民事法情報研究会だよりNo.38(平成31年4月)

 春分の候、会員の皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 さて、平成の時代もこの4月で終わり、5月からは新しい元号の時代が始まります。当法人においても7期目の事業年度を迎え、6月15日開催の定時会員総会で現在の役員の任期が終了し、新たな役員体制で臨むことになります。目下、旧年度の決算、新年度の事業計画、役員改選等について資料の作成中で、4月中には会員総会の開催通知をお送りする予定です。
 なお、同時に行われるセミナーでは、寺田逸郎元最高裁長官にご講演をお願いしております。(NN)


今 日 こ の 頃

 このページには、会員の近況を伝える投稿記事等を掲載します。

  明治維新と天皇(本間 透)  

 私は、昨年の4月から木更津公証役場で再び公証人に復帰し、往復約4時間の電車通勤をしていますが、その内の2時間くらいは、座ることができることから、その時間を有効に過ごすため、読書をすることにしました(車内では、老若男女を問わずほとんどの人がスマホを見ており、本を読む人は、本当に稀です。)。 
 そこで、何をテーマに読書をするか考えたところ、最近、日本史に関し、専門家が新たな発見をしたり、見方を変えてこれまでの概念を見直したりして、日本史ブームのようなこともあり、昨年は、明治維新から150年という節目となり、また、今上天皇陛下が生前退位されることとなったことから、これらに関する本を読むことにしました。幸い、電子書籍で読めるタブレットを持っていたので、このテーマに関する本を複数ネットで購入し、本そのものを持ち歩くことなく読むことができました。
 以下に述べる読後感想等は、私にとって特に印象に残った「へーそうだったのか」というレベルのもので、多分に後掲図書の受け売りであることを御容赦願います。
○「明治維新」という表現は、後付けであった。
 1853年(嘉永6年)のペリー来航から日本は幕末の大転換期を迎え、1868年(明治元年)の薩長軍と幕府軍との鳥羽伏見の戦いから始まった戊辰戦争の結果、徳川幕府が終焉し、明治新政府が誕生しました。
 幕末期の一番の節目となる1867年(慶応3年)に、公武合体を主導する徳川慶喜は「大政奉還」しましたが、これに対抗して武力討幕を目指すため、岩倉具視・薩長側は、「王政復古の大号令」(将軍職辞職と幕府の廃止、京都守護職・所司代の廃止、摂政・関白の廃止、新たに総裁・議定・参与の三職を置く)を発しました。これは、新政権樹立宣言というべきもので、徳川幕府への宣戦布告となったものと思われます。
 この大号令中に「百事御一新」(すべてが新しく変わる)という文言があったことから、その当時は、「維新」(中国の詩経に由来する。)ではなく専ら「御一新」と言っていました。
 「明治維新」という表現は、1876年(明治9年)の公文書で初めて登場し、それから書籍・教科書等で広く使われるようになり、一般化していきました。
 2018年は、明治150年に当たることから、明治維新をどう捉えるかという議論が盛んになされ、天皇を中心に置いた政権からして復古的な面があるものの、新政権の制度は、廃藩置県に見られるように幕藩体制を否定し、公議輿論に基づく近代的な政体を目指す革命的なものと言えます。
 さらに、武力により討幕を果たして新政権を樹立し、外国からの植民地化を防ぐため、一挙に封建社会を否定した革命であったという見方があります。別な視点では、明治維新は、薩長の長年の徳川幕府への恨みを晴らした武力革命であるとし、それからすると、既存の体制を破壊した武力革命を最初から正当性があったかのような形にするため、後に明治維新という言葉を作り出したという考えもあります。いずれにしても、明治維新により近代日本の扉が開かれ、日本が東アジアで唯一のヨーロッパ型の近代国家に移行することができ、その後の日本の大きな発展に繋がったことに異論はないものと思われます。
○天皇をめぐる諸制度は、明治時代以降に改変された。
 日本の天皇は、神話の世界の話である「日本書紀」において、紀元前660年に初代神武天皇が即位したとされ、それから今上天皇まで125代にわたって在位しています。
