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民事法情報研究会だよりNo.34(平成30年8月)

残暑の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、去る6月16日の前期セミナーでは76名の会員が参加して、元法務省人権擁護局長で弁護士の吉戒修一先生から「裁判、行政、企業における人権」についてご講演をいただきました。現在、講演録の冊子の作成中ですが、でき次第皆様にお送りいたします。(NN)

今 日 こ の 頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

成年後見制度低迷の原因・後見人選任のミスマッチ
ミスマッチのない選任システムを構築しよう!
(NPO法人高齢者・障害者安心サポートネット理事長 森 山 彰)

1 利用低迷の原因
我国の成年後見制度は、創設後18年を経過したにもかかわらず、その利用率は、現在おおよそ認知症高齢者約460万人、知的、精神障害者約340万人と推定される中で、平成29年末現在、制度の利用者数は約21万人、その利用率は2.6%程度で、極めて低迷していると言わざるを得ない。
そこで、この利用促進を図るため、平成28年4月「成年後見制度利用促進法」が制定された。次いで、翌29年3月、促進法で明らかにされた利用促進の「基本理念」や「基本方針」に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、「基本計画」が策定されたことは、周知のとおりである。
なぜ利用が低迷しているのか、この基本計画の冒頭に鋭い分析がある。簡潔に要約すると、「後見人に対する地域住民のニーズは、意思決定支援・身上保護重視の後見であるにもかかわらず、家庭裁判所では、財産管理重視の観点から第三者専門家を後見人に選任、ビジネスライクの後見を行ってきたため、利用者のニーズが充たされず、成年後見制度のメリットや素晴らしさが実感されていない。」と指摘し、その主要な原因が選任のミスマッチの積み重ねに求めている。

2 家庭裁判所における選任のやり方
その一般的な具体例を示そう。ここに登場するA女は、子供に恵まれず、長年連れ添った夫にも先立たれて、たまたま近くに住む姪B子の手助けで、細々と生活する独居高齢者である。常々A女はB子に対し、「もし、私が認知になったら、必ずあなたが後見人になって面倒を見てね」と頼み、B子もこれを快諾していた。やがて、A女に認知症状が出て、判断能力の診断をしてもらった結果、「成年後見」相当と出た。そこで、B子は約束に従い、自らを後見人候補として後見開始の審判申立てを行った。
ところで、家庭裁判所では、調査の冒頭、必ず次のような説明がある。「誰を後見人に選任するかは、裁判所の裁量に委ねられているから、後見人選任の審判がでれば、それに不満でも、即時抗告はできない。だからと言って、取下げを願い出ても、家裁の許可を得なければ、それもできない。」
この説明で、大抵の申立人や候補者は、圧倒されて萎縮してしまう。説明の態度は柔和でも、内容は、まったく威圧的である。
それでも、B子は、A女の後見人就任は本人の意思で、A女とは強い信頼関係で結ばれ、生活支援のノウハウも熟知しているので、「適任者は、自分以外にいる筈はない。」と確信していた。しかし、実際に選任されたのは、見ず知らずの専門家Ⅽだった。B子は泣き寝入りするしかなかったが,A女も、後見人Cと信頼関係が築けず、不満だらけの多い生活を送ることになった。
上記のような家裁の後見人選任の取扱いは、もちろん民法や家事事件手続 法に法的根拠があるから、違法ではない。しかし、仮に家裁が本人の自己決定権を尊重し、本人の身上保護を重視する観点から後見人を選任していたら、おそらくB子が選任されていたと思われる。そうだとすれば、選任権の乱用の疑念は残る。
仄聞するところ、このような家裁の選任のやり方は、全国津々浦々で行われているようである。ちなみに、制度創設当初の親族と第三者専門職における後見人の選任比率は、前者が9割で、後者が1割にも満たなかったのに対し、28年には、親族が3割弱に減少、専門職が7割を超えるまでに急増した。この急増の原因が、このような一方的で、威圧的な選任のやり方にあるとしたら、誠に嘆かわしいと言わざるを得ない。と同時に、この選任のやり方が、おそらく家庭裁判所に対する不信感を増幅し、延いては成年後見制度の信用失墜の原因になっていると判断せざるを得ない。

3 ミスマッチの防止策
この度の利用促進法における後見の担い手は、地域連携ネットワークに支援された市民後見人である。そこで、基本計画では、市区町村等一定の地域ごとに、権利擁護の地域連携ネットワークを構築し、そのネットワークが家裁に対し的確な情報を提供して、適切な後見人が選任されるよう支援する仕組みを作る計画である。そのため、検討すべき施策として、①.地域連携ネットワークと家裁との連携の強化、②.市民後見人候補者名簿の整備、③.市民後見人の研修、育成、活用等様々な施策を提案しているが、しかし、この程度の施策では、これまでの柔軟さを欠く家裁の態度から推測して、満足できる成果は期待できないのではないかと危惧される。
やはり、家裁の後見人選任のやり方が、「選任のミスマッチ」の元凶であることを十分認識してもらい、この点は踏み込んだ改善が必要だと思う。
第1の改善点は、地域連携ネットワークやしかるべき団体が、本人との適応性を調査し、後見人候補を推薦したときは、家裁はその推薦を尊重して、被推薦者を後見人に選任する仕組みにすべきである。そうなれば、家裁の裁量の幅が狭まって、身上保護重視のニーズが強い高齢者・障害者に対して、身上保護に殆ど関心を持たない特定分野の専門家を威圧的に押し付けるようなミスマッチは、激減するだろう。
第2の改善点は、現在における後見人選任のミスマッチの状況を見ると、後見人の選任基準を定めた民法843条4項の規定は、有って無きが如く、無視されている印象がある。しかし、このような規定がある以上、家裁が申立による後見人候補者と異なる後見人を選任したときは、そのような事案だけでも、選任基準の妥当性等について即時抗告ができるように改正すべきではないかと考える。
このような改正で、選任における家裁の強引で一方的な裁量が抑制され、即時抗告した者にも、選任理由が明確になるので、そのメリットは大きいと思う。

4 おわりに
成年後見制度利用促進法及びそれを受けた「基本計画」が策定され、33年度までの基本計画の工程表まで明らかにされたが、何と言っても、成年後見制度の運用主体は、家裁である。また、その手続を規律するのは、「家事事件手続法」である。したがって、プログラム法である利用促進法に盛られた基本理念や基本施策が、現実に具体化するかどうかは、制度の中枢に位置する家裁の取組み如何にかかっていることは、明白である。
他方では、促進法に盛られた基本理念や基本施策が、国民の賛同と支持を得ていることも事実であるから、家裁は、成年後見制度が超高齢社会で果たす役割を十分に理解して、率先垂範してその実現に努めることは、家裁に対する国民の信頼性向上に大いに寄与することになると思う。この面での家庭裁判所の積極的なリーダーシップを心から期待したい。

参考 民法843条4項 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となるべき者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

吉﨑さんのこと(小畑和裕)

吉﨑さんが亡くなった。彼は現役の公証人であり、余りにも早く逝ってしまった。訃報を聞いて驚愕した。悲しさよりも、何故だという気持ちや、彼を襲った病魔に対する怒り、悔しさの感情が先に立った。数か月が経た今もその死を受け容れられない。悲しくやるせない気持ちを解消する方法がなく鬱々とした毎日だ。思えば、彼との付き合いは長い。初めて会ったのは、30年余りも前だ。昭和61年4月から民事局第一課登記情報管理室で予算事務を共にして以来だ。厚生管理官室で活躍していた彼は、抜擢されて当時繁忙を極めていた予算係に異動してきたのだ。その頃の民事局・法務局は、世紀の大事業である登記事務のコンピュータ化に組織をあげて取り組んでいた。その事業の財政的基盤を支えるため登記特別会計制度は創設された。特別会計を所管することは、法務省や、関係省庁である大蔵省主計局司法警察係にとっても初めてのことであり、先例も経験もなくすべてが手探りだった。予算係は、登記特別会計の歳入・歳出予算の概算要求、獲得した予算の執行事務に加えて、毎月の手数料の収入予測に基づく資金の運用管理も重要な仕事だった。特に、6月、12月のボーナス時期には膨大な資金が必要になり、そのやり繰りには苦労が多かった。
また、登記特別会計が創設されたことにより、民事局・法務局が所管する予算も登記事務を中心とする登記特別会計予算と戸籍等を中心とする一般会計予算に分かれた。それにより、職員の所属や人件費、物件費、施設費なども二分して管理することになった。予算事務は複雑かつ困難化した。当然のことながら増員もなく、事務処理は繁忙を極めていた。そんな時に彼は新人として赴任して来たのだった。当時、「花の予算」という言葉があった。予算係が花形だという意味があるのかどうか不明だが、花(桜)の咲く頃がのんびりできる時期だという経験則があった。その時期に彼がひたすら予算書の読み込みをしていたことを思い出す。彼は明るく元気で気力・体力ともに充実していた。付き合いも良く、仕事も前向きで頑張り屋だった。特に彼の功績としていまも忘れられないのは、事務処理に初めてワープロを導入したことだ。というのも、当時は大蔵省に提出する予算の概算要求書は、各担当者ごとに手書きしていた。そのため、要求書に訂正や変更が出ると、全てのページを書き換える必要があり、大変な労力を要した。また、書き手の個性が出て、大蔵省の担当官から書かれている字が読みにくいとして清書して再提出するように求められたこともあった。そこで彼は、ワープロの活用を提案したのだ。ワープロはその当時まだ一般化されてはいなかったので、他の職員はその効果について半信半疑だった。しかし、彼は熱心にワープロの利便性を説き、実現した。出来上がった要求書はきれいで読みやすく、かつ訂正や変更にも簡単に対応できた。また、データや書式を保存しておけば、翌年度も利用できるという効果もあった。事務処理の合理化にもつながり良いことずくめだった。みな賞賛した。ただし、ワープロで要求書を作成したことが初めてなので、大蔵省主計局の担当官に対する説明で変換ミスを指摘され、平身低頭したことも一再ならずあったが。二年目以降の事務処理の合理化に大いに貢献したことは言うまでもない。コンピュータ化が進展するに伴い繁忙の度合いは益々進み、定時に退庁できることは殆どなく、土・日の出勤もごく普通のことだった。大晦日に予算速報を中央郵便局に持参し、全国の法務局に発送して、有楽町で年越しそばを食べて解散するのが通常だった。そんな時、彼がいつも嫌な顔をせず世話役を引き受けてくれた。懐かしい思い出だ。
古稀を過ぎても、老いていくということの意味がまだ何一つ分からない。ただ、彼の死を通じて一つだけ実感したことがある。ここ数年の間に、民事局で指導を受けた清水、藤谷両先輩を始め多くの人たちが亡くなられた。そして今また、彼が亡くなった。老いるとは多くの人々との別れを経験しながら生きるということなのかなと思う。「ハナニアラシノタトヘモアルゾ サヨナラ ダケガ人生ダ ― 井伏鱒二」
今はひたすら彼のご冥福を祈っている。

再登板(本間 透)

プロ野球が開幕して、スポーツニュースで贔屓のチームの勝敗結果が気になるところですが、日本では、中日の松坂投手の復活やソフトバンクの柳田選手の打率4割達成などが話題になり、アメリカでは、エンゼルスの大谷選手が投打二刀流で大活躍し、日米の野球ファンが興奮しています。
これとは全く次元が異なりますが、私は、一端リタイアした身でありながら、本年4月2日から公証人として野球で言えば再登板することとなりました。この経緯等を以下に述べます。
本年3月初旬に法務省の後輩の栄転の内報に接し、送別会の案内を木更津公証役場の吉﨑公証人(以下「吉﨑さん」といいます。)にメールしたところ、都合が悪くて出席できないとのことでした。ところが、数日して吉﨑さんが再手術するため入院したことが判明しましたので、吉﨑さんの病状を気にしていたこところ、3月20日に千葉地方法務局総務課長から自宅に電話があり、吉﨑さんの入院が長引きそうなので、4月から木更津公証役場の代理公証人をしてもらいたい旨の依頼がありました。私と吉﨑さんとは、法務省民事局で登記特別会計発足時の予算係で一緒に仕事をして以来公私にわたり長いお付き合いがあったことから、他ならぬ吉﨑さんのためならと思い、その依頼を受けました。その上で、吉﨑さんに「私が4月から貴殿の代理で木更津公証役場に行くので、治療に専念してじっくり養生してください。」とメールしたところ、「感謝します。早く復帰できるよう頑張ります。」と返信がありました。
代理公証人の発令は、4月2日とのことで、それに必要な書類について千葉地方法務局から取りあえず電話連絡があり、大至急必要書類を用意し、後日送付された書面を作成して同局に送付しました。
3月31日に吉﨑さんの病状が思わしくないとの連絡があったので、私は、4月1日の午後に吉﨑さんが入院している中野の警察病院に見舞いに行きました。
吉﨑さんは、3月20日に予定していた再手術ができず、ベッドから起き上がるのが困難な様子でしたが、私が「明日から吉﨑さんの代理で木更津公証役場に行くので、役場のことは心配しないで早く良くなってください。」と言ったところ、私の手を握って「本間さんに任せることができ、ありがたく安心しました。くれぐれもよろしくお願いします。」とおっしゃいました。
4月2日に千葉地方法務局に赴き、着任したばかりの三橋局長から、法務大臣からの公証人に任ずる辞令と木更津公証役場の代理公証人に任ずる辞令をいただくとともに、局長からの代理期間に関する辞令をいただいた後、木更津公証役場に赴きました。私の公証人の職印と確定日付印は、前任地で使用していたものを保管していましたので、証書作成と確定日付の交付には即対応できましたが、電子定款の認証に必要な電子証明書(カード)は、新たに発行され、19日から使用可能となりました。
それから10日後、吉﨑さんの訃報に接し、生前の何事にもエネルギッシュな吉﨑さんを思いうかべ、あまりにも早い逝去に愕然としました。私としては、少しでも吉﨑さんの霊に報いるためにも木更津公証役場の業務を滞りなく遂行しようと決意した次第です。
4月12日に千葉地方法務局の総務課長から電話があり、12日付けで法務大臣から吉﨑公証人の後任を命ずる辞令が発せられる旨伝達され、後日、同日付で法務大臣からの木更津公証役場の公証人に任ずる辞令をいただきました。そこで、私が4月下旬以降に予定していた平日の旅行等を全部キャンセルするとともに、吉﨑さんの通夜・告別式後、木更津公証役場での今後の業務遂行・役場運営について、改めて書記と打ち合わせました。これに伴い、各種事務機器等に関する契約や各種公共料金における契約者の名義変更の手続も行いました。4月25日に吉﨑さんの奥様が木更津公証役場に来られ、各種支払いに関する書類や経理・労務関係の帳簿等を引き継ぎました。
4月26日に千葉地方法務局長から電話があり、私の任期については、おそらく来年になると思われるが後任者が決まるまでお願いしたいとのことで、ショートリリーフの予定がロングリリーフになり、本格的に1年9か月ぶりに公証人として公証業務を行い、10年ぶりに電車通勤することになりました。
公証業務については、書記が優秀で仕事熱心なこともあり、あまりブランクを感じることなく遂行しております。通勤は、乗り換えに要する時間や電車の混み具合を考慮して往路と復路を変え、3回乗り換えてドア・ツウ・ドア片道2時間の道程です。このような生活は、脳の活性化と足腰の鍛錬になるものと考え、日々精進しております。
さて、毎年、現職の公証人が病で亡くなったり、長期療養を余儀なくされていますが、私も法務局の退職間際に初期胃がんが発見されたことから、その当時の最新の施術方法である内視鏡手術により、その部分の粘膜を電子メスで切除しました(入院期間1週間)。その後、いわき公証役場の公証人就任後2年目にその切除した胃壁に穿孔が生じたことから、あまりの痛みに耐えかねて妻に救急車を呼んでもらいました。救急病院での検査の結果、胃の内容物が腹部に充満して、このままだと腹膜炎になり命にかかわる状態であると医師に言われ、即手術となりました(その日は、私の満60歳の誕生日でした。)。開腹手術の結果、胃がんの前歴があることから、胃の3分の2と回りのリンパ節も切除されました。麻酔から目が覚めたら、集中治療室のベッドに固定され、二日間は面会謝絶でした。それから1か月入院し、退院後、食事制限に慣れ体力を回復するため、1か月自宅療養しました。
この2か月のいわき公証役場の業務は、相馬公証役場の当時の小原公証人に週2~3回来ていただき、代理公証人として対応していただきました。こうして私自身も被代理公証人の経験があり、代理公証人制度のありがたさを本当に痛感し、おかげで療養に専念することができ、病後の早期回復を図ることができました。
両方の立場を経験した私としては、現職の公証人が病気療養を余儀なくされた場合は、代理公証人制度等をもっと柔軟かつ機動的に運用できるような仕組にしていただき、安心して気兼ねなく療養できるようになればと願ってやみません。 (平成30年6月1日記)

静岡まつり大御所花見行列に参加して(板谷浩禎)

静岡市では、毎年4月初旬(今年は3月31日、4月1日)に静岡まつりが二日間にわたって開催されます。
静岡まつりは、「大御所・家康公が、大名・旗本などを引き連れて花見をした」という故事に倣い、駿府の街・静岡だけができる大御所の花見行列をメインに、桜の咲く頃のお祭りとして昭和32年に始まりました。この祭りも今年で第62回を数え「市民が参加するお祭り」となり、今年は二日間とも天候も良く桜も満開となり絶好の花見日和で静岡市中心街は多くの人々で賑わいました。
このように、静岡まつりは桜の咲く頃の静岡市の一大イベントですが、そもそも、なぜに私がその祭りに参加することになったのかというと、それは、これまで私が住んでいる地区(静岡市の東部)は静岡まつりへの関心度が低いため、静岡市と静岡まつり実行委員会が静岡まつりをより一層盛り上げるために、私共の自治会連合会に協力要請があったことによるものです。私は、法務局を退職と同時に自治会役員を10数年間務め現在に至っておりますが、その「お努め」に対するご褒美なのかどうかわかりませんが、約5千世帯の地区代表として大御所・家康公の行列奉行・彦坂光正の役柄で馬に乗り大御所花見行列に指名されることになりました。
さて、行列奉行という大役を引き受けたものの馬に乗るのは初めてであり、かつ、行列時間が約2時間と長時間であること、更には実行委員会から「過去には多くの見物客に驚いて馬が暴れ落馬したこともある」との事例を聞き少し不安を覚えましたが、大御所の行列奉行として静岡まつりに参加するという貴重な体験は、今後ないかもしれないと思い参加を決意しました。
私のように馬乗りの初心者には、2日間(1回の所要時間15分)の練習時間が与えられます。初心者にとって2回の練習は、大変貴重でありました。その効果もあり、本番は予想していたよりも堂々とした乗馬ぶり(?)であると自画自賛したところです。後から聞いた話ですが、11名の乗馬者の中から彦坂光正に一番大人しい馬を当ててくれるという静岡市実行委員会の配慮があったようです。
静岡市は、我が国の人口が少子高齢化・人口減少社会に突入した中で、人口減少対策は当然のこととして交流人口の増加にも力を注いでいます。私共の自治会連合会も静岡市と協調して「活気ある街づくり」に知恵を出していけたらと考えています。外国人を含めた多くの観光客が静岡空港や清水港、東名・新東名高速道路を利用して、来年の駿府の街・静岡まつり大御所花見まつりを盛り上げてくれたらと願っています。

※ 彦坂光正
江戸初期の駿府町奉行、今川義元の家臣の子として徳川家康に仕え、天正12年の長久手の戦で戦功をあげた。家康の駿府引退後は、駿府町奉行を務めた(朝日日本歴史人物事典から抽出引用した)。

遺言で家族の絆を取り戻した話(斎藤和博)

ある日、80歳代のご婦人が、遺言の相談でやってきた。いつものように、公証人室の中にご婦人を導き入れ、私の名前を名乗った後、受付用紙に住所、氏名、生年月日等を記載してもらい、具体的な相談内容に入っていく。
家族関係は、夫は、既に亡くなっており、子どもは長男と二男の二人だけ。私の内心では、そんなに難しい案件ではないなと思いながら、話を進めていく。
すると、長男は、大学進学とともに家を出て、その後、就職もし、結婚もしているが、長男が家を出た後、長男との交流が全くない状況だという。夫の葬儀にも来ないし、その時は、二男の手助けを得ながら夫の葬儀を行ったという。自分も高齢になったので、この際、遺言書を作成したいと考えているが、どのように考えて行けばいいのか分からないので、教えて欲しいというのが相談の趣旨であった。
そこで、「まずは、自分の財産を「不動産」と「預貯金」の大きく二つに分けて考えて、不動産はどのように相続させるのか?預貯金はどのように分配するのか?というように考えてみてはいかがですか。ただし、不動産の場合には、相続人二人の共有関係にすると相続の後に様々な問題が発生する可能性もあるので、なるべくならば、不動産の場合は一人の人に相続させた方がいいと思いますが、不動産については、どのように相続させたいと考えていますか?」と尋ねると、しばらく間があった後、「不動産は、やはり長男に相続させたいと思います。でも、いらないと言われたらどうしよう?…。」という答えが返ってきた。そして、「それでは、預貯金は、どのようにしたいですか?」と尋ねると、「二人に分けてあげたいと思います。どのように分ければいいかは、まだ、わかりません。」いう答えが返ってきたので、とりあえず、聞き取った内容を、【遺言内容(未定)】のタイトルを付して「1 不動産は長男に…。2 預貯金は、二人に(割合は未定)…。」と書いたメモを本人に渡し、「よく考えて、遺言の内容が固まったら、また来てください。」と話し、その日は終了した。
そのご婦人は車の免許を持っていない。近くに待機している車や自転車も見当たらなかったので、タクシーを呼びましょうかと声をかけたら、「いいえ、大丈夫です。歩いて帰りますから。」との一言。(唖然!)そのご婦人の入居しているケアハウスは、公証役場から8km以上はある。車なら15分程度だが、徒歩では2時間ほどはかかる距離。常日頃、何でも車を使って用を済ます私にとっては衝撃的な一言であった。聞けば、亡くなったご主人が介護のために施設に入居した際には、毎日、自宅から夫のいる施設まで歩いて通っていたとのこと。そのような日々を過ごしているうちに、ご婦人自身も体調を崩され、福祉関係者の勧めもあって、夫とは別の現在のケアハウスに入居したとのことでしたが、歩くことは苦になりませんとさらりと言われた。
その後、2か月くらい後に再度来庁され、「長男に電話で遺言の話をしたら、『俺は、一切財産はいらない。』と言われてしまいました。」とのこと。「それでは、不動産は二男に相続させることにしましょうか?…。預貯金はどうしますか?」と尋ねると「預貯金は、いくらもないけれども、私としては長男にも分けてあげたい。」という答えであった。
そこで、【遺言内容(未定)】のタイトルはそのままに先に渡した遺言内容を修正したメモを渡し、2回目の面談は終了した。当然、その日も徒歩で帰られた。
3回目の面談では、ご婦人は、「2回目の面談でもらったメモの内容を、長男、二男に伝えたところ、長男は、『俺は、お金もいらないから、弟に多くやってくれ。』という返事で、二男は、『不動産は自分が相続したい。』と言ってくれたので、不動産は二男に、預貯金は、長男に○分の●、二男に○分の△の割合で決めました。」とのことであった。よくよく聞いてみると、自宅は、現在、二男が住んでいてアトリエとして使っているということなので、落ち着くべきところに落ち着いたなと感じた。あとは、長男が、母の気持をくんで預貯金を受け取ってくれるか?という一抹の不安だけ。
いよいよ遺言公正証書作成日を迎え、滞りなく遺言公正証書は完成!。しばし雑談をしていると、ご婦人から、「先日、仏教でいうところのお盆の催しがあり、その席に、長男も出席してくれて、久しぶりに親子3人の時を過ごすことができました。」と、遺言書作成のいくつかの過程を経て、永らく交流の無かった家族の絆が戻ったことを、とても喜んで語ってくれた。そして、とびっきりの清々しい笑顔で、証人の車に同乗して帰路につかれた。
このご婦人の笑顔を励みに、残りの公証人の任期を全うしたいと思っている。

