変更しなければならないような事情が生じた場合、養育費の額を変更できるのかということを聞かれることもあります。 養育費も、扶養義務に由来するものですから、民法第880条が準用され、改めてその変更について父母間で協議することになります。 当事者間の協議で円満に解決されればそれで良いのですが、これが円満にいかない場合は、家庭裁判所での調停等の手続により解決しなければならないことになります。 離婚に関する契約の公正証書に特に明記しなくても同様の結果になるとは思いますが、念のため、養育費について取り決めをした前提の「事情に変更があった場合には、養育費の変更について誠実に協議し、円満に解決するものとする」という条項を明記するようにしています。                                 (星野英敏)

No.2-5【養育費に関する相談事例】複数の子の養育費の額を一括で決めたい。

複数の子がある場合に、養育費として子供たち全員に対して全体で毎月金何円を支払うという約束(上の子が成年に達しても、一番下の子が成年に達するまでは、毎月同額を支払うという合意。)がされることがあります。 このような合意があった場合、仮に、子のうちの一人が死亡してしまったときなどには、この合意の意味を巡って再度協議が必要になる等の理由から、原則として毎月1人当たり金何円を支払うということにしてもらっており、例えば、子が2人の場合、全体として毎月金6万円を支払うという合意であれば、「上の子が成年に達するまでは1人当たり月額金3万円ずつ支払い、上の子が成年に達した後は下の子に対して月額金6万円を支払う。」というようにすることになります。 ただし、1人当たりで決めさせたとしても、上の子が未成年の間に亡くなってしまった場合に、上の子が成年に達すべき時期までは残りの1人について月額金3万円、その後は月額金6万円という結果になり、それが当事者の真意とも思われませんので、結局、万一子が亡くなってしまったような場合には、やはり事情変更として協議が必要となってしまいます。 そうであれば、この例の場合、「養育費支払義務者は子供たちの養育費として毎月総額金6万円を支払うものとし、上の子が成年に達するまでは1人当たり月額各金3万円を支払い、上の子が成年に達した後は下の子に対して月額金6万円を支払う。」というように、そもそもの当事者の合意内容も記載しておくことにより、万一の場合の協議の指針を明記しておくのが良いと思います。                                 (星野英敏)

 No.2-6【養育費に関する相談事例】養育費と慰謝料等を合わせて支払額を決めたい。

養育費のほか、慰謝料や財産分与等の支払を全部まとめて、毎月金何円を支払うという約束をしている場合もあります。 これは、当事者が、毎月継続的に支払える金額として先ず支払金額を決めている場合ですが、養育費と慰謝料や財産分与等の支払とでは、民事執行法上の取扱いが異なり、養育費については、同法第151条の2(確定期限未到来債権の特例)、第152条第3項(差押禁止範囲の特例)、第167条の15(間接強制)などの特例が適用され、慰謝料等の一般債権よりも優遇された取扱がされることになります。 ただし、これらの特例の適用は養育費等に限定されていることから、養育費部分とそれ以外の一般債権の部分とを明確に分けておかないと、養育費についてもこれらの特例を受けられないことになってしまいますので、養育費として毎月金何円を支払うという約束と、それ以外の金銭の支払いとを明確に分けて公正証書を作成することになります。 (星野英敏)

