民事法情報研究会だよりNo.45(令和2年6月)

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 若葉青葉の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 さて、新型コロナウイルスの流行で、社会が大混乱に陥っております。東京都の現状をみると、この混乱収束のために、まだまだ気持を緩めてはならないと思う毎日です。(NN)


今 日 こ の 頃

   このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

  日公連事務局を退職して(西潟英策)  

 昨年末をもって、日本公証人連合会事務局を退職しました。平成29年7月からの2年6月間にわたって勤務したのですが、この間に感じた所感の一部について記したいと思います。

1 健康管理
 在職中の2年6月間に、日公連の役員を含む現役の公証人7人の方が病死・事故死で亡くなりました。それ以外にも、重い病気に罹患し、長期治療を余儀なくされ、退職した方も多数あり、その内退職後に期間を置かずして亡くなられた方も相当数あったことを思うと、改めて健康管理の重要性を痛感した次第です。

 特に一人役場にあっては、体調が思わしくないと自覚しても、つい、仕事優先となってしまい、無理をしがちですが、代理嘱託の制度等を活用するなど、自分の体と相談しながら健康優先で、体調管理に心していただきたいと願う次第です。

2 モデル定款問題
 平成29年11月に、内閣官房の日本経済再生総合事務局が、①モデル定款の活用による公証人による認証の不要化、②面前確認に代替する合理的な手法とする定款認証の見直し案を提示しました。
 内閣官房日本経済再生総合事務局が作成した検討案は、「電子署名のある定款認証では、公証人による面前確認を不要とし、更に、モデル定款を利用した場合には、公証人による定款認証自体を不要とする。」という内容のものでした。
 定款認証は、公証業務の中で大きな比重を占めるものであることから、日公連としましては、我が国における定款認証実務の実情と定款認証の意義、更には諸外国における定款認証制度の概要などについて、適宜法務省に情報提供し、また、電子定款認証について、嘱託人が公証役場に出向くことなく、定款認証をすることができないかについて、電子公証委員会及び制度委員会において検討した状況を法務省に伝え、総合事務局案のモデル定款を利用して公証人による定款認証を不要とすることは絶対に受け入れられない旨の意見を伝えました。
 その結果、法務省では、民事局はもとより、法務大臣、大臣官房が一丸となって、この総合事務局案に反対するとの意思統一がされ、その旨の意見等を検討会で強く主張していただいて、総合事務局が主張した、公証人による定款認証自体を不要化する旨の文言は、平成29年12月8日の閣議決定「新しい経済政策パッケージ」には盛り込まれませんでした。
 しかし、この「新しい経済政策パッケージ」では、「オンラインによる法人設立登記の24時間以内の処理の実現及び世界最高水準の適正迅速処理を目指した事務の徹底的な電子化」、「電子定款に関する株式会社の原始定款の認証の在り方を含めた合理化」ということが謳われたことから、総合事務局は、この閣議決定は、モデル定款の利用による公証人の定款認証自体の不要化を否定するものではないとして、自ら、いわゆるモデル定款案なるものを作成して、これに対する法務省の意見を求めてきました。
 日公連では、全国の公証人の協力を得て、平成29年12月21日から28日までの間に認証した電子定款についての実情調査を実施しました。その結果、調査期間中に認証した電子定款2511件のうち832件が日公連のホームページに掲載されている定款記載例をベースとしたものであり、そのうち356件について、補正を要していたことが確認されたことから、モデル定款が現実的ではないことが実証され、さらに、公証人の審査において、偽造の印鑑が用いられていたのを指摘した事例も報告され、公証人による定款認証が果たしている不正防止という役割も実証される形となりました。これらの調査結果を踏まえて前述のモデル定款案に係る問題点を検討・指摘し、それを法務省民事局に伝え、法人設立オンライン・ワンストップ検討会に対する意見に盛り込んでもらったところです。
 その後、現在まで、モデル定款案に係る攻勢は、休止状態となっていますが、思うに、モデル定款に合わせた会社を設立するのではなく、起業者が目指す会社像に合わせた定款案を作成すべきなのですから、もともと本末転倒ではないかと考えます。