 

実 務 の 広 場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.60 離婚後の夫婦及び子の氏と戸籍について

1 はじめに
当役場にも、幼い子を抱えた若い夫婦、主にその妻が離婚に関する公正証書の作成について相談に訪れます。その多くは養育費に関することが中心となりますが、離婚前の相談であると、「離婚の合意は?」、「親権者、監護養育者は?」「離婚届出は?」という具合に話を進めているうちに、相談者が離婚後の自身の氏や子の氏がどのようになるのか、また、戸籍がどのようになるのかについて、ほとんど理解していないことに気付かされます。離婚後の氏や戸籍の変動は、離婚後の親子の生活にも大きく関わる問題であることから、当職は、この時とばかり、相談者に法務局時代に培った知識を、聞かれた以上にレクチャーすることになります。
この度、本誌への寄稿の機会をいただいたことから、離婚後の夫婦及び子の氏と戸籍について、少し書かせていただくことにしました。
なお、本稿は、戸籍事務経験のない方の執務の一助となればと思い、寄稿を試みたものでありますので、なにを今さらと思われる方につきましては、御容赦をお願いします。
2 婚姻中の夫婦及び子の氏と戸籍
人の称する氏は出生時に定まり、その後、婚姻・離婚等の身分変動や氏の変更手続に伴い当該人の称する氏も変動します。これら事実及び身分変動等により、当該人の称する氏は、全て民法の規定により定まります。そして、この民法により定まった氏を基に、戸籍法の規定により当該人の入籍する戸籍が定まります。
最も基本的・典型的な例を挙げれば、いずれも親の戸籍に在籍する夫甲野太郎と妻乙川花子が夫の氏を称して婚姻すると、戸籍は甲野の氏で太郎を筆頭者とする夫婦の新戸籍が編製されます(民法750条、戸籍法16条)。この場合の花子について考えると、婚姻という身分変動があり、これに伴い氏を改めるという氏の変動が生じ、入籍戸籍が定まったということになります。そして、この夫婦の婚姻中に生まれた子、長男一郎は父母の氏を称し(民法790条)、父母の戸籍に入ることになります(戸籍法18条)。
3 離婚後の夫婦及び子の氏と戸籍
(1) 上記の太郎・花子夫婦について、その後、離婚という身分変動が生じたときは、婚姻の際に氏を改めた妻花子について、婚姻前の氏に復するという氏の変動が生じます(民法767条)。その結果、花子は、同じ戸籍に在籍していた夫太郎、子一郎と氏を異にすることになりますから、婚姻時の戸籍から出なければなりません。
この場合、花子には3つの選択肢があります。
① 婚姻前の氏(乙川)を称し、親の戸籍(婚姻前の戸籍)に戻る。
② 婚姻前の氏(乙川)を称し、自身を戸籍の筆頭者とする新戸籍を編製する。
③ 婚姻中の氏(甲野)を継続して称し、自身を戸籍の筆頭者とする新戸    籍を編製する。
上記のとおり、花子には3つの選択肢がありますが、留意すべきは、花子が③を選択した場合でも、民法により定まった花子の*民法上の氏(民法767条)は、あくまでも乙川であり、③の花子の称する氏(甲野)は、一旦乙川の氏に復氏した上で、民法の特別な規定及び戸籍法の規定により称することが認められた*呼称上の氏(民法767条2項、戸籍法77条の2)であることです。
したがって、今後、花子について婚姻・離婚、縁組・離縁等の身分変動(特に離婚・離縁)に伴い、花子の称する氏及び入籍する戸籍について判断するときや上記③の花子の戸籍に子が入籍するときの手続等においては、花子の民法上の氏は乙川であることを踏まえておく必要があります。
ただし、公証事務を行うに当たって、この辺りの知識を活用する場面はあまりないかも知れません。
(2) 次に、上記の例で太郎と花子が、子一郎の親権者及び監護養育者を花子と定め、離婚した後の一郎の氏と戸籍はどうなるのでしょう。
結論から述べると、太郎と花子夫婦に離婚という身分変動があっても、一郎の氏に変動はなく、一郎は同じ戸籍に留まることになります。
このような結論となる理由は、父母の離婚という身分変動は、子の身分に何ら影響を及ぼすものではないし、子自身に養子縁組などのような身分変動が生じたわけではありませんから、子の氏に変動をもたらす原因がありません。したがって、上記のとおりの結論となります。この氏と戸籍の取扱いについては、相談者の多くが親権者及び監護養育者は母である自分であるから、当然に母子で同じ氏(乙川)を称し、同じ戸籍になると誤解しているところです。
(3) ただ、この例のように、元の氏に戻った花子が親権者及び監護養育者として一郎を引き取り養育していく場合、花子と一郎の氏及び戸籍が異なると、親子の社会生活上不都合な場面が数多く出てくることが考えられます。
そこで、このような場合には、花子と一郎の氏及び戸籍を同じにする手 続を取る必要があります。この手続については民法791条に定められています。この例では、一郎が(一郎が満15歳未満である場合は、親権者である花子が法定代理人として)家庭裁判所に『子の氏変更許可申立書』を提出して、一郎の氏を変更する許可を申し立てます。家庭裁判所が申立てに問題がないと判断すれば、一郎の氏の変更を認める審判がなされ、許可の審判書が交付されます。一郎又は法定代理人花子がこの審判書を添えて市区町村役場に『母の氏を称する入籍届』を提出すれば、花子と一郎は同じ氏を称して同じ戸籍に入ることになります。なお、花子の戸籍が前記③の場合、花子と一郎は既に同じ「甲野」の氏を称していますが、前述したように民法上の氏は異なっているため、上記手続を取ることが必要となります。
では、花子が『母の氏を称する入籍届』を市区町村役場に提出した場合、花子と一郎の戸籍が具体的にどのようになるのかを前記①から③の例で述べておきます。
前記①の場合:花子を戸籍の筆頭者とする新戸籍が編製され、同戸籍に一郎が入籍します。
前記②の場合:既にある花子を戸籍の筆頭者とする戸籍に一郎が入籍します。
前記③の場合:既にある花子を戸籍の筆頭者とする戸籍に一郎が入籍 します。
ただし、一郎について称する氏は変わりません。
(4) 次に、花子が離婚の際に前記①又は②を選択した後、様々な事情から婚姻時の甲野の氏を称することを望む場合や③を選択した後、婚姻前の乙川の氏を称することを望む場合は、どのような手続を取ることになるかについて述べておきます。
これらの場合、花子が取る手続は、次のとおりです。ただし、これらは民法で定まった民法上の氏を変更する手続ではなく、あくまでも呼称上の氏を変更する手続であることに留意していただきたいと思います。
〈甲野の氏を称したい場合〉
ア 離婚後3ヶ月以内であれば、離婚の際の氏を称する届出により、甲野の氏を称することができます(民法767条2項、戸籍法77条の2)。
イ 離婚後3ヶ月を過ぎてしまうと上記アの届出はできず、戸籍法107条の規定により家庭裁判所に『氏の変更許可申立書』を提出して、家庭裁判所の許可を得た上で市区町村役場に『氏の変更届』を提出することになります。しかし、この場合において、家庭裁判所の許可を得るためには、氏を変更しないと社会生活上著しい支障が生じるなど、やむを得ない事情があることが必要となります。
〈乙川の氏を称したい場合〉
上記イの手続を取ることになります。
4 おわりに
以上、離婚後の夫婦及び子の氏と戸籍について述べてみましたが、冒頭述べたように、多くの相談者は離婚後の氏や戸籍がどのようになるのか、ほとんど理解していない上に、特に離婚後、子の親権者及び監護養育者となる母は、当然に母子で同じ氏を称し、同じ戸籍になるものと誤解していることが多いように思われます。そのようなときに、公証人がやさしくその誤解を指摘し、その後の必要な手続について、的確なアドバイスをすることができれば、公証人への信頼が一層高まることにつながるのではないかと思われます。

*「民法上の氏」とは民法の規定により定まった氏のことを指し、「呼称上の氏」とは、民法の規定により定まった氏はそのままに、戸籍法の規定により呼称だけを変更した氏を指す。「呼称上の氏」の例を挙げると、戸籍法77条の2の離婚の際の氏を称する届により称する氏、戸籍法107条の氏変更届により称する氏がこれに該当する。
(加藤三男)

No.61 任意後見監督人選任前の任意後見契約について、委任者が病気で役場に出頭できない場合、契約解除合意書の代理人による代理自認認証は可能か。(質問箱より)

【質 問】
任意後見監督人選任前の任意後見契約(発効前)について、合意解除の相談がありました。委任者が病気で役場に出頭できない場合、契約解除合意書の認証は、代理人による代理自認認証は可能でしょうか。
【質問箱委員会回答】
1 結論
まず、結論から申し上げますと、任意後見契約に関する法律第9条第1項に規定されている公証人の認証については、代理人による嘱託の場合を排除しているものとは解されませんが、当事者の意思確認に疑問を生じた場合や任意後見契約をめぐって親族間で争いを生じるおそれがある場合など、公証人として慎重に当事者の真意(意思能力の有無も含む。)を確認する必要があるときで、当事者が病気等のため出頭できないときは、公証人が出張して当事者に面接の上認証手続をするのが相当と考えます。
2 公証人の行う「認証」について
公証人の認証は、国の機関である公証人が、その書面にされた署名若しくは捺印について、本人がしたものに間違いないという証明をするものであり、その書面の記載内容を証明するものではありませんが、その書面が作成者の意思に基づいて作成されたものであることを証明するものです。
公証人の認証には、目撃認証と自認認証があり、さらに、自認認証には本人が出頭して自認する場合と代理人が出頭して代理嘱託する場合があります。
外国に提出する文書等で、本人が公証人の面前で署名することが要件とされているものや、戸籍届出の不受理申出書など本人の真意であることを確認する必要があるとされているものについては、本人が病気等のため公証人役場に出頭できないときは、公証人法第18条第2項の「事件ノ性質カ之ヲ許ササル場合」に該当するものとして、公証人が出張して認証を行うこととなります。
なお、本人が公証人役場に出頭できない事情の確認については、医師の診断書の提出等によることになりますが、仮に、出頭できない事情がなかったにもかかわらず公証人が出張して認証した場合、認証の効力に影響はありませんが、当該公証人は公証人法第18条第2項違反として懲戒の対象になる可能性があります(公証人法第79条)。
3 任意後見契約に関する法律第9条第1項の規定について
任意後見監督人選任前の任意後見契約の解除は、任意後見契約に関する法律第9条第1項により、公証人の認証を受けた書面によって行うこととされていますが、この認証について代理人の嘱託によるものを排除するというようなことは明記されておりません。
この点について、日本公証人連合会の平成28年度春期公証人専門研修の講師は、「任意後見契約の解除は、東京地裁の判例があるとおり、代理人による嘱託でもできます。」と述べており(「公証」第184号21ページ)、実際に代理人による自認認証の書面によって任意後見契約が解除されている事例があると承知しています。
ただし、同講師は、上記の後に、「平成18年7月6日の東京地裁の判決では、先行する任意後見契約の解除と後行の任意後見契約の締結が無効とされました。」(前同)と述べていることから、親族間で争いが生ずるおそれのある場合などには、公証人として慎重に本人の真意を確認する必要があるでしょう。
4 任意後見契約解除の際の認証について
民法の一部を改正する法律等の施行に伴う公証事務の取扱いについての民事局長通達(平成12年3月13日付け法務省民一第634号)第2の3(1)アには、「任意後見契約の公正証書を作成するに当たっては、本人の事理を弁識する能力及び任意後見契約を締結する意思を確認するため、原則として本人と面接するものとする(本人が病気等のため公証人役場に赴くことができない場合は、公証人法第18条第2項ただし書の「事件ノ性質カ之ヲ許ササル場合」にあたる。)。」としています。
同じことが、任意後見契約解除の際の認証についても言えるのかどうかということですが、この認証について、「この手続要件も、公証人の関与により、解除についての当事者の明確な意思の存在を担保し、当事者の不利益を回避する趣旨であるとされている」(日本評論社「新基本法コンメンタール 親族」347ページ)との解説や、「任意後見契約の解除については、公証人法第58条以下の規定に従って行うが、認証を必要とした趣旨に鑑みれば、署名の真正の審査に当たっては解除が本人の真意に基づくものであることを確認することが必要であろう。疑いがあるときは、本人と面接するなどして確認することになる。」(「公証」第127号271ページ)との解説は、任意後見契約解除の際の認証についても、任意後見契約締結の際の本人の意思確認と同様の注意を必要とする趣旨と解することができます。
任意後見契約の場合、既に本人の判断能力が不十分な状況になってしまっている可能性があることも考えますと、任意後見契約解除の際の認証についても、前記民事局長通達にあるとおり、本人の事理を弁識する能力の有無の確認も含め、原則として本人と面接するのが相当と考えます。
特に、親族間で争いが生じるおそれがある場合など、より慎重な対応が求められる場合には、代理人による嘱託は避けるべきでしょう。
5 その他
任意後見契約合意解除の際の認証について、仮に、代理人による嘱託で問題ないと公証人が判断した場合でも、受任者が委任者の代理人を兼ねることは、既に合意解除の意思表示がされた書面について認証を受けるだけの行為ではあるものの、利害の対立する相手方を通じて本人の真意を確認することで良いのかという疑問が生じますし、民法第108条(自己契約及び双方代理)の趣旨に反することにもなりかねませんので、受任者とは別の、委任者の代理人から嘱託を受けるのが相当と考えます。
なお、委任者の真意が確認できない場合であっても、受任者が解除の意思を有しているのであれば、受任者からの一方的な解除通知に認証する方法でも任意後見契約の解除が可能です。
ただし、一方的な解除通知の場合には、内容証明郵便の送付が要件となります。

No.62 公正証書作成時に債務者が未成年者である場合の法定代理人がした執行認諾の記載方法について。(質問箱より)

【質 問】
強制執行に服する旨の陳述は,公証人に対する訴訟上の効果を発生させる訴訟行為であるから,嘱託時に債務者が未成年者である場合には,法定代理人自身によってなされることが必要であるとされている(民訴法31条,会報昭和61年4月号23ページ,会報平成2年10月号19ページ)ところ,この場合の執行認諾に服する旨の記載については,①「債務者の法定代理人何某は,本契約による金銭債務を履行しないときは,……」と記載する(新版証書の作成と文例〔三訂〕4ページ)旨と,②通常の記載「債務者は,本契約による金銭債務を履行しないときは,……」と記載する(会報昭和63年3月号16ページ)旨(法定代理人が認諾したように記載する必要がない。)の両説あるが,いずれによるべきか。
【質問箱委員会回答】
1 未成年者の法律行為について
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならないこととされています(民法第5条第1項)。
一般的に10歳未満の幼児には意思能力も認められていませんが、15歳に達した者は遺言をすることができるとする民法第961条の規定や、15歳以上であれば未成年者が自ら身分上の行為を行えることを前提とした民法の規定(民法第791条、第797条、第811条)があることから、15歳に達した者であれば自ら法律行為を行うことができるものと考えて問題はないでしょう(10歳以上15歳未満の者については、個別に判断されることになります。)。
また、通常、15歳に達した者であれば印鑑の登録が認められていますので、面識のない嘱託人の本人確認の原則である印鑑証明書の提出(公証人法第28条第2項)も可能となりますから、公正証書作成嘱託を受けるのにも支障はありません。
2 法定代理人からの公正証書作成嘱託について
自ら法律行為をすることのできる未成年者の場合であっても、その法定代理人が未成年者に代わって法律行為をすることができるのは当然のことです。
法定代理人が未成年者に代わって公正証書の作成嘱託をする場合、公正証書の本文中に代理人による旨を記載すべきこととはされておりませんし、法定代理人が強制執行認諾の陳述したときもそのことは本旨外要件の記載から明らかですから、この場合には、通常どおりの②の記載方法で問題ありません。
3 未成年者からの公正証書作成嘱託について
(1) 法定代理人の同意を得て行う場合
15歳に達していれば、未成年者であっても自ら法律行為を行うことができ、法律行為に関する公正証書作成嘱託も可能と考えて問題ありませんが、民法第5条第1項の規定により、原則として、その法定代理人の同意を得なければなりません。
この場合、嘱託人である未成年者の印鑑登録証明書等の本人確認資料、法定代理人を確認するための戸籍謄本、法定代理人の同意書(法定代理人の印鑑登録証明書付)の提出が必要となります(法定代理人の当該公正証書への署名押印によって同意書の提出に代えることもできます。)。
ただし、法律行為に関する公正証書の作成嘱託はできても、未成年者が自ら強制執行の認諾を行うことはできませんから(民事訴訟法第31条)、未成年者に強制執行認諾の効果を及ぼすためには、その法定代理人が出頭して強制執行認諾の陳述をするか、法定代理人が選任した代理人によって強制執行認諾の陳述をすることになります。
このときに、法定代理人が未成年者の法律行為に同意を与えただけでなく、法定代理人として強制執行認諾の陳述をしたことを明らかにするためには、①の記載方法による必要があるものと考えます。
(2) 法定代理人の同意を要しない場合
ところで、法定代理人の同意を要せずに未成年者が法律行為を行える場合がいくつかあります。
一つ目は、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為(民法第5条第1項ただし書き)です。
当然のことですが、未成年者の側が強制執行認諾の陳述をするということはありません。
この場合、未成年者が面識者でなければ、印鑑登録証明書等の本人確認資料が必要となります。
二つ目は、営業を許可された未成年者がその営業に関する法律行為をする場合(民法第6条)で、許可された営業に関しては成年者と同一の行為能力を有することとされていますので、自ら強制執行認諾の陳述をすることもできます。
この場合、未成年者が営業を許可されていることを証明する未成年者登記簿の登記事項証明書及び印鑑証明書(いずれも法務局から発行されるもので、市町村発行の印鑑登録証明書でないことに注意してください。)が必要となります。
なお、同様に、持分会社の無限責任社員になることを許された未成年者についても、社員の資格に基づく行為については行為能力者とみなされることになります(会社法第584条)。
三つ目は、未成年者が労働契約を締結する場合(労働基準法第58条)及び賃金を請求する場合(労働基準法第59条)で、未成年者が独立して行うことができます。
なお、使用者は、原則として、満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの未成年者を使用することはできないこととされています(労働基準法第56条)。
この労働契約を公正証書にする場合、未成年者が面識者でなければ、印鑑登録証明書等の本人確認資料が必要となります。
四つ目は、未成年者が婚姻をした場合(民法第753条)で、これによって成年に達したものとみなされ、すべての面において成年者として扱われますので、自ら強制執行認諾の陳述をすることもできます。
この場合、婚姻していることを証明する戸籍謄本の提出が必要となるほかは、通常の成年者の場合と同じです。
4 結論
結論として、未成年者がその法定代理人の同意を得て公正証書の作成嘱託をした場合に当該法定代理人が強制執行認諾の陳述をしたときは①の記載方法により、未成年者の法定代理人が未成年者に代わって公正証書の作成嘱託をして強制執行認諾の陳述をしたときは②の記載方法で差し支えないということになります。

民事法情報研究会だよりNo.33(平成30年6月)

入梅の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、民事法情報研究会だよりについては、広く会員の皆様のご投稿をいただいて、会員情報誌としての充実を図ることとしておりますが、過日開催された通常理事会において6月号から、「今日この頃」、「コラム MY HOBBY」、「実務の広場」等にご投稿を頂いた方にお礼としてクオカードをお送りすることといたしました。皆様のご投稿をお待ちしております。(NN)

今 日 こ の 頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

都城市代表監査委員となって(新井克美)