 No.2-7【養育費に関する相談事例】養育費はいつまで支払うべきか。

養育費とは、未成年の子に対する監護費用の分担分ということになりますから、原則として、その子が満20歳に達するまでは支払わなければならないということになります。 しかしながら、多くの人が大学に行くという現状から、①4年制大学に入学した場合は通常当該大学を卒業する満22歳に達した以後最初の3月まで(単に大学卒業までとした場合、何年浪人しても何年留年しても良いとまでは考えられませんので、できるだけ明確に期限を記載しています。なお、その後もまだ在学中という場合は、成年に達した当該子とその扶養義務を有する親との間で改めて扶養料支払契約を締結させるのが相当と考えます。№2-8参照。)は養育費の延長線上のものと考える例もありますし、逆に、②高等学校を卒業する満18歳に達した以後最初の3月までとする例もあります。 ただし、未成年の子に対する養育費支払義務をあらかじめ排除するような合意はできませんから、この後者②の合意は、それ以降は養育費を支払わないという合意ではなく、その時点までの養育費の額を取り決めただけのものと考えるべきです。 この後者②のような合意がされた場合、約定の期間を過ぎても子が未成年である間に子の側から扶養の請求があれば、これに応じる義務があることを十分理解させるように説明するほか、当事者の合意が得られれば、公正証書の条項にもその旨が明らかになるように記載する(「養育費として満18歳に達した以後最初の3月まで月額金何円を支払う。」ではなく、「満18歳に達した以後最初の3月までの養育費の額は月額金何円とし、これを支払う。」など。)ことになります。 ところで、未成年の子に対する親の扶養義務は、生活保持義務(扶養義務者が自己と同程度の生活をさせる義務)と解されており、重い責任があるとされています。 これに対して、成年に達した子に対する扶養義務は、生活扶助義務(扶養義務者が自己の地位相応な生活を犠牲にしない範囲で援助する義務)と解されており、生活保持義務よりは軽減されることになります。 一般的に、扶養義務についてはこの二類型で説明されており、親権の一部でもある監護の費用ということから当然のことですが、未成年の子に対するものだけを養育費と呼んでおり、先程の前者①の例で、大学卒業時(満22歳に達した以後最初の3月)までの「養育費」支払が約束された公正証書に基づく強制執行手続について、そのまま養育費の延長線上のものとして認められたということも聞きますが、「養育費」としての強制執行の手続を満20歳に達する時までの分しか認めないという裁判所もあると聞きます。 満20歳に達した以後の支払は「養育費」ではなく「扶養料」と呼ぶのが正しいとしても、親子間の扶養義務に基づく扶養料の支払いですから、当事者が明確に、子が満22歳に達した以後最初の3月まで毎月金何円を支払うという約束をし、強制執行認諾をしている公正証書があるのであれば、その受取人が子本人でなく監護者であった他方の親であっても、当然強制執行は可能ですし、養育費であっても扶養料であっても、民事執行法第151条の2第1項の第3号(民法第766条の養育費)に該当するのか第4号(民法第第877条の扶養料)に該当するのかの違いであって、民事執行法上同じ特例を受けることになるはずです。 しかし、養育費の強制執行の手続を満20歳に達する時までの分しか認めないという裁判所の考え方が、このような民事執行法上の特例適用について、直接、養育費請求権者(監護者)あるいは扶養料請求権者(この例の場合は子自身ということになります。)との間で作成された執行証書に基づく場合に限るという趣旨だとすると、先程の前者①の合意のうち、子が成年に達した以後の部分は、扶養義務者である父と母との間でその分担等について取り決め、その一方から他方に支払う約束をしたもので、扶養請求権者に対して直接支払う約束をしたものではないことから、民事執行法の特例の対象にならず、強制執行ができるにしても、一般の債権と同じ扱いになるということになりそうで、この点については裁判所の判断ですので、どうなるか確信が持てません(なお、子が未成年の間にその法定代理人との間で、直接当該子に支払うという約束をしたということであれば、成年に達した後の扶養料の支払いについても、特例の対象になると考えられます。)。 また、子が成年に達することによって、生活保持義務から生活扶助義務に変わり、支払う側の余力がなければ支払わなくても良いことになるということも上記裁判所の取扱の根拠の一つかもしれず、そうだとすると、子が成年に達した以降は、支払う側の親の経済的余力の有無が新たな判断要素に入ってくることから、その時点で改めて検討すべき問題だということかもしれません。                                 (星野英敏)

