民事法情報研究会だよりNo.4(平成26年2月)

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 余寒厳しき折柄、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。  さて、当法人成立初年度もあと1か月余を残すだけとなり、そろそろ本事業年度の決算をし、次期年度の計画を検討する時期となりました。今期は理事一同不慣れの中で、手探りでの法人運営でしたが、次期年度からは各地域担当の理事5名を増員するなど、徐々に体制を整備し、活動の充実を図っていきたいと考えております。今後とも会員の皆様のご支援・ご協力をお願いいたします。  本号では、小林理事の「キョウイクとキョウヨウの生活」と、会員の近況を紹介する一環として、高渕秀嘉会員からご寄稿いただいた随想「碁とスペイン語が出会うところ」を掲載いたします。(NN) ******************************************************************************************* キョウイクとキョウヨウの生活(理事 小林健二)  間もなく現役生活ともおさらばできそうだ。仕事から解放される日が来ると心積もりはしてきたつもりではあるが、いざ目前になると、縛られない世界に入っていくことにいささか戸惑いを感じている。勿論、これまで、家内任せにしてきた親の介護、二の次にしてきた田舎の家と墓の管理等は当然に本業になってくることは分かっているが、以前は、せめて開放された世界に飛び込むわけであり、第二の人生これからと大上段に、あれこれ考えたものである。  しかしながら、今では、身体のあちらこちらが悲鳴をあげているようであり、段々その気力も衰え、まず言い訳をしたくなる自分に気づく。仕事と飲むこと以外に何もしてこなかった者に、その付けが回ってきたということであろうか。  これまでも、来るべきときに備えて、皆さんがどんなことをして、あるいはどんな思いで、過されているのか、それを参考にすることが一番と思い、暇を見つけては、「老後を如何に生きるか」というようなセミナーに参加したり、「田舎暮らし」、「老年の品格」、「死ぬという大仕事」等老後の生き方を題材にした本を読んだり、一応情報収集に努めてみたが、なるほどと感じられるようなものは何もなく、どれも看板倒れであった。覚えていることといえば、「絵でも、写真でも良いが、社会との係わりを持つことが大切である。」くらいである。      ところで、退職して失うものは、「居場所と生きがい」、得るものは「自由と時間」といわれている。いずれにしても、仕事からの解放であり、それ程深刻な話ではないと思っていたが、どうやってこれからを過していくかということは、案外楽になるようで、そうでもないことに気づく。解き放たれるということは、一見素晴らしい世界に身をおくことに見えるが、なんと難しいことであろうか。取りあえずは、地域デビューを果たし、そこで、何か見つけることから始めることになるのかなというところに落ち着きかけていた。  こんなことを気にしながらの年明けに、あまり気に止めていなかった年賀状が、今年は、俄然と興味を引くものとなった。そこには、現役を退いた後の生活状況がびっしりと記載されているものが数多くある。皆さんもおそらく同じような年賀状を受け取られたのではないかと思うが、そのパワーに圧倒される。大学院進学、講演会活動、執筆活動、各種資格取得と凄い。中には、外国で英会話学校に入学し、お正月はその国で過す予定というものもあり、そこまでやるのかと、その向上心と行動力に圧倒される。いずれにしても、年賀状からは、第二、第三の人生を、実に生き生きと活動されている様子が伺え、うらやましい限りである。自らリセットし、全く新しい人生に踏み出すパワーはどこから出てくるのであろうか。私も、見習いたいが、そこまでの自信はない。  ただ、一番、納得したのは、「キョウイク(教育ではない、今日行くところがある。)」と「キョウヨウ(教養ではない、今日用事がある。)」で日々を送っているというのであった。この用語は、新聞のコラムに出ていたと記憶しているが、当面、これでいくことになるのだろうか。  さて、昨年発足した本会の初めての総会が無事に終了した。発足後の経緯は、総会の席上、野口会長が説明されたとおりであるが、この団体の活動内容は、まだまだこれからであり、今後に委ねられている。OBが半数を占めている状況を踏まえると、少なくとも退職した者の生きがいにつながる企画は最低限必要であろう。