1 監査委員就任経緯
私は、平成25年6月に都城公証人を退職した。東京の自宅マンションは、賃貸に出しているため、東京の自宅には帰れず、当面は都城市に引き続き住むことになった(住まざるを得なかった。)。私は、表示に関する登記の沿革を勉強したいと考えていた。
私は、現都城市長とは、都城公証人在任中、財務省から都城市に出向し副市長として勤務していた関係から、市長主催の市内官公署長の会合(「三水会」と称する。)等を通じて、中央省庁出身者という共通項から意見交換をしていた。その副市長は、参議院議員に転出した市長の後継者として、市長選に立候補し、私の公証人退職時は都城市長となっていた。そんな関係で、私は、公証人を退職した際、都城市長への退職挨拶の際、「当面は都城市にいるので、何か市行政にお役に立てる場面があればお手伝いします」と、伝えた(私は、月一回程度委員会等の委員を想定していた。)。
一方、都城市において、主として成年後見事務を行う「一般社団法人テミス総合支援センタ」において、理事としてお世話になることになった。
平成25年の秋、東京出張中の私の携帯電話に、都城市長から電話。「新井さん、都城市代表監査委員に就任してもらえませんか。年4回の市議会の本会議への出席が主な仕事です。本会議は、1会期10日程度です。任期は平成26年2月から4年間です。詳細は事務職員を説明にいかせます。」との内容。
都城に帰り、市の職員課長から代表監査委員の事務内容の説明を受けた。なんと、市議会本会議への出席のほか、毎週3日間(月・水・金)出勤とのこと。私は、これでは、自分の仕事が思うようにできないと考え、即座に、「週3日勤務では自分の仕事に支障があるので就任は無理です。市長にその旨を伝えてください。」と回答した。
翌日、職員課長から、「市長等と協議した結果、一日の勤務時間は長くなりますが、毎週二日(火・木)出勤でどうか」との回答があった。私は、市長からの勤務形態を変更してまでしての監査委員就任の要請については「断れない」と考え、これを受託した。
平成25年12月定例議会において、私を含めた3人の監査委員の選任につき、議会の同意が得られた。これを受けて、私は、前任者の任期終了後の2月に、市長から、代表監査委員の辞令交付を受けた。

2 監査委員の職務
(1) 監査委員の選任
監査委員は、地方公共団体の執行機関の一つで、地方公共団体の財務や事業について監査を行う機関である。
監査委員は、地方公共団体の長が、議会の同意を得て、次に掲げる者から選任する(地方自治法(以下「地自法」という。)196条1項前段、197条本文)。
① 識見委員 人格が高潔で、普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者。任期は4年
② 議選委員 。任期は議員の任期
(2) 定数等
市の監査委員の定数は、2人(人口25万以上の市は4人)であるが、条例で増加することができる(地自法195条2項)。都城市は、条例で監査委員の定数を3人(識見委員2人、議選委員1人)としている。
監査委員は、複数人いるが、教育委員会(地自法180条の8)、選挙管理委員会(同法181条以下)、農業委員会(同法202条の2)等とは異なり、合議制でなく、委員一人一人が独任制であるため、監査委員会とはいわない。
監査委員は、その職務を遂行するに当たっては、常に公正不偏の態度を保持して、監査をしなければならず(地自法198条の3第1項)、また、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。(同条2項)。
(3) 代表監査委員
監査委員の定数が3人以上の場合は識見委員のうちの1人を、2人の場合は識見委員を代表監査委員としなければならない(地自法199条の3第1項)。
代表監査委員は、次の事務処理を担当する。
① 監査委員に関する庶務を処理する(地自法199条の3第2項)
② 監査委員の処分又は裁決に係る市を被告とする訴訟に関する事務を処理する(地自法199条の3第2項、3項)。
③ 住民訴訟に関する事務を処理する(地自法199条の3第2項、242条の3第5項)。
④ 代表監査委員又は監査委員の処分又は裁決に係る市を被告とする訴訟において、代表監査委員が市を代表する(地自法199条の3第3項)。
(4) 監査委員事務局
監査委員は、事務局に事務局長及び書記を置き(地自法200条2項、3項)、事務局長及び書記は代表監査委員が任免する(同条5項)。
事務局長、書記その他の常勤の職員の定数は、条例で定める(地自法200条6項本文)。都城市は、事務局長1名及び書記6名である。
監査委員の事務処理に当たっては、監査委員事務局の職員である書記が補佐する(地自法200条7項)。
(5) 監査委員の事務
監査委員の行う事務には、大別すると、①監査、②審査及び③検査がある。これらの概要は、以下のとおりである。
ア 監査
(ア) 定期監査
監査委員は、毎会計年度少なくとも一回以上期日を定めて財務に関する事務の執行及び市の経営に係る事業の管理を監査しなければならない(地自法199条4項)。
(イ) 財政援助団体等監査
監査委員は、必要があると認めるとき又は市長の要求があるときは、市が補助金、交付金、負担金、貸付金、損失補償、利子補給その他の財政的援助を与えているもの等の出納その他の事務の執行で当該財政的援助に係るものを監査することができる(地自法199条7項。「財政援助団体等監査」と呼ばれている。)。
(ウ) 随時監査
監査委員は、定期監査のほか、必要があると認めるときは、いつでも市の財務に関する事務の執行及び市の経営に係る事業の管理を監査することができる(地自法199条5項)。
(エ) 住民監査請求による監査
市民は、市長若しくは委員会若しくは委員又は市職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しく履行若しくは債務その他の義務の負担があると認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実があると認めるときは、これらを証す書面を提出して、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠たる事実によって市の被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる(地自法242条1項)。
監査委員は、この監査請求(住民監査請求)があった場合は、監査を行い、請求に理由がないと認めるときは、理由を付して、その旨を、書面により、請求人通知するとともに、これを公表しなければならない(地自法242条4項)。また、請求に理由があると認めるときは、市議会、市長その他の執行機関又は職員に対し、期間を示して、必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない(地自法242条4項)。
(オ) 行政監査
監査委員は、必要があると認めるときは、普通地方公共団体の事務又は普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員の権限に属する事務の執行について監査することができる(地自法199条2項)。
(カ) 議会の要求による事務監査
議会は、監査委員に対し、当該普通地方公共団体の事務に関する監査を求め、その結果の報告を請求することができる(地自法98条2項)。
(キ) 市長の要求監査
監査委員は、当該地方公共団体の長から当該普通地方公共団体の事務の執行に関し監査の要求があったときは、その要求に係る事項について監査をしなければならない(地自法199条6項)。
(ク) 職員の賠償責任監査
市長は、会計管理者等が故意又は重大な過失により、その保管に係る現金、物品を亡失する等によって市に損害を与えたと認めるときは、監査委員に対し、その事実があるかどうかを監査し、賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め、その決定に基づき、期限を定めて賠償を命じなければならない(地自法243条の2第3項)。
イ 審査
(ア) 決算審査
市長は、決算及び証書類その他の書類を監査委員の審査に付さなければならず(地自法233条2項)、監査委員は、毎年度、市長から提出された決算書に基づき決算を審査しなければならない(同条3項)。この審査は、監査委員の合議による(地自法233条4項)。
(イ) 健全化判断比率審査
市長は、毎年度、前年度の決算後、速やかに、健全化判断比率及びその算定の基礎となる事項を記載した書類を監査委員の審査に付し、その意見を付けて当該健全化判断比率を議会に報告し、公表しなければならない(地方公共団体の財政の健全化に関する法律(以下「健全化法」という。)3条1項)。この監査委員の意見の決定は、監査委員の合議による(健全化法3条2項)。
なお、「健全化判断比率」は、地方公共団体の財政状況を客観的に表し、財政の早期健全化や再生の必要性を判断するための制度であり、次の4つの財政指標がある(健全化法3条1項)。
① 実質赤字比率(地方公共団体の「一般会計」等に生じている赤字の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したもの)
② 連結実質赤字比率(公立病院や下水道など公営企業を含む「地方公共団体の全会計」に生じている赤字の大きさを、財政規模に対する割合で表したもの)
③ 実質公債費比率(地方公共団体の借入金(地方債)の返済額(公債費)の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したもの)
④ 将来負担比率(地方公共団体の借入金(地方債)など現在抱えている負債の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したもの)
(ウ) 資金不足比率審査
公営企業を経営する市長は、毎年度、当該公営企業の前年度の決算の提出を受けた後、速やかに、「資金不足比率」及びその算定の基礎となる事項を記載した書類を監査委員の審査に付し、その意見を付けて当該資金不足比率を議会に報告し、公表しなければならない(健全化法22条1項)。この監査委員の意見の決定は、監査委員の合議による(健全化法22条3項で準用する同法3条2項)。
ハ 検査
例月現金出納検査
普通地方公共団体の現金の出納は、毎月例日を定めて監査委員がこれを検査しなければならない(地自法235条の2第1項)。そして、監査委員は、この検査の結果に関する報告を議会及び市長に提出しなければならない(地自法235条の2第3項)。

3 市議会本会議への出席
都城市の定例議会は、3月、6月、9月及び12月に開催されるのが通例とされている。 私たち監査委員3名の就任に関する同意議案は、平成25年 12月開催の定例議会で承認され、翌26年2月25日付けをもって発令された。
都城市議会は、本会議において、市長部局(市長、副市長及び部長、支所長)のほか、行政委員会として、教育長、教育委員長、教育部長、選挙管理委員会委員長、農業委員会会長とともに、代表監査委員が出席すべきこととされていた。このため、私は、平成25年の3月定例議会から代表監査委員として本会議に出席した。本会議におけるメインは、一般質問であった。都城市議会における一般質問は、会派で調整することなく、希望する議員は、事前通告をすれば自由に質問をすることができ、その内容がケーブルテレで生中継されている関係からか、盛況(内容はともかく)であった。一般質問は、一人60分(質問及び答弁を含む。)で、午前10時から、一日5人、1週間程度行われた。私は、議場内において、議員と市長部局との一般質問を拝聴することは、都城市の抱えている問題点を理解することができ、監査委員の職務に関する知識の習得に有益であるところから、真剣に聴いた。しかし、私は、地方行政の経験は皆無であり、また、都城市は公証人として勤務した8年のみであることから、質問の内容(特に、法令、条例の内容、地名等)は良く理解できないものが多かった。そこで、議会事務局に、議場内にタブレットを持ち込むことの許可をお願いし、議会運営委員会の承認を得た。
一方、私は、平成25年度の土地家屋調査士試験委員を拝命していたため、本会議開催日に法務省での試験問題検討会議が重なることがあり、その都度、議長に対して、理由を付して、事前に、欠席届を提出し、議会運営委員会の承認を得なければならなかった。このため、私は、議長に対して、土地家屋調査士試験のため欠席の説明に訪れた際に、監査員に対する質問がほとんどないこと、監査委員室でケーブルテレビを見ていれば本会議の議事の経過を把握することができること、監査委員が本会議に出席しないことになればその間に監査委員の事務を行うことができること等を説明し、監査委員に対する質問要求がない場合は本会議に出席することを要しないとする取扱いを検討してもらえないかをお願いした。その結果、議会運営委員会での議論を経て、9月定例議会から、選挙管理委員会委員長、農業委員会会長及び監査委員については、質問要求がない場合は本会議に出席することを要しないことになった。選挙管理委員会委員長及び農業委員会会長からは、感謝された。

4 住民監査請求
前述のとおり、地方自治法は、住民監査請求を認めている。しかし、都城市においては、オンブズマンがいないこともあり、十数年間、住民監査請求がなかった。
ところが、私が監査委員に就任した直後、住民監査請求書が提出された。私が新たな仕事を呼び込んだのではないかと噂された。市議会議員選挙の際に市から支給される選挙用のポスター及びはがきの印刷費用を水増しして請求しているのではないかというのが請求の趣旨であった。
調査の結果、理由がないとして、請求を棄却した。訴えの提起の動きもあったようだったが、最終的には、収束した。ホットした。採決書の起案に当たっては、住民監査請求制度を勉強するとともに、法務省訟務局等当時の上司にご指導をいただいた。本当にありがたかった。

5 監査等の具体的な事務
監査委員の一年間の事務は、おおむね以下のとおりである。
(1) 監査計画の立案
監査委員及び監査委員事務局は、年度当初、当年度の監査計画(定期監査の対象部課及び重点項目、行政監査実施の有無及びその内容)を立案する。そして、対象部課等に対して、監査項目に応じた監査資料の提出を求める。
(2) 例月現金出納検査
支出命令書等の会計書類が会計課から監査委員に送付される。私が就任にした当時は、事務局職員がこれをすべて点検していた。計算誤り等の有無を再点検し、計算誤り等を発見した場合はその旨を指摘し、その是正結果の報告を求めるのである。この事務量が膨大であるため、監査業務が十分できない状態であった。一方、計算誤り等の件数は年間数件程度あり、その年間の合計額は数千円ないし数万円程度であった。
監査委員就任時の事務局長(会計事務の大ベテラン職員)は、私に対する監査事務の説明の中で、少しの過誤事案でも指摘することが正確な会計事務の処理にとって極めて重要である旨を説明してくれた。そして、事務局職員は、すべての会計書類を調査し、過誤事案がないを一所懸命に点検しており、これが監査委員の基本の職務であると考えていた。
このような状況をみていて、私は、監査委員制度は、非常勤職員である監査委員が、市長部局から独立した行政組織として監査を実施し、しかもその結果を市長及び議会に報告するとともに、公表するという制度の趣旨からすると、計算誤り等の有無を再点検することが主要な事務ではなく、市民目線で、条例改正を含む制度上の問題点を明らかにすることにあるのではないか、と考えた。
そこで、監査委員就任3年目から、監査委員及び事務局職員と議論を重ねた上、会計課との協議を経て、会計課から監査委員に送付された会計書類の点検作業は、これまでの悉皆調査から試査(抽出調査)に変更し、その余力を、定期監査の充実や新たな行政監査の実施に充てることとなった。
(3) 決算審査
会計管理者は、毎会計年度後、決算を調製し、出納の閉鎖後3か月以内に、証書類等と併せて、市長に提出する(地自法233条1項)。市長は、決算を監査委員の審査に付さなければならない(同条2項)。
監査委員事務局は、6月に、決算書等の提出を受けて、決算内容を分析し、意見書を作成する。例年、お盆を返上し、8月中に、市長に提出する。
一般会計及び特別会計(11会計)別に、歳入・歳出の決算の状況を、主として対前年度と比較した表を作成し、意見を述べるのである。水道事業等の公営企業会計についても同様である。これらに併せて、健全化判断比率審査及び資金不足比率審査に対する意見書を作成する。
監査委員に就任した年は、これら意見書作成に当たって、予算・決算の仕組みや会計用語の説明を受けるのであるが、初心者の私にとって内容が理解できない。法務局在職時に会計課長を2年経験したが、当時は登記所の適正配置計画の実行や折衝の仕事が中心であったことや、優秀な部下職員のおかげで、会計手続を全く勉強しないで過ごした。会計法規を勉強していけばよかった。後悔してもどうにもならない。幸いなことに、私と同時に就任した識見委員(以下「相方委員」という。)が、元監査事務局長であり、しかも水道局勤務の経験があったため企業会計に精通していた。私の疑問について、関係法規、条例、規則、マニュアル、文献を示し、親切、丁寧、詳細に教えてくれた。本当にありがたかった。
(4) 定期監査等
ア 定期監査の実施
定期監査は、監査委員の中心的事務である。年度当初に作成した監査計画に基づいて、書記は、2人1組のチームを組んで、例年、9月から翌1月までの間、定期監査を実施する。監査対象部課等から、監査計画に基づいて資料の提出を求めた後、現地に赴いて会計帳簿を精査するとともに、担当職員の立会を求め、疑問点を聴取する等して、会計帳簿の内容が条例、規則等に基づいているか等を調査する。書記は、調査結果を踏まえて、問題点、疑問点等をまとめ、この内容を監査委員事務局全員で議論し、検討する。
財務に関する監査の中心は、事務処理に当たって最少の経費で最大の効果を挙げているか(地自法2条14号)である。私は、このことについては素人であるため、多くは相方委員に頼っている。私は、市長部局は法令及び条例の執行機関であること、市職員は市民に対して平等に行政サービスを提供する義務があること、そして平等な行政サービスを提供するたには法令及び条例に基づいた事務処理を励行する必要があること、と理解し、定期監査の対象事務が法令、条例等に基づいて処理されているかを中心に審査を行った。
そして、監査委員室において、監査委員事務局全員で議論した結果に基づく問題点、疑問点等について対象機関の部長及び課長等の見解を求めた(これを「講評」と称している。)。
2月から3月にかけて、市長及び議長に対する意見書を作成する。意見書作成に当たっては、監査委員(3人)及び職員全員(7人)で、プロジェクター(当初は私個人のものを使用)を用い、意見書案、関係法令・条例等及び会計書類をスクリーンに映し、担当者の説明を受けて、意見書の内容のほか、漢字や送り仮名、句読点の用い方を含め、議論する方法を取り入れた。これは、監査委員室が少人数であったこと、職員の起案能力・弁論能力の向上を図ること、組織の一体化を図ること、事務処理の迅速化・効率化を図ること等を考慮したものである。
イ 財政援助団体等監査の実施
定期監査に併せて、財政援助団体等及びその所管課に対して監査を実施する。その方法は、定期監査とおおむね同様である。
ウ 随時監査の実施
平成28年、富山市議会で、政務活動費(1人15万円)を不正に受給していた14人の議員が相次いで辞職する事件が発生した。この事件の報道を受けて、都城市内のスナックなどで、都城市議会の政務活動費は大丈夫か、との質問を複数回受けた。私は、都城市議会の政務活動費は1人月額3万円と少額であることを説明した。また、前年の議会事務局に対する定期監査において政務活動費について調査したが問題は見つからなかった。
監査委員において、市民の間に政務活動費に関する疑念があるのであれば随時監査を実施するのが相当ではないか、ということになった。しかし、年度計画による定期監査及び新規の行政監査の実施が進行しているため監査事務局には余裕がなかった。そこで、議員選出の監査委員は利害関係人であるため除斥となり(地自法198条の2)、私と相方委員が直接担当することになった。
政務活動費(政務調査費を改称)は、地方議会の議員に政策調査研究等の活動(議員活動の範囲に関係する書籍等の購入費用、民間主催の議員研修会への参加費用、先進地視察の諸費用、事務所経費等)のために支給される費用である。政務活動費の詳細は、条例により定められ、議会の会派又は議員に対して支給される。
監査の結果、政務活動費の使途についておおむね適正であるが、政務活動費に対する市民の不信を払拭するため、更なる使途の透明性を図る必要があり、議会において、条例改正を含めた検討を期待する旨の意見を述べた。これを受けて、議会事務局では、運用で改善できるものについては取扱手続を改善した。当時の議長は、私に対して、条例改正を伴うものについては議会として議論をする必要があるが、選挙が近いので具体的には改選後にならざるを得ないのではないかと、述べていた。その後、本年1月に実施された市議会選挙後に選任された議長は、私が代表監査委員再任の挨拶に赴いた際、議会は、市長が提案する条例の賛否を審議するだけではなく、議員立法の形で条例を作りたいとの希望を述べたので、随時監査の結果を踏まえて、政務活動費に関する条例改正を手がけるのがいいのではないか、との意見を述べた。
エ 行政監査の実施
監査委員は、行政監査を行うことができることとされていたが、都城市では実施していなかった。定期監査は、組織ごとに実施するため、政策目的を横断的に調査することは困難であった。
公の施設の管理に関する指定管理者制度は、公の施設の管理について民間事業者等の有するノウハウを活用する目的から、平成15年の地方自治法の一部改正により創設されたものであるが、平成27年における財政援助団体等監査において、当該財政援助団体等が指定管理者となっている施設において、実施が義務付けられているモリタリングが励行されてない事例が散見された。
そこで、平成28年に実施した行政監査のテーマとして、指定管理者制度を導入しているすべての公の施設を対象として、モリタリングの実施状況、を選定した。市長及び議長に対して、問題点として、①形式的なモニタリングマニュアル、②漫然としたモニタリングの実施情況、及び③定期モニタリングと評価が混在したマニュアルを指摘した上、指定管理者制度の主管課に対しては指定管理施設の規模、利用形態等に応じた効果的かつ具体的なモニタリングの実施を所管課に指導すべき旨を、また、個々の指定管理施設の所管課に対しては規模、利用形態等に応じて実効性のあるモニタリングを実施すべき旨を、それぞれ意見として述べた。
次に、平成28年度決算審査において、徴収未済債権の管理について、担当者は、形式的に、電話で支払のお願いをする程度で、時効の到来を待って欠損処理をしている事例が散見された。このため、平成28年度定期監査の講評において、法令に基づく時効中断の措置を講ずるなどの債権管理の事務を怠り、漫然と時効を到来させた職員は、住民監査請求があると責任を免れないこと、市民の不平等を招くこと等を説明した結果、債権管理条例が制定された。
そこで、平成29年度は、法務局在職時代に経験した債権管理に関する裁判手続(国の債権の管理等に関する法律と地方自治法とでは、若干の違いがある。)を思い出しながら、債権管理条例の内容及び非強制徴収債権に関する債権管理事務手続について、行政監査を実施した。市長及び議長に対して、履行期限到来後の遅延損害金の取扱いや延納特約手続としての債務名義の取得手続等について、債権管理条例の問題点を指摘し、意見を述べた。
オ 定期監査等の意見等に対する市長部局の対応等
年度末に、監査委員全員が、市長室及び議長室に赴き、市長(副市長同席)及び議長に対して、要旨を説明の上、定期監査等の意見書を手交する。
その際、市長に対して、部長を通じて、監査結果及び監査意見を職員に周知させ、事務の改善に利用することを強く求めた。これに対し、市長は、監査結果及び監査意見を高く評価し、職員への周知について、部長等に指示した。

