民事法情報研究会だよりNo.42(令和元年12月)

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 初冬の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 さて、12月14日開催の後期セミナーでは、中央更生保護審査会委員長(元法務省民事局長)の倉吉 敬先生に講演をお願いしておりますが、演題は「行政は運動神経~法務省思い出噺~」となります。(NN)

今 日 こ の 頃

   このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

  所沢・さいたま(西川 優)  

 所沢市に居住して7年半になりますので、所沢のことを少しご紹介します。
 以前、さいたま市南区に2年ほど居住したことがあり、通算すると10年弱、埼玉県人であることになりますが、さほど、埼玉県のことについて詳しくはありません。埼玉県は何となく地味なイメージがありますが、最近、映画「翔んで埼玉」、「のぼうの城」がヒットし、また、史跡・名産品等ではもっとメジャーになれるものが多くあると感じています。
 これまでは、あまり県内の史跡等の探訪ができなかったので、これから、すこしずつ、探訪したいと思っています。

1 所沢市の交通機関

 所沢は、埼玉県南西部に位置し、東京都清瀬市、東村山市、武蔵村山市と接しており、所沢駅から一駅で東村山市であり、東京と近接しています。
 所沢駅は、西武鉄道が新宿から本川越までの「西武新宿線」と池袋から飯能・秩父までの「西武池袋線」で乗り入れており、また、「JR」は武蔵野線の東所沢駅があります。新宿まで約30分、池袋まで約20分で行くことができます。
 所沢駅では、東京方面に向かう西武新宿線の新宿行と西武池袋線の池袋行の電車が同じ方向に向かわず、逆方向に進行しますので、最初は戸惑うことがあります。
 最寄りの公証役場としては、西武新宿線沿いに新宿、高田馬場、川越、西武池袋線沿いに池袋、練馬、秩父の各公証役場があり、交通機関沿いではありませんが、近隣に立川公証役場があります。
 公正証書の作成等にあたり、急ぐもので時間的に処理することが困難な事案は川越を、外国文の私署証書は練馬を紹介していました。また、遺言については、相談から遺言書作成までの間に遺言者が近接の東京の病院に入院することがあります。この場合、改めて、東京の公証役場に依頼するか、外出許可を得て来庁していただいて作成することになります。

2 所沢市内等

 東京から交通至便の位置にあることもあり、人口が30数万人で埼玉県で4番目の規模にもかかわらず、所沢駅周辺にビジネスホテルが1軒ほどしかなく、また、百貨店・デパート、イオン、大型書店等が余りありません。駅周辺は、タワーマンションが林立し、現在も建設中です。当方の週末の買い物は、入間市・武蔵村山市のイオンを利用しています。
・ 航空記念公園・西武ドーム
 所沢に何があるかと問われたときは、「航空記念公園」と「西武ドーム」と説明します。
 「航空記念公園」は、所沢が日本の航空発祥の地として、米軍所沢基地の返還に伴い整備された公園で、飛行機が展示された記念館、テニスコート、野球場、サッカー場、野外ステージ等がある広大な公園で、週末には家族連れで賑わっています。公証役場は、この「航空記念公園」沿いにあり、西武新宿線の「航空公園駅」から徒歩10~15分程度のところに在ります。この「航空記念公園」を挟んだ反対側にさいたま地方法務局所沢支局があり、時々、来庁者が間違われるようです。また、「西武ドーム」は、プロ野球西武ライオンズの本拠地球場で、周辺には、遊園地、ゴルフ場、狭山湖があります。当方の子供、孫が遊びに来たときは、「航空記念公園」を案内しています。
・ 名産・特産
 地名「所沢」は、古くは山の芋を意味する「野老沢」と表記されていたそうですが、それが名産とは余り聞くことはなく、うどん、焼き団子などが名産と言われていますが、お土産品として利用するには今一つというところです。
 埼玉県には、甲府のブドウ、静岡のミカンというような名産品が思い浮かびませんが、浦和の鰻、草加せんべい、深谷ネギ、川越のサツマイモ、狭山・入間の狭山茶、東松山の焼き鳥などは比較的に知名度があると思います。最近は、パワースポットとして三峯神社・秩父神社がある秩父が注目されており、わらじカツどんが名物になりつつあります。埼玉県は市町村数が日本一であり、その市町村ごとに名産がありますので、今後、注目され、ブームになる名産品が現れることを期待しています。
・ 史跡等
 所沢には、小手指(こてさし)という地名と駅があり、小手指ヶ原という古戦場の碑があります。新田義貞と鎌倉幕府軍の戦場となり、新田義貞が勝利し、鎌倉入りしたことから鎌倉幕府が滅亡したと「太平記」に記されているそうです。
 埼玉県には、「埼玉(さきたま)古墳群」、「吉見百穴横穴墓群」などの多くの古墳があり、奈良時代には高麗人・百済人が入植しています。また、武蔵武士は平氏でしたが、源頼朝の旗揚げ時から源氏に被官し、熊谷氏・畠山氏・河越氏・比企氏など鎌倉幕府を支えた武士を輩出し、現在、地名・史跡として残っています。このように、古くからの歴史を有する県は、東日本には少ないものと思われます。