 No.2-8【養育費に関する相談事例】成年に達している子の養育費を払ってもらいたい。

前問に記載したとおり、成年に達したけれども大学在学中などの理由により、経済的に自立できていない子については、養育費ではなく、民法877条第1項の親子間の扶養の問題となります。 したがって、この場合の扶養料の支払契約は、原則として、当該子と支払うべき親との間の契約となります。 離婚時、既に大学在学中の子が成年に達していた場合の当該子の扶養料の支払について、成年に達した当該子と扶養料を支払う親との間の契約という形でなく、当該子を契約当事者とせずに、扶養の義務を有する父と母との間でその分担等について取り決める形ですることも適法に行えると考えますが、前問記載のような問題点を注意しておく必要があります。 なお、この場合、当該成年に達した子から扶養請求があった場合、既に他方の親に支払済みであるという抗弁は成り立たないものと考えますが、生活保持義務ではなく生活扶助義務になっていますから、支払余力がなければ、断ることもできることになります。 ちなみに、父母間で、成年に達した子の扶養料の分担等に関する契約をする場合、支払総額を明記した上で期限の利益喪失事項を入れておくことにより、民事執行法第151条の2の特例を受けるのと同様の結果が得られる(同法第152条第3項等の特例の対象にはなりません。)ことにはなりますが、大学在学中ということであればそう長い期間のことではありませんし、扶養料についてこのような条項を入れることにより、かえって、養育費の特例適用を満20歳に達する時までの分に限っている裁判所以外でもこのような問題を意識させてしまう結果になるようにも思われることから、現在のところ、期限の利益喪失事項までは入れていないのが実情です。                                 (星野英敏)

 No.2-9【養育費に関する相談事例】障害のある子に、生涯にわたる養育費を払ってもらいたい。

障害があって経済的自立が望めない子について、成年に達した後も、生涯にわたって養育費(扶養料)を支払っていくという合意がされることもありますが、このような場合には、成年に達した以降も相当長い期間にわたる契約となり、養育費の延長線上のものとは言えませんから、公正証書では、満20歳に達するまでの養育費の支払契約と、それ以降の扶養料の支払契約[その性質から、当該子又は支払う側の親のいずれかが死亡する時までの期間に限るということを明記しておくことになります(民法第689条の終身定期金契約)。]とに分けて作成しておいた方が良いと思います(ただし、父母間で同一の公正証書により作成した場合の手数料計算については、養育費も広い意味での扶養料と考えられますから、合わせて一つの支払契約と考えます。)。                                 (星野英敏)

 No.2-10【養育費に関する相談事例】監護者(親権者)が再婚したら養育費の支払を止めたい。

監護者(親権者)が再婚しても、他方の親との親子関係に変更は生じませんので、そのことのみをもって養育費の支払義務に直接の影響はありませんが、現実に子が養育されている環境に大きな変化があり、それが養育費支払いの前提となった事情の変更ということになれば、養育費の変更等に関する協議の原因となることになります。 また、子がその再婚相手の養子になる縁組をした場合には、新たな親ができることになり、その養親が第一義的な養育の義務を負うことになりますから、実親の養育費支払義務が軽減されたり、場合によっては支払を要しないということになる場合もあります。 いずれにしても、その時点でのそれぞれの経済事情にも左右される問題ですから、あらかじめこのような場合にはこうするというような確定的な内容にしないように留意し、このような条項をそのまま公正証書に記載することはできないけれども、事情の変更による協議の対象になる場合があるということを説明しています。                                 (星野英敏)