6 監査委員になって
監査委員は、地方自治全般に関する知識が必要である。ところが、私は、地方自治は未経験である。監査委員就任当初、地方自治に関する知識がなく、しかも、勉強する能力が劣化している高齢者の私が、監査委員の職務を遂行できるのだろうか、市民から「税金泥棒」と批判されないだろうか、と心配であった。
法務省・法務局在職中に培った法令解釈の知識や裁判手続、秘書課在職中に経験した国会対応等が監査委員の事務処理に役に立った。そして、なりよりもありがたかったのは、法務省・法務局在職中にお付き合いをいただいた上司、先輩、同僚、そしてかつての部下の助言であった。
そして、相方委員の存在である。彼は、地方自治事務や会計事務はもとより、簿記の知識が豊富であり、いろいろな場面で指導、助言をいただいた。私が各地での講演で不在になる場面でも、私の日程に併せた日程調整に応じてくれた。彼がいなかったら、私の監査委員は務まらなかった。相方委員には本当に感謝している。
また、監査委員の事務局職員は、優秀で、事務処理に支障はなかった。特に、平成29年度のメンバーは、4月に監査事務に配属後の職員を含め、独学で勉強し、全員が、6月に日商簿記3級の資格を取得した(続けて2級の資格を取得した者もいる。)。私は、職員に対して、相方委員の簿記の知識を前提に、指定管理者の監査に当たっては財務諸表を理解する必要があること、地方自治体も将来的には公会計に移行すること、60歳になって定年退職後は、組織で培った市役所での知識経験が求められて民間に再就職した場合、簿記が読めなければ経営に参加できないこと等を説明して、簿記資格取得の必要性を説いてきた。もっとも、私は、公証人在職中、個人事業者として、税務申告のためにパソコンソフトを利用する中で、ちょっぴり勉強したものの、講義を何回か受けたが、体系的には、はっきり言って「無知」ではあるが……。
さらに、市長及び市議会議員の多くは、私が公証人在職中に面識があった。これは、監査委員の仕事をする上で非常にありがたいことであった。
最後に、私たち監査委員の任期は、平成30年2月25日をもって満了した。市長から、昨年秋に、再任の打診があった。私は、71歳(6月で72歳)であり、再任されると75歳まで勤務することになる。後期高齢者である。最近は、年々、「昨年できたことが今年はできない」ことの確認の連続である。妻や子どもに相談したところ、一言「働けるだけ働け」だと。しかたがない、再任を受託しよう。
そこで、市長に対して、①相方委員と一緒であること、②監査報告の結果に対して市長部局として真摯に対応すること、そして、③体調悪化の場合は途中で退任することがあること、の3条件を付して、監査委員再任の受託を伝えた。
その後、議会の同意を得て、平成30年2月26日、議員選出の新任辞令とともに、相方委員と一緒に再任辞令を受けた。
これから、4年間、後期高齢者になるまで、都城市役所で、頑張らなければならない。

犯人は誰だ!!(由良卓郎)

ある休日の朝,事務所に行くべく自車を走らせていたところ,自宅から1キロも行かない間に,今まで聞いたことのない警告音が鳴り続いた。驚いてメーターを見ると,メーターの一角に赤いランプが点灯している。よく見ると左前輪のタイヤの空気圧が異常に低くなっており,パンクの表示がされていた。直ぐに停車して確認したところ,左前輪中央部に大きなボルトが綺麗に刺さっていた。
ディーラーに電話したが休業日のため出ず,やむを得ず行きつけのガソリンスタンドで応急措置としてのパンク修理をしてもらった。スタンドの職員曰く,「とりあえず空気は漏れないようにしたが,このタイヤは修理ができないと思うので,ディーラーに行ってみてもらってほしい。ディーラーではタイヤ交換を勧められると思うし,4本とも交換するよう勧められるかも知れない。」とのこと。自動車に乗り始めて50年近くになるが,パンクした記憶はほとんどない。それが何だってこんな面倒くさいタイヤのときにパンクをするのか。ひょっとして,誰かの仕業ではないのか。などとよからぬ憶測をしたり,いやいや人を疑ってはいけないなどと思ったりしつつ,ディーラーにタイヤ交換の相談をしたりしていた。パンクだけで収まっていれば私も自損と思い「しょうがないな」で済ましたと思う。しかし,それから丁度一週間後の朝,駐車場に行くと,今度は右後輪のそばでネズミが死んでいた。今時ネズミなんて滅多に見ないし,生まれてこの方,自分の車のそばでネズミが死んでいたなんてことは全く経験がないのに,先週は左前輪のパンク,今度はその対角線上にある右後輪のそばにネズミの死骸。やはり誰かの仕業ではないのか。自分の知らないところで,誰かの恨みを買っていているのかも知れないなどと思い始めると,私はちょっと気持ちが悪くなり,マンションの管理会社に電話して,事の顛末を話し,監視カメラの映像をチェックして欲しいと頼んだ。幸いにも私の車の直ぐ上に監視カメラが設置されている。
管理会社は,私の我が儘な要望を快諾してくれて,マンションの管理組合の了承も得て,監視カメラを確認してくれた。
その結果,何と,予想外にも,いや予想できたことかもしれないが,私が車を止めてから翌朝までの間に,右後輪付近を白い子猫がうろついており,その猫がネズミを置いたようだとのことだった。
そういえば,昨夜11時頃車で帰宅し,駐車場に車を止めようとした際,白い子猫がヘッドライトに照らされていたことを思い出した。あの猫か!!
どうもその白い子猫が,取ってきたネズミを「そうだ,あの車,さっきは眩しかったなあ,よーし,このネズミ,あの車の横に置いておいてやろう」と思ったのかも知れない。
侮れない子猫,なかなかの子猫だ。
ちなみに,左前輪付近には,該当する時間帯に人影らしきものは確認できなかったとのことで,これはやはり自損のようで,たまたま滅多に生じない偶然が重なったようだ。

最北の公証役場で(木村 繁)

公証人任命から、瀬戸内笠岡で3年1月、北の大地に帰り名寄で2年8か月、瀬戸内の海の幸も懐かしいものの、もとより北国育ちですから、北の海の幸が口に合い、真冬の寒さ対策は完璧、日ごろの運動不足を除雪作業と昨年新たに買い換えたスキー靴を履き、スキー場で多少でも解消していると言ったところでしょうか。
法務局時代2度通算7年の名寄での勤務があり、勤務時のマイナス35.7℃や冬の降雪量が13メートルに達したころと比べると、昨年の降雪量は7メートルと半減したものの、最低気温はマイナス28.1℃と豪雪地帯の割には、氷の世界は健在です。
マイナスイメージが多い(私は思ってない!)ですが、春から秋にかけての名寄は、夏も最高気温が昨年は31℃、雨が少なく、カラッとして北海道らしい、ひまわりが似合う田舎町です。(そだねー!)
みなさんご存知でしょうが、旭川と名寄の旭川公証人会の管轄エリアは、北は稚内から南は占冠(帯広まで80㌔の村)まで南北に350㎞、東は流氷の町紋別から西はニシン番屋の留萌まで220㌔と、その面積は約2万2000平方㌔㍍で、四国4県に長崎県を加えた面積とほぼ同じです。
ちなみに全国最大の面積は釧路公証人会管轄で釧路、根室、十勝、網走、北見をカバーし、当地域はこれに次ぎます。
最北の公証役場として、2か月に1回は、名寄から稚内まで170㌔超の出張があり、法務局時代は1泊でしたが、1人庁ならではの日帰りです。公共交通機関はJRですが、特急が朝、昼、夜の3本ですので、朝9時過ぎの特急で名寄を出発、稚内に午後1時前到着、証書作成後、帰りは夕方5時過ぎの特急に乗り、名寄には夜10時到着の行程になります。
往復約6時間以上を列車の中で過ごすことになり、効率悪く、しかも、宗谷本線の廃止の声があることも影響してか、雪のため、あるいは線路冠水のため等々、最近はとみに事前運休が多くなり、鹿との遭遇もありますが、冬期間も車で出張することにしています。
地域の多くが、枝幸、紋別、羽幌など、既にJR路線が廃止となり、アクセスが不便な地域の場合は、ハンドルを握って目的地に向かっています。
必然的に、車は必需品ですし、長距離運転しなければならないのは、最北の公証役場の特色と言えます。
長距離運転は、事務所にこもるより、楽しみもありますが、高速はなく、車の比較的少ない国道走行で、夏は良いのですが、真冬に峠を越えるとき、オホーツク海側や日本海側のオロロンラインの海岸線では、悪天候のため出張延期や出張しても猛烈な地吹雪に遭い緊張を強いられます。除雪が行き届いていても、帰路、夜はブラックアイスバーンとなり、意図しないカーブを描くカーリング気分を味わうこともできます。
管轄面積の広大さはあるものの、当地域全体の人口密度は32人/平方㌔㍍、全国の平均人口密度は343人/平方㌔㍍ですから、10分の1。旭川市以外地域の人口密度は17人/平方㌔㍍程度ですから、全国平均の20分の1となりますが公証人を必要とするお客様が広い地域に散らばっている以上、公証人の移動距離が伸びるのは必然かもしれません。
観光案内にもなりませんが、春夏秋冬、様々な景色を愛でながら、楽しく共に生きることを目標に、昨年から離島における公証相談に出かけております。是非、余裕をもって、利尻・礼文島含む北の大地に足を運んでいただければ、ご案内いたします。

断捨離を免れた話材「花嫁の電話」(中垣治夫)

法務省・法務局に在職中は、いい話材があると打合せ会、研修、会食などでの話題のほか、局報等の原稿などで利用・活用するため、いろいろと切り抜いて残していました。退職後1年ほど経った頃、もう使うことはないなということで、世の中の「断捨離」の流れに従って、クリアファイルで3冊あったのですが、全部廃棄したのでした。
退職して2年が経った今、「今日この頃」などの原稿書きの機会に恵まれ?、残念なことをしてしまったと大いに反省しつつ、何か話材がないかと日頃書き留めていたノートを読み返していたところ、1片の紙切れが、そのノートに挟まっていました。話材としての利用がないのでそのノートに挟まっていたのですが、そのおかげで断捨離を免れたのでした。
断捨離を免れた話材ではあるのですが、さて、これを基に一昨年の長男の披露宴の話にしようか、今秋予定の長女の結婚式の話にしようか、それとも結婚観の今・昔のような話をしようかと悩んだのですが、結局、この作品の素晴らしさをそのまま皆さまに届けるのが相当と考え、原文のまま紹介することとしました。
ほんの少しの時間、日頃の苦労を忘れ、緊張から解放された、ゆったりした気持ちで、また皆さんの子供たちの披露宴を思い出しながら、一読し、心を動かせてください。

第4回NTT西日本コミュニケーション大賞 グランプリ受賞作品
作品「花嫁の電話」   作者・神馬せつを(石川県)

由香ちゃんが近所に引っ越してきたのは、まだ小学校三年生のときでした。
ときどき我が家に電話を借りに来るのですが、いつも両親ではなく由香ちゃんが来るので、おかしいなと思っていたのですが、しばらくしてそのワケがわかりました。
由香ちゃんのご両親は、耳が聞こえない聴覚障がいがある方で、お母様は言葉を発することが出来ません。
親御さんが書いたメモを見ながら、一生懸命に用件を伝える由香ちゃんの姿を見ていると、なんだか胸が熱くなる思いでした。
今なら携帯電話のメールがありますが、その時代を生きた聴覚障がいをもつみなさんは、さぞ大変だったろうと思います。
由香ちゃんの親孝行ぶりに感動して、我が家の電話にファックス機能をつけたのは、それから間もなくのことでした。
しかし、当初は明るい笑顔の、とてもかわいい少女だったのに、ご両親のことで、近所の子どもたちにいじめられ、次第に黙りっ子になっていきました。
そんな由香ちゃんも中学生になるころ、父親の仕事の都合で引っ越していきました。

それから十年余りの歳月が流れ、由香ちゃんが由香さんになり、めでたく結婚することになりました。
その由香さんが、
「おじさんとの約束を果たすことができました。ありがとうございます。」
と頭を下げながら、わざわざ招待状を届けに来てくれました。
私は覚えていなかったのですが、「由香ちゃんは、きっといいお嫁さんになれるよ。だから負けずに頑張ってネ」
と、小学生の由香ちゃんを励ましたことがあったらしいのです。
そのとき「ユビキリゲンマン」をしたので、どうしても結婚式に出席してほしいと言うのです。
「電話でもよかったのに」
と、私が言うと、
「電話では迷惑ばかりかけましたから。」
と、由香さんが微笑みました。

その披露宴でのことです。
新郎の父親の謝辞を、花嫁の由香さんが手話で通訳するという、温かな趣向が凝らされました。
その挨拶と手話は、ゆっくりゆっくり、お互いの呼吸を合わせながら、心をひとつにして進みました。
「花嫁由香さんのご両親は耳が間こえません。お母様は言葉も話せませんが、こんなにすばらしい花嫁さんを育てられました。障がいをおもちのご両親が、由香さんを産み育てられることは、並大抵の苦労ではなかったろうと深い感銘を覚えます。嫁にいただく親として深く感謝しています。由香さんのご両親は、『私達がこんな身体であることが申し訳なくてすみません』と申されますが、私は若い二人の親として、今ここに同じ立場に立たせていただくことを、最高の誇りに思います。」
新郎の父親の挨拶は、深く確かに心に沁みる、感動と感激に満ちたものでした。
その挨拶を、涙も拭かずに手話を続けた由香さんの姿こそ、ご両親への最高の親孝行だったのではないでしょうか。
花嫁の両親に届けとばかりに鳴り響く、大きな大きな拍手の波が、いつまでも披露宴会場に打ち寄せました。
その翌日。新婚旅行先の由香さんから電話が入りました。
「他人様の前で絶対に涙を見せないことが、我が家の約束ごとでした。ですから、両親の涙を見たのは初めてでした。」
という由香さんの言葉を聞いて、ふたたび胸がキュンと熱くなりました。
(NTT西日本 ハローインフォメーション 2007・9・第85号)

実務の広場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.58 事業用定期借地権設定契約公正証書の作成手数料について

1 はじめに
現在,日本公証人連合会の関係委員会において,遺言公正証書作成における不動産の評価基準や予備的遺言手数料の算定方法に関する議論が進んでいます。当職においては,公証人手数料令及び前任者から引き継いだ考え方に従った手数料算定の取扱いをしていますが,嘱託事件の中には判断に苦慮する事案もあるところです。
ところで,青森県内では,平成27年6月にセブンイレブンが青森県に初めて出店したことがニュースになりましたが,八戸市近郊においてもコンビニエンスストアや複合型の大型商業施設の出店などが目立つようになり,事業用定期借地権設定契約の嘱託を受ける機会も多いように感じられます。
本稿では,当職が平成29年中に取り扱った事業用定期借地権設定契約事案の中から,「解体協力金」,「解体保証金」,「外構負担金」などに係る条項が含まれていて,手数料算定に関して若干の疑義が生じたことなどについて記してみたいと思います。

2 賃貸借契約公正証書の手数料算定について
賃貸借契約公正証書の手数料の算定に関しては,「賃料のみに基づいて手数料を算定する。敷金,保証金,権利金,管理費,共益費等賃料以外については手数料算定の基礎としない。ただし,建設協力金については,その具体的な内容に応じて賃貸借契約以外の別の1行為として,手数料を算定する場合がある。」とされています(平成18年2月24日法規委員会協議結果の要旨。新版法規委員会協議結果集録(平成8年~平成24年)264,265ページ。)。
それ以前の法規委員会の協議では,建物賃貸借における建築工事協力金差入条項は付随行為か否かについて,概要,「昭和36年11月27日民事甲第2975号民事局長通達によれば付随行為とあり,印紙税法基本通達では建設協力金保証金は原則として消費貸借に関する契約書として取扱うとしている。ただ,注意すべきことは,印紙税法基本通達は徴税手続上の一つの目安を定めたものに過ぎないのであって問題を積極に解する一つの支えにはなるであろうがこれを積極論のすべての根拠にすることは適当でない。~中略~。前記民事局長通達は,この種事例の少なかった時代のものであり,現時の実状の下において妥当なものかどうか再検討の要があることは間違いない。」としており(昭和45年4月25日法規小委員会協議結果),また,「いわゆる建設協力金については,金銭消費貸借として,別行為とする取扱いが紹介された(昭和51年7月9日法規委員会協議結果)とあります(上記は新訂法規委員会協議結果要録426~428ページ)。
さらに,建設協力金については,「建物の賃貸借契約などにおいて建設協力金等の名義のもとに金銭が支払われる場合がありますが,これは,賃借人から賃貸人に対する貸金とみられるものと解されます。」と解説されているところです(最新公正証書モデル文例集1 388ページ)。

3 具体的事例
以下に,敷金,保証金,管理費,共益費などとは違った名目の金員に関して規定されている事例の具体的条項を紹介します。
事例1
(建物解体保証金)
第◯◯条 乙は,建物解体保証金として,金◯◯,◯◯◯,◯◯◯円を甲に預託するものとする。
2  前項預託金は,乙が建物を解体し,甲への土地明け渡しが完了した後,乙に無利息で返還する。
事例2
(原状回復費用の積立て)
第◯◯条 乙は甲に対し,本件借地契約満了後の原状回復費用として,1か月金◯万円を積み立てるものとし,翌月分を毎月末日までに甲の指定する金融機関口座に振り込んで支払う。
2 甲は,本件借地契約満了時に,積み立てられた金額を乙に返還する。
事例3
(解体協力金)
第◯◯条 甲及び乙は,乙が甲に対し,平成28年◯月◯◯日,別途甲乙間で協議により定めた解体協力金◯,◯◯◯万円を無利息で融資し,甲が本件土地の上に現存した建物及びその附属建物を解体したことを確認した。
2  甲による前項の解体協力金の返済は,初回賃料支払月を第1回として20年間,240回均等の毎月末日払いにて乙に返還するものとし,甲はこれを支払う。
3  第◯条第◯項及び甲を原因とする同条第◯項及び第◯◯条に基づき,本件借地契約が解約・解除となった場合は,その時点で残存する甲の乙に対する解体協力金の返還債務は引き続き存続し,甲は前項に定める本件借地契約期間中と同じ支払条件により,乙に対して,残存する当該解体協力金を返還するものとし,これを支払う。
4  甲は,乙が第◯条の賃料の支払債務と第1項の解体協力金の返還債権とを対当額をもって相殺することを承諾する。
事例4
(外構負担金)
第◯◯条 甲及び乙は,外構負担金について次のとおり合意した。
甲が本件土地を商業施設用地として整備するに当たり,土地造成及び駐
車場舗装工事,外構設計及びこれにかかわる許認可申請,大規模小売店舗立地法に基づく申請業務委託に対する乙の費用負担として,外構負担金◯◯,◯◯◯,◯◯◯円を甲に支払う。その支払方法は次のとおりとする。
①  平成29年◯月◯日 金◯,◯◯◯,◯◯◯円
②  本件建物開店日   金◯◯,◯◯◯,◯◯◯円
事例5
(前払賃料)
第◯◯条 乙は甲に対し,賃料の前払いとして金◯◯◯,◯◯◯,◯◯◯円を平成29年◯月◯日付事業用定期借地権設定予約契約の締結時に甲の指定する下記金融機関の預金口座に振り込みにて支払い,甲はこれを受領済であることを確認する。
2 前払賃料は開店日から20年間分の賃料の一部として均等に充当するものとし,乙は末尾の「賃料支払予定表」に基づき,開店日の翌月以降の月額賃料から毎月金◯◯◯,◯◯◯円を差し引いて支払う。賃貸借期間満了前に本件借地契約が解除又は解約された場合,甲は前払賃料のうち残余期間に相当する金額を解除又は解約と同時に乙に返還する。
3 考察
(1) 事例1及び事例2については,「建物解体保証金」,「原状回復費用」との名目はともかく,借地契約終了時において,借主に建物の解体をはじめとする土地の原状回復を確実に実施させるために預託させる金員であり,貸主に預託された金員は全額借主に返還されるものです。
この金員の性質としては,賃貸借契約に基づき発生する債務を担保す るために差し入れられる敷金と同様のものとみることができ,手数料算定の基礎としない取扱いが妥当であると考えます。
(2) 事例3については,賃貸借契約を締結するに当たり,貸主が借主から融資を受けて対象土地上に現存する建物を解体したというものであり,融資された金員の返還は,借主の賃料支払債務と解体協力金の返還債権とを対当額で相殺するというものです。
この事案では,条文の文言から別行為の金銭消費貸借であるとみることができると考えられますが,念のため,前記2の法規委員会協議結果中の,「建設協力金」の場合に当てはめてみると,建設協力金については,「建物建築時に賃貸人が建設資金として用いることを目的として賃借人から借りる金銭のことを指し,賃貸における保証金と同様のものとして扱われる。」などとされ,その返済については,「月々の賃料の中から相殺する形で,契約期間内に賃貸側から賃借側に全額償却を行うリースバック方式と10~15年程度据え置いた後,一定程度の利息を付けて返済を行う方式」があること,そして,「建設協力金は差入保証金の一種ではあるが,建物を借りる側は賃借の条件となっているため,原則として貸付金として扱われる。」などと解説されています。
法規委員会の協議結果に言う「その具体的な内容に応じて」とは,いかなる内容を言うのかが問題になりますが,ここで言う,「具体的な内容」とは,何のための金員であり,どの時点で支払われるものなのか,また,その金員は返還されるものであるのか,返還される場合の返還方法はどのような形なのかなどを勘案すれば足りるのではないかと考え,その視点で事案を見ると,この金員は貸主所有の既存建物を解体する目的で融資されたものであり,その金員は賃料と相殺する形で返還されること,敷金,保証金,権利金,管理費,共益費など土地の賃貸借契約に付随した一般的な金員ではないことがうかがわれることから,別行為であると判断し,手数料算定の基礎とすることにしました。
ただし,本事例の第3項に,「ただし,本件借地契約の解約・解除が乙の責めに帰すべき事由による場合,乙は,残存する解体協力金の返還請求権を放棄するものとする。」というような条項があった場合,この解体協力金には敷金的要素があるものと解し,別行為ではなく付随行為とすることも考えられます。
なお,解体協力金に関する契約について,公正証書作成の手数料計算上,借地契約とは別の行為とした場合でも,借地契約の付随行為とした場合でも,印紙税法上はいずれも金銭消費貸借契約と扱われることから,印紙税法別表1の課税物件表の適用に関する通則にしたがって公正証書原本に貼るべき印紙額を決めることになります。
(3) 事例4については,貸主が対象土地を商業施設用地として整備するための費用について,借主にも負担を求めるものです。当該土地を賃貸するための整備に要する費用という目的では,事例3の場合と同じ性質の金員と見ることができますが,当該金員を返還しないという点で相違します。
また,この金員は事例3の場合と同様,管理費や共益費と同様のものとして見ることはできないのではないかと考えます。
したがって,賃料,管理費及び共益費とは違う性質の金員であり,貸金でもないことになりますが,この金員を手数料算定の上ではどのように評価すべきであるのか判断に迷います。借主から貸主への給付という別行為であると見ることもできますが,「賃料以外は手数料算定の基礎としない。」との法規委員会協議結果が気になり,結果として手数料算定の基礎としない取扱いにしました。
(4) 以上のとおり,判断に迷うのは事例3及び事例4のように,既存建物の取り壊しや対象土地を整備するための費用という,賃貸借契約を締結するための事前準備的な行為に対する借主の金員の支出をどのように評価するのかということです。
当該金員を借主に返還する場合も返還しない場合でも,土地の賃貸借契約に必須の金員ではないと考えられ,本来,貸主の資力をもって行うべき既存建物の取り壊しや土地の整備を,借主から資金を調達して行うものと見ることができることから,当該金員の授受については別行為として評価しても良いのではないかと考えますがいかがであろうか。
ちなみに,事例5を引き合いにして考えると,事例5そのものは前払賃料であり賃料そのものであるため,手数料算定の基礎になるものですが,事例4のように,貸主の事前準備的な行為に要する資金を,賃料の前払いの形で提供することも考えられます。そうすると,その金員の使用目的は同じであるにもかかわらず,名目が「賃料」か否かで手数料算定の基礎になるかならないかが決まることになり,バランスを欠くことになるのではないかと思います。
また,仮に,名目が「協力金」,「負担金」などであれば,その性質に関係なく手数料算定の基礎としないとした場合,実際は融資のような形態である場合にも,当事者間において,意図的にこのことを前提とした契約条項が作成されることも考えられ,これも望ましい姿ではないと思います。
もとより,事前に当事者間で締結される覚書にはこのような金員に関する事項があっても,公正証書には記載しないのであれば手数料の問題は生じませんが,いずれにしても,このことに関してはどのように判断すべきであるのか悩ましいため,各公証役場での取扱いを承知したいと思っている次第です。
(髙村一之)