 2016年8月に天皇陛下は、御自身の身体の衰えを考慮され、全身全霊をもって象徴のお務めを果たしていくことが難しいという御懸念を表明されました。そして、そのお気持ちを受ける形で天皇の退位をめぐる議論が有識者会議でなされ、皇室典範特例法により、天皇陛下は、本年4月30日に退位し、5月1日に皇太子殿下が新天皇に即位され、新元号を定めることになりました。
 天皇の退位は、江戸時代の光格天皇以来、約200年ぶりのことで、皇室典範では、皇位の安定性を保つため、退位に関する規定を設けず、終身在位を原則としていることから、歴史的な出来事となります。
 元号については、1868年に慶応から明治への改元がなされ、今後は、これまでの制度を改め、一世一元とすることが布告されました。現在の元号法でも「元号は、皇位の継承があった場合に限り改める」とされています。
 紀元前から脈々と続く天皇制は、明治維新によって旧来の伝統を大きく改変されました。明治政府は、「王政復古の大号令」により「神武創業の古に復る」ことを掲げ、一方では、天皇や皇族の日常生活が、明治維新のあとは洋装になり、洋館にお住まいになり、洋食を召し上がるようになるなど、西洋化していきました。すなわち、復古という名目によりながら、天皇家の祭祀・儀礼などの古くからの伝統に由来する行為も近代国家に合わせて改変されたと思います。
 具体的には、皇室の宗教は、神道とされていますが、奈良時代から江戸時代までは、皇室の宗教は、仏教でした。明治政府は、国民の精神的統合として「国家神道」を掲げ、江戸時代までは神仏習合の神祇祭祀が行われていましたが、神道を仏教から切り離して(神仏分離)、宮中でも養老令で定められていた神祇官(朝廷の祭祀を司る官職)が復興し、神殿創祀の中核として「皇霊祭」(皇祖皇宗を祀る)が新たに創設されました。
 次に、改暦については、これまでの太陰太陽暦(旧暦)を廃止し、1873年(明治6年)に急遽グレゴリオ暦を用いることにしました。暦は、国家の基本の一つで、当時の日本では、皇室の宮中行事を始めとして農耕や民俗行事が旧暦に基づいて行われていましたが、明治政府の財政的危機対策(明治6年は、旧暦では閏月の13月分の官吏の給与を支払わなければならず、これを削減するため)として、政府の中枢にいた大隈重信が一気にかつ強引に改暦を行いました(賛成の論陣を張ったのは、福沢諭吉)。グレゴリオ暦への移行までの期間は1か月しかなかったにもかかわらず、混乱はあったものの、これに強く反対する運動もなく、粛々と重大な改暦が行われたことは、不平不満がありながらも従うという当時の日本の国民性なのでしょうか。
 また、宮中では、天皇陛下が稲作を、皇后陛下が養蚕を行っておられます。これは、農家の伝統的な生業である、夫は野外の田畑で耕作、妻は室内で蚕の世話という男女分業を古き良き伝統を象徴する行事とされていますが、古式ゆかしい伝統行事ではなく、天皇陛下自らが行う「お田植とお稲刈り」は、昭和天皇が始められたものです。
 さらに、皇后陛下による御給桑の儀(蚕に桑の葉を食べさせる行事)は、「古事記」において養蚕による絹布生産が重要とされていたことに由来しますが、1871年(明治4年)に昭憲皇太后が長らく途絶えていた養蚕を復活させました。これには、神武創業への復古を掲げる明治政府の意図が見て取れるような気がします。
 このように、天皇をめぐる諸制度の多くが明治維新の前後に改変され、天皇制も明治維新によって近代化されました。現在、天皇は、日本国と日本国民統合の象徴とされ、今上天皇は、正しく象徴としての天皇を体現なされ、国民も天皇を敬愛しており、私もその一人として今後の退位に伴う諸行事がつつがなく執り行われるよう願わずにはいられません。
<参考図書>
 山本博文「天皇125代と日本の歴史」 光文社 2017年
 磯田道史「司馬遼太郎で学ぶ日本史」 NHK出版 2017年
 三谷博「維新史再考」 NHK出版 2018年
 半藤一利・出口治明「明治維新とは何だったのか」 祥文社 2018年
 小島毅「天皇と儒教思想」 光文社 2018年
 中公新書編集部編「日本史の論点」 中公新書 2018年
 本郷和人「上皇の日本史」 中公新書ラクレ 2018年

  弱小公証役場奮闘記(8つのアドバイス)(松田謙太郎)  

