民事法情報研究会だよりNo.7(平成26年8月)

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残暑の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。 さて、過日開催されました定時会員総会において新たに5名の理事が選任され、8月2日には、早速、今後の法人の事業の在り方等を協議するため、臨時理事会を開催いたしました。会員総会、理事会等の内容は、逐次、当法人のホームページに掲載しておりますので、ご参照ください。 また、会員総会後に行われたセミナーにおきましては、神﨑会員による本年6月20日に成立した会社法改正の概要について講演をしていただきましたが、時宜にあった大変有意義な内容でしたので、前回の小池会員の講演と同様、講演録の冊子にして民事法情報研究会だよりの別冊として全会員にお配りすることにいたしました。現在、印刷製本を依頼中ですので、8月中にはお送りできると思います。 ところで、前号でお知らせしたとおり、当法人の事業目的に沿った活動の充実を図る試みとして、当法人に編集委員会をおき、会員の参考になると思われる実務問題(主として公証実務)を取りまとめていただいて、論説解説スタイルで民事法情報研究会だよりに順次掲載していくことにいたしました。 なお、上記のほか、本号では、樋口副会長の随想「高齢者になって」を掲載いたします。(NN)

高齢者になって(副会長 樋口忠美) 1 法務省・法務局OBの親睦、交流・連絡の場とし、あわせて民事法の普及・発展に寄与するために一般社団法人民事法情報研究会が設立されてからすでに1年余が経過しました。その間に全国から150人を超える法務局OBに入会していただき、また、総会、セミナーなども予定どおり実施することができ、当法人は順調にスタートしたものと喜んでいますが、これからは会員の皆様のために存在価値のある法人となり得るよう一層の努力を続けていく必要があると考えていますので、会員の皆様のご支援・ご協力をお願いします。 ところで、相続税法が改正され平成27年1月から施行されることになったことなどから、新聞やテレビなどでよく相続や遺言などが取り上げられ、公正証書による遺言の作成が推奨されていることもあって公正証書遺言が大幅に増加しているということを聞きます。また、高齢者の増加により認知症患者も増加していることから、任意後見制度についても新聞などで取り上げられるようになっています。さらには、法制審議会が答申した「民法(債権法)改正案」では、連帯保証人を付す場合には公正証書で作成しなければならないということも検討されているということで、公証人の職務が高く評価されているということを実感することができ、元公証人としてうれしい限りであります。 恒例になりました各理事の持ち回りによる「研究会だより」の当番が回ってきましたので、会員の皆様に少しでも関心を持っていただけるものをと思い、さび付き、ガタがきている頭でいろいろ考えてみましたが、これといったものに思いが至らず、締切りが迫っていることもあり、公証人退職後の平凡な暮らしの中で高齢者が考えていることなどを記して責めを果たすことにしたいと思います。 2 公証人を退職した後は「今何をしていますか。」とよく聞かれますが、時々旅行する以外にはこれといった決まった予定はなく、図書館に行って本を借りてきて読むとか、OBや近くの町内会の人たちとゴルフをするとか、天気が悪い日には一日中ゴロゴロしながら野球やドラマなどのテレビを見て過ごすなどしています。現職の人から見れば、まことにうらやましい生活ぶりだと言われそうですが、退職後いつも家にいますと、「何も考えないでゴロゴロしているとすぐに呆けて認知症になりますよ」、「運動をしないと足腰が弱くなり歩けなくなりますよ。毎日散歩をした方がいいですよ」、「あまり濃い味のものは身体によくないので、食生活に気をつけてください」などと言われます。これに反論できるようなものがあるわけではありませんが、好きなものを食べ、自由気ままに日々を過ごすということはなかなか難しいものだということ実感しているところです。 3 私と同じ年齢(72歳)の者が事故や事件に巻き込まれると間違いなく「老人」とか「高齢者」と報道されますので、今はあまり意識していませんがそろそろ「高齢者」を意識し、今後のこと、つまり誰にでも間違いなくやってくる終末を真剣に考えなければならない時期が来たのかと思っています。その一つは病気のことです。2年ほど前に手術した胃がんは、その後順調に回復し、今のところ何も問題はありませんが、年齢を重ねるごとにいろんな病気になり、場合によっては寝たきりとなって家族に大きな負担をかけることも考えられますので、日ごろから「回復の見込みがないときは延命措置はせずに静かに死期を迎えることができるようにしてもらいたい」という、いわゆる尊厳死宣言と同じ趣旨のことを家族に伝えています。 二つ目は相続のことです。公証人として在任中に多くの人に対し遺言書の効用を説明し「遺言書を作っておくといいですよ」と伝えてきた者として私自身も遺言書を作っておく必要があると考え、また相続手続きをスムーズに進められるようにするためにも遺言書を作成することにしました。とはいっても、我が家の財産は自宅とわずかばかりの預貯金だけなので相続税の対象になるとは考えにくいのですが、相続税法の改正があり、平成27年1月から施行されることになっており、相続税の対象が大幅に増加すると言われておりますので、対象となった場合も考えてその対策を目下検討中であります。これ以外にも介護を受けなければならなくなったり、認知症になったりしたときのことや葬儀のことなども考えておく必要があると思います。 4 公証人を退職し毎日がサンデーの状況になると、在職中はあまり考えたこともないようなことが気にかかるようになってきます。そんなことを考えるようになったときこそ「老人」になったときだと言われるかも知れませんが、誰にでも間違いなくやってくるものですので、会員の皆様もいつの日にか考える必要があるのではないでしょうか。