3 テレビ電話による電子認証
 しかし、「新しい経済政策パッケージ」において定められた「電子定款に関する株式会社の原始定款の認証の在り方を含めた合理化」を実現すべく、法務省は、「指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令」第9条を改正して平成31年3月29日から施行し、嘱託人等が公証役場に出頭することなく、テレビ電話を使用することより本人確認及び電子認証を行うことができるという制度を導入しました。これに伴い、日公連では、全国の公証役場のホームページ未設置役場に、ホームページを新設し、ウェブカメラの配付をしたところです。ただし、このテレビ電話による電子認証は、①発起人等が電子定款(電子私署証書を含む以下同じ。)に電子署名をして、嘱託人として、自ら電子定款をオンライン申請する場合、又は②発起人等が委任状に電子署名をし、定款作成代理人が嘱託人として、その委任状と共に、自ら電子署名をした電子定款をオンライン申請する場合に限られるため、これが利用上の制限となって、利用件数は僅かであり、今後の活用対策が待たれるところです。

4 新たな定款認証制度の創設
 平成30年2月27日、法務省民事局長主催の商法及び民法学者、弁護士及び司法書士の有識者で構成する「株式会社の不正利用防止のための公証人の活用に関する研究会」による議論の取りまとめが公表されました。
 ①我が国では、消費者詐欺犯罪、詐欺的投資勧誘やマネーロンダリング等の犯罪において、本来の行為者の隠れ蓑として株式会社が悪用されることが多く、多数の消費者被害が生じており、また、これらの犯罪による収益は暴力団等の反社会的集団の資金源ともなっているという現状もあるため、法人の実質的支配者を把握し、不正使用を防止することが必要となっていること、並びに、②国際的には、1989年のアルシュ・サミットの経済宣言を受けて設立された政府間機関である「資金洗浄に関する金融活動作業部会」(FATF)が、世界各国のマネーロンダリング対策やテロ資金対策の評価・勧告を行っており、法人の実質的支配者情報の把握及びその情報への権限ある当局によるアクセスの確保を各国に求めてから、既にスペインに対して行われたFATF第4次相互審査で、同国では、会社設立時等に公証人が実質的支配者の情報を把握してその情報をデータベース化しているという取組について高い評価を得ているという背景事情を踏まえて、我が国においても、法人の実質的支配者情報の把握及びその情報への権限ある当局によるアクセスの確保の取組が期待されており、これを公証人の活用より実現するための具体的な方策及びこれに関連する論点について議論し、提言がされたものです。
 これを受けて法務省民事局は、パブリックコメントを経て、公証人法施行規則を一部改正し(第13条の4を新設)、公証人が株式会社及び一般社団・財団法人の定款認証を行う場合には、発起人に、当該法人の実質的支配者及びその者が暴力団員又は国際テロリストに該当するか否かを申告させることとし、同規則は、平成30年11月30日から施行されました。
 そして、これに先立ち、日公連では、会長以下の関係役員をメンバーとするプロジェクトチームを立ち上げて頻繁に新制度の下における認証事務に係るQ&Aの作成協議を行い、広報に奔走し、また、電子公証委員会と日立製作所との間で電子公証システムの改修作業を進めて、改正規則の施行を迎えました。
 このFATF対応定款認証制度は、制度導入後、順調に運用されており、公証人各位から日公連に対する照会件数も相当数に上っており、平成元年にFATFによりベストプラクティスの評価を受けたところです。

5 法務局における自筆証書遺言書の保管
 法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号。以下「遺言書保管法」という。)が平成30年7月6日に成立し、同月13日に公布され、本年(令和2年)7月10日施行の予定です。
 従来、自筆証書遺言は、検認手続を要すること及び紛失や改ざんのおそれがあることから、公正証書遺言が安全確実と言われてきましたが、遺言書保管法の施行に伴い、これらの問題が解決されることになって、自筆証書遺言が増加するものと予測されます。令和元年の公正証書遺言件数は、113,137件で、過去最高を記録しましたが、今後、自筆証書遺言の増加が公正証書遺言の件数にどのように影響してくるのか、注視する必要があるものと思います。
 また、遺言者が遺言書保管官に対して遺言書の保管を申請するに際して、本人確認をすることとされています(遺言書保管法5条、法務局における遺言書の保管等に関する政令2条)が、その確認は、形式的審査とされているところ、遺言書保管官の審査権限が具体的にどの範囲に及ぶのか、どのように運用されるのか関心のあるところです。
 さらに、遺言検索に相当すると思われる遺言保管事実証明書(遺言書保管法10条)を有料で発行することとされています(法務局における遺言書の保管等に関する省令43条2項、33条2項7号)が、日公連では無料で検索に応じていることとのバランスの問題、利用者である国民サイドからすると、法務局と日公連の双方で検索しなければならないのかという使い勝手の悪さの問題等、運用が始まってからも課題が残されていると思われます。

