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民事法情報研究会だよりNo.50(令和3年7月)

 向暑の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 今年は、気象庁による平年値の見直しがされ、梅雨明けはこれまでより2日早い7月19日とのことですが、まだまだ不安定な天気が続くようです。
 高齢者の半数以上が新型コロナのワクチン接種を1回以上終えたとのことで、心理的には少し安堵感が増したような気がしますが、東京などの首都圏では感染再拡大の傾向にあるようで、開催予定のオリムピック・パラリンピックによる影響がどの程度まで及ぶのかが懸念される状況にあります。(YF)

今日のこの頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

コロナ禍の先の希望を夢見て(泉代洋一)

1 突然の電話
 昨年の11月に入って間もない頃、当役場を管轄する大垣保健所から1本の電話が入りました。この時期に保健所からの電話と言えば・・・いやな予感は的中しました。
 「3日前の午後2時頃に大垣公証役場に相談に行かれた方が新型コロナウイルスに感染していたことが判明しました。案内された場所は、役場内の相談室であったということです。感染者からの情報によれば、相談者と対応者双方ともマスク着用、透明ビニールのパーテーションが施され、相談時間も30分以内であったと聴いており、当保健所では公証役場職員は、濃厚接触者に当たらないと判断しています。通常業務は続けていただいて差し支えありませんが、潜伏期間の2週間は、役場職員の健康状態を詳細に把握願います。」との内容でした。
 保健所からは、感染された方について、プライバシー保護の観点からこれ以上の情報提供はありませんでした。ただ、当役場の規模からすれば、相談日時の情報さえあれば概ね該当者を特定することができます。頭の片隅に「あっ、あの相談の方か。」と思い浮かびましたが、特に身体に不調があったように見えなかったことから、無症状であったが関係者に感染があり検査を行って判明したものであろうと推測しました。
 このコロナウイルスのやっかいなところは2週間の潜伏期間があるということです。さすがにこの間怯えながら毎日を過ごすのは辛いものがあると思い、大垣保健所に対し何とか当役場の職員全員のPCR検査を要望しましが、予想どおりの回答で、濃厚接触者に当たらないということからPCR検査は実施できないということでした。
 この頃は、コロナウイルスの第2波が岐阜県内においてもようやく沈静化し、落ち着きを取りもどしていた時期であったので、感染対策は十分行っていたものの、当役場に直接感染者が訪れるとは思ってもいませんでした。書記らと健康状態の確認を毎日行い、カレンダーに×が14個並ぶのをひたすら待ち続けました。
 何とか苦難に満ちた2週間の潜伏期間は過ぎ、誌友の皆様にご迷惑をおかけすることはありませんでした。コロナウイルスが社会を覆い尽くして半年以上がたち、感染への危機感が薄れる「コロナ慣れ」という観点からも長く辛い2週間ではありましたが、役場内職員、改めて気を引き締める意味でこの出来事は良い機会であったと捉えました。
なお、感染した(・・・・と思われる)嘱託人の公正証書作成は、後日、無事完了しました。

2 マスクの弊害
 新型コロナウイルスにより、マスクを着けることが当たり前になったせいで相手の表情が分からない、コミュニケーションが取りにくいと感じます。当役場でも他の役場と同様に入室の際には、必ず手のアルコール消毒及びマスク着用をお願いしており、マスクを持参していないお客様に対しては、当役場からマスクを渡し着用していただいています。
 私たちは人と話す場合、口元の動きや顔の表情を見て推察します。しかし今はマスクに覆われ、感情を表す部分は目と眉毛の二つだけになります。言葉をうまく伝えるには、声質や抑揚、表情などの非言語情報を上手に使うことが重要です。そうしないと誤解を招いてしまうこともあります。例えば、人の話を聞いて「もっともな話でした。」と返すとき、笑いながら抑揚のある声だと問題はありませんが、同じことを抑揚もなく暗い表情で話すと、意思に反して「私は不快でした。」と伝わることになります。
 また、マスクを着用していることで声がこもり、口元が見えないことから、やや耳が遠い方とのコミュニケーションにも工夫が必要です。しっかりと相手の目を見ながら、加えて身振り手振りを交え、ゆっくりとそしていつもより大きな声で(飛沫に気をつけながら・・・)会話するよう配慮しています。
コロナ禍の今こそ、無表情の会話は何としても避けたいものです。
 ところで最近、某首相のコミュニケーションはどうかとマスコミが取り上げています。「人は見た目が9割」の著者、竹内一郎さんの近署「あなたはなぜ誤解されるのか」(新潮新書)の紹介文で分析すると、まず言語自体が、官僚の作文を平板に読むだけでは個性やメッセージ性がないということです。私も前職のとき会議の挨拶等は、なるべく手元の原稿に目を向けること無く出席者の目を見ながら自分の言葉で話すよう心掛けていましたが、振り返れば全ての場面で実践できていたかは疑問であり、今更ながら反省しているところです。
 また、某首相の場合は、表情がなく、人の温かみが感じられない部分が見受けられると野党から言われています。「そんな答弁だから言葉が伝わらない。」と国会で迫られ、「少々失礼じゃないか。」と気色ばんでいますが、その顔もやはり無表情であったと記憶しています。「正論は印象に勝てない。」と竹内さん。やはり「見た目」も大切であると痛感する今日この頃です。

3 コロナ禍の中で良い話
 新型コロナウイルスの勢いが一向に収まりません。長引く我慢の毎日に心が折れそうで、国民全体が精神的にも苛立ちが増し怒りっぽくなっているように感じます。
 そんなとき、ニュースで目にした言葉がありました。「明日は今日よりいい日になる。たとえ今日が普通の日だとしても・・・・」先日100歳で亡くなった英国の退役軍人トム・ムーアさんの名言です。コロナ危機に立ち向かう医療従事者を支援しようと自宅庭を100往復すると宣言し、ネットで寄付を募ったそうです。何しろ高齢です。歩行器を押しながら、少し前かがみで一歩一歩進んでいく挑戦する姿に賛同と激励の輪が広まり、寄付金は目標の13万円をはるかに上回る47億円に達しました。英国民を勇気づける英雄と賞賛され、エリザベス女王からもナイトの爵位が授与されたそうです。
 もう一人、気になった発言がありました。パキスタン出身の人権活動家マララ・ユスフザイさん。17歳でノーベル平和賞を授賞し、昨年、英オックスフォード大を卒業しました。卒業式がなかった世界中の仲間にこう呼びかけました。「ウィルスで何を失ったかではなく、どう対応するか大切である。」そして「私たちはこれから何ができるのか、とても楽しみです。」と締めくくりました。
 ついつい悲観的になりがちですが、先の名言を胸に、前向きに苦境を乗り越えたいものです。

4 希望のひかり
 新たな変異株が猛威を振るい終わりの見えないコロナ禍の中、ワクチンの接種に一縷の望みを託します。高齢者へのワクチン接種を7月末までに終えることとし、また、6月から高齢者以外の国民に対しても企業等による職場接種が一部で開始されるという報道(6月1日現在)がされています。各地で緊急事態宣言が発令・継続される中、接種を希望する国民全員がワクチン接種を終え、以前のような生活に戻れる日は、いつになるのでしょうか。
 ただ、今はその日を夢見て静かに待つことにしましょう。( 泉代洋一)

瀬戸内海放浪記(堀内龍也)

 会員の皆様、いかがお過ごしでしょうか。コロナ禍において皆様にお目にかかる機会も皆無となってしまい、さみしい限りではありますが、とりあえずワクチン接種が進み、世の中に平穏な日々が訪れることを願って止まない今日この頃です。
 もう2年前くらいのことになってしまいましたが、早くあの頃のような平穏な日々に戻らないかという思いを巡らせつつ、当時の出来事を振り返ってみたいと思います。
私は、法務局在職中からセーリングを趣味としていましたが、現職中は夏休みを利用してもせいぜい1週間の連続休暇を取得するのがやっとで、リタイアし自由な時間ができたら思う存分クルージングに時間を費やしてやろうと考えておりました。世界一周は体力的にも経済的にも厳しいので、せめて南太平洋周遊か地中海一周など出来ないかと夢見ておりました。ところが現実には3月に退職、7月に公証人任命と夢の実現はまだまだ先のようですので、公証人になるための勉強でもしておこうと思った矢先に、同じヨットを趣味としている名古屋局勤務時代の先輩で先にリタイアしていたK氏から退職したなら気分転換のつもりで一ヶ月くらい瀬戸内海沿岸を周遊してみないかとのお誘いを受け、二つ返事で出かけてきましたので、その航海日誌から行程と印象に残った出来事を書きしるしてみたいと思います。

 まず旅のコンセプトですが、
※ 艇はK氏所有の愛知県常滑市に係留している32フィートのヨットを利用する。(自分の共同所有している艇は神奈川県の三崎に係留しているので瀬戸内海へは遠い)。
※ 紀伊半島を回り瀬戸内海に入り可能であれば大分県の別府あたりまで足を延ばし温泉でゆっくりしてから帰路につく、時間的余裕があれば復路は四国の南側を回る。
※ 風まかせなので予め目的地は限定せずに臨機応変に翌日の目的地を決める。
※ 経費は飲み代に充てるため宿泊は旅館等を使わず節約し船中泊とする。
※ 朝・昼飯は自炊を原則とするが、夕食は現地の旨い食と酒を堪能する。
※ 航海は決して無理をせず、午前5時起床で遅くとも午前6時には出港し、出来るだけ次の目的地には正午前後に到着し、到着地で観光等を楽しむ。
といったお気軽な構想で出発したものです。とはいえ3月まで大阪局に勤務しておりましたので、赴任先公証役場のある群馬県太田市に住居を借りて引っ越しや各種手続を済ませ、航海の準備となかなか思うように作業が進まず当初は4月の中旬の出発予定でしたが4月22日の出港となってしまいました。

1.知多半島常滑から徳島県伊島まで
 4月21日午後に愛知県入りし、早速、前夜祭と称して港近くのホルモン屋で深酒し、二日酔いも覚めきらない22日の早朝に中部国際空港近くの「常滑」を出港しました。ヨットには30馬力程度のディーゼルエンジンも付いておりますが、そのスピードは平均5~6ノット程度(自転車程度)ですので、1日の移動距離は100km程度といったところです。初日の寄港地は三重県志摩市の「名切漁港」、2日目は尾鷲市の「三木浦港」、そして3日目にしてようやく本州最南端の「串本港」に入港できました。着岸してから最初にやることは晩飯と風呂の確保です。幸い串本には居酒屋や温泉がありますので、「松寿司」で石鯛・カンパチ・鰹料理を堪能させていただきました。その後、潮岬や南紀白浜を抜け、北上し4日目は和歌山県の「田辺港」に入港しました。翌日は和歌山マリーナシティを目指して出港したものの真向かいからの風で艇速が上がらず諦めて田辺港に引き返すこととなりました。そして翌日も強い北風が変わりませんでしたので、少しでも瀬戸内海に近づくために6日目は徳島県阿南市沖の「伊島」に入港しました。伊島は四国最東端の島で人口180人程の小さな島で自動車も走っていない自然豊かな島ですが、水不足にもかかわらず快くシャワーを使わせてくれるような人情味あふれる島でした。
紀伊半島は日本最大の半島だという認識はありましたが、1週間かけて沿岸を航海し、あらためてその大きさを実感することになりました。

2.小鳴門海峡から宮島まで
 7日目にしていよいよ瀬戸内海入りです。伊島を早朝に出港し淡路島と徳島を結ぶ大鳴門橋の手前を左折し、小鳴門海峡を抜け瀬戸内海に入りました。うず潮で有名な大鳴門は帰路の楽しみに取っておき、一度は訪れてみたかったマニアックな狭水路である小鳴門海峡を抜け、徳島県の「きたなだ海の駅」に着岸しました。北灘は天然ものの真鯛で有名な漁港です。こちらでは思う存分、真鯛を堪能させていただきました。8日目は小豆島の東側をすり抜け岡山県の「牛窓ヨットハーバー」に入港です。こちらのヨットハーバーも素晴らしいロケーションで関東のヨット乗りには憧れの場所ですので平成最後となる4月30日も素晴らしい1日となりました。
 明けて航海9日目は5月1日、本日から“令和”という新しい時代が始まりです。風まかせの旅ではありますが、この日ばかりは目的地を決めておりました。行き先は香川県の多度津です。瀬戸大橋を抜け「たどつ金比羅海の駅」に着岸しました。多度津駅から琴平駅まで鉄道で移動し参道の石畳を抜け785段の長~い石段を登り、海の神様「金刀比羅宮」に航海安全祈願です。漁師さんの船で見かける「丸金マークの黄旗」と「航海安全御札」もいただき、令和の初日も良いスタートが切れました。多度津は丸亀からも近く讃岐うどんのメッカですので翌朝は朝6時から開店している港近くのうどん店で朝うどんしてからの出港です。10日目は広島県福山市にあり瀬戸内海のほぼ中央にある景勝地の「鞆の浦」を海上から見学して「弓削島日比港」に入港です。弓削島は広島県尾道市の因島の南東側に位置する島ですが愛媛県に属する島のようです。石灰岩の山の頂にある「フェスパ」という素晴らしく眺望の良い施設でお風呂と夕食いただくことが出来ました。11日目は弓削島からしまなみ海道沿いをさらに西に進み、伯方島と大三島の間にある「鼻栗瀬戸」や呉市と倉掛島の間にある「音戸の瀬戸」といった狭い水路を抜け旧海軍兵学校のあった広島県江田島にある「沖ノ島マリーナ」に入港しました。この港には近くに飲食店がなく、久しぶりの自炊となりましたが、横浜から持参した大量の真空パックのシウマイや積み込んだ缶詰類でそれなりに豪華な晩酌となりました。
 翌12日目は江田島の隣にある厳島に向かい厳島神社の鳥居を海側から参拝しました。
宮島には何回か訪れたことがありましたがヨットでの訪問は初めてでしたので感慨ひとしおでした。その後、広島市の「五日市メープルマリーナ」に入港しました。こちらは700隻を超えるプレジャーボートが停泊する大きな港で周辺には温泉施設やお好み焼き屋が連なっており我々には理想的な環境が整っており、広島焼きで大いに深酒してしまいました。
 ここまで来ればもう一息で大分県の姫島→ゴールの別府温泉と行きたかったのですが、6月からの公証役場での修行のことを考えると5月の中旬には常滑に帰港しないとなりません。そこでこれ以上の西行きを諦め、ここからは東進しながら瀬戸内海を楽しむことにしました。

3.広島から和歌山まで
 13日目は広島から目の前を横切る自衛隊の潜水艦などを眺めながら呉の軍港巡りを行いそのまま60マイル走り再び弓削島の「弓削島海の駅」に着岸です。こちらはコインシャワーや居酒屋もありますので、着岸と同時に居酒屋に駆け込み、とりあえずの生ビールです。翌14日目は連れ潮に乗り8ノットオーバーの艇速で70マイル先の「小豆島海の駅」に着岸です。その晩は海の駅近くにある夕日が絶景の国民宿舎でお風呂と夕食をいただき、翌日はレンタカーを借りて島内観光を行いました。小豆島はオリーブ公園や二十四の瞳映画村、絶景の寒霞渓など見所が満載で1日では回りきれず連泊することとなりました。15日目はヨット仲間に紹介された隠れ家的な焼き肉店「道草」でこれでもかというくらいの焼き肉を堪能しました。
 翌16日目はいよいよ瀬戸内海ともお別れです。大鳴門橋を抜け和歌山を目指します。大鳴門では海賊船の形をした遊覧船に混じり川の流れのように早いうず潮を見学しながら「和歌山マリーナシティ」に着岸しました。和歌山マリーナシティはバブル期の建設された人工島にあるリゾートマンション併設型のマリーナですが黒潮市場や黒潮温泉といった観光施設が充実しているため閑散としているのがもったいないくらいの良い港でした。

4.和歌山から常滑まで
 翌17日目は南下して田辺の「シータイガー」で一泊し、翌18日目には潮岬を抜け串本港に入港。そして翌19日目に最後の楽しみ「那智勝浦」に入港しました。ここはご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、生本マグロの水揚げが多い所でホテル浦島の洞窟風呂で一風呂浴びてから和歌山局勤務時代にお世話になったマグロ料理の「桂城」でマグロのフルコースを堪能しました。
 生マグロの魅力から離れられず翌20日目も勝浦に連泊して昼夜、昼夜と4回マグロ三昧を繰り返してしまいました。翌21日目はそろそろ帰還しないとまずいので、紀伊半島東側を北上し三重県南伊勢町の「VOC志摩ヨットハーバー」に入港しました。こちらは志摩五ヶ所湾の入り江の奥にある静かな港です。このクルージングも最終盤ということで翌22日目は三重県鳥羽市沖にある「答志島」に向かいます。途中風も弱いのでエンジンで走っていたところ突然のスピードダウン。確認すると海面近くに浮いていた海藻をスクリューが巻き込んだようです。海水浴には少し早い時期でしたが潜って船底を見ると巻き付いた海藻がバスケットボールくらいの大きさになっていましたので1時間くらいナイフで海藻と格闘し、どうにか答志島に着岸しました。こちらは以前名古屋勤務の頃に何度か訪ねたことのある島ですのでいつもの「大春鮨」で大将におまかせコースをお願いし最後の1泊を堪能しました。翌23日目の5月11日は伊勢湾に入港する自動車運搬船や貨物船と併走しながら知多半島を北上し無事に母港の「常滑」に帰港することができました。
 長かったようでも終わってしまえばあっという間の23日間でしたが私にとっては法務局生活と公証人生活の一つの節目として非常に有意義な時間を過ごせたと感じている次第です。まもなく公証人を拝命して2年が経過しようとしておりますが、最初の6月間は先輩公証人や会員の皆様方に直接お会いしてご指導ご鞭撻を賜る機会にも恵まれましたが、その後の1年半はコロナ禍に陥り、ただただ役場と赴任先アパートの往復というさみしい日々を過ごしております。1日も早くこの状況が回復し自由にクルージングに出たり、皆様方と懇親できる日々が訪れることを願って止まないところです。(堀内龍也)

実務の広場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.87 事件管理カードについて(中西俊平)

 公証人に任命され,やがて8年目に突入する。
7年間継続して工夫を行ってきたことといえば,公正証書作成にかかる相談・受付から原案作成・証書作成・署名押印・保存までの嘱託事件管理のための「管理カード」を修正・整理してきたことくらいしか思い浮かばない。
先輩公証人の事務所を行脚し,処理の方法や使用する資料のデータをいただき,これらを基にして前任公証人から引き継いだものに改良等を重ね現在に至っているものである。どこの役場においても同様の相談票や管理票を作成しておられると承知しているが,これらの様式等について規定があるわけではないので,他の役場の手法を知った上で,それぞれの役場の実情にあったものを備えることが肝要と思われる。
 そこで,当役場で使用している管理カードをご紹介し,参考に供することとしたい。
1 作成している管理カードの種類等
  現在は,以下の11種類によって事務処理をしている。
 (1) 遺言管理カード -別紙1(編注:省略)
 (2) 離婚等管理カード -別紙2(同上)
 (3) 後見契約等管理カード -別紙3(同上)
 (4) 尊厳死宣言(終末医療等に関する宣言)管理カード -別紙4(同上)
 (5) 賃貸借契約管理カード -別紙5(同上)
 (6) 金銭消費貸借等管理カード -別紙6(同上)
 (7) 保証意思宣明管理カード -別紙7(同上)
 (8) 信託契約管理カード -別紙8(同上)
 (9) 規約設定管理カード -別紙9(同上)
 (10) 事実実験管理カード -別紙10(同上)
 (11) その他の契約管理カード -別紙11(同上)
2 作成に留意している事項
 (1) 管理カードは,1枚で一覧性があること(1枚に固執した)。
 (2) 相談・受付から証書作成・保管までこれのみで対応できること。
 (3) 書記とも共有可能であること。
 (4) 事後の証拠としての補助資料としても活用可能であること。
 (5) 嘱託人からの不足書類や手数料の照会に対して,誰でも迅速に対応することができること。
 (6) 証書作成時(例えば遺言であれば口授の際)に,公証人のための資料として活用可能であること。
 (7) 適法性等のチェックも可能であること(借地権等-別紙5 編注:省略)
3 具体的には
 遺言公正証書の作成を具体例として,別紙1(遺言管理カード、編注:省略)を中心にして,処理の流れを説明 すると以下のとおりである。ご覧いただければご理解いただけると思うが念のため。
 (1) 受付1・・・基本的事項の確定
  ①嘱託人(遺言者)の特定・・・本人に朱枠部分を記載させる。
⇒署名能力と基礎的な認知能力を判断
⇒過去の遺言との関係の考慮
  ②立会証人の確定
  ③出張の場合の緊急性と場所・本人の状態の確認(現在は新型コロナ感染防止対策で病院・施設はそれぞれ対応に差異があるのでこれの確認を含む。)
 (2) 受付2:必要書類と身分関係の確認
⇒必要書類の提出の有無を確認し,チェック・・・提出済み書類と不足書類が即座に確認できる。
⇒親族関係の確認
遺言者本人又は依頼者と面談しながら親族関係図を記載,かつ,財産の種類等を記載する。
 なお,親族関係図中の受遺者には①,②,③・・・を付記して作成している。
⇒遺言内容の確定
 遺言内容が,例えば「①の長男に全部,予備的に③の孫に全部」であれば,空白部分に「①に全部→③に全部」と記載して遺言内容を特定。下部の手数料計算欄の①,②,③・・・と一致させ,各法律行為の額を明確にする。
その他、必要事項(祭祀主宰者・遺言執行者等)を記入。
⇒証書作成日(署名日)が決まれば記載。
 (3) 証書原案作成
 公証人:前記遺言内容・添付資料・戸籍謄本等によって証書原案を作成するとともに,手数料を計算。
書記:前記原案について,管理カード・添付書類等の記載を確認しながら,誤植・脱字等のチェック。
 (4) 証書作成日(署名日)前の準備
 書記:前記原案に基づき,証書原本・正本・謄本案を作成。再度字句等についてチェック。手数料計算欄に基づき計算書作成。
 証書番号を証書原簿により付番し,証書番号に記載。
 手数料の連絡を要するときは,連絡したことを記録。
 (5) 証書作成日
 公証人:公証人は管理カードを基礎として,人定質問(住所・氏名・生年月日・年齢・干支)を行い,加えて,親族関係図によって配偶者や子ども・孫の氏名を陳述させる。
 その後に,遺言の趣旨を口授させる。
 (6) 保存
 公正証書原本に合綴してはいないが,遺言者本人が直接訪れたか否か,遺言内容とその理由は何だったかなどは,管理カードで明らかになる可能性もあり,また,連絡先も記載されているので,将来の訴訟や不測の事態に備えて,年別・証書番号順に別綴りとして保管している。
4 公証人に任命された以降の嘱託事件の全てについて受付票又は管理カードとして保管しているが,改めて見てみると,当初は5種類程度であった。必要を感じる都度,あるいは法改正される度に改良し,又は新たに作成し,現在は前記の11種類で処理している。今のところ,不足は感じていない。
 以上、取留めもない紹介になりましたが,少しでも参考にしていただければ幸いです。(中西俊平)