 萩と秩父の公証役場の経験を通して「他の公証役場や皆様方の参考になることが少しでもあれば…。」との依頼がありましたので、公証役場の事件を増加させるため、私自身が今まで頑張ってきて効果があったと思われることを、8つのアドバイスとして思いつくまま紹介します。
1.まず、「挨拶」
 たかが「挨拶」と侮ることなかれ。公証役場の役割や仕事を考えた場合、より多くの方々に利用していただき、役場を一層活性化するためには、最初の機会をとらえて「挨拶」に出かけることが肝要です。「人」対「人」が基本だからです。
 しかし、相手にいきなり会って、挨拶だけをすることなどはやってはいけません。
 私の経験では、面談する前に必ずインターネット等で相手の方の経歴や状態、興味や関心を事前にリサーチすること(それで印象も深まります。)が有効です。
 相手の方もまた知識や情報を豊富に持っているはずなので、折角の面談の機会なのに、ありきたりな話をすれば「そんなことはもう知っている。」とか「時間の無駄で、かったるい。」と思われてしまいます。
 そのような相手の方に対して、いかに「聞いておいたほうがよさそうだ。」と思わせるかは、事前のリサーチがあるかないかで大きく異なります。
 そこで私が心掛けていたことは、役場の所在地や近隣の市町村に対し、事前に必ずアポをとって、市長さんや町長さん、また秘書室等を経由して広報(市報・町報)担当部署の責任者や議会の議長さん、市議や町議会議員の方たちに(可能な限り)直接面談し、公証人の役割や公証役場の概要などをしっかり説明し積極的にアピールすることです。
 併せて、地域の弁護士さんや司法書士会・行政書士会の支部長さんにも、公証人の人柄等についても知っていただきたいとご挨拶に伺いました。
 公証週間などでも協力していただけますし、広報誌の掲載もお願い出来ます。
 それ以外にも、様々な機会をとらえて、各士会の年始交礼やお花見会などにもすすんで出席するようにしていますが、そうすると(その結果と勝手に思っているのですが)、市議や弁護士、司法書士や行政書士の方々が、いわば公証役場の窓口になってくださり、「先生から公証役場に相談してみたらと言われたので相談に来ました。」とおっしゃる嘱託人が増えました。
 このような効果が見込まれますので、まずは「挨拶」に出かけましょう。
2.大切な「傾聴」と「口コミ」
 地域住民の方たちや嘱託人が相談に来られたら、公証役場の相談者としての関係から以外と大切なのがその人たちの「口コミ」。
 公証人として相談者に接する場合は「傾聴」が、円滑な人間関係の構築と「口コミ」の基礎となります。
 「傾聴」とは、その人自身を理解し、その気持ちをくみ取り、共感する聴き方のことを言いますが、公証人になって本当に驚いたことは、全くの初対面にも関わらず、相談者は、家族関係や夫婦関係、今考えていること、悩みやグチなどをつつみかくさず話してくれることです。
 それを時に相槌を挟みながら、ただひたすら「傾聴」します。
 批判的なことは考えず、「そうか。そういうことなのか。」と、相手に寄り添います。
 そうすると、「こんなことまで真剣に聞いてもらえた。」とか「なんだか、気持ちがスッとした。」と円滑な人間関係が構築できる上に「あの公証人は優しくていい人だ。なんでも相談できる。」と言ってもらえます。
 公正証書を作成する場合でも、その内容が付言事項に記載されていれば、「こんなことまで書いていただいた。」と涙され、感謝されますし、また、それが「口コミ」となって良い方向に向かって行くのです。
 相談者の話は、たとえそれが同じ話の繰返しや長時間となっても、あるいは直接公証人の仕事とは関係がない内容であっても関心を持って「傾聴」し、良い「口コミ」を構築すれば、公証需要は必ず増加します。
3.どんな場合でも行う「返事」
 傾聴のために心掛けなければならない点は、どんな場合でも返事をするということです。返事というのは、相手のことを「確かに認識しましたよ。」というサインなのですが、皆さんも、無視されたり、表面的であまり中身のない返答をされると、ついムッとすることもあると思います。