  信託で心多苦(心がクタクタ)(栁井康夫)  

第1信託契約

 4月某日、当公証役場に初めての信託契約の公正証書作成の依頼があった。委託者は福知山市在住の両親(以下、「甲」「乙」という)、その所有する財産(父所有の不動産、父母各自の預金)を信託財産として、神奈川県在住の息子を受託者(以下「丙」又は「受託者」という)、受益者は甲と乙として信託契約を締結するという内容で、詳細な信託契約書案がメールで送信されてきた。
 当初の信託目的は、第1条(信託の設定)委託者甲及び乙は、受託者丙に対し、次条記載の信託の目的を達成するため、第3条記載の財産を信託財産として管理、運用及びその他当該目的達成のために必要な行為をすることを信託し、受託者丙はこれを引き受けた(以下「本件信託」という。)。第2条(信託の目的)「本件信託は、受託者による資産の適正な管理・保全・運用を通じて、受益者の生活・介護・療養・納税等に必要な資金を確保及び給付するなどして、受益者が長寿天寿を全うできるように安全かつ安定した生活及び福祉を確保するとともに、資産の有効活用を図り、円滑な資産の承継を目的とするものである。特に、受益者の健康の回復が見込めなくなったときには、受益者に肉体的及び精神的苦痛を与えることのないように、医療関係者、介護関係者等の協力を仰ぎながら、自宅またはケアハウス等において、穏やかに天寿を全うできるよう、必要に応じて緩和ケア等を行うために、最善の福祉を確保することとする資産を活用することとする。」(原文のまま。)とあった。
 丙からの聴取では、将来介護施設等に入るような状況になったら、土地建物を売却してその費用を甲又は乙のために充てることができるように信託契約を設定したいとのことであった。
 丙は、独自に書籍やインターネット上の書式等を調査して、信託契約書案を起案したとのことである。
 甲の不動産の信託について、受益者を甲とすれば課税されることはないが、信託不動産の所有者以外の乙を加えると、甲から乙に贈与されたとみなされ課税されるおそれがあることを丙に伝えたが、それでもよいとのことであった。
 信託を、甲と丙、乙と丙の2つの信託として信託契約書を作成することとし、信託の目的を次のとおり変更した。

第1条 (信託の設定)
 委託者:甲と乙は、受託者:丙に対し、令和元年○月○日、第2条記載1及び2の信託の目的を達成するため、第3条第1項記載の不動産及び同第2項記載の金融資産を信託財産として管理処分することを信託し、受託者丙は、これを受託する。

第2条(信託の目的)
(1) 甲信託
 甲所有の信託不動産及び信託金融資産を信託財産とし、これと乙が所有する下記信託財産とを一体とする適正で有効、かつ、効率的な管理運用及び処分を行い、受益者甲の住居の確保と生活費の確保を図ることにより甲の幸福な生活と福祉の確保を図ることを目的とする。
(2) 乙信託
 乙所有の信託金融資産を信託財産とし、これと甲が所有する下記信託財産とを一体とする適正で有効、かつ、効率的な管理運用及び処分を行い、受益者乙の幸福な生活と福祉の確保を図ることを目的とする。