6 おわりに
 つらつらと駄文を書き連ねましたが、2年半の短い期間とは言え、日公連事務局で、次々と新たな課題に直面し、勉強させていただきました。
 執行部の役員の皆様は、自ら受託した公証業務を処理しながら、全くの無報酬で会務をこなしており、本当に頭の下がる思いでした。
 内閣府の規制改革推進会議行政手続部会による定款認証手数料引き下げの検討、改正債権法による保証意思宣明公正証書制度の施行、種々の法改正に伴う証書文例の見直しや、遺言のシステム改修等々、公証人会を取り巻く課題は尽きませんが、公証人現役の皆様には、執行部への御支援、御協力を切にお願いしてペンを置かせていただきます。

  武生にて-感染症のことなど(丸尾秀一)  

1 感染症(新型コロナウイルス)の歴史
 北陸越前の地に来てから、1年が過ぎようとしている。前職では、ご多分に漏れず転勤・転勤で、全国各地に住まわせてもらったが、北陸での勤務経験はなかった。縁あって、武生公証役場公証人への任命を受け、福井県越前市という未知の場所で、人生の一時期を過ごしているところであるが、世の中は、今、新型コロナウイルスという未知の感染症の拡大防止に奮闘している最中にある。
 本来であれば、今頃は今夏開催の東京オリンピック・パラリンピックの開催を前に日本中が沸き立っているところであろうが、一寸先は闇というか、世の中というのは、本当に分からないものである。
 当初は、ゴールデンウィークは実家の鹿児島に帰省を予定していたが、政府の緊急事態宣言を受け、当然、それもかなわず、福井の自宅待機となったことから、この機会に感染症の歴史について調べてみることにした。

 まず、新型コロナウイルスについて、厚生労働省のホームページによると、『「新型コロナウイルス(SARS-CoV2)」はコロナウイルスのひとつです。コロナウイルスには、一般の風邪の原因となるウイルスや、「重症急性呼吸器症候群(SARS)」や2012年以降発生している「中東呼吸器症候群(MERS)」ウイルスが含まれます。
 ウイルスにはいくつか種類があり、コロナウイルスは遺伝情報としてRNAをもつRNAウイルスの一種(一本鎖RNAウイルス)で、粒子の一番外側に「エンベロープ」という脂質からできた二重の膜を持っています。自分自身で増えることはできませんが、粘膜などの細胞に付着して入り込んで増えることができます。
 ウイルスは粘膜に入り込むことはできますが、健康な皮膚には入り込むことができず表面に付着するだけと言われています。物の表面についたウイルスは時間がたてば壊れてしまいます。ただし、物の種類によっては24時間~72時間くらい感染する力をもつと言われています。』と記載されている。
 また、感染症とは、病原微生物ないし病原体(細菌、スペロヘータ、リケッチア、ウイルス、真菌、原虫、寄生虫など)がヒトや動物のからだや体液に侵入し、定着・増殖して感染をおこすと組織を破壊したり、病原体が毒素を出したりしてからだに害を与えると、一定の潜伏期間を経た後に病気となることとされている。