 

実務のページ

実務相談に関するページの新設にあたって 今月から民事法情報研究会だよりに、実務相談に関するページを設けることになりました。公証人等が会員の皆様に参考になると思われる法律的な実務に関する事例を取り上げ、若干の解説を加えながら紹介するページですが、ここでの見解は、あくまでも個人的な見解を述べたものであることを予めお断りしておきます。 それから、このページの表題を、会員の皆様につけていただきたいので、適当な表題があればお寄せ下さい。     編集委員長 小林健二

No.1 期間の定めのある賃貸借契約を中途解約する場合の違約金条項

期間の定めのある賃貸借契約において中途解約を禁じる旨を定め、中途解約する場合の違約金条項を設ける例があるが、その際に、法外な違約金の定めをする事例も見られ、どの程度の違約金であれば問題ないのか、判断に苦慮することが多い。次のような事例では、どのように考えればよいのであろうか。

(事例―建物賃貸借契約) 第1条 賃貸人と賃借人は、賃貸人所有の建物を、賃借人がスナックを経営するために使用することを約し、賃貸借契約を締結する。 第2条 賃借人は、賃貸人に対し、賃料月額金10万円を、毎月末日限りその翌月分を支払う。 第3条 賃貸借の期間は、平成26年8月1日から平成31年7月31日までの5年間とする。本契約期間中は、解約できないこととする。 《この後に次のような但し書がある。》 例1(違約金額の定めがある場合) 但し、賃借人がやむを得ない事情により中途解約する場合は、賃貸人に対し、違約金として金500万円を直ちに支払う。 例2(違約金を賃料と期間をベースに定める場合) 但し、賃借人がやむを得ない事情により中途解約する場合は、違約金として解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料相当額を、賃貸人に対し、直ちに支払う。

1 違約金 違約金は、約束違反をした相手方に対して、損害賠償と関係なく一種の制裁金を請求するものとしての意味をもつこともあるし、実際の損害を賠償するという意味をもつこともあるし、損害賠償の予定を定めたという意味をもつこともある。違約金の定めを、当事者がいかなる内容のものとして定めたかについては、判然としないことが多いので、民法は、「違約金は、賠償額の予定と推定する。」と規定している(民法420Ⅲ)。もっとも、当事者は、反証をあげて、その推定を覆すことはできる。 そもそも、金銭の支払いを目的とする債務にあっては、債務者の不履行により、損害が発生した場合、債権者はその損害賠償を請求できるが(民法415)、当事者は、現実にどの程度損害が発生したかを証明することなく、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができるとされている(民法420Ⅰ前段)。つまり、当事者は、取引慣行等に基づき、自由に損害賠償額を定めることができるとし、それを違約金と称しても、それは、損害賠償額の予定と推定する(民法420Ⅲ)こととしたものである。 このように、予め損害賠償額、即ち違約金を定めることは、契約当事者間における契約の順守の担保のほか、現実にも、賃貸人にとって、契約途中で解約されることに伴う損害、例えば、新たな賃借人を探すまで賃料収入が得られないことになる損害等を補填する意味をもつものといえよう。 そして、この違約金を定めた場合、裁判所はその額を増減できないとされている(民法420Ⅰ後段)ので、例え、違約金として定められた金額が高額であっても、当事者が定めたものである以上、中途解約をしないという約定に違反して解約するのであるから、その額を支払わなければならないことになるのが当然であろう。 しかし、違約金の金額があまりにも高額で、賃借人に不利である場合までも、この原則を貫くことは、相手方を不当に圧迫する手段として用いられることとなり、それは、公序良俗に反し、無効であるといわざるを得ない場合もあろう。それでは、違約金は、どの程度であれば問題ないといえるのであろうか。