No.88 ALS患者の遺言作成について
(重度障害者用意思伝達装置を使用した事例)(小山健治)

1 はじめに
 筋萎縮性側索硬化症(以下「ALS」という。)は、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく病気ですが、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害を受け、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていく一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通と言われている難病です。
 今回の事例は、手足を動かすことも言葉を発することもできないALS患者から、重度障害者用意思伝達装置(以下「意思伝達装置」という。)を用いれば、本人の意思を伝達することができるとして、遺言公正証書作成の依頼を受けたものです。

2 意思伝達装置について
 このようなALS患者等の意思を伝達するために、厚生労働省において「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドラインが示されており、そこに様々な装置の記載があります。
 今回の事例で遺言者本人が使用する意思伝達装置は、Miyasukuというソフトウェアをパソコンにインストールしたもので、その機能は、①パソコン上に現れるキーボード状のカタカナを、使用者が視線によって特定し、②パソコン上に文字列を表示する視線検出入力装置と言われる形式で、漢字変換も可能であり、また、③パソコン上の文字列をパソコン自体に発音させる(読み上げる)ことができるもので、さらに、④通信機能も付加されているため、メール等により、外部の者とのコミュニケーションも図ることができるというものです。しかし、プリンターは、日常的に必要でなく設置していないため、パソコン上の文字を紙に打ち出すことはできない状態でした。
 当初、相談に来所したのは、遺言者の妻でしたが、当役場のメールアドレスをお伝えしたところ、遺言者本人がメールにより意思伝達装置の機能の説明をしてくれ、公正証書作成の日程調整、病室への入室の手順等についても遺言者本人とのメールのやりとりで、進めることができました。

3 遺言者の意思の確認方法の検討について
 公正証書遺言の作成において公証人は、遺言者の口授などにより、遺言者から遺言趣旨・内容の伝達を受けることが必須ですが、この方法について、以下の3つの方法を検討しました。
① パソコンに遺言者が入力した文字を音声として発音する機能があるため、これを公証人が聞き取り、民法第969条第2号の「口授」とする方法
② パソコンに遺言者が入力した文字を通訳人が読み上げることにより、民 法第969条の2第1項の「通訳人による通訳による申述」として「口授」に代える方法
③ パソコンに遺言者が入力した文字を公証人が確認し、これを民法第96 9条の2第1項の「自書」として、「口授」に代える方法

 ①については、遺言者は口がきけない状態であり、パソコンに遺言者が入力した文字を意思伝達装置の機能として音声として発話することができるとしても、遺言者本人が発声したものではないため、これを「口授」とすることは難しいのではないかと考え、この方法は断念しました。
 ②の通訳人の通訳により申述させる方法については、過去の事例等も参考に、これが確実な方法ではないかと考えました。この場合、通訳人には、意思伝達装置に詳しい者が、確かに遺言者本人がパソコンに入力していることを確認することが重要であると考えられたため、遺言者に通訳人に適している者の有無を確認したところ、病院で看護又は介助を担当している者であれば、通訳人に適していると思われるが、病院関係者は自らの業務外の事柄については、引き受けてくれない旨(実際に病院側に依頼してもらった結果)の回答があり、また、病院外で今回の通訳人に適している者を探すことは難しく、仮に適した者がいた場合でも、現在の新型コロナウイルスに対する病院側の警戒体制から、病室に入る者は必要最小限にしてほしい旨の要請があり、難しいのではないかとの連絡があり、通訳人の通訳による申述以外の方法を考えざるを得ない状況となりました。
 ③の遺言者がパソコンに入力した文字を、遺言者の自書とすることの是非については、以下のように検討しました。
 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合の「自書」は、民法第968条の自筆証書によって遺言をする場合の自書と違い、公証人及び証人の前で、遺言者が遺言の趣旨を伝達するための自書であり、いわゆる筆談と捉えることが可能であることから、遺言者が実際に筆記用具を使用して自ら手書きするだけではなく、ワープロを使用して打ち出した場合も自書に準じるものとしてよいとされています(公証126号294ページ)。
 ところで、ワープロやパソコンに遺言者がそのキーボードを自らの手で操作して入力するのであれば、入力する際の手の動きを公証人及び証人が直接見ることによって、遺言者本人が入力していることを確認できます。しかし、今回のように視線による入力の場合には、それができないため、これに代えて公証人が、遺言内容とは直接関係がなく事前に遺言者に伝えていない質問をし、その回答としてパソコン上に表示された文字を確認し、遺言者が視線入力の方法により意思伝達装置を使って表示させたものであること確認する方法を採ることにしました。
 また、紙に遺言内容を自書した場合には、その紙が残りますし、パソコンの画面をプリントアウトできれば、プリントアウトした紙を証拠書類として残せますが、今回の事例では、プリントアウトができないため、パソコン画面をカメラで撮影して、その写真をプリントアウトして、公正証書の附属書類として保管し、遺言者が自書した遺言内容の証拠書類とすることにしました。

4 事前の準備等について
 遺言者の意思能力等の確認については、遺言者の使用する意思伝達装置により確かに遺言者の意思が確認できるのかという疑問もあり、事前に遺言者に面談し、意思伝達装置を使用しているところを確認したいと考えましたが、病院側の新型コロナウイルス対策によりできなかったため、これに代わる方法として、担当医師に対し、遺言者の病状や意思伝達の方法、意思能力等を照会し、遺言者に意思能力があり、パソコンで意思伝達可能との回答(別紙1、編注:省略)が得られたので、これを一つの資料としました。
 このほかに新型コロナウイルス感染防止のため、病院側から来院1週間以内に県外に出ないこと、体調を十分管理すること等の要請があり、また、当日来院する公証人及び証人2名の住所、氏名、勤務先等の調査に回答する必要がありました。また、遺言公正証書作成時間は10分程度にするよう要請がありましたが、これはお約束できないと回答しました。
 また、遺言内容については、全ての財産を妻に相続させ、遺言執行者にも妻を指定するというシンプルなものでしたので、遺言案を遺言者にメールで送り事前に了承をもらいました。
 メールでの遺言者との連絡は、難病とは思えないほどしっかりしており、また、意思伝達装置であるパソコンを使用し、インターネットを介して投資も行っているとのことでした。

5 遺言公正証書の作成等について
 作成の当日は、遺言者の妻も入院病棟へは入れないため、遺言者の妻とは病院の駐車場で待ち合わせ、その後、私と証人2名の計3名のみで病院の受付から入院病棟に案内されると、使い捨てのフェイスシールドを貸与され、それを着用して、病室に入りました。
 遺言者はベッドに上半身をやや起こした状態で寝ており、顔から約50㎝程度離れた位置にパソコンの画面があり、公証人と証人1名は、遺言者の顔とパソコンの画面を直接見ることのできる位置にいることができました。
 パソコンの画面は下半分にキーボード状の文字列が並び、遺言者が視線を動かすと文字列のキーの色が濃くなることで、遺言者がどの文字を見ているのか確認できるものでした(別紙2、編注:省略)。
 また、遺言者がキーを目視し、文字を確定すると、その文字がパソコン画面の上半分に表示され、キーボードの発話キーを目視すると、パソコン上に現れた文字列をパソコンが音声として読み上げる機能が付いていました。
 画面を直接見ることのできない証人1名については、パソコンの発話を聞くとともに、最後に、公証人がパソコン画面を写真撮影し、その写真の文字をその証人が見て確認することとしました。
 遺言公正証書の作成の応対は、①遺言者の本人確認、②遺言内容と直接関係のない質問に対する回答により遺言者本人がパソコン入力していることを確認、③遺言者による遺言内容のパソコンを使用した自書(公証人と遺言者の問答の形式)、④自書内容が、公証人が事前に用意した遺言公正証書案どおりであることの確認、⑤遺言公正証書案の読み聞かせ及び閲覧、⑥遺言者による遺言公正証書作成の可否の判断、⑦遺言公正証書原本への署名・押印(遺言者については、公証人が代署、代印)という順番で行い、最後に遺言者が入力したパソコン上の文字を写真撮影し、所要時間は40分程度で終了しました。
 ここで失敗したことは、①及び②の問答の際に、パソコン画面に表示された文字列が順次消えていくことに気づいた時はすでに文字が消えた後だったことで、それからは、画面に表示した文字は残すよう依頼したため、③以降に遺言者が入力した文字は画面に残り、それを写真撮影することできました。
 遺言公正証書は、通常の冒頭部分の「遺言者の遺言の趣旨の口述を筆記して」を「遺言者は口がきけないため、重度障害者用意思伝達装置付パソコンを使って自書した遺言の趣旨を筆記して」と記載し、本旨外要件の証書作成部分を「この証書は、民法第969条第1号ないし第4号まで及び第969条の2第1項に掲げる方式に従い作成し、同法第969条第5号及び第969条の2第3項に基づき本公証人が次に署名押印するものである。」として、作成しました。
 また、遺言公正証書の附属書類として、遺言者の入力した文字のパソコン画面を撮影した写真を証拠書類としましたが、パソコン画面上には、遺言者の入力した文字しか現れないため、公証人が質問した事項と遺言者が入力した文字を一覧できるよう問答を記載したメモを作成し、末尾に公証人の職印を押印したものも附属書類としました(別紙3、編注:省略)。

6 おわりに
 今回のALS患者の遺言公正証書作成を終えて、医療機器の発展の早さに驚くと共に、こうした機器を使用することで、意思の伝達が比較的スムーズに行えることが分かりました。
 本稿が、ALS患者等の遺言公正証書作成嘱託に応えるための一助になれば幸いと考えています。
 また、今回の作成にあたり、本誌No.27(平成29年6月号)12ページ、実務の広場No.51を参考にするとともに、多くの先輩公証人の皆様から多大なご指導をいただきました、紙面をお借りして厚く御礼申し上げます。  (小山健治)

前号(No.49)の訂正

 民事法情報研究会だよりNo.49に掲載のNo.86実務の広場「借地に関する、ある相談事例から」の26ページのなお書きを以下のとおり訂正します。
 「なお、この契約を法第23条第1項の事業用定期借地権として、当初30年の存続期間を定めていた場合には、変更契約により、その存続期間を10年延長して40年にすることができます。ただし、変更契約も当初の契約時の適用条項の範囲内となりますから、当初の存続期間の始期から通算50年未満までの範囲内となります(設定ではないので、公正証書によらなくても可能ですが、金銭債権の強制執行を視野に入れるときは公正証書によることが必要となります。)。」

民事法情報研究会だよりNo.49(令和3年4月)

 春暖の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 今年は、桜の開花が例年よりかなり早いようです。すでに満開の時期を終え、葉桜になっている地域もあれば、これから見頃を迎える地域もあると思いますが、マスクを着用し歓声なしで楽しむほかないのが残念です。
 新型コロナウィルスも変異体の増加などが懸念材料となっていますが、いまだに数だけの発表では、どういった行動が感染の拡大を招いているのか等について、エビデンスを示してほしいと思ってしまいます。(YF)

今日この頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

旭川公証人合同役場における新型コロナ対策について(千葉和信)

 今日(令和3年1月26日)、旭川厚生病院(新型コロナウィルス感染の国内最大規模となる311人のクラスターが発生した病院)が、クラスターの終息宣言を行いました。多くの職員が感染し、人手不足に陥る中、濃厚接触者となった職員を働かせたことなどが感染拡大の一因となったようです。
 これを機会に、当公証役場における新型コロナ対策を紹介しようと思います。
1 はじめに
 昨年11月から北海道上川管内で旭川市を中心に猛威を振るった新型コロナの感染は、12月末以降、落ち着き、一時は逼迫した旭川市の病床使用率も19%(令和3年1月9日現在(北海道新聞調べ))に低下しています。深刻な状況を脱したようにも思えますが、気の緩みが再度の感染拡大を招きかねないので、十分に気をつける必要があります。
 旭川管内の感染者は、11月から12月にかけてクラスターが9件相次いだことで急増し、12月8日と同12日は過去最多の51人に上りました。
 旭川市の感染状況は、全国ニュースのトップとして扱われ、コロナ感染拡大で旭川市が有名となり、知り合いの公証人から心配の電話を多数いただきました。
 このころは、正直、コロナ感染の不安を覚え、札幌や東京からの来所者もある中で、非常に緊張しながら勤務していました。
2 新型コロナ感染対策
 昨年4月の緊急事態宣言以降、可能な限りの感染対策を行ってきましたので、当役場が実施している具体的な感染対策を紹介させていただきます。
 ⑴ 周知・広報など
   ①  役場入り口への張り紙
     当公証役場は、6階建てビルの5階にあります。公証役場のエレベーターの降り場及び役場の入り口のドアに「新型コロナウィルス感染症に対する対応について」と題する周知文書を貼り付けました。
 周知文書の内容は、次のとおりです。
・ 入室の際には、除菌スプレーを使用してください。
・ 事務室内スペースの間隔を確保するため、来所するときは、必要最小限の人数でお越しください。
・ ご来所の際は、マスクの着用をお願いします。
・ 利用者の入れ替えごとに、除菌クリーナーによる除菌と換気をさせていただきますので、あらかじめご了承ください。
・ ほかの利用者と接触する機会を極力減らすため、ご予約のお時間をお守りいただくようお願いいたします(早く到着されないよう、お時間の調整をお願いします。)。
・ 出張による遺言作成等は、病院、老人ホーム等、外部からの面会を禁止しているところも多く、緊急事態宣言発令中は、対応できない場合がありますので、あらかじめご了承ください。
  ② 説明会の中止
 当役場では、毎年、数か所において、公証制度をはじめ、遺言、任意後見制度などの周知を図るため、講演会や説明会を実施していますが、令和2年については、すべて中止としました。
 ⑵ 完全予約制による密集の緩和や対面機会の減少
  ① 予約制の徹底
 予約制を徹底し、事務室内が密にならないようにしています。突然の飛び込みの利用者には、次は必ず予約の上来所するように案内をしています。
  ② メールの活用
 離婚給付契約については、当事者のほとんどが、若い世代の者たちであることから、公証役場のホームページを案内し、当役場のメールアドレスを案内して、メールを活用して、必要な情報や公正証書の案文などのやりとりをしています。
 これまでは、来所していただいた上で、相談や公正証書の案文を確認してもらっていたので、来所者は激減しています。また、利用者は、いちいち来所しなくて済むので、好評を得ています。
  ③ 郵便の活用
 一方、遺言については、お年寄りが多いことから、公正証書の作成については、原則として、郵便でのやりとりを行い、公正証書を作成する際にだけ来所する方式に改めています。
  ④ スケジュール管理ソフトの活用
 公証人と書記との間で、スケジュールの共有ソフト(フリーソフトのGroupWatcher)を利用しています。
 このソフトは、フリーソフトでありながらNASシステムに入れておくことで、全員で利用することが可能となる優れものです。
 また、来所する利用者については、スケジュールソフトの備考欄に必ず連絡先の電話番号を記録しています。こうすることによって、万が一、公証役場の職員が新型コロナに感染したり、濃厚接触者になったりして、役場を閉鎖しなければならなくなった場合には、利用者に連絡を入れることが可能となります。
 さらに、厚生労働省が提供している接触アプリケーション(COCOA)にも登録し、毎日、陽性者との接触を確認していますが、「陽性者との接触は確認されませんでした」と表示され安堵しています。
 ⑶ 換気・マスク着用・消毒
  ① 換気の徹底
 事務室内の換気は、新型コロナへの最良の感染防止対策になると考えております。利用者が帰られた後には、必ず、事務室内の空気の入れ換えを行っています。ただ、旭川の真冬は、日中でも最高気温がマイナス気温(真冬日)となることがほとんどであり、時には、日中の最高気温がマイナス10度ということもあります。せっかく暖まった事務室内ですが、感染予防のために、利用者が帰った後は、必ず空気の入れ換えを行っていますが、暖まった室内の気温が一瞬にして、冷やされることになります。事務室内には冷気が入ってきて、しばらくはダウンのオーバーを着ながら仕事をしている職員もおります。
  ② マスク着用
 職員は、必ずマスクを着用し、マスクを着用しないで来所した利用者には、不織布マスクを差し上げております。下図(略)のマスクの効果にあるように、布マスクは、来所者がいない事務室内で仕事をするときに、来所者があるときや出張で遺言を作成する場合は、不織布マスクに取り替えてと、工夫をしながら着用しています。
  ③ 消毒
 事務室内のカウンターには、手を差し伸べれば自動的に消毒液が噴霧される非接触式手指消毒機を置いています。非接触型ですので、利用者には好評です。
 また、ドアノブ、エレベーターのボタン、ソファや椅子については、利用者が帰られた都度、除菌剤を噴霧して拭き取ることを励行しています。
 ⑷ 健康状態の把握
 公証人が、毎日、自分を含め職員の体温を、非接触型の体温器で測っています。
 また、当初は、なかなか踏み切れなかったものの、今では、利用者についても手指の除菌を案内し、この非接触型の体温器で体温測定を行っています。市内の飲食店では、当たり前になっていることであり、皆さん、協力的です。
 ⑸ シールドの設置・利用者との距離の確保
  ① 飛沫防止用パーティションの設置
 ある公証人から紹介してもらった段ボール製の飛沫防止パーテーションを相談机及び利用者が座るソファの前の机に設置しています。段ボール製なので非常に軽く、どこへでも移動ができます。1セット2500円で購入したものです。
 これとは別に、ビニールと木をホーマックなどで購入し、自作のパーティーションを作成して、公証人の机の上と窓口カウンターに設置しています。
  ② 携帯助聴器の活用
 利用者との距離を確保するため、公証人と利用者との距離を2メートル以上、確保するようにレイアウトを工夫しているものの、遺言者など高齢の方の中には、耳が遠くて、公証人の声が聞こえず遺言者の耳元でお話をしなければならないことがあります。
 このような時に威力を発揮するのが、携帯助聴器という電話の受話器のような機器です。この機器もある公証人に紹介していただいたものですが、イヤフォン型のように耳の中に入れるものではないので、清潔ですし、受話器のように耳にあてることで、公証人の声が大きくなって聞こえるものです。新型コロナ感染対策として活用しています。   これまで、何度か利用していますが、利用者にもとても好評です。
 出張の際にも必ず持参している機器です。
 ⑹ 空気清浄機、加湿器の設置
 1台の空気清浄機及び3台の加湿器をフル稼働させています。
 また、気休めかも知れませんが、仕事中は、首掛けタイプのポータブル空間除菌機や体温測定・血圧測定も可能なスマートウオッチをしています。
 ⑺ テレビ電話方式による電子定款認証の推進
 人と接触しないことが一番の新型コロナ感染対策であることから、テレビ電話方式による電子定款の認証手続(以下「テレビ電話方式」という。)を積極的に推進しています。旭川市内以外に在住する司法書士や行政書士(以下「司法書士等」という。)に対して、定款認証の依頼があった場合は、必ず、テレビ電話方式を案内しています。札幌や留萌、深川や富良野の司法書士等は、これまで公共交通機関や自家用自動車で、1時間から2時間もかけて公証役場に来所していました。特に、冬期間は吹雪などで、道路がホワイトアウトで多重事故が発生することもあって、公証役場に来所するにも命がけという状況です。テレビ電話方式は、リスク管理や時間短縮の面からもお勧めですとして案内をしています。旭川市内以外に在住する司法書士等にとっては、メリットが多く、一度、テレビ電話方式を経験した司法書士等は、次の定款認証は必ずテレビ電話方式を希望するようになりました。
3 最後に
 遺言書作成の依頼をしてきた行政書士が、遺言作成当日の朝、「濃厚接触者になったので、今日の遺言作成をキャンセルしたい」と連絡してきたり、遺言書作成のため何度も出張した冒頭の旭川厚生病院(患者様181名、職員及び関係者130名、計311名)や吉田病院(患者様136名、職員77名、計213名)でクラスターが発生するなど、新型コロナが非常に身近に感じ、いつ感染してもおかしくないという気持ちにもなりました。
 紹介しました感染対策は、すでに多くの公証役場でも行っていることかもしれませんが、引き続き、マスク着用、手洗い及び換気を励行しながら、利用者と公証役場で働く職員を守っていきたいと考えています。                          (千葉和信)

いきなり役場を移転するなんて(小山浩幸)