 こう書くと、何か難しく感じるが、人類と感染症の関わりの歴史は古く、例えば、エジプトのミイラからは痘瘡(天然痘)に感染した痕が確認されている。ウイルスや細菌の誕生が人類の誕生以前であることから、人類の誕生とともに感染症との闘いの歴史が始まったといわれる。
 人類を脅かしてきた感染症には、天然痘(人類が根絶した唯一の感染症)、ペスト、新型インフルエンザ、新興感染症(AIDS・SARSなど)、再興感染症(結核・マラリアなど)がある。
 原因も治療も十分に確立されていなかった時代には、感染症のパンデミックは歴史を変えるほどの影響を及ぼしてきた。
 中世ヨーロッパにおいて人口の3分の1が死亡したといわれるペスト、世界中で5億人以上の者が感染し、死亡者数が2千万人とも4千万人ともいわれる1918年からのインフルエンザの汎流行(スペイン風邪)など、感染症は多くの人類の命を奪ってきた。いわゆるスペイン風邪は我が国でも大流行し、2500万人が感染し、38万人が死亡したといわれる。ちなみに、スペイン風邪の語源は、本来アメリカ発であるにもかかわらず、当時は第一次世界大戦中であり、世界各国・各地域で諸情報が検閲を受けていたのに対し、スペインは中立国であったため、アルフォンソ13世の重病を初めとする主要な情報源がスペイン発となったため、スペインが特に大きな被害を受けたという誤った印象を生み出したことによるとされている。スペインもとんだ迷惑である(新型コロナウイルスの発生源を巡って大国二つが言い争っているのと大分違う)。
 感染症をもたらす病原体や対処方法が分かってきた19世紀後半からは、感染症による死亡者は激減した。1980年、WHOは、天然痘の根絶宣言を発表するなど、一時は感染症はもはや脅威ではあり続けないと思われていた。
 しかしながら、現代は、開発等により未知の病原体に遭遇する機会が増え、エボラ出血熱(1976)、AIDS(1981)など、新興感染症と呼ばれる感染症が、毎年のように発生しており、また、人や物の移動が高速化大量化しているために病原体が蔓延する速度が速くなっており、短期間で広範囲に蔓延する可能性が高まっていることから、感染症の脅威は大きくなってきている状況にあった。
 2003年2月、21世紀になってから初の新興感染症SARSが出現し、アジア地域を中心に瞬く間に世界各地に広がり、世界的な脅威となったことは記憶に新しい。
 これを契機に、WHOを中心に、世界では、感染症に対する各種対策を行ってきており、今回の事態も一種予測されたものであるが、それが十分でなかったことが証明される結果となったことは誠に残念である。

2 武生公証役場の状況
 新型コロナが全国的に広がる3月、公証事務においても、各種会議が中止や書面での会議となり連合会からも対応策の指示がされ、危機感が高まっている中、当役場においても、感染を予防するための、「3つの密」の内、密閉空間と密接場所を避ける方策として、証書作成部屋の窓の開放、相談机や受付机に飛沫防止パーティションの設置を行った。また、ドアや机の消毒、アルコール消毒液の備付、非接触型体温計での検温も準備したが、役場がある福井県が、県独自に4月14日に緊急事態宣言を出してからは、事件の予約や電話も極端に減少し、来訪者も少ないことから、あまり活躍はしていない。
 不要不急の外出をしないようにとの要請が出ている中、確定日付を郵便でできないかとか、遺言書保管の電話での確認など、こういう状況にあるのだから考慮してもらえないかとの電話も少なからずあり、対応に苦慮している。
 毎月確定日付の付与請求してくる会社から、現在、出張は禁止されているので、直接役場内には入れないとの相談があり、結果、役場玄関で書類を受け取り、待機してもらい、付与手続後、役場玄関で書類を手渡すという、笑えない緊急避難的対応も行っている。

3 武生の歴史
 新型コロナの話ばかりでは気が滅入るので、私が勤務する武生公証役場が所在する越前市について少し紹介したい。
 越前市にあるのになぜ武生(たけふ)公証役場との名称になっているかであるが、越前市は、平成の大合併により、平成17(2005)年10月1日に、武生市・今立郡今立町が合併して発足した市である。既に北隣に越前町がある上、南隣には南越前町があり、ほとんど同じ地名が密集することで、合併協議会のホームページ掲示板では反対意見が大多数を占めたにもかかわらず、少数意見の越前市が採用された。このことは、未だに批判があるようである。そのせいかかどうかは分からないが、今でもJRや福井鉄道の駅名は武生駅であり、高速道路も武生インターである。法務局も武生支局のままである。
 旧名の武生は、明治2年、平安時代の民謡「催馬楽」(さいばら)の一節「みちのくち、たけふのこふ」にちなみそれまでの「府中」を「武生」と改称し、昭和23年に市制が施行されている。
 越前市は、福井県のほぼ中央に位置し、古い歴史と伝統工芸の宝庫である。大化の改新の後、越前の国府が置かれ、国分寺なども建立され、中世には「府中」と呼ばれるなどして、約千年近くも越前地方の中心地として栄えた。
 世界的文学作品「源氏物語」の作者である紫式部も、長徳2(996)年、父藤原為時が越前守に任命され、父親について20歳のころ、府中(武生)にやってきており、1年余り暮らしている。源氏物語の中にも浮舟の巻に、浮舟を母親が慰める言葉の中に、「武生の国府」が出てくる(「たとへ武生の国府にうつろい給うとも・・」(たとえ武生の国府のような遠いところへあなたが行ったとしても・・」)。
 現在、放映中のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」では、5月中旬から越前編が始まるが、主人公の明智光秀は、10年ほど称念寺(現在の福井県坂井市丸岡町)の門前に住んでいたとされている(私は大河が放映される前に行ってきたが、普通の寺であった。)。残念ながら、府中(武生)とは特に関係は深くないようですが、同じ織田信長の家臣であった柴田勝家の目付として、不破光治・佐々成正・前田利家が府中三人衆として府中に在住している。
 慶長5(1600)年、関ヶ原の戦いの後、徳川家康の二男結城秀康が福井藩主となると、秀康に仕えていた本多富正が家老として府中領主(4万5千石)となった(叔父は本多作左衛門)。本多家館の地は、今の越前市役所のある一帯にあったが、その正門は、役場の隣にある正覚寺の山門であったとされており、毎日それを眺めながら、歴史を感じている。