No.59 尊厳死宣言公正証書と人生の最終段階における医療

1 はじめに
尊厳死という用語については、「回復の見込みのない末期状態の患者に対し、生命維持治療を差し控え又は中止し、人間としての尊厳を保たせつつ、死を迎えさせること」をいうものとされており(「新版 証書の作成と文例 家事関係編〔改訂版〕」237頁)、尊厳死公正証書第1条には「それが不治であり、かつ、死期が迫っている場合」であって、そのことが「担当医を含む2名以上の医師により診断された場合」に「死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください」とされている。
私の在職中、ある嘱託人から「私は、胃瘻を装着しない。」という公正証書を作成してほしいとの依頼を受け、大いに悩み、所属の近公会の勉強会にそのような公正証書を作成することの可否を問題として提出したことがある。
問題点としては、①胃瘻の装着をすれば普通に暮らせるにもかかわらずこれをしないことは、患者が自らの意思で飲食せずに死を早めようとする行為(VSED)*にならないか疑問があり、そういう余地がある以上、本人の意思を表明する文書とは言え、公序良俗に違反するのではないか、②公正証書については、一般市民の意思や取り決めが、将来、紛争となることがないような予防司法の機能を有しているとされているが、その趣旨に反するものとならないか、③尊厳死宣言については、患者の自己決定権を医師が受け入れるかどうかにかかっているが、①のような問題があり、医師において宣言を受け入れることが困難だとすれば、そのような公正証書を作成しても、結局、嘱託人の意思が叶えられないこととなり、嘱託人に無用な経済的負担をかけるのではないかなどと考えたためであったが、記憶によれば、そのときの勉強会の意見も消極とするものであったように思う。
その後在職中そのような嘱託はなかったが、退官後、思わぬことからこういうことだったのかと考えさせられることがあったこと、高齢化による多死社会を見据え、「人生の最終段階における医療」(厚生労働省は、本年3月、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(以下「ガイドライン」という。)」を改訂し、従来の「終末期医療」から名称の変更を行った。)に対する考え方が整理されてきたことなどを踏まえ、「人生の最終段階における医療」と尊厳死宣言公正証書との関わりについて考えてみたい。
2 認知症と人生の最終段階における医療
まず、何をもって人生の最終段階にあるとするかは、老衰、事故により生命の維持が人工心肺装置により維持されているというような状態、あるいは積極的治療を試みたにもかかわらず、当該疾患が回復不能な状況に陥っているなど多様であるが、「どのような状態が人生の最終段階かは、本人の状態を踏まえて、医療・ケアチームの適切かつ妥当な判断によるべき事柄です。」(ガイドライン解説編3頁)とされている。
私事で恐縮であるが、私の身内で当時92歳になる者が介護老人保健施設に入所していたところ、あるとき施設から呼び出しがあり、食事を進んで摂らない状態が続いていることから、当該施設の判断は「看取り」の時期に達しており、あと2~3週間で亡くなられると思われること、その事態を回避するためには胃瘻等により栄養の摂取が必要となるが、「看取り」を希望しない場合は当該施設から病院へ転院してほしい旨、告げられた。当時、本人は難しいことはともかく家族を識別できる状況で何より元気であり、食欲がないほかは他に悪いところもなかったため、胃瘻の装着等について、家族で相談することになった。
ちなみに「看取り」とは、近い将来死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和軽減するとともに、人生の最後まで尊厳のある生活を支援することとされており、その開始については、医師により一般に認められている医学的知見から判断して回復の見込みがないと判断し、かつ、医療機関での対応の必要性が薄いと判断した対象者につき、医師より利用者又は家族にその判断内容を説明した上、看取り介護に関する計画を作成し、終末期を施設で介護を受けて過ごすことに同意を得て実施されるものである 。実際には、点滴や酸素吸入などの医療的なケアではなく、食事や排泄の介助、褥瘡の防止など、日常生活のケアを中心に行うこととされている。 平成29年版内閣府高齢社会白書によれば、91.1%の人が、「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」との意向であるとされているので、普通のことかもしれないが、間もなく亡くなるということを聞かされる家族としては、冷静ではいられないものである。
家族で相談した結果、まだ元気であり、何より餓死させるようなことは避けるべきだということで、胃瘻を装着することとなった。
アルツハイマー型認知症の終末期については、「病理的には大脳皮質機能が広範に失われた状態で、失外套症候群(例えば四肢の随意運動、発語、追視、表情が見られず、尿便失禁の状態)といえる。-略- この時期になると嚥下障害(誤嚥)が見られ、経過とともにその頻度が増して、経口摂取が不能になる。嚥下不能のため、経管栄養を行うことも多く、従って、この期間は数ヶ月から数年続くこともあり、期間を限定することはできない。従って癌の末期とは定義が違うことになる。点滴、経鼻カテーテルや胃瘻による栄養法、中心静脈栄養法(IVH)など強制的な栄養法をとらなければ、間もなく脱水、衰弱などにより死の転帰を迎えることになります。」(NPO法人在宅ケアを支える診療所・市民ネットワークによる「認知症高齢者の在宅生活を支える地域の医療支援システムに関する調査研究Ⅱ報告書」:平成17年3月)とされており、このようなことから、「認知症については、生命予後が極めて悪くなるような身体状況の出現をもって末期と考えます。」(日本尊厳死協会「リビングウィルについて」)とされている。
私の身内の場合、その後、2年余を経過しているが、発語はあるものの意味が不明であったり、何より眠っている時間が長くなり、私自身を分かってくれているのかも判然としない。
自分が意思表示できなくなった状況において、自分の意思と異なり、ただ単に死の瞬間を引き延ばす延命措置を受けずに済むように意思表示しておく尊厳死宣言については、ガイドラインにおいても、「人生の最終段階における医療」においては、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則であるとされていることから、病態の如何に関わらず、認知症における場合も同様に尊重されるべきものであると思われる。
尊厳死宣言公正証書について相談を受ける際、ややもすると交通事故や癌の末期における状況などを想定し、認知症により意思表示ができなくなった場合も尊厳死宣言は有効であるということを失念しがちであるが、慢性疾患等により予後が長くとも2~3か月と予測ができる場合に比べて「人生の最終段階」が長くなりがちな認知症罹患者においてこそ有用なものだと考えられる。
65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計についてみると、平成24(2012)年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)であったものが、37(2025)年には675万人と、約5人に1人になるとの推計(平成29年版内閣府高齢社会白書)があり、今後ますます尊厳死宣言の有用性が増すものと思われるが、「胃瘻を装着しない。」という嘱託人の真意はこういうところにあったのかと、今更ながらに思うところである。
なお、検討に当たっての参考に供するため、末尾に認知症に罹患した場合を想定した尊厳死宣言公正証書(案)を掲載した。
*VSED
Voluntarily Stopping Eating and Drinkingの略で、自力で食べることが可能にもかかわらず、点滴や飲食を拒む行為。米国看護師協会は、2017年、患者にはVSEDの権利があり、その意思を尊重すべきだとの声明を発表したが、欧米では医師がVSEDを容認すべきか、安楽死とともに倫理的な観点から議論されている。

3 「ガイドライン」-本人の意思決定が確認できない場合
厚生労働省は、平成18年3月、富山県射水市における人工呼吸器取外し事件(末期状態の患者7人から医師が人工呼吸器を取り外した後、患者らが死亡)が報道されたことを契機として人生の最終段階における医療のあり方について、患者・医療従事者ともに広くコンセンサスが得られる基本的な点について確認をし、それをガイドラインとして示すことが、よりよき人生の最終段階における医療の実現に資するとして、平成19年5月に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定していたところ、これを改訂し、本年3月14日「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」として発表した。
高齢多死社会の進展に伴い、地域包括ケアの構築に対応する必要があることや、英米諸国を中心としてACP(アドバンス・ケア・プランニング)の概念を踏まえた研究・取組が普及してきていることなどを踏まえ改訂を行ったとされているが、本稿では、本人の意思が確認できない場合の「人生の最終段階における医療の決定プロセス」について、「本人の意思決定が確認できない場合には家族等の役割がいっそう重要になります。特に、本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定め、その者を含めてこれまでの人生観や価値観、どのような生き方や医療・ケアを望むかを含め、日頃から繰り返し話し合っておくことにより、本人の意思が推定しやすくなります。その場合にも、本人が何を望むかを基本とし、それがどうしても分からない場合には、本人の最善の利益が何であるかについて、家族等と医師・ケアチームが十分に話し合い、合意を形成することが必要です。」(ガイドライン解説編5頁)とされていることについて、考えてみたい。
なお、本文中「家族等」の意味について、「今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます。」とされている。
ところで、医師が患者に対して医療行為を行うためには、原則として当該医療行為の対象者に対し、治療の内容等についてよく説明を行い、対象者が十分理解した上で、自らの自由意思に基づいて医師と治療について合意すること(インフォームド・コンセント。なお、「同意」だけでなく、説明を受けた上で治療を拒否することも含まれる)が必要とされている。
さらに、インフォームド・コンセントが有効であるためには、患者が自己の状態、当該医療行為の意義・内容、危険性への認識等を理解できる能力が備わっている必要があるとされている。
患者本人に同意能力がない場合に誰が医療行為に同意を与えるかについては、患者本人が未成年の場合は、親権者等の法定代理人が医療行為についての同意権限を有するとするのが判例・通説であるが、患者が成年被後見人における場合は、法律上明確なものはない。
成年後見人には、成年被後見人の生活、療養看護、及び財産の管理の事務を行うなど、身上監護権が認められている(民858)が、契約等の法律行為に関する事項に限られ、成年被後見人に対する治療方針を決定するなどの医療行為に対する代理権は認められていない。これは、医療行為に関する決定は、一身専属権であり、法律行為の意思表示とは異なり代理になじまないことによるものだと思われる。
ガイドラインは、上記法律の不備を前提として、我が国の治療現場では、患者本人の意思が確認できない場合、医師の求めに応じて家族が治療方針を決定し、あるいは選択したりしている実情があるため、その状況を円滑に行うための方策として示されたものと思われる。
したがって、「自らの意思を推定する者」としての家族等は、患者の代理人となって治療方針を決めるのではなく、医療・ケアチームが最善の方針をとることに協力する者であることに注意する必要がある。
「本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定め」としていることは、あらかじめ特定の者を指定するという点において、契約型尊厳死宣言公正証書(「公証」138号88頁)の仕組み、即ち、委任者甲が延命のみを目的とする措置は行わないで、苦痛を和らげる措置を執って、人間として自然なかたちで尊厳を保って安らかに死を迎えることができるように甲の主治医に要請することを受任者乙に委任し、乙がこれを承諾するという委任契約上の仕組みに似かよっている。
尊厳死宣言公正証書は、法規委員会の協議結果を踏まえ、契約型が影を潜め、「宣言型」が主流となっているが、今後新たな動きが見られることになるのかもしれない。
(尾﨑一雄)

(尊厳死宣言公正証書案)
平成  年第  号
尊厳死宣言公正証書
本公証人は、尊厳死宣言者 〇〇 〇〇 の嘱託により、平成  年  月  日、その陳述内容が本人の真意であることを確認の上、宣言に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。
第1条 私 〇〇 〇〇 は、私が将来、病気、事故又は老衰等(以下「傷病等」といいます。)により、現在の医学では不治の状態に陥り、かつ、死期が迫っている場合に備えて、私の家族及び私の医療に携わっている方々に以下の要望を宣言します。
なお、ここに明記した特定の医療行為の実施又は拒否については、医師の事前説明は不要とします。
(1) 私の傷病等が現在の医学では不治の状態に陥り既に死期が迫っていると担当医を含む2名以上の医師により診断された場合には、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください。
また、既に延命措置がとられているときは、すみやかに取りやめてください。
しかし、私の苦痛を和らげる処置は、最大限実施してください。
そのために、麻薬などの副作用により死亡時期が早まったとしてもかまいません。
(2) たとえ、死期が定かでなくとも、精神上の障害によって事理を弁識する能力を欠く常況(例えば、重度の認知症)となり、これが回復する見込みのないことを、担当医を含む2名以上の医師により診断された場合には、
① あらゆる循環停止や呼吸停止の場合の蘇生措置をしないでください。
② 私に苦痛を与えたり、私の体に負担のかかる医療措置(他人の組織や臓器の提供を受けることを含むあらゆる手術等)はしないでください(ただし、血液及び血液成分については、私の苦痛を和らげる目的に限って受け容れます。)。
③ 人工的栄養補給や水分補給(口、鼻、腹壁から管を通しての胃への栄養補給、静脈からの栄養補給等)は、私の苦痛を和らげるための必要最小限の援助となるもの以外はしないでください。
これらのことのために、死亡時期が早まったとしてもかまいません。
第2条 この証書の作成に当たっては、あらかじめ私の家族である次の者の了解を得ております。
妻  〇〇 □□(昭和 年 月 日生)
長男 〇〇 ◇◇(昭和 年 月 日生)
長女 △△ △△(昭和 年 月 日生)
2 私に前条記載の症状が発生したときは、医師も家族も私の意思に従い、私が人間として尊厳を保った安らかな死を迎えることができるよう御配慮ください。
第3条 私のこの宣言による要望を忠実に果たして下さる方々に深く感謝申し上げます。
そして、その方々が私の要望に従ってされた行為の一切の責任は、私自身にあります。
警察、検察の関係者におかれましては、私の家族や医師が私の意思に沿った行動をとったことにより、これら方々に対する犯罪捜査や訴追の対象とすることのないよう特にお願いします。
第4条 この宣言は、私の精神が健全な状態にあるときにしたものです。
したがって、私の精神が健全な状態にあるときに私自身が撤回しない限り、その効力を持続するものであることを明らかにしておきます。

法務局長等人事異動(平成30年4月)

大阪高等裁判所判事    森木田邦裕(大阪法務局長)
大阪法務局長       杉浦 徳宏(大阪地方裁判所判事)
辞職(3月31日付)     喜多 剛久(広島法務局長)
広島法務局長       醍醐 邦治(大阪法務局総務部長)
大阪法務局総務部長    堀内 龍也(大阪法務局民事行政部長)
大阪法務局民事行政部長  林  淳史(大分地方法務局長)
大分地方法務局長     友利りつ子(富山地方法務局次長)
富山地方法務局次長    川野 達哉(高知地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     余田 武裕(福岡法務局長)
福岡法務局長       鎌倉 克彦(札幌法務局長)
札幌法務局長       堀  恩惠(東京法務局総務部長)
東京法務局総務部長    伊藤 武志(東京法務局民事行政部長)
東京法務局民事行政部長  篠原 辰夫(京都地方法務局長)
京都地方法務局長     田中 茂樹(奈良地方法務局長)
奈良地方法務局長     鈴木 通広(福島地方法務局次長)
福島地方法務局次長    齊藤 孝志(青森地方法務局次長)
青森地方法務局次長    木野 忠和(岐阜地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     秦  愼也(仙台法務局長)
仙台法務局長       西江 昭博(静岡地方法務局長)
静岡地方法務局長     渡辺 富雄(松江地方法務局長)
松江地方法務局長     冨澤 清治(人権擁護局人権擁護推進室長)
辞職(3月31日付)     松尾 泰三(高松法務局長)
高松法務局長       石山 順一(さいたま地方法務局長)
さいたま地方法務局長   境野 智子(宇都宮地方法務局長)
宇都宮地方法務局長    鈴木  朗(名古屋法務局総務管理官)
名古屋法務局総務管理官  永瀬  忠(広島法務局職員課長)
辞職(3月31日付)     前田 幸保(名古屋法務局民事行政部長)
名古屋法務局民事行政部長 泉代 洋一(岐阜地方法務局長)
岐阜地方法務局長     高見 鈴子(徳島地方法務局長)
徳島地方法務局長     岩本 尚文(訟務局訟務調査室長)
辞職(3月31日付)     佐藤  隆(札幌法務局民事行政部長)
札幌法務局民事行政部長  阿部 俊彦(青森地方法務局長)
青森地方法務局長     松田 淳一(福岡法務局総務管理官)
福岡法務局総務管理官   綿谷  修(盛岡地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     千葉 和信(横浜地方法務局長)
横浜地方法務局長     須藤 義明(高松法務局民事行政部長)
高松法務局民事行政部長  岡田 治彦(長崎地方法務局長)
長崎地方法務局長     齊藤 惠子(静岡地方法務局次長)
静岡地方法務局次長    雨宮 広幸(山形地方法務局次長)
山形地方法務局次長    徳永 勝幸(秋田地方法務局次長)
秋田地方法務局次長    石崎  司(熊本地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     持田 弘二(千葉地方法務局長)
千葉地方法務局長     三橋  豊(大阪法務局人権擁護部長)
大阪法務局人権擁護部長  梶木 新一(横浜地方法務局次長)
横浜地方法務局次長    樋口 祐子(福岡法務局職員課長)
辞職(3月31日付)     福田  勝(水戸地方法務局長)
水戸地方法務局長     栁田  修(福岡法務局民行部不首席登)
福岡法務局民行部不首席登 東  洋一(松山地方法務局不首席登)
松山地方法務局不首席登  安藤 英昭(高松法務局人権部第一課長)
辞職(3月31日付)     加藤 武志(新潟地方法務局長)
新潟地方法務局長     新井 浩司(鹿児島地方法務局長)
鹿児島地方法務局長    椋野 浩文(那覇地方法務局長)
那覇地方法務局長     鈴木 和男(長野地方法務局次長)
長野地方法務局次長    村井  誠(甲府地方法務局次長)
甲府地方法務局次長    高丸 雅幸(鹿児島地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     山本 芳郎(神戸地方法務局長)
神戸地方法務局長     阿野 純秀(大津地方法務局長)
大津地方法務局長     數原 裕一(民事局総務課民事調査官)
民事局民事第一課長    杉浦 直紀(津地方法務局長)
津地方法務局長      菅原 武志(大津地方法務局次長)
大津地方法務局次長    坂野 恵美(鳥取地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     所田 雅一(富山地方法務局長)
富山地方法務局長     小宮山義隆(広島法務局人権擁護部長)
広島法務局人権擁護部長  平出 正良(神戸地方法務局次長)
神戸地方法務局次長    波田野和孝(名古屋法務局職員課長)
辞職(3月31日付)     山﨑 秀義(岡山地方法務局長)
岡山地方法務局長     丸尾 秀一(鳥取地方法務局長)
鳥取地方法務局長     阿部 精治(岡山地方法務局次長)
岡山地方法務局次長    佐竹 昭彦(福井地方法務局次長)
福井地方法務局次長    伊藤いつき(奈良地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     増永 俊朗(熊本地方法務局長)
熊本地方法務局長     土師実千秋(福岡法務局人権擁護部長)
福岡法務局人権擁護部長  久保 朝則(前橋地方法務局次長)
前橋地方法務局次長    今澤 一也(徳島地方法務局次長)
徳島地方法務局次長    八田 和恵(水戸地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     巣山 弘清(宮崎地方法務局長)
宮崎地方法務局長     馬場  潤(高松法務局人権擁護部長)
高松法務局人権擁護部長  小田切 学(仙台法務局民行部不首席登)
仙台法務局民行部不首席登 髙橋  誠(札幌法務局人権擁護部長)
札幌法務局人権擁護部長  山本 憲幸(和歌山地方法務局次長)
和歌山地方法務局次長   池田 哲郎(金沢地方法務局総務課長)
定年退職(3月31日付)   原口 克広(函館地方法務局長)
函館地方法務局長     中野  亨(千葉地方法務局次長)
千葉地方法務局次長    小笠原 修(宇都宮地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     播谷 秀樹(釧路地方法務局長)
釧路地方法務局長     中富 喜浩(仙台法務局人権擁護部長)
仙台法務局人権擁護部長  梅村  上(さいたま地方法務局次長)
さいたま地方法務局次長  大塚 隆夫(旭川地方法務局次長)
旭川地方法務局次長    齋藤 広安(静岡地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     山本 英司(高知地方法務局長)
高知地方法務局長     齋藤  勤(長崎地方法務局次長)
長崎地方法務局次長    星野 辰守(山形地方法務局総務課長)
辞職(3月31日付)     吉川  隆(松山地方法務局長)
松山地方法務局長     山岡 徳光(盛岡地方法務局長)
盛岡地方法務局長     石打 正己(大阪法務局民行部第一法首)
大阪法務局民行部第一法首 片山 勝也(岡山地方法務局不首席登)
岡山地方法務局不首席登  正井 義一(大津地方法務局首席登記官)
定年退職(3月31日付)   柳澤 育義(金沢地方法務局次長)
金沢地方法務局次長    中井 幸雄(盛岡地方法務局次長)
旭川地方法務局次長    河井 茂行(松江地方法務局総務課長)
定年退職(3月31日付)   山中 正登(東京法務局民行部不首席登)
東京法務局民行部不首席登 小林  敦(横浜地方法務局不首席登)
横浜地方法務局不首席登  江本 修二(水戸地方法務局不首席登)
水戸地方法務局不首席登  西尾 修治(山口地方法務局首席登記官)
辞職(3月31日付)     松下  悟(前橋地方法務局首席登記官)
前橋地方法務局首席登記官 大野 正雄(東京法務局後見登録課長)
辞職(3月31日付)     林  康雄(長野地方法務局不首席登)
長野地方法務局不首席登  穗坂 浩一(神戸地方法務局姫路支局長)
神戸地方法務局姫路支局長 南多 実男(京都地方法務局不首席登)
京都地方法務局不首席登  山照多賀世(津地方法務局不首席登記官)
津地方法務局不首席登記官 大築  誠(和歌山地方法務局首席登)
定年退職(3月31日付)   松尾 雅広(高松法務局民行部不首席登)
高松法務局民行部不首席登 中山 浩行(大分地方法務局総務課長)
定年退職(3月31日付)   平田 和也(福岡法務局北九州支局長)
福岡法務局北九州支局長  柴田 保隆(鹿児島地方法務局不首席登)
鹿児島地方法務局不首席登 田原 昭男(福岡法務局民行部法首席登)
福岡法務局民行部法首席登 井上 隆幸(宮崎地方法務局首席登記官)