 令和2年5月22日、JR弘前駅を降りて、生まれて初めて弘前の地に足を踏み入れました。7月1日が就任予定日でしたので、本当はもう少し早く訪れて、有名な桜も観てみたかったのですが、当時は日本中が新型コロナに脅かされていたことから(今もそうですが)、移動制限という、じりじりした焦燥感の中、ようやく来訪を果たすことができました。
 駅からタクシーで十数分、弘前公証役場は、住宅街の一画にあり、1階が役場事務所、2階が住居の一戸建てになっていました。
 緊張の面持ちで挨拶を済ませると、早速、前任者から自家用車で岩木山の麓にある道の駅のようなところの喫茶店に案内いただきました。

 開口一番、「小山さんはあそこの役場で開業するつもりですか」と不思議なことを聞かれました。「もちろんです」と答えると、ポケットから紙を取り出され、そこには、現在の役場のメリットとデメリットの対照表が書かれていました。
 メリットは、弘前城が近く桜が楽しめることとスーパーやクリーニング店が近いという2点しかなく、デメリットは8点くらい書いてありました。いわく、交通の便が悪くお年寄りが一人で来られない、目標物がなく電話で案内するのが難しい、融雪装置がなく冬期間の除排雪に苦労する、木造なので火災が心配、役場入口に段差があり車椅子が通れない、飲み屋街まで遠い・・・等でした。最後の点はともかく、例えそうだとしても、それでどうすればいいのかといぶかしんでいると、「役場を移転してはどうですか」と、まさに青天の霹靂(青森産ブランド米)の一言。
 とっさに、「なるほど、状況はおおむね分かりました。ですが、何ぶん地理にも不案内ですので、少し落ち着いてから、候補を探すなどして前向きに検討します」と、見事な公務員トークで返答しました。ところが、「人間は腰を落ち着けると動けなくなる。移転するなら就任と同時がいい。新事務所は私が探してあげるから、小山さんは住むところを探しなさい」と、マスク越しの目がキラリと光り、「日公連と法務局には私から話を通しておくから」と言われては、うなずくしかありませんでした。

 その後、役場に戻って、公証事務のイロハを伝授いただきましたが、頭の中は役場移転のA to Zが渦巻いて、ほとんど覚えられませんでした。新潟の自宅に帰ってからも放心状態でしたが、前任者から移転の日程表や引越業者の見積もりを送っていただくうちに、ようやく気持ちが固まり、とにかく時間がないことから行動に移すことにしました。
 幸いにもネット社会。住まいはサイトで見つけて、仮契約を結び、6月12日に再び弘前に向かい、部屋を確認して、正式に借りることができました。
 同じ日、前任者と不動産業者と共に役場の候補地を見に行きました。2件用意していただきましたが、既に心づもりがあったらしく、私の承諾によって、弘前駅前のビルの一室を確保しました。自分でもネットでそれとなく探してみたときに検索で出てきた物件で、少し賃料が高いので無理だと思っていたのですが、相当値切り攻撃をしていただいたようで、サイトでの価格の4割引にしてもらえました(交渉人でもあったのかと)。

 現在の役場であるその物件は、駅から徒歩で3・4分と交通の便が良く、ヨーカドーさんの真向かいにあるため案内がしやすく、個人で除排雪をする必要がなく、堅固なビルで警備システムも万全、入口は段差なくエレベーターで7階の部屋まで来られる、飲み屋街に近い・・・等、最後の点はともかく、デメリットのほとんどが解消できるものでした。
 ただ、一つだけ誤算がありました。ビルは国内最大手の生命保険会社がオーナーで、担当者が言うには、賃貸借契約の決裁は本社扱いになり、最低1か月必要ですとのことでした。 つまり、就任と同時に移転することは叶わないことになり、翌8月初日をXデーにすることになりました。
 私は、この時、1か月でも余裕が生じたので、かえって良かったと内心では思いましたが、後日その間違いに気がつくのでした。

 7月1日の就任手続は青森地方法務局で行われ、私の公証人生活がスタートしました。これは、諸先輩の皆様の多くがそうであったかと思いますが、公証事務の手強さに、毎日が、毎時間が冷や汗の連続でした。つてにおすがりし、電話で照会させていただきながら何とかやり過ごしましたが、前任者が7月の半ばまで2階の居住室にいてくださったことが大いに助かりました。
 その後、「新しい役場での執務スタートを見られないのが残念だ」と言い残されるのをお見送りし、本当に一人になったわけですが、一人とはこういうことかと思い知らされることになります。
 その頃から、移転に伴う手続の電話が頻繁にかかって来るようになっていましたが、例えば電話の移設だけをとっても、NTTだけでなく、いろいろな関連会社から次々に問合せや書類の提出依頼が入り、専門用語の連発に、その都度確認が必要でした。
 組織にいたとき、庁舎の移転や引越は何度も経験してきましたが、一人ぼっちの公証人には、当たり前ですが、気鋭の会計課長も優秀な用度係長も付いていてはくれません。一方で、よちよち歩きで公証事務をこなし、一方で、移転のための準備をしなければならないという状態に翻弄される毎日で、この頃の記憶が今では少し曖昧になっています。もし、就任と移転が同時であったら、就任前は、前任者のお力添えをいただきながら移転準備をし、就任後は、移転した新しい役場で公証事務に専心することができたはずであり、忙殺されるような毎日は回避できたのではないかと思えてなりません。
 ともあれ、Xデーはやって来ました。本来、その週末は、弘前ねぷた祭りが予定されていて、駅前通りは通行止めになっていたはずなのですが、新型コロナの影響で中止になり、引越作業には何の支障もありませんでした。イベントはそういうものかもしれませんが、始まってしまえば、スケジュールにしたがって淡々と進み、夕方には全ての作業が完了しました。
 何も考えなくていいようにと、什器も含めて前の役場のレイアウトをそっくりそのまま移転するように依頼したので、違和感は最小限に抑えられ、ようやくスタートラインに立ったような気がしました。
 あれから数か月。新役場は利用者にも好評で、買い物ついでに相談にお越しになったり、降雪時も困らず、車椅子の老人も楽々案内できます。また、トイレ、流し台、ゴミ置き場等は共用スペースにあるため、廊下やドアも含めて個別に掃除をする必要がなく、大変助かっています。
 私自身も、公証事務は相変わらず冷や汗の連続ですが、環境にはすっかりなじんできたようです。過ぎてみれば、役場を移転して正解でした。
 いろいろと御助言と御支援を賜った方々に感謝をいたしつつ、新型コロナが沈静したら、近くなった飲み屋街を訪ね回ってみたいと思っている今日この頃です。(小山浩幸)

公証役場の事務所移転顛末記(泉本良二)

1 はじめに
 当役場は、令和2年2月に事務所を移転しました。
 移転の効果として、執務環境の改善、嘱託人の利便性の向上(主に、プライバシー保護とバリアフリー)等が実現できました。
 事務所移転して約1年が経過しましので、移転までの経緯と公証役場の今後の課題等について、報告させていただきます。
 なお、本稿は、単独役場だからこその事情(当職の決断で行動できる)や、個別案件が含まれていますので、これを前提に、参考にしていただければ幸いです。
2 移転前の事務所の状況
(1)旧役場の物理的・客観的な事情(問題点)
 当職は、平成28年7月に当役場に着任しました。着任前の引継ぎ及び着任当初の旧役場の印象は、簡単に言えば「狭い」「古い」というものでした。
 当役場の歴史をたどると、明治26年9月に設置され、旧役場のビルに事務所を置いたのは昭和49年3月です。なんと、約45年間いたことになります。
 旧役場は、立地条件こそJR丸亀駅から徒歩3分程度の便利な場所ですが、6階建ての建物は老朽化し(築50年程度)、エレベーターはあるものの、エレベーター手前(1階)に6段の階段があり、足の弱いお客様には極めて不親切な造りでした。特に、車イスの場合は、この階段が大きな障害です。1階にスロープを付けられれば良いのですが、玄関は狭くて、スロープを設置するスペースの余裕など、とてもありません。現在の建築基準法なら、こんな設計はあり得ないと思いますが、これが現実です。
 また、エレベーターで5階に着いても、狭い廊下を通って行くことになり、悪く言えば、健脚のお客様しか考えていないという構造でした。
 次に、事務室に入ると、書庫を含めて約57㎡というもので、待合の応接セットと公証人が応対する接客テーブルは一つの空間にあり、粗末なパーティションで隔てているだけで、もし、相談や読上げをしている際に、次のお客様がいると、プライバシー情報が筒抜けというありさまでした。
 書庫は、事務室の一角をコンクリートブロックの壁で区切ったもので、古くからの書類と物品が積め込まれた状態でした。
 駐車場は近隣に2台分を確保しているものの、離れているため「不便だ」「分かりにくい」とのご意見を受けることがしばしばでした。
(2)精神的・心理的な事情(問題点)
 上記(1)のような環境であったため、職員は、余裕のある接客ができない状況でした。
 例えば、相談や書類作成は予約制を基本としているものの、予約なし(飛込み)で来るお客様があり、重なった場合、職員は、先のお客様と新たなお客様の対応に振り回されることとなり、顧客サービスはおろそかにならざるを得ませんでした。
 また、電話が鳴れば、応対中の職員もお客様も気が散って(あるいは殺気立ち)、集中できない状態となっていました。
 稀にではあるものの、急ぎのお客様が「ちょっとでいいから、公証人と話したい」と言って、書記の応対を無視して(他のお客様も無視して)、勝手に公証人の前に来て、話し始めるという例がありました。
 もっと重大なことは、(1)で触れたとおり、プライバシー保護の配慮に著しく欠ける点です。遺言では、特定の相続人には絶対に財産をあげたくない理由を話す例や、離婚に伴う養育費では、離婚原因に話が及ぶ例など、極めてプライバシー性の高い会話が交わされることがあります。こんなときは、次のお客様に「廊下で待ってください」とお願いするか、大いに迷います。
 以上のような状況が毎日起きている訳ではありませんが、職員もお客様も、お互いに神経をすり減らす思いをすることがたびたびでした。
(3)移転の検討
 上記の問題点は、前任者においても悩みの種だったらしく、引継ぎの際には、多くの苦労話を聞くとともに、在職中に移転先を見つけられなかったことを悔やんでいました。
 当職は、その課題を引き継いだことになり、着任当時から移転の必要性は感じていました。
 しかし、「まずは、仕事を覚えてから」と思い、すぐに引越しを考える余裕はありませんでした。
 仕事がある程度軌道に乗ってから、休日に市内をさまよったり、仕事で接した不動産業者や司法書士等に相談したり、適当な物件を探していましたが、満足できるものが見つからず、たちまち2年が過ぎました。
 先輩公証人から「事務所移転を考えるなら、早いうちに決断しなさい。退職が近くなってからでは、決断できなくなる。」との忠告を受けていました。当職は「このままでは、先輩が言ったとおり、移転する気力がなくなってしまう」と焦っていました。
 そうしたところ、旧役場の隣の建物が、取壊しに向けて足場を組み始めたことに気がつきました。
 さっそく当職と書記で情報収集し、①取り壊して新ビルを建てるらしい、②新ビルは貸し事務所を考えているらしい、との情報を得て、新築ビルのオーナーA氏に入居を打診しました。
 A氏は「公証役場が入ってくれるんなら、大変ありがたい」との反応で、入居に向けての条件交渉等に移った次第です。
3 移転の交渉と準備
(1)オーナーとの交渉、設計会社との交渉
 隣に引っ越すなら、お客様の混乱は最小限になる。新築なら、設計段階から理想の公証役場作りに意見を言える。この点は、うってつけの話と思いました。
 ここから先、公証人は、交渉をする人に変わりました。
 当職は、個人情報に対する意識の高揚、高齢化社会の進展に伴うフリーアクセスの必要性の高まりを考え、さらなる利用者のサービス向上のために、①プライバシーの保護と②足の弱いお客様に優しい事務所作りという目標を柱にして、A氏と話をしました。A氏は、快く応対し、新ビルの1階に当役場が入ること、希望面積の約80㎡(従前の約1.4倍)を確保すること、ビル前の駐車場3台分を当役場に確保すること等について、気持ちよく了承を得ました。
 しかし、設計会社との交渉は、難航しました。
 最初に示された設計図は、玄関前にスロープはあるものの、曲がりくねった動線となっているなど、玄関の配置がどうしても納得できません。
 その旨を設計担当者Bに話すと、苦い顔で「無理です、ダメです」との返事でした。
 さもありなん。
 当職は入居者の立場であって、入居部分の構造・配置等についての要望ならともかく、玄関の設計に口を出すなんて、当職が考えても、立場をわきまえない発言と思われても仕方がありません。当職の要望は、スロープだけでなく、エレベーターの位置変更にも及んでいたからです。1階の入居者がエレベーターを使うはずはなく、余計な発言です。でも、ここを直さないと車イスがスムーズに公証役場に入れません。引き下がる訳にいかなかったのです。それは、前記②足の弱いお客様に優しい事務所作りという目標達成に大きく影響します。
 でも、これ以上Bと議論しても仕方がないと考え、一度は引き下がる姿勢でお別れして、A氏と話をすることに腹を決めました。
 後日、A氏と面談し、Bとの話の概要を説明した上「これでは、私の重要な目標に届かず、引っ越す意味がなくなる。残念ですが、入居の申出は辞退します。」旨を告げました。これは、本気で諦める覚悟でした。しかし、そうはならないという計算はありました。
 さて、数日後、Bから電話があり「もう一度、話を聞きたい」との由。再度、Bと面談し、要望の内容と理由を熱く語りました。「持ち帰って検討する」との返事を得たものの「さて、どうなるか」と心配していたところ、改めて提示された設計図には、当職の要望が全て満たされていました。
 その結果、車イスがビル前の駐車場からスロープを通じて、ほとんどまっすぐに玄関・役場待合室・事務室へ入ることができるように工夫がされていました。
 当職は、Bに丁寧にお礼を言って、A氏にもお礼を伝えました。
 A氏とBとの間で、どんな話が交わされたかは、知りません。
(2)移転の費用等
 隣への引越しなので、トラックを調達する必要はなく、人海戦術で帳簿等を運びました。旧知の行政書士が手伝いに来てくれたり、出入りのメンテナンス業者の好意にも甘えました。節約できた部分はあったものの、多くの備品を新調したため、おおむね220万円はかかりました。細かい点は省略しますが、内装工事が大きな出費でした。
 移転に際して最も悩んだのは、原状回復です。
 約45年間いたことにより、相当な傷みがあります。経年変化の点はさておき、書庫の壁のコンクリートブロックを撤去するとなると、多くの費用がかかります。
 そこで、旧役場オーナー担当者に「このブロックは、いつ、誰が築いたのか」について、調査を依頼しました。公証人・オーナーのいずれが築いたかによって、撤去の義務・負担が変わってくるからです。調べてもらった結果は「あまりにも昔のことなので、分からない」とのことでした。
 当職は、やんわり「免除してほしいけど、どうします?」と下駄を預けると、検討結果は「そのままでいいです」となりました。
3 移転による効果
(1)お客様の印象
 移転した後、お客様から「分かりやすい」「入りやすくなった」「駐車場が目の前にあって便利」「身障者トイレはすごく立派」等の声を聞くほか、車イス利用の司法書士が新事務所を訪問した際、非常に喜ぶと同時に、褒めてくださり、これまでの苦労が報われたような気分でした。
 また、複数の士業者から「今だから言うけど、前はプライバシーの点で疑問だった。良くなった。」との声をいただきました。
(2)職員の印象(主に精神的効果)
 書記は、大いに喜んでいます。何より大きいのは、ストレスからの解放です。
 役場のドアを開けると、お客様は、まずは待合室に入り、書記は、待合室と事務室との壁に設けたガラス窓から接客が始まる形となっているため、事務室で対応中のお客様とは完全に空間が分断されています。
 これにより、新規のお客様には、用件を聞いた上で「お掛けになって、少しお待ちください」と言えば、不満を言われることはほとんどなく、プライバシー情報に神経をとがらせることも少なくなりました。
 偶然ですが、移転の直後にウイルス感染の懸念がクローズアップされ、ガラス窓を隔てての接客スタートは、時宜にかなったものとなっています。
 職員の健康管理・モチベーションにも大きな効果があると思われ、それが親切・丁寧な接客対応、間違いのない事務処理につながると期待しています。
4 終わりに(課題を含めて)
 新しい事務所は、完璧とまでは言えませんが、おかげさまで、プライバシーの保護と足の弱いお客様に優しい事務所作りという目標に、大きく近づくことができたと思っています。旧役場を知っていて、移転を知らなかったお客様から「来たらすぐ分かった」「前よりずっと良くなった」と言われると、決断して良かったと思います。ただし、箱物だけでなく、中身が重要ですので、更なるサービス改善を図っていきたいと考えています。
 移転前の準備と移転後の整理の期間は、通常事務と並行しての作業だったため、繁忙を極めました。でも、幸いなことに、多くの人から温かい支援を得て、大きな混乱なく移転できました。
 レイアウトなどの工夫については、先輩・同僚の事務所を見学させてもらい、また、親切かつ貴重なご意見を拝聴し、大いに参考とさせていただきました。
 この機会を借りて、厚くお礼申し上げます。
 お客様に満足感をもってもらうことの方策として、当職の掲げた目標は、どこの役場においても配慮すべき課題と思います。しかし、簡単に改善できるものでありません。
 公証事務を取り巻く環境が厳しくなりつつある昨今、現状の問題点を打開していく工夫は、絶えず検討していく必要があると思います。
 僭越な部分がありましたら、ご容赦願います。
 当職の経験が、少しでも参考になればと思います。(泉本良二)

実務の広場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.85 金利の見直しに伴う「保証意思宣明公正証書」作成の可否
    (鎌倉克彦)

 公証人に任命され、1年4か月を過ぎようとしていますが、毎日、業務に追われてバタバタしており、いつになったら諸先輩のように落ち着いてテキパキとこなせるようになるのかと嘆く日々です。
 さて、保証意思宣明公正証書が導入されて、令和3年4月で1年を迎えることとなりますが、この制度は、私が公証人に任命されて5か月後に施行されたものであり、任命早々に新しい仕事が増えることへの戸惑いを強く感じつつ、何とか最初の1件を処理したことが思い起こされます。
 当役場においては、制度導入当初は少ない嘱託件数で推移していましたが、最近になり、コロナ禍の影響もあるのか嘱託件数も多くなり、照会件数も増えている状況です。
 そのような中で、最近当役場において処理した案件について、以下のとおり報告します。

(事案の概要)
1 平成23年(西暦2011年)2月15日、金銭消費貸借契約(アパート建築資金融資)とともに保証契約を
 締結
 ・ 債権者(貸主) 某信用金庫
 ・ 債務者(借主) A
 ・ 連帯保証人   B
 ・  利息 年1.875%(10年固定)、固定期間終了後は変動金利
  (信用金庫所定の長期プライムレートを基準金利とした利率)
2 令和3年(西暦2021年)2月6日、固定金利期間が終了し、約定に基づく変動金利が適用された
(同日における金利は1.075%)
3 令和3年3月5日付けで、以下のとおり借入利率等に関する変更契約を締結する予定
  利息 年0.985%(10年固定)固定期間終了後は変動金利
  (信用金庫所定の長期プライムレートを基準金利とした利率)

(照会内容)
 上記3の変更契約は、債務者Aの金利負担の軽減を目的とするものであり、従前の契約に基づく直近の金利(変動金利:年1.075%)から変更しようとする金利(少なくとも固定金利が適用される10年間は、0.985%)は、連帯保証人Bの保証債務の軽減にも資するものであるが、このような案件についても保証意思宣明公正証書の作成を要するのか。

(検討・対応内容)
 本件は、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号。以下「新法」という)の施行に伴い導入された、事業のために負担した貸金等債務を保証する保証契約等の特例による「保証意思宣明公正証書」の作成に関して、新法の施行(令和2年3月1日)前に締結した保証契約について、施行日以後に変更契約する場合における同公正証書の作成の要否に関するものです。
 これに関しては、「新法の施行日以後に債権者と債務者との間で目的又は態様を加重するように主債務の内容を変更し、その効力を保証人にも及ぼすには、保証人の同意を得なければならないが(新法第448条第2項)、このような場合に、その変更の対象が保証意思宣明公正証書の法定の口授事項であれば、新法第465条の6に基づいて保証意思宣明公正証書を作成しなければならない。他方で、新法の施行日以後に主債務の目的又は態様が軽減された場合には、保証人の同意の有無にかかわらず、その変更の効力は保証人に及ぶが、この場合には、保証意思宣明公正証書を作成する必要はない。」(「Q&A改正債権法と保証実務」一般社団法人金融財政事情研究会173ページ)とされ、さらに、「新法の施行日以後に債権者と保証人との間で保証の内容を変更する場合には、その変更の対象が保証意思宣明公正証書の法定の口授事項であるときは、(中略)保証意思宣明公正証書を作成しなければならない。」が、「保証契約の変更が保証意思宣明公正証書の法定の口授事項を変更するものであっても、極度額の減額など保証人にとって有利なものであり、保証人の同意が実質的に問題とはならず、債権者の意思表示があれば認められ得るものについては、保証人の保証意思は問題とならないので、保証意思宣明公正証書の作成は不要である。」(同書174ページ)とされています。
 これを本件についてみますと、変更契約による金利の変更は、法定口授事項に関するものであり、変更契約後の金利が変更契約前の金利と比較して重くなる場合は、保証意思宣明公正証書の作成を要し、変更契約後の金利が変更契約前の金利と比較して同等又は軽くなる場合は、保証人Bの責任を加重するものではないことから保証意思宣明公正証書の作成を要しないことになります。例えば利率2パーセントの固定金利の定めを利率1パーセントの固定金利に変更契約する場合は、保証人にとって有利なものであり、負担を軽減させるものであるので、保証意思宣明公正証書の作成を要しないこととなります。本件については、変動金利と保証人の負担との関係をどう考えるかが問題となります。
 変動金利は、返済途中に金利が見直されるものであるところ、将来、保証人に有利に変動するか(負担が軽減されるか)、それとも、不利に変動するか(負担が増加するか)が不明です。本件については、変更契約をしなければ返済まで変動金利が適用され、直近の利率は年1.075%で、変更後の固定金利の利率0.985%よりも高率ですが、将来、固定金利の利率0.985%を下回る利率に変動することも有り得ます。変更契約当初は変更契約前よりも負担が軽減されますが、変更契約をせず当初約定の変動金利を維持した方が結果としてトータルの負担が少ないことが全くないとは言えません。そうすると、連帯保証人Bの保証債務は、変更契約により加重されることも有り得ると考えられ、本件は、保証意思宣明公正証書の作成を要しない案件とは断定できないことになります。
 もっとも、保証人は、当初の契約において10年の固定金利終了後は変動金利になることについて承知しているので、変更契約して金利に変動があったとしても、当初の保証意思に含まれるものであるので、保証意思宣明公正証書の作成を要しないとの考え方もあるでしょう。
 本件については、照会者に対し、新法の趣旨等を説明するとともに、本件は保証意思宣明公正証書の作成を要しない案件であるとは断定できないことについてアドバイスし(注1)、加えて、公正証書の作成を要しない案件についても公証人は作成を拒絶することはないこと(注2)についても説明しました。その結果、連帯保証人Bから保証意思宣明公正証書の作成嘱託を受け、公正証書の作成を行いました。
 本件は、新法施行前の契約の変更(金利の見直し)に伴い保証意思宣明公正証書を作成した当役場における初めての案件でしたので、参考までに報告させていただきました。
 なお、本件の処理については、東京公証人会会報(令和2年12月号53ページ)に掲載された協議結果も参考にさせていただきました。