第8条(受益者及び受益権)
 本信託の受益者は、委託者甲及び乙である。
1 甲及び乙の受益権の割合は、甲が2分の1、乙が2分の1とする。ただし、受益者各々の身体能力低下の度合いによって、受託者と各受益者又は受益者代理人が協議して受益権の割合を変更決定することができるものとする。
2 本信託の受益権は、相続により承継せず、第1項記載の受益者の一方が死亡した場合は他方の受益者がすべてを取得する。
(金銭・追加信託)
 甲は、土地、建物(自宅)と預金、乙は預金のみとし、当初の現金は、0円とし、現金は、丙の指定する金融機関の口座に追加信託することとして、「次条の金融資産受託用銀行口座への入金により追加信託するものとし、当該入金の事実をもって追加信託の合意があったものとする。」と記載されていた。委託者が追加信託すること自体は、問題ないが、将来、委託者の判断能力に問題が生じた場合に、信託の追加の是非を判断することができないことになるので、この条項を次のとおり修正した。「委託者所有の次の(1)~(4)の金融資産については、委託者から受託者に対する書面の通知により金銭を下記金融資産から追加信託することができる。追加信託については、受益者の身体能力低下の進行に伴い、受益者代理人と受託者が協議の上、適宜行うことができるものとする。」。また、信託当初の現金を信託しないと、信託の登記費用等をまかなえない旨伝えたところ、各金50万円信託するとの指示があった。
(信託専用口座)
 信託専用口座を、「前条2項の金融資産受託用銀行口座は受託者丙名義の次の1の口座とし、必要に応じて1の口座から2の口座とも本件信託の専用口座とする。口座の記載略」と表記していた。倒産隔離機能のある信託専用口座は、福知山市所在の金融機関では、まだ信託専用口座の開設を認めた例がないため、受託者の希望する口座名をそのまま表記することとした。
(受託者の義務)
 受託者が負う義務として、善管注意義務、分別管理義務、各受益者について公平にその職務を行わなければならない公平の義務を明記した。
 その後、何度か案文を修正した後に、公正証書を締結することができた。

第2信託契約

 福知山市内で活動するフィナンシャルプランナーからの持ち込みで、家族信託契約を公正証書で締結したいと信託契約案が持ち込まれた。宅建業者の書式例を参考にしたとのことであった。委託者父、受託者は長女、当初受益者は委託者、第二受益者は母、信託財産は、アパート2棟(敷地を含む)である。
 信託目的が、「本信託は、受託者が信託財産を、管理及び処分することを目的とする。」とあり、肝心の目的の記載がなかった。
 信託の期間を、「本契約締結時から第○条(信託の終了事由)による本信託の終了の日までとする。」 とあったり、信託終了時の帰属権利者を受益者とするなど、この家族信託は、委託者が希望する信託内容に合わないことが確認できたことから相談者に差し戻した。
 信託契約は、信託法上、公正証書の作成が義務づけられるものではなく、また、委託者や受益者の権限を信託契約で特段の定めをすることで権限を付与したり縮小することができるので、公証人として、特段の定めをどこまで許容すべきか、どこまで厳格に契約内容を定義すべきか難しいところである。

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 以上、信託で私の心がくたくた(心多苦)になったという近況報告とさせていただきます。

 なお、参考にした書籍として、①宮田房枝 そこが知りたかった!民事信託Q&A100、②伊庭潔 信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例 をあげておきます。

  改めて感じたこと(喜多剛久)  