【伝統産業】
 「越前打刃物」は、江戸時代の中頃から全国的に名をとどろかせるようになった。武生は、越前鎌を中心に、包丁・鍬・鋤などを生産し、江戸時代の終わり頃から明治時代の初めにかけては、新潟県の三条、大阪府の堺、兵庫県の三木・小野とともに刃物の大産地となった。明治7年には、鎌97万挺(全国1位)、包丁30万挺(全国2位)で、他の産地を大きくリードしていた。近年は、新しいブランド作りにも熱心に取り組んでおり、デザイン性に優れたオリジナル製品の開発が続いている。
 「越前和紙」は、日本に紙が伝えられた4~5世紀頃には紙を漉いていたことが、正倉院の古文書にも示されている。その後、「越前奉書」など最高品質を誇る紙の産地として、幕府、領主の保護を受けて発展してきた。
 横山大観をはじめ多くの芸術家などの支持を得て、現在も、品質、種類、量ともに日本一の和紙産地として生産が続けられている。

 終わりに、日本国民一丸となって新型コロナウイルス感染の難局を乗り越え、一日でも早く、これまでの生活を取り戻し、一年後の東京オリンピック・パラリンピックの開催を迎えたいものです。

  来春は、美しい富士山へ(余田武裕)  

 今年の4月に遺言書を作成する予定にしていたご高齢の方から、自分の入居している施設が新型コロナウイルスの影響によって面会禁止、外出禁止となったため、しばらく遺言書作成を延期したいという連絡をいただいた。ところが、5月のGW明けに、そのご家族の方から、その方が亡くなられた(原因は新型コロナウイルスではない。)との連絡があった。私としては、その方の最後の意思を残すことができなかったことが残念であるとともに、新型コロナウイルスによる影響を改めて痛感させられた出来事であった。
 新型コロナウイルスが全世界に蔓延し、巷でマスクや除菌剤の購入が困難となった1月末ころから、流れてくるニュースはずっと新型コロナウイルスのことばかりである。情報が欲しいのでテレビを見るが、そのたびに感染の恐怖が掻き立てられ、不安な気持ちになる。
 ところで、何となく気になったので、最近話題になっている「100日後に死ぬワニ」という漫画を読んでみた。主人公であるワニが自分が100日後に死ぬことを知らず日々の生活を送っている様子が、カウントダウンの形で4コマ漫画に描かれている。それを読んでいると、今まで元気で活躍されていた方が、新型コロナウイルスによって急に亡くなられてしまったというニュースとなぜかダブってくる。今の健康状態で、自分があと100日で死ぬなんて考えて生活などしていない。しかし、新型コロナウイルスが猛威をふるっている中、突然に新型コロナウイルスにり患し、命を脅かされることになるかもしれない。もしかしたら、カウントダウンが始まっているのではないかという、もやもやした不安感が漂ってくるのである。そんな中、先日、その漫画のワニから遺言書作成の依頼を受けているという、有り得ない変な夢を見た。私の心の中で、何か起こっているのではないかと別な意味で心配になった。
 最近、コロナ疲れとかコロナ鬱という言葉を耳にする。私にとって、それは新型コロナウイルスへの感染とともに心配の種である。そこで、インターネットを使って、コロナ鬱に関する記事を検索してみた。専門家の方がいろいろなアドバイスをされており、私自身に照らすと思い当たることがあり、今後は、次の点を心掛けてみようと思っている。