(注1)
「公証人は、保証予定者から保証意思宣明公正証書の作成を嘱託された場合、基本的には嘱託人の判断を尊重して嘱託に応じるほかない。もとより、保証意思宣明公正証書作成の要否について嘱託人から尋ねられた場合は、嘱託人が適切な判断ができるよう懇切に法の規定を説明し、適切なアドバイスに心がける必要がある。」(保証意思宣明公正証書執務資料(令和元年9月版)の「Q4」20ページ参照)
(注2)
 「保証予定者が保証意思宣明公正証書の作成を求めたときは、公証人は、当該保証契約が保証意思宣明公正証書を作成しなければ有効に成立しないものであるかについて判断すべきではなく、仮に当該保証契約が保証意思宣明公正証書を作成せずとも有効に成立し得るとしても、そのことを理由に、その作成を拒絶することはできない。」(「民法の一部を改正する法律の施行に伴う公証事務の取扱いについて(通達)」(令和元年6月24日法務省民事局長)の第4の1参照))(鎌倉克彦)

No.86 借地に関する、ある相談事例から(古門由久)

 個人Aと社会福祉法人Bとの土地賃貸借契約について、次のような内容を含む契約書案が送付され、その内容の適否について相談されたことがありましたので、その概要等を紹介いたします。

〈事案の概要〉
土地所有者Aは、社会福祉法人Bから、Aが所有する土地をBが建設・運営する介護保険法に基づく居宅サービス事業又は施設サービス事業のための建物の敷地として貸してほしいと依頼された者であり、Bから提示された土地賃貸借契約書と題する案の内容は、次のようなものでした。
(1) この契約は、Bが建設する建物の所有を目的とし、本件土地の賃貸借期間は満30年間とされており、
期間満了後に10年単位で更新することができると記載されている。
(2) Bが建設する建物の用途は、通所介護(デイサービス)を主体とするか、介護老人保健施設(老健)とするか、若しくは介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)にするかは、今後の所轄庁への届出や許認可等の関係で今のところ決めていない。

〈回答の概要〉
1 普通借地権とする場合について
 契約書案によると、本件土地の賃貸借期間は、満30年とされており、期間満了後に10年単位で更新できることとされています。
 仮に、本件借地権(=建物所有を目的とする土地の賃借権又は地上権)を借地借家法(以下「法」という。)第3条に定める普通借地権として契約する場合には、法第4条の規定により最初の更新は20年、以後の更新は10年とされていますので、そのように定めなければならず、契約書案のように10年単位で更新することはできません。
 また、この契約を法第3条に定める普通借地権の設定とする場合には、期間満了後に、賃借人から賃貸人に対し建物買取請求権(法第13条)を行使することができることになりますが、賃貸人は、このことを了解しているのか疑問が生じます。なお、この規定は強行規定なので、特約で行使しないこととする旨を定めることはできません。
 建築される建物の規模や構造にもよると思われますが、賃貸人が買い取る意向があるのであれば、上記の更新年数を修正する(最初の更新は20年とし、以後は10年とする)ことで足りますが、存続期間満了後に、賃貸人において、建物を買い取る意向がないのであれば、普通借地権を設定することはできないものと考えます。

2 定期借地権(法第22条)とする場合について
 賃借人の建物買取請求権を行使しないこととする旨を定めることができる契約としては、定期借地権(法第22条)と事業用定期借地権等(法第23条)がありますが、建物の利用目的及び存続期間によって、いずれかを選ぶことになるものと考えます。
 このうち、定期借地権は、建物の使用目的を問いませんので、当該建物を居住の用に供しても差し支えありません。したがって、Bが建設する建物を、後述するように、老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や老人保健施設(老健)に利用し、施設入居者が恒常的に居住する場合であっても、対応できるものと思われます。
 ただし、法第22条に定める定期借地権の存続期間は50年以上とされており、契約書案記載の満30年を超えることになりますので、その点の検討が必要になります。ただし、更新によって10年単位で延長する旨の内容になっていますので、当事者間で初めから満50年とする契約をすることが可能であれば、法第22条に定める定期借地権を設定することもできるものと思われます。
 なお、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、法第13条の規定による建物買取りの請求をしないこととする旨の特約が必要となり、公正証書等の書面で契約をしなければなりません。

3 事業用定期借地権(法第23条第1項)とする場合について
 専ら事業の用に供する建物の所有を目的とする事業用定期借地権の存続期間は、30年以上50年未満とされていますので、契約書案の期間30年に合致しますが、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、法第13条の規定による建物買取りの請求をしないこととする旨の特約が必要となります。
 普通借地権(法第3条)及び定期借地権(法第22条)では、建物の利用目的を問いませんが、事業用定期借地権等(法第23条)では、専ら事業の用に供する建物の所有(建物の全部又は一部を居住の用に供してはならない)との制約が課されます。
 本件土地に建設予定の建物は、通所介護(デイサービス)用の建物あるいは介護老人保健施設(老健)ないし介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)とのことですが、通所介護(デイサービス)用の建物の場合を除き、居住の用に供するか否かが問題となってきます。

(参考)
1.特別養護老人ホームは、居住の用に供する場合に当たるか否かについて両説があるとされている(平成12年11月7日法規委員会協議結果・公証128号295ページ)。
2.介護専用型有料老人ホーム・痴呆性高齢者グループホームは、いずれも特定人が継続的に居住するための施設であって、住居に該当するから、これらの事業に供する建物を所有する目的で事業用借地権を設定することはできない(日公連法規委員会協議結果・公証138号331ページ)。
3.有料老人ホームには、①介護付有料老人ホーム、②住宅型有料老人ホーム、③健康型有料老人ホームの3つの形態があるが、①の介護付有料老人ホームは居住施設であり、事業用定期借地権を設定することはできない(東京会実務協議会・会報平成22年第4号37ページ)。
4.老人ホームの運営・利用形態は様々であるから、具体的な事案に即して、特定人が継続して専用使用する建物かどうか等につき検討する必要がある(平成18年6月23日付け日公連ホームページ)。

 公正証書遺言を作成するために、これらの特別養護老人ホームや介護老人保健施設に赴くこともありますが、住民票上の住所を施設に移している例も見受けられるところであり、居住していると評価される実態にある例が多いような気がします。
 本件において、通所介護(デイサービス)メインの使用目的とし、時として短期入所療養看護のため宿泊施設(ショートステイ)として使用する場合もあるということであれば、専ら事業の用に供する建物とみることができるものと考えますので、この事業用定期借地権を設定することも可能と考えます。 
 なお、この契約を法第23条第1項の事業用定期借地権として、当初30年の存続期間を定めていた場合には、変更契約により、その存続期間を10年延長して40年にすることができます。ただし、変更契約も当初の契約時の適用条項の範囲内となりますから、当初の存続期間の始期から通算50年未満までの範囲内となります(設定ではないので、公正証書によらなくても可能ですが、金銭債権の強制執行を視野に入れるときは公正証書によることが必要となります。)。 
 いずれにしても、Bが建設する建物を何に利用する目的なのかが確定した段階で、いずれの契約によるべきかを検討願います。(古門由久)

民事法情報研究会だよりNo.48(令和3年1月)

令和3年1月

 皆さま、あけましておめでとうございます。

年の初めに当たり、昨年を振り返ってみますと、令和2年は、新型コロナウイルスに始まり、同ウイルス感染の真っ只中に終わったように思います。

 会員相互の親睦を図るとともに、民事法情報分野の調査・研究等を通じて民事法の普及・発展に寄与することを目的として、平成25年5月31日に成立した当法人は、年2回(6月の第3土曜日と12月の第2土曜日)開催される会員総会・セミナー、民事法情報研究会だよりの発行を中心に活動してきています。

 令和2年は、新型コロナウイルス対策の一環として、6月の総会は、委任状に基づく代理人による開催となり、セミナーは中止となりましたが、やむを得ないこととはいえ、残念な結果となりました。

 令和3年が、どのような状況になるかは、同ウイルスのワクチンと治療薬の普及いかんにかかっていると思いますが、予測は難しいところです。

 同ウイルスと共生する新しい生活様式の確立が必要とも言われていますが、具体的内容は、一人一人が考えていかなければならないものだと思います。

 当法人の在り方につきましても、この状況を踏まえて見直すべき点はないのかということを、皆さまと共に考えていきたいと思います。

 本年も、次の体制で、昨年、お亡くなりになられた野口前会長が築き上げてこられた土台の上に、皆さまのご協力を得ながら、さらに実績を積み上げていきたいと考えていますので、よろしくお願いいたします。

(代表理事・会長 小口哲男)

【現在の体制】

 代表理事・会長    小口 哲男  

 業務執行理事・副会長 古門 由久

 業務執行理事     小畑 和裕  

 業務執行理事     佐々木 暁

 業務執行理事     星野 英敏(編集委員長)

 理事         小沼 邦彦(編集委員・北海道東北地区担当)

 理事         多田  衛(編集委員・東海北陸地区担当)

 理事         栁井 康夫(編集委員・近畿地区担当)

 理事         檜垣 明美(編集委員・中国四国地区担当)

 理事         中垣 治夫(編集委員・九州地区担当)

 監事         坂巻  豊 

 監事           藤原 勇喜

今日この頃

   このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

  綺麗に?老いたい(佐々木 暁)  

 「私は、結婚したら夫には絶対にしてあげたいことが二つある。一つは、夫にはいつもきちんと折り目のついたズボンを履かせてやりたい。もう一つは、いつもピカピカの靴を履かせてやりたい。」。この言葉は、私が高校を卒業して、いよいよ社会人として旅立とうとする頃の最後のクラス会での女子のクラスメートの発言である。当時まだ18歳で漁師の息子で坊主頭の私にはピンと感じるものは正直ありませんでしたが(漁師はいつも作業服で長靴、鉢巻き姿が定番、船に乗れば、ゴムカッパ姿で背広姿には縁遠い)、同じ年でも女子はもうこんなことまで考えているんだと当時は単純に感心して聞いていた。自分が明日から法務局で毎日背広と革靴にお世話になることも思い浮かばずに。

 それから50有余年後、高校のクラス会、小学校のクラス会でこの言葉を発したクラスメートに会った途端、鮮明にその時の言葉を思い出したのである。思えば、法務局に就職して以来、今日まで55年間、背広、ワイシャツ、ネクタイ、革靴は我が身と共に常に一心同体で生きてきたのである。中でも、ズボンの線、磨かれた靴は、出勤時にいつも気にしていたような気がする。結婚してからは、そこは妻に頼っていたが、独身の時は特に気を付けていたかもしれない。それは何気なく聞いていた高校最後のクラス会での彼女の言葉が心の奥に刻み込まれていたからなのかなと、今にして思う。

 会友の皆様方も、毎日生き生き?と職場に向かっていた頃、特に独身で、良き伴侶を求め彷徨い歩いていた?頃は、

 ・ズボンの線はあるか。複線になってないか。

 ・靴は汚れていないか

 ・髭のそり残しはないか

 ・耳垢、耳毛はないか

 ・鼻毛、眉毛の飛び出しはないか

 ・爪は伸びていないか、爪垢はないか

 ・頭のふけはないか

 ・眼鏡は汚れていないか

 ・ワイシャツの襟や袖口は汚れていないか

 ・昨日と同じネクタイをしていないか

等々を自身で若しくは家人にチエックしてもらい、日々悠々と出勤されていたこととご推察(個人差はあることはもちろんですが)する。

 さて、その成果?の程は窺い知れませんが、そのような努力もしたなと思い出されている会友の皆様やそんな事は社会人として当然の身だしなみであるという会友の皆様それぞれだと思われますが、さてさて、ご退職されてから数年を経た昨今の身辺はいかがでしょうか。もちろん、現職公証人の会友の皆様は引き続きしっかりと身だしなみに気を遣われていることに疑念を抱くものではないことは、言うまでもないことではあるが、果たして?と思うのは失礼である。

 毎朝の洗顔の時にご自分の顔を鏡で睨めっこしながら、又シミが一つ増えたな(増えたかどうかもわからない人は別として)、とか、髭が一本残っているなとか、髪に櫛を入れなければとか(髪が若干少なくなった方は尚更)、白髪の本数とかを確認している方はまだまだ若く美的感覚最高である。しかし、顔は水道でジャブジャブ、鏡は見ない(自分の顔がどう変化しているか解らない)、整髪は手櫛(ある人に限る。)という方も残念ながら若干名いるらしい。「俺は男だ」「もう自由人だ」を貫き、颯爽と社会の窓全開で公園を散歩してはいないだろうか。

 私は、古稀を過ぎた年頃になって、特に気を付けたいと心掛けていることが三つある。それは、通勤電車の中であったり、買い物中であったり、図書館であったり、様々なところで目にしたり、感じた事である。それを目にしたときは、慌てて己は大丈夫かと確認してみる事が度々あったからである。

 その1 鼻毛    その2 耳毛    その3 眉毛

 高齢者・老人の特権が如くに、堂々と伸び放題に放置しているご同輩を時としてお見かけする。同性として目をそらしたくなる時もある。自分に無関心なのか、無頓着なのか、はたまた最早、連合い・家人から見放されたのであろうか、それともその方々の視界に入らない存在、入れない情況下にあるのであろうかと、他事ながら勝手に気にかかる。自分の事はこの際忘れて。老いては尚更「三無毛主義」が好ましく思われる。これだけでも気をつけていれば、趣味の会、同好会の場でまだまだ素敵な出会いが待ち受けているかも知れない。

 ところで、この駄文を読んでいる間に、もしかして、耳、鼻、眉毛に何気なく触れた方、思わず鏡を覗いた方も、もしかしておられたのでは。やっぱり視ました?、触りました?、ね(失礼。)。こんな小さなこだわりは馬鹿な私だけの戯言として聞き流して頂き、会友の皆様は、何も気にせず、今までどおり?、爽やかにすっきり?と、のんびり、楽しく、元気に人生を謳歌されますことを願うばかりである。

そんな私と言えば、御年を重ねれば重ねるほどに、肌艶の衰えを感じれば感じるほどに、我が身のあらゆる箇所のメンテに心掛け(キリがないという声が聞こえる。)、少しでも小綺麗に老いて行きたいものと誠にささやかな願いを小さな胸に抱きながらも、いつもの退職記念グラスを片手に、「三無毛主義」などと言う面倒くさいことを忘れて、さて、取り敢えず明日は何をして過ごそうかと想いを巡らしながら、ふと、夏の暑い日に旅立たれた野口先輩(若かりし頃、民事局や東京局で、そして公証人として何かとご指導頂いた)の在りし日の笑顔や特徴的な野口文字(書体)を偲びながら冬の夜長にチビリチビリの今日この頃である。

  新型コロナ禍の少しほっこりな話(中垣治夫)  

 さて、今回は、「新型コロナ禍の少しほっこりな話」と題して、ほっこりな話を含めて紹介します。

 新年を迎えた頃には想像もできなかったことですが、新型コロナウイルス感染症が全世界に猛威を振るい、この1年はこの話題ばかりでした。最近は、国内では第3波、海外では2度目のロックダウン(都市封鎖)が連日ニュースになっています。

 ところで、幾つかのテレビ番組で、台湾が世界で最も新型コロナ対策に成功したと報道されていました。現在も世界中で感染拡大が続く中で、台湾が新型コロナの対策で最も成功したと世界から称賛を集めているのです。人口が2378万人の台湾の10月末での感染確認者は573人(人口10万人当たり2.4人)、死亡者は7人(人口10万人当たり0.029人)で、台湾内での新規感染は200日連続ゼロを達成しています。ちなみに人口が1億2,588万人(台湾の5.3倍)の日本は、感染確認者は10万6,220人(人口10万人当たり84.4人)、死亡者は1,811人(人口10万人当たり1.4人)であり、今でも毎日1,000人程度の新規感染者が発生しているのと比べても、台湾が極めて少ないのが分かります。

 台湾のコロナ対策で、注目を集めるのはIT担当大臣のオードリー・タン(唐鳳、Audrey Tang)氏です。マスクを公平に行きわたらせるためのシステムを大臣自ら開発するなど、システム造りの能力を存分に発揮しました。ただ、台湾で絶大な支持を集めているのは、コロナ対策で陣頭指揮を執った陳時中(Chen Shizhong)衛生福利部長(日本の厚生労働大臣に相当)です。

 陳衛生相は、台湾中央流行疫情指揮センター指揮官も兼務しており、台湾で感染者が確認された1月20日以降、1日も欠かさず記者会見を開き続けました。「いい知らせも悪い知らせも伝える。」ことをモットーとし、質問がなくなるまで記者の質問に丁寧に答え続ける姿勢が台湾の人々から大きな支持を集めたのです。

 その陳大臣は、有病率を0.2%=500人として、PCR検査で感染者を陽性と判断する精度を90%、陰性を正しく判断する精度を95%と仮定し(要は検査の精度は、100%ではないということ。)、陽性だが陰性と判定される「偽陰性」を500人のうちの50人、陰性だが陽性と判定される「偽陽性」(先日、内村航平選手が偽陽性と判定されたばかりです。)が1万2,475人発生すると説明しています。

 その上で、PCR検査は、その瞬間の保菌状態を判定した指標にすぎず、安全性を担保するものではない。偽陰性の50人が「自分は陰性だ」と安心して出歩き、クラスターを発生する危険性がある。他方、本当は陰性なので何の症状もない偽陽性の1万2,475人を病院に入院させるだけで医療崩壊の危険性を増やしてしまうと説明しています。PCR検査に頼る動きを否定し、PCR検査を無駄に増やすことはコストパフォーマンスにまったく合わず、税金を無駄にするだけと一刀両断にしたのです。日本でもPCR検査については、いろいろ話題になりましたが、論理的で、分かりやすく、こんな切り口での説明は聞いたことがありません。

 また、陳大臣は、感染拡大を防ぐ最適な方法は、自宅待機と隔離であると強調しています。PCR検査を拡大するよりも、経過観察及び症状の有無を確認した後、最終判定のためにPCR検査を使うことを説いたのです。

 さらに、記者会見で「学校でからかわれるからと、息子がピンク色のマスクを着けたがらない」という保護者の声が紹介されると、次の記者会見で、陳時中氏をはじめとする男性幹部5人全員がピンク色のマスクを着用して登場、「命を守るのに色は関係ないよ。」、「私は小さい頃、ピンクパンサーが大好きだったんだ。ピンクはいい色だよ。」と呼び掛けました。科学に裏打ちされた、状況打開に対する力強い信念、しかも心情を大切にする優しさが表れた、ほっこりないい話ですね。

 台湾でも日本同様、デマでトイレットペーパーの買いだめ騒動が起きました。このときに、行政院長が自分自身をモデルにして「私たちのお尻はひとつだけ」と訴えるポスターを作りました。思わず笑ってしまうポスターですが、瞬く間に拡散され、騒動は数日で沈静化したそうです。このキャッチコピーもほっこりないい話ですね。

 本来、目に見えないウイルスの恐怖に震える人々を安心させ、混乱を回避しなければならないときに、外出や営業などの自粛要請に応じない個人や商店に対して、偏った又は独りよがりの正義感を振りかざし、自粛警察が横行する状況を目の当たりにするとき、第二次世界大戦中の日本を見るようです。新型コロナの感染者をまるで悪者のようにバッシングしたり、さげすんで遠ざけてしまっているのです。陳衛生相が会見の中で繰り返し語っていたのは、「感染者が過ちを犯したのではない。接触者にも罪はない。」という言葉です。互いに相手を思いやって魔女狩りをさせないようにするための力強いメッセージです。匿名でのバッシング、炎上等、どう見ても心ある成熟した大人の対応には見えません。いいのよ、いいのよと許し合える人々、寛容な社会の到来が待たれるところです。

宇都宮地方法務局本局新庁舎の完成について
                  (宇都宮地方法務局長 綿谷 修)