 No.2-11【養育費に関する相談事例】養育費を一括前払いしたい。

確実に養育費を確保したいとか、養育費を支払う側が早く区切りをつけてしまいたいというようなことから、養育費を一括前払いしたいという場合もあります。 このような場合、前払いした養育費が、子がまだ未成年の間に何らかの事情で底をつき、子の生活に支障が生じたときは、既に前払いしてあるからもう支払わないということは言えず、事実上養育費の二重払いをしなければならないことになる旨を説明し、それでもかまわないということであれば、要望どおりに公正証書を作成しています。 ただし、前払いできるのは、日常的な生活費等その金額があらかじめ想定されるものに限られますので、子の疾病等による予想外の臨時出費については別途協議するという条項を入れておく必要があります。 実際に、残り数年のことであり、二重払いのおそれも少ないということから、前述のような説明に双方納得の上で前払いにした事例で、後日、追加費用の支払に関する協議が難航したという報告がありました。 このような場合には、支払う側の覚悟だけでなく、支払を受ける側としても、前払いとして受け取った養育費を計画的に使用して養育に当たらなければならない義務がありますから、いつどのような目的でいくら支出したかを、できるだけ証拠に基づいて、きちんと説明できるようにしておくことが重要だと思いますので、そのようなことも説明しておく必要があると思います。 また、一括前払いした場合、子が未成年の間に亡くなってしまった場合などには、支払済みの養育費を返還するのかどうか、その場合の計算方法をどうするのかという問題が生じます。 なかなか、子が死亡した場合を前提とした取り決めをするということ自体抵抗がありますので、このような問題については、「事情の変更」の場合に含め、「養育費支払に関する事情に変更があった場合には、その増減について協議する。」というような条項を入れておくことになりますが、その際の計算の便宜のため、「事情の変更により、一括前払いした養育費の額を変更する必要が生じた場合は、1か月分単位で清算する。」という条項を入れた例もあります。 (星野英敏)

 No.2-12【養育費に関する相談事例】養育費は支払わなくて良いという約束の証拠を残したい。

父母双方の経済事情にもよりますが、養育費の支払は要しないという合意ができたので、それを証拠として残しておきたいという場合もあります。 しかし、双方の経済事情に変化があるかもしれませんし、子が未成年である間は、親としての強い扶養義務(生活保持義務)がありますから、どのような事情の変更があっても絶対に支払わないということはできません。 したがって、公正証書では、「現在の父母双方の経済事情に変更がない限り、養育費の請求はしない。」というようなことにしています。 逆に、経済的事情から養育費を支払うことは困難であるけれども、子とのつながりを保ちたいということから、形だけでも養育費を支払いたいということで、わずかな金額を毎月支払うという約束をした例もあります。                                 (星野英敏)

 No.2-13【養育費に関する相談事例】養育費が滞ったら、面会交流を認めないことにしたい。

面会交流については、平成23年の民法改正により、民法第766条第1項の、父母が協議上の離婚をするときに定めるべき子の監護に関する事項として明記されました。 その性質は、親の権利という面もありますが、親の愛育を受けるという子の福祉を中心に考えるべきものとされています。 親が子を虐待するなどの場合には、面会交流を制限しなければなりませんが、直接子の福祉とは関係のないことで面会交流を制限することはできませんから、面会交流についてこのような条件をつけることはできません。 なお、面会交流の日時や方法等について、あまり細かな定めを置いても、その時の子の体調や子自身の感情等の問題もありますから、通常は、具体的な点については、子の福祉に慎重に配慮しながら父母間で協議して決めるというような定めとしており、毎月1回第何何曜日の何時からとか毎週1回何曜日の何時からというような取り決めを入れてほしいという場合には、「原則として」という文言を付した上、その時の子の気持ちや体調なども考慮して、親としてどうするのが子のために一番良いのかという観点から決める必要があることを理解させるようにしています。 (星野英敏)

 No.2-14【養育費に関する相談事例】養育費の支払方法はどうしたら良いか。

養育費の支払方法については、特に制限があるわけではなく、特別な合意がなければ持参払い(民法第484条)ということになりますが、直接手渡しということになると、後日「払った。」「いやもらっていない。」というような争いが生ずるおそれもありますので、直接手渡しとする場合は、領収書等をきちんと作成して、その証拠を残す(民法第486条)よう説明しています。 一般的には、金融機関の指定口座に振り込むことが多く、その場合には、金融機関に客観的な証拠が残りますから、上記のような争いの心配もありません。 振込手数料については、通常、支払う側の負担(民法第485条)となりますが(もちろん、当事者の合意により、どのように負担するかを自由に決めることができます。)、同じ金融機関のATMからの振込みやインターネットバンキングという方法等によれば、手数料がかからないこともあります。 なお、振込先口座の名義が、監護者(親権者)でなくて良いかという質問を受けることがありますが、監護者(親権者)が管理している口座であれば、その名義が子の名義などであってもかまわないものと考えます。 ただし、養育費を支払う側の親名義の口座という場合、会社から給料の一定額を毎月振り込んでもらうためにその名義でなければならないという場合もありますが、住宅ローンの支払口座であることもありますので、支払われる金銭が養育費なのか財産分与なのかを良く確認しておく必要があります。 また、支払方法のうち、毎月何日までに支払うかという期限について明確な合意がされていない場合もありますが、このような場合には、給料日等を考慮して無理のないところで毎月何日までと決めてもらっています。 (星野英敏)