 公証人となって1年6か月が過ぎようとしている。現在、縁があって自宅のある相模原市内の公証役場で勤務している。
 私が初めて相模原市の住民となったのは、今から約19年前の平成12年4月、当時、本省訟務局の庶務係長のときであった。家族が増えたことを機に都内の公務員住宅から、相模原市内の公務員住宅に移り住んだのが始まりである。その後、自宅を構える場所を探していたところ、やはり家族にとっては、既に生活の基盤となっていた公務員住宅の近くがいいということになって、たまたま見つけた今の地に自宅を構え、引き続き相模原市民となっている。
 家族と住む自宅から公証役場には、毎日約50分かけて通っているが、全国的に見ると、自宅から遠く離れた公証役場で勤務されている公証人が多い中で、とても恵まれた環境にあるといえる。
 自宅から通勤できることが決まった直後は、まだ独立していない三人の子どもたちに、これまであまり父親らしいことをしてこなかったことを反省し、これから少しは父親らしいことができると考えていたが、いざ公証人となると、今のところなかなか家族との時間をとる余裕がない状況にある。
 加えて、月日がたつのに合わせて、家族内での自分の立ち位置が変わってきていた。いつの間にか、皆それぞれが自分の道を歩いているかのようである。一人、将来の自分の進む道が分からないと嘆いている高校生の二男も、毎日がスマホとサッカーに多忙のようである。将来については、機会がある都度、法務局のことを話すものの、残念ながら今のところは全く関心を示していない。
 仕事が多忙、昔と状況が変わったとはいえ、せっかく自宅から通勤しているので、昔のような家族との関係ではなく、今の家族の状況に合わせて少しでも多くの時間と会話のある関係を持つように心がけている今日この頃である。

 仕事に目を向けると、公証事務は範囲も広く、まだまだ分からないことが多く、しかもそれなりに案件も多いため、毎日忙しくさせていただいている。というより、日々の案件を処理するために毎日の仕事に追われ、まとまって勉強する時間もなかなかとれない。正直時間が足りないと感じているが、これは日々工夫していくしかない。
 また、仕事上の生活は、昔の本省勤務時代の自分に戻ったような感覚を覚えるところがあるが、残念ながら昔とは違って、自分の体の状況は大きく変わってきている。身体的な機能が、年を重ねて衰えてくるのは仕方がないのかもしれないが、最近顕著に体力の衰えを感じている。
 昨年、着任してしばらくは、多くのことが訳が分からなく、心身とも大きな負荷を感じていたせいもあってか、忙しい毎日を積み重ねていくうちに、気がつくと、法務局時代と比較してかなり体重を減らしてしまった(ただし、公証人生活が1年を過ぎた頃から下げ止まり、現在は若干回復?傾向にある。)。
 ところで、公証人の仕事はマスコミの報道に左右される面もある。最近の高齢者の財産管理に関する報道、特に週刊誌の特集記事の影響は少なからずあるようで、つい先頃も、心配になったという高齢の女性の方が公証役場を訪れて、これからの自分の財産管理は、任意後見がいいのか、家族信託がいいのか、どちらでしょうかとの質問があった。また、電話での問合せもときどきある。家族信託が一般の方にも浸透しつつあることを感じるし、士業者から持ち込まれる案件にも、家族信託が顕著に増えてきている。この家族信託は、自分自身が不勉強のせいもあるが、その内容は自由度が高く、しかも一般人には分かりにくいこともあり、公正証書による契約の読み聞かせの際などに、その内容を分かりやすく置き換えて説明を加えるとなると、非常に骨が折れる。
 さらに、最近は、遺言と移行型任意後見に加えて信託を公正証書で作成するという案件もあり、その際の読み聞かせが終わると明らかに疲れを感じて誠に情けない話である(嘱託人にお疲れではないですかと言いつつ、自分の方が疲れている。)。もともと体力に自信がないのであるから当然であるとはいえ、何とかしなければとも感じている。
 ただし、そう簡単に体力が付くものでもなく、せいぜい日頃の健康管理に気をつけて毎日の体調管理をしっかりとしていくしかない。しかも、衰え始めた注意力を最大限に発揮する上でもこの体調管理というのは大切である。
 忙しさにかまけて昨年行かなかった人間ドックに行くことはもちろん、努めて毎日の規則正しい生活に心がけている。
 体調管理が大切であるということは、仕事をする上では当たり前のこととはいえ、大きな組織の中で仕事をしていた時とは違う今の立場、年齢を重ねた今の状況において、これまで以上に自覚と責任が求められていると感じる今日この頃である。
 極めて個人的な話題で恐縮ですが、改めて感じた今日この頃でした。

実 務 の 広 場

   このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

  No.73 遺言による胎児についての未成年後見の指定(事例紹介)  