 しっかりと相手の目をみて返事をすると、相手は認識されたことで大きな安心感をもちます。この安心感が信頼感につながる基礎になると思います。
4.絶対に話の腰を折らない「間」
 何度も相談に来られる方の中には、不思議と話の内容がパターン化されている人がいます。おそらく、ご自身の心配事、相談事やグチなどを様々な場で、何度も話しているうちに、自然と話す内容がパターン化してしまったということでしょう。
 話を聞く方にとっては、実はこれが初めての話ではないということも多いのですが、そんな場合でも、「その話は前回の相談でもお聞きしました。」などとは口が裂けても言ってはいけません。
 相談者にとっては、心配事を相談したという事実が大切なのだと考えて、相手の話を気持ちよく聞き、絶対に話の腰を折ってはいけないのです。
 相談者の方に7割しゃべらせるぐらいの間をもって、こちらは3割で用件を簡潔に伝えるように気を付けています。
5.話し方の「マニュアル」
 万人に合致する話し方の「マニュアル」というものは、決して無いと思っていますので、自分の話し方は自分自身で工夫しなければいけません。
 マニュアルがないからこそ、相談の場で、相談者の状況に合わせた説明をする臨機応変さが求められるのです。
 一つの選択肢にすぎないマニュアルなどに縛られることなく、嘱託人や相談者の視点で相談を受けるように心がけたいと思います。
6.相手のことを考えた「言葉」
 日常生活の中のちょっとした言葉が人間関係を円滑にすることがあります。
 人間関係が悪くなると、なんでもない公証事務が結果的にうまくいかなかったり、ひどい場合には、仕事にもかかわらず嘱託人に会うことさえ憂鬱になります。
 わざわざ休みをとって、取得するのに手間を要する書類等を持参してもらっているのに、言葉だけで「ありがとうございます。」と言っても、それを無愛想に言ってはあまり意味がありません。
 言葉に気持ちを込めなくては、せっかくの「感謝」が「感謝」にならないからです。
 何のための言葉か、もう一度考えることも必要でしょう。
7.嘱託人に対する「気づき」
 人には、「こうあるべきだ。」という自分の価値観に合致することには、すぐ気づく半面、自分の価値観に反することはこれを過小評価し、場合によっては無視するという傾向が見られるそうです。
 それは、自分の思いと実際の事実が食い違っていることを認めたくないという心理(心理学では、認知的不協和と言うそうです。)が働くからだと言われていますが、公証人たるもの、これを乗り越えないと相談者や嘱託人に対する新しい気づきは得られないと思います。
 人は初対面の印象に強く影響されるものですが、相手がどのような人物かを安易に決めつけることなく、相手の話を聞きながら観察を続け、「気づき」を得て、説明等にも工夫を加えることが必要だと考えます。
 また、公正証書に誤りを発見した場合は、躊躇無く差し替えを行った方が良いと思います。嘱託者にとっては、極めて大切な証書なのですから。
 そうした姿勢が、公証事務の増加につながると考えています。
8.良い「お世辞」
 私自身、後で考えると、相談者や嘱託人に「字がお上手ですね。」とか、「お若いですね。」とかの「お世辞」を言うことがあります。
 「人は褒められると、その分、自分の長所を伸ばそうと一層の努力をする。才知や容色や勇気もまた、人に褒めてもらうことで大きくなり、磨きもかかる。」(フランスの思想家ラ・ロシュフコーの言葉)そうですが、これは、全く「心にもないお世辞を言え。」という意味では決してないと思います。
 白々しい「お世辞」は論外ですし、気持ちのこもっていないあからさまな「お世辞」を言うだけでは、結局のところ信頼を失い、口先だけのお世辞人間との烙印を押されてしまうことを自覚して、人間関係を円滑にする良い印象をもった場合の「お世辞」は言うようにしましょう。
 以上ですが、頭では分かっていても無意識にやっていることもあったのでは?
 公証事件の増加のため、効果がある方法だと思っていますので、今日からでも実践してみてください。