No.2-15【養育費に関する相談事例】養育費の支払債務に連帯保証人をつけたい。

養育費を支払う側の親が信頼できないとか、祖父母が孫のために支払いを確保してやりたいというようなことから、養育費の支払債務について連帯保証人をつけることがあります。 養育費を支払う側の親に支払能力がない場合、そもそも離婚をしていないときでも、子の養育に必要な費用の負担が十分できない訳ですから、子もある程度は辛抱しなければならないことになりますし、当然に祖父母がその不足分を負担しなければならない義務を負うということにもなりません。 子の養育費支払義務は、父母の生活保持義務という一身専属的な義務に由来するもので、父母が死亡した場合には相続の対象とはならずに消滅することになりますし、支払能力に不足が生じれば、事情変更ということで、養育費の支払額の変更等が必要ということになります。 したがって、仮に養育費支払債務を保証した保証人がいたとしても、主たる債務者が死亡すれば当然に保証債務も消滅しますし、主たる債務者の支払能力に不足が生じれば、まずは事情変更ということで、その支払額の変更等が必要ということになります。 そうすると、この場合に保証人が保証債務を履行(それも強制執行を受けてまで)しなければならない場合というのは、主たる債務者が支払えるのに支払わないというような場合ということになります。 また、仮に、保証人が先に亡くなってしまった場合、保証債務は相続の対象と考えられますから、相続人がこの保証債務を履行しなければならないということになり、そもそもは父母の一身専属的な債務であったものが、一般の債務と同じものになってしまいます。 そこで、保証人になろうとする者も含めて各当事者にこのような問題点を説明し、各当事者の理解を得た上で、「養育費支払債務の連帯保証期間は、養育費支払義務者及び保証人が共に生存する期間のものに限る。」というただし書きを付しています(主たる債務者が生存する期間に限るのは当然のことですが、念のためわかりやすいように記載しています。)。 (星野英敏)

 No.2-16【養育費に関する相談事例】交付送達してほしい。

交付送達を積極的に勧めているというところもあると聞きますが、私の場合、当事者から要望があったときに交付送達をするのは当然として、当方から交付送達を勧めるのは、その必要があると思われる場合(債務者が転職しそうだとか、遠方に住所を移転することが予想されるなどの場合)に限っています。 実際に送達手続に至る例はあまり多くありませんが、その中で見る限り、特別送達が行われたことによって滞っていた支払が行われるようになり、結局強制執行までは必要なかったということも相当数あることから、後日、支払が滞ったときに特別送達をするということで心理的なプレッシャーを与え、支払を促すという効果も期待できると思いますので、交付送達を積極的に勧めるのが良いかどうかは難しいところです。                                 (星野英敏)

No.2-17【養育費に関する相談事例】養子縁組していない、相手の連れ子の養育費を払いたい。

これは極めて珍しい事例だと思いますが、協議離婚するに当たり、相手の連れ子(養子縁組をしていない)と実子の全員について、分け隔てなく養育費を払いたいという相談がありました。 そもそも、養子縁組していない相手の連れ子は、法律上他人であり、養育費を支払う義務は生じないということを説明したのですが、これまで実子と分け隔てなく育ててきており、今後も実子と同様の関係を維持したいという強い要望でした。 どうしてもということであれば、定期金支払を内容とする贈与契約を締結するか、当該連れ子と養子縁組をした上で、養親として養育費を支払うことになる旨説明したところ、結局、この事例では、改めて当該連れ子と養子縁組をし、養親として養育費を支払うということになりましたが、親子というものについて考えさせられた事例でした。 (星野英敏)