 令和2年9月、宇都宮地方法務局本局(宇都宮法務総合庁舎)の新営工事の全工程が完了しました。新営工事は、Ⅰ期工事(工期:平成28年4月から平成30年1月まで)において、旧庁舎(旧宇都宮法務合同庁舎)南側の駐車場部分に高層棟が建設され、高層棟への庁舎移転と旧庁舎の解体が行われた後に、Ⅱ期工事(工期:平成30年7月から令和2年9月まで)において、低層棟が高層棟の北側に接続される形で増築されるとともに、駐車場の整備を含む外構工事が行われ、その結果、着工から約4年5か月の工期を経て、ようやく新庁舎が完成することとなりました。Ⅰ期工事後、高層棟1階の「仮住まい」での執務を行っていた人権擁護課と訟務部門は、令和2年8月に、本来の事務室である低層棟3階に移転(退居した高層棟1階には東京出入国在留管理局宇都宮出張所が入居)しました。最終的に、宇都宮法務総合庁舎は、宇都宮地方検察庁、宇都宮地方法務局、宇都宮保護観察所及び東京出入国在留管理局宇都宮出張所が入居する総合庁舎となりました。

 令和2年8月に実施した法務局にとっての最終的な移転作業は、作業を迎えるまでの間、総務課及び会計課を中心とした庁舎移転準備委員会において、長期にわたる協議を積み重ねて準備を行いました。その結果、職員の夏季休暇が重なるお盆前の週末、1年で最も暑い季節における移転作業でしたが、職員全体の協力の下、必要最小限の人数で作業を終えることができました。

 新庁舎は、旧庁舎の南側の駐車場だった土地に建設されたため、周りの住環境は、ほとんど変わりはありませんが、旧庁舎が抱えていた問題、すなわち、老朽化、狭あい化のほか耐震性不足や設備の不備などの支障を解消し、入居する各官署のセキュリティー確保を実現するなど、執務環境のより一層の向上を目指して整備がされたものであり、Ⅱ期工事の完成により、高層棟と低層棟が一体化し、フロアの面積が大きく確保されたことで、執務効率や来庁者の利便性が向上するとともに、来庁者の利用動線と職員動線との双方が明確に分離されることでセキュリティーが向上したことに加え、明快な動線により利用者にとって分かりやすい庁舎となっています。事務室と廊下の床には、じゅうたんが敷き詰められ、廊下には人感センサーで点灯する柔らかな照明が備えられました。また、白を基調にした広い事務室内で働くことが可能となり、職員一同、快適な環境の下で執務に従事しています。さらに、書庫には生体認証装置が配備され、行政文書を適正に管理することができる設備にもなっています。旧庁舎は、昭和47年12月以来、45年の長きにわたって、その役割を果たしてきました。旧庁舎の歴史を振り返ると、登記簿のコンピュータ化、乙号事務の包括的民間委託の開始、商業登記の集約、筆界特定制度の導入、成年後見登記の証明書の発行開始、戸籍の副本管理システムの導入、供託事務のコンピュータ化など、徹底した事務の効率化を進め、時代に即した新しい施策に挑戦する、法務局にとって激動の時代でありました。

 今後、新庁舎での執務を行うに当たり、諸先輩が旧庁舎で築いてきたものを基盤として更に発展させ、次世代へ引き継いでいく必要があることはもちろん、国民の信頼と期待に応えるために、新たな政策課題にも積極的に対応していかなければならないと考えています。特に、相続登記の促進、法定相続情報証明制度の利用拡大、長期相続登記等未了土地の解消、登記所備付地図の整備、自筆証書遺言書保管制度の運用、無戸籍者問題の解消等の重要課題に積極的に取り組んでいきます。

 これから、宇都宮局がどのような歴史を歩むことになるのか、予想することは容易ではありませんが、「清廉を旨とし/融和を図り/職責を自覚し/規律を守り/知識を高め/奉仕に徹する」という宇都宮局の「局訓」は、永遠に不滅であり、旧庁舎時代から受け継いだ伝統を、この新庁舎において更に先へとつなげたいと思います。   

水戸地方法務局本局新庁舎の完成について
                 (水戸地方法務局総務課長 佐藤淳一)

1 はじめに

 令和2年9月23日(水)から水戸地方法務局(以下「水戸局」という。)の本局が念願の新庁舎(水戸法務総合庁舎)へ移転し、新しい庁舎、新しい備品類に囲まれて、執務が開始されました。振り返れば、平成23年3月11日に発生した東日本大震災により庁舎が被災し、約9年という長い間、民間の仮庁舎で執務が行われていました。

 当時、私は法務省民事局に勤務していましたが、水戸局の本局庁舎が被災し、天井が崩落した状況で、ヘルメットを装着して執務をしていたこと、余震の続く中で、苦労して仮庁舎を探し、移転作業を実施するなど、過酷な状況で執務を行っていたことを承知していました。ちょうどその頃は、予算担当の業務を行っていましたので、震災直後から補正予算の予算要求作業として、書架の復旧、備品の修繕のほか、復興支援のための職権滅失登記等の予算要求作業を行うなど、間接的ではありますが、水戸局と接点がありました。

 しかし、この度、自らが新庁舎への移転作業を行うとは夢にも思いませんでしたが、これも何か御縁があったのだろうと思う、今日、この頃であり、当時の状況を振り返りながら新庁舎を御紹介したいと思います。

2 東日本大震災直後

 平成23年3月11日午後2時46分の地震発生以降、茨城県では各地域で震度6強から5弱までの余震が断続的に発生していました。こうした状況下において、当時の水戸局では、安否確認をしつつ、被害状況を踏まえた業務継続に尽力され、職員が被災、通勤途絶等がありながらも大半の職員が出勤して対応されていました。

 庁舎の被害状況としては、水戸局の本局庁舎が天井落下、壁崩落等の甚大な被害を受けて、庁舎を新営することになりましたが、被災当時は、1階に総合窓口を設置して、ヘルメット着用を義務付ける対応が取られていました。また、下妻支局においては、平成21年から庁舎新営の工事が着工され、平成23年2月に完成、引渡しを受け、同年3月22日から新庁舎で執務を開始する予定でしたが、その直前に東日本大震災が発生しました。当時の資料を拝見すると、幸いにして庁舎に大きな被害はなかったものの、駐車場の亀裂、段差等が生じて、少なくとも1週間後に控えた新庁舎での業務開始は不可能となり、駐車場等の修繕をした後、平成23年6月4日(土)に移転作業が行われ、同月6日(月)から新庁舎で業務が行われました。

 その他の庁舎の被害ですが、日立支局ではスロープの亀裂のほか内壁等の落下のおそれ、常陸太田支局では書架損傷、土浦支局では駐車場亀裂及び書架損傷、龍ケ崎支局では床タイルに亀裂のほか、内壁等の落下のおそれ、鹿嶋支局では内壁及び床に亀裂、つくば出張所では天井、内壁落下、取手出張所では駐車場亀裂など、各庁舎は一定の修繕は必要ですが、何とか業務を行うことが可能な状況ではありました。

 さらに、茨城県東海村にある原子力施設では、東日本大震災直後の一時期、基準値を超える放射能値が検知されたという報道がされ、本局、日立支局及び常陸太田支局職員に対してエアコンの使用、換気の禁止、マスク着用とともに、帰宅後は衣服を脱いで外気と触れた皮膚の洗浄が指示されるなど、非常に緊迫した状況もありました(結果としては、福島原発事故の影響であり、東海村の原子力施設は正常に稼動していることが判明した。)。

3 水戸局本局仮庁舎への移転

 水戸局の本局庁舎は、昭和45年に建築されましたが、東日本大震災を受けて、関東地方整備局の耐震総合診断において、「地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険がある。」と評価されました。このことから、業務を安全に継続して運用することが非常に難しい状況でしたので、仮庁舎への移転が検討されたところ、水戸市内には、登記部門を入居させるだけの床面積を有する国有財産建物はなく、水戸市等の地方自治体も被災しているため、公共施設を借用することもできない状況でした。

 そこで、耐震性を有する民間のビルを借り上げる必要が生じましたが、いくつかの候補のうち、立地、賃料、耐震性、床面積の確保、駐車場の設置状況等から水戸駅前の駿優教育会館ビルが適当であると判断されました。

 仮庁舎を駿優教育会館ビルと決定した後、ビル内の模様替え工事を行い、まず、第一次移転として、利用者の多い窓口を有する不動産登記部門(登記情報システム管理官含む。)、法人登記部門、戸籍課、供託課及び人権擁護課が平成23年10月11日(火)から仮庁舎で執務を開始しました。その後、総務課を始めとした全ての課の移転作業を実施して、東日本大震災から約1年後である平成24年3月19日(月)から仮庁舎で執務を開始しました。

 仮庁舎は、駅前という立地の良さもあり、職員はもとより、利用者からも便利であると好評でした(駐車場はビル内で狭いため、不評のようでしたが・・・。)。私もこの4月に水戸局総務課に着任しましたが、駅前の仮庁舎は非常に便利だなと感じたところです。

4 水戸局本局庁舎の建築

 水戸局の本局庁舎は、東日本大震災で被災したこともあり、東日本大震災復興特別会計予算で建築がされました。庁舎の新営に当たっては、被災した庁舎の取り壊しの途中でアスベストが検出されたり、水戸城内という特殊な立地でも分かるように、埋蔵物の試掘調査が行われるなど、その都度、計画が遅れることになりましたが、平成30年9月に着工し、令和2年8月完成する予定で工事が開始されました。

 その後、順調に建築が進んでいましたが、今年度には、新型コロナウイルス感染症の影響から緊急事態宣言が発令されるなどして、自粛要請、資材の調達が遅れるなど、最後の最後まで予断を許さない状況となりましたが、令和2年9月7日(月)に無事に引き渡しがされました。

 新しい庁舎は、地上5階地下1階の建物で、法務局は1階に不動産登記部門(登記情報システム管理官含む。)及び法人登記部門、2階に総務課等の各課が、地下1階に書庫等が配置され、その他の官署として、検察庁、保護観察所、出入国在留管理局が入居しています。

 なお、総務課と会計課、戸籍課と供託課、不動産登記部門と法人登記部門が壁のない一つの空間での執務室(ワンフロア化)となり、これまで以上に連携した対応が可能になると思います。

5 水戸局仮庁舎からの移転作業

 新庁舎の完成を見据えた令和元年9月12日に水戸局内に次長を委員長、本局各課・部門の係長クラスを委員とする移転準備委員会が立ち上げられ、作業項目、スケジュール管理等を行いながら、移転準備が進められました。移転準備では、限られたスペースに行政文書等を格納することから、資料等の分別、備品選別のほか、新庁舎での格納場所の決定、移転作業の方法など、様々なことが検討・決定されました。今年度は、特に年度当初から問題となっている新型コロナウイルス感染症対策に必要な備品調達、新しい生活様式を踏まえたレイアウトの検討など、移転の直前まで対策の検討が行われ、移転作業本番の令和2年9月19日(土)からの4連休に向けた準備が進められました。

 移転作業としては、前日の9月18日(金)にシステムの移設等から開始し、9月19日(土)からは、まず備品関係から運搬が開始され、その後、行政文書、申請書等の運搬が行われました。仮庁舎では搬出、新庁舎では搬入作業が行われるため、本局各課・部門の協力を得て、それぞれに職員を配置して、移転作業が行われました。運搬する段ボール箱は、行政文書、閉鎖登記簿、登記申請書、マイラー地図など、約6、000箱にもなり、移転作業を行う業者もあきれるくらいの多さでした。

6 おわりに

 東日本大震災が発生した当時の水戸局の状況を振り返りながら新庁舎の移転までの経緯について御紹介してきました。新庁舎は、これまでの駅前の仮庁舎とは異なり、若干駅から離れた場所ではありますが(歩いて駅まで行けますが・・・。)、駐車台数も多く確保され、室内も明るい構造で、利用者スペースも十分広く、利用しやすく、備品類も一新されたことなどから執務環境が格段に改善されましたので、業務効率も一段と向上するのではないかと思います。

 移転作業を無事に終えて思うことは、行政文書、閉鎖登記簿やマイラー地図の運搬は非常に大変でしたが、係長クラスを中心とした移転準備、当日作業がしっかり実施され、非常に頼もしい限りであるとともに、最新の登記事項、地図データ等は電子化されていることで、登記情報端末を移設するだけで、業務を直ちに開始できる職場環境であることは、データ移行を実施してくれたこれまでの皆様の苦労の賜物であるということを感じ、改めて感謝の気持ちを胸に刻んだところです。

 また、東日本大震災以降、水戸局が頑張れたことは、県内にゆかりのある皆様を始めとして、様々な方々が震災復興とともに、当局の業務遂行に当たり、懸命な励ましや暖かい言葉をかけていただいたおかげと感謝するばかりです。

 東日本大震災の復興としては、未だに道半ばですが、水戸局が受けた被害からの復旧だけを見れば、庁舎移転作業が終わることで、一応の一区切りがついたと考えています。

 これからは、新庁舎で職員一同が国民の負託に応えるため、一層努力してまいりますので、引き続きの御支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

実務の広場

 このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.83 離婚に関する契約公正証書作成上の留意点について  
 ~後日紛争を生じて調停が申し立てられた事例から~(星野英敏)

事例一 離婚に関する契約公正証書で、総額1,000万円を超える慰謝料の分割支払契約をしていたところ、後日債務者が再婚して再婚相手との間に新たな子が出生したことを理由として、それ以降の分割金支払額の減額を求める調停の申立てがあり、事情を聞いたところ、実体は養育費の支払いであるのに、児童扶養手当受給額の算定上養育費受領額の8割が収入に合算されることを知り、収入を少なく見せかけて児童扶養手当受給額をできるだけ多くするために、名目を慰謝料として公正証書を作成していたという事例。

1 名目を偽った契約は、虚偽表示として無効とされる可能性がありますが(民法第94条第1項)、離婚に至る過程においては当事者間で何らかのトラブルがあり、相手を傷つけるような言動があったことも考えられ、不法行為に基づく損害賠償である慰謝料支払いの要素が全くないとも言い切れませんので、この事例のような公正証書の作成依頼に対して、直ちに無効の法律行為(公証人法第26条)であるとして証書の作成を拒否できるかどうかは、難しいところです。

 2 ところで、高額の慰謝料支払契約を締結する場合、一般的に相当とされる額を著しく超える金額の慰謝料を支払ったときには、その超過額が贈与と認定されて贈与税が賦課される可能性があることについて、当事者に注意を促す必要があります。

   一方、不貞行為に対する慰謝料について、裁判所での認容額は低下傾向にあると言われており、300万円以上の認容額が示された裁判例は、最近ではせいぜい5%程度とのことですから、離婚に伴う慰謝料として、高額の支払契約をする公正証書の作成を依頼された場合は、事情をよく聞いてみる必要があると思われます。

   特に、20歳未満の子がいるのに養育費支払いの定めがなく、慰謝料の支払いが長期の分割払いとなっており、支払期間が通常の養育費支払期間に合致している等の事情があるときは、実体は養育費である可能性が高いものと思われます。

3 慰謝料であれ養育費であれ、いずれも、一定の金額を定められた期限までに支払うという契約であることに変わりはありませんが、通常、慰謝料について後日の事情変更によって支払額を増減しなければならないことは考えられないのに対し、養育費については、後日の事情変更によって増減額が必要となることがあります。

  そのほか、慰謝料であるのか養育費であるのかによって、次のよう な差異が生ずることになります。

⑴ 債務の支払いが滞ったため強制執行をする場合

  養育費などの扶養義務等に係る債権については、民事執行法で各 種の優遇措置が定められているところ、慰謝料では、その優遇措置が受けられないことから、次のような差異が生じます。

 ① 養育費などの扶養義務等に係る定期金債権の場合は、民事執行法 第151条の2第1項により、その一部に不履行があるときは、確定期限が到来していないものについても債権執行手続を開始することができます。

  これに対し、慰謝料の分割金債権の場合は、確定期限の到来していないものについては債権執行を開始することができませんから、任意の支払いがない場合には、各分割金の支払期限経過後に毎回債権執行開始手続をしなければならないこととなり、手続費用は相手方に請求できるものの、手間がかかることとなります。

 ② 扶養義務等に係る債権の場合は、原則として給料等の2分の1ま で差し押さえることができますが、慰謝料債権の場合は、給料等の4分の1までしか差し押さえられません(民事執行法第152条)。

  したがって、慰謝料債権としていた場合には、債権回収に時間がかかる場合があります。

⑵ 債務者が破産してしまった場合

  債務者が債務超過により支払不能の事態に陥って、破産手続が開 始された場合、債務者の免責許可の申立てに基づいて(債務者自ら破産手続開始の申立てをした場合は、破産法第248条第4項の規定により、当該申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます。)、破産法第252条の規定により免責が許可されることがあり、免責の許可が確定すると、債務者は、破産手続による配当を除いて破産債権についてその責任を免れることになります(つまり、一定割合の配当以外の支払いの責任が無くなるのです。)。

  扶養義務等に係る債権の場合は、免責が認められませんから(破産法第253条第1項第4号)、免責許可決定が確定しても支払義務が存続しますが、慰謝料債権の場合は、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法第253条第1項第2号)に該当すると判断された場合に限り支払義務が存続するものの、これに該当しない(悪意で加えた不法行為に基づくものではない)と判断された場合には免責されてしまい、十分な配当が受けられないまま、その余の請求権が失われてしまうことになります。

  実際に、不貞行為が原因で離婚に至った場合の慰謝料についても、この規定の悪意とまでは評価できないとして、慰謝料債権が免責された事例もありますので、養育費なら免責されなかったはずなのに、慰謝料としていたために免責されてしまうというリスクがあるのです。

  ちなみに、民法上善意か悪意かが問題となる場合の悪意とは、一般的には道徳的な意味の悪意や他人を害する意思までは要しないとされており、ある事情を知っていることということになります(第93条第2項や第94条第2項の善意ということが、ある事情を知らなかったことと解釈されている裏返しとしてこう解されます。)。

  ただし、中には、他人を害する意思という意味で用いられている例もあり(民法第770条第1項第2号、第814条第1項第1号)、破産法における悪意で加えた不法行為という場合の悪意の意味は、この後者に類するものと思われます。

  また、本件のように、そもそもの実体が不法行為に基づく慰謝料でないとすれば、悪意で加えた不法行為であることの立証はできませんし、実体が養育費であることを主張したとしても、名目が慰謝料であるものを養育費と認めてもらえる保証はありません。

4 20歳未満の子がいるのに養育費支払いの定めがなく、高額の慰謝料を定めようとする場合、その実体は養育費である可能性が高いと思われますので、当事者に対しては、虚偽の名目による契約をすること自体が後日の紛争の種になるだけでなく、強制執行の必要が生じた場合に養育費としての優遇措置(確定期限未到来分の債権執行の開始、差押範囲の拡大)が受けられなくなること、債務者が破産した場合に免責されて支払いを受けられなくなってしまうおそれがあることを説明の上、実体が養育費であるのならば、そのとおり、養育費として契約することを勧めていただきたいと思います(それでもどうしてもと言われた場合、児童扶養手当詐取の片棒は担げないと言ってお断りしても、公証人法第3条違反に問われることはないと思います。)。

事例二 離婚の際に妻が子の親権者となって子の監護を担当し、夫がいったん自宅を出て別居して、妻と子が、子の進学時期まで夫名義の自宅に無償で住み続けても良い旨の契約公正証書が作成されたものの、退去・明渡しに関する事項を明記していなかったため、退去後の鍵の返還や残置物の処理について紛争となって調停が申し立てられた事例。

この事例については、ご参考までに、このような後日の紛争防止のため、公正証書作成の際に御留意いただきたい事項をまとめてみました。

  以下、自宅建物の所有者で当面自宅を出て別居する当事者を甲、当該建物に一定期間居住を認められた元配偶者を乙といいます。

1 まず、期限の定め方ですが、一定期間住み続けることを認めるとい う約束であっても、退去・明渡しの期限を明記することが重要ですから、「乙は甲に対し、令和〇年〇月〇日限り、下記不動産(以下「本件不動産」といいます。不動産の表示の記載は省略します。)を退去して、これを明け渡す。」のように記載することとなります。

2 乙が住んでいる間の光熱水料やマンションの管理費などは、乙が負担することが多いと思いますが、当事者間の特約があればこれに従います。

 乙が負担する場合でも、当該費用が甲の口座から引き落とされている場合には、乙の負担分について、具体的に当事者間での請求や支払いの方法(甲からの証拠資料の写しを添付した請求書が到達した日から一定の期間内に、乙が甲の指定口座に振り込む等)を定めておく必要があります。

3 本件不動産における、禁止又は制限される行為や修繕等の必要が 生じた場合の対応については、国土交通省が定める賃貸住宅標準契約書に準じて解決する旨を定めておくと良いでしょう。

4 明渡しに当たっては、原状回復義務の範囲をどうするかが問題となりますが、この事例のような場合は、乙の故意又は重過失による破損や汚損を除き、明渡時の現状渡しとすることで合意しておくのが一般的と思われます。

5 何をもって明渡し完了とするかについても、明記しておかなければなりません。

 少なくとも、乙が預かった鍵すべての返還は必要と思われます(建物を退去しても、すべての鍵を持ち去ったままで甲が建物に入ることができない状態では、建物はまだ甲の支配下に入ったということはできませんから、明渡しを完了したとは言えないでしょう。)。

 本件不動産の鍵すべてを乙が所持している場合、鍵の返還方法についても明記しておく必要があります。

 鍵の返還時に二人だけで直接顔を合わせるとトラブルになりかねないという場合も多いため、実際の受け渡し方法が問題となります。

 特に家庭内暴力があった事案では、双方とも信頼できる第三者がいればその第三者を介して行うのが良いと思われますが、他に適当な方法がなければ、直接会った場合のトラブル防止のため地元警察署の玄関前での受け渡しとすることも考えられます。

6 退去・明渡し後に残置された動産の処分、その費用の負担

 通常は、乙が残置物の所有権を放棄し、甲が任意に処分できることとしますが(特に明記がなければ、残置物の所有権は甲に移りますから、この場合の処分費用は甲の負担となります。)、大量又は特異な残置物があり、処分に過分の費用がかかるようなケースもあり得るので、それに備える規定が必要になることもあります。