民事法情報研究会だよりNo.32(平成30年4月)

春風の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、当法人は6期目の事業年度を迎えました。目下、4月21日開催予定の第1回通常理事会及び6月16日開催予定の会員総会に向けて、旧年度の決算、新年度の事業計画等について資料作成中であり、4月中には会員総会の開催通知をお送りする予定です。なお、同時に行われるセミナーでは、元東京高裁長官の吉戒修一弁護士にご講演をお願いしております。(NN)

今 日 こ の 頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

ネット時代の憂鬱 ~子どもたちのネット利用の危うさ~
倉吉 敬(法務省中央更生保護審査会委員長)

※ 本稿は、「人権のひろば」(公益財団法人人権擁護協力会編集・発行)2018年1月号に「特別寄稿」として掲載されたエッセイに加筆・転載したものです。

1 子どものしつけ
著名な女性バイオリニストのTさんが、9歳の息子に買い与えた任天堂のゲーム機を二つ折りにして壊した。ゲーム機で遊ぶのは週末宿題が終わった後に限ると息子に約束させ、息子は土曜日の午後5時から7時までをゲーム時間にすると予定表に書き込んでいた。ところが、平日の金曜日に仕事を終えて帰宅したら息子がゲーム機で遊んでいたので、怒ったのである。彼女はこの話を自身のブログで紹介し、新聞のコラムにも書いた。そうしたら、ネット上で大炎上した。「子どもへの虐待」「子供の気持ちをわかろうとしない親はバカ」「任天堂に謝れ」等々の声が殺到したという。
しかし、私は、Tさんのしつけ方に感心した(ちなみに、作家の佐藤愛子さんは、「Tさんの気持ち、約束を守らなかった息子さんに腹を立ててゲーム機を二つに折った気持ち、私にはよくわかる、普通の母親であれば誰だってカンカンに怒る。それが母親というものだ。」と書いている。佐藤愛子「九十歳。何がめでたい」181頁)。最近の子供たちのネット利用の危うさに大いに関係するのだが、第一に、ゲーム機を買い与えた時に、息子がゲーム機に依存しかねないことを危惧し、使い方のルールを決めたこと、第2に、息子のルール違反をなあなあで済ませることなく、親として正面から息子の非を指摘し、怒ったことである。たかがゲーム機の話ではないかと思われるかもしれないが、最近のゲームサイトにはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)機能が付いていて、ネットを通じて競技者同士がコミュニケーションをしながらゲームを楽しめるものがある。幼いころにゲーム機に無原則に依存していた子どもが、このようなゲームサイトにのめり込むと、見ず知らずの危険な大人と出会うことにもなりかねないのである。
2 ネットによる犯罪と子どもたち
警察庁は、SNSなどネット上で不特定多数の相手とやりとりできるサイトのうち、出会い系サイトを除いたものをコミュニティサイトと総称し、これを、「ツイッター」や「LINE(ライン)」といった複数交流系、チャット系、動画等投稿・配信系、ゲーム・アバター系などに分類し、18歳未満の児童に対するネットによる犯罪の現状等を公開している。
最新の統計は平成29年上半期(1~6月)のもの(警察庁ホームページ→「平成29年上半期におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策について」)だが、これによると、コミュニティサイトで犯罪被害に遭った児童は過去最多の919人で、その9割は中高校生。罪種別では、淫行などの青少年育成条例違反が350人(38.1%)で、児童ポルノ289人、児童買春243人がこれに続く。一方、出会い系サイトの被害児童数は過去最少の13人で、平成20年の出会い系サイト規制法の改正以降減少傾向にある。
コミュニティサイト関係についてみると、被害者の大半が女子で、被疑者と会った理由では、「金品目的」や「性的関係目的」といった援助交際に関連する理由が約4割を占める。自ら「援助交際」を申し入れ、あるいは、男たちからの申入れに応じた上、見ず知らずの男について行ったわけで、その無防備ぶりに驚かされる。男について行って強姦や誘拐など凶悪判罪の被害に遭った子どもも25人いた。子どもたちの約9割がスマートフォンでサイトにアクセスしており、サイト別では、短文投稿サイトの「ツイッター」が327人で最も多く、全体の3割強を占めている。
有害サイトの閲覧を制限する「フィルタリング」は、被害児童の9割が利用していなかった。保護者へのアンケート調査では、利用しない理由について、64%が「特に理由はない」、20%が「子どもを信用している」と答えている。保護者の無関心、知識不足が大きな問題といえそうだ。なお、フィルタリング利用の徹底を義務付けた改正青少年インターネット環境整備法が、平成30年6月までに施行される(注・平成30年2月1日施行された。)。
3 ネットによるいじめと子どもたち
教育現場の悩みも深い。文部科学省は、毎年「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題」についての調査結果を公表している。最新の調査では、「いじめ」に当たると考えられるケースを広く拾うようにしたということだが、これによると、平成28年度の全国小中高校のいじめの認知件数は32万3808件で、過去最多となった。
このうち1万7833件がネットによるいじめだった。文科省のホームページをみると、いじめの統計をとるようになった平成19年度は約6000件だったのが、ここ数年で急増した。
典型的なのは、特定の生徒を中傷し、のけ者にするよう呼びかけるメールをクラスメートに送るという類のものだが、特定の生徒の名をかたって、いかがわしい合成写真画像やメッセージをサイトに送り、不特定多数のサイト参加者の好奇の目にさらすといった手の込んだものもあるという。「LINE(ライン)」で「きもい」などと書かれた生徒が自殺したというケースも報道されており、事態は深刻である。
ネットによるいじめで問題なのは、加害生徒には軽いいたずら程度の気持ちしかなく、加害者意識に欠ける場合が多いことだといわれる。これほど陰湿で卑劣なことをしておきながら加害者意識に欠けるとはなにごとかと唖然とするが、今の子どもたちには、そんな感受性や正義感を身に付ける機会が乏しいのだろうか。それだけに、保護者も教師も、ネットによるいじめが深く相手を傷つけること、卑怯で卑劣なやり方であること、調査すれば、システム上犯人はわかること等を、生徒に強く伝え自覚を促す必要がある。また、被害生徒も率直に被害を訴えることが少ないため、保護者や教師も気づきにくいようだ。悩みがあってもそれを見せずにことさら明るく振る舞おうとする近頃の若者気質も影響しているのかもしれないので、要注意である。
いじめだけでなく、上記2の犯罪に巻き込まれる可能性があることも考慮にいれると、より根本的な問題として、子どもにスマホを自由に使わせていいのかということがある。スマホは依存性が強く、勉強中も、食事中も、学校の休み時間でも、時には授業中ですら、始終スマホをいじっている中高校生もいると聞く。全面使用禁止は現実的でないとしても、上記1のエピソードのようにスマホ使用のルールを決めて守らせること、上記2のフィルタリング機能を付すことは、最小限必要だろう。
法務省の宣伝をするわけではないが、法務省人権擁護局のホームページ(「人権擁護局フロントページ」→「啓発活動」→「インターネットを悪用した人権侵害をなくしましょう」)には、「インターネットの向こう側」と題する啓発ビデオがある。秀逸な学園ドラマに仕上がっていて、ネットによるいじめの実態がよくわかる。視聴回数は72万3000を超えている。まだご覧になっていない方には、視聴をお勧めしたい。
4 終わりに
この原稿を書いていた平成29年10月30日に、神奈川県座間市のアパートで、18歳未満の子どもを含む9人の遺体が発見された。脱稿した11月19日現在、被疑者は、死体遺棄等、次いで殺人の罪で逮捕、勾留されている。捜査中の事件なので憶測でものを言うことはできないが、報道によれば、被疑者と被害者を結びつけたのは、自殺願望に関するツイッターでのやりとりだったという。裁判官だった経験で学んだことの一つが、世の中にはとてつもなく悪い人間がいるということだった。「相手の境遇や考えていることがわかれば、それに乗じた作り話で即座に金をだまし取る自信がある」と供述した詐欺師もいた。匿名のネットの世界で胸のうちを明かした相手の誘いに乗ることほど危険なことはない。ネットの相手は、想像を超える悪意を秘めている可能性があること、そして、それが世間の常識なのだということを、子どもたちや若者にわかってもらわなければならない。家族、学校、そして社会の重い課題だと思う。

喜寿を前にして戯言(町谷雄次)

平成23年5月に公証人を退職して、以後は悠々自適な生活をしているはずであるが、どうもゆっくりするというのは性に合わないようで、テニス、絵画、水墨などの習いごとと畑仕事(貸農園)に追われる傍ら、OB会、同窓会、老人会、自治会などの各種世話人を引き受けて、気が付いたら喜寿を迎える年になっている。加えて、最近は、妻と交互に病院通いの日も増えた。折角、投稿の依頼を受けたので、何か有意義なものをと考えていたが、年齢の関係かアドレナリンの分泌も悪くなっているようで、中々考えがまとまらない。結局、公証人退職後にOB会や所属クラブの情報紙等に寄稿したものの中から、小文を抜粋して近況の披露に代えさせて戴くことにしました。
〇 青 春 の 老 成
昨年(注・2015年)のサロン・エウスン展(注・四国の絵画クラブの作品展)講評の席で、顧問のK先生が話された“青春とは”の話が強く印象に残っている。“青春とは人生の或る期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ”、“年を重ねただけでは人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる”、“希望ある限り若く、失望と共に老い朽ちる”。これは、アメリカの無名の作詩家といわれるサミエル・ウルマンの“Youth(青春)”という詩の翻訳文の一節を引用されたものであるが、古希も通り過ぎて、青春とは無縁の存在と自覚していた自分にとって、何かカンフル剤を打たれたような気分になる言葉であった。後に調べて分かったことだが、原文(英語)の詩は、第2次大戦後、日比谷の占領軍総司令部のマッカーサー元帥が座右の銘として何時も執務室の壁に飾っていたとのことであり、漢詩調の翻訳したものは松下幸之助氏の眼に止まり、インタビューで紹介し,雑誌にも掲載され一躍有名になったようである。又、ロバート・ケネディーがエドワード・ケネディーへの弔辞にこの詩の一節を引用したのも有名な話になっているようである。
“青春時代は昔の話よ”と諦めきっていた中高年、或いは老年期の世代にとって、“青春の詩”は、正に“年をとっても、いつまでも青年の志は持ち続けよ”と、叱咤・激励の言葉に聞こえたのは、私だけではなかったと思う。
たまたま、上記打上げ会のすぐ後の昨年11月に、その5ヶ月前の6月に93歳で亡くなられた元最高裁判事で法務省民事局長なども務められた香川保一先生を忍ぶ会が東京であり出席した。その際、「香川保一随想録」(株式会社テイハンが出版している)が記念品として出席者に配られた。香川先生は、生粋の法律家であり、特に現在の不動産登記制度を確固たるものにした第一人者と言われる人で、関係者からは登記の神様と称されている人であるが、配られた冊子の中身は、法律とは無縁の香川先生の生き様、人生観とかが詩情豊かに語られた随筆、エッセイ集であった。その中で特に目をひいたのは、香川先生も“老い”と“青春”についてひたむきに探求し続けてこられたこと、そして、最後まで青春の気概を持ち続けてこられたことである。その中で、先生は「青春の老成」という造語を編み出し、随所に使用されている。その幾つかをピックアップする。

〔庭仕事の愉しみ〕 「日本でもその小説(…)がよく読まれたヘルマン・ヘッセの『人は成熟するにつれて若くなる』(エッセイと詩の和訳)が平成7年に出版された。私の拙い『青春の老成』の造語はこれにヒントを得たものであるが、ついで、平成8年に『庭仕事の愉しみ』(エッセイと詩の和訳)が出版された。彼は文筆を採る以外の多くの時間を庭仕事に過ごしたといわれるが、その土と植物、自然を相手にして、草花や樹木から教示される生命の神秘、尊さを瞑想し、『年年歳歳花相似たり』の自然と人生の心理を追求、会得した彼にしてはじめて、人はいかにして老いを生きることができるかを教示し、人生の老いの素晴らしさ、楽しさを綴る前者の『若くなる』が後者の『愉しみ』から生まれたように思われる。」。
〔送歳迎年〕 「人間は、その肉体の衰えはいかんともし難いが、その心、精神は、自助努力により年輪のように連綿と日々新生を重ね、それが肉体の老化をも防ぐことができるものである。…送歳迎年の機に日々新たなることを念じ、なお年新たなることを期したいものである。…『青春の老成』を新しい年のモットーとしよう。」
〔青春の老成〕 「人皆若い頃は発奮して一所懸命になるが、中年を過ぎるとその気概を亡くしてゆく。老いては尚更である。しかし、花を咲かせて実を結び、また花を咲かせる気概があってこそ、老いて朽ちないのである。老いてなお気概があると同時に、おおらかなゆとり、楽しみがあってこそ、老いのいたらんとするのを知らないのである。人間が熟するためには、この気概とゆとりがなければならない。」
〔「敬老の日」の老いのくりごと〕 「私も老人の仲間入りをせざるを得ない年齢となって、できるだけ若い人たちの負担とならないよう、『日に新たに、日々新たなり』を訓えとして、活気のある人間となるべく努力しているが、さらに「青春の老成」という言葉を頼りとして、老熟した人間を志している。それかあらぬか、最近は夕焼けをこよなく美しいものと思う。それは決して老いの残りの少ない人生と対比してのものでなく、老いたればこその新しい美なるものの発見である。『夕日は故人の情』のせまりくるというよりも、老いたることにより自然と人生の深い美を発見することができると勇気づけられているのである。」

 “青春の詩”と“青春の老成”、時期を同じくして、否応なしに“老い”を受容しようとしていた自身の心に、何か清風が吹き込んだことは確かである。
〇 日 々 是 好 日
今、日本は超長寿社会に突入しつつあります。平均寿命は、男性80.5歳、女性86.83歳、今後も延びると予想され、人生90年時代の到来も遠くない状況で、総人口に占める65歳以上の割合は25パーセントを超え、2060年には40%となる見込みです(平成27年9月21日読売新聞)。総務省が平成27年9月21日の敬老の日に合わせて発表した日本の高齢者人口の推計でも、65歳以上の高齢者が前年比80万人増の3384万人(男女別では男性1462万人、女性1921万人)で、総人口に占める割合は前年比0.8ポイント増の26.7%となり、最高を更新、そのうち80歳以上は1002万人(前年比38万人増)で初めて1000万人を超え、世界的にも突出した高齢国家になることは間違いない情勢なのです。ちなみに、私の住む大阪府交野市(人口79,000人)の松塚という地区では、特に高齢化が進み、地区の高齢化率は約40パーセントに達しているとのことであり、現在、地元の大学が高齢化のモデル地区としての調査を実施しています。たしかに、町を歩いても子供を見ることは少なく、逆に、高齢者には必ずお目にかかります。そして、町のあちこちに設置された市の広報用のスピーカーからは、度々、家を出て徘徊している老人の行方探しの協力依頼のアナウンスが流されています。
健康な状態で高齢化するならむしろ喜ばしいことかもしれませんが、残念ながら寝たきりとか認知症の状態での高齢者の比率も増加の一途を辿っているようであり、その結果、様々な社会問題が生起しているのも実情です。
先般も,重度の認知症の高齢者(当時91歳)が徘徊して列車にはねられ死亡した事故をめぐって、JR東海が男性の妻や長男に監督義務を怠ったとして損害賠償を求めた裁判で、一,二審の賠償命令を破棄して請求を棄却した最高裁判決があり大きな波紋を呼びました。判決が大きく注目された一番の理由は、決して他人事ではない、というのが多くの人の共通の認識だったからではないでしょうか。
これからの老い行く人生を、どう生きるか、高齢者の誰もが直面する共通の課題です。私が尊敬する大先輩の前田榮先生(御年92歳)が、ある情報誌に自身の気構えを次のように書いておられます。 「まさに『我が国は、高齢社会の真っ只中である。』、『楽しい事より悲しい事が多くなる高齢者、しかし、生ある以上生きねばならぬ。“限りある一度限りの人生”、知識、見識、胆識を持って、世の移り変わりや現今世情の全体像を見渡しつつ、長生の道は自立自尊と心得て生きていく。・・』と。
私は、仕事をリタイアし、古希も過ぎた後、「日々是好日」を座右の銘としてきました。元々は、禅語で、中国の雲門禅師の言葉ですが、文字通り解釈すれば、「毎日が平安で無事の日である」という意味になりますが、禅語としての意味は深く、「どんな雨風があろうとも、日々に起きる好悪の出来事があっても、この一日は二度とない一日であり、かけがえの無い一時であり、一日である。この一日を全身全霊で生きることができれば、まさに日々是れ好日となるのである。好日は願って得られるものではなく、待ってかなえられるものではない。・・只座して待つのでなく主体的に時を作り充実したよき一日一日としていきていくところにこの語の真意がある。」(「禅語に親しむ」から)と説かれています。
今はやりの言葉で言えば、“ポジティブに生きる”ということでしょうか。
〇 二度とない人生だから
ところで、私自身は、とにかく限られた残りの人生を、できるだけ有意義な時間を使うことをモットーに、手持ちの予定表には相変わらず隙間なく日程を詰め込み、周囲の人に“多忙”をひけらかしてきました。ただ、以前は、趣味の活動と各種会合等への出席等が主な中身であったのが、最近は、妻の病院通いの送迎のほかに自身の通院(泌尿器科、眼科など)の回数も増え、多忙の中身が変貌しつつあります。
たまたま、大谷大学ホームページの「今日のことば」を検索しましたら、かつて、四国で人権の仕事に勤務していた頃にはよく記憶していたのに、その後ほとんど忘れていた仏教詩人・坂村真民の詩句のことが紹介されていました。「二度とない人生だから」と題する7節からなる詩で、どの節も「二度とない人生だから」で始まっていますが、そのうち第5節の全文が取り上げられていました。
二度とない人生だから
つゆくさのつゆにも
めぐりあいのふしぎを思い
足をとどめてみつめてゆこう
そして、「きょうのことば」として、次の文言が添えられています。
「この詩句を眼にしたあなたは、『人生が一度きりであることは分かっています。だからこそ私は、必死に生きているのです。』と、内心思われたかもしれません。でも、そんなあなたこそ、この詩句に込められた真民の思いを、味わってみてはいかがでしょうか。そっと口ずさんでみてください。少し肩の力が抜けたような気持ちになりませんか。
実は、かく言う私が、この詩句をふと目にしたとき、足を止めて草花の表情をみつめたことなど、この数年なかったことに思い当たりました。ついつい『忙しい』を口癖にして暮らしている私は、思わず深呼吸をしていました。
思えば、『忙しい』の『忙』という漢字は、『忄(こころ)』(=立心偏)に『亡(うしな)う』と書きます。日々、途切れぬ仕事、目前の課題や役目に追われるなか廻りが視野に入らないばかりか、自らも見失っている。残念ながら、これが今を生きる私たちの姿でしょうし、さらに言えば、私たちは、そんな自らを省みる余裕すら失っているのかもしれません。
今の私たちのライフスタイルが、そのような息が詰まりそうなものであることに気づくとき、この真民の言葉は、私たちの身の回りの環境(世界)や自分自身をもう少し慈しみ暮らすことの大切さを教えてくれるのではないでしょうか。」
これまで、「二度とない人生だから」を自他を激励する意味でしかとらえてこなかった私にとっては、まさに「目から鱗(うろこ)」でした。皆さんはいかがでしょうか。

OB会(本間 透)