2 判例 本例のような場合に参考になるものとして、東京地裁平成8年8月22日の判例がある。この事例は、期間4年の建物賃貸借契約を締結した際、「賃借人が期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料を支払う。」との違約金条項が定められており、賃借人において契約締結10月後に契約を解約したところ、賃貸人はこの違約金条項に基づき残期間3年2月分の賃料等を違約金として請求したという事案である。 この事案について、裁判所は、「期間途中での賃借人からの解約を禁止し、期間途中での解約又は解除があった場合には、違約金を支払う旨の約定自体は有効である。しかし、違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに、賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には、事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効と評価される部分もあるといえる。」と判示し、「約3年2月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人である被告会社に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはできず、1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効とする。」とした。 この判例は、①中途解約に伴う違約金の定めは有効である、②金額があまりに高額になると解約の自由を制約してしまう。③金額が相当である限度(二重取りならない、つまり1年分の限度)で有効とするが、その余は無効である、としたものであり、その結論及び理由づけは納得できるものといえよう。もっとも、この判例は、この判例の前提となった個別事例についての判断であり、一般論として違約金は「賃料1年の限度であれば有効」とまで判断したわけではなく、一般化されるものではないと理解されている。

3 検討 この判例を参考に例について、検討してみよう。 例1は、違約金500万円であり、これは月額10万円の5年分の賃料である金600万円に近い金額である。契約締結後早期に解約した場合でも、契約期間満了間近で解約した場合でも、金600万円を支払う必要があり、この金額は、あまりにも高額であり、これでは二重取りといわれても仕方がないとみることができ、このような定めは、無効といわざるを得ないであろう。 それでは、違約金を金額で決める場合、一般論としてどの程度の金額であれば問題ないといえるのであろうか。当該物件の概況、賃料の額、賃貸借期間等諸々の事情を考慮して定めなければならず、一概に金いくらということは言えない。ただ、賃貸借契約が中途で解約され、賃貸人が被る損害というのは、次の賃借人が見つかるまでの期間の賃料と新たな賃貸借契約を締結するに掛かる経費等であるから、それをベースに必要であればその他の事情を加味して算出することになろうが、その地域の賃貸借物件の取引の実情、即ち当該物件の概況からしてどの程度の期間で新賃借人が定まる状況にあるか等を不動産業者等から聴取する等して、双方が納得する額として定めることとなろう。もっとも、判例が賃料月額の1年の額を違約金として認めたことは、参考となろう。 例2は、解約予告の時期が、契約締結後早期の場合と期間満了間近の場合では、大きく異なる。前者の場合は、違約金は高額になり、後者の場合は、違約金は低額になる。つまり、このような定めは、解約時期によっては有効にも無効にもなる定めということになり、一概に無効というわけにはいかない。判例も、解約に時期よっては、無効になる部分があるが、この契約自体が無効になるわけではないとしている。従って、このような定めを設けることは、許されると解する。但し、このような定めを設ける場合は、当事者間で、解約の時期によっては、無効になる部分が生じることを理解しておく必要がある。 そこで、解約時期を細分化し、例えば1年以内の場合は違約金○円、2年以内の場合は違約金○円と、詳細な定めを置くことも可能であるが、その場合は、当該金額が妥当な金額であるか否か、例1で述べたことを参考に決める必要があろう。

4 消費者契約法との関係 消費者契約法は、消費者と事業者との契約に関し定める民法の特例であるが、賃貸借契約について、この消費者契約法が適用される場合には、同法第9条第1号において、「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」については、「当該超える部分」について無効と定めている。従って、同種の賃貸借契約の平均的な損害額を超えるような違約金の定めは、無効とされていることに留意する必要がある。 (小林健二)

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