 通常は、 「乙は、第〇条により本件不動産を明け渡したときは、同不動産内に残置した動産についてはその所有権を放棄し、甲が処分することに異議を述べない。」というような条項で足りると思いますが、特に心配な事情があるときは、「ただし、残置物の処分費用は、乙が負担するものとする。」のような条項を付加しておくことが考えられます。

No.84 公証人法第8条支局の公証事務取扱い廃止(小野昭男)

1 はじめに

  福井地方法務局管轄の公証事務は、福井市の福井公証人合同役場、越前市の武生公証役場、敦賀市の敦賀公証役場のほか、公証人法第8条の規定による法務事務官をして公証人の職務を行わせる法務局若しくは地方法務局又はその支局(以下「8条支局」という。)として小浜支局が取り扱っていましたが、令和2年7月1日をもって小浜支局での公証事務取扱いが廃止され、これまで小浜支局で取り扱った公正証書原本等は、敦賀公証役場に移管されました。

2  小浜市、小浜支局の概要

  小浜支局が所在する小浜市は、福井県南西部(嶺南)の日本海若狭湾に面した若狭地域のほぼ中央に位置しています。 人口は約2万9千人です。

   小浜支局は、小浜市のほか高浜町(人口約1万人)、おおい町(人口約8千人)及び若狭町(人口約1万4千人)の一部を管轄していて、職員は、支局長、総務係長、統括登記官、登記官及び事務官の5名です。

  小浜支局管轄区域の公証人沿革誌によると、大正9年4月30日までは公証役場が存在し公証人が事務を行っていましたが、同年5月からは小浜区裁判所が公証事務を取扱い、昭和22年5月3日から福井司法事務局小浜出張所(現小浜支局)が公証事務を取扱い、令和2年6月30日まで至っていました。

    なお、小浜支局は、公証事務の廃止に伴い、令和2年7月1日から、平成13年法務省告示第449号(公証人法第8条及び配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第20条の規定により法務事務官に宣誓認証を行わせる法務局又は地方法務局の支局の指定)の指定を受けています。

3 8条支局

  公証事務は原則として公証人が担うことになっているところ、公証人法第8条は、法務局支局等の管轄区域内に公証人がいない場合において、法務大臣が、当該法務局支局等に勤務する法務事務官に公証人の職務を行わせることができると規定しています。

    8条支局は令和2年6月30日現在、(1)長野地方法務局①飯山支局・②大町支局、(2)新潟地方法務局③佐渡支局、(3)福井地方法務局④小浜支局、(4)松江地方法務局⑤西郷支局、(5)長崎地方法務局⑥隠岐支局・⑦対馬支局、(6)那覇地方法務局⑧宮古島支局・⑨石垣支局、(7)仙台法務局⑩気仙沼支局、(8)秋田地方法務局⑪本荘支局・⑫大曲支局、(9)旭川地方法務局⑬留萌支局、(10)釧路地方法務局⑭根室支局の14支局でした。

    このうち、令和2年7月1日から小浜支局のほか、⑪本荘支局・⑫大曲支局及び⑬留萌支局の合計4支局における公証事務の取扱いが廃止され、⑪本荘支局及び⑫大曲支局の公正証書原本等は秋田公証人合同役場に、⑬留萌支局の公正証書原本等は旭川公証人合同役場にそれぞれ移管され、8条支局は10支局となりました。

4 廃止理由

    福井地方法務局(以下「法務局」という。)は、廃止理由として、当該支局で公証事務を開始した頃に比べて、①道路交通網の整備や公共交通機関の発達により住民の移動に要する時間が短縮されたことや情報通信技術等の画期的な発達によるFAXや電子メールの一般家庭への普及などから、地域住民の利便性の面において、従来の設置状況を維持することが当然に必要であるとの状況ではなくなっていること、②電子公証制度の導入等により公証役場への来庁回数が減少できること、③遺言について、令和2年7月10日から法務局・地方法務局の全支局において自筆証書遺言の保管制度を利用することができるようになること等をあげています。

また、小浜支局管轄内市町や関係士業者等への折衝時には、上記理由のほかに、小浜支局で取り扱う公証事件数は少ないこと、専属で業務を行っていないので公証人に比べて作成に時間を要する場合があること、最寄りの公証役場 (敦賀及び舞鶴)までの交通状況等についても説明したとのことです。

5 日弁連等の反対声明

  今般の4支局における公証事務取扱いの廃止について、日弁連会長、日司連会長は反対の声明を出しています。日弁連会長は、「鉄道やバス路線が多数廃止されていることに象徴されるとおり、公共交通機関はむしろ衰退している地域も少なくない。また、総務省が世帯及び企業における情報通信サービスの利用状況等を調査した『通信利用動向調査』(令和2年5月29日総務省公表・編注)によると、世帯におけるFAX保有率は33.1%にすぎない。パソコン保有率は69.1%である。特に高齢層においては、パソコンでインターネットを利用している人は70歳代で31.4%、80歳以上は11.3%である。さらには、FAXや電子メールなどにより、公正証書の内容確認が可能な人であっても、公正証書作成時には公証役場に赴く必要がある。公証役場から遠隔地に住む人にとっては、公証役場への移動は大きな負担や危険を伴うおそれがある。また、地方法務局支局において公証事務を取り扱っていることについては、公証事務の取扱いがある地方法務局支局のホームページにも取扱業務として掲載されていない状況であり、必ずしも十分な周知がなされていない状況において、利用件数が少ないことを理由として公証事務の取扱いを廃止するのは相当でない。」と述べています。

6 法務局からの説明等経緯

 ・ 令和2年2月18日、法務局から同年7月1日をもって小浜支局の公証事務取扱いが廃止されること及び廃止理由について第一報がありました。併せて、小浜支局で保存している公正証書原本等を当役場に移管することが可能であるかの打診がありました。この第一報を受けるまでは小浜支局の公証事務取扱い廃止については全く知りませんでした。

 ・ 小浜支局が保存している公正証書原本等の量は、6段キャビネットの4段分であることが分かり、当役場倉庫での保管が可能であることからから受け入れることとしました。

 ・ 4月8日、法務局から、4月中に士業団体(県弁護士会、県司法書士会、県行政書士会)、小浜支局管内市町及び関係士業団体並びに金融機関への説明を開始するとの連絡がありました。

 ・ 4月21日、法務局から士業団体等への説明は全て終了したこと、折衝・説明の過程で強い反対はなく、スケジュールどおり行うことができた旨の連絡がありました。

 ・ 6月30日、小浜支局保存文書が当役場に移管されました。

7 小浜支局取扱事件数等

  ・  小浜支局で平成27年から令和元年までの5年間に取り扱った事件数は、公正証書が59件(年平均約12件)、書面定款認証が29件(年平均約6件)でした。公正証書59件の内訳は、遺言40件、賃貸借8件、離婚5件などで、尊厳死宣言、死後事務委任が各1件ありました。

 なお、遺言の大半は、特定の士業資格者が嘱託人を支援して作成したものであり、書面定款認証もほぼ特定の士業資格者が代理人として嘱託したものです。

 ・ 小浜支局での取扱件数は、移管された証書原簿で確認して初めて知りましたが、私の想像よりは少ない件数でした。小浜市在住の方から電話で相談を受けているときに公正証書を作成するには敦賀まで行かなければならないのかと問われることがあり、小浜支局でも取り扱っている旨説明していました。その方は支局に問い合わせると返答していましたので、支局で作成しているものと思っていたからです。

8 移管後

 ・ 令和2年7月1日以降、同年11月25日までに、移管された原本の謄本交付請求が2件ありました。

      証明文は、次の文例(「公証事務」120ページ、文例25)により作成しました。この文例で作成することについては法務局に確認しました(法務局は民事局に照会し、回答を得たとのこと。)

     この謄本は、平成〇〇年〇〇月〇〇日、本公証人役場において、

   原本に基づき作成した。

    役場所在地

      〇〇法務局所属

         公証人       署名 印

 ・ 小浜市役所から当役場までの距離は一般道で約45㎞、同舞鶴公証役場までは約43㎞とほぼ同距離です。また、隣接するおおい町役場(当役場まで約58㎞、舞鶴まで約30㎞)、高浜町役場(当役場まで約65㎞、舞鶴まで約22㎞)からは舞鶴公証役場に行くのが至便です。人口が少ない市町ですが、公証役場を利用したい人のために舞鶴公証役場との連携が必要で、この点については、舞鶴公証役場関谷公証人と情報共有しています。

民事法情報研究会だよりNo.47(令和2年11月)

菊の香漂う霜月を迎えましたが、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 皆様ご承知のとおり、去る7月18日に当研究会会長の野口尚彦様がご逝去されたこと等に伴い、本だよりの発行が滞っていたことを、この書面をお借りしてお詫び申し上げます。引き続きのご愛読をよろしくお願いいたします。
 GOTOキャンペーンなど、人々の行き来が活発化する中で、新型コロナウイルスの流行は、いまだに終息の気配を見せない昨今でありますので、まだまだ気持ちを緩めてはならないと思う毎日です。(YF)

今 日 こ の 頃

   このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

野口さんのこと(小畑 和裕)

1  野口さん(当協会前理事長)が亡くなられた。訃報に接したとき、悲しさよりも悔しさで胸が一杯になった。何で、どうして今なのか、神は酷いことをされるものだとの思いが溢れた。かねてから肺に疾患があり、闘病されていることは承知していた。しかし、当協会の業務は普段通りこなされていたし、出会っても病が重く辛いというような気振りは全く感じなかった。また、亡くなる直前まで研究会便りの原稿について協議していたが、いつも通りの様子だった。以前から病気の状態をお聞きしていたが、まさかこんなに早くお亡くなりになるとは想像すらしていなかった。

2  野口さんと初めてお会いしたのは、昭和54年の春だった。当時私は、民事局第五課(現民事第一課)から、4月1日付けで第一課(現総務課)一般予算係に転勤を命ぜられた。当時の予算係は係長3名と係員1名の4名体制だった。野口係長は、同日付けで同じ第一課の法務局係長に昇進され、事務官だった岩倉さん(故人)が係長に昇格、私は岩倉さんの後任に配置換を命ぜられたのだ。その際、野口さんが担当されていた業務の一部を引き継いだ。引き継ぎ資料を見て吃驚した。資料は、精緻を極め、詳しくかつ分かり易かった。完璧だった。予算事務は一年がルーチンワークの単位であるため、月ごとに処理すべき仕事の内容がきちっと一覧表で整理されていたし、予算要求の要点や執行上の留意事項が纏められていた。特に新鮮な驚きだったのは、予算と執行の効果をグラフで表すなど、見事なものだった。余りにも立派な資料なので、この先、予算事務が私に務まるのか不安を覚えるほどだった。幸い、野口さんは隣の部屋におられたので、しょっちゅう伺ってお教えを乞うた。私の愚問に対して優しく、丁寧に教えて頂いた。野口さんの説明は疑問点をきちんと捉え、説得力があるものだった。
   一方、趣味は多趣味だった。岩倉さんが碁敵であった。対局は昼休みを利用して毎日行われた。しかも、1局の所用時間が短く、昼休み中に2局も3局も戦っておられた。勝負が昼休み中につかないときは碁石の配置をそのままにして保管し、勤務時間外に持ち越して戦っておられた。両先輩の対局は毎回大勢の観客を集めた。麻雀も職場の仲間と盛んにされていた。大勝ちされたり、大負けされたりしたという噂は聞いたが、詳細は承知していない。カラオケも上手で、私はいつも野口さんに「いい日旅立ち」をリクエストした。

3  野口さんはその後、松山地方法務局の供託課長に異動された。供託事務を行う傍ら、国立愛媛大学では教鞭をとられてもいた。職員との交流も盛んだった。四国八十八カ所の札所を自家用車でお参りされたとか、得意の囲碁では局内で優勝されたということもお聞きした。松山局勤務を終えて再び民事局に帰ってこられてからは、登記事務のコンピュータ化に尽力された。当時の民事局・法務局の最大の課題は登記事務のコンピュータ化であった。特に、予算要求における最重要の課題は、コンピュータ予算の確保であった。野口さんはこの事務の実質的な責任者であり、中心的・精力的に働いておられた。膨大な資料の作成や関係省庁や多方面に渡ってコンピュータ化制度の必要性等を説明するなど、まさに獅子奮迅、の活躍であった。

4 法務局を退職後も、超繁忙庁の公証人として活躍された。私も公証事務の疑問点について数々の教えを頂いた。公証役場の事務が繁忙であるにも拘わらず、適切で素早い回答を頂くと共に、資料等を送付して頂いた。その後、当協会の初代理事長として活躍されたことは会員の皆様がご存じの通りである。総会や理事会の運営、研究会だよりの編集、納税や登記関係、ホームページの管理等大変な業務を熱心に努められた。これらの仕事はすべてボランテイアとして精力的にこなされた。まだ数ヶ月しか経っていないが、未だに亡くなれたことが信じられない。長い間お世話になったお礼を述べる機会もなく亡くなられてしまった。
今はただ衷心よりお礼を申し述べ、ご冥福をお祈りいたします。
野口さん、ありがとうございました。                了

四万十暮らし(竹中 章)

3年前、神奈川の自宅からJR、私鉄、羽田空港から航空機、高知駅からJR、そして第三セクターの土佐くろしお鉄道と乗り継ぎ、約7時間をかけて四万十市へ到着(乗り継ぎが悪い時間帯を利用してしまったようです。)、首都圏から高知県西端の町まではいかに遠いかを実感した次第です。
1 土佐の小京都 中村
 四万十川流域は平成21年、流域全体が文部科学省の「重要文化的景観」に選定されています。中村は、市街地が四万十川と後川に囲まれ、京都鴨川と東山の地形的に似ており景観に恵まれているだけでなく、歴史的にも室町後期に一条家がこの地に入り町が形成されてきたことから、昔から土佐の小京都と呼ばれています。
 関白一條教房が応仁の乱の戦乱の際、1468年に中村の地に下向し、その後、戦乱が終結してからも京都には帰らず幡多の庄(荘)を直接支配することで京都の本家を再興する道を選んだということのようです。
 高知の西端、四万十・宿毛・土佐清水付近は「幡多地方」と呼ばれています。この付近は中世の頃、「幡多の庄」と呼ばれ、一条家の荘園があったそうです。一條教房が中村までやってきたことについては、諸説あるようですが、戦乱を逃れてきたことには間違いないようです。ただ、戦乱を逃れるためであれば、何も遠方の土佐の西端まで行くことはないと思いますが、一説では、戦乱によって畿内や付近の荘園からの年貢が入らなくなって、苦しい一家の経済を少しでも豊かにするために、有名無実となっている「幡多の庄」を回復して、荘園としての実績を挙げようとしたとのことです(中村市史より)。
教房、その子房家は、中村の町づくりに励み、鴨川や東山など京都に見立てた地名やゆかりの神社などがあちこちに残っており、大文字の送り火など、京文化の名残もあります。一昨年(2018年)は、一条家が応仁の乱を機に下向して以来550年を迎えたことから、年間を通じて「土佐の小京都550年祭」が開催されました。

2 四万十の気候
 高知県といえば温暖な気候と思われがちです。
 しかし、当所に赴任してから毎年のことではありますが、今夏も梅雨明け後猛暑に襲われました。平成25年8月には、西土佐地区で41℃台を記録し、それまでの日本の最高気温の記録を塗り替えるなど、観光地として以外でも有名となったところです。今年も、8月に入ってからは3日連続、通算4回も最高気温日本一となるなど、NHKの全国放送などで何回も報道されました。今夏、四万十市内で35℃以上の猛暑日となったのは26日間、かなり耐え難い日々を送ってきました。また、冬は雪はあまり降らないもののことのほか寒く、1月の平均気温は0℃台となっています。
 高知県西南端の土佐清水市は、夏の平均気温は30℃に達しておらず、今年も35度を超えた日は1日しかありません。冬も氷点下に下がることはほとんどなく1月平均気温は5℃台であり、過ごしやすい所のようです。ところが、土佐清水市に隣接しているにも関わらず四万十市は地形のせいでしょうか、冬は寒く、夏は暑く、とても温暖な気候であるとは言い難いところです。ただ、山紫水明の美しい景観に恵まれたところです。

3 新型コロナ禍
 幡多地方には史跡や歴史を感じさせる地域の催し、また、金剛福寺(四国八十八箇所38番札所)、延光寺(同39番札所)、四万十町には岩本寺(同37番札所)、愛媛県愛南町には観自在寺(同40番札所)があります。四国最南端の足摺岬、最後の清流と言われる四万十川の数多くの沈下橋、柏島では沖縄より素晴らしいともいわれる海底まで透き通る海水など、いろんな景色を楽しむことができます。着任以来、時間を見つけては、これらに足を運び、また、途上にある「道の駅」を訪れ地元の物産(主に農産物)を購入するなどして観光を楽しんでいました。
 しかし、新型コロナウイルスの感染の蔓延、特に「幡多地方」においては3月末に最初の感染者が確認されて以後、一気に20人を超える感染者が発生しました。10万人当たりに換算すると30人近くに上り、東京都に匹敵するような状況となりました。今は落ち着いているものの、新型コロナ感染発生以来出歩くことは避け、「幡多地方」から外へ出ることはもちろん、市内から出ることもせず、ほぼ職場と家と間の往復のみとなり、休日は家に籠もる生活となってしまいました。
 役場では受付、打合せテーブルはアクリル板で仕切り、来客にはマスクを着用して対応し、来客後はドアノブ、テーブルなどのアルコール消毒、換気を行い、十分なコロナ対策をしているところです。早く収束することを願っています。

民事法情報研究会だよりNo.46(令和2年8月)

 新型コロナウィルスの影響で、ようやく最小規模で実施した会員総会以外、予定した前期の行事は中止となりましたが、会員の皆様には、いかがお過ごしでしょうか。
 さて、大先輩の川上先生から、少なからず感動を覚える内容のご寄稿をいただきました。川上先生ご夫妻のご多幸を心よりお祈りいたします。(NN)

今 日 こ の 頃

   このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

  鳩寿を迎えて(川上富次)  

1 令和2年は、新型コロナ対策の方針に則って完全隠居生活を余儀なくされました。 
 私は専ら庭の片隅の家庭菜園での野菜作りを楽しみました。
 或る日、一羽の雉鳩がやって来て、作業中の私の周りをうろゝゝ、そのうちに飛び去っていくという日が何日か続き日課のようになりましたがいつしか来なくなりました。
 あの雉鳩は今どうしているだろうと考えているうちに題が“鳩寿を迎えて”となった次第です。

2 閑話休題、私は毎朝、十畳の床の間の「和歌清寂」(掛軸)とその隣室の向い床に掲げた「日新日々新」(縦額)を眺めます。
 いずれも不帰の客となられた香川保一先生に揮毫をお願いしたものであります。
 「書はその人を表す」と申しますが、字の奥底から滲み出てくる温もりや厳しさが感じられ、ふと目を上げると掛物の先生と目が合ったと思えることがあります。
 あの和顔で「奥さん、絵描いとられるか」「奥さん大事にして豊かな人生を満喫しろよ」との声が聞こえてくるのです。
 ご生前、先生は、筆を執る時は朝気持を落着け心身共に集中して机に向かう、とおっしゃっておられました。
 「日新日々新」の額は公証役場に掲げていて持ち帰ったものですが、あの「原爆の図」を描いた画家の丸木位里・俊夫妻が来庁の際、じっと見入って「この字は自分の字ですね」つぶやいておられたことが思い出されます。
 先に、十畳の床の間云々と申し上げましたが、拙宅は築62年の陋屋です。
 50歳の時、もう少し伸び伸びとした心で万事に広い視野が持てればと念じて増築した2階の和室ですが、さて、成果の程はどうでしょう。

3 荊妻の話が出たところで“糟糠の妻”について少々触れたいと思います。
 平成20年5月、二人の結婚50年を記念して、いわゆる金婚式を内々の親族で催しました。
 私は妻に贈る詩として次の様に披露しました。
  ― 金婚を記念して贈る詩 ―
 「長い間、仕送りをありがとう。あんたのことは忘れんからね。」
 と妻に感謝の言葉を残して百一歳の母は逝った。
  私の妻は律儀な人です。
 「この絵は私を元気にしてくれます。」
 とガンを患う婦人が妻の絵を求めて帰った。
  私の妻は芸術の人です。
 「私は声は出ませんが涙は出ます。」
 と老人施設の人が妻達のコーラスを聴いてつぶやいた。
  私の妻は情熱の人です。
 「三人の子を産んで育てたのは、あんたの手柄じゃ!」と妻の母が言っていた。
  私の妻は愚痴をこぼさない人です。

 その後、平成30年5月、87歳の時、今度は結婚60年、いわゆるダイヤモンド婚記念の日となりました。
 私は「ダイヤは高価で未だにプレゼントしたことはありません。今日は、ダイヤに優るものをプレゼントします。」と言って、
『恋女房、60年経っても恋女房』と蛮声を張り上げ、娘や孫達の失笑と朗笑をかいました。

4 私は、令和3年1月15日で満90歳を迎えます。
 「90才。何がめでたい」(佐藤愛子)という書籍がベストセラーとなったことがありましたが、私は、“めでたい”というより生かされていることの尊さ有難さに深く思いをいたすばかりです。特に昭和一桁半ば生まれは生涯、あの戦争で、祖国のため、家族のために散華された方々の「きけわだつみのこえ」「英霊の言乃葉」から離れることはできません。
 残されたこれからの人生、瓦はいくら磨いても鏡にはなりませんが、最後までせっせと磨き続ければ静かに終わりを全うすることができるのでは、と思っています。

 