  一生に一度が大分に!(中垣治夫)  
大会ポスターの一部

 いよいよ今年! ラグビー・ワールドカップが日本で、しかも大分でも開催されます!
 ラグビー・ワールドカップは、4年に1度ラグビー世界最強のチームを決定する大会なのですが、これまで、ニュージーランドやヨーロッパなどのラグビー伝統国でしか開催されていませんでした。  
 それが! 今年! 日本で!  しかも大分で! 開催されます! とってもすごいことです!
 一昨年までは、「4年に一度」と言っていたように思うのですが、昨年からは、「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」になりました。
 参加チームは、20チームで、日本全国の12か所の試合会場で全48試合(予選プール40試合、決勝トーナメント8試合)が計画され、その中の5試合が大分スポーツ公園総合競技場(通称:大分銀行ドーム)で開催されます。
 大分での開催は、10月2日から20日までの中の5日、5試合です。チケットの販売も始まりました。


大分市役所庁舎外壁の大会を知らせる看板

 ラグビー世界ランキング1位のニュージーランド、3位のウェールズ、6位のオーストラリア及び9位のフィジーが対戦するプール戦(いわゆる予選)3試合、並びに準々決勝2試合が、大分で開催されるのです。地元紙では、予選3試合の観戦客の割合は、国内客7割・海外客3割、また準々決勝2試合では、国内客5割・海外客5割が見込まれると報道されています。
 海外の観戦客の多くが英語圏からと見込まれるとのことで、大分県では、大分の知名度が低い国・地域に大分の観光をアピールする好機ととらえ、温泉の紹介や伝統文化の体験プラン作り、県産食材・酒類の売り込みと、大いに力が入っているところです。
 大会が盛り上がり、大分が大いに活気づくこと、大分の自然、温泉、産業が見直されることを期待しています。この機会に、多くの皆様の、大分来県をお待ちしております。ただし、温泉など、ラグビー観戦ではない方は、この時期は外した方がよいでしょう。
 大分が活気づくキッカケにならないものかと期待するところですが、さて、会場周辺は大渋滞が見込まれることもあり(最悪、試合開始時刻に選手らが会場に到着できない事態があるのではと心配しています。)、テレビ観戦となるか、大分銀行ドームでの観戦となるか・・・まだ、チケットは購入できていません。
 一方、妻は、ボランティア参加を目指し、抽選・面接をパスした後(役割、配属先等は未定)、集合講習会・勉強会、Web上での動画講習の受講など、大会に向けていろいろと取り組んでいるところです。


実 務 の 広 場

 このページは、公証人等に参考になると思われる事例を紹介するものであり、意見にわたる個所は筆者の個人的見解です。

No.67-1 弁護士法第23条の2第2項の規定に基づく照会の取扱いについて(一部見直し)                  

 前号(民事法情報研究会だより№37(平成31年2月))の34頁、実務の広場№67の項番5の末尾の「また、裁判所から送付嘱託、取寄せ依頼等があった場合は、応ずることができるでしょう。」の点について、一部の会員から、公証人の守秘義務により拒否すべきではないかとのご指摘をいただきました。
 ご指摘の点については、一つの見解として記載したものですが、前回の原稿の項番4の⑴で引用している新訂法規委員会協議結果要録266頁以下の主査説明の三に「刑訴法197条2項による捜査機関の照会と公証人の守秘義務の問題を論ずるに当たっては、公証人法4条のほか、同法25条1項ただし書、44条4項等の関連規定や民訴法の文書提出命令・送付嘱託、・・・等と公証人の守秘義務の問題、刑法の秘密漏泄罪との関係等の関連問題についても考究する必要があろう。」とあるとおり、いまだ明確に結論が出されているとは言い難い問題であり、具体的な事案の取扱いには慎重な検討が必要と思われます。
 したがって、該当箇所を次のとおり変更します。
 「また、裁判所から送付嘱託、取寄せ依頼等があった場合は応ずることができるとの見解もありますが、具体的な事案の取扱いについては、個別に公証業務照会センターに照会するなど、慎重に検討する必要があるでしょう。」
(中垣治夫)