1 はじめに

 公証人になって2か月ほど経ったある日、出産を控えた女性からの相談を受けた。話の内容はおおむね次のようなものであった。
 3か月前に夫と離婚したが、別れた夫との間にできた子を4か月後に出産する予定である。無事に出産できれば問題はないが、万が一、出産の時に私が死亡してしまった場合、生まれてくる子のことが心配だ。別れた夫には親権を取らせたくないし、面倒もみてほしくない。遺言で未成年後見人の指定ができると聞いたので、遺言書を作りたい。また、私が死んだ場合でも、別れた夫が子の親権者とならないようにしてほしいし、子が別れた夫の戸籍に入らないようにもしたいと考えており、それらについても遺言で何とかならないか。

2 対応

(1)未成年後見人の指定
 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後 見人を指定することができるとされている(民法第839条第1項)。また、子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は母が行うとされている(民法第819条第3項)。そこで、当職は、相談者について、遺言により未成年後見人を指定することにして、次により遺言書を作成した。

 第1条 遺言者は、遺言者が現在懐胎している胎児の未成年後見人として、次の者を指定する。(以下略)

(2)親権者の死亡後における未成年後見人と生存親との関係
 日公連の文例集には、離婚後単独で親権を行使する親が死亡し、他の一方が生存する場合は、生存親の親権は当然には回復せず未成年後見が開始すると解するのが通説であるが、生存親を親権者とすることが子の福祉にかなうと認められるときは、親権者の指定又は変更の審判により生存親を親権者とすることもできると解する学説があり、これに同調する審判例も多く見受けられるとの記述がある(証書の作成と文例・遺言編〔改訂版〕169ページ)。他の文献にも、本件のような離婚後単独で親権を行使する親が死亡した場合、当然に後見が開始するという説や生存親の親権に復するので後見は開始しないとする説などのいくつかの説が存在するとの記述があった。
 そこで当職は、これらを踏まえ、相談者に対しては、遺言で未成年後見人を指定しておいても、それが最優先され、子の父が絶対に親権者とならないというものではないようであり、例えば父が親権を主張したような場合は、最終的には、家庭裁判所の判断によることになると思われる旨説明した。

(3) 子の戸籍の問題
 嫡出である子について、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称するとされている(民法第790条第1項ただし書)。これは、離婚後の親権者や監護者がだれであるかにはかかわらず、離婚の際の父母の氏が子の氏となるということであり、結論として、父が戸籍の筆頭者であった場合、本件の子は、出生により、父(親権者でない)の戸籍に入ることになる(戸籍法第18条)。
 一般的に、母が婚姻によって氏を改めていた場合、母は協議離婚によって婚姻前の氏に復するとされており(民法第767条第1項)、その結果、子と母とは氏が異なることになる。しかし、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、母の氏を称することができるとされている(民法第791条第1項)ので、子(子が15歳未満の場合はその法定代理人)がそれらの手順を踏めば、母の戸籍に入ることは可能である。
 しかしながら、本件のように、母がすでに死亡している場合には、父の戸籍に入っている子について、父の戸籍を離れ、母の戸籍に入れることは戸籍実務として難しいようであり、また、仮に15歳未満の子についてその手続きをするにしても、法定代理人がだれになるのかによって、手続きできる者も変わってくることになり、いずれについても最終的な判断は、家庭裁判所や戸籍実務がすることになると思われることから、遺言でもって、決めておくことはできない。
 相談者には、以上を説明し、理解していただいた。

3 おわりに

 本件を振り返ってみると、遺言による未成年後見人の指定については、相談者の希望に応じることができたが、それ以外については応えることができなかったように思える。これは制度上やむを得ないことではあろうが,せめて、相談者の遺言書の附言事項として、生まれてくる子の親権や監護権を子の父に渡したくない事情や、戸籍についての要望内容を記載しておけば、後日、裁判所が判断する場面があったときには、その判断の参考になるのではないかと思い、多少悔いているところである。
 あれから1年少々経過した。予定どおり生まれていれば、その子は1歳の誕生日を迎えたばかりの頃である。無事に生まれて母の戸籍に入り、母親の愛情を受け、すくすく元気に育っていることを願っている。
(余田武裕)

平成30年度司法研究(家事)「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」の研究報告が、令和元年12月23日に公表される予定となっておりますので、その内容が判明しましたら、これを受けての家庭裁判所の動向なども含めてお知らせする予定です。
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