  三つの顔(永井行雄)  

桜の季節が終わるころ、福岡市を車で出発し、九州自動車道に乗って南に向けて走る。目的地まで約300キロ、先は長い、ゆっくり行こう。途中、以前住んだ久留米や熊本を通過するとき、その当時のことが懐かしく思い出される。出発しておよそ200キロ、長いトンネルを抜けると雄大な霧島連山の山並みが目に映る。そこから宮崎自動車道へと進路を変更する。標高300メートルの山間を抜ける高速道路で車の数は少ない。しばらく走ると、右手に広大な盆地が現れた。その町のインターを下りて国道を南下していると、途中、大きな川のゆったりとした流れと、緑一色に彩った河川敷をランニングしている人の姿が目に入る。そして、インターから15分ほど走っただろうか、右手に都城公証人役場という建物が見えた。ここがこれから仕事をする場所である。緊張感と同時に、土地も人も知らない、大丈夫だろうかという一抹の不安にかられる。

 これは私が今から7年前にこちらに来たときの印象や心境である。この地は酪農が盛んで、宮崎牛は全国ブランドになっている。焼酎の生産量は全国一で、霧島連山からの豊富な湧水が町全体を潤し、米や野菜も美味しい。そして、何よりも土地の人は情に厚い。とても住みよいところである。
 ただ、この地での任務もたいぶ終わりに近づいてきた。そこで、これまで試行錯誤を繰り返しながらであるが、自分なりにイメージする公証人像について思うところを少し紹介させていただくこととしたい。

 公証人には、次の三つの顔が必要だと思っている。

1 法律専門職としての顔

 公証人の主な仕事は公正証書の作成である。公正証書は、証拠力・執行力を有し、国民生活の中で大きな役割を果たしている。したがって、公証人には、高度な法律的知識が求められることは言うまでもない。しかし、日頃の勉強不足がたたって、公証人になった当初は戸惑うことが多かった。どこを紐解けばよいのかが分からない。ところが、仕事は入ってくる。もたつく、焦る。あちこちの先輩公証人に電話を掛けまくって、教えていただいた。参考書もいろいろ買ったが本には相性がある。読みにくい本は途中で読むのを止めて、他の本を買ったりもした。ただ、弁護士や司法書士などの法律のプロから持ち込まれる案件で不明なところは、しっかり調べるようにした。頼りない公証人と思われると後々の仕事に差し支えると思ったからである。
 新米の頃は、失敗もあった。債務承認弁済契約で債権者(甲)と債務者(乙)の署名が逆になって、後で気がついて追いかけたこと。また、出張遺言で遺言者に遺言書正本と謄本を渡さなければならないのに、渡すのを失念して役場に持ち帰ってしまったこともある。法的なことでは、私が作成した遺贈の公正証書の記載内容について、包括遺贈か特定遺贈かの解釈を巡って税務署と見解が対立したこと。もう一つは公証人には押収拒否権があるので、警察が令状をもってきても無条件に応じることはできないことなどである。いずれも先輩公証人の適切な助言を得て対処することができた。
 今、新しい制度がどんどん入ってきている。頭で理解することは重要であるが、実務に使えるような独自の工夫が大事だと思う。私は、新制度が入ってきたときは①まず読み込む→②実務の観点から要旨骨子を引き抜きシンプル化する→③自分用の執務資料(ビジュアル化)を作成する、といった方法を採っている。参考書や日公連からの資料に付箋をつけても、いざというときになかなかそこを見つけ出せない。もっとも、最近は横着になって、後輩公証人に「こういった資料があったらいいだろうなぁー」と暗に作成を示唆して、いいとこ取りをする技が身についてきた。被害に遭った方には、紙面をお借りしてお詫びする。
 ちなみに、保証意思宣明公正証書については、依頼者や金融機関への案内ペーパー(両面印刷1枚)を作成した。また、4月中旬には書記と相談しながら、テレビ電話による電子定款認証マニュアルをビジュアル的に作成した。これを近隣の公証人にも提供して、互いにリハーサルをやってみた。

2 地域人としての顔

公証人は地域に定着して仕事をする。正に地域の一員である。私は、縁あって、都城市が高齢者・障がい者の権利擁護のために発足させた都城市成年後見ネットワーク会議の委員として6年半、そのうち会長を三期5年務めた。委員は弁護士会、司法書士会、公証人役場、保健所、警察署、消費生活センター、地域包括支援センター、社会福祉協議会、社会福祉士会、精神保健福祉士会など12の機関の専門家で構成されている。しかし、専門家集団の組織運営はなかなか難しい。皆プロである。当初はかなり苦労した。指示命令では絶対に動かない。思い出すのが、初めての行事として成年後見シンポジウムの開催について総会に諮ったところ、医療系の委員の猛反対にあってしまった。その委員は実務経験が豊富で皆が一目置く人物である。「しまった。事前に意見を聞いておけばよかった・・・。」と思った。ただ、賛成する委員も何人かいたので、とりあえず試行的にやってみようということで何とか収まった。そこから続きがある。その猛反対した委員に頭を下げてパネリストをお願いし、無理矢理引き受けてもらった。すると、その委員は大活躍してくれたのである。本当に立派な方である。この組織を運営する上で気をつけたことは、情報の共有化・全員参加型の運営と、市民の目に見える活動・達成感の共有である。そのため皆の意見を聞きながら運営するように努めた。素晴らしい見識を持った人たちである。こういった人たちとの人的ネットワークができたのは何よりの財産である。

 主な活動としては、委員合同による市民相談会、講演会、成年後見シンポジウム(3回)、記録誌の発行、各地域に委員が出向いて地元の方々との意見交換会、委員全員の執筆による「高齢者・障がい者支援のためのハンドブック」の発行や、全国に先駆けて「都城市成年後見制度利用促進基本計画」を策定し、逐条解説を加えた冊子を発行したこと、宮崎家庭裁判所や関係機関との情報交換会などである。こういった機会を通じて任意後見制度をしっかりアピールした。そのかいあってか、任意後見契約の件数が近年伸びた。ちなみに、昨年は150件処理した。移行型の任意後見契約は市内の金融機関にもかなり浸透し、中にはお客さんにこの制度の利用を勧めてくれる銀行もある。

3 経営者としての顔

 公証人は、法務大臣から委嘱された公務員である一方、依頼者からの手数料収入で役場を運営する個人事業主である。つまり経営者なのである。経営者には経営理念が必要である。
 そう言う私に初めから経営理念があったわけでない。
 あるとき、いつも利用している銀行に行ったときのことである。顔見知りの窓口担当者が私のところに来て「支店長が替わったので、支店長にあいさ つをさせます。」と言って、私のところに支店長を案内してきた。すると、支店長はカウンター越しでなく、わざわざ待合室に出て、名刺を差し出し、あいさつをされた。なるほど、こういったやり方をするのだなと思った。私はカウンター越しにやっていた。この日を境にやり方を変え、同時にこれを応用した。どう応用したかというと、依頼者が公正証書の作成を済ませて帰るときには、私がカウンターの外に出て、「ありがとうございます。」とお礼の言葉を述べ、書記も立って見送るようにした。また100歳くらいの人が来てくれたときには、車のところまで行って、手を振って見送る。すると笑顔で手を振ってくれる。気持ちがいい。
 公証人は依頼者から貴重なお金をいただいている。「ありがとうございます。」は当たり前である。しかし、それができていなかった。「お疲れ様でした。」という言葉は出ても、「ありがとうございます。」という言葉が出なかったのである。新しい世界の人から学ぶことは多い。
 それと、もう一つは、こちらで受けた人間ドックをきっかけに、信頼できるドクターに巡り会った。そのドクターのお陰で25年来の肝機能障害が改善できた。それでも念のため2か月におきに定期検診を受けている。そのドクターは診察が終わると、次の診察日の予約を入れましょうと言って、自らパソコンに日にちを入力するのである。普通の医者は「また2月くらい先に来てください。」だと思う。しかし、これだと症状が改善しないなど何かなければ、受診に行かない。また先でいいや、ということになる。だけど人間は不思議なもので、予定が決まるとそれを守ろうとするのである。医者にとって患者は客である。都城は特に病院が多い。これが客を逃がさない一つの方法だと思った。
 そこで、私もこの方法を採り入れることにした。遺言の相談を受けると、作成日を決める。その日から逆算して書類を持って来てもらう日を決める。以前は「書類がそろったら持って来て下さい。」というやり方であった。これでは先の見通しが立たないし、依頼者もつい先延ばしにして、中には遺言書作成に至らないケースもある。依頼者は遺言書を作るために相談に来るのである。あなたの依頼はきちんとお請けしましたという意思表示が必要である。そのためにはスケジュールを示すことが大事であるといえる。この方法は依頼者に安心感を与えると同時に、客を逃がさない一つの方法にもなる。
 そして、遺言の依頼があった場合、話の内容によっては任意後見制度を案内している。依頼者にとって何がベストかということを念頭に置くよう努めている。ひいてはサービス向上につながり、公証人役場に好印象をもってもらうと口コミでお客が増える。そうすると役場の経営の安定につながるのである。
 したがって、経営理念は、お客様に感謝すること、お客様の立場に立つこと、そして、笑顔である。
 お客様、地域の人たち、そして、日々の業務を支えてくれる優秀な書記、こうした方々に心から感謝するとともに、一日も早く新型コロナウイルスの感染が収束し、平穏な日々が戻ってくることを願って、筆をとった夏の日である。

  広報活動重点地域に指定されて(関谷政俊)  

1 平成31年4月、日公連から当舞鶴公証役場が平成31年度広報活動重点地域に指定されました。ご存じの方も多いと思いますが、この事業の目的は「嘱託事件が少ない地域で、広報活動の強化により嘱託事件の増加が見込まれる地域、その他特に公証人の公益的な姿勢を国民に広く理解してもらい、嘱託事件の掘り起こしを図ること」と定められています。広報活動の内容として、①講演会の開催、②公証相談員の派遣、③ポスター及びチラシの配布などが示されています。

2 舞鶴公証役場がある舞鶴市は、京都府北部日本海側に位置し、人口8万人弱の地方都市です。舞鶴市は、宮津市、綾部市と隣接し、また福知山公証役場がある福知山市と隣接しています。舞鶴市は、戦後、引き揚げ港に指定され、ソ連、満州、朝鮮などからの帰還邦人を受け入れたこと、海上自衛隊舞鶴基地(総監部)、海上保安学校があることから、地方都市ですが知名度は割合と高い方である思っていますが、基幹産業に乏しく高齢化が進み、人口減少が進んでいます。 舞鶴市は、この事業の目的にある「嘱託事件が少ない地域」には該当しますが、「広報活動の強化により嘱託事件の増加が見込まれる地域」に該当するかはなかなか難しいところがあります。
 舞鶴市は、この事業の目的にある「嘱託事件が少ない地域」には該当しますが、「広報活動の強化により嘱託事件の増加が見込まれる地域」に該当するかはなかなか難しいところがあります。

3 当役場では、以前から広報活動として、京都府北部の舞鶴市、宮津市、京丹後市において自治体の協力を得て、公証相談会(平成30年度20回)、市民講座における講演会等(平成30年度3回)を実施していましたが、今回、広報活動重点地域に指定されたことから、従来の広報活動に加えた活動を検討することとしました。

4 広報活動重点地域に指定される約2か月前、平成31年1月28日付け日本公証人連合会理事長通知「隣県等における公証相談について」が発出されました。この隣県等における公証相談は、「公証人が職務執行区域外の隣県等に赴いて公正証書の作成等を行うことはできないが、地域によっては、住民が居住する県等の公証役場ではなく、隣県等の公証役場に赴く方が、近くて交通の便も良く、利用しやすい場合もあるので、利用者の便宜の観点から隣県等において公証相談を行うことができる。」とするもので、実施に際しての条件として、隣県等の単位公証人会との間で十分なコンセンサスが得られること、所属法務局及び隣県等の地方法務局に対し事前に通知することなどが示されました。

5 舞鶴市に隣接する、福井県高浜町(人口約1万人)は、同町役場から舞鶴公証役場まで一般道を利用して乗用車で約35分(約23㎞)で来ることができますが、同町役場から県内最寄りの公証役場である敦賀公証役場まで一般道を利用すると約1時間30分(約65㎞)を要します。また、以前から同町民から少ない件数ですが公正証書等の作成嘱託を受けていました。

6 広報活動重点地域に指定されたことに伴う新たな広報活動として、隣接する福井県高浜町において講演及び公証相談会を実施することとしました。
 敦賀公証役場小野公証人に内諾を得た上、公証週間がある令和元年10月に開催する予定とし、開催場所等の詳細を検討している最中に、高浜町において原発関連不祥事について報道されたため、その影響を考慮して令和2年3月に開催することとしました。

7 多くの町民の方に公証制度を理解していただくために、公証相談会のほかに、ミニ終活講座として遺言に関する講演会を実施することし、令和元年11月、面識のある高浜町商工会職員から開催場所等についての情報を収集し、駐車スペースが十分確保でき、無料で会場を借りることができる高浜町公民館を会場とすることとし、令和元年11月29日、高浜町公民館と打ち合わせし、会場の予約・申し込み(令和2年3月4日開催)を行いました。また、町民の皆さまへの広報として、同じく小野公証人から紹介された高浜町広報担当者と令和元年12月に広報誌への掲載について打ち合わせを行い、令和2年1月15日、高浜町長に対し、広報誌への広報依頼文書を発出しました。その結果、令和2年3月号(2月28日発行)に掲載されました。さらに、高浜町商工会職員に広報への協力をお願いし、令和2年1月15日、高浜町商工会に広報用チラシ(会員数約300人分)を持参し、会員宛の広報冊子に同封していただくことになりました。その他、令和2年2月7日、日公連事務局に対して日公連ホームページへの登載を依頼し、令和2年2月19日、高浜町公民館に広報依頼(窓口にチラシ50枚を備え付け)も行いました。
 なお、福井公証人会、京都地方法務局及び福井地方法務局に対する事前説明等については、京都公証人会において行っていただきました。

8 原発関連不祥事により開催時期を変更した以外は、福井公証人会の御理解、京都公証人会、高浜町、高浜町公民館、高浜町商工会の御協力、小野公証人ほか関係者の御尽力のおかげで隣県での広報活動の実施について順調に準備することができました。
 ところが、本年2月20日、厚生労働省から「イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ」が発表され、24日には専門家会議において「この1~2週間の動向が感染拡大の瀬戸際である」とされたため、高浜町においては各種イベント等の開催が中止される状況となりました。2月27日(木)高浜町から当役場に対し、2月29日(土)高浜町公民館から講演会等の実施予定について照会がありました。高浜町公民館からは会議室の使用を禁止はしないとのことであったので、総合的な見地から判断し、急遽3月2日、講演会については中止することとし相談会のみを実施することにしました。高浜町及び日公連のホームページにおいてその旨を広報していただきました。
 相談会開催当日の3月4日は、感染拡大防止のため外出を控える傾向が強まっている中、雨も降り、相談に来られる方がいないのではないかと心配しましたが、2組の相談者が訪れ、相談担当として京都合同公証役場から来ていただいた天野公証人及び会場設営兼受付担当の書記の方と胸をなで下ろしました。

9 今回、新たな広報活動として、隣県での講演会等を企画しましたが、新型コロナウィルスの影響により、その対応を即断する必要が生じ、講演会及び公証相談会を当初予定の内容のとおり開催することもできず、十分な成果を上げることはできませんでした。しかし、町広報誌への掲載及び商工会会員宛冊子へのチラシ同封などによる公証制度の周知という点では一定程度の成果はあったと思っています。
 また、日公連から示された、隣県等における公証相談のスキームに従って、企画・立案し、各所との打ち合わせ、調整など公証人以前の仕事での経験を活かすことができ、公証業務を行うこととは違う意味で充実した日を過ごすこともできました。講演会は実施できませんでしたが、講演会周知用チラシの作成は、新鮮な感覚で行うことができました。

10 広報活動重点地域に指定された昨年度は、公証相談会(21回)、市民講座における講演会等(5回)、隣県での相談会を実施できました。 
 この事業の目的である、広報活動の強化はある程度図ることができたと思いますので、今後は、嘱託事件の掘り起こしを図って行きたいと思います。当然のことですが、隣接公証役場の嘱託事件を減少されることなく、総数の拡大を目指すものであることを申し添えます。

  9ヶ月が過ぎて(醍醐邦治)  

 厚木公証役場(神奈川県厚木市)の公証人に任命されて、早くも9ヶ月が過ぎました。就任前の見通しとは大きく異なり、依然として仕事に追われる日々が続いています(ここ数ヶ月は新型コロナウィルスの影響で遺言の作成、外国文認証を中心に業務量全体が大きく減少していますが、4月から施行された「保証意思宣明公正証書」の作成は予想に反して多くの依頼があります。)。改めて、公証事務の範囲の広さ・深さを実感するとともに、自分自身の知識・勉強不足を痛感することが多く、一方で疑問等に親身になって応えてくださる諸先輩先生方の存在は大変心強く、深く感謝しているところです。

 ところで、公証役場がある神奈川県は、今まで法務局での勤務がないばかりか、自宅のある千葉県とは東京湾を挟んで反対側に位置していますが、これまで、同じ関東の他県と比べると、意外とプライベートでも訪れる機会が少なかったように思います。  神奈川県は、東京都に隣接し、横浜市・川崎市(この二つの市で人口500万人を超え、神奈川県全体の半数以上を占めています。また、横浜は中華街をはじめ異国情緒溢れる港町で屈指の観光スポットです。)といった大都市を擁する一方で、鎌倉幕府誕生の地で歴史情緒あふれる鎌倉(シンボルともいえる大仏やあじさい寺で有名な明月院などがあります。)、日本有数の温泉地である箱根・湯河原、景勝地の江ノ島、マリンスポーツのメッカとして、また、風光明媚な地として四季を通じて賑わいのある湘南海岸など、豊かな自然と歴史・文化に恵まれた地域が多く、まさに見所満載です。縁があってこの地で生活することになりましたので、この機会に近くて意外と遠い存在であった神奈川県の各地を、ゆっくり楽しみたいと思っています。

 ここで、公証役場の所在地であり、私の生活の拠点でもある厚木市について、若干触れますと、同市は神奈川県の中央に位置し、6市2町1村に接しています。都心から約40㎞(電車で約1時間)、横浜から約30㎞(電車で約30分)の圏内にあり、小田急線のほか東名高速道路や新東名高速道路、圏央道、小田原厚木道路のインターチェンジがあるため、東京・名古屋方面はもとより長野県や群馬県などからもアクセスが容易で、地理的条件に恵まれています。ちなみに「厚木」と聞くと「厚木基地」のイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、「厚木基地」は隣接する大和市、綾瀬市及び海老名市の3市にまたがって立地しており、厚木市にはありません。厚木にはないのになぜ「厚木基地」というかは諸説ありますが、どれも確証がなくハッキリしていないようです。

 都心から比較的近い距離にある厚木市ですが、丹沢山系の東端に位置しているため、郊外に出れば深い緑の自然が広がっています。市内から車で15分ほど走ると、本格的な温泉(飯山温泉郷、七沢温泉郷)があり、素朴な一軒宿から老舗旅館まで個性ある温泉宿が点在し、いずれの温泉も強アルカリの泉質で肌をつるつるに整えることから「美人の湯」として有名です。週末には、食事を兼ねて日帰り温泉に行くことが楽しみの一つになっています。
 ちなみに、役場へは、市内にマンションを借りて通っていますが、マンションの西側には丹沢国定公園の一角をなす大山(「おおやま」と読みます。古くから庶民の山岳信仰の対象として親しまれていたようです。)を眺めることができ、四季を通して様々な表情を見せてくれています。毎朝、一日の無事をお願いして出勤しています。

 忙しい中でも、そんなことを思いながら厚木での生活を送っていましたが、今般の新型コロナウィルスの感染拡大によって、状況は大きく変わりました。
 まずは、役場の事業者として報道機関や日公連等からの情報をもとに、3人の書記さんと役場の勤務体制や事務処理方法などについて話し合い、ハード面、ソフト面にわたって出来る限りの感染防止策を採ってきました。当初は、マスクや除菌・消毒剤等が極めて入手困難な状況が続きましたが、そんな中で、ドラッグストアの前に長時間並んでマスクを購入し、また、自宅で入手したフェイスシールドを持って来てくれた書記さん達には、本当に感謝しています。これをきっかけに、書記さん達との一体感もさらに醸成されたような気がします。

 5月25日には緊急事態宣言が全国で解除され、また、6月19日には県をまたぐ移動の自粛要請も全面解除されました。これを待ち望んでいたように、街には以前の賑わいが急速に戻って来ています。厚木市内には、大学4校、短大1校、専門学校7校があり、同市の昼夜間人口比率(常住人口100人当たりの昼間人口の割合)が115%と非常に高いことなどからも、この傾向が顕著に現れている気がします。併せて、小さな「夜の街」も動き出しています。

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではありませんが、依然として大都市を中心に全国各地で感染者が報告されている状況からすると、第2波、第3波の襲来が心配です。現在、世界中で新型コロナウィルスの治療薬やワクチンの研究開発が進んでいますが、少なくとも有効な治療薬等が開発されるまでは、直ちにこれまでの日常に戻ることはできません。それまでの間は、適度な緊張感を持ちつつ、これまで実施してきた新型コロナウィルスの感染防止策や「新たな生活様式」の実践例を意識し、油断することなく粛々と生活の中に取り入れて行動することを、日々心掛けています。当初、煩わしく感じていたことも、慣れてくると余り苦にならなくなっているように思います。
 いずれにしても、しばらくは一定の我慢が求められますが、その中でもストレスを溜めないように工夫し、趣味や旅行など、今できること・やりたいことを一つ一つやって行こうと思っています。