 まず、1点目は、十分な感染予防。生活上での手洗い、うがい、外出自粛。役場における徹底的な除菌、ソーシャルディスタンスの確保のためのレイアウト変更、パーテーションの設置、電話による相談の実施、書記の勤務時間の短縮など、可能なことは実施しているつもりであり、それが心の安定要素になっている。しかし、予防策には、はっきりとした答えがなく、今何が足りないのか、何をすれば十分なのかわからないので不安にもなる。かといって、あまり気にばかりしていても自分を追い詰めることになる。もちろん、常に状況を見つつ見直しをすることは必要であるものの、過度に神経質にならないよう気を付けたい。また、自分自身、少しでも咳が出たり、疲れが残っていたりすると気になるし、毎日、朝と晩に行っている体温計測の結果も気になる。自分が新型コロナウイルスにり患していないのかを常に気にしているように思え、仮にり患した場合、自分の生命の危機だけでなく、周辺の人への影響、更には役場を閉鎖しなければならないなどと考え、気分的にも滅入ってしまう。もちろん日々の体調把握・管理は必要であるが、ある程度、おおらかでありたい。
 2点目は、情報の選択。今やテレビや新聞では新型コロナウイルスのニュースで溢れている。必要な情報は多くあるが、中には、不安を煽ったり、腹立たしくなってくるような内容もある。最近、以前は何も感じなかったような何気ないニュースが、妙に不愉快になることがある。これは、私の心が新型コロナウイルスの影響を受けているというサインかもしれないと思っている。心が情報に潰されないように、新型コロナウイルス関連の情報を選択し、必要最小限な情報を入手することにしたい。
 3点目は、規則正しい生活と適度な運動。特に運動はしたいと思っている。以前このコラムに投稿した私のお腹の成長は現在も続いており、最近は、そのお腹のせいだと思うが、腰を痛めてしまった。数日前、昔所属していたソフトボールチームの練習で、気持ちよく大きなホームランを打つ夢を見た(眠りが浅いのか最近よく夢を見る。)。身体がソフトボールをしたがっているのであろう。いつか、チームに顔を出したい。でも、今はできないので、諦めて家の中でストレッチを始めた。数日間やってみると、肉体的にも多少効果があるようだし、精神的にも良さそうである。これからも飽きずにちゃんと続けたい。
 4点目は、気分転換。私の気分転換の一つに人との会話がある。迷いや気分の落ち込みがあったりしても、人と会話することによって心が落ち着いてくることがある。最近は多くのイベントが中止になり、そのような機会が極端に減っている。このことも、自分自身の気持ちが塞いでいく要因になると思われる。時折(相手方に迷惑がかからない程度)、電話やメールを活用して、精神状態を維持したい。
 5点目は、今後待ち受ける楽しいことを考えること。数か月先のことだと実現できなかったときに気分が落ち込むので、少し先のことを考えてみる。中期的には公証人を辞めた後にやりたいことを考えたり、短期的には1~2年後のことを考えてみるのである。私の趣味の一つに写真があり、特に風景、草花の写真を撮るのが好きで、15年以上前から、大きな一眼レフカメラを抱え、週末になると、近くの国営公園や風光明媚な場所に通ったものである。最近は仕事の関係もあり、ご無沙汰となっているが、富士山には四季を通じ、通算して50回くらい通ったものである。今年の紅葉は無理かもしれないが、来年の桜の季節には、ぜひ河口湖か西伊豆あたりを訪ね、温泉宿に宿泊し、美しい富士山を存分に堪能したいと思っている。
 昔撮った写真を眺めながら、どこに行こうかワクワクしながら来春を楽しみにしている。

実 務 の 広 場

   このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

  No.79 利能力なき社団を債権者とする執行文の付与について  

1 はじめに
 権利能力なき社団を当事者とする公正証書の作成については、下記文例の解説があり、登記事務に準じて当該社団を表記する扱いがされているところ、今般、裁判所から公証実務と異なる対応を求められたので、概要を紹介するとともに今後の方策等について検討するものです。