No.68 遺言公正証書の作成に当たって留意している事項などについて

1 はじめに
 昨年7月1日付けで公証人に任命され、9か月が過ぎようとしている。
 当役場では、年間280件前後の遺言を作成しており、平成30年は、ここ10年間で一番多い315件となった。年が明けても1月及び2月の遺言の作成件数は、従来の件数よりも多いことから、遺言の件数は、確実に増加傾向にあるということができる。公正証書による遺言を作成する際の留意事項については、日本公証人連合会が行う新任公証人研修においても、担当講師から遺言者の遺言能力の判断の難しさなどについて学んだ。これらのことを踏まえ、新米の公証人として、遺言者の遺言能力の有無に関する問題については、細心の注意を払い、慎重に判断するよう心がけている。
 また、前任の公証人には、公証人就任前の約1か月間、各種証書の起案や相談対応などについて丁寧に教えていただいた。また、老人施設に出張して、遺言を作成する機会を作ってもらい、出張での遺言作成を経験させていただいた。この時は、遺言者の遺言能力に明らかに問題があって(遺言者は、終始遺言を作るつもりはないとの主張をした。)、遺言の作成を断念した事案であったことから、この経験も踏まえて、特に、遺言者の遺言能力の判断については、気を遣っている。
 公証人就任から4か月が経ったころ、札幌弁護士会の会長から弁護士法第23条の2の照会があった。弁護士会からの照会事項の詳細は参考までに後掲するが、遺言公正証書作成の際の相談から作成時に至るまでの経緯を照会するものであった。改めて、遺言作成の難しさや、遺言相談時の対応、その後の対応などについて、考えたところである。
 旭川は、弁護士の数が司法書士の数よりも多く、遺言や離婚、債務弁済に関する案件で弁護士が関与する事案が多々あり、対応に苦慮することも多いと感じている。
2 遺言相談時の留意事項
 複数の先輩公証人にいただいた受付票(相談票)のひな形を元に、一部修正を加えて遺言相談時に各項目を埋める形でメモをとっている。それには、遺言の内容はもちろんであるが、相談者の氏名(本人との続柄)、同行者の氏名(本人との続柄)、遺言者について、氏名(生年月日、年齢)、判断能力の有無、自署の可否、遺言をするきっかけや動機のほか、遺言者の様子や遺言の内容の説明を行った者などを細かに記載することにしている。
 この相談票は、相談を効率化し、遺言作成後の資料にもすることができるので、常に見直し、少しでも良いものとしていきたいと考えている。
 また、相談コーナーには、フラットファイルの表に「遺言の付言事例集」と表示して、その中に付言の事例を綴って、相談者に自由に見てもらっている。このようにすることにより、付言の内容について質問があったり、特に、他の推定相続人の遺留分を侵害するような遺言内容の場合は、付言を書くようにアドバイスしている。遺言公正証書の案文を提示する際や二回目の相談時には、付言の内容を何枚もの便せんにメモして来所する遺言者もいて、遺言作成時の読み聞かせの場面で、涙する遺言者も多い。
 相談段階において、できるだけ本人と面談してその意思を確認するようにしているが、遺言者が入院していたり、高齢で動けないとか、足が悪いので公証役場に来所するのは最低限にしたいとかの理由で、公証役場に来られないケースもある。このような場合は、遺言者本人に電話をかけてもらい、遺言者の氏名や生年月日を確認し、加えて遺言作成の動機と遺言の内容を聞くことにしている。遺言者の生の声を聞き、直接話をすることによって、親族が勝手に公証役場に相談にきている事案ではないかを確認し、併せて本人の遺言能力の有無が確認できると考えている。
 また、親族である相談者の相談内容から遺言者が高齢であり、遺言能力に疑問がある場合は、公証役場で作成した医師の診断書(内容は、「上記の者は,上記疾患にて治療中である。精神的障害などはなく,意思表示が明確にでき,判断能力に問題は見られないことを証明する。なお,自己の財産を単独で管理・処分する能力は十分にあると認められる。」)を渡して、診断書を提出してもらっている。
 これまでの経験からすると、弁護士や司法書士が絡んだ事案で、これら専門職による遺言者の遺言能力の確認が必ずしもできていないのではないかと思われるケースもあった。そこで、これら専門職に対しては、必ず遺言者本人の健康状態などを聞くことにしている。特に、出張遺言の際には、自署できるかどうかについても、代理人を通じて確認することとしている。これも実際に自署の場面になって、自署できなかった事案があったからである。この時は、公証人法第39条第4項の事項を追記し公証人の捺印をして証書の作成を終えたが、少し汚い公正証書となってしまった。以来、あらかじめこのような事態を予想して、遺言者が自署できる文案と自署できなかった場合の文案を用意して、病院等の施設に出かけることにしている。