実 務 の 広 場

   このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

  No.80 テレビ電話による電子定款認証手続について  

1 はじめに
 現在,テレビ電話による電子定款認証制度が導入されていますが,全国的に取扱事件数が伸び悩んでいた状況に鑑み,法務省民事局においてテレビ電話の利用を更に促進する観点から,令和2年5月11日に関係省令の一部を改正する省令が施行されました。このような折も折,新型コロナウイルスの影響が世界全体を席巻し,日本でも緊急事態宣言を経て新しい生活様式が公表されるなど,感染防止対策上,このテレビ電話による活用の意義が高まることになってきました。
 そこで,決してパソコンに精通しているとは言いがたい私が,今回,テレビ電話による電子定款認証手続について,取りまとめた内容を紹介させていただきます。

2 テレビ電話の導入経緯・対応そして問題点
 ご承知のとおり,平成31年3月29日から,「指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令の一部を改正する省令」が施行され,法人設立手続のオンライン・ワンストップ化の取組として,一定の要件を満たす場合には,公証役場に行かなくてもテレビ電話で本人確認を受け,電子署名を自認することにより,認証を受けることが可能となりました。その事前準備として,日本公証人連合会からは,テレビ電話に関する説明資料,パソコン用のカメラやヘッドセットの送付があり,また,全国統一した電子認証サービスを提供しなければならないことやパソコン操作に対して苦手意識を持つ公証人の意識改革を図ることなどの必要から,各ブロックの電子認証公証委員が分担して,全公証人を対象にテレビ電話操作の事前リハーサルが実施されました。私は,前述のとおり決してパソコンに精通しているわけではなく,むしろパソコン操作の意識改革を図っていかなければならないタイプで,私なりに苦労をしながら,事前に操作マニュアルを何度も読み直し,何とかリハーサルを無事に終了し,安堵した記憶があります。しかし,一方で,発起人が電子署名できない場合は,電子委任状による本人確認ができず,このテレビ電話方式を活用することができないことから,このような制度を導入しても,個人に電子署名の利用が広がっていない現状を見ると,ほとんど需要は期待できないと思っていましたし,その後,全国的にもテレビ電話方式の申出件数が極めて低調であって,当役場においても現実に申出がなかったことから,自然とその操作方法等は忘却の彼方になってしまいました。

3 テレビ電話需要拡大の動き
 ところが,昨年12月に中国湖北省武漢市により原因不明の肺炎患者が報告されて以降,本年1月には日本での最初の感染者が確認され,その後,新型コロナウイルスとして全世界に感染が広がっていったのは皆様ご承知のとおりです。日本国内では,緊急事態宣言を受け,外出の自粛,テレワーク・オンライン会議・オンライン申請の活用が強く求められました。
 法務省民事局において,テレビ電話の利用拡大を図るため,発起人,設立時社員等の実印の押印された紙の委任状と,当該委任者の印鑑証明書を郵送する方式でもテレビ電話による認証を認める「指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令の一部を改正する省令」が既に検討されていて,当初,令和2年7月6日施行を予定していたのを,急遽5月11日に前倒しで施行されたのも,このコロナ禍の影響によるものと思います。
 そんな中,本年4月当初にこれまで何度か定款認証の嘱託を受けたことがある埼玉県内のある業者から,「このコロナ禍の中,予定している定款認証日に復代理人を派遣させたくないのですが,何かいい方法はありませんか。」との問い合わせがありました。「現在,法務省民事局では,発起人から紙の委任状と印鑑証明書を事前に郵送されれば,公証役場に出向く必要がなく,テレビ電話での対応が可能となる省令の一部改正のパブリックコメントが行われていますが,施行日は本年7月6日の予定で,現状では発起人の方が電子署名の利用が可能でない限り,申し訳ありませんが,当役場に来ていただく必要があります。」と応答しました。この照会を受けた時に,当役場においても確実にテレビ電話方式の需要があることを実感しました。

4 テレビ電話方式での作業手順
 このような思いから,まずは,改めてテレビ電話導入時の説明文書を見直し,また,日本公証人連合会からの文書(令和2年5月13日付け「指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令の一部を改正する省令の施行後の公証事務の取扱いについて(通知)」ほか)等を参考に,テレビ電話方式での作業手順を以下のとおり整理してみました。


(1) 電子定款認証の依頼

 ア FAX又はメールによる申込依頼及び事前審査
 最初に,電子定款認証の依頼方法として,FAX又はメールにより依頼文書及び定款案のほか,委任状,印鑑証明書,実質的支配者の申告書等も併せて送信される場合が多い。嘱託人から事前に送信があった定款案のほか,これらの関係資料の事前審査を行い,その結果を嘱託人に連絡する。
 イ テレビ電話方式での認証依頼
 依頼文書等でテレビ電話方式での認証依頼であることが確認できれば,事前の審査結果を嘱託人に連絡する際に,電子委任状によるものか,又は紙の委任状と委任者の印鑑証明書の郵送によるものかを確認しておく(上記アの申込依頼文書で記載されている場合が多いと思われる。)。また,メールによる申込依頼の場合は,嘱託人のメールアドレスをパソコンメモに貼り付けておく。
(2) 認証日時の調整
 事前審査の結果,定款案の内容に問題がなければ認証日時の調整を行う必要がある。特にFAXによる申込依頼で,嘱託人のメールアドレスを承知していないときは,小山公証役場のホームページにある「小山公証役場予約申込みフォーム」で申込みをしてもらい,判明した嘱託人のメールアドレスをパソコンメモに貼り付けておく。

【申込依頼があった場合の返信文言例】

=FAX又はメールによる場合=
 小山公証役場 公証人の松尾です。
 送信いただいた定款案及び関係資料を確認させていただきましたが,特に内容について問題はございません。
 認証の希望日時,書面による同一の情報の提供(謄本)をご希望の場合は,その通数を事前にご連絡願います。(ただし,FAXでの申込依頼の場合は,認証の希望日時について,小山公証役場のホームページにある「電子定款」の「小山公証役場予約申込みフォーム」から予約手続願います。)
 また,今回は,テレビ電話方式による認証をご希望とのことで,後日郵送される委任状,印鑑証明書等を確認後,嘱託人URL,認証手数料,振込先口座等について,別途ご連絡させていただきます。
 なお,委任状等を郵送される際は,返信用のレターパック(返送先の宛名を記載したもの)を必ず同封願います。
 よろしくお願いします。  
=小山公証役場予約申込みフォームによる場合(FAXでの申込依頼で,定款案等の事前確認が終了している前提)=
 小山公証役場 公証人の松尾です。
 今回の定款認証の予約申込につきまして,取り急ぎ,希望日時の令和2年●月●日(●曜日)●時からで承りました。
 つきましては,テレビ電話方式による認証をご希望とのことで,後日郵送される委任状,印鑑証明書等を確認後,嘱託人URL,認証手数料,振込先口座等について,別途ご連絡させていただきます。
 なお,委任状等を郵送される際は,遅くても上記認証予定日の前日までに必着するよう手配願います。
 よろしくお願いします。  
  (注)上記文言例は,状況に応じて修正が必要

(3) テレビ電話用URLの作成
 ① 公証人専用パソコンのGoogle Chromeのアドレスバーに「管理画面のURL」をコピー(当役場ではパソコンメモに既に「管理画面のURL」をコピーしており,それをダブルクリック)して管理画面を開く。
 ② 「公証人用ID」には,8桁の公証人IDを,「嘱託人用ID」には,嘱託人のメールアドレス(上記(1)イ及び(2)でパソコンメモに貼り付けたもの)をそれぞれ入力する。
 ③ 「公証人用URL」と「嘱託人用URL」が自動作成される。作成されたそれぞれのURLを,上記(1)イ及び(2)のパソコンメモに嘱託人のメールアドレスと併せて貼り付けておく。

(4) 嘱託人への連絡
 嘱託人に対して認証日,嘱託人URL,認証手数料,振込先等をメール送信する。
【嘱託人への送信メール例】 

小山公証役場 公証人の松尾です。
 ご依頼のありましたテレビ電話方式による定款認証につきまして,以下の事項をご連絡させていただきます。
 よろしくお願いします。
1 認証日:令和2年●月●日(●曜日)●時
2 嘱託人用URL:
3 認証手数料: 円
4 振込先:金融機関名:●●銀行●●支店   
      口座番号:普通    
      口座名義人:小山公証役場 公証人 松尾泰三
 振込みについては,遅くとも上記1の認証日までに完了願います。
 なお,テレビ電話による電子定款認証が終了し,振込みの確認ができ次第,電子定款をオンライン交付させていただき,また,同一の情報の提供(謄本),申告受理及び認証証明書,領収書等を郵送させていただきます。
【留意事項】
① 嘱託人の側でテレビ電話が利用できる環境の整備〔パソコンの場合はGoogle Chromeブラウザを,スマホの場合はFaceHubアプリを事前インストール〕が必要となります。
② 上記1の「認証日」当日の予約時間に上記2の「嘱託人用URL」をクリックして起動願います。
③ テレビ電話に対応していただく方は,嘱託人本人(法人の場合は代表者)に限られるので,復代理人の対応は不可となります。また,面識のある嘱託人についても,テレビ電話の性質に鑑み,嘱託人本人の顔のほか,運転免許証等の提示を求めて画像撮影及びデータ保存させていただきますので,ご了承願います。
④ 電子定款のオンライン申請は,遅くとも認証日の前日までに完了願います。
以上

(5) 認証日での対応
ア インターネット・バンキングによる手数料の入金確認
 事前に連絡した電子定款の認証手数料が指定口座に振り込まれているかどうかを確認する。振込みを確認した段階で認証行為を行うことになるので,いまだ振り込まれていない場合は,公証人の署名認証ができないことを嘱託人に伝えておく必要がある。なお,電子署名付電子委任状の場合は,郵送料の実費を嘱託人に負担してもらう必要があることから,返信用のレターパック料金を認証手数料に上乗せしておく必要がある。
イ テレビ電話の操作
(ア)公証人側
 認証日の予約時間の少し前にGoogle Chromeを起動し,アドレスバーにパソコンメモの「公証人用URL」を貼り付け待機する。
(イ)嘱託人側
 認証日の予約時間に,公証人から事前に送信された「嘱託人用URL」をクリックすると,公証人が待機中であれば,同時に呼出しが開始する。
(ウ)応答
 応答ボタンをクリックすることにより,嘱託人とのテレビ電話による応答が開始する。
【嘱託人との応答例】 (公):公証人,(嘱):嘱託人

=嘱託人による申請及び電子署名の確認=
(公)こんにちは。私は,小山公証役場公証人の松尾泰三といいます。これから,テレビ電話による定款認証を始めさせていただきますので,よろしくお願いします。
(嘱)よろしくお願いします。
(公)それでは,始めに,お名前をおっしゃっていただけますか。
(嘱)●●です。
(公)本日認証する株式会社▲▲の定款について,作成代理人としてオンライン申請をされたのは,今画面に映っている●●さん自身で間違いないでしょうか。
(嘱)はい。
(公)オンライン申請された定款の電子署名を確認させていただきましたが,これは,●●さん自身の意思に基づいて電子署名されたことで間違いないでしょうか。
(嘱)はい。
(公)発起人の委任状及び印鑑証明書が事前に郵送されてきて,内容を確認させていただきましたが,問題はありませんでした。 (嘱)了解しました。 =本人確認=
(公)次に,本人確認をさせていただきます。本人確認資料として,●●さんの運転免許証又はマイナンバーカードをお持ちでしたら,画面に提示していただけますか。
(嘱)画面提示
(公)提示いただいた運転免許証であなたが●●さんであることが確認できました。この本人確認資料を記録保存しておく必要があるので,あなたのお顔と運転免許証の画像を保存させていただきますが,よろしいでしょうか。 (嘱)はい。
=本人の画像撮影及び保存=
(公)それでは,まず,運転免許証の画像を撮影したいので,免許証をアップで示していただけますか。
(嘱)はい。
(公)次に,あなたのお顔を撮影しますので,もう少し前に出ていただけますか。
(嘱)はい。
(公)ありがとうございました。画像データを撮影して保存することができました。
=公証人の認証手続=
(公)これで,無事に株式会社▲▲の電子定款認証の本人確認が終了しましたので,これから私がこの電子定款に電子署名をして認証させていただきます。しばらくすると,私が認証した電子定款のデータが登記・供託オンライン申請システムを通じて●●さんの方に届きますので,これを原始定款の原本としてCD等に読み込んで,保管しておいてください。
(嘱)はい。
(公)また,請求のありました同一の情報の提供の紙謄本■通と申告受理及び認証証明書は,領収書と共に同封していただいたレターパックにより別途郵送しますので,しばらくお待ちください。
(嘱)はい。
(公)以上でテレビ電話による電子定款の認証手続を終了します。どうもお疲れさまでした。

ウ 本人確認の画像の撮影及び保存
 マウスを操作して,画面の矢印マークを画面の左上に動かすことにより現れた「キャプチャ」をクリックすることにより,表示画面を丸ごと画像データとして写し取ることができる。画面右下にキャプチャされた画像が現れ,それを,画像近くの保存のアイコン(「下向きの矢印をお盆で受けるような形のマーク」又は「一括」の文字)をクリックして,パソコンへの保存作業を行う(注)。なお,この保存作業は,複数キャプチャした画像(顔,免許証)を,「一括」のアイコンでまとめて保存することもできる。
 (注)キャプチャ操作だけでは画像データがパソコンに保存されないので,必ず保存のアイコンのクリックを忘れないように注意する必要がある。
エ 電子定款の署名認証・オンライン交付
 本人確認が終了した時点で,電子公証システムによる署名認証手続を行う。その際には,電子情報システムの申請情報画面の「オンライン交付あり」にレ点を付した状態で完了操作を行うことが必要となる。
オ 手数料領収書等の送付
 オンライン交付手続が終了した時点で,手数料領収書を始め,申出があった同一の情報の提供(謄本)・申告受理及び認証証明書,原本還付請求があった返却原本等を,嘱託人から送られてきた返信用レターパック(電子署名付電子委任状の場合は,当役場で準備した返信用レターパック)に入れ,郵送する。

5 おわりに
 この原稿を作成している6月下旬に,東京都内の業者から初めてテレビ電話による電子定款の認証依頼がありました。おそらく,一度テレビ電話による電子定款認証の手続を経験された業者は,特に遠隔地の役場に嘱託する場合,往復の時間,交通費等の軽減が期待されることから,テレビ電話方式を活用することになり,徐々に需要が増えてくるものと思われます。一方で,委任状の事前郵送手続による時間と事務の増加や,急ぎの認証を求める事案など,特に地元業者においては,当分の間は従前どおりの方式での定款認証手続が維持されていくものと思われます。
 新たな制度の導入について,ある程度の件数が出れば,その手続に慣れることにより問題なく処理することができますが,このテレビ電話方式による電子定款認証手続については,当面、短期間で慣れるほどの事件増になるとは思えず,しばらくの期間は,テレビ電話での手続を忘れかけた頃に嘱託されるといったことも危惧されることから,その際には,すぐに思い出せるような操作マニュアルとしてこの原稿を活用していきたいと思っています。
 これからは,一つ一つテレビ電話方式での手続経験を重ね,この取り急ぎ机上で作成した操作マニュアルをブラッシュアップできればと考えています。
(松尾泰三)

No.81 親権を利用した知的障害のある未成年の子の保護のための任意後見契約

 新型コロナウィルスの感染拡大により,全国の公証役場において,特に3月から6月までの4か月間は,役場運営や事件処理の面で大きな影響があったのではないかと思われます。
 当役場においては,事件数が減少する中,遺言が特に少なくなり,相対的に離婚と定款が多くなるなど,これまでとは少し異なった日常を過ごしていましたが,5月も終わろうとした頃,司法書士の方が珍しく任意後見契約の一般的な相談で来訪されました。
 相談の内容は,知的障害のある未成年の子どもがいる両親が,その子の将来のことを心配し,その子に後見人が必要となったときに,両親のうち,どちらか一方の親が後見人となって,その子の身上監護及び財産管理を行うことができるように,その子が未成年のうちに,両親が親権を使って,一方の親を任意後見受任者として任意後見契約を締結したいとの事案であり,既に,東京法務局管内において公正証書が作成され,登記も経ている事案があり,また,全国的にも何件か作成されているとのことでした。
 ただし,相談者いわく,この趣旨の公正証書を作成することに疑問を持たれる公証人がいるため,今回,当役場の所在地近くにお住まいの方から具体的な希望が出てきたことから,まずは当役場に一般的な相談に来たということです。
 全国的に作成されているとの説明を受けて,不勉強ながらそのような話は聞いたことがないと思いつつ,知的障害のある未成年の子の任意後見契約を締結する場合は,親が信頼できる人を見つけてきて,その人との間で親が親権に基づいて子を代理して契約を締結することができる(ただし,いったん公正証書を作成すると,たとえ子の将来の状況が変化しても,子自身が解除することは困難であると思われることから,公正証書の作成に当たっては,より慎重な判断が求められる。)けれども,そこでの任意後見受任者は,親以外の第三者を想定しているのではないか,果たして親自身を任意後見受任者にすることができるのであろうか,と思わず相談者に疑問をぶつけてしまいました。
 この疑問に対し,相談者は,任意後見人には誰がなってもよく,登記も受理されていること,加えて,知的障害を持つ親にとっては,その子の出生から一番近くでその子のことを見てきた親自身が任意後見人になることが一番ふさわしいし,多くの親はそのことを希望しているとの説明でした。
 任意後見契約に関する法律4条1項3号記載の不適格事由の存否について注意が必要である点は別として,任意後見受任者の資格には法律上の制限がないので,親を任意後見受任者にすることができるというのは,確かにそのとおりです。
 それなのにどうして親を任意後見受任者とすることに疑問を感じたのかと言えば,任意後見契約は,本人に知的障害があるとはいえ,子の自己決定権の尊重の趣旨から本人の意思に合致していなければならないのは当然ですが,最近の親子間の問題事例を念頭に,親を任意後見受任者とした場合,結果的に子の意思や希望が無視されるようなことが懸念される事例が出てくることにならないかと考えたことがまずあります。また,これは手続的なことになりますが,子に知的障害がある場合に親が親自身を任意後見受任者とする契約は利益相反行為になるのではないかと考えたこともあります(なお,寶金敏明監修「活用しよう!任意後見(安心の老後と相続のために)」39ページには,親が親自身を任意後見受任者とする契約は,同一の法律行為について相手方である子の代理人となる自己契約(民法108条)に該当するため,特別代理人と受任者である親とで契約を締結することになるとの趣旨の記載があります。)。
 これについても,相談者は,任意後見人としてふさわしくない親については,任意後見契約の効力発生に際して家庭裁判所がその適格性を判断すること,利益相反行為の点については,既に利益相反行為に当たらないことを前提とした手続により公正証書が作成され,登記がされている事案があり,特別代理人を選任しなくても契約としては有効であると考えているとの説明でした。ただし,後者については法的な判断に係ることであり,公証人の判断にお任せするとのことでしたので,その日は,事件の受否及び手続について検討して回答するとして相談を終えました。
 相談後,東京公証人会の「会報」を確認すると,既に,この趣旨の事案については日本公証人連合会及び東京公証人会において検討がされ,「会報」の令和元年11月号22ページに法規委員会の協議結果が登載されており,令和2年5月号26ページに,東京家庭裁判所と東京公証人会との連絡協議会の協議結果が登載されています。
 二つの協議結果の概略は,夫甲と妻乙との間に知的障害のある未成年の子丙がいる場合,①丙を委任者,甲又は乙を受任者として無報酬の任意後見契約を締結することは可能であること,②甲を受任者として任意後見契約を締結する場合,甲に代わる特別代理人を選任し,特別代理人と乙とが共同代理して契約を締結すべきであるとするのが多数説であるが,乙のみが法定代理人として契約を締結できるとの考え方もあり得るので,特別代理人の選任が必要かどうかは,最終的には家庭裁判所の判断によること,③東京家庭裁判所の事例として,特別代理人の選任申立てがされた後,取下げで終了した事案(同事案は,公正証書作成後,登記されている。)はあるが,東京家庭裁判所として判断に至った事例はなく,東京家庭裁判所としては,現時点では確定的な考え方を述べることはできないということでした。
 今回の事案の検討に当たって特に問題となるのは,上記協議結果における甲と丙との任意後見契約が利益相反行為に該当するか否かということです。
 この点について,民法826条の利益相反行為に該当するか否かの判断基準は,「行為自体」ないし「行為の外形」から外形的に判断すべき(形式的判断説)というのが判例ですが,今回の相談事案については,たとえ,任意後見契約が無報酬の場合でも,被任意後見人の重要な書類等の引渡しを受けて任意後見人が代理行為を行うということが,外形上,任意後見人が利益を得る一方,被任意後見人が不利益を被るものと考えられる余地があります。
 そのように考える限り,既に登記事例はあるものの,家庭裁判所の判断が分かれる可能性もあり,せっかく締結した任意後見契約が,万が一にも将来において無効とされることのないよう,慎重に事を進めた方が良いと考えました。
 そして,6月に入り,相談者に対しては,公正証書を作成することはできること,ただし ,作成に当たっては,嘱託人の方に負担を掛けることにはなるが,特別代理人の選任が必要な事案と考えるので,依頼に当たっては,その準備も同時に進めてほしいとの回答をしました。
 その後,現在まで具体的な依頼はありません。
 特別代理人の選任を必要とするかどうかは,個々の公証人の判断によることになりますが,この趣旨の事案は,全国に知的障害のある子を抱え,その子の将来のことを心配されている両親(又は一人親)が多いのではないかと思われること,また,成人年齢の引下げの施行期日が迫っていることなどから,今後近いうちにある程度の依頼があるかもしれないので,一つの相談事例として紹介します。
(喜多剛久)

  No.82 外字の入力方法  
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