「私は、こんな充実した素晴らしい毎日を送っている。」と発表してもらえる方が多くいらっしゃるはずである。何かの機会に、是非紹介していただきたいものである。   随想「碁とスペイン語が出会うところ」(高渕秀嘉) 1 はじめに   私は平成15年2月1日、それまで10年間勤めさせていただいた掛川公証役場公証人を退職した。あれから丁度11年。この長い、しかし時にはとても短いようにも感じられ月日を振り返ると、私の場合、趣味の囲碁と公証人時代に始めたスペイン語の勉強、この2つを軸に経過して来たように思える。  碁については語るべき事は少ない。覚えてから半世紀以上にもなるが、その間、師匠に付いたことも専門書でしっかり勉強したこともない。対局を楽しむだけの御多分に漏れないザル碁で、退職後も一向に上達しない純粋の趣味である。  一方の「公証人時代に始めたスペイン語」とは何か。これも暇な公証役場で時間を持て余し始めた趣味道楽の類だろうと誤解され易い。実は、公証役場のちょっとした接遇を考える中で出会った外国語である。そしてこの言葉の学習は、公証人退職後も法務行政に関係する私のボランティア活動を可能にし、最後には、囲碁という私の趣味をボランティア活動の場に導いてくれた。  以下、一寸変わった挿話として読み捨てていただければ幸である。 2 公証役場でスペイン語に出会う  静岡県西部には浜松市を中心に、ブラジル(ポルトガル語圏)その他の中南米諸国(スペイン語圏)から働くために来日した日系外国人が多数定住している。掛川市も例外ではない。公証役場は彼らの訪問を時々受ける。帰国後に本国で二重に課税されることを避けるために、勤務先から交付を受けた所得税の源泉徴収票について、帰国前に、公証人の認証を受けることが主な目的である。来訪者は比較的みな若く、公証役場は初めてに違いない。例外なく緊張した面持ちで事務室に入ってくる。彼等にせめて挨拶程度の言葉だけでも、その母国語で当方から声を掛けてみたらどうだろうか。ある日ふとそう思い付いた。早速簡単なスペイン語会話入門書を購入し、恐る恐る試してみた。「オラ」(今日は)。来客者は破顔一笑、たちまち緊張がほぐれる様子が見て取れた。感動した。挨拶の言葉から少し進めて簡単な質問のフレーズを次の来客に試してみる。今度は微笑と驚きの表情。このような反応の日々の積重ねに後押しされる感じで、私は毎週1回午後6時開講の初級スペイン語講座(NHK文化センター浜松教室)に通い始めた。公証人を拝命して5年目、仕事にも多少慣れた平成10年のことである。  スペイン語は我々日本人にとって発音し易い言葉であることと、勉強が進むに従い来訪者とより複雑な会話ができる喜びを知り、上記の講座には、出張遺言の場合以外は欠かさず熱心に通った。御蔭で勉強を始めてから4年目に、スペイン語技能検定試験3級に合格することができた(文科省認定。6級に始まり1級まである。3級は英検の準1級程度と言われている)。  スペイン語の勉強は、公証実務そのものにも少し反映させることができた。近くの磐田市に本社を置くヤマハ発動機が持ち込む中南米向けの外国文(スペイン語)私署証書認証については和訳の参考添付を不要とし、又公証人の日本語の認証文に慣行的に併記する英語の訳文は、スペイン語に切り替えた。 3 公証人退職後の翻訳ボランティア  スペイン語の勉強は公証人退職後も続いた。続ける必要もあった。なぜか。退職前年の平成14年、設立間もない「掛川国際交流センター」というNPO法人が発足に当たり、外国語通訳・翻訳ボランティアを公募したが、私はこれに応募して受け入れられたからである。私が引き受けた内容は「市民から依頼のあった日本の戸籍、婚姻証明書等の法律文書のスペイン語訳又は英訳。逆にスペイン語又は英語の出生証明書(婚姻要件具備証明)等の法律文書の和訳」であった。この分野では法務省・法務局出身の私以上の適任者はこの街にはいない筈という秘めた自負心もあった。退職後の私に実際に委託された翻訳案件は、上記のような言わば高度の法律文書だけではなく、市行政の各セクションから外国人個人宛の各種通知・督促文や一般的な広報文書のスペイン語訳も多かった。  この掛川国際交流センター(略称KIC)は、外国籍市民を対象に、日本語教育や日本社会への適応のための各種支援・相談業務を主な事業目的として、周知の「特定非営利活動促進法」に基づき設立された法人である。市からの財政的補助もあり、その事務所は掛川市役所庁舎内に置かれている。  私の翻訳ボランティア活動は、平成15年から20年頃まで高水準で続いたが、その後私に対する翻訳依頼は漸減した。