誌友の皆さんの中には、法務局を退職してから関係のあった各局のOB会の会員になっている方が多いと思います。私も出身局の秋田、北海道での勤務が長かった縁で札幌、そして退職局となった千葉の三か所のOB会に入会しています。それぞれの会則で入会資格が定められていますが、概ね何らかの関係があり、希望すれば入会できるようです。
秋田県法友会からは、法務局退職直後、大先輩の幹事の方から早々に電話をいただき、「当然に入会するでしょうから、総会は9月末の予定なので是非出席するように」と有無を言わせない?お誘いに、一つ返事で「勿論です、よろしくお願いします」と申し上げました。最初に出席した総会では、会員の中には私が秋田局を出てから27年ぶりにお会いする方もおられ、諸先輩を前に緊張しながら挨拶をし、全テーブルを回って皆さんにお酌をした際に「本間君、よく来てくれたね」と言っていただき、改めて郷土の諸先輩の温かさを感じました。
秋田局では、採用されて間もない未熟な私を、礼儀から仕事に対する心構えまで公私にわたり御指導いただき(ある先輩の「酒が飲めない奴は、仕事もできない」という言葉を真に受けて、毎晩のように飲み歩いたものでした。)、秋田局から本省に転出する際は、「何があっても戻ってくるなよ」と温かい?激励をいただきました。秋田局は、私の法務局人生の正しく原点でした。
札幌桐友会には、管区局の札幌局で2度勤務したことから、管内地方局の方々とも公私にわたりお付き合いいただき、仕事以外では、特にゴルフを通じて転出後も長く親交を深めていたこともあり、快く入会させていただきました。北海道管内は、総じてオープンマインドでオールウエルカムの気質があり、管内地方局の多くの職員との知己を得て、在京の北海道会にも参加させていただいています。こうして北海道の方々とのお付き合いが多いことからか、私が北海道出身と思われたようで、一時、在京の東北会からお呼びがかからないこともありました。
毎年、6月末の札幌桐友会総会では、土曜日の午後からの総会前に有志によるゴルフが企画されるとともに、翌日曜日には、総会ゴルフコンペが開催されており、これも総会出席の大きな楽しみとなっています。桐友会役員の方々には、総会の準備、進行等と共にゴルフに伴う送迎等もしていただいており、おもてなしの気持ちに深く感謝しております。
千法会には、千葉局在職中に登記所の地図整備や登記相談等の事業の推進に当たり、多くのOBの方々に御理解と御協力をいただくとともに多大の御尽力をいただいたことに少しでも感謝したい気持ちと、私の法務局人生の仕上げとなった局としての思いから入会させいただきました。
千法会は、1月の新年会と7月の総会があり、他の会と同様に現職幹部職員も出席しますが、組合役員も出席しているのが特徴なのかもしれません。在職時は、立場の違いこそあれ、千葉局の課題や在り方について熱心に議論し、お互いに如何にして千葉局を盛り上げていくか考えたものでした。総会等では、その当時のことを懐かしみながら若い現職の方々と語らい、法務局全体や千葉局を取り巻く最近の状況などを知る貴重な機会となっています。
私は、一昨年の6月末をもって公証人を退任し、7月に福島県いわき市から千葉県柏市に転居したことにより、正しく名実共に千法会の会員になりました。
それぞれのOB会では、会員同士が再会して親交を深め、物故者の冥福を祈り、昔話や近況を語らうなど、退職後も現職時代の延長のように感じられます。これは、故枇杷田先生が唱えられた法務局文化を各職場で一緒になって担ってきたという共通の強い意識があるからではないでしょうか。その証として、他の国の機関では、全国各局における法務局OB会のような集いがないと思われ、公証人在職当時に法務局出身ではない方に法務局OB会のことをとても羨ましいと言われたことがありました。
また、各局のOB会に現職幹部職員も出席され、自分が在職時に本省やブロック間人事交流で他局に送り出した職員が期待に応えて活躍し、幹部職員としてOB会で再会したときは、感慨深いものがあります。
ところが、私達団塊の世代の大量退職が過ぎたという量的な面や退職後も在職当時の上司、先輩と関わりたくないという意識もあるようで、OB会の会員が増えず、むしろ減る傾向にあるように思われます。何事も時代の流れと人の意識の影響で変わりゆくとはいえ、寂しい気がします。
私は、法務局OB会の他にも機会をとらえてOB会的な集まりに参加していますが、いずれも法務省・法務局繋がりで、中には同じような顔ぶれのものもありますが、これまでの諸先輩の御厚情に少しでも報いるとともに、嫌がられない程度で後輩の役に立てればと思っておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

マスク(由良卓郎)

最近、季節や場所を問わずやたらとマスクを付けている人を見かけるようになりました。一種異様ささえ覚えることもありますが、このように申し上げる私もマスク使用者の一人であります。
マスクを使用する目的は人それぞれで、私どもがとやかく申し上げるべきものではありませんが、公証役場に訪れる方の中にも、老若男女を問わず、マスクをしている方がいらっしゃいます。
ある公正証書作成に際して、帽子を被りマスクをして来た人がいましたので、マスクを外して顔を見せてくださいとお願いしたところ、快くマスクを外して顔をみせてくださいました。そして、帽子を脱がない理由として、現在病気治療のため投薬している関係からとお話しされました。抵抗力が低下していることによる感染症予防のためにマスクをされていたようです。その後直ぐにマスクをしていただいたのは、申し上げるまでもありませんし、私もマスクをして対応させていただきました。
私は、最近、時々マスクをするのを忘れることがありますが、私がマスクをする理由は、福山に来て2年ほど経った頃でしょうか、風邪がなかなか治らず、咳が長引きましたので、妻からも医師に診てもらうよう再三再四やかましく言われ、内科、耳鼻科などにも行きましたが原因が分からず、最終的に呼吸器内科で、咳喘息だろうという診断にたどり着きました。
相談時や証書作成時に咳き込むこともあり、随分と皆さんに不愉快な思いをさせてしまったと反省しています。
それで、今では、冒頭に申し上げた方と同様、季節や場所を問わずマスクをするようになりました。冬などは、防寒のために深々と帽子を着てマスクをして、徒歩通勤していますと、行き交う人からは不審人物のように見られているかも知れませんが、それでもマスクを付けて、外気を直接吸い込まないようにすると、その日は事務室でマスクをしていなくても咳き込むことが少なくなったように思います。マスクなしで通勤した日は、その日一日中、咳き込むことが多いように思います。
過日テレビを見ていますと、咳喘息から気管支喘息に進行する割合は結構あるようですし、気管支喘息で亡くなる方もあるようですから、気を付けたいと思っています。
私は、マスクを付けるのは元来好まないのですが、狭い街で、公証役場に来たことのある方とお会いしたときに、相手様に気を遣わせないためにも、便利なグッズかも知れないと思っています。
マスクを付ける付けないは皆様のご自由ですが、何とぞご健康にはくれぐれもご留意ください。寒い日に外を歩くときは、私の場合、結構大きな効果があると思っています。

実 務 の 広 場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.57 相続人又は受遺者の地位にない遺言執行者からの遺言検索及び遺言公正証書の謄本交付請求における取り扱いについて

公正証書の作成や私書証書の認証等については,予約制をお願いしていることもあり,事前に検討することができますが,公正証書の謄本請求や確定日付の付与請求は予約をせず窓口へ来られる方も多く,その場での判断が求められることがあります。
先日,他の公証役場で作成された遺言公正証書の謄本を持参された方から,「自分(甲)は,乙の遺言により,遺言執行者に指定された者(相続人又は受遺者の地位にない)であるが,乙は,この遺言の他にも遺言を作成している可能性があるので,遺言の検索を申請し,その結果,他に遺言があった場合は,当該遺言公正証書の謄本を請求したい。」と申出がありました。
甲は,①乙の遺言公正証書の謄本のほか,②乙が死亡した記載がある戸籍謄本,③甲の本人確認書類を持参していました。

遺言検索の照会が可能とされる者は,「公文書等により遺言者が死亡した事実及び法律上利害関係を有することの証明があった者」(「遺言検索システム実施要領」昭和63年5月20日定時総会決議)とされており,乙の遺言検索の時点で,遺言執行者である甲が法律上の利害関係を有していることは明らかです。しかし,検索の結果,甲が持参した遺言公正証書の「前・後」に遺言公正証書が作成されていたことが判明した場合でも,甲は,当然に公証人法第51条第1項の「法律上の利害関係」を有する者に該当するのかについては疑問が生じました。なぜなら,遺言は,遺言者の死亡の時からその効力を生ずる(民985),また,前の遺言が後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす(民1023)とされ、仮に,甲が前後の遺言において,遺言執行者又は受遺者として遺言書に記載されていない場合には,甲に利害関係があるといえるか否か疑問が生じるからです。
そこで,「他の遺言書において,甲に利害関係があると認められない場合には,他の遺言公正証書の存否そのものについてもお答えできませんが,よろしいですか?」と念押ししたうえで,検索に応じ,その検索結果を注視していたところ,甲が持参した遺言以外に乙の遺言は作成されていないことが判明したことから,その旨を口頭で甲に伝え,この件は無事終了しましたが,今後,同様な事案が生じた場合に備え,少し検討してみることにしました。

今回の事例の場合,甲が持参した遺言公正証書の「前」に乙の遺言公正証書が存在していた場合でも,甲は,前遺言との抵触を確認した上で甲が遺言執行者である遺言公正証書(以下「本遺言」といいます。)を執行しなければならないという遺言執行者の法律上の任務から考えて,当該証書の謄本交付請求を甲が法律上の利害関係人としてできることに問題はなさそうです。しかし,本遺言の「後」の遺言公正証書の存在が判明した場合において,その内容が本遺言と完全に抵触しかつ甲が遺言執行者として記載されていない場合は,甲の遺言執行者としての地位は否定されることになり,その場合,甲は,「後」に作成された証書の謄本交付請求をする法律上の利害関係人に当たらないともいえそうです。
しかし、その一方で,遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民1012),遺言執行者は相続人の代理人とみなす(民1015)という規定等から,「後」の遺言の内容が明らかになっていない時点では,本遺言により,相続財産に対する管理処分権は遺言執行者である甲にあると推測され,それと矛盾する相続人の管理処分権は喪失させられている状態(民1013)にあることになります。また,甲にしてみれば,善管注意義務をもって遺産を管理する義務及び管理に付される財産目録と執行状況の報告義務を負わされている状態であり,しかも任務を行わなければ職務懈怠の責任が生ずることにもなりかねません(民1012,644)。甲がこれらの義務や懈怠責任を相続人に対し抗弁するためには,甲を利害関係人とする考えもありそうです。
他方,この辺の事情について,公証人の立場からすると,「後」の遺言によって,一部の相続人が,あるいは受遺者が既に遺言の執行を開始していることも考えられ,後の遺言が他の役場で作成されていたりするとなおさらその辺の実態は公証人としては分からず,仮に謄本請求に応じた場合,相続人又は受遺者ではない者に謄本を交付したことになり相続人等から利害関係のない者に謄本を交付したとして非難される可能性は否定できないところです。
結局,結論が出ず先延ばしにしていたところ,後日,ある検討会で協議していただく機会を得,その協議のまとめでは,2つの意見に別れました。
A説では,「利害関係人に該当するとして,検索及び謄本の交付を許容すべき」とし,B説では,「遺言の秘密性も考慮し,相続人からの請求を促すような対応をする」というもので,議論は白熱しA説とB説が拮抗しましたが,A説がやや多数という結果でした。
今回検討した事例は,非常にまれな事例であり,そもそも「前」の遺言が「後」の遺言と抵触するかは,個別具体的に判断することになりますが,遺言検索の結果,「後」の遺言が他の公証役場で作成されていることもあることから,そのような場合,検索結果を甲に伝えるにあたり,甲が謄本を請求できないと判断される場合があることを伝えるなど慎重な対応が必要と考えています。
本件について,小職が本誌で結論めいた見解を示すことは荷が重いので,控えたいと思いますが,公証人法第51条の「法律上の利害関係」の意味を考える上で,参考になる事例と考えたので,紹介させていただく次第です。また、上記の協議会で各位から示された論点については,本稿の中でひととおり触れたつもりですが,それも含めて足りない点は本誌友のご指摘を待ちたいと思います。
(小田切敏夫)

民事法情報研究会だよりNo.31(平成30年2月)

立春の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、民事法情報研究会だよりについては、会員の交流を補助する会員情報誌として12月号から「今日この頃」の記事の充実を図ることとしております。会員の皆様の積極的なご投稿をお願いします。
なお、昨年12月9日のセミナー講演録は、研究会だよりの号外として作成中です。でき次第お送りしますので、しばらくお待ちください。
次年度の会員交流事業については、6月16日(土)に定時会員総会・セミナー・懇親会を、また12月8日(土)にセミナー・懇親会を予定しておりますので、よろしくお願いします。
おって、4月に入りましたら、新年度の会費納入のご案内をお送りいたしますが、都合により本年度限り退会を希望される会員は、3月末日までに郵便・ファックス等でお知らせください。(NN)

今 日 こ の 頃

このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

自分流で心豊かに(小林健二)

高齢者になれば、誰しも、介護や家事を抱え、自分の健康問題もあり、これらことに時間が割かれるのはやむを得ないが、それは当然の前提として、それ以外の時間、つまり、いつ訪れるかわからない人生の終末までの残された時間を、日々どう過ごしていけばよいのかは、なかなか難しく、人生最後の難問ともいえよう。もっとも、日本人の平均寿命は、やがて90歳時代が到来するとも言われており、末期までの過ごし方は、そんなに急ぐ問題でもなく、まだまだ先のことと思われがちであるが、振り返ってみても、年々時の経過が早く感じられる時代であり、その時は意外に早く訪れるのではないかと思う。
もちろん、書店には、退職後の一般的な過ごし方を取り上げた本が人気を博し、「定年後」という本はベストセラーとなっていると報じられているが、一方で、「人間は、最後は一人で逝くのだから、群れることばかりでなく、一人で過ごすべき時間をもっと大切にすべきである。」とする、自分のための生き方を取り上げている本や新聞記事が目立つようになってきた。
これは、多くの者が終末を意識しながら過ごしているという時代性を反映しているのではないかと思われる。ただ、これらの本は、文才にたけた人が頭の中だけで考えたことであり、参考にならないとは言えないものの、人生最後の難問解決のためにストレートに役立つかというと、疑問である。人生ドラマは人の数だけあるといわれるように、人の生き方は様々であり、この問題については、自分で答えを出さなければならないのである。
私も、退職したての頃は、やれ趣味を持て、旅行に出かけろ、ボランティア活動に参加すべきという言葉に踊らされて、趣味を持たなければならないかのごとき気持ちで、自分に合った趣味はどれだろうかとあちこち手を出したり、方々に出かけたり、町内会活動に時間を費やしてきた。時間が埋まっていることが有意義な過ごし方であるかのように感じ、空いた時間にテレビを見ることは、無駄な時間を過ごしたと思っていた。
確かに趣味も旅行も楽しい時間であり、それなりに有意義で、時間つぶしにはなるが、それはそれだけのこと、つまり絵を描いた、旅行したというだけのことであり、趣味や旅行等に必要以上にのめり込んでしまうものを見いだせずに、逆に、こんなことで、時間を潰してしまっていいのかと、もやもやした気持ちが募るようになってきた。趣味や旅行は、これからも続けていくことになろうが、もっと有意義に時間を使い、悔いの無い心豊かに過ごす方法がないものだろうかと感じるようになった。
そんな時、以前、「絵は見るものではなく、絵は読み解くものである。」をテーマにした、美術史家による講座で、「絵を読み解くには、絵の「テーマ」、「画家の人物像」、「描かれている事物の意味」、「技法」を理解することは当然のこととして、「時代背景」を理解しなければ、絵を見てもその絵を理解できたとは言えない。」といわれていたことを思い出した。これまで、時代背景をしっかりつかんでいなかったために、理解できなかったテレビドラマ、小説があったことも思い出され、これからも、テレビドラマの鑑賞や読書にかなりの時間を割くことになるので、それなら、時代背景ぐらいは理解できるようにしておこうと思った。それに、歴史に関して、キリスト教とローマ帝国皇帝の関係、日本各地に点在する平氏と源氏の出自、あるいは室町時代の終焉あたりがどうもあやふやな感じで何時かはきちんと整理しておきたいとも思っていたこともあって、歴史を整理してみようと思い立った。
そこで、歴史書を数冊買ってきて、世界史、中国・朝鮮史、日本史に区分し、起こった出来事を、紀元前から今日まで年号順にエクセルにインプットし、併せて著名な芸術家とその作品もインプットする作業を始めた。この作業は、時間があるとき、好きな時間だけパソコンに向かえばできる作業なので、いつでもできた。歴史をこのようにまとめるのは、高校時代以来久しぶりのことであり、歴史は、年号ばかり覚えさせられた面白みのない科目との記憶が残っており、続くかなと思ったのであるが、それは危惧に終わった。
歴史上の出来事を順に追って入力すると、いろいろ疑問に感じていた事がどんどん解決した。「ああ、そうだったのか」と謎が解け、いろいろ新しい知識が詰まって行くことに喜びが感じられ、とても楽しい作業となった。加えてもやもやしていた問題も解消した。
ただ、新しい知識が得られると同時に疑問も湧いてきて、それを解消するためいろいろ調べなくてはならなくなり、歴史を整理する作業は延々と続くことになりそうである。最近、「応仁の乱」という本がベストセラーとなっているとのことであるが、歴史のもやもやしたところを理解しておきたいという人が増えてきていることの証であろうか。
このように歴史を整理することで、映画、テレビドラマ、小説を時代背景を踏まえて鑑賞でき、そうすると、映画監督や小説家がなぜこのような表現を使っているのかが理解できるようになり、映画、テレビドラマや小説がこれまでとは比べ物にならないくらいに深く味わえるようになった。もちろん、NHKの大河ドラマの嘘にも気づかされてしまう。
私は、こんな方法で、一日のうち空いた僅かな時間を過ごすことにしたのであるが、新しい知識が得られることは、本当に、人の心を豊かにしてくれる。人間である以上、煩悩を捨て去ることはできず、人生の終焉を迎えたとき、満足だと思えるようにはならないかもしれないが、当面、自分流の心豊かな方法を見つけて、過ごすことができれば良いのではないのだろうかと思っている。皆さんは、どのような自分流を見つけて、心豊かな生活を送られていますか。

登記官になれなかった男の見果てぬ夢物語(佐々木 暁)