 No.3 預貯金に関する消滅時効等について

現在、法務省で検討されている「民法(債権関係)の改正」項目中に「時効期間の起算点に関し、預金債権等に関する特則の要否」が掲記されています。筆者は、数年前に成年後見人の実務経験を通じ預貯金の消滅時効等が特に高齢者等の財産管理に係る身近な問題であることを痛感したこともあり、標記に関する金融機関等における取扱いの現状等について触れてみたいと思います。 1 眠れる預貯金等の行き先は? 「銀行・ゆうちょ銀行・信用金庫・信用組合、農協等を含む全金融機関で10年以上お金の出し入れがない(いわゆる休眠口座)預貯金等を2014年度からベンチャー企業や震災で資金に困窮している企業等の支援に活用する方針で、スタート時は500億から600億円規模を想定。休眠口座は、ゆうちょ銀行を除いて年間1400万口座発生し、500億円が払い戻されていない。」旨の新聞記事を見たのは平成24年6月である。最近の情報等によれば、今春から与党で具体的な素案を作成して野党にもこれを提示。今秋の臨時国会で議員立法を目指すという動きがある(㊟1)。この背景には、国の財政事情等の問題もあり当該措置の執行にはそれなりの合理的理由も存するように思われる。しかし、債権者である預貯金者等の権利保護や特に認知症や高齢者等に係る適切な財産管理等という観点からは、その対処策について十分に配慮すべき問題があるように思われる。 ㊟1 「休眠口座国民会議」と称するメンバーにより「金融機関における休眠預 金口座の取扱い及び休眠預金の活用に関する法律案」(平成25年4月1日版)を作成し、一般にも公開されている。 2 銀行等の預貯金に係る「いわゆる休眠口座」の取扱い (1) 我が国における銀行預金は、法的には商行為によって生じた商事債権として、消滅時効に関しては商法の規定が適用され、5年間払戻請求等の取引行為がないときは、当該債権は時効により消滅する(商522、502参照)。一方、信用金庫、信用組合等における預金は、法的には民事行為によって生じた民事債権として、消滅時効に関しては民法の規定が適用され、10年間払戻請求等の取引行為がないときは、当該債権は時効によって消滅する(民1671)。 ところで、金融機関に預金として預入れ後に長期間当該口座へ入出金等の取引行為がなく、金融機関から預金者への連絡等も取れない状態の預金口座は、一般的に「いわゆる休眠口座(以下「休眠口座」という。)」と称されている。従って、銀行預金については、商法に定める消滅時効の規定により5年間入出金等の取引がない場合は、その時点で当該口座を「休眠口座」として取り扱うのが相当な措置かと思われる。しかし、全国銀行協会から発出の通達(㊟2)で示されている「休眠口座」の定義等はこれと異なると共に、各銀行等の窓口における実務の取扱いの実情等は必ずしも同一ではない。ちなみに、同じ市中銀行であっても2年以上取引等がない口座については、直ちに「休眠口座」の取扱いとし、かつ当該休眠口座に預金残高が存する間は、自動的に「休眠口座管理手数料」を引き落とす取扱いをする銀行も現存する。この僅か2年以上における取引等の存否を前提として「休眠口座」とする取扱いは、前掲の銀行預金の消滅時効期間が5年という規定の趣旨及び他の金融機関等の取扱いと比較し均衡を失しているようであり、何か釈然としない思いを否めない。 但し、以上のとおり休眠口座の取扱い開始時期については、各銀行によって異なることは見受けられるが、法的に商事債権である銀行預金に関する5年間という短期消滅時効の規定に基づき銀行の利益金として計上する処理例は見当たらないようである。実務の取扱いは、前掲全銀協の通達で示されているとおり、民法の消滅時効と同様に最終取引日から10年経過を基準として消滅時効の取扱いがされているようであり、平成24年頃までは「休眠口座」上の預金について預金者等から払戻請求があった場合には、時効消滅後であっても事実上その支払いに応ずる取扱いが一般的に行われていたようである。 ㊟2 全国銀行協会の通達「睡眠預金に係る預金者に対する通知および利益金処理等の取扱い」で、「休眠預金の定義」として「最終取引日以降、払戻し可能の状態であるにもかかわらず長期間異動のないものを睡眠預金という」とあり、消滅時効に伴う取扱いが次のように示されている。 ① 最終取引日以降10年を経過した残高1万円以上の睡眠預金・・最終取引日から10年を経過した日の6か月後の応答日までに預金者へ郵送により通知し、当該通知が返送された場合等は、その通知等を行った日から2か月を経過した日の属する決算期に利益金として計上する。 ② 最終取引日以降10年を経過した残高1万円未満の睡眠預金・・最終取引日から10年を経過した日の6か月後の応答日の属する銀行決算期までに、利益金として計上する。 (2) 現在の「ゆうちょ銀行」における定期性の郵便貯金(定額・定期・積立郵便貯金等)の消滅時効等に関する取扱いは、郵便貯金の預け入れ時期が郵政民営化(平成19年10月1日)前か後かによって異なる。先ず、①郵政民営化前(平成19年9月30日まで)に預け入れの郵便貯金については、同年9月30日時点において、最後の取扱日から20年2か月(2か月は催告期間)を未経過のものは、最後の取扱日から10年が経過した時に「休眠口座」として取扱い、貯金者から払戻請求があれば支払う。但し、同年9月30日時点で既に最後の取扱日から20年2か月経過の場合は、該当する郵便貯金の権利は既に時効により消滅したものとして取り扱われた(旧郵便貯金法29・㊟3)。 次に、②郵政民営化(平成19年10月1日)後に預け入れの郵便貯金については、旧郵便貯金法の規定が適用されない。従って、他の金融機関と同様に最後の取扱日または満期日から10年経過のものは「休眠口座」として取扱い、貯金者から払戻請求があれば支払う。この「休眠口座」としての取扱期間に関しては定かでないが、定期貯金の場合は10年経過後、更に10年間通常貯金として取り扱われるとのことである。以上のとおり、郵便貯金に関しては、平成19年10月1日の郵政民営化前においては、銀行等の取扱いと異なり貯金者への催告期間を含め最長20年2か月の期間経過をもって消滅時効による取扱いがされ、民営化後においては、他の金融機関と同様に最終の取扱日から10年経過をもって「休眠口座」とする取扱いがされているようである。 ㊟3 郵便貯金法は既に廃止されているが、郵政民営化前に預け入れられた郵便貯金については、「郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」附則5条の規定により「なお効力を有する。」とされた旧郵便貯金法第29条の規定に基づく取扱いがされていた。 3 預金債権に関連する判例等 預金債権の消滅時効に関する判例は少ないようであるが、いわゆる自動継続特約付き定期預金における預金払戻請求権の消滅時効は、「預金者による解約の申入れがされたことなどにより、それ以降自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した時から進行する」とした判例がある(最判・平成19年4月24日 民集61巻3号1073頁)。しかし、普通預金に関しては上級審の審判例はなく、消滅時効の起算点につき判例は確定していないようである。 4 終わりに 民亊債権または商事債権かを問わず消滅時効の成立は、債権者と債務者の権利関係に種々の影響を及ぼすが、時効期間は権利の性質により種々の特則が設けられている(民168以下、商522)。 但し、時効の起算点は、何れも権利を行使できる時からである(民166)。俗に「眠れる権利は保護されず」という言葉があるが、消滅時効はこれと同意の制度と言えよう。しかし、65歳以上の高齢者が4人に1人、認知症等の人が860万人とも言われる我が国では、時効により預貯金等の権利を喪失する債権者の多くが高齢者等と推測されるほか、日々振り込め詐欺等によってその財産が狙われ「未だ眠らない保護されるべき権利」でさえも危機に晒され、不当に侵害されている高齢者等の実態を垣間見る時、前掲の言葉が虚ろに響く思いである。本稿は、日々の生活にも関係する消滅時効に関し駄文を連ねた次第であるが、お互い生きる事に関しては可能な限り消滅時効の時を迎えないよう健やかな記憶に残る日々を過ごしたいものである。                                 (門田稔永)

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