3 遺言書作成時の留意事項
 遺言者本人が公証役場に来所して事前相談している場合は、公証役場の雰囲気をある程度知っているし、相談時に遺言者の遺言能力についても確認ができているが、遺言者が初めて公証役場に来所した場合は、遺言書作成前に雑談(出身地、干支、天気、役場までの交通手段や健康状態など)をしながら、遺言者をリラックスさせ、遺言能力を判断する時間に充てている。
 北海道は、先祖をたどると本州から開拓で北海道に入植している場合が多いことから、ご先祖さんの出身県を聞いたり、あるいは北海道には珍しい苗字が多いことから、苗字のルーツに関する話をしたり、遺言者の干支を聞いたり、役場までの交通手段を聞いたりしてリラックスしてもらっている。
 また、遺言書の読み聞かせ時に、遺言書に書かれている相続人の氏名を故意に読み間違えることで、遺言者の反応をみたりしている。多くの場合、遺言者に読み間違えを指摘されることになるが、それは、遺言能力の確認方法の一つとして割り切っている。
 証書の作成の際は、まず、持参した実印と印鑑登録証明書の印影をLEDライトパネル(注)を使って照合し、加えて、確実な本人確認をするべく、遺言者の運転免許証や健康保険証の提示を求め(「公証人による確実な本人確認の実践について」(平成29年11月14日付け日本公証人連合会長通知))、本人に違いない旨を宣言した後、遺言者に氏名と生年月日を言ってもらう。その後、遺言の内容を説明してもらい、用意した遺言公正証書の閲覧及び読み聞かせを行っている。最後に、署名及び押印をしてもらって、遺言公正証書の作成が終了することになる。
(注)LEDライトパネルの使い方等
 このライトパネルを光源として、このパネルの上に印鑑登録証明書を載せ、その上にトレースペーパーに遺言者が持参した実印を押印してその印影を重ね合わせることで、実印の印影が印鑑登録証明書の印影と合致するかどうかを確認している。
 当初は、トレースペーパーに押印した実印の印影と印鑑登録証明書の印影をぴったり重なるように重ね、上のトレースペーパーを素早くめくったり戻したりしながら残像にズレがあるかどうかを確認する方法によっていたが、意外と時間がかかり苦労していた。
 このライトパネルによる方法であると、遺言者も証人も何をするのかと関心を持って見ているようである。ちなみにAmazonで7500円くらいで購入できる。
4 遺言書作成後の留意事項
 遺言書作成後は、相談票に証書番号を付記し、遺言者の手書きの遺言内容のメモや付言メモがある場合は、これを公証人法施行規則第25条第2項の書類として綴っておくこととしている。また、遺言者が80歳以上の高齢者の場合や病院などで遺言を作成した場合については、エクセルで作成した備忘録に、遺言書作成時における遺言者の様子(独立歩行、介添えの有無、杖使用、車椅子の利用、雑談の内容、名刺を渡した時の反応、署名時の様子、遺言作成後の発言など)を記載したメモを作成し、公証人の私的な資料として、相談票と一緒に、ドッジファイルに証書番号順に綴って、証書とは別に保管している。
5 弁護士照会で求められた事項
  最後に、冒頭の、弁護士照会の照会事項は次のとおりである。
① 公証人に本件遺言の作成を依頼した者及び同依頼に際して同席した者の氏名
② ①の依頼に際し、本件遺言内容の説明を行った者の氏名
③ 本件遺言の作成過程(口授、筆記、読み聞かせの順序等)
④ 口授の方法(本件遺言の条項ごとに、口授の方法及び内容について、詳細にご回答いただけましたら幸いです。)
⑤ 本件遺言の作成に要した時間
⑥ 遺言者に対する遺言能力の確認の有無及びその内容
⑦ 遺言者が病気のため署名できないと判断した具体的事情
⑧ 本件遺言作成にあたり記録された文書、録音、録画の有無及びその内容
 この照会に対しては、「いずれの照会事項についても、公証人法第4条により回答には応じられない」旨と「一般論であるが、公証人が遺言者について遺言能力がないと判断した場合は、公正証書を作成しない」旨の回答を行った。
 なお、弁護士照会への対応については、民事法情報研究会だよりNO.37(平成31年2月号)の29ページ以下に中垣公証人(大分公証人合同役場)の論文が掲載されている。また、具体的にこのような照会を受けた場合には、個別に業務照会センターに照会するなど、慎重な対応が必要であると思われる。
6 さいごに
  研修期間中に、前任者に自分の遺言と妻の遺言を作成していただいた。この経験を、遺言相談や講演会に活かしている。公証人も自分の遺言を作っているということで、説明に説得力が増すと実感している。
 遺言者の遺言能力の判定には、今後も細心の注意を払ってまいりたい。
(千葉和信)

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