その日、法務局に採用が決まった少年Aは、お世話になった知り合いの甲さん宅に旅立ちの挨拶に向かった。甲さんは、少年Aの同級生の父親で役場職員の乙さんと懇意で、乙さんの家の隣に住んでいた。甲さんの職業はわからなかったが、何かの事務所らしきところで、普段は「旦那さん」と呼ばれていた。
少年Aと甲さんとが知り合うきっかけとなったのは、同級生と共に甲さんの家の日曜日の留守番を頼まれたことが始まりである。家は、事務所と住宅が長屋のようにくっついた建物である。留守番の時は、冬支度の薪割りをしてあげたり、石炭を小屋に運んだり、草取りをしてあげたりしていた。もちろん、無報酬である。留守番のお駄賃は、冷蔵庫の中のたっぷりの飲料全部とお菓子である。甲さんは、40歳ぐらいのとても優しい方で、奥様も綺麗で優しい方でした。その優しい甲さんが一つだけ厳しい顔で言ったのは、「留守番をお願いするのは、住宅の方だけ。事務所の方は、鍵をかけてはいるが、絶対に立ち入らないこと」ということでした。少年Aらは、その約束ごとをしっかりと守ったことは言うまでもありません。そんなことが何回かあり、甲さんは、少年Aらの高校卒業後の就職のことも心配してくれたりもしていた。
このような甲さんとの関係から、甲さん宅(事務所)に挨拶に伺ったのである。「おかげさまで何とか就職先が決まりました。お世話になりました。明日の汽車で札幌に行きます。」「そうかそうか、それは良かった。ところで、就職先は?」「はい、国家公務員になります。札幌法務局と言うところです。」「何、法務局、なんだなんだそれは、・・私のところじゃないか、そうかそうか、私の後輩になるか、なぜそれを早く言わないんだ。」「だって、甲さんは、旦那さん、登記所の・・それが何で後輩になるの?札幌法務局って、札幌の大通りにある6階建てのビルですよ。甲さんの事務所は平屋で木造で小さいし、甲さん一人しかいないし・・・看板も見たことないし・・」。甲さんは、狐に包まれたような顔をしている少年Aを門のところまで連れて行き、丸太の門柱に掛かっている立て看板を指さして、「ほら、見てごらん札幌法務局様似出張所と書いてあるだろう」と言って笑った。かくして少年Aは、甲さんの住んでいる建物が法務局の出張所であり、街の人からは登記所と呼ばれていたこと、甲さんは旦那さんと呼ばれていたが所長であることを初めて知ることとなった。
翌日札幌に向かう日高線のジーゼルカー(汽車)の中で、少年Aの頭の中は、札幌の6階建てのビルと甲さんの働く建物とが交錯し、少年Aは、複雑な想いでまだ雪の残る札幌駅に降り立ったのである。昭和41年3月末少年A、18歳の春である。
さて、札幌法務局登記課に配属となった少年Aは、夢に描いていた「法律を専門とする国家公務員」像とは全く違った日常というか公務員生活を送ることとなる。六法全書どころか個人の机もなくロッカーは5人で共用、配布された事務服は女性用でボタンの位置が違う(少年Aの名前の所為らしい。女性の補助者に指摘されるまでまじめに着用)。
来る日も来る日も大量に申請される登記簿閲覧申請書を片手に、書庫から閲覧室までバインダー式登記簿・図面綴込帳の搬出入の繰り返しの毎日である。
登記簿が所定の書棚に格納されていないときは大変である。登記課中探し回る。申請人からは、「未だか、遅い」の声が飛んでくる。時として、調査・記入をしている先輩の机の上に高々と積み上げている登記簿の山を崩してしまい怒鳴られ、ひたすら謝る日々を繰り返して1年。2年目は、これまた来る日も来る日も全自動謄抄本作成機を駆使しての謄抄本作成でアンモニア臭まみれの日々。一日コピー用紙の箱を何箱焼けるか、一度に抄本を何枚複写できるか、同僚とのやけくそ紛れの競争。時にアンモニアのポリタンクを倒してしまうこともあったが、決して嫌になって蹴飛ばしたのではない。いわゆる新人の大登記所乙号事務5年の修行時代である。
そんな頃、先輩・上司といえば、一人一個の机に向かい、調査・記入事務に専念。ときに登記小六法を開き、時に先例集や分厚い本を開いては難しい顔をしている。夢に見た法務事務官らしい仕事をしているではないか。さらに、係長と言えば、校合とやらをしていて、登記簿に記入したものを点検しながら何やら重々しく判子を押している。時々「○○君、何だこれは。間違ってるじゃないか。」と怒鳴っている。凄い、格好いい、これだ、早く先輩や係長のようになりたい。これぞ法務事務官の仕事である。事務員少年Aもいつか法務事務官Aとなっていた。
Aは、係長の押していた判子が「登記官印」であり、係長は、登記官印を押す時は、「登記官」であることを肌で知ることとなり、一日も早く「登記官」になり、「登記官印」を押すことができる日を夢に見て、目標とすることとなる。
Aが登記官を目指すこととなるもう一つのきっかけは、係長(登記官)が部下職員の疑問・質問にまるで神業のように難なく即答している姿である。「それは、不登法○○条」「それは、何年何月民事局長通達」「解説集の○○頁」「何年の最高裁判例」等々。これぞ「登記官」のカッコ良さというところを目の当たりにしたからである。
Aは、入局後3年目にして、初めて一人庁の代理官として出張することとなった。所長が登記官会同で不在となるためである。初めて登記官印を押すことができるチャンスが訪れたのである。代理官登録簿にAの私印を登録する。もちろん正式の登記官でもなく、法上の登記官印でもないが、Aの心は躍る。しかし、しかしである。所長は、Aに対して「A君は調査と記入をしておいてくれるだけでいいから。私が帰ってから再度点検して、私が登記官印を押すから。よろしく。」と言って会同にと出かけた。Aにとっては非情ともいえるお達しで、かくして、Aの登記官印は押されることなく、最初で最後(後で想えば)の機会は幻と化したのである。
それでも法務局の仕事が少しずつわかってきたAは、いつの間にか「登記」こそが法務局の最大の仕事であり、やりがいのある仕事であると思うようになり、自分の最終の目標は「登記の神様」になることだと心に決めた(当時は各地に登記の神様がいると聞いた。)。
不登法第9条(登記官)登記所における事務は、登記官(略)が取り扱う。
不登法第11条(登記)登記は、登記官が登記簿に登記事項を記録することによって行う。
Aは、この二つの条文の虜となり、少ない給与から、登記小六法を買い、登記研究、登記先例解説集を買い、登記実務総覧等々を買った。正に登記官への道まっしぐらである。
ところが、今度は、まさか、まさかである。世の中自分の思うようにはいかない、何が起こるかわからないということを知るのは、もう少し大人になってからである。入局10年目にして、会計課に配置換え、その1年後に、晴天の霹靂たる本省民事局への転任。何やらおかしい。登記官への道からどんどん外れている。それでも送り出して頂いた?上司から、「2,3年、長くても5,6年だから」と変な説得をされて、Aは津軽海峡の冷たい、二度と戻ることのかなわぬ海を渡ることとなる。
そこからである。Aはまるで奈落の底にでも落ちるように、別の世界に迷い込んだように、登記官への道から遠ざかるのである。
「何年の民事局長通達」「解説集の○○頁」「何年の最高裁判例」といとも簡単に出てくる夢に見た先輩登記官の姿に重ねるAの姿はどこにもない。「増員」「定数」「予算」「国籍」「人権」・・・・どこにもない・・「登記」の「登」の字もである。
目標がいつの間にか夢と化し、その夢も見果てぬ夢物語となり、Aはいよいよ42年間の法務事務官としての法務局生活に別れを告げるときが来た。
Aは、最後の悪あがきと知りながらも、法務事務官を42年間も勤めたのだから、せめて司法書士試験の受験資格は付与されるだろうと、担当職員に問いかけたところ、「Aさんは、法務事務官の経歴だけは十二分にありますが、肝心の登記官経験が全くありませんので、残念ながら受験資格はありません。」との解ってはいたが誠に簡単明瞭で冷たい回答である。かくして、Aの登記の道は霞の彼方に完全に消えたのである。あれほどに登記官の増員、登記官の級別定数の切り上げ、常直庁の廃止、登記所の新営、登記事務の様々な改善のための予算要求・・・等々登記官・登記所に関わるありとあらゆる仕事に携わってきたのに・・・である(Aの単なる悔し紛れの放言である。)。
パソコンに映し出された登記記録の「画面」に「カチ」というのも今様でなかなか能率的でカッコ良いが、今は無きブック式「登記簿」に登記官(校合官)として朱肉たっぷりの「登記官」印を押すことのできる日を目標とし(ア・・そんなことを言いながら、Aは、船橋辺りでブックレス化に何かと関与していたではないか。裏切り者か?。)、そして、「登記の神様」と呼ばれる日を夢見た法務局職員は、決してAだけではなかったのではなかろうか。そして、今も多くの法務局職員が「登記官」「登記の神様」を目標として、日夜頑張っていることを願う日々である。

作成されなかった遺言書(尾﨑一雄)

公証人の職を離れて4年近くなり、それなりに仕事はしてきたと思うものの、個々の事件については具体的に思い出すことが難しくなった。多くの公証人がそうであるように、私も遺言書の作成が主たるものであったので、いささかなりとも現役の皆様にお役に立つことがあればと思い、私が作成しなかった遺言書のことを、かすかな記憶を元に掘り起こすこととしたい。

1 事前面接の不備で遺言の意思が確認できなかった場合
顔見知りの先生から紹介された遺言者の長女が相談に来たもので、遺言の内容は、特定の不動産を長女に相続させるというものであった。
紹介した先生に遺言者について確認すると、現在入院しているが、よく知った人で間違いないというので、遺言書を作成することとした。
後日、遺言書作成のため病院へ出向き、遺言者に遺言書の作成に来ましたと言うと、キョトンとした風で、「それは長女が言っているのでしょう。」と言われ、念のため遺言書を作成するつもりがないかを確認し、直ちに中止することとした。
私は、遺言書の作成に当たっては、原則として事前に本人と面接することにしていたが、この件で改めて遺言者との事前面接の必要性を痛感することとなった。以後、遠隔地の弁護士等からの依頼であっても、原則として事前に役場へ出向いていただくこととし、遺言者の体調がそれを許さないような場合は、先生による事前面接で、遺言能力、遺言内容等について確認を求めることとした。また、それもできない場合は、自分で出向いて面接することとした。
2 提出書類の遺産総額と本人が承知している遺産総額が大きく異なる場合
その嘱託は顔見知りの先生から依頼されたものであったが、提出された書類によれば、遺言者には、複数の法定相続人がおり、また、全国各地に一棟建の賃貸マンションを所有しているほか、多額の金融資産等もあった。
遺言内容は、一切の財産を長男に相続させるというものであり、先生も事前に遺言者に面接し、遺言能力に欠けることはないとの話であった。
遺言書作成の期日には、遺言者は長男と同行されたが、足が不自由ということで、車内(宇治公証役場は2階にあるがエレベータがないため、近くの役場も紹介しながら、どうしても宇治でという場合は、ビル内の地下駐車場に駐車した車内で作成することとしていた。)で作成することとした。
私は遺言書の作成に当たって、住所、氏名、生年月日はもちろんのこと、同行者、来所手段、入室方法、動作、顔色、視力、聴力、発話、家族関係について確認することとしていたので、それらの事項について質問し、問題がないことを確認した上、次に遺産の内容等について、質問したところ、「あんまりありません。」を繰り返されるだけであった。貸家を十数棟所有しているにもかかわらず、「現預金はない。」と言いつのる人もいないわけではないが、嘘を言っておられるようでもないので、更に質問すると、「もう少しあれば、孫にもあげられるのに。」と言われるので、いくらぐらいありますかと具体的に聞くと、「K銀行に200万円ぐらい。」と言われる。
遺言者の財産の総額は、不動産を含め数億円に上るものであるが、それを200万ぐらいの預貯金と認識していること、さらに、200万円を超える財産があれば、孫にも遺贈したいとの意思があることから、遺言者が自己の所有財産を正確に把握したときには、作成した遺言書と異なる遺言がされることが考えられたので、この遺言書は作成しないこととした。
ところで、遺言の効力については、民法第5編第7章第3節に規定されているが、遺言の効力に関する規定は、その効力発生時期を定める985条以外見当たらない。遺言も法律行為であるので、民法総則に規定する法律行為との関係を意識せざるを得ないが、本件の場合、遺言者に錯誤があるのではないかと思い、作成しないこととしたものである。
3 長男の死亡を認めない遺言者
この案件は、遺言者とその長女による相談であったが、いつものように事前面接を行うも何ら問題がなかったが、最後に家族関係を確認すると、提出された戸籍謄本に死亡事項が記載されている長男を相続人として言われるので、父親に席を外してもらい長女から事情を聞くと、長男が事故死したため、将来、相続が難しくなるのではないかと考え、父親に遺言書を作成してもらうこととして来庁されたとのこと、遺言者は、普段は何の問題もなく一人で暮らしており、長女が面倒をみているが、長男が死亡したことだけは受け入れてもらえないとのことであった。そこで、しばらく日を置いて遺言者の精神状態が落ち着いてから再度遺言の手続きをすることとした。
数ヶ月後、再度来庁され、前回と同様事前面接を行い特に問題もなかったため、遺言の内容を確認すると、長男に相続させる旨を言われる。死者が相続することはないので、その時点で作成手続きを中止した。
長男が既に死亡していることについて積極的に触れることはなかったが、公証人として執るべき対応としてはよかったのか、少し心残りがある案件である。
4 不倫関係にある相手方への遺贈
中年の男女が来庁され、話を聞くと、二人は、職場関係で知り合い、数十年にわたって不倫の関係あること、男は他県に居住しているが、男名義で相手方のために住宅を取得したので、それを遺贈したいというものである。
いわゆる公序良俗が問題となる案件であり、この問題については、論説等も多数あり、それなりに検討し、近公会の勉強会でも協議いただいたが、公証人としては、作成した上、遺言の有効無効は裁判所に委ねれば良いとする意見、無効となるおそれのある遺言書の作成は控えるべきであるとの意見もあり、明確な結論は得られなかったため、私としては、作成しないこととし、二人には、法律的にはいろいろな考え方のあるところなので、他の公証人にも相談されるよう勧めた。
なお、気になって後日確認したところ、他の公証人により作成してもらったとのことであった。

以上、思い出したものを書いてみたが、現役当時、私が遺言書の作成に当たって特に気を付けていたことは、①遺言者は、所有財産の概要を確認できるか、②遺言者は、自分の法定相続人を承知しているか、③法定相続人以外の者に対する遺贈については、その理由などであるが、そのいずれかが欠けた場合は慎重に対応することとしていた。

実務の広場

このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.56 信託法に基づく家族信託公正証書の作成について

1 はじめに
遺言について相談したいという依頼人からの相談を受け、その内容を聴取していったところ、定期贈与契約、遺言、家族信託などの説明を求められ、結果として、家族信託による公正証書の作成に至ったが、何分初めての経験であり、日本公証人連合会の「証書の作成と文例」や各種解説本の説明だけでは私の頭脳では容易に理解できず、先輩公証人のお知恵も拝借して何とか嘱託に応じることができ、ほっと安堵したその経緯を参考までにご紹介させていただきたい。
2 嘱託者からの相談の内容
高齢の女性(母A)とその二人の娘(B及びC。Aの推定相続人はB及びCの二人のみである。)及び娘Bの夫(D)の計4人からの相談である。
相談の内容は、概ね次のとおりである。
母Aは、自分の資産を今後二人の娘、B及びCに対し、贈与税として課税されても構わないので、自分が生きている限り、毎年一人当たり金110万円を贈与したい。また、自分が亡くなった後は、残った財産はこの二人に渡したいというものであった。
この相談を受け、当初は定期贈与契約と遺言書の作成を行うための準備をしようとして相談を終了させようとしたところ、次のような事情の説明がされた。
Aは、近いうちに高齢者施設に入ることを希望しており、全ての財産を入居する施設に持ち込んで管理することは適当ではないと考えていること、自分の娘又は信頼のおける娘の夫に財産の管理をお願いし、生活に必要な経費を毎月自分に渡してもらいたいこと、毎年娘二人に贈与するお金を確実に渡してほしいこと、自分の死亡後に残された財産の引継ぎをお願いしたいとのことであった。
上記のような内容を包含した家族信託ができないか、具体的には、信託財産から、自分の毎月の生活に必要な資金を渡して貰うこと、施設に入所した際には、施設への費用の支払をお願いしたいこと、その他支払等の債務の弁済もお願いしたいとのことである。
また、Aは、必要があれば、財産を管理する者において、将来不動産を換価処分して、その換価金をもって債務の弁済や生活資金の給付等に充ててほしいという意向である。
そして、自分が亡くなった後は、残余の財産は自分の娘二人に均等に分けたいとの意向であり、仮に娘が自分より先に亡くなったときは、その娘の法定相続人に財産を引き継がせたいとのことである。そして、信託財産の管理は、娘二人に任せることにしたいとのことであった。
3 検討
本件相談の検討に際しては、日本加除出版・弁護士遠藤英嗣著、新訂「新しい家族信託」(以下、「参考本」という。)を特に参考にさせていただいたが、本件相談は家族信託における財産管理機能のうち、長期的管理機能、利益分配機能、財産の承継機能(参考本40頁、41頁参照)を用いることによって、すべて適えることが可能であり、家族信託の典型的な事案と考えて公正証書の作成を検討することとした。
・ 信託契約の内容
① 信託の内容
受益者Aの生活資金等の給付及び債務等の支払並びに受益者B及びCの生活資金の給付である。
② 信託の目的・類型
いわゆる高齢者福祉型信託(参考本421頁以下参照)の方法によることとなる。
③ 信託財産
信託財産は不動産及び現金・預貯金等の金融資産のすべてである。
④ 信託期間
Aが死亡するまでの間
⑤ 受託者
Aの娘B及びCの二人
⑥ 受益者
委託者であるAの生活資金の給付を内容とするため、受益者はAとなるが、このほか、定期贈与も含めることが可能であれば、B及びCも受益者とすることとなる。
ところで、定期贈与の贈与者は母Aであり、受贈者は娘二人であるが、信託契約の内容に当てはめると、母Aは委託者、娘二人は受託者という関係になる。信託法(以下「法」という。)第8条は、「受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。」とされているので、娘二人に定期贈与をすることも信託の内容に含めて、娘二人を受益者兼受託者とする契約であれば、信託契約は可能と考えられる。
次に、受託者を娘二人とするということであるが、信託法では受託者が二人以上ある信託の特例を定めており、法第79条では信託財産が合有であること、法第80条では信託事務処理は受託者の過半数をもって決するなどの特例が定められている。本件嘱託については、娘二人を受託者とした場合、受託者の意見が相違した場合のことなどを考慮すると二人とすることが適当か否か検討の余地があるのではないかと思われ、その旨を相談者に伝えて、検討をお願いした。
⑦ その他
信託の変更、管理処分行為、清算事務及び権利帰属者について定めること。
・ 信託契約公正証書の文例の検討
新版「証書の作成と文例」(売買等編の文例28の1、信託(委託者生前の自益信託)P139)を参考にして、信託契約の公正証書を作成することしたが、当初は、Aの生活資金の給付を目的とすることから、Aは委託者であり、かつ、受益者とすること、B及びCは受託者であり、かつ、受益者であるとしてB及びCへの生活資金の給付(ただし、B及びCへの給付は毎年1回12月末日までに特定の金額を給付。)をすることを内容として作成することとした。
また、当初、受託者はB及びCの二人であることから、「証書の作成と文例」の中には例示されていないが、法第80条第1項ないし第3項までの規定を参考までに契約の条文として掲記することとした。
4 相談者とのその後の経緯について
嘱託人を含む4人の相談者のその後の検討において、受託者はB及びCの二人からD一人を受託者とすることとし、B及びCへの定期贈与も信託の内容とはせずに、別に公正証書を作成したいとのことであった。
また、母Aは、Bの夫であるDに対し、無償で信託の受託者を引き受けて貰うには申し訳ないので、何らかの手当をあげたいが可能かとの相談がされた。Dはお金は一切不要であるとのことであったが、Aの気持ちを考慮して応じることとしたが、少額であればということであった。法第8条では、受託者の利益の享受は禁止されているが、受益者として信託の利益を享受することは可能であることと、法第54条で受託者の信託報酬について定められ、契約中にその定めがあれば受託者は信託財産から信託報酬を受けることができることとなっている。したがって、このどちらかの規定に基づいて公正証書中に定めるならば可能であることを説明した。Aからは、報酬額をいくらとするのが良いか相談されたが、相談者らのこれまでの相談の内容及び諸事情を勘案すると、あくまでも参考としてではあるが、後見人の報酬を参考にして決められてはいかがかということを説明した。
5 引受金融機関への確認について
信託契約を締結したとして、実際に預貯金等を管理するためには、受託者の固有財産との分別管理が必要となるが、金融機関が信託財産としての引受を行ってくれるか否かを確認しておいた方が無難である旨伝えた。受託者であるDが旭川市内にある金融機関の全てに出向いて引受をお願いしたところ、皆無であったとのことで、どうしたらよいかとの相談を受けた。札幌の公証人からは、札幌市内にある銀行の一支店のみが引き受けているという情報が伝えられたので、同銀行の旭川にある支店に再度相談してはいかがかとアドバイスしたところ、引き受けてくれることになったとのことであった。
6 信託契約の文案について
以上のような経緯を踏まえ、次のとおりの文案を作成して、公正証書を作成することとした。
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第1条(契約の趣旨)
委託者母Aは、受託者Dに対し、次条記載の信託の目的達成のため、委託者の財産を信託財産として管理処分することを信託し、受託者はこれを引き受けた。
第2条(信託財産及び信託の目的)
この信託は、別紙信託財産目録記載の不動産(以下「信託不動産」という。)及び同目録記載の現預金(以下「信託金融資産」という。)を信託財産として管理及び処分を行い、受益者に生活・介護・療養・納税・債務の弁済等に必要な資金を給付して、受益者の幸福な生活及び福祉を確保することを目的として信託するものである。
第3条(信託期間)
この信託の契約期間は、受益者の死亡の時までとする。
第4条(受託者)
この信託の当初受託者は、次の者とする。
住所 <略>
職業 <略>
氏名 D
生年月日 <略>
2 信託法第56条第1項各号に掲げる事由により当初受託者の任務が終了したときは、委託者は、次の者を新たな受託者として指定する。
住所 <略>
職業 <略>
氏名 B
生年月日 <略>
第5条(受益者)
この信託の受益者は、委託者とする。
第6条(信託の内容)
受託者は、本件信託不動産の管理を行い、賃貸用不動産についてはこれを賃貸して、同不動産から生ずる賃料その他の収益及び信託金融資産をもって、公租公課、保険料、管理費及び修繕積立金、敷金保証金等の預り金の返還金、管理委託手数料、登記費用その他の本件信託に関して生ずる一切の必要経費等を支払う。
2 受託者は、必要に応じて、信託金融資産を銀行等の金融機関に預金し、管理・運用することができる。
3 受託者は、受益者の要望を聞き、受託者が相当と認める受益者の生活・介護・療養・納税・債務の弁済等に必要な費用を前項の収益及び信託金融資産の中から受益者に給付し、また、受益者の医療費、施設利用費等を支払う。
4 受託者は、前三項の業務につき、業務遂行上必要と認めた場合、第三者にその任務を行わせることができるものとし、その選任については、受託者に一任する。
第7条(信託の変更等)
受託者は、受益者との合意により、この信託の内容を変更し、若しくはこの信託を一部解除し、又はこの信託を終了させることができる。
第8条(管理処分行為)
信託財産の管理処分のために受託者がすべき行為は、次の各号に掲げる行為とする。
(1) 信託不動産については信託による所有権移転又は所有権保存の登記及び信託の登記手続をする。
(2) 信託不動産の保存又は管理運用に必要な処置、特に信託不動産の維持・保全・修繕又は改良は、受託者が適当と認める方法、時期及び範囲において行うものとする。なお、信託不動産については、第三者に賃貸することができる。
(3) 受託者は、信託の目的に照らして相当と認めるときは、信託財産を換価処分することができる。
(4) 信託金融資産の保存又は管理運用に必要な処置は、受託者が必要と認める方法、時期及び範囲において行うものとする。
(5) 受託者は、この信託の開始と同時に、①信託財産目録、②会計帳簿、③事務処理日誌を作成し、受益者又はその法定代理人等からの求めに応じ書面にて報告する。
(6) 受託者は、受益者又はその法定代理人等から報告を求められたときは、速やかにその求められた事項をその者に報告する。
(7) 受託者は、信託事務処理に必要な諸費用(旅費を含む。)を立替払したときは、これについて信託財産から償還を受けることができる。
(8) この信託が終了したときは、受託者は、第5号記載の書面を作成して信託財産及び関係書類等について清算受託者に引き渡し、事務の引継ぎを行うものとする。
第9条(清算事務)
清算受託者として、この信託終了時の受託者を指定する。
2 清算受託者は、信託清算事務を行うに当たっては、この信託の契約条項及び信託法令に従って事務手続を行うものとする。
第10条(権利帰属者)
残余の財産については、委託者の長女B及び同二女Cに均等の割合で帰属する。
2 前項に定める委託者の長女B及び同二女Cのいずれかが、委託者より先に又は委託者と同時に死亡したときは、当該死亡した者に帰属すべき財産は、その者の法定相続人に法定相続分の割合で帰属する。
第11条(信託報酬)
信託報酬は、1か月金<略>円とし、毎月末日に受託者自らが信託財産から受け取ることができる。
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7 終わりに
相談者からの当初の相談から数ヶ月経過していたため、嘱託はされないのであろうとの想いから、検討資料等を処分しようとしていたところ、作成に至ったものである。
初めての経験で、かつ、戸惑いもあり、できばえについても心配な部分がないわけではない。少しでも参考になれば幸いである。
(小鹿 愼)