 権利能力なき社団とは、社団としての実質を備えていながら法令上の要件を満たさないために法人格を有しない社団をいう。権利能力なき社団の公正証書作成については、新版 証書の作成と文例〔貸金等・人的物的担保編〕7 当事者の一方が権利能力なき社団の場合〔文例8〕(62頁以下参照)に、参考事項として次のように記載されている。
(1)法人格なき社団は、権利能力なき社団ともいわれ、社団の実体を有するにもかかわらず法人格を持たない社団であり、社会的、経済的、文化的諸方面において数多く存在する。法人格を取得していない管理組合(建物の区分所有等に関する法律3条)もその一つである。
(2)法人格なき社団は、権利能力を欠くため公正証書の作成を嘱託することはできないとするのが判例(最判昭和56・1・30判時1000・85。参考判例①)、公証実務(追記:昭和13・2・2民甲104号司法省民事局長回答・公証人法関係解説・先例集842頁、昭和38・3・26民事甲902民事局長回答・公証人法関係解説・先例集842頁)である。最判昭和39年10月15日(民集18巻8号1671頁)は、「①法人に非ざる社団が成立するためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理団体としての主要な点が確立していることを要する。②法人に非ざる社団がその名においてその代表者により取得した資産は、構成員に総有的に帰属するものと解すべきである」と判示する。これらの判例を受け、権利能力なき社団をめぐる財産関係につき公正証書を作成する場合、権利能力なき社団の代表者個人を当事者とするが、権利能力なき社団の総有財産のみがその責任財産となることから、代表者の個人財産が執行の対象にならないようにする必要がある。
*「権利能力なき社団を当事者とする公正証書の作成」については、平成10・10・23法規委員会協議(公証123号205頁)もある。

2 事案の概要
(1)権利能力なき社団野山組合は、会計担当の乙に対して、野山組合の現金及び預金を乙が横領したとしてその金員の返還を求め、調停により乙は横領の事実を認め「乙が野山組合に対し金200万円を支払う」旨の和解が成立した。
(2)その後、乙の債務を丙が重畳的債務引受する旨の公正証書の作成依頼があり、連帯債務者を丙、債権者を「権利能力なき社団野山組合代表者理事長丁」(本旨外要件の債権者の表記も同様に記載)とする重畳的債務引受契約公正証書(以下「本公正証書」という)を締結した。
(3)数か月後、野山組合から丙に対して本公正証書による強制執行を申立てるための執行文の付与申立てがあった。公証人は、「債権者権利能力なき社団野山組合代表者理事長丁は、債務者丙に対し、この公正証書によって強制執行をすることができる。」との執行文を付与した。
(4)後日、裁判所から執行文中「野山組合」の後の「代表者理事長丁」の記載があると執行できない、債権者を野山組合と訂正できないかとの連絡があった。
(5)公証人は、裁判所の指示どおり「債権者権利能力なき社団野山組合は、債務者丙に対し、この公正証書によって強制執行をすることができる。」と本公正証書の執行文を差替えし、併せて「本旨外要件の『権利能力なき社団野山組合代表者理事長丁」とあるのは、「所在地○○県○○市○○123番地、名称野山組合、代表者理事長丁」であると証明する。』との誤記証明書を交付して強制執行申立ては受理された。

3 検討
(1)法人格のない社団等の訴訟当事者能力について、民事訴訟法第29条は「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。」と規定し、訴訟当事者能力を認めています。予防司法の観点からも、社会において認知され、活動をしている権利能力なき社団からの公正証書作成の嘱託を拒否することはできないと思います。また、公正証書作成の必要書類等としては、権利能力なき社団に特有なものとして、①権利能力なき社団であることを証明する基本規約書等、②理事長(代表者)であることを証明する当該代表者を選出した総会議事録、役員会議事録、③理事長(代表者)の印が必要な場合は、個人の実印がそれに当たるとされています。
(2)公正証書に権利能力なき社団を表記する際は、債権者(又は債務者)権利能力なき社団○○理事長●●とし、債務者の場合は、債務の引き当てになる財産の表記をすること及びこの財産のみが執行対象財産となることの債権者との合意事項を記載する必要があります(前掲文例8第4条)。
(3)裁判所の実務では、「債権者○○会は、債務者乙に対し、この債務名義により強制執行をすることができる。」と執行文を記載するようです。権利能力なき社団に訴訟行為能力を認めているので、法人格のある社団を表記するのと同様な取扱いだと思われます。従って、公正証書を作成する際も、本旨外要件には、権利能力なき社団の所在地、名称を記載しておくことが必要だと思います。なお、公証実務では、権利能力なき社団の所在地・名称を法人格のある社団のように記載する扱いは、認められていないようです(公証実務43頁、103頁。新訂公証人法91頁)。
(4)公証実務では、債権者である権利能力なき社団の代表者が更迭された後に執行文の付与申立てがされた場合は、承継執行文を付与すべきかどうか問題になりますが、裁判所実務では、法人の代表者が更迭されても法人に変更はないとされているので、公証実務でも他の法人の代表者の変更の場合と同様に、代表者が更迭された事実を公証人において確認(総会議事録、就任承諾書等の提示)できれば問題ない(承継執行文の付与は必要ない)といえるでしょう(裁判所に確認済み)。
(5)従って、公正証書で執行がスムースにできないのでは執行証書の意味がありませんから、権利能力なき社団については、裁判所の実務に対応できるように括弧書き等で民事訴訟法上の当事者の表示を併記するなどの工夫が必要であると考えます。