背景には、在日期間も長期になり高度な日本語も読み書きできる外国人が増加した結果、その中から優秀な時給の翻訳・通訳(各言語毎に)アルバイターを市当局が長期に雇用するようになった事情がある。 4 「囲碁国際交流の会」― 碁とスペイン語の出会い  こうして私がスペイン語学習を続ける意味や意欲を失いかけていた時期の平成20年、大変驚いたが幸せな「事件」が起きた。スペイン語と趣味の碁の双方を同時に生かすことができるボランティア団体を知り、これに加入できたのである。  団体の名は、これも国際交流にかかわるNPO法人の「囲碁国際交流の会」。このような団体があることを私に教えてくれたのは、国際協力機構(JICA)のシニア派遣ボランティアで、囲碁の普及のためチリーで前年まで活動され掛川市に帰ってきた方である。  さて、この「囲碁国際交流の会」は、主にラテンアメリカ諸国の市民・学生に対し,囲碁の交流及び普及に関する事業を行い,日本の伝統文化の普及と国際親善に寄与することを目的」(同法人定款)として、平成18年に設立された。主にラテンアメリカ諸国なかんずくスペイン語圏における囲碁普及のボランティア活動を目的としてきたところに特色がある。会のスペイン語名はSociedad de Intercambio Internacional de GO(略称SIIG)。会員数・現在約100名・退職者が多い。事務所所在地・埼玉県ふじみ野市、会の名誉顧問として数名の日本棋院及び関西棋院高段者を擁する。年会費5千円・入会金なし。HP:http://igokokusai.web.fc2.com/  設立後現在まで、中南米諸国を主にしつつも、隣の中国を含め13か国に計20回、囲碁対局を中心にした文化交流団を毎年派遣している(多くの場合JICAから若干の助成金が交付されている)。  私も、このNPO法人に加入した平成20年には、早速キューバ派遣団に妻と共に参加。妻は囲碁対局場の傍で開設の日本の折り紙教室のお手伝いをした(他に習字、茶道教室など)。初めての社会主義国訪問であり様々なことを深く考えさせられる旅行となった。その後もメキシコ次いでアルゼンチン・チリーへの派遣団に参加。日本人に友好的な中南米の人達との様々な交流は勿論であるが、公式日程を終えた後のテオチワカンやイグアスの滝観光、アルゼンチンからチリーへ向かう長距離バスのアンデス越えなども、生涯忘れ得ない思い出となった。  ここで誤解のないように付け加えて置きたいのは、この会の入会には、スペイン語の素養は必要ないということである。世界共通ルールの囲碁(GO)というゲームを楽しみながらの集団的な交流が中心である。碁の指導など改まったことを行う場面では、同行の専門棋士や特定の高段会員が大盤などを使って通訳付きで行う。極論すれば最低限、対局開始前と終了後に軽く頭を下げるか握手するだけで足りる。もし対局後の検討を相手が望む場合は、盤上の石を無言で動かしたり置き変えたりで相当程度可能である。言葉は知っていれば好ましいけど必要条件ではない。ちなみに、スペイン語の「できる」人は、約100名の会員中10数名程度。通訳が必要であれば、この人達にお願いすればよい。私の場合は通訳なしで大方通じているらしいということで個人的に喜んでいる訳である。会員の棋力も10級から7段まで幅広く分布している。決して碁のエリート集団でもない。「碁を楽しみながら旅行社丸投げでない海外旅行もしてみたい」という方は入会資格ありである。碁好きの各位におかれても一度検討されてみたらいかがでしょうか。 5 おわりに 異分野の人達との触合い  このNPO法人「囲碁国際交流の会」に入会して早くも5年が過ぎた。会員は夫々、これまでの人生で養われた様々な識見、知識、技能などをお持ちである。私にとっては、このような法務分野以外の人達から色々な新しい刺激を受けた貴重な5年間であった。日本は、譬えは悪いが、尻尾の隅々まで餡子の詰まった美味しい鯛焼のように、どの周縁地域や分野にも人材が豊に存在する社会であることを知った。長年のスペイン語の勉強が少し役に立ったという個人的な喜びとともに、日本の底力の一つのあり方を改めて誇らしく感じた次第であった。  「一つのことを長くやって来て良かった」。御依頼を受けたこの拙文を書き終えて、今年喜寿を迎えた者が呟いた独り言である。  碁の上達も願いながら最後に蛇足の一句    「あと一段階(きざはし)上れ喜寿の春」]]>

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