4 権利能力なき社団を債務者とする債務名義に単純執行文を受けて、債権執行や動産執行を行う場合
 権利能力なき社団を債務者とする債務名義に単純執行文を受けて、権利能力なき社団自体を口座名義人とする預貯金等の債権を差し押さえることは可能です。しかし、不動産の場合には、権利能力なき社団は登記名義人となれませんので、権利能力なき社団を債務者とする債務名義に単純執行文を受けて、債権者は、上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の確定判決等を添付して、当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすることになります(佐藤裕義編著Q&A執行文付与申立ての実務―要件と手続、紛争事例―138頁。参考判例②)。

 権利能力なき社団を当事者とする公正証書作成の嘱託がされた場合は、裁判所は権利能力なき社団の行為能力を認め(参考判例③)、公証実務は登記実務(権利能力なき社団の登記能力を認めていない)に準じて権利能力なき社団の証書作成の当事者能力を認めていないので、後々、問題が生じるおそれがあるので、公証人として留意すべきであると思います。

・参考判例
①昭和56年1月30日最高裁二小判決(集民第132号61頁)
裁判要旨 一 民法上の組合類似の性質を有する頼母子講がその名において公正証書の作成嘱託をすることは許されない。
二 頼母子講に講金の取立、支払等について一切の権限を有する講総代が選任されている場合に、講総代が自己の名においてした嘱託に基づいて作成された講掛戻金に関する公正証書の嘱託人の表示欄に債権者として総代個人の住所氏名等が記載され、その本文中に債権者として総代の肩書を付してその氏名が記載されていても、右各記載の間に齟齬があるとはいえない。

②平成22年6月29日最高裁三小判決(民集第64巻4号1235頁)
裁判要旨 権利能力のない社団を債務者とする金銭債権を表示した債務名義を有する債権者が,当該社団の構成員全員に総有的に帰属する不動産に対して強制執行をしようとする場合において,上記不動産につき,当該社団のために第三者がその登記名義人とされているときは,上記債権者は,強制執行の申立書に,当該社団を債務者とする執行文の付された上記債務名義の正本のほか,上記不動産が当該社団の構成員全員の総有に属することを確認する旨の上記債権者と当該社団及び上記登記名義人との間の確定判決その他これに準ずる文書を添付して,当該社団を債務者とする強制執行の申立てをすべきであり,上記債務名義につき,上記登記名義人を債務者として上記不動産を執行対象財産とする執行文の付与を求めることはできない。平成26年2月27日最高裁一小判決(民集第68巻2号192頁)

③平成26年2月27日最高裁一小判決(民集第68巻2号192頁)
裁判要旨 権利能力のない社団は,構成員全員に総有的に帰属する不動産について,その所有権の登記名義人に対し,当該社団の代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟の原告適格を有する。

・誤記証明書(注:債権者に交付した書面)
 本公証人作成の、令和○年○月○日第○○号重畳的債務引受契約公正証書の本旨外要件に
「住所 京都府福知山市駅前町322番地
    農業
    野山組合代表者組合長
    債権者(甲) 乙野一郎
    昭和37年2月8日生
上記は運転免許証の提示により人違いでないことを証明させた。」
とあるのは
「所在 京都府福知山市字内記10番地
    債権者(甲)野山組合
    上記代表者組合長 乙野一郎
    昭和37年2月8日生
上記は、野山組合規約、令和○年○月○日開催された同組合総会議事録及び令和○年○月○日付け役員選任書の提出並びに運転免許証の提示により人違いでないことを証明させた。」
の誤記であり同じく本旨外要件の嘱託人列席者の署名箇所に
「債権者(甲)乙野一郎」
とあるのは
「債権者(甲)野山組合代表者組合長乙野一郎」
の誤記であることを証明する。
同記載が誤記であることは、公正証書原本の附属書類である○○地方裁判所○○支部平成○○年(ワ)第○○号第1回口頭弁論調書(和解)の写し並びに野山組合規約、令和○年○月○日開催された同組合総会議事録の写し及び令和○年○月○日付け役員選任書により明らかである。
令和○年○月○日
○○県○○市○○町○○番地
○○地方法務局所属
公証人 ○ ○ ○ ○

(栁井康夫)

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